新雪の未踏峰の如く佇む新世紀BEYONDSの新たなる地平
谷口 健(vo)、岡崎善郎(g)、工藤“TEKKIN”哲也(b)、鰰澤亜人(ds)という新たな布陣で11年振りに活動を再開させたあのSHIBUYA-AXでのライヴから早2年、現在の顔触れでは初のフル・アルバムとなる『WEEKEND』を遂に完成させたBEYONDS。新生BEYONDSとしての初音源だったシングル『シルトの岸辺で』は伝説の封印を自ら解き放つ喜びと瑞々しさが凝縮した快作だったが、それ以降の彼らはすぐにアルバムの制作に着手することを敢えてせず、1本1本のライヴを着実に消化しながら自らの立脚点を見つめ直すことに腐心していた。それは現布陣の4人がより4人らしくBEYONDSとして存在するために各人の資質を研ぎ澄ます必要な期間であり、本作『WEEKEND』が過去16年の間に発表されたBEYONDS名義のどの作品とも性質を異にするのはそのためである。脆弱さと表裏一体の獰猛さと甘美なロマンティシズムが渾然一体となって内なるパトスのままに奔流するその作風は、メンバーですら作品の完成型が予測不能だったという新雪の未踏峰の如き境地である。もはや今の彼らにはBEYONDSという名前は相応しくないのかもしれない。だが、敢えてBEYONDSと名乗るがゆえの二律背反が危うさとねじれをもたらし、至極スリリングで面白いのだ。僕はこの新世紀BEYONDSを絶対的に支持する。(interview:椎名宗之)
4人が徹底して意見をぶつけるから面白い
──新生BEYONDSとしての初音源だったシングル『シルトの岸辺で』から1年8ヶ月、アルバム発表に至るまで意外と時間が掛かった印象を受けましたが、これには何か理由があったのですか。
岡崎:アルバムを早く作りたいという思いはみんなあったんだけど、せっかくこの4人が集まっているんだから焦っちゃいけないと思うようになったのが去年なんですよ。各々の個性を出すにはもっと時間が掛かるだろうと思ったんですよね。自信を持って活動を続ける一方で、模索する部分があったというか。去年の今頃はまだ健ちゃんがライヴでギターを弾きながら唄うこともあったけど、マイク1本で唄うスタイルに絞ったんです。それでバンドのひとつのスタイルが固まって、ようやくアルバムの制作に取り掛かる準備が出来た。
谷口:僕がギターを弾いちゃうと、いい意味で善郎と噛み合わない部分があったんですよ。役割分担をきっちり決めればやれないこともないんですけど、1年8ヶ月という期間は僕には決して長いブランクではなくて、むしろちょっと走った感じなんですよね。ギターを置いてヴォーカルだけに専念して、善郎もギター1本だけでどうできるかっていうのを考える必要な時間だったんです。ギターが2人だったら、アルバムが出るまでにもう少し時間が掛かったかもしれない。僕がギターを弾く以上は僕のギターの世界観だけで行かないと駄目な部分があって、これは悪い意味ではなく、BEYONDSの曲とは相容れないのかなと思ったんですよね。
岡崎:それとやっぱり、マイク・スタンド1本で感情的に唄う谷口 健をしっかりと見せるバンドにしたいという思いも個人的には強くあったしね。
──私観になりますけれども、この1年8ヶ月というのは'94年3月に事実上の解散を迎えたBEYONDSと、11年を経て健さんと岡崎さんが再始動させた新生BEYONDSとの整合性を取るための時間という意味合いもあったのかなと思うのですが、如何ですか。
岡崎:まぁ、そういう部分は今も続いているのかもしれないですけどね。ただ、テッキンと亜人君を誘った時点で別バンドでもいいなとも思っていたから、新しいバンドとしてスタートさせたという気持ちと、'94年に一度終わってしまったBEYONDSを見つめ直したいという気持ちとが未だに2つあるんですよ。音としては全く新しいものでいいんじゃないかという気持ちはみんなに共通してあったと思うけど。
──今回発表されるニュー・アルバム『WEEKEND』は、『シルトの岸辺で』とはまた異なる肉体性を帯びた音質というか、音の図太さとエッジが更に際立った作品に仕上がりましたね。
岡崎:うん。『シルトの岸辺で』とは全然違うと思うし、時間が経っている以上はそれだけのものじゃなければ面白くないですよね。
