オータナティヴっていうのは次の時代の中心になるという意味なんだ──
日本のサブカルチャーを牽引し続けてきた重鎮が新編成のバンドを始動!
“LOW POWERS”としての活動以来、約10年振りにニュー・プロジェクト“THE CHILL”を立ち上げた立花ハジメ。女優の紺野千春(ヴォーカル)、クニ杉本(ベース)、屋敷豪太(ドラム)というメンバーによるTHE CHILLのサウンドは、音響系〜エレクトロを通過した筋金入りのオータナティヴ・ロックに仕上がっていて、立花氏自身も“予想以上の出来”と大満足。このバンドはパーマネントなものであり、「来年の夏のロックフェスを目指す」(!)という発言も。10月にはプラスティックスの再結成ライヴも控えており、今年から来年にかけて“ロック・アーティスト、立花ハジメ”は精力的に活動することになりそうだ。(interview:森 朋之)
自分でも何をやるか判らないから面白い
──“LOW POWERS”がちょうど10年前ですよね。
立花:そうですね。'97年だから。
──で、その10年前には“TAIYO-SUN”があって。ちょうど10年周期で音楽活動が盛んになるっていうのは、単なる偶然ですか?
立花:まぁ、“たまたま”なんだろうけど…。わざわざレコーディングをやって、たくさんのスタッフにも動いてもらってっていうのは大変なことですからね。それだけの価値があるって思わないとやれないんですよ。音楽でもデザインでもそうだけど、周りに好きなものがある時は自分でやる必要もないし。これは自分で作ったほうがいいだろうなって思わないとね。
──そのスパンが10年おきにやって来る、と。
立花:プラスティックスの時は自分が当事者だったから、当然、活動のペースも早かったけどね。毎年のようにアルバムを出して、海外のツアーもどんどんやって。でも、'87年くらいからはヒップホップ、ハウスが出てきて、ニューウェイヴの時代ではなくなった。僕としても何をやっていいか判らなかったし、世の中からの需要もなくなるわけで、だんだんと制作のペースも落ち着いてきちゃったんだよね。ヒップホップにもハウスにも、全然興味がなかったから。
──あ、そうなんですか。
立花:ヒップホップにもハウスにも、それからJ-POPにも全く興味がなくて。'97年くらいにナンバーガールとかイースタンユースとか、新しい日本語のロックが出てきた時は“同じような意識を持ってる人がいるんだな”って思いましたけどね。LOW POWERSをやったのも、そういうことだし。今はまた、状況も違いますよね。さらに10年くらい経って、ニューウェイヴもリヴァイヴァルしてきて。といっても、そのこととTHE CHILLはまた別なんですけど。
──CDの中にも書かれていましたが、ギタリストとして、B-52'sのリッキー・ウィルソンから受け継いだ変則チューニングを用いるっていうのがポイントだった?
立花:うん、あのチューニングを受け継いでるのは、僕しかいないから。10年くらい前までは、どうやってもリッキーっぽくなってたんですよ。それが少しずつ、自分なりに弾きこなせるようになってきて、曲も書けるようになってきて。それを纏めて、バンドというスタイルでやってみようと。
──3弦がなくて、D、A、D、B、Bっていう、凄いチューニングですよね。リッキーとはもともと、どうやって知り合ったんですか?
立花:トーキング・ヘッズとB-52'sが最初に日本に来た時、ポスターとかパンフレットのデザインをやってたんですよ。好きだったから、自分からやらせてくれって言ったんだけど、知り合ったのはその時ですね。その後、プラスティックスがislandからリリースできることになって、その時のマネージメントを彼らと同じ会社が請け負ってくれたんですよ。で、トーキング・ヘッズのセントラルパークのコンサートでオープニング・アクトをやったり、B-52'sとも全米ツアーを一緒に回って。今でも仲がいいけどね、デヴィッド・バーンとかケイトとは。
──チューニングを教わったのも、その頃ですか?
立花:うん。バックステージにギターがいっぱいあったから。でも、さっきも言ったように、あのチューニングはリッキーの発明みたいなものだし、ホントに独特なんですよ。変則チューニングってたくさんあるけど──キース・リチャーズのオープンGとか、ソニックユースのギターの子とか──あれを受け継いでるのは僕だけだし、みんなに教えてあげたほうがリッキーも喜ぶんじゃないかなって。去年から今年にかけて、一気に曲を書き上げて“やっぱり、バンドっていう形態を取るのがいいだろうな”って思った。
──その時点で、バンドのイメージっていうのは固まっていたんですか?
立花:僕がメンバーに曲を伝えて、それをリハスタでやるだけだと、普通のロックになっちゃう。だからまず、豪太(屋敷豪太/ドラム)と邦君(クニ杉本/ベース)と一緒にエレクトロな感じでデモを作って、そこで出来上がったベースラインだったりドラムだったりをコピーする、っていうスタイルがいいなって思ったんですよね。一度エレクトロを通ることで、普通じゃない感じになるっていうか。それをやるためには、まず、上手くなくちゃいけない。あと、そういうセンスを理解できる人じゃないとダメだから。
──バンドとしての方法論が先にあった、と。
立花:それはね、LOW POWERSの時にBuffalo Daughterの大野さんとよく話してたんですよ。「次やるんだったら、こういう方法がいいだろうね」って。それが今回、自分が思った以上に機能したっていうのはあった。曲順、曲間が決まって、マスタリングが終わってから、さらに見違えるように良くなったし。満足してますね。CDもリリースしたし、ライヴもかなりやったし、プロモーションはほとんど終わったし。全部やりきって、気が抜けてます(笑)。
──(笑)歌詞に関してはどうですか? 「私はあなたに所属したい」の“新しいものとは何かわからないもの”というフレーズには、強いメッセージを感じたりもしたのですが…。
立花:ああしろ、こうしろとは一切言ってないけどね。でも、日本語の歌詞でやる、ってことですよね。カヴァー以外は全部日本語だから。大変ですけどね、歌詞は。違うテンションを上げていかないといけないから。まぁ、よく書けたとは思いますよ、今回は。「UP DATE」にしても「私はあなたに所属したい」にしても。自分でも何をやるか判らないから面白いんですよね。
東京のサブカルチャーや音楽を判りやすく輸出していく
──日本語にこだわった理由って、何かありますか?
