ギター バックナンバー

Naht('07年8月号)

Naht

6年振りに放たれたディベロップメント集『In The Beta City』
そして紆余曲折を経て辿り着いた“純粋に音楽を楽しむ”境地

すでに各方面から高い評価と称賛を得ている6年振りのフル・アルバム『In The Beta City』を基軸に、純粋に音楽を楽しむ歓びを取り戻し活動再開に至ったNahtへのロング・インタビューをお届けする。USハードコア/オルタナティヴの影響下にあるエモーショナル・ロックの先駆者として独自の音楽性を開拓し、度重なるメンバーの変動、そして活動休止という苦渋の決断を経て発表された『In The Beta City』での躍動感とダイナミズムを増した瑞々しいサウンド。紆余曲折の果てに、まるで無垢なデビュー・アルバムのようにポテンシャルの高い作品を彼らが生み出すことができたのは何故なのか。僕の関心はその一点にあった。その答えは本文を読んで頂ければ判る通り、「今は待ち合わせをしたくない」というSEIKIの言葉にすべてが集約されているように思う。決して遮二無二焦ることなく、穏やかな笑みを湛えながら緩やかに歩を進める彼らの音楽はプリミティヴかつシンプルであり、だからこそ末永く聴き継がれるであろう普遍的な輝きを煌々と放っているのだ。(interview:椎名宗之)


再始動に至るプロセスとテーゼ

──約2年間の休止期間を経て活動を再開しようとした際、“Nahtというバンド名にこだわらなくてもいいんじゃないか?”という話が確かありましたよね。

SEIKI(vo, g, syn):最初は、バンドを一から作り直す感覚でスタジオに入ったんですよ。「Nahtっていう名前じゃなくてもいいんじゃないか?」って一度みんなで話したし、過去に広げたパイにこだわらずに今自分達が楽しめるものを、もう一度作り直そうという視点が大きかったから。

──バンド再開のきっかけは、TSUYOSHIさんが2人に声を掛けたことだったそうですが。

TSUYOSHI(ba, cho, syn):はい。またバンドをやりたいと思ったんですよ、単純に。Nahtを再構築したくて誘ったわけじゃないんです。バンドをやるならこの2人しかいないとパッと頭に思い浮かんだから。みんなが思ってるほど深い意味はないんですよ(笑)。

──TAKAHIROさんはGOD'S GUTSやLess than TVのA&Rとしてお忙しかったと思いますが、TSUYOSHIさんからの連絡を受けて“ぼちぼちかな…”と?

TAKAHIRO(ds, cho):いや、「すぐにスタジオに入ろう」ってTSUYOSHIが言うから、“エッ、入って何やるの?”と思って(笑)。「とりあえずみんなで呑みに行こうよ」って言いましたね。一度止まっていたバンドがまたやる時って、当時ライヴを観てなかったぶんの妄想が過剰に膨らんでたりするじゃないですか? だから“大丈夫か?”って話をして。でも、TSUYOSHIはただ単にスタジオに入って音を出したかっただけなんですよ。で、“過去にとらわれず昔の曲はやらずに、とにかく新しいことをやっていこう”って話がまとまって。

SEIKI:バンドが休止する前のスタジオの作業には、仕事感みたいなものが強くあったんですよ。課題があってそれを消化しなきゃいけないっていうか、凄く前のめりな状態にあった。だから、バンドをもう一回やる時にはもうちょっとレイドバックした感覚というか、ゆっくり焦らずにやりたかった。そんな感じでまた新たにNahtが始まっていった。

──VOLUME DEALERSとの2マンで行った復活ライヴ(2005年1月16日、下北沢SHELTER)は、バンドとしての新たな方向性がまだ練り切れていなかったですよね。違和感を抱いたオーディエンスも少なくなかった気もしますが。

SEIKI:途切れた部分からエクステンドして始めようっていう感覚じゃなくて、全く違う次元でもいいという発想がまずあったんです。曲を整理するとか、こういうタイプの曲を絞ってやっていこうという話は一切してなかった。みんなが各々やりたいものを作っていこうとしていたから。スタジオのジャム・セッションから出来るものでもいいし、これまでやってこれなかったものを実験的にやってみるのもいいと思った。だからあの復活ライヴは、昔の俺達に興味を持って“恐らくこんな感じだろう”とイメージしてライヴに来られた方には少々刺激の強いステージだったかもしれないけど。

