ギター バックナンバー

ASPARAGUS('07年10月号)

ASPARAGUS

3ピースのポケット・シンフォニーが奏でる胸を打つメロディの“最高峰”(MONT BLANC)

当時、その圧倒的なヴォリューム感と尋常ではない楽曲のクォリティの高さに誰しもが驚嘆し、万雷の拍手をもって称えられたダブル・アルバム『KAPPA I』『KAPPA II』の発表から早3年半。遂に、遂に、ASPARAGUSが通算4作目となるフル・アルバム『MONT BLANC』〈モンブラン〉を完成させた。
昨年末の山下潤一郎の脱退という思いがけぬピンチを原 直央(ex.SHORT CIRCUIT)の加入によって好機に転じさせた彼らは、歩みを止めることなく志向する至上のメロディを際限なく追い求め、より雄大な眺望が開ける山頂を目指した。常に進化を続ける彼らが頂上を踏み締めるのはまだまだ先になるだろうが、現時点で表現し得る珠玉の楽曲がこの『MONT BLANC』には収められている。
声高な主張を粋としないメンバーは飄々とした語り口で煙に巻くけれども、本作がバンド史上、いや日本のロックの潮流から見ても金字塔的作品であることは疑いの余地がない。原の加入によってバンドは歯切れの良さと逞しさを格段に増し、定評のあるメロディアスかつメランコリックな楽曲の数々はその純度を更に増した。
前作発表から3年半という期間にメンバーが培ったあらゆる経験が滋養となっている本作には、高級万年筆のような気高さも、栗をふんだんに使ったケーキのようなとろける甘さとまろみもある。そして何より、アルプス山脈の最高峰のように雄大なスケールを感じさせ、銀色に輝く嶺のように美しい。(interview:椎名宗之)


いい曲を作っていい演奏をすればそれでいいと思った

──今年の初頭、BEAT CRUSADERSとのスプリット・アルバム『NIGHT ON THE PLANET』を発表する際のインタビューでは、新作に関して「“最後の5分のベタ踏み”の段階、今はちょうどその残り3分を切ったところかな?」なんて話をされていましたけど…。

渡邊 忍(vo, g):かなりベタ踏みしましたねぇ。レコーディングに入る1週間くらい前に何とか曲が出来上がった感じで。

一瀬正和(ds, cho):いや、2日前に最後の1曲が出来たんだよ。だって、1週間を切って最後の4曲を作ったんだから。

渡邊:ああ、そうだったね(笑)。

──確か、6月初旬の3P3Bのメールマガジンで忍さんが「アルバムに向けて曲作りをしてます」と悠長なことを書いていたような気がするんですけど(笑)。

一瀬:7月の頭から1ヶ月弱をレコーディングに充てたんですけど、6月の15日を越えた辺りから、ダーッと本気モードになっていったんですよ。それまで曲は半分くらいはあったけど、忍が(木村)カエラちゃんのツアーに参加したり、バンド本体の活動以外にも色々あったりして。

──前作『KAPPA I』『KAPPA II』は2枚同時リリースという凄まじいヴォリュームで、クォリティも尋常ではなく高かっただけに、それを越える作品作りは相当なプレッシャーがあったんじゃないですか。

一瀬:そういう意識はみんな余りなかったんじゃないですかね。もちろん、バンドとして常に成長していきたいと思ってるから、前のアルバムよりもいいものを作ろうっていうごく当たり前のことは考えていましたけど。単純にいい曲を作って、いい演奏をして形にすればそれでいいでしょ? って思ってましたね。だからそんなに気負いもないし、今回もアルバムのコンセプトはないし。

──本作『MONT BLANC』の発表に至るまでには、オリジナル・ベーシストの山下潤一郎さんがバンドを脱退するという思いがけぬ事態も起こりましたが。

渡邊:そうですね。BEAT CRUSADERSとのスプリット・ツアーが控えてる時に潤君が辞めて、「どうしようか?」って一瀬と話して。で、ちょうどSHORT CIRCUITが解散してたわけですよ。そこで直央に電話して「最近何やってるんだ?」って訊いたら、「テレビばかり見てる」って言うので、だったら出て来いや、と。そういう感じでした(笑)。

