2007年6月9日、CAMPAKEX解散──
ジャパニーズポルノ・シーンが生んだモンスター・ユニット、その3年にわたる伝説と軌跡
松嶋クロス、インジャン古河という二大カリスマAV監督によるロック・ユニット、CAMPAKEXが“すべてはけじめをつけてから”と言わんばかりにさる6月9日、解散を発表した。BOφWYやCOMPLEXへの限りない愛情をベースに、80'sビート・ロックとアダルト・カウンター・カルチャーを見事に融合させた彼らの壮大な試みはここでひとつの終着を迎えるが、フォークのバンドじゃねぇんだからジメッとするわけにもいかない。灰色の風から生まれ、ボルト&ナットのしくみで組み込まれる街にDreamin'な歌が再びこだますることを今はただ祈るばかりだ──。(interview:椎名宗之)
今こそ語られる“解散の真実”
──6月9日に解散を表明するに至った理由というのは?
松嶋:シャレですよ(笑)。元々僕らはウケ狙いでやっていたわけで、本気で音楽をやっていこうと思っていたらCAMPAKEXなんて名前はまず付けない(笑)。僕らの活動の主軸はあくまでAV監督で、自分達の作品に自分達の作った歌を入れたいと思って音源を出したんです。AVは著作権フリーの曲しか使えないから、だったら自分達で作ろうよっていう感じで。で、モノマネ芸人的な要素をわざと入れて。パクリではなくて、故意に。それはとにかくウケ狙いというのが全面にあった。
──バンドとして本格的にやっていこうとしたつもりは毛頭なかった、と(笑)。
松嶋:2人編成だし、全部打ち込みだからCOMPLEXっぽくやろうよっていう、ただそれだけなんですよ。セカンド・シングルの『HERPES GIRL』はちょっと違うんですけど、ファースト・シングルの『SHOOTING BABY』の収録曲は全部僕らが作ったビデオの主題歌で、歌詞も作品に沿ったものになってるし。作品を観てないとイマイチ笑えないだろうし。そんなところからスタートしたんですけど、気が付いたら徐々にCAMPAKEXの音楽が認知され始めたんですよ。そうなると、ちょっと事情が違ってくるんですよね。“いや、笑って頂きたいんですけど…”っていうところが多々あって。しかも昨今、BOφWY解散20周年でBOφWYのコピー・バンド熱みたいなのも上がってきていて、僕らがコピー・バンド界のカリスマみたいになってきちゃって、そうじゃないんだけど…みたいな(笑)。だから、ここで1回リセットしたほうがいいと思った。ライヴをやっても、僕らがAV監督だってことを知らない人達が増え始めたりもして。
──バンド自体のファンが増えたことで、本末転倒になってしまったわけですね。
松嶋:ええ。それじゃダメだな、と。昔は僕らの作品のファンが面白がってライヴを観に来てくれて、会場で自分達のエロビデオを売りまくっていたのに。
古河:最近は、ライヴで自分達がAV監督だと名乗らないほうがいいみたいな雰囲気もあって。言ったら客が引いちゃったりして(笑)。
松嶋:BOφWYはもちろん大好きなので、その手のイヴェントにもちょいちょい出ていたんですよ。コピーとオリジナルを混ぜつつ。そこで僕らを知った30代半ばから40代くらいのBOφWYファンの人達が僕らのライヴに来てくれるようになったんですよね。だからAV監督としてよりも、BOφWYのコピー・バンドのパイオニアみたいな部分での需要が多くなってしまった。そうなったらもうCAMPAKEXじゃないと思ったんです。
──お二人はもちろん、COMPLEXやBOφWYに対するリスペクトの念はあるんですよね。
松嶋:それでCRφSSという会社も作りましたからね。古河さんとは元々違う制作会社にいて、たまに話をする程度だったんですけど、4年前に氷室(京介)さんが東京ドームでBOφWYの曲をやるって聞いた時に彼が「業界中からBOφWY好きを集めろ!」って言って(笑)。
古河:結局、4人くらいしかいなかったんですけど(笑)。
松嶋:その4人くらいで観に行ったら“やっぱりBOφWYだよね!”って意気投合して、BOφWYのコピー・バンドをやることになって。ホントにジョークですよね、いい大人が昔を思い出して始まったわけだから。古河さんは元々ドラムで、僕がベースだったんですけど、それじゃBOφWYのコピー・バンドじゃないってことで2人でフロントに転身して、全部打ち込みで始めたんですよ。でも、そうなるとサウンド的にはBOφWYよりもCOMPLEXに近いよねって話になって。元々僕らはエロ本とかの誌面に自分達の記事を載せるのが頭にあったんで、2人だとヴィジュアル的にもBOφWYっぽくならないだろうと思ったんです。
古河:だから、思い切ってユニットにしちゃおうと。
松嶋:古河さんがいたV&Rプランニングっていう制作会社はサブカル界のカリスマ的存在で、そこのインジャン古河と松嶋クロスがタッグを組むというのは、吉川(晃司)さんと布袋(寅泰)さんが一緒にCOMPLEXをやったようなAV業界におけるサプライズだってことで。最初は仕事そっちのけで曲を作ったりしていて、それじゃ仕事にならないから2人で会社を作りましょうと。それで3年前に今の会社を作ったんですよ。もう完全に大バカ者ですよ(笑)。
──“空手バカ一代”ならぬ“BOφWYバカ一代”ですよね(笑)。
古河:ホントにそうですね。BOφWYがいなかったら、CAMPAKEXも今の会社もないんですから。
──氷室さんのドームでのライヴを観るまでは、BOφWYを日常的に聴く感じでもなかったんですか?