──Less than TVからリリースしたライヴ会場限定販売のシングル『Articuration』(2006年8月発表)に収録された「Canal」には、最新作『In The Beta City』にも通じるダンサブルなテイストの萌芽が垣間見られましたよね。

SEIKI:そう思います。頭の片隅で鳴っているサウンドは、常にスクエアで堅いものだったので。うまくそれをみんなに伝えたかった。

──フロア対応とも呼べるようなダンサブルなサウンドが『In The Beta City』における大きな特性のひとつだと思うんですが、そうしたアプローチは、活動休止前に発表されたMOGA THE ¥5とのスプリット・アルバム『Strange Stroke Of Fate』(2002年11月発表)ですでに試みがあったように感じるんですよ。

SEIKI:あのスプリットをリリースした頃は、自分達の音楽性や活動の内容に凄く戸惑いのあった時期なんですよ。スプリットに収めた3曲はそれぞれ個性の違う曲だったけど、自分が一番しっくりきたのはELOのカヴァー「YOURS TRULY, 2095」だった。あの曲に、次に繋がる何かがあるんじゃないかという希望があったんです。

──突飛な発想かもしれませんが、先月号のインタビューで「(活動休止前は)Nahtをオーケストラみたいにする展開を考えていた」というSEIKIさんの発言を聞いて、“世界最小で最高のオーケストラ”という称号を得たELOの音楽性と符号するのを感じたんですよね。

SEIKI:音をひとつ増やしていく方向に当時は喜びを見いだしていたけど、そこは諸刃の剣だった。音をひとつ増やすと、それだけいろんなリスクも背負ってしまうという経験も同時にしたんです。確かに音が賑やかになって華々しくはなるけど、それ自体は楽曲のクォリティを上げることでは決してない。つまり、音を減らしていく勇気も楽曲には大切なんだということ。それを学んだんですよね。ライヴの時はちょっと寂しいけど、それに馴れてしまえばもっとビートが活きてきたり、今まで聴こえてこなかった音がしっかりと聴こえてくる。言うなれば、バイキングより蕎麦のようにシンプルな料理で素材を味わってお腹を満たすような術に活路を見いだしたというか。

──一番多い時で5人編成だったNahtが、試行錯誤の末にこうしてまた3人に戻ったのは自然な流れだったわけですね。

SEIKI:うん。フラットな状態にすることはできたと思ってます。


自分達が楽しめるかどうかがまず第一

──『In The Beta City』における躍動に満ちたグルーヴは、3人でスタジオに入って自然発生的に生まれたものなんですか?

SEIKI:活動を休止する前にも、スタジオでTSUYOSHIがああいうグルーヴのあるフレーズを弾いたことがあって、“こういうのも面白いかもな”と思ってた。TAKAHIROは最後まで4つ打ちみたいなものに抵抗があったみたいだけど。

TAKAHIRO:抵抗っていうか、最初は機械のように叩くのはどうかなと思ってたんですけど、どこかのタイミングで吹っ切れたんですよ。やろうとしてることはそんなに小洒落たものじゃなくてもいいんだなと思って。TSUYOSHIと「サザンオールスターズの『勝手にシンドバッド』だって4つ打ちだよね?」とか話をしていて、そんなもんかな? と(笑)。

TSUYOSHI:『ザ・ベストテン』にサザンが初登場した時の映像(1978年8月31日、場所は新宿LOFT)をテレビで見る機会があって、俺にはジョギパン姿で演奏してるサザンが、上半身裸で「Waiting Room」を演奏してるFUGAZIに見えたんですよ(笑)。素直に恰好良く思えたし、極端なことを言えばサザンもFUGAZIも一緒なんじゃないかと。ジャンルがどうこうじゃなくて、フレーズ単体で恰好良ければそれでいいっていうか。そのフレーズを厳選して曲を作っていけば、バンドに未来があるかなと思って。

SEIKI:劇的に変化したとは俺自身思ってないんですよ。結局同じ人間がやってるわけだし、分母が“Naht”であればいい。

──同時期に新装発売されたファースト・アルバム『Narrow Ways』(オリジナルは1999年7月発表)、トイズ・ファクトリーから発表されたセカンド・アルバム『spelling of my solution』(2000年10月発表)を聴き続けてきた僕の耳でも、『In The Beta City』は紛うことなきNahtの作品だと感じましたよ。音楽至上主義を貫く姿勢は一貫して在ると思いましたし。

