ギター バックナンバー

毛皮のマリーズ ('07年12月号)

毛皮のマリーズ

轟音! 暴動! 衝撃!
ロマンチックでドラマチックなロックンロールに恋狂い!!

古き良きロックンロール・バイブルを解体&再生させたその狂い咲き暴発サウンド、独自のセンスが光るロマンチックかつ直情的な言葉、そして何よりその常軌を逸した疾風怒濤のライヴ・パフォーマンスでいかがわしいロックのギラつきに飢えた全国の悪男悪女を酔狂の坩堝に陥れ続けている毛皮のマリーズ。ソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉、うつみようこ、おとぎ話の有馬和樹といった名うてのバンドメンをゲストに迎えた待望のセカンド・アルバム『マイ・ネーム・イズ・ロマンス』は、偉大なるロックの先人達に対する彼らの深い愛情と憧憬の念が如実に感じられるのと同時に、単なる模倣に留まらない独創的なロックが身を焦がす抑え難い衝動と共に凝縮した一枚だ。この闇雲に迸るエナジー。ロックに淫する並々ならぬ覚悟。風貌は完全に社会不適応者のそれだが、ロックという表現の限りない可能性を信じる彼らの姿勢は至って真摯である。今はまだキワモノ的な認知をされている彼らだが、その双肩にロックの未来が託されているのかもしれない。(interview:椎名宗之)


自分の欲求が向かわない方向には絶対に行かない

──去年の9月に発表したファースト・アルバム『戦争をしよう』は現時点でどう対象化されていますか。

志磨遼平(vo):ドラム(富士山富士夫)が加入して、バンドがゼロから生まれ変わった時に録ってすぐに出した感じですね。

越川和磨(g):バンドの初期衝動的なものが詰まってるよね。

志磨:一番最初は自主制作で8曲入りのCD-Rを1枚出したんですけど、『戦争をしよう』は富士山が入って以降に出来た曲の選りすぐりなんで、その時期までのベストっていうか、シングル・ヒット集みたいな趣きはありますよね、今思えば。どのバンドもファースト・アルバムってそういうものなんだろうけど。

──ファースト・アルバムの制作で培った経験が、本作『マイ・ネーム・イズ・ロマンス』のレコーディングに反映された部分はどんなところですか。

越川:曲自体は志磨が考えてきたものをみんなで練り上げていく感じで、そこから先の音の構築には随分と神経を使いましたね。ファーストはバンドの持ってるダイナミズムや本来ライヴで鳴ってる音が上手く録れなかったんで、今回はもっと生々しい感じでやろうと思ったんですよ。

──『戦争をしよう』もいいアルバムなんだけれども、ライヴを観た後に聴くと何処か喰い足りなさを感じるのは否めないですよね。

志磨:うん、そういうご意見はよく頂いていたので、そりゃ困ったなと(笑)。プレイ自体の問題も当然あるんでしょうけど、もっとシンバルやベースを上手く録ろうとか、マイクをどの辺に当てようかとかの話を今回はかなり詰めたので、ファーストの音のしょぼさはだいぶ改善されたんじゃないかと思います。意外とそういう音決めが好きなタイプなんですよ。一音一音いちいち実験しながら、結構ゆっくりやらせてもらいました。

──だからなのか、サウンドの切迫感はファーストに比べて格段の差ですよね。音の塊がギュッと濃縮されている感じで。

志磨:そうですね、今回は凄く上手く録れたと思うんです。収録曲はすでにライヴではお馴染みの曲が多いし、ファーストが出る頃にはもう2/3くらいは出来てましたからね。ファーストが出た直後やのに、大胆にも全曲新曲のライヴをやったりして(笑)。

──それだけ新曲が次々と出来るのは、バンドの状態がすこぶる良いことの表れなのでは?

越川:まぁ、その全曲新曲ライヴもだいぶ無理矢理でしたけどね(笑)。

志磨:曲作り自体は好きなので、割とポンポン出来るんですよ。出来る時はドババババと10曲、20曲は平気で出来て、その後は半年間くらい一切ギターも触らなかったりするローテーションなんですけど。ただ、せっかく新曲を作っても今までは自主制作でしか出せなかったので、ライヴのたびに2曲入りのシングル・カセットを無謀にも出したりしてたんです。誰もそんなこと期待していないのに(笑)。

