呼吸する時間と光溢る未来の向こう
アンダーグラフの3rd.アルバム『呼吸する時間』がリリースされる。前作『素晴らしき日常』は2006年のほとんどはこのCDを聴いていたんじゃないかというぐらい肌身離さず身近にあった作品だった。だから、次のアルバムでは、どんな素敵な言葉を届けてくれるのかととても楽しみにしていた作品。命が吹き込まれた“時間”が呼吸をし始め、言葉を綴り、音を奏で、アンダーグラフの今を刻む。今この瞬間を捉え、今伝えたい言葉を伝える。それがひとつとなり『呼吸する時間』となって届けられる。また素晴らしい作品が産声を上げた。 いつまで経っても初心を忘れずに進化し続ける彼らの新たな一歩を踏み出した今作について、ボーカルの真戸原直人にお話を伺った。(interview:やまだともこ)
ロンドンのレコーディングで得たもの
──2007年は曲ができないという時期を乗り越えたり、シングルを2枚リリースしたり、ロンドンレコーディングに行かれたり、激動の1年だったように見えましたが、真戸原さんとしてはどんな1年でした?
真戸原:僕ら的にはデビューしてから、音楽をやらせてもらえる時間が一番長くて、すごく充実していましたよ。今までも時間はあったと思うんですけど、その隙間を見つけられなかったんです。昨年1年はようやくミュージシャンらしく時間を使えたかなって思います。曲を作ってアレンジしてレコーディングしてっていう。
──落ち着いて時間を使えるようになったという感じですか?
真戸原:インディーのころは上手くできていましたけど、メジャーになってからやらなければいけないことが加わってきて、僕らがどこの位置にいったら良いのかわからなくなってしまったんです。やっと自分たちで車輪を回せるようになったかな。
──前回のシングル『セカンドファンタジー』の時に曲ができない時期があったとおっしゃってましたけど、目まぐるしく進む日常との関係はあるんですか?
真戸原:曲を書いたり音を鳴らしたり発信し続けていないと、僕たち何にもできないなっていう話になったんです。それは、曲ができなかった時期があったから気づけたんですよ。
──できなかった時期はどうやって自分を奮い立たせたんですか?
真戸原:コレっていうのがないんです。時間が解決してくれたというか、少しずつ書けるようになったんです。それまでは、今までのアンダーグラフというのも考えて、過去のものに対して次の1曲と思ったんですけど、それは置いといて今からどうしようってって考えていたら書けるようになったんです。
──だからタイトルに“セカンド”が付くんですかね。
真戸原:そうですね。そういう気持ちでした。
──5月にリリースされた『また帰るから』は以前作っていた曲をレコーディングしたそうですが…。
真戸原:レコーディングしてみようって話になったのが2007年の最初で、そこからスタートしたんです。そのレコーディングが終わってからどんどん曲が書けるようになって。2月には『ピース・アンテナ』とか『ヒューマンフラワー』をレコーディングしてました。
──1年かけて『呼吸する時間』に入っている曲をレコーディングされていたんですね。
真戸原:全部そうですね。
──6月にはロンドンレコーディングに行かれましたけど、ロンドンに行って自分の音楽的な価値観は変わりました?
真戸原:一番変わったのはライブですね。最初は向こうでライブをやるなら英語で歌った方がいいのかなって考えましたけど、向こうの人に聞いたら「そういうことはしなくていいんじゃないの?」って。それで日本語でライブしたんですけど。これまでは言葉を伝えよう、歌詞を伝えようっていうことを第一に考えてステージに立ってたんですけど、イギリスでは当然それが通じないので、パフォーマンスや音が持ってるそのものの力で勝負することしかできなかったんです。
──視覚的なモノとか。
真戸原:耳で感じるモノとか。そのへんは日本に帰ってきてからのライブに活かされてると思います。
──海外でのライブはお客さんの心を掴んだ手応えはありました?