──歌詞に関して言えば、解散前の英詞に重きを置いていた部分と、再始動後の日本語と対峙した部分とが全体的に絶妙なバランスで溶け合っているように思いましたが。
谷口:そこは未だに試行錯誤しているので、歌詞に関しては善郎とよく話し合いましたね。だいぶ日本語の比重が多くなったとは思うんですけど、英語も上手く採り入れられるのは今のBEYONDSの良さだと思いますね。曲作りの段階で、善郎には僕から色々と相談を持ち掛けているんですよ。この曲のメロディに乗るのはやっぱり英語のほうがいいんじゃないか? とか、逆に絶対に日本語じゃないと駄目だという強いこだわりのある歌詞もありますし。
岡崎:極論を言えば、僕としてはどちらでも構わないんですよ。面白いバンド・サウンドにしたいというのがまず第一にあるから。ただ、その前提としてこのBEYONDSの前にやっていた各々のキャリアがある。健ちゃんにはfOULの、僕にはPEALOUTとしての11年間があったわけで、今のBEYONDSを再始動させた時には健ちゃんが日本語で曲作りをしていくんだろうなという気持ちを僕は汲んでいたから。英詞で唄っていたかつてのBEYONDSの格好良さもあるし、それに日本語詞を上手く織り交ぜたらまた新しいものになると思うしね。だから僕の中では英語でも日本語でもフラットな立ち位置なんです。曲が呼んでいる言葉であればそれでいい。そのごちゃ混ぜ加減は、もしかしたら健ちゃんの中ではシンガーとして不本意な部分もあるのかもしれないけど。でも、1曲1曲の中でディスカッションを重ねていったので、やり甲斐が凄くありましたよね。
──ライヴで言うと、締めに必ず『UNLUCKY』や『The World, Changed Into Sunday Afternoon』といった初期の楽曲を持ってくることに忸怩たる思いもぼちぼち芽生えてきたんじゃないですか?
岡崎:いつも「FEDDISH THINGS」で締めるとかね。ライヴの最後に来て“ああ、やっぱりお客さんはこれを待っていたんだな”というのは感じていたし、そういう状況はこちらから断ち切らなくちゃいつまでも続くなとは思っていましたよ。だからこそお客さんを説得させるだけの新しい曲をどんどん作っていかなくちゃいけないと思ったし、誤解を恐れずに言えば、初期の楽曲のテイストだけを求める人にはノー・サンキューでもいいかなと思う部分もあるんですよ。今度の『WEEKEND』はメンバーも違うし、僕の中ではまっさらなファースト・アルバムを作り上げた気持ちに近いものがありますね。互いのキャリアを認め合っているから、この四角形の中で生じるプレッシャーたるや凄まじいものがあるんです。亜人君とテッキンはギターも弾けるし、健ちゃんと僕はドラムやベースにも細かく指示を出す。つまり、1対3という構図が4倍あるわけですよ。「そのギター、ちょっと違うんじゃないですか? こっちのほうがいいと思いますよ!」とか、みんなちょっとしたフレーズでも熱い思いが入るから、自分以外のパートに対するディスカッションはとにかく凄まじかったですね。そこまで激しく言い合いをするバンドはちょっと他にないと思いますよ(笑)。でも、そうやって4人が徹底して意見をぶつけ合えるからこそ凄くスリリングで面白いんです。
瞬間の感情を切り取った全く新しいサウンド
──レコーディングは、健さんとは盟友関係にある吉村秀樹さん(bloodthirsty butchers)の紹介でフリーダム・スタジオのエンジニア、植木清志さんとタッグを組んだんですよね。
谷口:ええ。ヨーちゃんが紹介して下さって、ブッチャーズの最新作のような音にできたらいいなと思って、勇気を振り絞って植木さんにお願いに伺ったんです。
岡崎:とてもやりやすい環境でしたよ。植木さんのセンスと人間性なら任せられるなと思ったし。
谷口:こちらが思っていた以上に深い仕事をしてくれたと思いますよ。大事な音の録り方を熟知されている方でしたね。