TAKAHIRO:俺も『In The Beta City』が完成した時にそう思ったんですよ。もっと違うものになるのかなと思って聴いてみたら、ちゃんとNahtだったっていう。

SEIKI:自分達の資質がそのまま滲み出たものだから。道筋は違えど、辿り着く所は似てると思うんですよね。

──タイトルにある“Beta City”という概念をSEIKIさんに伺いたいのですが。

SEIKI:プロトタイプという意味で、不完全なもの。もしくはこれから先に展望のあるもの。“Beta City”とはその象徴ですね。インターネットの世界がその最たるものだけど、今は不確実なものがあたかも正確なもののように伝えられていく時代ですよね。世界は近未来として存在している一方で、どこかプロトタイプな部分が根強くある。完全・不完全みたいなことを当時よく考えていたんですよ。人間ですらも進化の過程であって、何かのプロトタイプなのかなと思ってみたり。

──Nahtというバンドの在り方にも同じことが言えそうですね。

SEIKI:そうかもしれない。「Nahtはこういうバンドだ」って他人に言い切られたほうが楽な時もあるけど、そういうのはもう背負うのが厭だったし、人間は本来移ろいやすいもので、“移ろいやすくてもいいんじゃないか?”と思えたんですよ。

──移ろいやすさという名のグレー・ゾーンがもっとあってもいいんじゃないか、というような?

SEIKI:当然そこには苦悩もあるし、オピニオン・リーダーに1票を投じる側にいるのを宣言することにもなるんだけど、今はこの自分達のサイズが心地好い。何も代弁していないし、今回の作品を“俺達は俺達の音楽をやる”という宣言と受け取ってもらっても構わない。

──確かに、今のNahtのライヴはまず自分達が存分に楽しむことをファースト・プライオリティにしているのが観ていてよく判ります。その姿勢がダイレクトに『In The Beta City』にパッケージされていますよね。

SEIKI:うん。そう思います。

──それと、デジタル・テクノロジーが随所に小気味良いアクセントとして使われているのが本作の特徴のひとつですね。決して無機質にならずにいいバランスを保っているし、テクノロジーに使われているのではなく、能動的に使いこなしているというか。

SEIKI:前作に比べると、メロディの抑揚とかメロディに委ねていた曲の旨味みたいな部分は少し減っているんですよね。よりグルーヴ感を出そうとしたし、一本調子なところも敢えて作っている。かつてメロディが担っていたフックの部分をエレクトロニクスに委ねたというか。

──「Calvanize Me!」や「Ill Beat Awakes」で使われているコンガのパーカッシヴな味付けもフックなわけですね?

SEIKI:そういうことです。

──でも、まさかSEIKIさんがステージでコンガを叩くとは思わなかったですよ(笑)。

SEIKI:自分でも思ってなかったですよ。できるかどうか判らないけど、まずはやってみようというところから始まった。

──ライヴに臨む姿勢は、やはり活動を再開してから変わってきましたか?

TSUYOSHI:誤解を恐れずに言うと、いい意味で頑張らなくなった。「今日のライヴは頑張ります」って言う人がいるけど、じゃあ頑張らない日もあるのかな? って思う(笑)。俺は普段生活してる感覚でステージに立つように心懸けていて、その姿勢がより意識的になりましたね。ステージに立って全く違う人間になれるわけじゃないので。

TAKAHIRO:前は1本1本のライヴが勝負してる感覚でしたね。ステージに立つ時は「何こっち見てんだよ!」くらいの気持ちで臨んで(笑)。そういうのが今は全くなくなって、ライヴをやるのが凄く楽しみになったんですよ。

SEIKI:逆に言うと、今は俺達の周りの人達やシーンみたいなものに余りコミットしていない状態なのかもしれない。でも、そういうのはもう余り関係なくて、自分達が楽しめるかどうかが第一。それが大前提であって、オーディエンスの過剰な期待にも素直でいられるというか。「よし、俺達に任せておけ!」とは決して言いたくない。

──結成から12年を経て、純粋に音楽を楽しむことを前提にしたアルバムをようやく作り上げることができたとも言えますよね。

SEIKI:嬉しいですね。音からもそういうのが伝わるんだなと思うし、自分達が作ったものに対して純粋な気持ちで享受しているところが俺達にもありますから。



今の自分達なら絶対にいいものが出来る

──前作がJay Robbinsのプロデュースだったのに対して本作はセルフ・プロデュースですが、前作以上のものを作るプレッシャーは相当ありましたか?