真戸原:どこまで掴めたかはわからないですけど、日本では感動を共有する感覚で手応えを感じることが多いんです。でも向こうでは言葉が通じないですから、一体化しようとか楽しもうっていうところに重点を置いてやったので、それは伝わったと思いますよ。みんな踊ってたし、笑顔だったし。
──ロンドンに行ったからなのか、アルバムの詞を読んでいると、歌詞が今までに比べて歌われるスケールが大きくなったような気がしたんです。海外に行った経験が生かされていると考えてよいですか?
真戸原:『ハイスピードカルチャー』(M-1)はロンドンから帰ってきてすぐに日本で書いた曲なんですけど、イギリスの人たちが日本をどう思ってるのかなって聞いてみたら、目まぐるしく文化が変わっていくのがすごくいいところだっていう話になったんです。僕からすると、古い建物がいっぱい残ってるロンドンの街並みは、文化を大切にしてて素敵だなって思うんですけど、向こうの人は逆のことを思っていて。時間の流れが早いことや、日本人がどんどん他国の文化を取り入れていくことを羨ましがるんです。そう言われて、日本に帰ってきてから改めて東京の街並みを見ても、でもやっぱり、ほんまにそうかな?って思うところがあって。それでこの曲を書いたんです。
──今おっしゃった“時間の流れ”というところから、ネジを回す音で始まるアルバムになったんですか?
真戸原:それは、最後にアルバムとしてまとめた時に出てきたアイデアで、この曲を作ったときにはそこまで考えてなかったです。今回はアルバムを作ろうと思って曲を作ってなかったので、何も考えずに曲作りをしてレコーディングしてを繰り返して、それで曲が溜まってきたから「アルバムにしよう」「じゃあそうします」って(笑)。だからアルバムタイトルも曲が全部できてから決めました。曲を並べたときに、ふと時計が頭の中に浮かんで。1年間音楽にたっぷり時間を費やせたから“時間”をテーマにしたいと思ったんです。命を吹き込むように音楽をずっと創ってきたから、時間が命を持つような言葉をつけたいなと思って、『呼吸する時間』にしたんです。そしてアルバムの頭と最後にアルバムとして曲をまとめる何かをつけたいなって思って。それがネジの音だったりするんですよ。
日々一生懸命音楽をやって、何かを偶然的に残していければそれが一番幸せ
──『呼吸する時間』は社会風刺的な作風の曲が目立ちますけど、ここまでエッジの立った曲って今まであまりなかったですよね。
真戸原:恋愛のこととかを歌った方が共感を得るしわかりやすいと思いますけど、ステージに立ってせっかく若い人たちに聴いてもらえる音楽をやっているんだから、教科書にも載っていないような「こいつらも疑問を感じながら音楽をやっているんだろうな」っていうようなことをみんなに知って欲しいと思ったんです。
──『楽園エステ』(M-6)に“社会問題でも書きゃ 金儲けできるみたい”っていう皮肉っぽい感じの詞もありましたが…。
真戸原:(笑)皮肉というか、笑えるようなもんをいっぱい入れたかったんです。今までは自分が思っていることを素直に書いていたんですけど、『ハイスピードカルチャー』では、思ってることと全く逆のことを言ったらどうなるのかなって。アメリカで流行っているものを全部取り入れてみよう!って。全然思ってないですけど、言ってみたらちょっと笑けたんです(笑)。『ユビサキから世界を』(2006.6リリース)みたいな直球も僕らのやり方のひとつなんですけど、(PVを撮ってくれた)行定(勲)監督と話したときに「ユーモア感を出したらもっと聴いてくれるよ」って言われて、それを今回やってみたんです。
──今までは背中をポンと押してくれる曲が多かったんですけど、今回は2nd.アルバム『素晴らしき日常』に入っていた『言葉』や『枯れたサイレン』に類する曲が増えた気がするんです。
真戸原:そうですね。テレビや新聞や都会の風景を見て感じた疑問や怒りを書いたものは多いですね。素直になったっていう感じです。見られ方を気にしなくなった。どういう思いがあってどういう意味があってっていうのを聞かれるのを恐れずに、まず書いてみようって。
──なんでも言い放ってみようっていう吹っ切れたポイントは何だったんですか?
