反比例しない初期衝動と飽くなき表現の追求
── 極上の総天然色サウンドが辿り着いた新たなる地平
次のフル・アルバムは自らのバンド名を冠したものにするというかねてからの“公約”を、アーチン・ファームが遂に果たした。来たるヴァレンタイン・デーに、彼らは満を持して『URCHIN FARM』というメジャー移籍後初となるオリジナル・フル・アルバムを発表する。洋の東西も今昔も問わず、自身のバンド名がタイトルとなっているアルバムに駄作がないように、本作がモノクロームから虹色まで変幻自在の総天然色サウンドを生み出すことに全身全霊を注いできた彼らの最高傑作であることは改めて言うまでもないだろう。 このインタビューを終えて彼らと雑談をしている最中、バンドとしての道程を山に喩えるなら今はどの辺りを歩いていると思うか? という僕の何気ない問いに、リーダーのMORO(g, cho)は「まだ登っている感じはしないですよ。山を登る武器を手に入れて、ようやくすべての準備が整ったところです」と凛々しく答えた。その“武器”とは、楽曲のクォリティや演奏力の高さばかりではなく、サポート・メンバーだった○貴(key, cho)が正式に加入したことによって得たバンドの確たる音楽性とメンバー間の絆の深さ、そしてすべての迷いを払拭した末に勝ち取った揺るぎない自信なのではないか。バンド結成当初の抑え難い初期衝動と一切の妥協を排して表現と対峙するその姿勢を携えたまま、彼らは軽やかにその第2章の幕を開けようとしている。僕には、愚直なまでに自分達にしか創れない音楽を模索し続けてきた彼らに音楽のミューズがやさしく微笑みかけているように思えてならない。(interview:椎名宗之)
○貴という異質の存在が溶け込んでこその面白さ
──昨年末に、キーボードの○貴さんが晴れて正式メンバーになったそうですね。
MORO(g, cho):はい。マルタカ…通称マルに正式に加入してもらうことにしました。初めてマルと音合わせをした時、実は全然噛み合わなかったんですよ。まず、まるっきり育ってきた畑が違ったんですよね。彼はクラシックとかプログレみたいな音楽が大好きなので。Gの7thでジャムろうって時に、マルが“はい?”みたいな顔をして全然ジャムれなくて(笑)。でも、ジャムっていくうちに“これは面白くなるかもな”っていう手応えが徐々に出てきたんですよ。人間的にも面白いヤツだし、バンドの空気にも合うし、マルのプレイがアーチンに溶け込んだら面白くなるぞというインスピレーションとアイディアが僕の中で膨らんできて。それが去年の9月か10月くらいの話で、その時点で僕は一緒にバンドをやってもらうつもりでいましたね。
──本作の先行シングルである『存在音』は、もうマルさんと一緒だったんでしたっけ?
MORO:いや、『存在音』はそれまでサポートしてくれていたキーボーディストに弾いてもらって、マルとは『存在音』のツアーを一緒に回ったのが最初だったのかな。
○貴(key, cho):下北にあるモザイクの店長さんにアーチンを紹介されたんですよ。「エゴ・ラッピンみたいなジャズ系のバンドを紹介してあげるよ」と言われて…。
SHITTY(b, cho):全然違うじゃん(笑)。
○貴:最初は「自分がプロデュースしたいヴォーカルがいて、そのバンドでピアノを弾いてくれないか?」と言われたんですけど、その1ヶ月後に「凄くいいバンドがいるんだよ、アーチン・ファームって言うんだけど…」って。
MORO:モザイクの店長が最初にマルに紹介しようとしたのは、全く違うバンドだったんでしょうね(笑)。
──畑違いのバンドと一緒にやることになって、マルさんはいろいろと試行錯誤されたんじゃないですか。
○貴:でも、アーチンと出会うまでの半年間で20くらいのいろんなバンドとライヴをやってたんですよ。ポップスはそんなにやってなくて、ジャズとかプログレばかりでしたけど、自分としては新鮮でした。
──ということは、全く異質な色がバンドに溶け込んだ感じなんですね。
MORO:全くなかった色ですね。でも、だからこそ面白いと思ったんです。マルは全然違うフレーズやアプローチをしてくるので今までの曲もアレンジが変わってきたし、「この曲はもっとこうしてみたいんですけど…」という提案も彼から多々あったりして。ちょうどその時は自分達の音を模索していて、次のフル・アルバムは『URCHIN FARM』というタイトルで勝負していくつもりだったので、どんな音楽性にしていくかを自分達としても決めかねていたんですよ。でも、マルが入ってライヴを重ねていくうちに“こういう感じの曲ができるかもしれない”と思い始めたのが今回のアルバムに入っているような音楽性で、そこから少しずつ曲を書き始めたんです。それまでに4人で“こんなふうにしよう”と話し合っていたプランや曲を一度全部ゼロにして、まっさらな状態でマルを含めたこの5人で作り上げていくことにしたんですよね。その過程で“よし、これだ!”という手応えを感じてからすぐにレコーディングに入ったんです。