SEIKI:俺はなかったですね。プロデューサーがいなくても、今の自分達なら絶対にいいものが出来る自信があったから。

TSUYOSHI:この2人と一緒なら大丈夫、っていう安心感も俺にはあったし。

TAKAHIRO:Nahtは今も昔も、レコーディングに入ると曲がガラッと変わるところがあるんですよ。今までは“どうしよう?”って戸惑うことが多かったんですけど、今回はスタジオで曲が出来上がっていく過程を素直に楽しむことができた。

──レコーディングは短期間に集中して臨んだんですか?

SEIKI:レコーディング期間は実質3週間弱。今回、特に煮詰まることなく作業が進んだのは、エンジニアの大原さんの力量に頼る部分も大きかったんですよ。決して出すぎず、空気を読んでさり気なくアイディアを提示してくれたから、凄くやりやすかった。「Calvanize Me!」のキックでシンセ・ドラムを使っていて、他の曲でも使いたいと思っていたんだけど、「こういうのはアルバムの中の1曲でいいんじゃないですか?」とアドバイスしてくれたり。スタジオに籠もっていると、バンドはまるで小数点を探すような作業になってくるけど、大原さんは常に正数の部分をしっかりと見てくれるから、出来上がりへのいざない方は凄くうまくやってくれたと思う。

──基本的には、SEIKIさんの中である程度形になった曲をスタジオに持ち込む手法だったんですか?

SEIKI:ケース・バイ・ケースですね。ある程度出来ている曲は最初から2人に説明しますけど、「Parallel Lines」みたいに一番最後に飛び込みで出来た曲もあるし。でも、このアルバムはスタジオでのジャム・セッションから出来上がった曲が多いんですよ。曲がシンプルになったぶん、そういうことが成立したんだと思う。複雑な曲にはペンと紙を用意して作り上げていく作業も必要だけど、今回はグルーヴ感やノリを重視したので。

──「Parallel Lines」のようにアルバムのリード・チューンとしても相応しい曲が即興で生まれるなんて、Nahtが今如何にいい状態にあるかの表れじゃないですか。

SEIKI:そうですね。バンドの中で通っている空気感みたいなものがうまく反射したんだと思う。

──楽曲のゴールは敢えて設けずに、TSUYOSHIさんやTAKAHIROさんにのりしろを委ねる部分もあったんですか?

SEIKI:2人で作ったものを聴かせてもらって、そこにギターとメロディを乗せていく作業も結構したし、そういうのも新鮮だった。結局、人が増えれば意思を伝えていく時間もそれだけ必要になるわけだし、今はこの3人だからそんな時間も要らないんですよ。付き合いも長いし、何を考えているのかもよく判るし。

──本作で、リズム隊が主導となって完成した曲というのは?

TSUYOSHI:「Edie! Edie!」はベーシックを俺達で作って、レコーディングの直前くらいにSEIKIさんがちゃんと歌を付けてきて、“へぇ、こうなったんだ…かっけぇ!”と思って(笑)。

SEIKI:「Moving Gravity」もフレーズから出来た曲だよね。これもレコーディング直前に歌を付けた。さっきTSUYOSHIが話してたみたいに、俺も心をフラットに保つことを心懸けていたから、曲作りの段階では余り無理をしなかったんですよ。レコーディング・プランが持ち上がって、8〜9曲くらいの骨組みを出さなきゃと思った時に、いつも自分が陥りがちな過剰な焦りをなるべく無視するようにしたんです。ニュートラルな状態であることに極力努めて。まぁ、平たく言えば変わったんでしょうね。

TSUYOSHI:変な喩え方かもしれないけど、今のNahtは草野球をやってるような感じなんですよ。あくまで趣味なんだけど、ユニフォームは全員でちゃんと揃えてみたり、定期的に試合をやってるみたいなね。俺は敢えて趣味という言葉を使いますけど、趣味じゃないと音楽はできないし、過剰にプレッシャーを背負うつもりは毛頭ない。