真戸原:できなかった時期があったから、言いたい事を言える喜びを感じたんです。言えるんだから言ってしまおうみたいな。
──書けなかった時期は本当に何も浮かんでこないんですか?
真戸原:本当に何も浮かばない(笑)。メロディーも浮かばない。音楽をやってる実感がないんです。不思議な感じでしたね。曲作りはしようとしてたんですけど、いろんなものを考えすぎて…。でも、ライブは決まっていたので、新しいものを生むよりも作ったものを伝えていく作業をしていこうと思っていましたね。
──ステージに立つと見えるものがあって、一歩ずつ進めていたところはあります?
真戸原:それはありますね。自分らが出したものをみんなが聴いてどう楽しんでいるか確認できる場所がライブですから、そこが一番ホッとするというのはありますね。
──今まではずっと先の未来を見ていた感じですけど、最近は今を大事にしながら活動をしているという感じですね。
真戸原:そうですね。極端な話、先を見すぎていたんです。それで、これから5年後10年後どうなるんだろうって考えたら怖くなったんです。あまりにも先を見すぎると前が全く見えなくなって何もできなくなってしまうので、今はそのことはあまり考えすぎないようにしてますね。
──将来なんてわからないですからね。
真戸原:そうなんですよ。僕らに何ができるか。僕ら自身がどんな影響を与えられるか、何を残していけるか、なんて大きなことを考えても、そんなことはわからない。日々一生懸命音楽をやって、何かを偶然的に残していければそれが一番幸せなのかな、と思います。
──『ユビサキから世界を』はすごく未来のことまで歌われてましたけど、今回の曲は“今”なんですよね。
真戸原:そうなんです。今から何ができるかということを考えながら書きましたね。突き詰めていくと“ミュージシャンやってていいんかな”って思うぐらい世の中にはいろんな問題があると思うんですけど、僕らは今のところ音楽っていう手段で何かをするっていうことしかできないんです。
──バンドをやってる人たちってずっとそういう悩みを持ち続けますね。バンドを始めた当初からみんなが抱えている不安なのかなって思いますよ。
真戸原:形は変われど、自分たちがすることって誰かに影響を与えていけると思っているから、責任とか意味合いを考えながらやりたいなって思いますね。
──そういうのを考えすぎて曲が…。
真戸原:そうそう。考え過ぎちゃったんです(笑)。いいバランスでやらないと音楽はできないなって思いますよ。音楽が僕の中でこんなに大きな割合を占めていたんだと改めて気づきました。
──音楽活動をすることは、社会と関わる唯一の接点だという意識はないですか?
真戸原:なかったんですよ、最初は。インディーの頃もそうですけど、歌うのが楽しいし、4人でやってるのが楽しいからそれでいいじゃないかって。でも、知らないところで僕らの音楽を聴いていろんなことを考えたっていうメッセージをもらうと、その人たちとの接点はそこしかないんですよ。そういうものが良い意味でミュージシャンとしての責任を感じさせてくれたんです。アンダーグラフっていうバンド自体は世の中に対して音楽が唯一の接点だと思います。でも、僕個人としてはちょっと違うなと最近思いますね。
焦らずに。時間が解決してくれる
──『呼吸する時間』の話に戻りますけど、このアルバムって前半・後半の2部構成になってるんじゃないかと感じたんですが…。
真戸原:それ、よく言われるんですよ。
──そういう意識はなかったんですか?
