日本のライヴハウスを代表するロフト&シェルターの店長が今年のライヴハウス・シーンの動向を直言&大胆予測!
というわけで、昨年の本誌新年号で(意外と)各方面から好評を得た新宿ロフト&下北沢シェルターの両店長による対談企画第2弾であります。激動の2007年のシーン総括から目下熱い注目を注いでいる新進気鋭バンド、今年打開すべき店の課題、同じく打開すべき私生活の諸問題(笑)に至るまでを、ロフト=大塚智昭とシェルター=西村仁志(共に既婚、大塚は子持ち)の2人に縦横無尽に語り尽くしてもらいました。このテキストを読めば2008年のライヴハウス・シーンの動向が一気に掴める…かどうかは一切責任が持てませんが、より一層ロフト&シェルターに対して愛着を持って頂けるのではないでしょうか。これに懲りず、今年も両店をご愛顧のほど何卒よろしくお願い致します。(interview:椎名宗之)
2007年を漢字で表すと…“苦”!?
──まず、2007年のライヴハウス・シーンの総括から始めましょうか。
西村:去年の“世相を表す漢字”って何でしたっけ?
──“偽”ですね。「赤福」や「白い恋人」といった食品の偽装表示が問題になったから。
西村:それで行くと、“苦”とか良くない言葉が当てはまりそうな気がしますねぇ…。
──それは集客的な意味で?
大塚:奥さんとの擦れ違いが続く西村さんの家庭生活のことじゃないですか?(笑)
西村:うるさいよ!(笑) 恐らくバンドマンも活動の在り方を模索しているんじゃないですかね。ライヴはいつでもできるけど、動員は全般的に減少の傾向にあるのは否めないし、ライヴの本数を減らしてもきつくなるし…っていう。
大塚:ライヴハウスの数がここ数年急激に増えたから、ライヴ自体はいつ何処ででもできるんですよね。
西村:ただ、1本のライヴに対する重みが薄らいでいるのは確かじゃないかな。
──それは、1枚のCDに対する熱量が稀薄になっているのと似ていますね。
西村:映画でも雑誌でもゲームでも、どんな業種でもきっとそうなんでしょうけどね。
大塚:今やCDを出しても食えない、むしろ赤になると判断しているバンドも多いですからね。
──そういうバンドはライヴをやるしかない?
大塚:バンドマンと話していて感じるのは、堅気の仕事に就いている人が増えましたよね。ちゃんとした会社で正社員として働きながら、夜中にリハに入って、週末だけライヴをやるっていう。
──何だか切ない話だけど、それが紛れもない現実ですよね。
西村:ここ数年結婚して子供が生まれた中堅どころのバンドマンも多いし、まず第一に生活を成り立たせることをないがしろにはできないですからね。そうやって生活と音楽を両立させているバンドは全面的に応援したいですよ。
──各店で印象に残っているライヴをそれぞれ挙げると?
大塚:やっぱり、11月にニューロティカがロフトで通算200回のライヴを敢行したことがまず第一ですね。店長としては、自分の前説が大失敗だったという反省点もありつつ(笑)。
西村:シェルターとしては、今年もシェルター・ツアーズで全国のライヴハウスを回れたことですね。仕込みの期間が短かったことでの反省材料は多々ありますけど、やれて本当に良かった。イヴェンター界隈では、「西村はツアーを仕切れるらしい」という噂が出ているみたいですね。実際は全然できませんけど(笑)。俺が一番嬉しかったのは、全国どのライヴハウスでもそこがシェルターになったことですね。あの緩さとか空気感がまさにシェルターだった。これは実際に来てくれた人にしか判らない感覚だと思いますけど。
──僕はクラブチッタと新潟のジャンクボックス・ミニにしか参戦できなかったけど、間違いなくシェルターになっていましたよ。それと、各地のライヴハウスのブッキングマンと直接対話ができるのは貴重な経験ですよね。
西村:あれは凄く刺激になりますね。店のスタッフも同行させて、彼らも凄く勉強になったと思うし。勉強したことをちゃんとシェルターにフィードバックしてくれないと困るんですけど(笑)。
大塚:シェルターがツアーを回ったから、ロフトは断固としてツアーをしません(笑)。昔、野音や渋公、チッタを巻き込んで“GO! GO! LOFT”というイヴェントをやったことがあるし、ウチの店員はやりたがっているんですけどね。仮にやるなら、関東の大きいライヴハウスを回りたいです。チッタ、ブリッツ、リキッド、AXとかで。
印象深かったライヴあれこれ
西村:店のブッキングで印象に残っているのは…スケジュールを見ながら振り返っていきましょうか。まず、1月16日の8ottoシェルター初登場&初ワンマン、最多動員記録更新。瞬間的にシェルターに人がいた数は、俺が在籍していた中で恐らく一番です。4月14日はBREAKfASTのベーシストが脱退したライヴでstruggle for prideがゲストに出たんですけど、とにかくフロアが凄まじいカオスで、本気でシェルターが潰れるかと思いました(笑)。
──まさに暴動・オア・ダイだ(笑)。
西村:なんせ最前列の柵を投げ付けられましたからねぇ…(笑)。5月4日のFIRESTARTER 10周年記念ライヴも印象深いな。5月はあと、25日のテクマのワンマン・ライヴ。動員、内容共にやってくれました(笑)。6月30日はex.FUGAZIのJOE LALLYが急遽キャンセルで、NahtとSPIRAL CHORDの一騎打ち。個人的に凄く楽しかったのは、7月3日に出てくれたSCAFULL KING。
大塚:フジロックの前哨戦として6年振りに復活しましたね。