──直央さんの他にベーシストの候補はいたんですか。

一瀬:最初から直央の顔が頭に浮かんでましたね。すでにツアーが決まっちゃってるから結構アップアップだったんですけど、直央が快く引き受けてくれて。去年の7月にSHORT CIRCUITが解散して、直央が自分の活動をしていこうとしてるところを邪魔してやろうかと(笑)。でも、直央が何事にも一生懸命やるヤツなのはよく知ってたし、無理なく楽しんでくれると思った。まぁ、俺達は運がいいなと思いましたよね。メジャー的な活動をしてるバンドならともかく、普通、3ピースっていう最小編成のバンドの中でベーシストが交替したら、すぐにはレコーディングなんてできないですから。ラッキーなことに、バンドが固まれたのが凄く早かったんですよ。俺はもうちょっと時間が掛かると思ったんだけど。

──3P3Bレーベルのファンからすると、直央さんが加入したことで、名うての面子が集ったスーパー・バンドっぽい趣きが増したんじゃないかと思いますけど。

原 直央(b, cho):いや、そんなことないと思いますよ。メンバーが替わるっていうのは、ASPARAGUSの場合は1/3がなくなるわけで、バンドにとって凄く大きなことじゃないですか? ファンの立場からすると、後任が誰になろうとそう簡単には受け容れられることじゃないだろうし。

──ASPARAGUSに誘われたのは、直央さんとしては次にやることを模索していた時期だったんですよね。

:ええ。去年の7月以降は漫然と過ごしていて、自分のやりたいことがまだ具体的には見えてなかった頃だったんです。何かやっていればもう少し考えたのかもしれないけど、ASPARAGUSに誘われた時は、とにかくツアーが目前に迫ってましたからね。


原 直央の加入が及ぼしたバンドへの好作用

──勝手知ったる仲だけに、ASPARAGUSの曲にはすぐに馴染めたんじゃないですか。

:曲自体はよく知ってましたからね。ただ、いざ弾いてみるとコード進行が凄く複雑で大変でしたけど(笑)。でも、初めてスタジオに入ってみんなで音を合わせた時は、純粋に凄く楽しかったんですよ。

渡邊:うん、最初から手応えは充分ありましたよ。

一瀬:あと、人が替わるんだからそれはそれで楽しもうっていう意識が忍と俺の中ではありましたね。限られた時間の中で直央が凄く一生懸命ASPARAGUSの曲を覚えてきてくれたから、むしろこっちがプレッシャーだったんですよ。もっとちゃんとやらなきゃな、って思った。だから、直央が入ってバンドが締まりましたよね。それまでは“こんなところでいいだろう”っていう甘えがどこかにあったんだけど、こっちが甘えたら直央に対して失礼だし。リハには何度も入って、集中してやりましたね。毎晩練習して、毎晩一緒にメシを食って。お陰で随分と太りましたけど(笑)。

:自分がベーシストであるという意識がそれまでは余りなかったんですけど、そういう部分の自覚がもっと必要なんだなと最初は思いましたね。曲に対するアプローチもそれまでとは全然違ったし、自分で作った曲を自分で演奏するのとはまた全然違ったし…。

──ベーシストが替わるっていうのは、同じリズム隊としてバンドの屋台骨を支えるドラマーにはとりわけ死活問題だったんじゃないかと思いますが。

一瀬:でも、ASPARAGUSの場合は3人で骨組みを成してるって感じなんですよ。ベースが骨だけじゃダメで、ギターに寄り添ってないといけないし、逆にギターもリズムを支えなくちゃいけなかったりする。骨組みという意味では、ベースもギターも一緒なんです。普通のバンドで言うリズム隊の絡みをそれほど突き詰めてないのかもしれないですね。ドラムのキックとベースが噛み合うようにしたりとか、余りそっちに特化すると、ライヴでのダイナミックスとか生々しさが削がれてしまう気がするんですよ。

──今年の3月にSHIBUYA O-EASTでBEAT CRUSADERSとのライヴを観て、着実にソリッド感が増したプレイと精悍な佇まいに思わず小躍りしたくなったんですよね。直央さんがASPARAGUSに加入したことが間違いなくプラスに作用しているのが実感できて。直央さんは背も高いし、凄く絵になるなとも思ったし。

一瀬:そうですね、無駄にでかいですからね(笑)。

渡邊:直央は水泳をやってたから、肩幅が異常に広いんですよ。朝になるとたまにムクんじゃって、玄関に当たって出られなくなったりしますから(笑)。

一瀬:機材が入口から搬入できなかった荒井 注のカラオケボックスじゃないんだからさ(笑)。

──直央さん加入後初のレコーディングは、先行シングルの「HONESTY」になるんでしたっけ?