真戸原:分けようと思ってはいなかったんですよ。『タイムリープ』(M-7)をどこに置くかっていうのはだいたい決まっていたんです。その曲付近が前後を分けたのかなって思ってますね。実はこの曲、最初は地球のいろんなところで起こっている大きな問題について考えて書き始めたんですけど、書いてる途中でそれよりも身近なところに大切なことがあるなって思ってサビを書いたんです。曲の中で視点が変わるような曲ができたので、それをアルバムの真ん中に置こうかなって。
──ちょうど『楽園エステ』と『タイムリープ』で分かれている感じなんです。前半戦が攻撃的な曲が多くて、後半は今までのアンダーグラフの感じが多いのかなという。
真戸原:1曲目から最後まであっという間に1枚が終わったって思えるアルバムが僕は好きなので、そういうのをイメージして曲順を考えました。退屈させないためにはどう曲を並べたらいいか、かなり悩みましたね。
──ロンドンで作ってきた曲はどれになるんですか?
真戸原:レコーディングは『幸せのカタチ』(M-3)と『春前の灯火』(M-5)。
──向こうで影響を受けて詞を書いたのは?
真戸原:『春前の灯火』の詞はロンドンでだいぶ直しました。『タイムリープ』はロンドンでプリプロをやって、日本に帰ってきてから録りましたね。それと、さっきも言ったように『ハイスピードカルチャー』もロンドンに行ったからできた曲だと思います。ロンドンには3週間しかいなかったので“ロンドンぽさ”をもらうよりも、日本の良さを感じることが多かったと思うんです。僕が思ういいところと、外から見ていいと言われてるところのギャップみたいな。
──イギリスってロックの聖地ですけど、ロックについて考え直してみたりしました?
真戸原:自分自身がロックバンドのボーカリストって思ったことがないんですよ。でも、感慨深いことはありました。大阪の小さな街で友達と趣味でバンドを組んで音楽を始めた僕が…僕はいまだに当時と同じ用紙を使って曲を書いてるんですが、その譜面を、イギリスで、U2やストーンズといった名立たるアーティストを手がけたエンジニアと一緒に見ながら意見を戦わせてる…その瞬間、すごく感動しましたよ。がんばってきてよかったなって(笑)。
──『楽園エステ』には“ロックンロール”っていうフレーズが出てきますけど。
真戸原:ロックっていうカテゴリは自分の中で未だによくわからないんです。何がロックなんだろう。
──私の中で、アンダーグラフはロックンロールっていうカテゴリーにはいなかったので、“ロックンロール”という単語が出てきたことが新鮮だったんです。この曲では“21世紀にロックンロールは無いな”と言われてますけど。
真戸原:ロックバンドってよく言いますけど、そういう人たちに「ロックンロールってどういう意味?」って聞きたかったんです。
──真戸原さんが思うロックンロールバンドってどんなものですか?
真戸原:40歳になっても50歳になっても音楽を続けているのがロックバンドだと思う。
──精神的なロックというところですか?
真戸原:そうですね。メッセージがある音楽っていっぱいあると思いますけど、それをロックとは思わないんです。日本で言ったらフォーク・ブームを作った人たちはロックだと思います。僕は今30歳なんで40歳・50歳になっても何か発信していきたいと思いますね。
──今でもアンダーグラフをカテゴライズするとなんですかね。
真戸原:…バンドマンじゃないですかね(笑)。バンドマンであるってことには自信がある。まだロックミュージシャンではないですね、これからなりたいっていう憧れはありますけど。
──30歳になって音楽に対する向き合い方って変わりました?
真戸原:ここから始まりですからね。若造が何言ってんねんって言われないように、早く年を取りたかったんです。ここから何をするかが人生の中で大事だなって思います。30歳になればふざけたことを言っても楽しいオヤジになれる(笑)。真面目なことを言ったら説得力がある。
──真戸原さん、最近ステージ上の発言がちょっと…(笑)。
真戸原:ちょっと…なんですか(笑)?
──いや、でも前まではステージにしても綺麗にまとまっていたと思うので、いい意味で開けていった感じがしましたよ。お客さんもリラックスしてステージに溶け込んでいけるようになったのかなと。
真戸原:デビューしたばかりの頃ってどう見られるかとか怖かったし、こう思って欲しいっていうのも強かったんです。でも今は、ライブでは言いたいこと言おうと。MCも、今までは“ここで何を言おう”とか考えてたんですけど、それをやめて、その時に思ったことを言えばいいんじゃないかって。
──それが一番伝わりますからね。
真戸原:見に来てくれてる人たちに対しても安心感があるんです。
──頭で考えずに感覚的になっている意識はあります?