──今回のセカンド・アルバムですが、オールディーズ・バット・ゴールディーズな古き良きロックへのオマージュ・ソングが個人的にはツボだったんですよね。「犬ロック」は言うまでもなくエルヴィス・プレスリーの「ハウンド・ドッグ」だし、「ガンマン、生きて帰れ」はT・レックスっぽさがあったり、「センチメントがお好き?」の間奏のギター・ソロはデル・シャノンの「悲しき街角」だったり、「クライベイビー」はブルース・ブラザーズのようなリズムが引用されていたりと、純粋に聴いていて愉しいですよ。どれも教条的ではないのがいいですよね。

志磨:そう言われると嬉しいですね。中学生とかロックに目覚めた頃は、単純に曲の作り方が判らないじゃないですか? だから家にあるコンポでCDをかけながら、いろんな曲の部分部分を足して割ったりするんですよ。そのやり方のまま今に至る感じなんです。

──ロックのスタンダード曲のパーツをハイブリッドに組み合わせるのが作曲の原点であると?

志磨:もはや曲作りと呼んでいいのかどうか(笑)。まぁ、着せ替え人形みたいな感じですよね。

──「MAYBE」に顕著ですけど、極々シンプルな言葉で恋の甘酸っぱさや切なさを体現していますよね。小難しい言い回しを避けて、どの曲も脊髄反射で書いたような平たい歌詞がストレートなサウンドによく馴染んでいると思うんです。

志磨:余り難しくなりすぎるのはイヤですからね。でも、今回のアルバムの曲作りは歌詞でかなり悩んだんですよ。自分独自の歌詞作りのノウハウがあって、それはファーストを作る前に何となく掴めてきたんです。それでバカスカ歌詞が書けるようになったんですけど、そのノウハウとやらが固定のスタイルになってしまって、何を書いても“出たな、必殺技が!”と自分でも思ってしまうようになったんです。

──志磨さんが最初に掴んだ歌詞の手法というのは?

志磨:曲を作る時は鼻モゲラでラジカセを使って録るんですけど、“ベイビー、ユー・キャン・タッチ・ミー!”とか、僕の歌は唄い出しが英語が多いんですよね。最初はまず適当な英語で始まって、その後に全然脈絡のない日本語を付けて恥ずかしくならないようにするっていうか。語呂のいい英語の後にそれを打ち消すマイナスの日本語を付けることで、トータルでプラマイゼロにするんですよ(笑)。「犬ロック」の「好きなタイプは“WILD ONE”/忠犬じゃなくてゴメンよ?(ワン!)」というヘンな韻の踏み方も照れ隠しなんですよね。

──そういう歌詞のユニークさやライヴでの特異な風貌がとかく目を引いてしまいますけど、音楽に対しては至って真剣なんですよね。

志磨:真剣ですよ。こう見えて根が真面目なんです(笑)。

越川:ただ、定期的にスタジオに入ったりはしないんですよ。月に一回入ればいいくらいで。音合わせはもっぱらライヴのリハーサルで、ライヴの最中に曲がだんだん出来上がっていく感じなんです。まぁ、言ってみればレッド・ツェッペリン方式ですね(笑)。

──それは技巧に走らずにロックに向かう純度を磨り減らしたくないという思いがあるからですか。

志磨:自分にとってロックとは何か? みたいな話になってしまうんですけど、僕は自分の欲求原則に基づいてなるべく追求したくなる質なんですよ。16くらいでバンドを始めて、高校を辞めてから今に至るまでずっとそうなんです。自分の欲求が向かわない方向には絶対に行かないで、それで一体何処まで行けるのかに懸けてるんですよ。たまたまロック音楽が好きなもので、それを使って果たして人は何処まで堕落せずに行けるか? っていう課題があるんです(笑)。我慢や妥協をして何かを成し遂げるんやったら、別にロックじゃなくても何でもいいよなぁと思うし。


演奏しなくても面白いことができないとダメ

──そこまでロックに殉ずる覚悟があるならば、逆に毎日スタジオに入りそうなものですけどね(笑)。

志磨:うーん…そうですね(笑)。たとえば誰かのライヴが終わった後に階段のところでビラ撒きしようとか、そういうのがイヤだっていう話です。そういうのとスタジオに定期的に入ってコツコツ練習するのとが同じ部類に入っちゃうんですよ。

──要するに、そういうことはロックじゃないと?