渡邊:オリジナル曲でレコーディングしたのは「HONESTY」なんですけど、その前にHUSKING BEEのトリビュート・アルバム(「ロバの口真似」をカヴァー)があったんですよ。

:オリジナルに関しては、曲作りの段階から凄く刺激的だったし、純粋に楽しめましたよ。“大変だな…”っていう意識は余りなかったですね。

渡邊:元々、バンド自体が余りストイックに行く重たい感じでもないから、割と自然に溶け込めたんじゃないですかね。

──でも、新作の曲作りがままならない状況が続くと、バンドの空気は穏やかでも、スタジオの空気は徐々に重たくなっていった気がするんですけど(笑)。

渡邊:まぁ、確かに焦りは感じましたけどね(笑)。

:忍君が作品を作る過程でそういう話はいつも聞いてたし、その部分は自分でもよく判るっていうか(笑)。

渡邊:SHORT CIRCUITだっていつもギリギリだったしね(笑)。

一瀬:忍は凄く大変でしたよね。一番忙しい上に曲を書かなきゃいけなかったわけだから。スタジオに籠もって曲が出来るのを待ってると、忍が「半分出来た!」って俺に聴かせようとして、「やっぱりやめた!」ってもう一度籠もったりしたこともありましたね。その2時間後には、完成させておきながら全部捨てたりとかもあったし。


追い詰められた時に初めて生まれるものもある

──ボツになった曲は結構あったんですか。

渡邊:いや、今回は1曲潰しただけですね。余りにテンパって、どうしようもない曲を1曲だけ書いちゃったんですよ。

一瀬:でも全然悪くない曲だったし、俺はやってみたいと思ったんですけど、忍の中ではナシだったんでしょうね。

渡邊:その曲を一瀬に聴かせた時は凄いショックで、“俺はこんなふざけた曲しか書けないのか…”って思ったら自分にイライラしてきて(笑)。でも、そこで気を取り直して頑張れたから良かったですけどね。

一瀬:そんな状況だったから、俺は「大丈夫?」って遠回しに煽ってやりましたけど(笑)、締切の直前には「曲数が10曲でもいいよ」としか言えなかったですね。それまでに出来上がってた曲が凄く良かったから、「俺はこれだけでも満足だよ」って何度言ったことか(笑)。それくらいのサポートしか俺にはできなかったですね。

渡邊:スタジオの店長にまで「『YES』と『NO』、『HONESTY』も入れて全10曲でいいよ、大丈夫だよ」なんて言われて。「もうお腹一杯だよ」って(笑)。僕も「だよねぇ?」なんて言いながら、心のどこかでは“あと2曲くらい作らないとマズイな”と思ってたんですけどね。ヘンな話、「今ここで20曲書け」と言われたら、多分そこそこのものは書けると思うんですよ。だけどそういうレヴェルじゃなく、自分を含めたこの3人が本当にいいと思える曲だけを書きたかったんです。

──直央さんが加入する前に発表されていた「YES」と「NO」、BEAT CRUSADERSとのスプリット・アルバムに収録されていた「DEAD SONG」、すでにライヴで披露されていた「SILLY THING」や「WITH THE WIND」など、次作の期待を増幅させる秀逸な曲が揃っていたので、『KAPPA』2部作を越える作品が生まれるのはまず間違いないと一ファンとしては思っていましたけどね。

渡邊:言い方は悪いかもしれないけど、シングル曲だけが良くて残りはイマイチ…みたいなアルバムってよくあるじゃないですか? そういうのはイヤだな、と。でも、曲作りの締切は目前に迫っている、と(笑)。ただ、闇雲に時間があればいいっていうものでもないんですよ。結局ダラダラやっちゃうだけだし、時間に追い詰められて初めて出てくるものもありますからね。短い時間の中で集中していい曲を集めた自負はあるので、決して手抜きではないんです。でも、何て言うのかな…今回の曲作り期間はきっと自分では忘れたい事柄だったんだと思いますけど、どうやって作ったかはほとんど忘れましたね(笑)。まぁ、いつも大概そうなんですけど。