西村:夏フェスの時期は毎年苦戦するんですけど、去年は充実していたんですよ。7月21日のSPROCKET WHEELの再結成と7月27日のtoddleワンマンは印象深いし、7月31日の目黒(スタッフ)お疲れ様ライヴは面子がZeppクラスでソールド・アウト。
──COMEBACK MY DAUGHTERS、HAWAIIAN6、RAZORS EDGE、FUCK YOU HEROESですからね。
西村:9月16日のGENDO十DEATH東京初登場も思い出深いですね。もっと一般的なところで面白かったのは、8月29日・30日の髭のワンマン2デイズ。バンドってちゃんと成長するんだなと思った。前身バンドのオーディション・ライヴから観ていますからね。やっていること自体はほとんど変わってないんだけど、バンドの内面的な考え方が変わったのか、表現方法が格段に増して凄く格好良かったんですよ。
大塚:ロフトもいくつか挙げていきましょうか。4月24日の歌舞伎町ロフト開店日のロフト・デイ、この日はARBとBUCK-TICKとFISHMANSのコピー・バンドが出ました(笑)。nilの(高野)哲さんやGRiPのゴンダ(タケシ)さん、THE BACK HORNの(岡峰)光舟さん達が出てくれて、面子は豪華だったんですよ。2,500円でフード付きというお得感満載で、300人以上動員できました。歌舞伎町移転8周年記念のイヴェントで行くと、5月26日のSION vs KEN YOKOYAMA。SIONさんの歌声には心底シビレましたね。あと、5月15日のPerfume。確か初動が8枚で、最終的に400枚以上売れたんですよ。
──Perfumeは今や飛ぶ鳥を落とす勢いですよね。
西村:AC公共広告機構のCM曲にも使われていたし、Zepp Tokyoのカウントダウン・ライブは即完だったらしいですよ。
大塚:2月にやるSHIBUYA-AXのワンマンも秒殺だったみたいですけど、ロフトに出てくれた時は売れ切れなかったんですよね。
今年注目すべき新進気鋭のバンド
──あと、去年は“結成○周年ライヴ”という表記が多々見受けられた気がするんですけど。
大塚:そうですね。10月27日はthe 原爆オナニーズの25周年、11月3日はPULLING TEETHの10周年、11月7日はロマンポルシェ。の10周年。それと忘れちゃいけないのは10月1日・2日のルーフトップ創刊31周年!(ヨイショ!)
──ああ(笑)。その節は本当にお世話になりました。
大塚:あれだけ愛情と感情のこもったライヴもそうはないですよ。完全に椎名さんと山田さんの好みですからね(笑)。逆に残念だったのは、9月1日のCLASSIC CHIMES 解散ライヴ。
──あえなく活動休止や解散を選んだバンドも去年は多かったですね。
西村:解散直前に急遽決まったKEMURIのフリー・ライヴ(11月20日)は個人的に嬉しかったですね。タワーレコードとavexのスタッフと話を詰めたんですけど、メンバーの意向なのか「是非シェルターでやりたい」と言ってくれて。
大塚:KEMURIは去年3回ロフトに出てくれて、10月27日が最後だったんです。その時のステージで「ここには凄く思い入れがあって…」と(伊藤)ふみおさんが言ってくれたのは凄く感動しましたね。
──KEMURIはスカコア・シーンの牽引者であり、一番の立役者でしたからね。
西村:“P.M.A.”というバンドの哲学も含めて、相当なインパクトがありましたよね。
大塚:それこそ、これで本当にひとつの時代が終わった感じがしましたよ。
西村:解散を宣言してからツアーで各地を回るバンドには正直きな臭い部分もあるけど、KEMURIの場合は最後の最後まで世話になったファンやライヴハウスに恩返しをするようなライヴを繰り広げていましたよね。今まで解散宣言をしてツアーを回ったバンドの中で一番潔かったかもしれない。解散を表明してからのテンションをキープするのも大変だったと思うし、それを崩さずにやれていたところは大人だなと感じましたね。
──そうした大人のバンドが平均年齢を上げていく一方で、若手のバンドの台頭に関してはどうですか。
西村:やっと最近、20歳過ぎくらいの若くて粋のいいバンドが出てきた感はありますね。俺が今いいなと思うのは、去年我がCRUXからデビュー・ミニ・アルバムを出したa flood of circleを筆頭に、not great men、Far France。その辺りのバンドでひとつのシーンを築けそうな感じですね。この3組は出るべくして出てきたバンドだと思います。パンク系も何処かで育ってきているんでしょうけど、まだシェルターまで届いていないし、俺がそこまでリサーチできていないんですよ。
──若手とは言えないかもしれないけど、シェルター・ツアーズのクラブチッタで観たgroup_inouは衝撃でしたね。ロックの肉体性を孕んだエレクトロ・ヒップホップという感じで。
西村:ああ、確かに。まぁ、若手と言うか何と言うか…(笑)。
大塚:僕は、12月号のルーフトップにもインタビューが掲載されていたSUPER BEAVERが今凄くいいと思いますね。ロフトでずっとやってきてくれたONE OK ROCKとよく一緒にライヴをやっていて、どちらもまだ未成年なんですよ。可能性が凄くあると思う。あと、astrocoastは恐らく今年ブレイクするんじゃないかなと。メンバーが未成年の頃にMighty Duckというバンドをやっていたんですけど。個人的には、去年深夜のバー・ステージでフリー・ライヴを断行していたANOYOをもっとプッシュしていきたいですね。
店の冠におんぶに抱っこじゃイカン!
