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長渕 剛:Rooftop Exclusive Live Report ('07年11月号)

長渕 剛:Rooftop Exclusive Live Report

歌は力なり、音楽には力がある──
歌の持つ無限の可能性を体現した3時間半に及ぶ圧巻のステージ

今年5月、実に4年振りとなるオリジナル・アルバム『Come on Stand up!』を発表した長渕 剛が、全国14ヶ所・全19公演に及ぶアリーナ・ツアーを鋭意断行中だ。ツアーの火蓋が切られた9月7日(金)のさいたまスーパーアリーナ公演から10月23日(火)・24日(水)の両日にわたり行なわれた名古屋市の日本ガイシホール公演まで、のべ12万人にも及ぶ動員をすでに記録している。直径9メートルの円形ステージは四方を観客席で埋め尽くされ、長渕を始め総勢11人のバンド・メンバーが所狭しと動き回る3時間半にも及ぶ怒濤のライヴはまさに圧巻。追加公演として発表された国立代々木競技場 第一体育館でのツアー・ファイナル[12月8日(土)・9日(日)]に向けて、ライヴのヴォルテージとテンション、ステージの精度は高まる一方である。
過去にロフト席亭・平野 悠との対談(2002年7月号)、トリビュート・アルバム『Hey ANIKI!』の特集(2004年5月号)、伝説の桜島オールナイト・ライヴのレポート(2004年11月号)と長渕を追い続けてきた本誌だが、今回は本ツアー5本目に当たる大阪城ホールでのライヴの模様を誌上レポートしてみたい。(文:椎名宗之)


360度どっからでも掛かって来やがれ!

故郷・鹿児島において観る者の土手っ腹にぶっとい深紅の火柱を灯した熱狂のライヴから3日後、16台もの10トン・トラックは楽器と機材と長渕の燃え滾る熱情を載せて大阪港にある南港トラック・ターミナルに辿り着いた。4日後に控えた大阪城ホールでのライヴ本番まで、ツアー・スタッフにとっては束の間の休息である。長渕はこの間、大阪で最高のライヴを披露するために新極真会の盟友・新保 智とギリギリまで肉体と精神を練り上げることに余念がなかったという。

奇しくも長渕の誕生日でもあったツアー初日のさいたまスーパーアリーナではいきなりレッド・ゾーンを振り切るかの如き狂おしい絶叫を轟かせ、北海道の月寒グリーンドームでは3年以内に北の大地を揺るがす驚愕のイヴェント開催を宣言、“My Home Town”である鹿児島アリーナでは「繁栄に押し潰されるな! 豊かさに負けるな!」とばかりに「鹿児島中央STATION」を絶唱した長渕が大阪でどんなライヴを繰り広げるのか。2007年9月29日、午後一で品川駅からのぞみ31号に乗り込んだ僕は、長渕の最新作『Come on Stand up!』をヘッドフォンで大音量で聴きながら逸る気持ちを抑えるのに必死だった。

新大阪駅から足早にJR環状線の大阪城公園駅へ向かうと、すでに大阪城ホールの周辺ではアコースティック・ギターを抱えて思い思いに長渕の歌を唄うファンの姿が至る所にある。その姿を温かい眼差しで別のファンが見守る。長渕に対するファンの深い愛情とファン同士の堅い絆が窺える、他のアーティストにはないアットホームな光景だ。

緑と濠に囲まれた楕円形のホール内に足を踏み込むと、建物のど真ん中に花道が2本設けられた円形のステージが鎮座している。その周囲の全方位を12,000人の観客席が取り囲む。ステージの頭上に目を向けると、巨大スピーカーが四隅に2台ずつ宙吊りになっており、音響スタッフがスピーカーに張り付いている。ステージ下でもスタッフのあくせく動き回る姿が丸見えだ。ステージに裏も表もない、何もかも包み隠さず開けっぴろげに見せてやるぞという長渕の強い意志と、「360度どっからでも掛かって来やがれ!」と言わんばかりの観客に対する挑発とも受け取れる潔いステージの組み方である。このステージが本ツアーにおける長渕の“戦場”なのだ。

