ROLL ON GOOD!! 生粋のロックンロール&マージービート職人、 2自身のヴィンテージ・スタジオにて当世モノラル気質なニュー・アルバムを完成!
昨年、目出度く結成10周年を迎えたニートビーツが、あの2枚組大作『BIG BEAT MIND!!』以来2年8ヶ月振りとなるオリジナル・フル・アルバム『ROLL ON GOOD!!』を完成させた。10周年を機に結成当初のオリジナル・ベーシストが再加入し、バンドとしての原点回帰を見事に遂げた彼らが今持ち得るありったけの勢いと潔さで臨んだ本作は、徹頭徹尾まさに純度120%のロックンロール濃縮還元アルバム。また、都内某所にあるMr.PANこと真鍋 崇(vo, g)の自宅の地下室にあるプライヴェート・スタジオ「GRAND-FROG STUDIO」でレコーディングされた初の作品であることも注目に値する。“OLDIES BUT GOODIES”なロックンロールをこよなく愛し、偏執的なまでに容姿優先で録音機材を蒐集し、頑なに自分達にしか出せない音を求めてこだわりを貫くその姿勢にはいつもながらに感服だが、その姿勢が益々度合いを増していることがこのインタビューを読めば判ると思う。「GRAND-FROG STUDIO」で新作とスタジオの造築について嬉々として語る真鍋の姿は、まるでおもちゃ箱をひっくり返して戯れるやんちゃ坊主のようだった。そうして何事も貪欲に楽しみながら深いこだわりを持ち続けるからこそ、ニートビーツの音楽は格式を重んじながらも格式からどこまでも自由なのだ。(interview:椎名宗之)
Mr.GULLYのベースがどうしても欲しかった
──昨年11月、オリジナル・メンバーだったMr.GULLYさんが電撃復帰したのは青天の霹靂とも言うべきビッグ・ニュースでしたね。
PAN:うん、舞い戻ってきたよ。まぁ、そういう時期だったって言うかね。ニートビーツとしてやりたいことをいろいろと考えた時に、一番理想的なベーシストでありバンドマンはやっぱりMr.GULLYしかいないだろうっていうのが俺の中にはあって。もちろん、Mr.ROYALも凄くいいベーシストだったんだよ。でも、バンドをもうちょっとアッパーにしていきたいと思った時に、GULLYのベースがどうしても欲しいと思って。GULLYが一度抜けた後もずっと連絡は取り続けていて、ROYALが辞めることになった時に「これを機にやらへんか?」って誘ってみた。
──ニートビーツを脱退して、GULLYさんは違うバンドを続けていたんですよね。
PAN:スリー・タイムスっていうブルース・ロック・バンドをやってて、彼は彼でそれなりに活動はしてたんだけど、もっと大きなフィールドでバンドをやりたいと。だったらニートビーツがあるやんか、って。
──でも、不在だった6年間という空白を埋めるのもなかなか困難だったんじゃないですか。
PAN:不思議なことに、その6年のタイム感が良かったりするんだよね。彼は6年前のニートビーツで止まってるわけで、それが俺達にとっては却って新鮮だったと言うかね。6年前のニートビーツの気持ちや姿勢を持ってる人間とまたバンドをやるわけだから、「あ、これや! あの時の俺達はこうやってたんや!」みたいな新たな発見もあったりして。
──GULLYさんが入って初めて音合わせをした時に、「これだ!」という手応えがあったと?