一瀬:「I FLY」なんて、Aメロは7時間掛かったよね。

渡邊:そうそう。そういうのもありますよ。

──へぇ。鼻歌の延長で、スーッとメロディが降りてきたかのような淀みないメロディに思えますけど。

渡邊:もちろん、そういうところも結構あるんですけどね。ただ自分としては、一音がちょっと上がってるだけとか、歌詞の一言の部分だけのメロディに凄くこだわったりしたんですよ。でも、そうやって色々頑張った感じを出して聴かせるのは格好悪いじゃないですか? もっと自然に聴けたほうがいいと思うし。自然に聴けつつ、実は結構こだわってる部分もあるっていうバランスがいいかな、と。

──忍さんの曲が上がってくるまで、一瀬さんと直央さんは他の曲のアレンジを詰めたりしていたんですか。

一瀬:いや、ずっとテレビを見てましたよ(笑)。曲がないから、何もやりようがないですからね。

──ドラムやベースのフレーズから曲が生まれたりするようなことは?

一瀬:ないですね、ASPARAGUSの場合は。『KAPPA』の時に、手助けしたいと思ってドラムのリズムだけテープに録って忍に渡したことがあったけど、「絶対使えねぇ」って言われましたから(笑)。やっぱり、ドラムとかベースは歌メロやギターの音があるからフレーズが浮かぶんだと俺は思うし、それがなければ何も始まらないですよね。それだとただのインストにしかならないっていうか、ASPARAGUSは歌のあるバンドですから。

──曲が足りなかった段階で、忍さんが木村カエラさんや小泉今日子さんに提供した曲をセルフカヴァーしてみようという発想はなかったんですか。

渡邊:それは120%なかったですね。単純にキーが高いから、自分では絶対に唄えないだろうし。自分で書いた曲はそのキーが最高だと思ってるし、僕は基本的にそのキーを動かしたくないんですよ。それとやっぱり、その曲はその人のために書いたものだから、自分で唄うっていうのは何か違うんですよね。…なんて言っておきながら、いつかちゃっかり唄ってたりするかもしれないけど(笑)。



レコーディングを通じてやっとバンドになれた

──まぁ、どれだけ曲作りに時間が掛かろうが“忍なら大丈夫!”という絶対的な信頼がお2人にはあったんでしょうし。

一瀬:さすがに、今回はそれもなかったですけどね(笑)。余りにギリギリすぎたんで。ただ、それまで溜まった曲がどれも格好いい曲ばかりだったので、球数にはこだわらなかったんですよ。仮に全8曲でもいいから、その時にある曲を出せればいいと思ってた。今回の収録曲はどれもそうだけど、アコギ1本で唄うだけでもいい曲がすでに揃ってましたからね。でも、締切の直前になって出来た曲が「LITTLE DEVIL」と「BEFORE THE NIGHT」で、特に「BEFORE THE NIGHT」が出来た時は“こいつスゲェな”って素直に思いましたよね。

──「BEFORE THE NIGHT」みたいなスタンダード性の高い曲がそんなギリギリになって出来たとはとても思えませんね。

一瀬:最後っ屁で出した曲がそれだったから、ビックリしましたよね。まぁ、欲を言えば、個人的にはもうちょっと練習する時間が欲しかったですけど(笑)。ギターと歌録りは特に日にちが短くて、かなり大変だったんじゃないかな。

渡邊:歌詞が上がるのもギリだったしね。お察しの通り作業は連チャンで、最初は僕も「余裕だよ!」なんて言ってたんですけど、ギターを弾いてプレイバックを聴きながらうっかり寝てたこともありましたからね(笑)。あと、事前にバンドで音を合わせないでレコーディングした曲も何曲かあるし。

一瀬:もちろん、プリプロはしたんですよ。パソコンに入れてアレンジを考えたりして。ただ、同じ時間軸で歌もありきで一緒にやってない曲もあるんです。だけど、そこはバンドの経験値なのか気心が知れてるからなのか判らないけど、“多分こんな感じになるだろう”っていうイメージがそれぞれにあって、自ずと自分のやるべきことが理解できたんですよ。忍は今回、ベースのラインもドラムのパターンも自分で打ち込んだしっかりしたデモを持って来てたから、その時点でもう曲の全体像が見えてたんです。ドラムに関しては、ドラム・マシーンのほうが巧いから負けないようにやるプレッシャーが大きかったですね(笑)。