ノリが良く、ステージ上のアーティストを煽ることにかけては全国随一である大阪のオーディエンスだけに、開演前から“剛コール”は地鳴りのようにこだまする。歓声はいつしか怒号にも似た呼び声に変わり、場内アナウンスやシーナ・イーストンのBGMにも拍手をもって過剰反応する。開演時間から27分が過ぎた頃、照明が落とされ、観客席にサーチライトが乱反射すると観客の“剛コール”は最高潮に達する。遂に開演の幕が切って落とされるのだ。

ツアー用に特別に編集された映像が5分ほど流れた後、長渕の登場を今か今かと待ち焦がれる観客を色とりどりのサーチライトが照らす。ステージ上方のスクリーンには、まさにこれから円形のステージへ出陣せんとする長渕とバンド・メンバーの姿が映し出される。サングラスをした長渕はカメラに向かって陽気に微笑む。そして入場扉が開き、通路に面した両脇の観客の波を掻き分けるように長渕とバンド・メンバーはステージの下まで一気に走り抜く。円いリングへと駆け上る前にメンバー一人ひとりとハイタッチをして志気を高め、最後に壇上に上がる長渕。軽快にステップを踏みながらステージを一周し、観客を煽る。それを受けて轟く大歓声。いよいよだ。

1曲目は最新アルバムのタイトル・トラック「Come on Stand up!」で、いきなりステージの周りを灼熱の火柱が噴き上がった。タンクトップに柄模様のパンツを身にまとった長渕は、ステージ上のバンド・メンバーの間を縫うようにハンド・マイク一本で自由に動き回る。ドラムスの岡本郭男とキーボードの国吉良一は定位置だが、他のバンド・メンバーは四方八方で躍動感に溢れた熟練のプレイを聴かせる。とにかくのっけから出し惜しみは一切なしだ。全身全霊を懸けて迸る熱情を歌に注ぎ込む。

「Come on Stand up boy! Come on Get up boy!」
一語一句を噛み締めるように長渕が唄う。金や権威があらゆる物事を計る物差しに成り下がったこの浮世を打ち貫くように唄う。どれだけこの社会が腐敗しきっても立ち上がれ、砂を掴んで立ち上がれ、何度でも立ち上がるんだ──。閉塞した現代社会を生き抜く僕達にとって、これ以上の魂の応援歌があるだろうか。そして実に頼もしいことに、この歌に込められたメッセージを着実に受け継いだ12,000人もの同志達が“La-La La-La……”と大合唱しているのだ。このツアーにおいて「Come on Stand up!」を1曲目に据えたことの意義は、2007年の我が祖国の在り方を考えた時に計り知れぬほど大きい。

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決して平坦ではなかった30年間の道程

「ヘイヘイヘイ! 大阪、やって来たぜ! 行くぞ! 行くぞ! 行くぞ! 今日はがっつり最後まで行くぞ!」
「Come on Stand up!」を唄い終え、開口一番長渕が言い放つ。その言葉に観客が大歓声で応えると、「もっと来いや!」と激しく煽る。続く「Fighting Boxer」では、JACKIE、KAZUMI、吉川智子、井島留美から成るコーラス隊も、ステージ下のスタッフまでもがシャドウ・ボクシングに興じる。さらに容赦なく観客を煽るべく、長渕は時折ドラムの真後ろにあるモニターに立って唄う。そのたびにモニターを支えようとスタッフがダッシュしてくる。ステージの周囲に配備されたスタッフの動きまでもがひとつのショウを成す重要な要素として機能しているのだ。常に妥協を許さずプロフェッショナルに徹する長渕のステージにスタッフとして携わるという張り詰めた心持ちに加え、観衆の目にも触れるという誇らしさがステージに好作用をもたらしているのがよく窺える。

「最高だね! 今日は徹底的にやろうね!」
満面の笑みを湛えながらも、筋骨隆々とした長渕の鍛え抜かれた身体が全身すでに汗まみれなのがはっきりと判る。鳴りやまぬ大声援の中アコースティック・ギターを抱えると、こんがりと日焼けした腕の筋が浮き出て流れる汗が照明で光る。ギターを爪弾き、軽い即興演奏の後に披露されたのは「くそったれの人生」。ギターの角田 順と坪井 寛、サクスフォンの昼田洋二、ベースの川嶋一久、そして長渕が列を成して花道を練り歩き、観客を湧かせる。演奏を終えて長渕がギターをスタッフに放り投げて締めるのも粋な演出だ。