岡崎:ちょっと感情に走った演奏をしても、そこを活かして上手く瞬間を切り取ってくれるというかね。普通のエンジニアなら、少し音を外したら「もう一回」となるんですよ。そこを植木さんは「今のは凄くいいテンションだったから残しておきましょう」と言ってくれる。そうやってテイクを積み重ねてアナログ的な手法で音を作っていったから、今っぽい音ではないと思うんです。音やタイミング、音程をずらすことも今は容易にできるけれど、そういうのは極力やめようと。それが結果的に良かったですね。
──リズムを全面に押し出したセッション色の強い「Tekkin #1 (a blue failure)」にはいきなり度肝を抜かれますよね。健さんの歌もラップっぽい感じがあって面喰らいましたよ(笑)。
岡崎:ラップね(笑)。それでもいいかもしれない。この1曲目は大自信作なんですよ。台本もない状態でセッションを始めて、あのまんま録ったんです。所々のギターは若干直したけどヴォーカルは一発録りで、アルバム全体を象徴しているような曲ですね。
谷口:唄い直しをするなと3人と植木さんから言われたんですよ(笑)。
──歌に入る前に健さんが即興で呟く“うかうか氷結”という言葉が個人的に思いきりツボなんですよね(笑)。
岡崎:僕もあれは好きですよ。プレイバックを聴いた時に、なんでこんなにドラムとジャストで入っているんだろうと思いましたから(笑)。みんなこのヴォーカルを活かすだろうなと思いましたよ。
──この曲は解散前でも再始動後でもない、紛れもなく全く新しいBEYONDSサウンドだと言えますね。
岡崎:でしょう? 置き場にも困った曲でしたけど、1曲目しかないだろうと全会一致で決まって。
谷口:うん、もう絶対に“この曲でこんにちは”でしょう(笑)。この曲なら後にどんな曲が来ても驚かないだろうし、後に続く曲も好きになってくれると思いましたから。
岡崎:ベーシックとなるリズム・ギターとドラムとベースは一発録りの音を全部使っているし、そこに足すべき部分は足して、ヴォーカルも唄い直すべき部分は唄い直したんです。曲によっては丸々唄い直しているのもありますけど、そのまま活かしているのも何曲かある。とにかく必要以上に直さなかったから、どの曲も凄く生々しい感じがすると思うんですよ。
谷口:今回は割と、他のメンバーから唄い直して欲しいというリクエストを受けたケースが多かったですね。
岡崎:唄い直したほうがいいのか、活かしたほうがいいのかの意見はみんなに出してもらったし、基本的には全曲ヴォーカルを入れて一発で録ったんですよ。スタジオに全員が揃わない時期も結構あって、たとえば健ちゃんがいない日には“このギター、OK出してくれるかな?”というプレッシャーを感じながら録っていたので、互いがそういう緊張感を与えていたのが好作用したところはありますね。
──「Over Shallow Sludge」は得も言われぬ昂揚感を与えてくれる曲で、アルバムのリード・チューン的な趣きがありますね。
岡崎:昂揚して唄い上げて欲しいと思って作った曲ですからね。今のBEYONDSがあれだけメロディックな旋律のある曲をどうサウンドで打ち出していけばいいのかをよく考え抜いて。イントロのギターは一度聴いたら忘れないフレーズだと思うし、僕は凄く自信があるんですよ。メロディックなものにしてもありきたりなものはもう飽きたというか、今のBEYONDSで新しいことにトライしたかったんです。
──そうした新しい試みは、BEYONDS流のダンス・ナンバーと言える「困惑のプリズム」でも如実に窺えますね。
谷口:あれは僕が弾き語りで唄っていた曲なんですよ。アレンジを善郎と2人で決めたんです。
岡崎:そう、その時はまだ8ビートだったんだよね。アレンジを2人で詰めている時に、スタジオでたまたまレッチリのライヴ・ビデオが流れていて、それを見てファンクっぽいアレンジにしたいと思ったんです。それで跳ねるようなリズムで不協和にギターを弾いてみた。
谷口:亜人君は逆に、跳ねさ加減をなくして叩いていると言っていましたけどね。そういうのも面白いですけど。
──健さんの唄う“somehow”という言葉の後に亜人さんが“ハッ!”と掛け声で応じるのは、居合い抜きのような切迫感がありますね。
谷口:“ハッ!”にするか“ウッ!”にするかだけで2時間ずっと議論していたんですよ(笑)。