渡邊:よく言うよ(笑)。『KAPPA』の時は、そこまで細かいデモは作らなかったんですよね。今回は最初に自分なりの全開で2人に聴かせようと思ったんです。前からそうなんですけど、まずメンバーに聴かせた時に“いい!”と思われたいんですよ。まぁ、言ってみれば主婦みたいなものですよね。

──主婦ですか!?(笑)

渡邊:うん。料理を作って旦那さんに「旨そうだね!」って言われたいし、掃除をしておいて喜ばれるような感覚。それと一緒かな、と(笑)。曲を聴かせる時も、「全然自信ないんだよなぁ…」なんて言いながら、「いいじゃん!」っていうリアクションが欲しいんですよね(笑)。そこで自分がちゃんとした曲を聴かせられれば、2人もそれ以上のものを演奏で返してくるし、いい相乗効果になるんです。前まではギターと歌メロを聴かせて、“何となくこんな感じ”っていう曲の雰囲気だけを伝えてたんですよ。一応、自分の頭の中ではドラムもベースも鳴ってるんですけど、そこはイメージしてもらおうと考えてた。でも、今回はまず自分のイメージを全部出してから2人に+αを委ねてみたんです。そのほうがガッとアガれると思ったし、案の定凄く良くなったんですよね。お互いにみんな全開で行こう、っていう感じで。

──細かいアレンジも、デモの段階でかなり固まっていたんですか。

一瀬:曲によりますね。まっさらの新曲はアレンジがバッチリ固まっていて、もう曲が完成していたんですよ。あとは個々にプレイしてみて、自分なりのフレーズを加えてみるパターンもあったし、勝手に雰囲気の変わったアレンジにした曲もあるし。既発曲は一緒に作ってたのもあるし、そのバランスが偏ってなかったのが良かったと思いますね。

──直央さんが加入して再レコーディングされた「YES」と「NO」、「DEAD SONG」は鋭さがグッと増して、より引き締まった印象を受けますね。

一瀬:全然違いますよね。レコーディングに入る前に、まずツアーを回ったことが作用してるんだと思いますよ。直央が曲に馴染むと同時に、バンドとしての足固めがちゃんとできる期間があったから。直央は色々と大変だったと思うけど。

:ツアーを回ってた時は、どこか実感の伴ってない部分があったのは確かなんです。でも、今の自分自身の実感としては、レコーディングができてやっとひとつのバンドになれたという気持ちが強いですね。


メロディの良さを際立たせるためのハーモニー

──随所に聴かれるコーラス・ワークが凄く贅沢ですよね。ASPARAGUSとSHORT CIRCUITという2大バンドのヴォーカリストが揃っているわけだから。

:でもやっぱり、凄く難しいですよ。今まで唄ってたのは自分の曲だし、やったもん勝ちじゃないけど、唄い方にクセがあってもそれでOKにできるラインがあったんですよね。でも、コーラスに専念するとなると忍君のメロディに沿っていないとダメなわけで、そこには絶対合わせていきたいし、そういう部分ではこれまでと全然違いますから。

──料理で言えば、主役の材料ではなく調味料の役割を果たすことになるわけですからね。忍さんとしては、コーラス・ワークは思い描いていた通りの感じに仕上がったんじゃないですか。

渡邊:そうですね。直央が発するいいキーも大体は判ってるし、僕よりも上のハモを入れるよりは下のハモのほうがいいんだろうなとか、そういうのを直央と話し合って考えたりしましたね。一瀬もコーラスはしてますけど、自分の声でわざとハモらせる所があったりとか、その辺は臨機応変にやって結構いい感じになったと思います。ただ、ハモりは凄く大事だけど、かと言って基本はメロディが良くなきゃダメだと思ってるんですよ。ハモりがあるからいい曲に聴こえるんじゃなくて、軸のメロディが良くて、それに対してのハモりがあって曲がもっと良くなるのが理想なんです。主旋律が良くて、それ以上にするためのハモりっていう感覚ですね。

──通り一遍の話を伺いますけど、アルバム・タイトルの『MONT BLANC』というのは、アルプスの最高峰とバンドの最高峰に位置する作品というのを掛けているんじゃないかと思ったのですが。