PAN:うん、やっぱりあった。彼が弾いて彼が唄った瞬間に、6年前でバンドを止めといても良かったなと思ったくらい。いや、それは言い過ぎやな(笑)。止めといても良かったものもあるな、って言うか。そういう気持ちはバンドをやってる人なら判ると思うねんけど、試行錯誤して勢いだけで作ったファースト・アルバムには勝たれへんな、みたいな感覚がどっかにあるやんか? GULLYと音合わせをした時にそういう感覚が蘇ったね。だから、そのブランクが逆に良かったって言うか。だって、ツアーに出るかって話を彼にした時に、「エッ!? ホテルになんて泊まれるの?」みたいな感じだったから(笑)。当時はまだ機材車の中で寝たりとかしてたからね。
──GULLYさんの復帰がバンド結成10周年に実現したというのも、奇妙な巡り合わせを感じますね。
PAN:うん。やっぱり俺達はバンドマンと一緒にバンドがしたいっていう気持ちが凄くあって、GULLYのほうがよりバンドマンらしかったっていうことかな。彼は俺と同級生だし、気心も知れてるからね。
──そんな新生ニートビーツによる記念すべき第1弾アルバム『ROLL ON GOOD!!』は、プライヴェート・スタジオである「GRAND-FROG STUDIO」でレコーディングされた初の作品でもあるわけですね。
PAN:やっとのことでね。2年以上もの間ずっとオリジナル・アルバムを作らなかったのは、スタジオの完成に合わせてたところがあったかも判らへん(笑)。何年も前からずっと自分のスタジオは作りたかったんだけど、実際に動き出したのはこの2年くらいだったからね。次のオリジナル・アルバムは自分のスタジオで録りたいってずっと思ってたし。
──ちょうど1年前に取材でお伺いした時は、まだ壁がコンクリートの打ちっ放しの状態でしたよね。
PAN:そうそう。まだ卓にブルーシートが掛かってる状態でね(笑)。いろんな人達の協力もありつつ完成した感じだよ。「こんな機材があるよ」とか「こんなことをやってみたい」とか、手伝ってくれた人達がみんな面白がってくれたから、完成までは意外と早く漕ぎ着けた気がする。とは言っても、メンテナンスだけで1年半は掛かってるけどね。
──やっぱり、スタジオを借りてやるのと自分のスタジオを使うのとは気持ちが全然違うものなんですか。
PAN:全然違うね。「ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』は南フランスのキースの家の地下スタジオで録った」なんて聞くと、無条件に憧れるやん? 今までいろんなスタジオを使ってきたし、そのスタジオごとに良さがあったけど、望んでる音を100%録れた所はなかったんだよね。まぁそれは当たり前の話なんやけど、今までは望んでる音の7〜8割が録れたら最高、って感じだった。それは仕方のないことで、それ以上のパーセンテージを上げるのであれば、今自分が知っている範囲での録音環境じゃ絶対にムリなのが判った。
──プロ・トゥールスを主体としたデジタルな環境ではダメだと?
PAN:うん。それも確かに悪くはないけど、デジタルで作ろうとするアナログ感にはどうしてもムリがある。新しい機材で古い音を出すのはやっぱり違うなと思ったし、それやったら古い機材で新しい音を目指したほうがいい。それこそが俺達の中でのハイファイって言うかね。そう考えた時に、自分でスタジオを作るのが一番だなと思ったんだよね。それがきっかけだった。
機材蒐集の基準は見た目と色と形
──ミキサー卓も、アンプも、楽器も、何から何までがヴィンテージで揃えているんですよね。
PAN:そうだね。ただしメディアはデジタルやから、たとえば「納品はこのオープンリール式テープで」って言ってもムリなわけ。ホントはそこまでやりたいけど、限界はある。だからギリギリまでアナログにしたいっていう感じ。そこはまぁ、自分の中で妥協してる部分ではあるけど、とにかくギリギリまでは各駅停車で行こうと。でも終点まで行くには新幹線に乗らんと、っていうのがあるね(笑)。
──下世話な話で恐縮ですが、このスタジオで一番高い機材はどれになるんですか。やっぱり卓ですかね?
PAN:うん、やっぱりそうなるかな。イコライザーやコンプレッサーといった類のものも結構するんだけどね。スタジオの影も形もないのに、こういう機材をもう15年も前からずっと集めてたんだよ。何でかと言えば、そういう機材を集めることによって自分でスタジオを作らざるを得なくなると思ったから。だからこのスタジオにある機材は一気に買ったものじゃなくて、年に何回か買ったものが集まった感じなんだよね。買ったところで、家に置いてボーッと眺めてるだけなんやけど(笑)。それを見て「ホンマにスタジオ作らなアカンな」って状況に自分を追い込んで奮い立たせるみたいなね。
──PANさんにとっての機材蒐集の価値基準というのは?