──でも、草野球のチームがプロのチームに勝つことも時にありますからね。たけし軍団みたいに(笑)。

TSUYOSHI:そういう感覚でいいのかもしれないですね。好きでやってるからこそ真剣だし、勝てる時もある。

SEIKI:自分の好きなアメリカのインディー・バンドを見ても、自分達が音楽を楽しむことからすべてが始まっている。音楽を長くやり続けていく過程において、音楽がビジネスに置き換わってしまうこともあるだろうし、俺自身の経験もあってそういう世界ももちろん理解できるけど、今のNahtはそういうショービズ的な発想よりもインディー・ライクなほうがいい。今回のリリースにあたってdisk unionを選んだのもその表れで、インディーだけど流通はしっかりと全国まで行き届いているし、Nahtのために“SECRETA TRADES”という新しいレーベルを立ち上げてくれたりもした。そういう部分でのフィット感は凄くある。


前作と対照的なレコーディング環境

──そうした今のバンドのフラットな在り方は、やはり活動休止期間があってこそですよね。

SEIKI:そうですね。目から鱗が落ちたような感覚もちょっとあったし。

──Naht休止中にSEIKIさんが展開したソロ・ミッションにおいて、音楽を奏でる喜びを取り戻したことも大きく作用したんじゃないですか?

SEIKI:うん。あの経験があったからこそ、自分という存在を心の中で支えられた部分は確かにありますね。

──SEIKIさんがソロ・ミッションで試みたテクノロジーの導入が、この『In The Beta City』にも活かされているようにも感じましたけど。

SEIKI:よくそういうふうに言われるんですけど、自分の中では特段意識はしてないんですよ。ソロをNahtの代わりにやってるつもりは一切ないし、一人のプレイヤーとしてその時点でできることをやろうとしただけです。ソロでiPodを使ったのも、iPodを買った時に“これは楽器としても使えるな”と思っただけだし。

──また、本作の収録曲は1曲1曲が非常に簡潔で、良質なショート・ショートを読み繋いでいく感覚がありますね。曲順の流れもよく考え抜いた上で構成されているのが窺えるし。

SEIKI:そこがアルバムを作る上での醍醐味だし、難しいところでもありますね。1曲1曲を磨きすぎて完成度が余りに上がってしまうと、その曲が周辺の曲に及ぼす弊害みたいなものが起こってしまう。そのまま40分というタームを過ごした時に、歪な並びに思われかねない。その40分間は自分達が聴き手の耳を独占できる唯一の時間だから、曲の並び方には慎重でありたいんですよ。曲順はマスタリングの時までずっと悩んでいたし。

──曲順がやっと決まったかと思いきや、最後の10曲目に入る予定だった「Ill Beat Awakes」が6曲目になったり、最後の最後まで変動がありましたよね。

SEIKI:ペンタグラフのような完璧なバランスにしようと思って、悪あがきは最後のギリギリまでしましたね。「Ill Beat Awakes」は今のライヴで一番最後にやることが多くて、昔の俺達で言えば「Real Estate」に当たる曲を敢えてアルバムの最後に持ってこなかったのは、そこで完結させたくなかったからなんですよ。中途半端でもさり気ない終わり方のほうがいいと思えた。自分の好きな海外のアーティストのアルバムにも、“こんな曲で終わるのか?”と感じるものがあるけど、それも敢えてそうしているんだと思う。だから「Ill Beat Awakes」も、最後に締めるよりは真ん中に持ってくることで前後の曲を盛り上げるほうが今作には相応しいと思い直して。

TAKAHIRO:曲順に関しては完全にお任せだったんですけど、確かにやり直したほうが流れは良くなりましたね。「Ill Beat Awakes」を真ん中に置くのも最初はどうかと思ったけど、結果的に並びは完璧だと思いますよ。

TSUYOSHI:今回はレコーディングの日程がギッチリと詰め込まれてなくて、合間、合間に小休止して曲を冷静に聴けたんですけど、それが結構大きかったと思いますね。

SEIKI:前作は海外レコーディングで、ずっとホテルに缶詰だったから。帰国は1日も延長できないという状況下で作った前作とは対照的に、本作は国内でリラックスして録れたし、そんな環境も今回はいい方向に作用したと思う。

TAKAHIRO:そうは言っても、日数は余裕あるのに今回も結構焦っちゃったんですけどね(苦笑)。急いで1日に8曲録ってみたり、それでも何度か録り直してみたり…。

──日程にゆとりがあると、何度もやり直したくなりませんでしたか?