──4人だけで模索していた時は、次作をどんな音楽性にしようと考えていたんですか。
MORO:「One minute SNOW」の延長線上にある曲をもっと増やそうとしてましたね。アルバムで言えば『I.D.[Illustrators' Decoration]』の進化版みたいな感じのイメージでした。ピアノに固執するような曲を作るつもりは全くなかったんですけど、やっぱりマルが入ってから考え方がガラッと変わったんですよ。ピアノを軸に置いた曲作りにシフト・チェンジしてからは、面白いくらいにアイディアが湧いてきたんです。
すべての物事が決して無駄じゃなかった
──今回のアルバムは、従来の潤沢な虹色メロディが決して甘さに流されず、野太い芯が真ん中に一本貫かれているようなものになった印象を受けたんですよね。過去随一のハードなナンバー「DANCE DANCE DANCE」から“化けた!”とまず誰しもが驚くと思いますよ。全13曲はかなりのヴォリュームだと思うんですが、中だるみもなく一気に聴き干してしまうし。
MORO:そうですね。2分台の短い曲も3、4曲あるし、冗長にならずコンパクトにまとめることを意識していましたからね。デモの時は相当ゴチャゴチャしてたし、今回はホントにギリギリまで曲を作ってたんですよ。レコーディングの最中でも納得行くまで作り込んでましたからね。一度リズムだけ録ったものも、結局納得が行かなくてボツにしたりもしましたし。使うか使わないか判らないけど録ってみて、結局使わなかったりもしたけど、一切の妥協をせずにとにかく粘ろうと。だから、時間のない中で紆余曲折を経て完成に漕ぎ着けたんですよね。
──事前に際限まで作り込んでからレコーディングに臨むアーチンとしては、凄く珍しいケースですよね。
MORO:全く初めてのケースですよ。でも、そこまで七転八倒して作り上げたからこそいいものが出来上がったと思うし、自分達でもかなり変わったと思うんですよ。キーボードの音がようやく自分達のものになったことがやっぱりでかいと思うんです。自分達のバンドの一員としてキーボードの音が鳴っているということが。それがメンタル面で全然違いましたよね。今までキーボードはあくまでサポートだったから、4人との間にちょっとした距離があったんですよ。そこを今回は溶け込むまでずっとやり込んだし、メンバー同士でよく話し合いもしたし、バタバタではありましたけど確実に納得の行く形を具現化した感はありますね。この5人の音をどうやって作るかに終始できたから音にもの凄く勢いがあるし、確信めいた感じで録れたと思います。
──うん、音には一切の迷いがないですよね。
MORO:そうですね、基本的に。攻めた感じは凄くありますよ。ピアノで始まる「DANCE DANCE DANCE」からその“攻め”を感じてもらえるんじゃないかと思います。自分達のバンド名を冠するアルバムなわけだから、そこで納得の行かないものにしてしまったら、いよいよ何のためにバンドをやっているのか判らなくなってしまいますからね。
──レコーディングにはどれだけ時間を費やしたんですか。
MORO:約1ヶ月ですね。事前に五反田のスタジオにずっと籠もり切って、佐久間正英さんのドッグハウス・スタジオで1ヶ月使って録りました。ドッグハウスのエンジニアさんが今回プロデューサー的な役割を果たしてくれたんです。
──これまで発表してきた作品はすべてこのアルバムのためにあったんじゃないかと思うくらい、高い完成度を誇っていると思いますよ。自らのアイデンティティを模索していた時期を含めて、すべての物事が決して無駄ではなかったことがよく判ります。
MORO:ええ、ホントにそう思います。各アルバムでいろんなアプローチをしてきたバンドですけど、このアルバムでようやく“これが俺達なんだ!”と言えるものが作れたと思っているので、ここからすべてが始まる気がしてますね。
──ヴォーカルのアプローチも本作でだいぶ変わったと思うんですけど、録り方を変えてみたりしたんですか。
SOTA(vo, g):はい、変えました。ブースに入ってヘッドフォンをした時点で、今までの作品とは全然違う空気感だったんですよ。ヘッドフォンから聴こえてくる音に並々ならぬ気迫を感じたし、今まで通りじゃ絶対に無理だと思いましたからね。