志磨:ええ、そう言っちゃっていいんじゃないでしょうか?(笑)

栗本ヒロコ(b):私も練習は気が向いた時にしかやりたくないですね。テンションが下がることはしたくないです。

志磨:自分達の好きな音楽をたしなむだけの技巧が越川とヒロコにはあって、技巧と呼べるものが何ひとつないドラマーがいるっていうのは凄くバランスがいいんですよ。すべてがちゃんとできてしまうとプレスリーみたいになってしまうので。

──富士山さんは、マリーズに入る前に楽器経験が皆無だったそうで(笑)。

志磨:バンド経験もなかったですからね。でもセンスがあったのか何なのか、ドラムは割とすぐに叩けるようになったんですよ。僕らにはそれくらいで丁度いいんです。判りすぎてないところがいい。富士山の場合は上手い下手の話ですらなくて、スティックを落とすとかペダルが取れるとか、そんな低レベルの話ですから(笑)。

──そういうインチキくさいところも含めて、ロック特有のいかがわしさが匂い立っているのがマリーズの魅力のひとつですよね。

志磨:大上段に構えてるつもりもなく、自分達なりに真面目にやってるつもりなんですけどね。ヘンに潔癖なんですよ。“気が向かねぇからやらねぇぜ、フンッ!”っていうのではなく、“気が向かないからやらないでおこうよ、ね?”みたいな感じなんです(笑)。

──本作にはソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉さん(key)やうつみようこさん(cho)、おとぎ話の有馬和樹さん(cho)といった豪華面子がゲスト参加しているんですよね。

志磨:奥野さんとうつみさんは、ハイロウズのローディーをやっていたQ太郎さんが紹介してくれたんですよ。奥野さんとは一緒にセッションはできなくて、僕らのベーシックを送って、そこにキーボードを乗せてデータを送り返してもらったんです。ようこさんとはちょっとお知り合いになれていたので、「コーラスお願いできませんでしょうか?」と直談判して「ええよ」と男気で快諾して頂いて。ようこさんとのレコーディングは緊張しましたねぇ…。声も凄くパワフルでしたから。有馬君とは、彼が働くライヴハウスで知り合って、僕らのことは知っててくれたみたいなんです。で、初めておとぎ話と対バンした時に僕は彼らのライヴにえらく感動してしまいまして、すぐに楽屋に駆け込んで有馬君の前で土下座して「改めて仲良くして下さい!」ってお願いしたんですよ。歳も同じなので、そこから一気に仲良くなったんです。

──奥野さんとうつみさんがゲスト参加した「シスターマン」は、マリーズ流の壮大なブルース・ロックに仕上がりましたね。

志磨:そうですね。これだけ僕が18くらいの時に書いた昔の曲なんですよ。このアルバムに入れなければ、この先世に出ることはないなと思って入れてみたんです。内容が壮大すぎて、今はもう書けないですよね。若さゆえに背負ったものがありますから。

──新宿二丁目に棲息する人達のことを唄った歌ではないんですか?

志磨:違うんですよ。「シスターマン」っていうのは完全な造語で、世俗と手を切って不自然なくらいに潔癖な人っていうか、よそから見るとちょっと痛いくらいの人をイメージして作った気がしますね。ライヴでやるともっと泥臭い感じになるんですけど、今回はようこさんにゴスペルっぽいコーラスを入れてもらって、奥野さんに教会を思わせるオルガンを入れてもらって、曲の世界観とまさにぴったりの仕上がりになりましたね。

──志磨さんが思い描く50年代のアメリカン・カルチャーというのは、何処にも存在し得ない桃源郷みたいなニュアンスですか。

志磨:そう取ってもらえたら嬉しいです。間にフィルターを挟んで、ひとつ向こうにある感じですね。憧れではあるけど、決して手の届かないものというか。

──今月末にはレッドクロスでワンマンも行なわれますね。ワンマンは初めてですか?

志磨:初ですね。この1年でいろんなバンドと対バンさせてもらって、バンドの在り方や意義を根本から見つめ直さざるを得ない局面が多々あったんです。仮に機材トラブルが起こったとして、電線ひとつなくなったくらいで何もできないんじゃ面白くないんじゃないかっていうか、演奏しなくたって4人で面白いことができないとダメだなと思ったんですよね。そんな試行錯誤の時期を経てライヴへの取り組み方も変わったし、こうして手応えのあるアルバムも作れたし、今年はバンドがだいぶビルド・アップできた気がしてるんです。だから今度の初のワンマンもとことんまでやりたいですね。持ち曲を全部やる勢いで。持ち曲じゃない曲までやる勢いで(笑)。


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12月14日(金)京都 アバンギルド(075-212-1125)
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12月15日(土)難波ROCK RIDER(06-6634-1539)
with:BLUE III/THE HAVENOT'S/etc...

12月16日(日)名古屋CLUB ROCK'N'ROLL(052-262-5150)
with:ワッツーシゾンビ/etc...

12月23日(日)新宿レッドクロス:ワンマンLIVE(03-3202-5320)

毛皮のマリーズ official website
http://kegawa-no-maries.com/pc/index.php

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