明るいサンバ調の『セバ・ナ・セバーナ』はおろか、『サスバズレ』のような賑々しい一曲でうっかり落涙するなんて、初めて。畜生、なんでこんなにいちいち突き刺さってきやがるんだよ。
個人的には半年振りに見る怒髪天。ライブ当日の明け方まで本誌の作業に一心不乱で、ふらっふらの佇まいで一階席最後方からその雄姿を見た。ブリッツ一押しのバーボン水割り、グイグイ進んで絶好調。
こんな拙文を読むあなたほど、俺は今の怒髪天について詳しくない。最近のメンバーの動向なんてほとんど知らないし、入れ揚げる熱い想いも到底及ばないし、もしかしたら取材する資格なんてないのかもしれない。
でも、いろんなものが伝わった。足を運んで良かったと心底思えるライブなど、そうあるものではない。日曜のブリッツはまさにそれだった。
片腕の一本も持っていきやがれと言わんばかりの増子さんの唄いっぷりには、やはりどうしても身震いしてしまう。あのパフォーマンスを見て心が微動だにしないヤツは人間じゃない。『クソったれのテーマ』の絶唱は昔から凄まじいものだったが、遂に行き着くところまで行った感慨すら抱いた。
札幌の白石というのは帯広とも留萌とも違う洗練された街なので、ベタベタな浪花節とは本来無縁なはずである。実際にお会いする増子さんはとても粋で酒脱な方だ。“R&E”のコテコテなイメージとは真逆を行くような方のはずなのに、ああなってしまう。それはもちろん、俺達界隈と呼ばれる頼もしい同志達(あなたのことです)の支えがあってのことなのだろう。
そんな増子さんが、激しくいとおしい。裸一貫、マイクを握り締めている瞬間の増子さんは、日々踵を磨り減らしあくせくしている右往左往な我々のカリカチュアのようだ。俺は増子直純の歌声に、日々是七転八倒している自分自身を見る。
日常を生きる心の機微をあれほどリアルに体現するバンドが他にいるだろうか。あれほどまでに聴き手の心を鷲掴みにして考えるヒントを残すバンドが他にいるだろうか。あれほど今この瞬間を生きることを全面的に肯定してくれる音楽が他にあるだろうか。そんなことを考えるたびに、怒髪天という傑出したバンドと同じ時代に生きる幸運を痛感する。
ひとつだけ残念に思ったのは、坂さんに対する一部のオーディエンスのイジリである。確かにその気持ち、判らなくもないが、神聖なるステージの上に立つ人を貶めるようなリアクションは如何なものか。俺は坂さんの有機的なうねりに心地好く酔えたので、何も文句はない。
それはともかくとして、いつか自分が廃業して仕事で関わることがなくなっても、怒髪天のライブだけは折に触れて見続けるだろうな、と思った。事実、失業中でズンドコだった8年前に札幌まで見に行ったことがあったし。そうだ、8年前はブリッツみたいなデカ箱でワンマンをやる、しかもそのチケットが即完するなんて想像もできなかった。まさに隔世の感あり。
セットリストも素晴らしかった。
01)GREAT NUMBER
02)労働CALLING
03)マン・イズ・ヘヴィ
04)ロクでナシ
05)NCT
06)宿六小唄
07)うたのうた
08)サムライブルー
09)クソったれのテーマ
10)全人類肯定曲
11)ビール・オア・ダイ
12)ドンマイ・ビート
13)NO MUSIC NO LIFE
14)セバ・ナ・セバーナ
en1-1)なんかイイな
en1-2)よりみち
en1-3)情熱のストレート
en2-1)酒燃料爆進曲
en2-2)ヘベレ・ケレレ・ヨー あれほど掛け値なしに素晴らしかったワンマンも、今の怒髪天にとってはひとつの通過点に過ぎない。楽曲のクオリティもライブ・パフォーマンスのまとまりも年々ビルドアップを果たしている。まだまだ行ける。まだまだ未踏の地を往くことができる。表現に携わる人間にとってこんなに素敵なことはないし、そんなことが実現できているバンドはなかなかいない。俺は怒髪天の行く末をいついつまでも見届けたい。あなたもきっとそうだろう。
写真は本日配布開始された本誌最新号掲載の“ズミ眼”より。読プレ、奮って応募して下さいね。(しいな)
posted by Rooftop at 16:34
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