MORO:音が凄く強かったからね。
SOTA:うん。みんな確信めいてきたものを突き詰めて音にしていたので、僕の気持ちが弛んでいたら負けるなと思って。だからまず、心構えの引き締めからして全然違ったんですよ。前回のインタビューでも話しましたけど、マイクの外に向けて唄おうとするのは大前提。今回はそれに加えて、どれだけ曲に溶け込めるかを意識しましたね。ライヴっぽく唄いたい時はウィンド・スクリーンを引っ張ってくっ付けて唄ったし、ギターを抱えながら唄ってみたり、暗い曲なら電気を消して真っ暗な中で唄ってみたりとかして。曲ごとに自分なりのアプローチが変わってきたし、今までの作品を改めて全部聴き直してみて“もっとこうしたかったんだよなぁ…”というところを今回は絶対になくそう、と。だからこのアルバムが完成した時には、その時点でできることはもう何もないというところまですべてを出し切れたと思います。そこまでやらないと、『URCHIN FARM』というタイトルのアルバムを出す意味がないと思ってましたから。
パートの押し引きとせめぎ合いのバランス
──本来のとろけるような声の甘さに、凛とした佇まいが加味されたように思えるんです。曲によっては別人とも思える透明感を感じたりもするし。
SOTA:やっぱり、引き出されますよね。各メンバーの気持ちや音に対するシビアさから“こういう歌じゃないとダメだ”というのが引き出されていくと言うか。マルが加入したことによってずっとやりたいと思っていたサウンドが出せるようになったし、方向性が明確にもなったから、あとは納得の行くまでやるだけだったんですよ。
──たとえば「philter」のヴォーカルは、最初に聴いた時にMOROさんが唄っているんじゃないかと思ったほどの違いを感じたんですよね。
MORO:ああ、なるほど。タッチの変わった曲が増えたと思うし、曲のテンションもこのアルバムでかなり変わったと思うんですよね。今までは七色のカラフルさがあるポップなイメージだったのが、僕の中では少し大人っぽくなった感じがするんですよ。歌詞の内容もそうだし、
SOTAも今まで通りじゃいけないのを実感したんだと思うんです。今までに持ってなかった引き出しを自分から進んで作るところも
SOTAにはあっただろうし。
──曲調で言うと、同じ七色でも今まではたとえば赤と橙がくっきり分かれていたのが、今度のアルバムでは赤と橙の境目の溶け合っている部分まで表現できるようになったと言うか、文章で喩えるなら行間を巧みに描写する術を得たように思えるんですよね。
MORO:そうかもしれません。そういう部分が出てくる環境に自ら身を置いたところはあったと思うんですよ。
──叙情感に溢れた「umbrella」、ジャジーでソウルフルな「Billy」、コーラスがとりわけ美しい「新呼吸」など、ピアノを基調にした曲は特にその“行間”がにじみ出ていますよね。
MORO:ええ。勢いもありますよね。まったりとなよっとした感じよりは、全体的にロックっぽい感じになったのかなと。ロックというのも、今までは真正面から余り言ってこなかったキーワードだと思うんですけど。
──ロックっぽい感じと言えば、「存在音」から始まって「doubt」「philter」と繋がる流れが個人的には凄く好きなんですよ。
MORO:僕もその流れは大好きですね。振り切ってグイグイと押しまくる感じで。
──と同時に、胸をギュッと締め付けられる何とも言えない切なさがあるんですよね。
MORO:そうですね。「doubt」も「philter」も、今まで僕が書いてきた泣きのメロディとはちょっと違うと思うんですよ。これまではバラード調で多分にJ-POP的なアプローチでしたけど、メロディのタッチが変わってきたんです。そこが今回のアルバムの肝の部分なんですよね。それは、「On SHOWTIME」みたいな実験的な曲を作ってみたり、真逆な「Replay」みたいな曲を作ってみたり、もっとストレートな「MONOchrome」や「STAR MESSAGE」みたいな曲を作ってみたりと、試行錯誤を重ねてきた成果だと思ってます。マルのピアノが想定外のアプローチをしてくるから、それまで思い付かなかったメロディのタッチが自然と浮かんできたんですよ。やっぱりマルの存在が凄く大きいんですよね。
──アップ・テンポの激しい曲もじっくりと聴かせるバラッドも、その表情が非常に豊かなのは屋台骨を支える鉄壁のリズム隊があってこそですよね。
SHITTY:ええ、そこは間違いないですね!