立花:洋楽を目指してないから。たとえば「ハジメさん、言われなかったら日本人のバンドだって判らないですよ。凄いですね」って言われたとしても、全然嬉しくない。それは褒め言葉ではないから。プラスティックスは洋楽志向だったから、そう言われても嬉しかったかもしれないけど。
──なるほど。
立花:日本語の歌詞、千春ちゃんのヴォーカルを含めて、THE CHILLは邦楽だから。リオのクラブとかロンドンのクラブでこれをかけたら、凄く違和感があると思うんだよね。“ん? 何だこれ?”って。そこですんなり溶け込んでも面白くないし、何も残らないですからね。
──日本発、東京発のカルチャーとして発信したい、ということですか?
立花:それは別にTHE CHILLだけのことではないけどね。ピスト(競技用自転車)だったり、ファッションを含めたサブカルチャーだったり、今は東京が一番面白いって言われてる。それをスタイル化したり、判りやすくプレゼンテーションして輸出しないといけないって思うんですよ。今がチャンスだからね、珍しく。家電とか車は輸出してきたけど、サブカルチャーや音楽を発信したことは今までなかったわけで。……ただ、音楽については、これといったものが何もないと思うけどね。“だからTHE CHILLしかないでしょ”ってことではなくて。
──凄くオータナティヴだし、新しいロックだと思いますけどね。
立花:新しいかどうかは…。大沢(伸一)君が9月にアルバムを出すけど、ああいう音を新しいって言うんだと思うよ、一般的には。今言ってくれたみたいに、(THE CHILLは)オータナティヴなものではあるけど、決して新しくはないと思う。プラスティックもね、世間ではテクノって言われてたけど、あれはオータナティヴだから。僕はその時から、ずっと同じことしかやってないんだよね。オータナティヴっていうのはマイナーってことではなくて、次の時代の中心になるっていう意味だと思ってて。
──はい。
立花:プラスティックスはまさにそうだと思うんですよ。単に聴こえてくる音楽、目に見える格好だけではなくて、どうしてそういう音楽になるのか、どうしてそういう見え方をするのかっていう“考え方”を理解した人が少しはいて、そういう人達がいろんな場所で種を蒔いていった。その一部は渋谷系になり、一部は裏原系になったっていう。そういう意味では、世の中は随分変わったと思いますよ。オータナティヴな人のほうが住みやすいっていう時代も近づいてると思うし。
──ストレスレスな時代なんですね、ハジメさんにとっては。
立花:年のせいもあるかもしれないけどね。若い時は“なんで理解されないんだ!”っていう苛立ちもあったけど、今は充分、自分達がやってきたことが認められてきたと思ってるし。自分も周りの人達──大沢君とか、(藤原)ヒロシとか──も認めてくれてるしね、好き嫌いは別にして。ただ、今までとは違う意味で、“できるだけたくさんの人に聴いてほしい”って思ってるんだよね、今回は。だから、エイベックスと一緒にやってるわけだし。
──オータナティヴに興味がない人にも届けたい、と。
立花:そこで満足しちゃうと“それっぽいところで、それっぽい人に向かって、それっぽいことをやる”っていう、今までと同じことになるから。以前はそれでいいと思ってたんですよ。興味のない人に「すいませんが、聴いてくれませんか?」って言うのって大変だし、気を遣うじゃない? だったら、好きな人だけ聴けばいい、好きな人だけ観ればいい、ってことでいいんじゃないかなって。でも、今回はもうちょっと続けたいんですよ、ライヴとかプロモーションも。音楽をやってる時間って貴重だから、できる限り、やっていたいなっていう気持ちもあるし。
──素晴らしいですね、それは。次の活動に向けた動きもスタートしているんですか? たとえば新しい曲を書いたり…。
立花:うん、やってますよ。レコーディングしていない曲をライヴでやったりしてるし、CDもあと1枚は出そうと思ってて。ライヴもね、いろいろと違ったスタイルでやってみようと思ってるんですよ。豪太、邦君のリズム・セクションではなくて、パーカッションだけにするとか、ヴィオラとかフルート、キーボードを入れるとか。ロック・バンドとはちょっと違う感じになるかもしれないけど。
──音楽的発展の可能性を秘めたプロジェクトということですよね。
立花:そのぶん、プラスティックスはハードコアなロックをやることになると思うけどね。10月29日に一日だけ、プラスティックスを再結成するので。そこでTHE CHILLをやるかどうか判らないですけど。うまくいけば、来年の夏の野外フェスなんかも目指したいんですよね。
──おぉ、ホントですか!
立花:さっき言ったみたいに、予備知識を持ってないお客さんの前でやって、どんな反応が返ってくるか見てみたいし。まぁ、それくらいバンドっていうか、音楽をやろうかなって思ってますよ。
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立花ハジメ OFFICIAL WEB SITE
http://www.trafic.jp/