古河:車の中にCDは入ってるけど、いつも聴いてるような感じでもなかったし、昔からコピー・バンドをやっていたわけでもないんですよ。
──でも、古河さんや松嶋さんの世代には、BOφWYやCOMPLEXはDNAレヴェルで擦り込まれたポップ・アイコンですよね。
松嶋:そうなんですよ。で、僕らは本業が映像作家だからやっぱりオタク気質があって、音楽も凝り出したらいくらでも似せることができる。例えばデモ段階では弾き語りでBOφWYのカケラもない曲でも、如何にもそれっぽくしてみたり、タイトルをパクってたら元になってる曲と全然違ってもブレイクの部分だけ無理矢理似せたり、音色を合わせたりとか。
古河:「ここはあの曲の弾き方でしょ」とかね。
──その徹底したオタク気質が予想以上の反響を呼んでしまったんでしょうね。
松嶋:もうシャレが全然通じなかったですから。自分的には笑うところなのに、ライヴで40歳くらいのお姉さんから普通に「カッコ良かったです!」とか言われるんですよ(笑)。そういうのがちょっとやりづらくなってきたんですよね。
最後のGIGSは、9月1日にプレゼントします
──ラスト・アルバムとなる『DEAR CALL GIRL』はエロスに特化したサブカルチャーとBOφWY/COMPLEX的なる世界が見事に融合して高い完成度を誇っていて、これで終わってしまうのがやはり惜しい気もしますね。
松嶋:音楽で評価されるならもっとちゃんと評価されたいんですよね。本気で音楽をやろうとしたらもっと他にやりたいものがあるので、これで評価されちゃうとちょっとキツいなと(笑)。ピエロをやってるのに「カッコいい」って言われてももうおどけられない、みたいな。
──でも、今や本家である高橋まことさんや元マネージャーの土屋浩さん、De+LAXの榊原秀樹さんからもお墨付きをもらって、まさに継続は力なりと思いますけどね。
松嶋:凄く有り難いことだし、みんな喜んでくれてはいますけどね。でも、そうであれば尚更AV監督バンドじゃないほうがいいなと。そこがネックで応援できないBOφWYファンも確実にいる筈だし、どっちにしても当初の目論見からはズレてしまったので。
古河:CAMPAKEXをやったこと自体は凄く意味があったし、良かったと思うんですよ。このユニットがなかったら今の時代にこんな曲をやろうとは思わなかっただろうし。時代に逆行したこういう曲を他にやってる人がいなかったので、余計に際立ったんですよね。なんか昔っぽくて懐かしいと感じる人が多くて、そこが評価されたんだと思います。今の時代の機材を使って、如何に昔のサウンドを再現するかっていう部分が。
松嶋:「レ・ズビアン・ローズ」なんて、自分でやってて死ぬかと思いましたからね(笑)。スネアの音とか波の音とかが如何にもあの時代っぽくて。
──オマージュの域を超えて、アルバムのタイトル曲には高橋まことさん本人まで参加されていますよね。
松嶋:そこも申し訳ないんだけどギャグなんですよね(笑)。こんな悪ふざけにご本人を引っぱり出しちゃうっていう、やっちゃいけない類のギャグだったんですけど、そういうのもギャグと思われなくなってきちゃって…。
──奔放に活動している裏では、人知れず苦労も多かったんですね(笑)。
松嶋:ライヴなんかは特に、どんな顔して出ていけばいいのか判らなかったですからね。「AV監督です!」って言ったら引かれちゃうし、「ちゃんとやらないとマズいですかね?」とか楽屋で話したりして。
──でも、シャレはシャレでも、大真面目なシャレは粋に通じる瞬間があると思うんですよ。
松嶋:そうです。僕らは昔からそうなんですよ。
古河:ふざけるなら本気でふざけようっていうね。機材も、布袋さんのギターを作ったのと同じ人に作ってもらいましたから。