SEIKI:確かにトライすることは選ぶけど、やっぱり最初のテイクがいいんですよ。それはヴォーカルも含めてね。今回、半分くらいは一発目に録った歌を活かしてる。助走期間をしっかりと作り込めていたし、何回もチェックをしてスタジオに挑めたから。

──そういういい意味でラフなスタンスで臨めば、まだまだ前に行けますね、Naht。

SEIKI:ギスギスした感じは全くないし、敢えてレイドバックすることも凄く大事だと気づきましたから。俺達の作る作品は、今まで割と肩肘張ったように見られがちだったんだけど、そういう先入観より今は“一緒に楽しもうよ”っていう感覚のほうが大きい。

──いわゆるEMOの潮流を生んだ先駆者としてNahtを理解したつもりでいるオーディエンスにこそ今のNahtのライヴを観て欲しいし、この『In The Beta City』を聴いて欲しいですよね。

SEIKI:そうですね。


活動休止前の楽曲を封印した理由

──リマスタリングが施され、当時のライヴ映像が特典として付いた上にアートワークも新装された『Narrow Ways』を今聴いて、率直にどう感じますか。まだ客観視できませんか?

SEIKI:いや、逆に凄く客観視しちゃうんですよ。“すげぇな、このバンド”って純粋に思える。心の中ではそれだけ遠い昔のものになっているのかもしれないし、無軌道な若者の乱暴行為だったというか(笑)。もちろん、いいタイミングで再発することができて良かったと思ってますけど。

TAKAHIRO:まぁ、ファーストにしてはちょっとやりすぎちゃってる感じはありますよね。

──リマスタリングに際してバンドが留意した点というのは?

SEIKI:メンバー内で話していたのは、“長く聴いていると疲れるよね?”という印象がまずあって。高音と低音がアンバランスな部分もあったし。

TAKAHIRO:耳に優しくないっていうか、憤ってるじゃないですか? その憤りを消したほうがいいんじゃないか? って。

SEIKI:まぁ、本来は優しくする必要もないんでしょうけどね。ハードコアな音楽として聴ける人も中にはいるんだろうけど、作った本人達が長く聴けない音源というのはちょっと厭だなと思って。そのマイナスだと感じた部分をプラスの方向に補うようなリマスタリングだったんですよね。

TSUYOSHI:聴きやすくしたつもりが余計聴きづらくなった気がしますけど…(笑)。凄くギチギチしてるっていうか。

SEIKI:そうかな? 俺はこのミット感が結構気に入ってるけど。

──特典映像としてエンハンスド仕様で収録されているライヴは、『Narrow Ways』のレコ発ツアー・ファイナル“Learn It From Lone vol.6”(1999年8月21日、下北沢SHELTER)ですけど、今観ても新鮮ですよね。

SEIKI:自宅に50本以上あるテープを引っ張り出して、全部観たんですよ。その中でもこの『Narrow Ways』のレコ発のライヴが個人的に一番思い入れが深かったし、最も輝いてるように見えたんですよね。あの映像を編集している時に、当時のNahtをまるで自分のバンドじゃないかのように客観視してしまった。ヘンな話だけど。

TAKAHIRO:あの映像は俺、恥ずかしくて直視できなかったですね。若すぎるし(笑)。昔の作品を否定する気は更々ないですけどね。

──さっきも話しましたけど、『Narrow Ways』新装盤を聴いた後に『In The Beta City』を聴いてもちゃんと地続きであることがよく判りますね。

SEIKI:リマスタリングも、2作とも同じPeace Music Studioでした。

──でも、ひとまず現時点ではこの『Narrow Ways』の収録曲を含めて活動休止前の楽曲はライヴでは封印、と…。

SEIKI:技術的な面でもマインド的な面でも、今はできないかな。過去に発表してきた作品に対して責任を放棄したということではないですよ。本気でやりたくなったらいつかやると思う。ただ、「A Couple Days」での絶叫とか、今の自分にはやれない。やったら立ち直れないくらいのダメージを受けるだろうし。実際に当時、「A Couple Days」で絶叫すると首筋の血管がブチッと切れる音がライヴ中に聞こえましたから。打ち上げで酒を呑むと翌日は使い物にならなくて、自分でよく“燃え尽き症候群”って呼んでたんだけど、何もできないんですよ。それくらい絶叫するのは命懸けだった。あのボーナス映像もよく見ると、俺が絶叫して立ちくらみする瞬間が何ヵ所かあるんです。実際によくステージ上でオチてましたからね。一瞬、意識がなくなることがよくあったし。

