ギター 編集無頼帖

見ず知らずのきみへ

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 7人もの命を奪わなければならぬほど払拭し得ぬ厭世観とは、一体どんなものなのだろうか。
 余りに腹立たしくて、せっかくの休日なのにとても憂鬱になった。どれだけ控えめに言っても、胸クソ悪い。

 見ず知らずの人にナイフを突き立てる前に、きみはまず際限なく自分自身と格闘しきったのか? ナイフが身体を切り裂く時の痛みと、とめどなく溢れ出る血の流れすら想像できなかったと言うのか? 自分がされたら厭なことは他人に強要しないという基本的な発想など、残念だけどきみには端からなかったのだろう。

 「世の中が厭になった」などと言うけれど、実社会とはまずもって絶望しか与えてくれないものだ。
 人が働いた対価として報酬を得るのは我々にとって当然の権利だが、働く上での摩擦係数は上がることはあっても下がることは決してない。
 社内外の人間関係によるトラブルはもちろんのこと、一番厄介なのは過去の自身の業績を如何に乗り越えられるかという克己心である。社会の景気やその会社の業績の浮き沈みにも当然左右されるだろう。
 それが大前提なのである。それが厭なら、そうだね、逆玉に乗って不動産業を営む金に困らない両親を持つ娘さんのところにでも婿に入れ。そこで適当にバイトでもすれ。嫁が高所得者ならば、リタイア時のジョン・レノンのように主夫に徹するのもいい。

 俺だって、多分基本的な資質はきみと大差ない。人付き合いはどうにもこうにも、苦手だ。家で独りで籠もっているほうがどれだけラクかという、自堕落極まりない男なのである。初対面の人とは目を見て話せないし、好きな女の子と二人だけで呑んでいても、こんなに近いのに何故こんなに遠いんだろうと勝手に思ってしまう。せっかく付き合えても、小さな不安の飛沫が増大したら何の前触れもなく一方的に関係をぶった切ってしまう。そのくせ、そのことを後々まで悔やんだりする。
 当然、そんな男に構ってくれる友達は数人しかいない。土曜の朝まで阿佐ヶ谷でバカ騒ぎできるような人しか親友と呼べる人もいない。

 そんな男が、雑誌というコミュニケーションのツールとしてのメディアの編纂に携わっているのだ。社会不適応者と言われてもおかしくない男が。
 毎月、いろんな人と出会う。名刺の100枚入りケースなどすぐになくなる。プロモーションを受けることもあれば、営業をかけることもあるし、昨日も酒場でインタビューを取り仕切った。そんなインタビューが月に6〜7本はある。イベントで司会をすることもあるし、たまにテレビやラジオの仕事も舞い込む。うっかり同業他誌に顔を出すこともある。
 はっきり言って、そのすべてがとても厄介である。心身ともに、消耗が激しい。要するに、他者と交わるのが厭で文章を書いたりまとめたりする仕事を選んだのに、俺の選んだ仕事はたくさんの他者の手から成り立つものだった、ということだ。そしてそれに付随する別仕事は雑誌以上に他者とコミュニケーションすることを俺に強いる。
 貴重な情報が得られるライブの打ち上げに極力出ないのも、恐らく大人数で騒ぐことが苦手だからだろう。つまり、他者との交わりがうまくできない最も不適応なタイプの人間が雑誌というメディアの最高責任者だと思ってくれればいい。

 だから俺は頑張ってるんだよとか、そういう自慢をしたいわけじゃない。まぁ、多少自慢はしたいところだけれど、こんな俺でも何とか社会性を保てていることを言いたいだけだ。
 人付き合いに関して極度の不安症の俺でも、世間に対してクソッタレと思いながらもどうにか明日に対して希望を抱けるようになったのだから。

 どれだけ現実に失望しようと、どれだけ他者に幻滅しようと、最後にはどうしてもコミュニケーションを求めてしまう。俺はそこのあんたと繋がりを持ちたいんだ。
 コミュニケーションを取るのが一番苦手なくせにコミュニケーションを求めてしまうというアホさ加減がきみにあったらなー、と思う。
 俺は自分がアホで良かったなとつくづく思う。
 そして、きみの犯した大罪を一生許すことはない。

 「友がみな我より偉くみえし時、花を買いきて妻と親しむ」という石川啄木が遺した有名な言葉があるけれど、一輪の花を買う金がなければ、もしくは花を一緒に愛でる相手がいなければ何の解決にもならないよね。きっときみはそこに勝手極まりない理不尽を増殖させていったんじゃなかろうか。
 もっとも、友に対して優劣を付けるなんて愚考は俺には端からありゃあせんのだが、その友だって内心は七転八倒な筈なのだ。
 でも、こんな俺ですらたまに羨望の眼差しで見られることがあるんだぜ? もはや心持ちは焼け野原だっていうのにさ。

 確かに人生は理不尽の連続だけど、そのスットコドッコイなつまづきが人生をとてつもなく面白くしてくれる。それは強がりなんかじゃなくて、俺には真理だ。
 ピンチという扉の向こうに得も言われぬハッピーが待っているという回路を知ると、人生まだまだ捨てたもんじゃないと素直に思える。少なくとも、他人にナイフを突き立てることはない。

 おまえと一献酌み交わすことでもあれば、何かが変わったのかもしれないのにな。
 ただただ、悲しいよ。(しいな)
posted by Rooftop at 00:46 | Comment(2) | TrackBack(0) | 編集無頼帖
この記事へのコメント
「女にもてないこと」に悩んでいたらしいですね。
ネットを駆使することができるのであれば、
いかようにもそういう情報は調べられたはず。
もっとも、自分と格闘することのない人間に、
調べたこと(インプット)を実践(アウトプット)する
勇気はないのでしょうが・・・。
俺はありますけど、30半ばでようやく起死回生しました。
自殺を考え、複数の精神科に通いミンザイを集めました。

彼には、悩んで自分と向き合うことがなかったのでしょうか・・・。

こういった犯罪者の心理がわかりません。
Posted by harukinz at 2008年06月10日 20:52
みんな七転八倒しながらどーにかこーにか生きてるわけで、辛いのは自分だけじゃねぇんだよっていうのをよーく考えて欲しかったですね。なんて、エラそーなことは言えませんけど。
彼の犯した大罪のひとつは、こうして見ず知らずの第三者からも元気を奪うことだと思いますね。
Posted by しいな at 2008年06月11日 14:25
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