岡崎:本当は“ウッ!”にして空気で音を出したかったんだけど、それだと音が録れないので“ハッ!”になったんです(笑)。ちょっと祭りっぽい感じに仕上がりましたね。
プライドを持って困難な現実に立ち向かう
──「periodicals」は、「New Frequency」という曲名ですでにライヴでも披露されていましたよね。
岡崎:「New Frequency」は“新しい周波数”という意味で、新しいBEYONDSを求めて僕が付けた仮タイトルだったんですよ。『シルトの岸辺で』を作っている頃から原曲があった古い曲なんです。
谷口:“periodicals”というのは燃えるゴミのことなんですよ。そのゴミは普段生活していると絶えず出てくるもので、“繰り返し起こること”に対する僕なりの見解なんです。
──メンバー各自が社会情勢や世事に対して一家言あるBEYONDSだけに、現代を象徴する世相の暗部をテーマにした楽曲も幾つか見受けられますね。表参道ヒルズに代表される商業施設の乱立に対して警告を促す「atomic cafe」然り、チェルノブイリ事故の放射能処理で尊い命を落とした人々に捧げた「リクビダートル」然り。
岡崎:4人とも皆、そうやって普段から社会に対して関心を持たずにはいられない気質なんでしょうね。だから、今のBEYONDSなら社会性を帯びた歌詞の曲があっても極々自然なことなんですよ。練習の半分は外に出てよくそんな話をしていて、すぐに2、3時間経っちゃうくらいだから。
谷口:「仮に東京に原発を置いたら、みんなはどう思う?」という話をしたりね。それが「atomic cafe」のモチーフになっているんです。まぁ、自分は本来そんなに俯瞰して洞察するような人間になるはずじゃなかったんですけどね…。でも、そうした僕の資質を善郎がポップに表現しようと意識することで上手くバランスが保てているんだと思います。
──「black september」は、同名のパレスチナの過激派組織と何か関連はありますか。
谷口:スピルバーグ監督の『ミュンヘン』(1972年に起こったミュンヘン・オリンピック事件後のイスラエル総理府諜報特務局「モサド」によるテロ組織「黒い九月」に対する報復を描いた作品)という映画が忘れられないんですよね。これは飛躍した言い方になりますけど、思想で世の中を変えるテロリズムの在り方は、ある意味で究極のロマンであり理想主義なんですよ。多分に破滅的ではありますけどね。だから僕は安易に暴力性を否定できないし、誰にでも暴力性はあると思うんです。暴力性がなくなったら、ルソーの理想郷じゃないですけど一列平等で暮らせて、日銭を稼ぐために働くという卑しい行為をせずに生きていける世の中になるはずで、でもそれは有り得ない。そうである限りはテロリズムを否定しきれないんです。もちろん、弱者に対する一方的な暴力は肯定できませんけどね。
岡崎:テロリズムを起こさなければならない状況に何故陥っているのかを考えることが大事だと思うんですよ。それが議論されないままに世界が動いているので、そこは凄くもどかしいですよね。まぁ、小難しい御託ばかりを並べていますけど、曲自体は凄くポップですから(笑)。
──「a proud man」の歌詞には魯迅の『阿Q正伝』が引き合いに出されていますが、自分を殴ってでもプライドを保って困難な現実に立ち向かう阿Qの姿に自らをなぞらえたのですか。
谷口:己の信念を持ってやっていることを周囲に笑われている阿Qの愚直な姿はもしかしたら僕達自身のことかもしれないし、逆に周囲の人達に対してもっと信念を持って行動してもいいんじゃないかと思える部分もあるんですよね。
──滑稽さの向こうに哀愁が充ち満ちているという点では、風車を巨人と思い込んで突進するドン・キホーテにも相通ずるものがありますね。
谷口:そうですね。中国の文学は示唆に富んだ物語が多くて、僕はこの『阿Q正伝』を読んで泣いてしまったんですよね。身近にいる友達のことが頭に浮かんで。「俺はこんなに凄い小説を書いているのに、芥川賞ひとつも獲れない」と言う友達がいて、僕は“そんな小説、誰も見向きはしないよ”と喉元まで出掛かっているのに、やっぱり言えないんですよ。実際、“こりゃ駄目だな”という小説なんですけどね(笑)。つまり、阿Qが銃殺されるのを傍観する民衆の一人が僕で、彼が阿Qなんですよ。その喩えを彼に伝えたらもの凄く怒りましてね(笑)。