真戸原:かもしれないですねー。頭でばかり考えていたんです。でも最近は、どう思われるのかって考えるより、自分がこうしたいからやってみるっていう感じになってきたんです。
──例え伝わらなくても言いたいことを言おうと?
真戸原:今回の(9月の)ツアーはそうでした。10人いて2人にしか伝わらなかったとしても、素直に思ってるんだからいいんじゃないかなって思えるようになったんです。
──今回アルバムにも入っている『セカンドファンタジー』(M-4)がすごく良い曲だと思ったんです。リキッドルームのワンマン(2007.9.27)で初めて聴いて、耳に入ってくる言葉があったかかった。そういう言葉を生み出せるって素敵だなと思ったんです。一言一言が重みがあるんです。
真戸原:言葉が好きなんだろうなって自分でも思います。それを書いて見てもらうのも好きだし、歌うことも好きだし。
──この曲はどういう想いで書いたんですか?
真戸原:まさに自分の置かれた状況をそのまま書いた曲ですね。自分と同じような心境の人がいたとして、その人にこれを言ってあげたら救えるだろうな、自分自身も救われるだろうなっていう曲を書きたかったんです。ライブで歌うときもそういう気持ちで歌ってる。自分が感動した言葉、言ってあげたい言葉を書いた曲です。
──実はここに詰め込みきれなかった言葉ってあります?
真戸原:“焦らずに。時間が解決してくれる”っていうのは今になってわかったので、当時の自分に言ってあげたいですね。
──ということは、やっぱり今回はかなり“時間”というキーワードが出てきたアルバムになりましたね。『呼吸する時間』っていうタイトルもすごく素敵な言葉ですね。
真戸原:実は「〜する時間」という言葉を50個くらい考えたんです。最終的にこのタイトルにした理由のひとつに「日常」というテーマがあって。音楽を作ってレコーディングをしてというのを、ゴハンを食べるのと同じように自然にやっていこうというのが2007年の最初の目標だったので。人間は生きていく上で自然に「呼吸」してますよね。だから『呼吸する時間』はそういう意味でもいい言葉だな、と。
──前のアルバムが『素晴らしき日常』で、「日常」もアンダーグラフのキーワードになっています?
真戸原:僕ら4人でいると、ファミレスで会話してても楽しいし、遊んでいても楽しい。今、日常にメンバーはいるんですけど、音楽を作らないと僕らは実は一緒にいることができない。昨年辺り、なんとなく気づき始めたんです。
ゆったりと時間が流れていたイギリスの音楽業界
──今回のレコーディングはどんなところが大変でした?
真戸原:『ティアラ』(M-12)は友達の結婚式に感動して作った曲なんですけど、これは一番難しかったですね。僕は小さい世界を歌うのが苦手で…って、わかりにくいかもしれないですけど、例えば『セカンドファンタジー』は“大きい”から120%のパワーで歌えば歌の世界を表現できるんです。でも『ティアラ』は60%とか70%ぐらいの力でその歌の世界を求めて行くっていう感じなんです。素直に歌うと全然ダメで何回も録り直して。
──リズムが全面的に前に出る『春前の灯火』は、4人の技術的な演奏が求められたと思いますが…。
真戸原:ロンドンで録ったんですけど、日本よりも確実にストイックにレコーディングをしたんですよ。いいのが1回出たら終わりじゃなくて、いいのを10回ぐらい出さないとOKをくれないっていう感じなので。「いいよ、良い感じ」って言いながら何回も録るんです。
──ということは、ずっとスタジオに籠もってたんですか?