PAN:見た目と色と形でしか買ってない。「このノブ、カッコいい!」とか「この大きさ、最高!」とか、そんな感じ。性能云々抜きの話で、まるで女性を見た目で判断してる感じ(笑)。「あの子、カワイイ!」とか、そんなレベル。機材にはどれも長所と短所があるんやけど、それもまぁいいと。「この子、カワイイけど性格悪いな。でも悪くてもいいや」みたいなね(笑)。そうやって好きなメーカーを覚えてそれをどんどん集めていくと、不思議なもんでいろんな情報が自然とこっちに届くんだよ。たとえば、「日本にセルマーのアンプばかりを集めてるヤツがおる」っていうネットワークが海外の楽器屋さんにはあって、「セルマーと言えば日本ではあの男が絶対に買う」ってマークされるようになる。だから俺のところには「セルマーのヴィンテージ品がありました」っていうメールが頻繁に届くんだよね。
──確かにスタジオにはセルマーのアンプがズラリと並んでいますけど、そこまでセルマーに固執させるものとは何なんでしょう。
PAN:見た目とロゴ(笑)。そこが一番大事なポイントで、音は二の次。スイッチが1個しかないっていう潔さもいいね。その潔さがカッコいいし、「これぞ男のアンプ!」って思うね(笑)。アンプはイギリスとかヨーロッパのが大好きなんだけど、レコーディング機材はアメリカのがやっぱり一番凄い気がする。ロックンロールもイギリスがアメリカを倣ったわけだから。
──ミキサー卓は、何でも曰く付きのシロモノだそうですね。
PAN:そう、「トム・ダウド(アメリカのレコーディング・エンジニア/プロデューサー)がこの卓を使ってた」って言うて売り付けられた(笑)。その当時使ってたスタジオの予備卓っていう話を聞いて、即買いしたんだよ。もしかしたらデレク&ザ・ドミノスの『いとしのレイラ』もこれで録ったんじゃないか? っていう。まぁ、8割方は「ウソやろ?」っていう気もしてるけど(笑)、自分の中ではそのつもりでいるから。その夢に賭けてみるって言うか、「エッ、トム・ダウド? 『いとしのレイラ』!?」っていうワードだけで「じゃあそれや!」って決めた。日本では余り使われてなくて、結構レアだってことが判ったから、まぁええかと。でも、この卓でレコーディングしてると急に音が出えへんかったりすることがよくあって、要するに少しずつ壊れていってるわけ。で、「凄い壊れるねんけど、どうにかしてくれへんか?」って買ったところにメールしたら、「そこの部品を新しく入れ替えろ」と。それで「その部品を送ってくれ」って返事したら、「その部品は見つけるのが凄く難しい」って(笑)。じゃあ勧めるなよ! っていうね(笑)。厄介なところもあるけど、そういうのもまたいい。だって、ビックリすることに1チャンネルずつ音が違うんだからね(笑)。
──スタジオの片隅にあったピアノも、かなり年季の入ったものでしたよね。
PAN:あれはかなりいいピアノでね。知り合いに譲ってもらったんやけど、輸入禁止の象牙を使ってるみたい。そういうのは何やろ、集まってくるのか呼んでくるのか判らへんけど。「何かあったらちょうだい」って言いまくってるし、貰えるものは何でも貰って帰るクセがあるからね(笑)。アナログからデジタルに機材が移行する90年代に、処分されかかったアナログの機材を結構貰ったりもしたしね。向こうからしたらゴミみたいなもんやけど、何で捨てようとするのかが俺にはよう理解できへんかったもん。
どれだけ人間的なレコーディングができるか
──今回の『ROLL ON GOOD!!』をこのスタジオで実際にレコーディングしてみて、手応えは如何でしたか。
PAN:メチャメチャ良かった。環境がやっぱり一番良かったね。自分達がアーティストであり、プロデューサーであり、エンジニアであるっていうのも良し悪しはあるけどね。コントロール・ルームで自分で録音ボタンを押してからスタジオに行って演奏せなアカンっていうのもあるけど、トータルで言えば遊んでる感じが多くて凄く良かった。どっかのスタジオを借りると、どうしても時間に拘束されて「この作業は絶対今日までに終わらせなアカン!」とかになるけど、ここならちょっと酔っ払ってきたらやめることもできるしね(笑)。ただね、メンバーがいない時に独りで歌入れやコーラスをする時は凄く寂しいよ。誰もおらへんスタジオで「イェーイ!」って独りで叫んでるわけやから、かなり恥ずかしい(笑)。そんな時に誰か知らん人が入ってきて「ウォーッ!」って言うてる姿を見られたら、凄く情けないしね。唯一の難点は、そういう孤独な闘いくらいかな(笑)。