情緒豊かなキーボードの旋律が流れる中、長渕が観客に語り掛ける。
「今日、大阪マジで最高だよ! 今までで一番かもわかんないな!」
そう言って再びマイク一本で「月がゆれる」を切々と唄い上げ、失われた故郷の原風景を唄った「鹿児島中央STATION」ではサビのフレーズである“My Home Town”を観客と大合唱。そのたびに場内が激しく揺れる。「俺の大阪は、俺の大阪は、どこへ行くッ!」とオリジナルの歌詞を変えて長渕が絶叫すると、耳をつんざくばかりの凄まじい歓声が場内に乱れ飛んだ。

「ホントに凄いね、今日は! 俺さ、ステージをやって30年になるんだよ。ステージに上がる前はいつも心臓がバクバク言う。30年間ずっと、お前達に恋愛しっぱなしだよ!」
そう、気が付けば長渕 剛は来年でデビューから30周年を迎えることになる。しかし、その道程は決して平坦なものではなかった。

アマチュア時代、“照和”という福岡市・天神のライヴハウスではままならぬ観客動員に日夜悪戦苦闘していた。プロ・デビューの話が舞い込んで薄っぺらのボストン・バックを抱えて上京したものの、旧態然とした音楽業界の体質に違和感を覚えて僅か1年余りで福岡に帰ってきた苦い経験もある。シングル『巡恋歌』で本格デビューを果たした以降も、「時代遅れのフォーク青年」と揶揄されることもあった(長渕がデビューした当時は、ニューミュージックと呼ばれる都会派のポップスが全盛を極めていたのである)。1979年に愛知県知多半島の南端、篠島で行なわれた吉田拓郎のオールナイト・ライヴ“'79 篠島アイランドコンサート”にゲスト出演した際には、血の気の多い観客から「帰れ!」とヤジを飛ばされ、「帰れと言うならお前が帰れ! 俺は帰らんぞ! 俺のファンだって来てるんだ、バカ野郎!」と毅然とした態度で応戦したエピソードもある。今や日本を代表するシンガー・ソングライターとして確固たる地位を築いた長渕だが、一筋縄では行かない音楽的変遷も多々繰り返してきた。こぼれんばかりの光を享受する影では、それ相応の辛酸を舐め、絶えず泥水をすすり続けてきたのである。

だが、長渕には己の存在すべてを表現しきるステージという場が一貫してあった。30年間という長きにわたり、長渕はステージの上で命を削る思いで喉元を振り絞って声を嗄らし、がむしゃらにギターを掻きむしり続けた。生きるか死ぬかの瀬戸際で、愚直なまでに己の音楽に懸け続けてきたのである。それはひとえに人並み以上の負けん気と、自分自身に打ち勝とうとする克己心の賜物なのだろう。

長渕がまだ26歳の頃に発表したバラードの名曲「愛してるのに」を目前で聴きながら思った。どれだけ時代が僕らに雨を降らそうが、自分の信じる道を貫き通せば靄で霞んだ視界は自ずと開けていくのだと。ただし、それには命を投げ出す覚悟ですべてを懸けなければならない。長渕は常に最善を尽くして逆境を乗り越え、事態を好転させてきた。「愛してるのに」を発表した当時は、サード・アルバムの『乾杯』で長渕流フォークを確立した後に自分にしかできないロックを模索し、試行錯誤していた時期だ。それまでに得た地位や名誉やちっぽけな自尊心をかなぐり捨て、自身の音楽性を追求せんと躍起になっていた。

僕が日常的に接するライヴハウスで活躍するバンドマン達にそれほどの覚悟が果たしてあるのか? ──そんなことをふと思った。もちろん彼らは彼らなりに精一杯やっているのだろうが、ライヴでのMCやインタビューでの発言を聞く限り、バンドを続ける意義と真摯に向き合って覚悟を決め込んでいるのかどうか、どうにも心許ない部分は否めない。目上のたんこぶである先輩バンドを蹴落とすくらいの傲慢さがあってもいい。自分の音楽に対する絶対的自信から来るビッグ・マウスがあってもいい。はらわたが煮えくり返る思いはするだろうが、「新宿ロフト? 自分達の目指すところはそんなもんじゃない」くらいのことを言ってのける若いバンドがもっといてもいい。ボブ・ディランの言葉を借りれば“The Time They Are A-Changin'”、時代は刻々と変わっているのだから。今日の敗者は明日の勝者なのだから。明日の長渕 剛は、もしかしたら今日の君自身なのかもしれないのだから。