真戸原:そうなんです。だからレコーディング期間を長くもらえるんです。そういうタームでやっているので、それはうらやましかったですね。そのやり方を日本でやろうと思うと時間がかかりすぎて、なかなか許してもらえないところがあるんですけど。
──1日何時間ぐらい入っていたんですか?
真戸原:ドラムだけで初日は2日かかってました。
──滅入ったりしませんでした?
真戸原:谷口(奈穂子 / Dr)は滅入ってましたね(苦笑)。「なんでこんなにやるの? 何回やらせるの?」って(笑)。それがクリスのやり方なんですけどね。時差でもだいぶやられてましたね。ロンドンに着いた次の日からスタジオに入ってたんで。
──イギリスと日本のスタジオ環境で一番大きな違いは何でした?
真戸原:最初にビックリしたのは防音のゆるさですね。防音が全然きっちりしてないのに、気にしないでやってくれって。
──音圧は違います?
真戸原:向こうはラージスピーカーっていうデカいスピーカーでやるんですよ。日本ではあまり使わなくて、誰が使うねんって感じの存在なんですけど、向こうはそれを使って音作りをして。設備的には日本のスタジオの方がいいかもしれないですね。出音を聴いてる限りでは、電圧が違うっていうほどの音はアンプから聴こえなかったので。エンジニア次第なのかな。
──楽しくはできました?
真戸原:ゆっくりな時間が良かったですね。イギリスの音楽業界のタームでやらせてもらったみたいな(笑)。ゆっくりすぎて、僕ら的にはちょっと不安でしたけど。「これで間に合うの?」ってエンジニアにずっと訊いてましたけど、「大丈夫」って。2週間で3曲ですからけっこう時間かけてやってますよね。日本なら10日で3曲なので。
──また向こうで録りたいっていうのは?
真戸原:いろんな環境が揃えば録りたいですよ。音は確実に良かったから。クリスとはもう1回やりたいと思います。でも今度は日本で一緒にやってみたい。どれだけ違うんだろうっていう興味はありますよね。まぁ、今回は2週間のレコーディングだったんで…僕らがロンドンに10年ぐらい住んだら曲が変わっていくかもしれないですけどね。もっとゆったりした曲とかを作りたくなるんだろうなって。僕らが泊まってたところはロンドンの中心街からちょっと離れた町で、広い公園があって、鳩が集まってきて、老夫婦がゆっくり散歩してるようなところで。この空気に似合うような音楽が作ってみたいって思ったりします。
──そこにはDCマダムとかプレイメイト(『楽園エステ』より)もいない感じの?
真戸原:(笑)通りの裏側にはいると思いますけど、その公園にはいませんでした。鳩と老夫婦だけでした。
──この詞は刺激的でしたね。
真戸原:面白いなと思ったんですよ。誰につっこまれることもないかなと思って書いたんですけど。
──中高生のファンが聴いたら気になると思いますよ。
真戸原:書く側も楽しんで書いていたので、聴く人にも楽しんで聴いてもらいたいんです。
──『春前の灯火』っていう言葉遊びも面白いですね。
真戸原:パッと思い浮かんだんです。“風前の灯火”ってあるじゃないですか。 “春前”って言葉を思いついて辞書を調べたら、そんな言葉は載ってなかったんですが、そのまま使っちゃおうって。
──所謂アンダーグラフ節というか、シングルのヒットチューン的な甘く切ない感じは、イギリスで録るものよりも日本のほうが音の肌つやがいいのかなと思いますけどどうですか?
真戸原:イギリスでも環境によると思うんです。ガッツリ作るんであれば充分できますけど、今回は旅先でのレコーディングって感じだったんです。持って行けるものも限られるし、参加してくれるミュージシャンも限られているし。そういうことで言うと、今の環境なら日本のほうがやりやすい。でもミュージシャンとして、いろんなところで録ってみたいっていう気持ちもあるんですけどね。
──向こうのエンジニアさんは、アンダーグラフの音楽に対してどういう感想だったんですか?