──スタジオの天井もかなり高いし、思いのほか中も広いですよね。
PAN:設計もスペースのギリギリまで行けるようにしたね。フィル・スペクター(「ウォール・オブ・サウンド/音の壁」と称されるサウンドで名を馳せたアメリカのプロデューサー)が使っていたゴールド・スター・スタジオっていうのがあって、それとほぼ同じ大きさなんだよね。だから俺もここでウォール・オブ・サウンドみたいな独自の音を作るぞ、って夢見て。
──自身のスタジオでのレコーディングということは、普段よりも長く時間を掛けたんですか。
PAN:うん。でも録りはいつもながらに3日でやった。トラック数が少ないから、録った後のほうに時間を掛けたね。曲によってはドラムもマイク1本でしか録ってないし。8トラックまでで録れる音楽が一番いい音楽だっていう考えが俺の中にはあって、特にロックンロールはそうなんだよね。
──新作は音に切迫感があって、とにかく生々しいですよね。音量もメーターまで振り切って、ノイズがピシャピシャ言っているのが随所に聴こえるし(笑)。
PAN:意図的に音のレベルを目で確かめなかったからね。だからドラムもシャリシャリ言ってる。とにかくありふれた音は録りたくなかったし、ここでしか録れへん音にしたかった。曲の終わりの潔さとシンバルがグシャって鳴ってるのはこだわったね。ベテランのエンジニアから見たら有り得へん録り方をしてると思うよ。「オマエ、何てことしてるんだよ!?」って間違いなく言われるだろうね(笑)。
──すべてを勢いに任せて際限まで振り切っているし、サウンドもシンプルさの極致にまで達した感がありますよね。
PAN:そうだね。楽器を増やすよりも、少ない楽器でどれだけライヴ感と音圧を出すかってところに今の自分達は一番興味があるからね。いろんな方法はあるけど、この限られた状況の中でどうやるのかっていう人間的なレコーディングがしたかった。そういう意味でもデジタルはなるだけ使わないようにしたし、マウスでレベルを調整するんじゃなくて、あくまでも自分の手でつまみを調整した。ただ、ヴィンテージの機材って不思議なもんで、レベル1と2の間の音量だけでも随分変わるんだよ。2やったら極端、1やったら少ない。その間が一番いいのになくて、「それじゃ思い切って2や!」ってなる。トゥー・マッチかナシかの二者択一なんだよ。でも、それこそが今のニートビーツに欲しいものでもある。だから「こんなスタジオは使えないよ」って言うバンドもおるやろうし、その逆もあるだろうね。それがこのスタジオの特色なのかなって思う。
──「NEVER MIND」「マッケテーナ」「茶会人生」という頭の3曲も、短いセンテンスを怒濤の如く唄い切る潔さがありますね。
PAN:どれもなるべく3分以内に収めて、ジャーンって曲が終わって余韻に浸りたくなかったんだよね。その余韻の部分はカットして、もう次の曲に行きたかった。今回、マスタリングをJVCって所でやったんだけど、小鐵さん(小鐵 徹、日本を代表するマスタリング・エンジニア)っていうベテランの方から「こんな音を扱うのは久々です」って言われて(笑)。で、「曲の終わりは全部潔く切って下さい」ってお願いしたんだよ。フェイド・アウトでも「急降下的な感じにして下さい」って。そこはよく熟知されていて、「昔はよくそういう終わり方でしたよね」って言ってくれてね。小鐵さんとは凄く相性が良かったな。
──ニートビーツの新作が出るたびに楽しみなのがカヴァーの選曲なんですけど、今回はビートルズで知られる「KANSAS CITY〜HEY! HEY! HEY!」やダニエル・ブーンの「DON'T TURN AROUND」、日本では江利チエミの名唱でも有名な「TENNESSEE WALTZ」、ヘンリー・マンシーニの作曲によるインスト「PETER GUNN」といったスタンダード性の高いナンバーが並びましたね。
PAN:うん。今回はスタンダード・ナンバーとマージービートっぽい曲をやろうと思って。このスタジオは昔の曲をカヴァーすると凄く生き生きするんだよ。だから凄く楽しかったね。
──古き良きナンバーをヴィンテージの機材で録るというところに男のロマンを感じますけどね(笑)。
PAN:凄く電気を喰ってるけどね。間違いなく世の中のエコ・ブームと真逆を行ってるから(笑)。このスタジオを使うと尋常じゃなく家の電気代が上がるんだよ。真空管の熱量がとにかく凄いから、まぁしょうがないんだけどね。
形がシャープなら音もシャープになる
──メンバー以外にエンジニアを立ててレコーディングをしたりとかは?