長渕 剛 長渕 剛 長渕 剛

戦争の無意味さと命の尊さを訴えた「神風特攻隊」

閑話休題。スタッフが手持ちのライトを長渕に当てて神秘的な情景を醸し出した「くちづけ」、長渕のアコースティック・ギター一本のみで情感たっぷりに唄われた「いつかの少年」に続いて披露されたのは、フォーク・シンガー然とした時代の懐かしいナンバー「ひざまくら」だった。言うまでもなく、大いなるどよめきと共に手拍子が巻き起こる。本ツアーのセット・リストに予定調和は一切ない。この「ひざまくら」も、長渕の心の趣くがままの選曲と演奏なのだ。だからこそツアー皆勤賞のファンも飽くことなく新鮮な気持ちで会場に足を運び、スタッフも終始気を抜くことなくピンと張り詰めたスリリングな空気が場内に漂う。

昨年4月に逝去した父・邦治氏に捧げた壮大な鎮魂歌「鶴になった父ちゃん」では不覚にも涙腺が緩んだ。冬の出水平野に降り立つ鶴の群れを見た長渕が父親への感謝と鎮魂の思いを唄ったナンバーだが、長渕の唄い手としての力量を改めて見せ付けられた思いだ。最新作でもアルバムの最後を締め括る重要な曲だったが、本ツアーでもライヴ中盤における骨子の役割を果たしている。

溢れ出た涙を乾かしてくれるかのように「明日へ向かって」、「泣いてチンピラ」とライヴの定番曲が立て続けに唄われる。ギターを置いてステージを縦横無尽に駆け抜け、ペットボトルの水を客席に投げて観客との距離を縮める長渕。「泣いてチンピラ」では最前列の観客の女性をステージに上げてひとしきり踊らせた。アリーナ・クラスの大ホールだろうと収容人数2,000人クラスの中ホールだろうと、ステージと観客を一体化させるその才と芸当はやはり感嘆すべきものがある。「愛して」をキーボードとサクスフォンだけでしっとりと聴かせた後に一転、「桜島」では場内を狂熱の坩堝へといざなう。観客は力強く拳を突き上げ、歌に合わせてハンド・ウェイヴの流麗な波がゆらゆらとうごめく様はただただ壮観だ。

「まだまだ行くぞ! ここは大阪や! 行くぞ! 行くぞ! OK、『勇次』唄いまっせ!」
長渕の数ある代表曲の中でもとりわけ人気の高いナンバーだけに、観客のテンションと場内の熱気は否応にも高まる。“撃鉄が落とされ”の歌詞の後に客席から一斉にクラッカーが鳴らされる光景も20年以上変わらない。

タンバリンを抱えて陽気に「観覧車」を唄い上げ、バンド・メンバーを紹介。ここ数年の長渕のアルバムやライヴにおいて欠くことのできない凄腕の面子であり、ファンにもすでに馴染み深い存在なので歓声も大きい。

「大阪、会えて本当に良かった……。心から感謝します!」
そう言って長渕が深々と頭を下げ、本編最後に披露されたのは「Tomorrow」。「明日を信じて、愛に立ち向かう」と唄われる、深淵なる愛の形を真正面から綴った胸に迫るバラードだ。社会との抗い、自分自身との抗いの末に疲弊した心の混濁を洗い流してくれるかのようなこのラヴ・ソングを唄いきり、「サンキュー、大阪! また会おう!」と言い残して長渕は颯爽とステージを降りた。開演からすでに2時間が経過していた。

もちろんそこで“剛コール”は鳴りやまない。アンコールを求める歓声と怒号と拍手はむしろ増す一方である。
本編終了から10分が経過した頃、バンド・メンバーが再びステージに上がった。長渕不在のままバンドの演奏が始まる。その直後に白いシャツに着替えた長渕が姿を現し、「OK、一緒に唄うぜ!」と「オー、イェイ!」のコール&レスポンス。『Come on Stand up!』の収録曲の中でもとりわけノリの良い「いけ!いけ!GO!GO!」で再び場内を湧かせ、演奏後には腕立てをしてみせる。

