ギター 編集無頼帖

挑戦者の感覚

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 かれこれもう6、7年振りになるだろうか、シンコー時代の直属の上司であるO野さんと先日打ち合わせで会った。僕がロフトに拾われてから何回か電話連絡をしたことがあったが、直接お会いするのはビートルズ研究家として知られたKさんの告別式以来だと思う。
 O野さんは大学を出たばかりで社会のことなど何も判らぬ猪口才ボンズな僕の面倒を見てくれた人で、書籍編集業務に就くまでは往時のチューリップと甲斐バンドのマネージャーをやっていた(シンコーにはプロダクション・セクションがあるのだ)。確か甲斐バンドの解散を機に本社編集2課の長になったはずで、BURRN!創刊編集長の酒井さんの単行本を2課が手掛けていた縁で酒井さんが社長であるバーン・コーポレーション(シンコーの子会社)に部署ごと移動になった。
 当初クロスビート編集部に配属される予定だった僕は、「ヘヴィメタルについて何も知らないこういう奴をウチに入れたら面白い」という酒井さんの一声でバーン・コーポレーション書籍編集部の新卒採用第1号となった。1996年の春のことである。
 O野さんは僕が生まれた年にシンコーに入社した人だからウチの親父とほぼ同じ年齢で、顔はJ-WALKのヴォーカル氏と瓜二つである。先日お会いしたら、そのラモス瑠偉的風貌がまるで変わっていなかったので驚いた。今はフリーで編集の仕事をされているという。

 要件はO野さんが今プロモーションの手伝いをしているというインディーズ・アーティストの紹介だったのだが(しかもそのアーティストは3年前にインタビューしたことがあった)、話は当然かつてのシンコー時代のことになる。当時は新入社員ゆえよく判らなかった社内の抗争やパワー・バランスが今ならよく理解できて面白い。
 そして痛感するのは、あれから干支が一周してもO野さんと僕の上下関係が一切変わらないことである。今の立場こそ違えど、かつて編集のイロハを教わっていた当時のようにO野さんの前では背筋が自ずとピンと張る。ロフトに入って何の因果か喋りの仕事が増えたために多少口が立つようになった気もするけれど、O野さんの前では無知で無垢な22歳になりたての自分に返ってしまうのだ。
 このO野さんに認められたくて企画書を散々書いた。入社当初はO野さんの手掛ける本のサポートという名の雑用ばかりしていたが、企画立案から制作費の見積、誌面構成、取材、デザイン発注、編集作業、校正まですべてを独りで手掛ける単行本を早く作りたかった。
 だが当然、そう易々とOKは貰えない。企画書を何十枚と書いてようやく認められたのは、『ALL THAT MODS!』というイギリスのモッズ・カルチャーの研究本だった。今振り返ると本の出来は稚拙で酷くとっちらかった内容だが、初版本だけは引越の度に手元に残してある。一編集者として独り立ちした初めての本という意味で、何というか挑戦者の証のようなものを自分としては感じるのだ。

 今の自分があるのは間違いなくO野さんのお陰だし、現在の環境においてO野さんのように乗り越えるべき大先輩の不在を寂しく感じる部分もある。もっともっとO野さんには色々とご指導・ご鞭撻をして欲しかったのだが、未曽有の出版不況によるリストラの嵐により、我々が編集部解体という体のよいクビになる2年も前にO野さんは職を失った。
 今のシンコーの目を覆うばかりの衰弱ぶりを見聞きすると、やはり複雑な心境にはなる。愛すべき母校が無能な教師達によって解体されていく感もある。

 ロフトに入った当初はシンコー時代の自分を如何に乗り越えるかに躍起だったが、今はどれだけ自分にしかやれないことをやるかという己との闘いでしかない。最後の敵はやはり自分自身なのである。
 普段かつての学舎を振り返ることはまずないが、O野さんのような方に会うと幾ばくかの照れくささと共にいろんな記憶が否応なく蘇る。

 まだ12年、されど12年。や、まだまだ未熟者ゆえ精進せにゃならん。フレッシュマン達が街中を闊歩する姿が眩いこの季節に思うのは、襟を正して自分にしかできないことを愚直に追求していかなければならないということだ。そうでなければ12年前の自分に嘲笑われてしまう。
 手綱を引き締め、挑戦者の感覚だけは忘れたくないと改めて思う社会人13年目の春、4月初旬である。フレッシュマンの皆さんも戸惑うこと多々ありな今月だと思うけど、最初は皆何も判らないんだからヘンに萎縮せず(でも謙虚な姿勢は忘れず)堂々とその存在感を発揮して欲しいものです。

 写真はブッチャーズ吉村さんの撮影による桜の艶姿。歌とギターに限らず、吉村さんの「表現」がやっぱり好きなんだなァ…。(しいな)
posted by Rooftop at 13:36 | Comment(0) | TrackBack(0) | 編集無頼帖
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