PAN:それはまだやったことがないんだよね。できれば全部自分でやりたいし。今後もしこのスタジオを使いたいっていうバンドがいれば、その時も俺がエンジニアをやりたい。白衣を着込んで、見習いの気分でやるんで(笑)。
──ビートルズの『レコーディング・セッション』という本によると、60年代のレコーディング・スタジオではスタッフが白衣を着用するように義務付けされていたそうですね。
PAN:アビイ・ロード・スタジオがそうだったよね。それを真似て俺もこのスタジオでは白衣を着てるんだけど、この姿で出迎えるとみんなまずビックリするんだよ。まぁ、レコーディングという実験に立ち会う博士みたいなもんかな。ガッチャマンの南部博士みたいな感じだよ(笑)。この白衣も形から入ることの表れだね。何事も形から入るのが俺は好きで、ここの機材もそうやけど、形と音って絶対に比例すると思うんだよね。形がシャープなら音もシャープになる。知り合いのエンジニアもそういうもんだって言ってたし。
──GULLYさんとの6年振りのレコーディング・セッションは、音を出しながら少しずつ勘を取り戻していった感じですか。
PAN:うん、それはある。GULLYは曲を覚えるのがもの凄く遅い(笑)。やっぱり、6年間一緒にやってなかったからね。やり出すと早いねんけど、それまでが凄く遅かった。
──先行シングルだった「ONE MAN BUSINESS」やライヴではすでにお馴染みの「SWEET CURRY TWIST」といった曲は、アレンジを固めるまでもなかったのでは?
PAN:そうだね。今回はほとんどライヴでやってたアレンジでしかやらなかった。余りにアレンジが込み入った曲は入れるのをやめにしたし、その辺は諦めが早かったよ(笑)。
──去年は結成10周年記念ツアーを2回に分けて凄まじい本数のライヴを敢行しましたけど、今年もすでに恐ろしいライヴ日程を鋭意断行中ですね。
PAN:6月まで50本くらいあるね。以前はツアーの合間にレコーディングの日程を組んだりして凄い大変だったけど、こうして自分のスタジオも出来たことだし、これからは楽でいいなと思って。ツアーが終わって「そろそろ録ろうかな」と思ったらすぐにできるからね。これぞバンド生活! って感じにやっとなった(笑)。
──ちなみに、この「GRAND-FROG STUDIO」という名称の由来は?
PAN:この家が更地になる前の建物の時に、5、6年もの凄くでっかいカエルが1匹棲んでてね。周りに池なんてないのに、毎年何故かそのカエルに会うんだよ。いつも玄関の前にいて、何度もうっかり踏んじゃったりしたんだけど(笑)。この家の地下を掘るために一度更地にすることになって、「あのカエル、どうなるんかな?」ってずっと気になってた。そしたら、家を壊す直前に最後の荷物を取りに来た時、玄関に偶然そのカエルがいたんだよ。それでカエルをケースに入れて公園まで持って行って、池に放した。そうやって手放しちゃったけど、名前だけは残しておこうと思ってね。ごっつい動きが遅くて、多分おじいちゃんやろうなって思うてたから、「GRAND-FROG STUDIO」って付けてみたんやけど。
──このスタジオはいずれいろんなバンドに開放する予定なんですよね?