TETSUYA(ds, cho):自分で言うなよ(笑)。
──でもこれはお世辞ではなく、作品を追うごとに揺るぎないグルーヴがバンドの太い幹となっているのを実感しますね。
TETSUYA:今までいろんなタイプの曲をやってきた土台があったので、今回のアルバムのようにヴァラエティに富んだ楽曲が並んでもちゃんと対応できたんだと思いますよ。頭の中で思い描いた音をそのまま形にできるようになってきたし、それが今回確信に変わった気はします。
──「DANCE DANCE DANCE」の乱れ打ち具合と言ったら、凄まじいという言葉ではとても済まされない凄味がありますよね。
SOTA:後半は特に乱れ打ちもいいとこですね。よくあれだけ叩けるものだなと同じバンドなのに思いますよ(笑)。
MORO:それも、いろんな曲をアプローチしてきた結果だと思うんですよね。ドラムの手数も多くなってきたし、フレーズのチョイスも無理なく持ってこられるようになってきたと思うし。
TETSUYAもSHITTYも、その曲に合ったドラム、その曲に合ったベースをそれぞれが熟考した上で、ちゃんと自分が前に出るようになったと言うか。それを5人全員ができるようになったと思います。ここは
SOTAが前に出る部分だというところは他の4人が引くとか、押し引きもちゃんと覚えてきて。そうかと思えば、
SOTAが唄ってない時は“俺が一番だろ!?”とばかりにそれぞれが前に出て行く感じもあって、そのせめぎ合いがあってこそバンドが良くなるんだと思うんですよ。
日本のパワーポップ・バンドとしてのこだわり
──あと、「DANCE DANCE DANCE」然り「Dear my voice」然り、英語詞の比重が多い曲が増えましたね。
MORO:そうですね。日本語か英語かは余りこだわってなくて、その曲が呼んでる言葉に準じてるんですよ。それは僕も
SOTAもSHITTYもみんながそうなんです。“これは英語を呼んでるでしょ?”という時は素直にそれに従って、でもそこで背伸びした言葉は余り使わないように努めたりして。メロディが洋楽ノリになる楽曲が今回は多かったと思うんですよね。
──洋楽と言えば、ファウンテンズ・オブ・ウェインの「Mexican Wine」のカヴァーもありますね。以前、『One minute SNOW』のカップリングでマライア・キャリーの「All I Want For Christmas Is You」をカヴァーしていましたけど、アルバムでは初めてですよね。
MORO:ええ。僕らは日本のパワーポップ・バンドとしてのこだわりが強くあるし、海外のパワーポップ・バンドに対して自分達なりのリスペクトを表したかったんですよ。僕らは僕らで、自分達の国で独自のパワーポップをやっているんだという意思表示として。まぁ、単純に好きな曲なのでやってみたかったというのもあるんですけどね。
──しかも、大胆にもアルバムの2曲目にこのカヴァーを持ってきていますよね。
MORO:その曲順に関しては多少物議を醸し出しましたけど(笑)、ライヴを意識した曲順にしたかったし、2曲目は横ノリの感じを出したかったんですよ。「DANCE DANCE DANCE」で飛ばして、そのノリを横にグッと寄せてみたかったんです。
──英語詞は唄うのも難しいですよね。
SOTA:凄く難しいですよ。マライア・キャリーとファウンテンズ・オブ・ウェインでは歌の特性も仕上がりの着地点も全く違いますしね。マライアの曲は単純にクリスマスっぽいイメージを出すことに腐心しましたけど、今度のはもともとの大人っぽい感じをポップ的に解釈するというテーマがまずあったんですよ。余りキッズ、キッズすることなく、大人っぽい感じがないとダメだなと思っていたんです。
──曲の終わりにグラスの割れる音が入っているところは、子供っぽい遊び心がありますけどね(笑)。
MORO:実際にワイン・ボトルをバーンと割ったんですよ。あれは完全にベン・フォールズ・ファイヴからの影響ですね(笑)。
──「DANCE DANCE DANCE」の終わりにもジッポーで火をつける音が入っていますよね。
MORO:それは、いきなり何の脈絡もなくジッポーで火をつけた音があったらシブいんじゃないかと思って。大人=ジッポーだろ、みたいなところがありましたから(笑)。