渡邊:そういうのは、例によって後付けですね(笑)。『KAPPA』の時と一緒で、完全に音の響きだけで付けました。僕は意味を持たせるのが元々好きじゃないんですよ。ASPARAGUSというバンド名にも特に意味はないんです。でも、何というか…忘れない言葉ってあるじゃないですか? 格好いい言葉って、意外とすぐに忘れちゃうと思うんですよね。それよりも、どこか印象に残る言葉が僕は好きなんです。『KAPPA』だって、一度聞いたら忘れないじゃないですか? 今回もそういうノリで付けたんですよ。『MONT BLANC』もある瞬間にパッと思い付いて、辞書を引いたら“MONT”と“BLANC”の2つの単語に分かれてて洒落てるなと思って、“これだ!”と(笑)。

──『KAPPA』の時みたいに、スタジオに『MONT BLANC』という本が置いてあったわけじゃなく?

渡邊:いや、全然。『MONT BLANC』って、“Francfranc”(フランフラン)みたいですよね。僕は昔、あの雑貨屋さんを“フランク・フランク”って呼んでましたからね(笑)。

──洋菓子のモンブランの甘さと忍さんのヴォーカルの甘さを引っ掛けているのかな? とも思ったんですよね。

渡邊:上手いですね!(笑) まぁ、どう取ってもらっても構わないんですよね。万年筆のモンブランなら高級感があるとか、そこは勝手に考えてもらえれば。

──ジャケットはまた大胆なまでにアルプスの山並みですけど(笑)、真ん中にいるメンバー3人は地図らしきものを広げていますよね。

渡邊:それは僕ら3人じゃなく、全然知らないどこかの外国人なんです(笑)。これは、ジャケットを手掛けてくれた岡田洋介(SLIME BALL/BEEF)のセンスですね。彼はそういう部分に長けてるし、ASPARAGUSのグッズもほとんど彼にお願いしてるんですよ。

──こうしたアートワークを含めて、深い意味を付加することが粋じゃないというバンドのセンスが窺えますけれど。

渡邊:そういうのは後で付いて回ることですからね。こういう取材でも、自分で話しながら“これも完全に後付けだなぁ…”って思うことが多々あるわけですよ。何事も意味は後から付いて来るものだと思ってるから、それでいいと思うんですけどね。仮に、「実はこれだけのメッセージ性に溢れた曲なんです」なんて言ったところで、相手に響かなければ何の意味もないと思うし。それよりは、「事も無げにスラッと曲を作っちゃいました」みたいな言い方のほうがさり気なくて好きなんです。


3年半の間に培ったあらゆる経験が凝縮されたアルバム

──さり気ないと言えば、アルバムも殊更に大仰な曲で大団円を迎えるわけではなく、「I FLY」というさり気ない小品とも呼べる曲で締まるのがスマートでいいですよね。結果として何度でも繰り返し聴ける作品になっているし。

一瀬:それは多分、1曲1曲がおかわりをあげない作り方だからでしょうね。

渡邊:普通ならサビをもう1回やるだろうっていうところをやらないタイプですからね、僕は。きっと、自分が飽きちゃうからそうしちゃうんでしょうけど。

一瀬:『TIGER STYLE』の頃に比べたら、そんなおかわり感も少しは出てきたのかもしれないけど、相変わらずサビを繰り返すことを敢えてしないことが多いし、“もう一度聴いてみないとお腹一杯にならないぞ”みたいな感じでやってますからね。だからこそ何度でも聴けるアルバムになってるんじゃないかな。

──それにしても、これだけ高水準の楽曲が揃ったアルバムを発売日宣言した上でちゃんと完成させるわけだから(笑)、つくづく“最後の5分のベタ踏み”の底力を見た思いがしますね。

渡邊:バンドにとってアルバムを作るっていうのは凄いことで、こうして取材を受けたり、レコ発もあったり、一大イヴェントなわけじゃないですか? だからやっぱり楽しいですよね。辛いのが楽しいっていうか…余り辛いとは思わないからなぁ。眠いとか疲れたとかは確かにあるけど、辛いっていうのとはまた違いますよね。

──辛い状況に追い込まれても、どこか楽しんでいるようなところがいつも忍さんにはありますよね。

渡邊:ちょっとありますよね。本来は半端じゃなくドSなんですけど、どこかにM気質があるんだと思いますね(笑)。この間、関東に台風が直撃した時も、どこか興奮してしまう自分がいたりして。上手く説明できないけど、危険な状況でも何だかワクワクしちゃうんですよね。