──そうやって意識を失うほど絶叫するような唄い方は、今のNahtに必然性は感じないですよね。

SEIKI:まぁ、絶叫は相変わらずしてますけど、質が違うものになってる。満たされている部分もどこかにあるんでしょうけどね。昔は天井に手が届くほどの小部屋から絶叫していたけど、今はいろんな人達と温かい関係を持てているし、独りで寂しい感じでは全くない。ファーストのオリジナル・ジャケットにあった“憤り”って文字も、再発するに当たって消したし。もう要らないと思ったから。

──今のNahtにとっては、憤りよりも豊潤な音楽を作りたいというピュアな思いこそが楽曲を生み出す最大の原動力になっている、と?

SEIKI:うん。でもそれはどのバンドも同じ気持ちから始まってるんじゃないかな。その中で俺達みたいなバンドがいてもいいと思うし、誰にもこの存在を消し去ることはできないわけだし。事の始まりはインディーズ・ミュージック、独立した音楽が好きでこの3人が集まってるわけだから。自分達自身で活動の統制が取れていて、まず自分達が楽しめる音楽を一歩でも二歩でも突き詰めていきたい。やりたいのはそれだけですね。

──生活という土台がしっかりあった上で音楽を奏でるという在り方が、今のNahtには理想的な形なんでしょうね。

SEIKI:FUGAZIが再結成しないのも、メンバーが音楽よりも家族のほうにプライオリティを置いているからなのがよく判るし。だから、「再結成してくれ!」という声を乱暴に届けたくない。

──今後はこのマイペースな活動を維持していく方向ですか。

TSUYOSHI:とりあえず、音楽を楽しむだけの努力は惜しまないくらいの心持ちでいたいですね。

SEIKI:今よりもっとマイペースに行くかもしれないし、一歩一歩コントラストの強い歩みだけをしていきたい。川の流れのように自然に。

──バンドの自主企画を今敢えてやろうとしないのも、焦らずに活動していきたい姿勢の表れなんでしょうか。

SEIKI:今は待ち合わせをしたくないんですよ。待ち合わせに遅れそうになったとして、そこで無理に走ることをしたくない。昔は時代と待ち合わせしている感覚があったんですけどね。“急げ! 急げ!”っていう。でも、そうやって体裁を繕うことも馬鹿馬鹿しく思えるようになったし、結果的に失うことのほうが大きかった。自分達のやり方から自分達自身が学んだことなんですよ。いい音楽は10年、20年経っても名盤として普遍的な輝きを放っていると思うし、発表から8年が経過した『Narrow Ways』を未だにたくさんの人達が話題にしてくれるのも、作品が決して古くならずに普遍性があるからだと俺は思うんです。今作の『In The Beta City』もそうだけど、俺達はこれからも常にそういう作品を作っていきたいんですよ。流行りに乗っかった過去の遺物にだけは絶対になりたくないですから。


In The Beta City

3rd album
In The Beta City

SECRETA TRADES STD-01
2,835yen (tax in)
IN STORES NOW
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Narrow Ways

1st album reissue
Narrow Ways "Turned Pages"

TIMEBOMB RECORDS BOMBCD-90
2,300yen (tax in)
IN STORES NOW
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Live info.

JONAH MATRANGA -one off Tokyo show-
8月1日(水)下北沢ERA w/ JONAH MATRANGA / FINE LINES

lostage“DRAMATIC TOUR 2007”
8月8日(水)柏ALIVE w/ lostage / BANDWAGON / buddistson / kamome kamome / aie

Naht『In The Beta City』Release Tour 2007!
8月31日(金)名古屋HUCKFINN w/ lostage / 6eyes
9月1日(土)大阪FANDANGO w/ スクイズメン / 8otto / FLASH LIGHT EXPERIENCE
9月2日(日)代官山UNIT w/ eastern youth / Discharming man

Naht OFFICIAL WEB SITE
http://www.inheritedalliance.com/



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