──マライアのカヴァーではアーチンなりのソウル・ミュージックへのアプローチを試みていましたけど、今回はそのテイストが「Billy」という曲で見事に昇華されていますね。マルさんによるジャズのテイストも加味されて。
MORO:うん、そうですね。「Billy」は周囲の評判が凄く高い曲なんですよ。曲自体のネタは結構前からあったんですけど、マルがいなかったらこういう形にはなっていなかったでしょうね。この路線が本当は一番狙っていきたいところなんです。リアルなジャズやソウルを目指すという意味ではなくて、バンドとしていいメロディを弾き語れるのをコンセプトとして、自分達のできる範囲で良質な音楽をやると言うか。
──「Billy」のような曲を聴くと、今のバンドのアンサンブルが過去随一なのが如実に窺えますね。
MORO:ええ、そこは自信を持って言えますね。特にこの「Billy」にはそれがよく出てると思います。押し引きも凄く上手くいった楽曲なんですよ。ギターも弾き過ぎてないし、ベースもドラムもキーボードもちゃんと持ち味を発揮していて、印象としては
SOTAの歌が一番メインに出ていますから。ミックスも凄く上手くいったんですよね。
SOTA:そう、ミックスがとにかく素晴らしくて、聴きながら泣きそうになったんですよ。
7分を超えるバラードの大作「Diary」
──リスナーが涙腺を直撃されること必至なのは、7分を超える大作「Diary」だと思うんですよ。これには僕、不覚にも涙が止まりませんでした(笑)。
MORO:これはもう、至極のバラードですからね。楽曲の構成としては、気持ちの流れを汲んだストーリー性のあるものにしたかったんですよ。
──その前にジャブとして「End roll」というポップながら哀切のナンバーがあって、この「End roll」と「Diary」の流れは本作の大きな聴き所のひとつだと思うんですよ。
MORO:仰る通りです。そういう泣きのメロディの流れは今までにもあったと思うんですけど、今回はそれを凝縮した感じと言うか。「DANCE DANCE DANCE」や「Billy」といったこれからアーチンが押し出していきたい音を前半で出して、“でも、バラードだってちゃんとできるんですよ”みたいなニュアンスを後半で1曲だけ出したかったんですよ。何曲もバラードを入れずに敢えて1曲に絞って、代わりにその1曲を至極のバラードにしようと思ったんです。
──「Diary」は歌詞も凄くいいんですよね。別れた恋人との思い出を日記になぞらえて、失意の日々を送る主人公がゆっくりと立ち上がるまでを精緻な描写で綴っていて。
SOTA:自分で言うのも何ですけど、この歌詞はよくできましたね(笑)。いつも歌詞は自分の実体験を膨らませて書くんですけど、思い出を美化しているもう1人の自分がいるんですよね。そのもう1人の自分が大きなアクションを起こしたような曲ですね。曲の時間としては一番長いんですけど、実は歌詞の仕上がりは一番早かったんですよ。歌詞には凄く時間が掛かるほうなんですが、「Diary」はものの数時間で出来上がったんです。
──これだけ長尺の曲は、張り詰めたテンションのまま演奏するのがなかなか難しかったんじゃないかと思うんですけど…。
MORO:そうなんですよ。やっぱり、音が多くなればなるほど凄く難しいんですよね。静寂からガンと行くところまでの振り幅を大きくしたかったから、静寂の部分にはちゃんと音を少なくしなくちゃいけなくて。バラードは歌もメロディも緩急がすべてで、押し引きが凄く難しいんです。ただプレイするだけでは絶対に感動を得られないですからね。
──歌詞で言えば“けどもう やめよう”に至るまで、恋人への思いを断ち切る決意をするまでの演奏が徐々に盛り上がっていく場面は身震いするほかないと思いますよ。
MORO:組曲っぽいんですよね。途中から曲の世界観もコード感もガラッと変わるんです。歌詞にしても、綺麗な思い出から始まって、中盤で心の奥底にある生々しい感情が交錯していって、“けどもう やめよう”から感情が落ち着いてくる。そして最後は日記を閉じる。
SOTAが書いてきたその一連の歌詞の流れが僕も凄く好きなんですよ。
──“僕をどうしたくて/君は目の前にいないんだろう”なんて、失意の極北にある姿をこれほど端的に表した歌詞もそうはないですよ。
MORO:そこはまさに号泣ですよ。本当に素晴らしい。
──そもそも、バンドでこれほど長い曲は初めてですよね?