その後、長渕がバンド・メンバーをステージ中央に集めて円陣を組み、何やらヒソヒソ話を始めた。「何が起こるんだ?」と彼らの一挙手一投足を凝視する観客。各パートが定位置に戻った後、おもむろにアコースティック・ギターを抱えた長渕は大ヒット曲の「しゃぼん玉」をいきなり独りで唄い始める。不意を衝かれた観客は「待ってました!」とばかりの大合唱だ。歌詞の2番以降はバンドも演奏に加わり、長渕は最後に再びギターをスタッフにブン投げて大合唱の大団円を締め括った。

この日のライヴの白眉は、「練習してないけど唄うよ! なんか唄いたい気分なんだ!」というMCの後に披露された「神風特攻隊」だったのではないか。この時点で本ツアー中初めてライヴ演奏が実現したもので、恐らくスタッフにも事前に知らされてはいなかったのだろう。長渕がアコースティック・ギターでレゲエのリズムを刻み、落雷にも似た怒りに充ち満ちたドラムが激しく連打される。遠くから空襲警報のようなサイレンが聞こえ、スクリーンに映し出されたのは血が滲んだかのような真っ赤な太陽だ。

「神風特攻隊のように、真っすぐな瞳で愛に立ち向かって生け!」
渾身の力を振り絞って発せされる長渕の絶叫に、観客は固唾を呑んで見守る。間奏で長渕は、戦死を前提として体当たり攻撃を実行した日本軍兵士の胸の内を代弁するかのように「なんで人が人を殺し合うんだ!?」と戦争の無意味さと命の尊さをありったけの声で叫んだ。照明が深紅に染まり、場内に水を打ったような静寂が訪れる。

「我々の幸せのためにも、絶対に忘れちゃいけねぇことがある!」
鬼気迫る長渕の言葉の応酬に観客は一様に言葉を失った。かく言う僕もそうだった。目を背けたくなる真実を目の前に突き付けられた時、人は言葉を失うものだ。それでもなお、長渕は「神風特攻隊」を観客一人ひとりと共有しようとする。ステージ上で戦争の非力さを訴えたところで何も変わらない、政治家でもアジテーターでもない一介の音楽家に何ができるんだという向きもあるだろう。だがしかし、一介の音楽家である前に一人の人間であることを常に自覚している長渕は胸を衝く言葉を発せずにはいられないのだ。人間の尊厳を侵すものに対しては断固として“NO!”と叫ぶ。熱き血潮が奔流となって脈打つ限りは、己の生を全うすべく全身全霊を懸けて戦い抜く。そうやってここまで生きてきたし、これからもそうとしか生きられない。そんな男が発する「決して諦めず、ただただ人間を愛し貫いてゆけ!」という言葉に心を動かされない者がいるだろうか。

歌は力なり、音楽には力がある。──長渕 剛が折に触れて口にする言葉である。この日の「神風特攻隊」はその長渕の言葉を身をもって感じた瞬間だった。少なくとも僕は長渕 剛の妙なる音楽の底力に心を突き動かされたのを改めて実感した。気がつくとスクリーンには“黄金の太陽”が映し出されていた。

長渕 剛

だって僕は僕を失うために生きてきたんじゃない

続くキーボードとコーラスのみでイントロが奏でられた「マリア」はゴスペル風のアレンジが施され、オリジナルにはないふくよかなまろみが加味されて新鮮に響いた。長渕の奏でるアコースティック・ギターと歌声にコーラスが有機的に絡み合う演奏は得も言われぬ荘厳さを醸し出し、12,000人の観客の心を優しく包み込んだ。

演奏を終えた長渕とバンド・メンバーは手を結んで万歳のポーズを取り、ステージを後にする。万雷の拍手喝采と激しく交錯する“剛コール”。「まだだ、まだだ、もっとやってくれ!」と言わんばかりに盛んに鳴り響く観客の大歓声に応え、すぐに長渕独りがステージに舞い戻ってきた。腕組みをして無言で腕時計を指さしながら、ステージの全方位をしっかりと見据える長渕。