真戸原:「イギリスのアーティストと何か違いはありますか?」って聞いたら、メロディーの作り方がこっちの人には考えられないって言ってました。それは嬉しかったです。日本っぽいと思っているのかアジアっぽさと思っているのか、どこまで日本の音楽を理解しているのかわからないですけど、イントロの部分とかギターリフでも「おもしろいね」って感じてくれてるみたいでした。ライブでやった『アカルキミライ』(2006.4リリース『君の声』c/w)とかは向こうではウケがいいというか、オリエンタルな感じは一番僕らに似合う音楽みたいですね。
アンダーグラフというバンドの映像
──今回はプロデューサーには宅見将典さんを迎えられてますが、一緒にやってどうでした?
真戸原:宅見くんは大阪にいた頃からの友達で、すごく才能があるんです。今までは島田(昌典)さんにプロデュースしていただいて、頼りすぎてしまったところがあったんです。だから、今回は自分たちの力でやってみたいと思って、それに協力してくれる人っていうところで探していた時に、たまたまスタジオで宅見くんに会ったんですよ。彼はバンドをやってた人なので、バンド体質なんです。
──音的に変わったっていうのは?
真戸原:今までは生楽器を使っていたんですけど、今回はデジタルなものも取り入れたりしました。
──今までよりもサウンド的に厚くなったというか、濃くなった感じがすごくしましたよ。
真戸原:そうなったことが嬉しいんです。完成度が高い緻密なサウンドはメンバー全員好きで、それが僕らの目指す道だと考えてるんです。今回はそれを追求してましたから。
──アレンジはみんなで考えて?
真戸原:そうですね。
──ギターも響いてましたね。
真戸原:阿佐(亮介 / Gt)は音楽に対してすごく欲があるので、何通りもフレーズを作ってくるんです。最終的に使わないものも出てくるんですけど、やりたいことはやりきってほしいので、まずはいろいろやってみてもらって、後から整理するんです。いるものは使って、いらないものは忘れてもらう(笑)。
──ライブではどうなるんですか?
真戸原:ライブは全く別物なんです。レコーディングでやったことは一度忘れて、4人で一番音圧が出るアレンジを考えていく。すると、どんどん変わっていくんです。
──CDとライブは全然違う音かもしれないと?
真戸原:そうなんです。イメージを壊さないようにってことは考えますけど。曲作りのアレンジの段階では、ライブのことは考えていないですね。
──『呼吸する時間』に続いて、初のビデオクリップ集DVD『アンダーグラフというバンドの映像』がリリースされますけど、映像作品は初めてですよね?
真戸原:そうなんです。これまでに作ったビデオクリップが全部入ってるんですけど、スペシャル映像も収録してて。『また帰るから』は、河瀬(直美)さんに撮影をお願いする前に、自分たちで作ってみたのがあるんです。手持ちの8ミリで撮影したのを中原(一真 / Ba)が編集して。フィルムの使いかたも間違っちゃって、夜用のフィルムを昼に使ったりして、ものすごい明るかったり…それでも何とか完成させたビデオクリップがあって、それも今回収録しました。
──アンダーグラフってバンドを始めた時のワクワクした感じをずっと保ってる感じがしますね。
真戸原:(笑)そうですね。そんな感じです。バンドを始めた当初は4人で全部やってたわけじゃないですか。だから、自分たちでいろいろやってみたかったんです。時間があったら自分たちでHPも作ってみたかったし…ボツになりましたけど(笑)。
──すごくいい雰囲気のバンドですね。
真戸原:普通に焼き肉を食べに行ったり、遊びに行ったり、音楽以外で集まることも多いですからね。
──真戸原さんとしては、2008年はどんな年にしたいですかね。
真戸原:2007年にやってきた曲の作り方ってすごく良かったんです。それは継続してやりたいというか、やれそうな気もしてるし。このアルバムで個人的に言いたいことは言えたので、次どういう曲ができるのか楽しみですね。そういう曲を作りながらマイペースでやれたらいいですね。バンドが精神的に健康であれば(笑)。1年幸せだと思います。2008年もがんばります(笑)!
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