──まぁ、自分達の力量のなさと動員のなさを観客のせいにするバンドも時折見受けられますけどね(笑)。
谷口:BEYONDSはそういうふうにはなりたくないですね。ちゃんと認められたいし、しっかり聴かせたいんですよ。ライヴでお客さんが僕達の音楽を聴いて“つまんないや”と思って帰ったとしたら、僕はそこで頭を抱えて恥ずかしくて恥ずかしくてしょうがなくなるわけです。
岡崎:それは表現者の端くれとして当然の思いですよね。今日のライヴが盛り上がらなかったのは客のせいだなんて考えるのは言語道断ですよ。ただ、みんなで盛り上がって行こうぜというのも、BEYONDSの場合また違うし。
目に見えないものを信じていたい
──「29 nightingales」は本作中最もメロディアスなナンバーですが、29という数字とナイチンゲールの関連性というのは?
谷口:29というのは善郎がずっと尾を引いている数字らしいんですよ。ナイチンゲールは小夜鳴鳥(ツグミ科の灰色がかった色の小鳥)のことで、僕自身は鳥をイメージした曲にしたかったんです。善郎としては鳥を爆撃機になぞらえて、殺したくないのに殺さざるを得ない戦争について疑問符を付けた内容の英語詞にして欲しいと言ってきた。で、ちょっと待ってくれと。鳥というのは僕の中では平和の象徴であって、殺戮の武器のモチーフには絶対にできないと突っぱねたんです。それで色々と考えた挙げ句、ああいう日本語詞になったんですよ。この曲は個人的にも今回のアルバムの中でかなり気に入っているんですよね。
岡崎:日本がアメリカと戦争していた事実を今や知らない大学生がいるというじゃないですか? そうやって第二次世界大戦が風化されていくのもどうかと思って。B-29が日本の空を覆い尽くして、爆弾をひたすら待ち受ける日本人があの時代無数にいた話が僕はどうしても頭から離れないんですよね。健ちゃんが言うように、鳥は平和の象徴で爆撃機とは相反するもので、でも両極だからこそ自分の中で被ってしまうところがあるのかもしれない。
──「人間の証明」は、『The World,〜』に収録されていた「Touch My Life」で描かれていた物語の続編というか、相通ずる世界観があるように感じたのですが。
谷口:…うん、似ていますね。「Touch My Life」は亡くなってしまった僕の弟のことを唄った歌詞なんですよ。「人間の証明」は、僕の心の中では弟とヨーちゃんに捧げた曲なんです。随分前ですけど、ヨーちゃんと角川映画の『人間の証明』の話をしたことがあって、もう二度と取り返すことのできない子供の頃にあった殺伐とした切なさというか…そんなものを歌に込めたかったんです。歌詞にある“逆から強いビーム”というのは、僕が幼少の頃に実際に見たものなんですよ。屋上から偶然見たでっかい隕石みたいなもので、誰に話しても信じてもらえなかった。だから僕は、子供にしか見えない妖精が存在するのを信じているんです。そういう目に見えないものを僕は信じていたいんですよね。
岡崎:タイトルも秀逸だし、歌の後ろで流れているブライアン・イーノみたいなシンセも凄くいいと思う。曲に関して言うと、メドレーみたいな感じで曲が目まぐるしく変わるようにしたくて、どんどんパートを足していったんですよ。1曲の中に5、6曲分の要素があるんだけど、不思議と散らかった印象は受けないでしょう? ただ、これを楽譜にしたらまるで屏風みたいな長さになっちゃったんですけどね(笑)。
──アルバム・タイトルにもなった「weekend」は歌の力を最大限に引き出したシンプルな楽曲で、アルバムの締めに相応しいですね。
谷口:最後のこの曲がそれまでの10曲を包括している存在だと善郎が言っていたんですよ。まさにその通りですね。
岡崎:“weekend”=“週末”というのは物事の“終末”としても捉えることができるし、“安らぎ”として捉えることもできる。ポップで凄くいい言葉だと僕は思ったんですよね。
──“weekend コーラスを是非頼む”という歌詞がありますけど、新生BEYONDSを始める前に各々が属していたバンドのメンバーに向けた内容なのかなと深読みしてしまったんですよね。