PAN:そうしたいけど、どこまでみんな使いたいと思ってくれるか判らないし、そこが一番の問題だね(笑)。どっちかって言うとできない作業のほうが多いから、それをどれだけ良しと思うかどうかだね。普段デジタルの環境に慣れてるとしんどいだろうし。
──でも、ビートルズ然り、ストーンズ然り、60年代はわずか8トラックであれだけ広がりのあるレコーディングができたわけですからね。
PAN:そうそう。あと、演奏で間違えた部分をパンチ・イン、パンチ・アウトして直すのを極力したくないんだよね。それがいいテイクだったら、「いいやん、それで」って思う。間違えたように聴こえるのは俺達だけかも判らへんで? っていうのもあるし、そういう修正をお願いされたら俺は「イヤです」って言っちゃいそうだしね(笑)。愛想良く応対するんじゃなく、「絶対やらへん」って言ってのけるエンジニアになりたいから。だからいろんなバンドに使って欲しいけど、いろんなバンドが使ってくれるかどうかはまた別の話(笑)。
──それにしても、これだけの機材をよくあの狭い階段をつたって下ろしましたよね。
PAN:階段の狭さだけが唯一の設計ミスやった(笑)。ピアノをバラして下ろしただけで7万円掛かったから。ピアノを運ぶ業者のおじさんもちょっと怒ってたもんね。「これを下ろすの? こんな細い階段をすり抜けるピアノなんてないよ!?」って(笑)。
これがMr.PANのプライヴェート・スタジオ「GRAND-FROG STUDIO」だ!
イヤでも耳にこびり付く独自の音を作りたい
──防音用のスポンジも彩りが綺麗ですよね。
PAN:あれも見た目優先(笑)。音響に詳しい人が見たら「何じゃ、この張り方は?」って思うだろうけど、自分の中ではデッド過ぎず響き過ぎず、バッチリなんだよね。
──そのデッド過ぎず響き過ぎずな音の感じは、今回の『ROLL ON GOOD!!』にもよく出ていますよね。
PAN:うん、出てると思うよ。モノラルでああいう圧縮感と言うかピーク感を出したかったから。まぁ、今回のレコーディングで良くも悪くも課題点が自分の中にはあって、次に作る時にはクリアしたいと思ってるけど。
──その課題点というのは?
PAN:それはマニアックな機材の話になってくるんだよ。「ここの音はあの機材を使いたい」っていうような感じ。「今はドラムの音がこんなだけど、あの機材を使えばこんな音になるんじゃないか?」っていうね。だからいつかその機材を手に入れて、ウチの狭い階段を通すんだ! って思ってる(笑)。またバラすことになったらイヤやけど(笑)。
──『ROLL ON GOOD!!』を聴くと、ドラムとベースの音が随分とぶっとく録れるんだなと思いましたけどね。ぶっといけど抜けも良いと言うか。
PAN:そうそう。今まで録ってきたスタジオでは録られへん音やったから、それだけでも良かったと思ってる。今までと同じような音になったら意味がないと思ってたし、プレイバックして聴いてみたら予想外にいい音だったからビックリした。
──でも、まだまだこの「GRAND-FROG STUDIO」は発展途上にある、と。
PAN:まだまだこれからやね。欲しい機材がいっぱいあるし。でも、その欲しい機材っていうのが1940年代とかだんだん年代を遡っていくから、どうなってしまうんだろう? って自分でも思ってる(笑)。おっきいし、重いしね。
──このスタジオを使った他のメンバーの感想は?
PAN:みんな120%満足してもらったよ。今回はミックスも俺がやったから、凄く信頼を置いてくれたと言うか。録り音ですでにいいのは判ってたから、ミックスし終わった音を早く聴いてみたいっていう願望がみんな強かった。加工してる調理段階は余り見たくなかったみたいだね(笑)。「あの材料を使ってどんな料理が出てくるんだろう?」って食卓で待ってるような気分だったんじゃないかな。
──ミックスで大きく手を加えるようなこともあったんですか。
PAN:そんなに変わる感じでもなかったけどね。ただ、曲によっては「そこまでやるか!」っていうくらい調味料を入れまくったものもある。「マッケテーナ」のドラムなんかは、「この担々麺、どれだけ唐辛子と山椒入れてんの!?」みたいな感じやったね(笑)。
──今後やってみたいレコーディングのアプローチとかはありますか。
PAN:これはもの凄いマニアックな音の録り方なんだけど…ビートルズとか昔のロックンロールの未発表集を聴くと、スタジオのモニターの声が入ってるんだよ。「テイク2!」って話すエンジニアの声を向こうのマイクが拾ってる。それを是非やりたいね(笑)。スタジオのほうにヴィンテージのスピーカーとアンプを入れて、コントロール・ルームからトラック・バックで「じゃ、テイク2行くよ」って言うわけ。その声がめっちゃヴィンテージって言うか(笑)、そこまで再現してみたい。