SOTA:そうですね。意図的に長い曲は作らないという決め事がアーチンにはあって、目安としては3分間前後の楽曲にこだわってやってきましたからね。「Diary」に関しては“ザ・バラード”みたいな曲を作ろうというコンセプトがあったので、時間が長くなるのも辞さなかったんです。ただし、それを7分もあるように思わせちゃダメなんですよ。長い曲だと思われないように歌詞の内容を吟味したり、メロディに強弱を付けたり、演奏も緊張感を維持するように心懸けたんです。
──これまでのアーチンの持ち味というのは、曲を聴くと思春期に感じた淡い恋心が蘇るみたいな部分だったと思うんですが、ここまで涙腺を刺激する直情的な表現は今までになかったですよね。
MORO:なかったですね。それもメンタル面での意識の変化が大きかったんですよ。腰を落ち着けて5人で作品を作るぞという決意があったからこそ細部にまでこだわれたと思うし、こだわるためにはどうすればいいかをゴールするまで突き詰めに突き詰めましたから。どの曲もそうですけど、やっぱり今のこの5人だからこそ作れたんだと思いますね。従来通り4人+サポートのキーボードという編成だとしたら、「Diary」のような曲は絶対に出来なかったはずです。仮に曲は作れたとしても、演奏は全然違うものになったでしょうね。
メンバー同士の絆の深さが音にも表れる
──2年以上も前にシングルとして発表した「One minute SNOW」を今回新たにレコーディングして、アルバムの最後に収めたのはどんな意図からなんですか。
MORO:「One minute SNOW」は、バンドが積み重ねてきた歴史の片鱗を垣間見られる曲と言うか、年を追うごとにその時点でのバンドの空気感や置かれている状況、メンバーの気持ちとかがライヴで一番よく出る曲だと以前から思っていたんですよ。ライヴではかれこれ3、4年やってる古い曲で、歌や演奏のアプローチがその時々で変化し続けてきたんですよね。今回のフル・アルバムに入れようと考えた時も、シングルの音源をそのまま入れるのではなく、今の自分達が演奏する「One minute SNOW」を入れたほうが絶対にいいと思ったんです。
──シングル・ヴァージョンだとエンディングに“Merry Christmas”と唄われる部分が、本作の新録では“wish your happiness”と唄われていますね。
MORO:シングルの時はクリスマス限定の曲にしたくて、エンディングの歌詞を“Merry Christmas”にしたんですけど、今回は元に戻した感覚なんですよね。本来はこのアルバムに入れた感じの歌詞とアレンジで、冬のある1日を切り取った曲だったんですよ。
──「One minute SNOW」をシングルとして発表した以降にバンドの試行錯誤が始まったので、その意味でもこの曲の新たなヴァージョンでアルバムが締め括られるのは感慨深いものがあるなと思ったんですが。
MORO:そうですね。この曲がアーチンにとって一番の代表曲だと言われることも多かったし、満を持してバンド名を冠したフル・アルバムを出すのであれば、最高の形の「One minute SNOW」をそこに入れるべきだと思っていたんですよ。今回のヴァージョンには凄く満足していますね。
──それと、本作では見落とされがちかもしれませんが、先行シングルだった「存在音」の文字通り強い存在感はやはり特筆すべきものがありますね。
MORO:「存在音」は幹の太い曲ですからね。でも、それを凌駕するような曲をこのアルバムには入れたいと思ってたし、何よりもスッキリしたのは“アーチン・ファームの音楽とはこういうものだ!”というのをちゃんと提示できたことなんです。マルも入って5人体制になって、バンドの第2章をここから始められるぞという意識が凄く強いんですよ。
──確かに。他の皆さんはどうですか。
SOTA:タイトルを『URCHIN FARM』とするのに相応しいアルバムになったと思うんですよ。今回は今までみたいに不完全燃焼感がなくて、やり残しは一切ないというところまで自信を持って突き詰められた手応えがあるんです。
TETSUYA:全く隙のないアルバムを作れましたよね。四の五の言わず、とにかく聴いて下さいって感じです。それでどう思うかは聴いた人次第で、自分達としては凄くいいものを作れた満足感でいっぱいですから。
SHITTY:このアルバムがあれば、もう他のバンドの音楽なんて聴かなくてもいいんじゃないですかね?(笑) そんな1枚が出来上がったんじゃないかっていうことと、あとは…俺最高! っていうことですね(笑)。