「まだ唄うの? まだ唄うのかい!? よーっしゃ!」
アコースティック・ギターをスタッフから受け取り、ハーモニカ・ホルダーを首に掛けると再び地鳴りの如く湧き起こる歓呼の声。

ダブル・アンコール曲としてこの日のライヴの最後の最後を締め括ったのは、初期の傑作と名高いセカンド・アルバムのタイトル曲でもある「逆流」。シンプルで力強く、紛うことなき名演だった。

「優しさを敵に回してでも生きてる証が欲しかった」
「だって僕は僕を失うために生きてきたんじゃない」
何度聴いてきたか判らない血肉化したフレーズが改めて身に沁みる。28年前の歌なのに、世知辛い現代社会を生き抜く上での道標として今なおその輝きを放ち続けているのを痛感する。そして「死んでしまうより、生き抜く力がもっと欲しい」と唄われる1曲目の「Come on Stand up!」と世界観が一貫していることに気づく。その意味でも、3時間半に及ぶ白熱のステージの最後を飾るのに「逆流」ほど相応しい曲はなかっただろう。長渕にはかつて『Never Change』と題された楽曲とアルバムがあったけれども、その姿勢は30年にわたりまさに不変なのである。

渾身。圧巻。超絶。迸る熱情。そんなありきたりの言葉ではとても済まされないライヴだった。歌は力なり、音楽には力がある。そのことを身をもって体現できるミュージシャンがこの日本にあとどれだけいるだろうか。その新たな才能が突破すべき登竜門としての役割がライヴハウスにあるならば、それを母体とする音楽誌の編集に携わる人間として自分の成すべき使命はまだまだたくさんある。そう、“一歩前のこの道を行かなければ”。襟を正す気持ちで僕は大阪城ホールを足早に後にした。

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Come on Stand up!

Come on Stand up!

FOR LIFE MUSIC ENTERTAINMENT, INC. FLCF-4182
3,059yen (tax in)
IN STORES NOW
★amazonで購入する
長渕 剛、通算20枚目となるオリジナル・アルバム。本格的にアルバムを手掛けるのは『Keep On Fighting』以来実に4年振りで、レコーディング・エンジニアには『空/SORA』の収録に参加したブライアン・シューブルを迎えて制作された。鹿児島中央駅が西鹿児島駅だった頃のことを回想した「鹿児島中央STATION」、元プロボクサーの戸高秀樹選手への応援歌「Fighting Boxer」、ホワイト・スイス・シェパードの愛犬に捧げた「レオ」、ファンからCD化の要望が強かった「夕焼けの歌」、亡き父への感謝と鎮魂の思いを唄った「鶴になった父ちゃん」など、渾身の全12曲が収められている。

Live info.

2007 TSUYOSHI NAGABUCHI ARENA TOUR
Come on Stand up!

■ 11月9日(金)岡山市総合文化体育館
OPEN 17:30/START 18:30 SS席 ¥10,500(税込)/S席 ¥8,400(税込)
INFORMATION:夢番地岡山 086-231-3531
■ 11月10日(土)岡山市総合文化体育館
OPEN 17:00/START 18:00 SS席 ¥10,500(税込)/S席 ¥8,400(税込)
INFORMATION:夢番地岡山 086-231-3531
■ 11月14日(水)新潟県民会館 大ホール
OPEN 17:30/START 18:30 SS席 ¥10,500(税込)/S席 ¥8,400(税込)
INFORMATION:FOB新潟 025-229-5000
■ 11月19日(月)長野県県民文化会館 大ホール
OPEN 17:30/START 18:30 SS席 ¥10,500(税込)/S席 ¥8,400(税込)
INFORMATION:FOB長野 026-227-5599
■ 11月23日(金)ホットハウス スーパーアリーナ
OPEN 16:00/START 17:00 SS席 ¥10,500(税込)/S席 ¥8,400(税込)
INFORMATION:キョードー東北 022-296-8888

追加特別東京公演
■ 12月8日(土)国立代々木競技場 第一体育館
OPEN 17:00/START 18:00 全席指定 ¥8,400(税込)
INFORMATION:ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999
■ 12月9日(日)国立代々木競技場 第一体育館
OPEN 16:00/START 17:00 全席指定 ¥8,400(税込)
INFORMATION:ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999

長渕 剛 official website:LIVE ON
http://www.nagabuchi.or.jp/

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