──それもまた形から入ることの美学ですね(笑)。あと、『BIG BEAT MIND!!』でも多彩なゲストを迎えたセッション曲が数多く収められていましたけど、ああいう試みはこのスタジオならより気兼ねなくできますよね。
PAN:そうだね。今考えてるのは、このスタジオのオムニバス・アルバムを作りたいなと。いろんなバンドマンをゲストに迎えて、ビートルズの初期のライヴ盤と全く同じ収録曲のオムニバスを作りたくてね。ゲストの人達には手ぶらで来てもらうのが条件で。「何も持ってこないで下さい」って、バンドマンにとってはなかなか画期的なことだと思うんやけどな。何て言うか、従来のスタジオの空気感を変えたいし、もっとみんなの遊び場みたいにしたい。ロン・ウッドがフェイセズにいた頃に出したソロ・アルバムも、スタジオの費用よりもゲストに迎えたバンドマン達とスタジオで呑んだ酒代のほうが高かったって言うよね。酒代に何百万も使ったりして。そういうのって凄く楽しそうやし、憧れるね。とにかく今年はこのスタジオからどんどん作品を出していきたい。ニートビーツも他のバンドもね。このスタジオで録った曲を誰かが聴いた時に、「うわッ! 何やこの音、ヤッバイな! どこで録ったんやろ?」って思われたいよね。アビイ・ロード・スタジオ然り、チェス・スタジオ然り、昔のロックンロールにはそのスタジオにしか出せない音ってあったやん? イヤでも何かが耳にこびり付く感じって言うか、そういう音を俺も録りたい。あの人が録るからこんな音になるっていう、その人にしか出せない色を大切にしたいし、それをこのスタジオで形にしていきたいね。
【THE NEATBEATSの皆さんから素敵なプレゼントがあります!】
ROLL ON GOOD!!
BMG JAPAN BVCR-14040
3,000yen (tax in)
IN STORES NOW
01. NEVER MIND
02. マッケテーナ
03. 茶会人生
04. KANSAS CITY〜HEY! HEY! HEY!
05. DON'T TURN AROUND
06. いつものあの子に恋してる
07. TENNESSEE WALTZ
08. DO YOU STILL LOVE ME BABY
09. フクロウのブギー
10. HEEBY JEEBIES
11. ドアを開けて
12. I'M GOING HOME
13. ONE MAN BUSINESS
14. SWEET CURRY TWIST
15. PETER GUNN
★iTunes Storeで購入する(PC ONLY)
Live info.
THE NEATBEATS“ROLL ON GOOD!!”TOUR 2008
3月1日(土)浜松FORCE
3月21日(金)大阪キングコブラ
3月22日(土)京都磔磔
3月23日(日)神戸VARIT
3月25日(火)高松DIME
3月26日(水)徳島ジッターパグ
3月28日(金)三重キングコブラ
3月29日(土)名古屋得三
3月30日(日)下北沢CLUB QUE
4月1日(火)長野LIVE HOUSE J
4月2日(水)新潟JUNK BOX mini
4月4日(金)酒田MUSIC FACTORY
4月5日(土)仙台ENN
4月6日(日)八戸ROXX
4月12日(土)岡山PEPPER LAND
4月13日(日)広島ナミキジャンクション
4月15日(火)出雲APOLLO
4月17日(木)奈良NEVER LAND
4月19日(土)金沢MANIR
4月20日(日)福井CHOP
4月29日(火)熊谷HEAVEN'S ROCK
5月2日(金)千葉LOOK
5月3日(土)横浜F.A.D
5月5日(月)さいたま新都心HEAVEN'S ROCK
5月6日(火)宇都宮HEAVEN'S ROCK
5月10日(土)水戸ライトハウス
5月11日(日)高崎CLUB FLEEZ
5月17日(土)新宿LOFT
5月18日(日)古河SPIDER
6月7日(土)福岡CB
6月8日(日)黒崎マーカス
6月10日(火)米子ベリエ
6月13日(金)名古屋ELL fits all
6月14日(土)大阪シャングリラ
6月15日(日)和田山HIGH/GAIN
6月20日(金)秋田CLUB SWINDLE
6月22日(日)札幌susukino 810
THE NEATBEATS official website
http://www.neatbeats.net/