──“メロディ・メーカー”渡邊 忍としては、バンドの曲も他人に提供する曲も取り組む姿勢は変わらないですか。

渡邊:全然変わらないですね。あくまでもいい曲を作るという姿勢は全く同じです。ただ今回、カエラちゃんやキョンキョンのプロデュースを手掛けた経験がASPARAGUSに返って来た気はしてますね。一応プロデュースという立場だから、全部の責任が自分に跳ね返るわけですよ。だから、デモもちゃんとしたものを作って臨んだんです。そういう責任感みたいなものが身に付いたんでしょうね。それが今回の作品に活かされて、まずデモをしっかり作って全開でメンバーに聴かせていこうと思ったんです。

──忍さんの課外活動がしっかりとバンドにフィードバックされたということですね。

渡邊:そうですね。課外活動は僕の中では凄く大きな経験でしたね。女性が唄う曲の場合はキーが高めになるし、それはそれでメロディも変わるっていう違いはあるにせよ、同じ感覚でいいものを作ろうと思ってるし、曲を書く時には必ず相手のことを考えますよね。自分のエゴだけじゃなく、相手が気に入ってもらえる曲を書きたいと常に思ってるんです。ASPARAGUSでも、一瀬と直央のことをいつも頭に浮かべて書くんですよ。2人のプレイがもっと活きるように考えながら作ってますから。お互いに「いいよねぇ」って言い合えるような環境を作るという意味では、ASPARAGUSでも誰に対してでもスタンスは一緒なんです。

──そんな話を伺っていると、『KAPPA』2部作から3年半の間に培ったあらゆる経験が、この『MONT BLANC』に凝縮しているという言い方もできそうですね。

渡邊:逆に3年半空いて良かったのかな? と思ってますね。レーベルは待ちくたびれただろうけど(笑)。

一瀬:バンドとして成長できた期間でしたからね。いろんな経験を積んでこの作品に辿り着いた気がします。俺達にとっては『KAPPA』と『MONT BLANC』の間の時間は決して長くなかったし、全く無駄じゃなかったから。まだまだ足りないところは一杯あるけど、3年半分の蓄積を『MONT BLANC』にちゃんと注ぎ込めたと思ってますね。直央にしても、SHORT CIRCUITが解散してからASPARAGUSのベーシストになって、ツアーを回った経験がこのアルバムに詰め込まれてると思うし。もちろん俺もこの3年半で成長できたところが多々あるし、3人それぞれが得たものをいいタイミングでアルバムとして形にできたんじゃないですかね。


【ASPARAGUSの皆さんから素敵なプレゼントがあります!】



MONT BLANC

3P3B Ltd. XQDA-1002/3P3B-53
2,500yen (tax in)
2007.10.10 IN STORES
★amazonで購入する
01. SILLY THING
02. LITTLE DEVIL 
03. JERK 
04. WITH THE WIND 
05. UNREQUITED LOVE 
06. YES 
07. DECOY 
08. DEAD SONG 
09. BEFORE THE NIGHT 
10. HONESTY 
11. NO 
12. I FLY

Live info.

MONT BLANC TOUR
11月10日(土)横浜 F.A.D
11月11日(日)千葉 LIVE SPOT LOOK
11月17日(土)豊橋 LAHAINA
11月18日(日)十三 FANDANGO
11月23日(祝・金)長野 CLUB JUNK BOX
11月24日(土)富山 SOUL POWER
11月25日(日)新潟 CLUB JUNK BOX
12月1日(土)札幌 BESSIE HALL
12月8日(土)宇都宮 HEAVEN'S ROCK VJ-2
12月9日(日)熊谷 HEAVEN'S ROCK VJ-1
12月15日(土)仙台 CLUB JUNK BOX
12月16日(日)盛岡 CLUB CHANGE
1月11日(金)岡山 CRAZY MAMA 2nd Room
1月12日(土)松山 SALONKITTY
1月14日(祝・月)福岡 VIVRE HALL
1月19日(土)沼津 LIVE HOUSE WAVE
1月26日(土)名古屋 APOLLO THEATER
1月27日(日)十三 FANDANGO
2月2日(土)東京 SHIBUYA-AX[TOUR FINAL]

3P3B Ltd. OFFICIAL WEB SITE
http://www.3p3b.co.jp/

posted by Rooftop at 23:00 | TrackBack(0) | バックナンバー

この記事へのトラックバック