──シェルターはオーディション・ライヴを今も行なっているし、デモ・テープは各店とも日々絶え間なく送られてくると思いますが、最近のデモ音源はどんな傾向にありますか。
西村:相変わらずシェルターの敷居は高いと思われているのか、デモ・テープの数が減ってきているのは残念ですね。オーディションに出るのは誰だってできるし、そこまで敷居を高くしているつもりもないんですけどね。
大塚:ロフトはキャリアのあるバンドマンを重宝しているせいか、送られてくるデモが未だにカセット・テープだったり、若いのにBOφWY直系の音楽をやっていたりするんですよ(笑)。一昨年まではよくあるギター・バンド系のデモが多かったんですけど、去年は古き良きロフトの看板バンドっぽいデモが多かった気がしますね。どのライヴハウスもそうでしょうけど、ロフトでもやっぱり頑張っているバンドがしっかりと残っていて、そのぶんブッキングのエイジが上がっているのは確かなんですよ。デモ・テープにもそれが反映されている気がしますね。
──店の看板はさておき、全くの個人的な嗜好で注目しているバンドは?
西村:やっぱりgroup_inouですかね。ヒップホップなんだけど、ちょっと土臭いところがいい。
大塚:group_inouは、初期の電気GROOVEみたいな匂いがありますよね。ナゴムで“人生”が終わった直後と言うか。
西村:それはあるかもね。ライヴはいつも衝撃を受けるし、トラックを作っているimaiさんのセンスがとにかく素晴らしいですよ。ヒップホップはウチのスタッフがパブタイムに流しているのを聴く程度だから特に詳しいわけでもないんですけど、inouはそのセンスの良さと拙さが重なっているから面白いですね。明らかに渋谷にはないヒップホップですよ。下北でもちょっと外れのほうにある感じと言うか。実際に何処に住んでいるのかは知らないけど(笑)。あとは、常に進化し続けている54-71がこの先どうなるかに期待ですね。
大塚:54-71は、去年のシェルター・ツアーズにかなり一緒に回っていましたよね。またギターが入った54-71には僕も期待していますよ。
──では最後に、今年はどんな一年になりそうですか。
西村:まぁ、シェルターは激動の一年になるでしょうね、いろんな意味で(笑)。ブッキングは常に3〜4ヶ月先、早ければ半年先まで埋まっているけど、本当は3ヶ月先まである程度決まっているのがちょうどいいよね?
大塚:そうなんですよね、本当は。
西村:昔、日本のライヴハウスのブッキング状況を早めたのはロフトとシェルターだと言われたことがあるんですけど、そこまでやっているつもりもないんですよね。常にフレキシブルに対応しているつもりですから。ただ、ライヴハウスがたくさん出来つつある昨今の中で俺もスタッフもシェルターという冠におんぶに抱っこの状況なのは否めないから、それじゃイカンなと今は思っています。
大塚:それはロフトも同じですけど、胡座はかけないですね。歴史のあるライヴハウスだから、そこに助けられている部分はありますけど、胡座をかいたらすぐに潰れますよ。今年はブッキングを充実させながら、誰もが気軽に呑みに来られる店にしたいです。
西村:ここ数年、ビジネスではなく全くの個人でイヴェントを組んでいた人が減ったし、そういうイヴェントを店がバックアップしていくことが増えたらもっと活性化して面白くなるんじゃないですかね。客層もバンドも平均年齢が上がっているし、何か面白いことを仕掛けていかないと。
大塚:ライヴハウスにも少子化の波が来ているんですよ。西村さんも早く擦れ違いの生活をやめて子供を作らないと!
西村:うるさいよ!(笑) …家に帰ってもヨメの帰りは俺より遅いし、これから呑みに行きません?(笑)
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新宿LOFT official website
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下北沢SHELTER official website
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