○貴:今まではサポートという立場でしたけど、正式にバンドに入ることによって自分に何ができるか? このバンドには何が必要なのか? というのをずっと考えていたんですよ。僕のほうから「アーチン・ファームの音を変えていこうよ」とは一度も言わなかったんですけど、結果的には凄く変わったと思うんです。自分としてはただ純粋にいいアルバムが作れたと思ってますけどね。
MORO:マルが言うように、やっぱり凄く変わったんですよ。バンドは人間力がものを言うと言うか、単純に音が良かったり演奏が巧くても成立しないというのはバンドを始めた当初から感じていたんです。メンバー同士の繋がりの厚さや絆の深さが音楽性を向上させていくものだと思うし、メンバーだけですべてを切り拓いていく力が重要なんですよ。それがサウンドにも如実に表れますから。メンバーを1人増やすことはそれなりに覚悟の要ることだし、互いが互いを欲していない限り成り立たないんですよね。関係性がイーヴンじゃなければダメなんです。マルはその資質を充分に満たしていたし、彼の持ってくるピアノのフレーズがバンドとして一番欲しかったブレない幹を形作ってくれたんです。だから、彼と一緒にバンドをやれるようになって本当に良かったと思ってるんですよ。
──「MUSIC」に“「音楽」の定義は音を楽しむこと/でもそれが出来ない時に僕等から言えるのは/音で楽になろう/それも「音楽」だ”という歌詞がありますけど、誰よりもまず音で楽になれたのはバンド自身なのかもしれませんね。
MORO:うん、そうですね。悩み続けてきた部分や苦しんできた部分もたくさんあったけど、そこを乗り越えてきて本当に良かったと今は思ってます。こうして自分達が心底いいと思えるアルバムを完成できましたからね。
──今のこの5人の演奏でこれまでのレパートリーをライヴで聴いてみたい気もしますね。
MORO:それはよく言われるんですけど、このアルバムに収めた13曲しか自分達の曲じゃないんだくらいのイメージで今はやってますね。このアルバムこそがアーチン・ファームなんだというところから始めようと思ってます。それが一段落したら今までの曲を5人でリアレンジしてもいいかな、と。当分はこの『URCHIN FARM』というアルバムを表現しきることに特化していこうと考えているんですよ。
【URCHIN FARMの皆さんから素敵なプレゼントがあります!】
URCHIN FARM
01. DANCE DANCE DANCE
02. Mexican Wine
03. MUSIC
04. umbrella
05. Dear my voice
06. 存在音
07. doubt
08. philter
09. Billy
10. 新呼吸
11. End roll
12. Diary
13. One minute SNOW
EMI Music Japan TOCT-26484
2,500yen (tax in)
2008.2.14 IN STORES
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★iTunes Storeで購入する(PC ONLY)
Live info.
3月3日(月)下北沢SHELTER:レコ発
3月8日(土)新潟JUNKBOX mini
3月9日(日)仙台RIPPLE
3月11日(火)柏ZaX
3月12日(水)水戸LIGHT HOUSE
3月16日(日)渋谷CLUB QUATTRO
3月22日(土)宇都宮HELLO DOLLY
3月23日(日)静岡WAV
3月29日(土)大阪AtlantiQs
3月30日(日)大阪club massive
4月1日(火)広島CAVE BE
4月3日(木)大分T.O.P.S
4月4日(金)福岡THE VOODOO LOUNGE
4月6日(土)長崎studio DO!
4月7日(月)長崎佐世保Dazzle Puzzle
4月9日(水)神戸STARCLUB<
4月11日(金)京都MOJO
4月12日(土)大阪2nd LINE
4月16日(水)滋賀U★STONE
4月18日(金)福井CHOP
4月19日(土)富山SOUL POWER
4月20日(日)金沢vanvan V4
4月22日(火)新潟JUNKBOX
4月27日(日)前橋TRUST
4月29日(火)横浜FAD
6月7日(土)渋谷CYCLONE:ワンマン
URCHIN FARM official website
http://www.urchinfarm.com/