谷口:いや、この歌詞の「君」は自分の伴侶であり、大切な人のことですよ。まぁ、“週末”という節目を唄うということは、今までの人生ですれ違って来た人達に対しての思いもあるのかもしれないですね。自分の書くどの歌詞でもそうなんですけど、ラヴ・ソングというのは自分が愛する異性に対してだけではなく、同性の友達に対する思いも重複してしまうんですよ。本当はもっとラヴラヴしい歌を唄いたいくらいなんですけど、どうしても中性的になってしまう。
岡崎:じゃあ、“コーラスを是非頼む”という歌詞の真意は?
谷口:エフェクターのコーラスをガンガンに掛けてくれ、ってことですよ。
岡崎:ウソだぁ(笑)。同じマイクで一緒に唄ってくれってことじゃないの?
谷口:まぁ、この曲はね(笑)。
──健さんが同志である岡崎さんに向けて唄った歌でもある、と(笑)。こうして新しいBEYONDSとして初めてのアルバムが完成して、率直なところどんな思いですか。
谷口:僕としては、今までの生涯で一番怖いアルバムなんですよね。アルバムというか、曲自体がどう受け止められるのかが。
岡崎:うん、僕も今まで手掛けた作品の中で一番未知ですね。懐疑的では決してないんだけど、判らない。ひとつの理想像があってそこに向けて着地したという作品じゃなくて、偶発性や葛藤やいろんな要素が相俟って、気が付いたらここに到達していたという感じだから。
谷口:あるいは到達していないのかもしれない。3年くらい経たないと自分の中で答えが出ない気がしますね。それだけ予想外の作品になったという意味で、否定しているわけじゃないんですよ。
──でも、そうしたメンバー自身ですら未知に感じる部分があるからこそ音楽に対して新鮮さを保ち続けて、また一歩前に進めるわけじゃないですか。
岡崎:うん、今は素直にそう思えますね。意外性があるからこそ面白い。『UNLUCKY』から始まって、今までBEYONDSが発表してきた作品はどれも音楽性が懸け離れたものだと思うんですよ。でも、すべて健ちゃんが唄っていて“BEYONDS”と名乗っている。それはバンドとして理想だと思うんです。いつの時代でも、次の作品がどうなるか皆目見当の付かないバンドで在りたいですからね。
WEEKEND
UK PROJECT UKCD-1122
2,520yen (tax in)
12.05 IN STORES
★amazonで購入する
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01. Tekkin #1 (a blue failure)
02. Over Shallow Sludge
03. periodicals
04. 人間の証明
05. atomic cafe
06. 困惑のプリズム
07 a proud man
08. 29 nightingales
09. リクビダートル
10. black september
11. weekend
Live info.
WEEKEND CD発売記念ライブ
12月14日(金)下北沢SHELTER
OPEN / START:19:00 / 19:30
TICKET:advance-2,500yen (+1DRINK) / door-2,800yen (+1DRINK)
info.:SHELTER 03-3466-7430
1月18日(金)名古屋APOLLO THEATER
OPEN / START:19:00 / 19:30
TICKET:advance-2,500yen (+1DRINK) / door-2,800yen (+1DRINK)
info.:JAILHOUSE 052-936-6041
1月19日(土)大阪 十三FANDANGO
OPEN / START:18:30 / 19:30
TICKET:advance-2,500yen (+1DRINK) / door-2,800yen (+1DRINK)
info.:SMASH WEST 06-6535-5569
BEYONDS official website
http://www.beyonds.jp/