──シャレが真剣じゃなければ、スポーツ新聞にCAMPAKEX解散の広告を打ったりしませんからね(笑)。
松嶋:しかも、掲載は東スポの男性ページ指定っていう。でも、それについて誰も笑ってくれなかったんですよね。「出てたね、凄いね!」って、いやいや突っ込むところ満載じゃん! って。真上に“フードル図鑑”とか載ってるのに(笑)。
──じゃあ、9月1日のLAST GIGSで本当に見納めなんですね。
松嶋:そうですね。最初から何となく決めてはいたんですよ。COMPLEXもアルバム2枚で解散したし、とりあえずそこまでやろうよ、と。それに、あの時代っぽい衣装を揃えるのが結構大変なんですよね(笑)。
古河:ジャケットなんか、後から肩パッドを増やしたりして。
松嶋:とりあえずヤフーは“肩パッド”で検索ですからね(笑)。もう普通には売ってないんですよ。だから衣装には凄く金をかけてるんです。半端にやると学芸会みたいになっちゃうし、衣装も楽器もちゃんとしてないと、ウケ狙いとしては逆にダメなんですよ。“本人達に勝るくらいのいい服着てないと!”っていう勢いで。
──解散後のご予定は?
松嶋:僕は純粋に音楽の仕事をしたいと思ってます。ウケ狙いではなく、純粋に音楽をやりたい。実はもう、本業は6月9日をもって辞めてるんですよ。僕は今のバンドを見ていても突き動かされるものが何もないので、“バンドってこう在るべきじゃない?”っていうのを若者に向けてやっていきたいですね。
古河:やるに当たってはお金もかかるので、僕は本業で頑張って支援しようかなって感じですね。
──古河さんはもう音楽にはノータッチですか?
古河:そんなこともないですけど…まぁ、何も決まってないですね(笑)。
松嶋:僕はメジャーを目指しますけどね(笑)。凄く商業的に音楽をやろうと思ってるんです。プロになるのが夢とかじゃなくて、真剣に商売としてメジャー・アーティストになりたいんですよ。
──バンドをやるとしたら、まことさんを筆頭に錚々たるメンツが集まるんじゃないですか?
松嶋:それをやったら本気でシャレにならない気がしますね(笑)。僕はコピー・バンドを余りカッコいいとは思えないんですけど、オリジナル曲をやった時に“この人、絶対ヒムロック好きじゃん!”っていうのを包み隠さず伝えればカッコいいんじゃないかと思うんですよ。“ヒムロックになりたいです!”くらいになればBOφWYファンも反感を持たないと思うし、そうなればまことさんがドラムでも成立するのかなって気がしますね。例えば、“もしBOφWYが『PSYCHOPATH』の後にアルバムを出していたら、きっとこんな感じだよね!”みたいなのをやりたいんですよ。多分、今の日本で僕が一番それに近づいた音源を作れると思いますけど(笑)。
──CAMPAKEXは、BOφWYやCOMPLEXのように再結成はないんですか?
松嶋:そんなことして誰が喜ぶんですか(笑)。誰も待ち望んでないし、アルバムも何のために作ってるのかよく判らないですから(笑)。あ、でも僕らは結局新宿ロフトには出られなかったので、それだけがちょっと心残りですね。
──じゃあ、再結成の折には是非(笑)。
松嶋:その時は更に時代を逆行して、バンド名が漢字で6人編成になってるかもしれないですよ(笑)。
LAST ALBUM
DEAR CALL GIRL
古松レコード KMR-007
2,100yen (tax in)
IN STORES NOW
Live info.
CAMPAKEX LAST GIGS 〜EROTICA ROCK FESTIVAL FINAL〜
9月1日(土)Shibuya BOXX
OPEN 17:00 / START 17:30
TICKETS: advance-2,500yen (+1DRINK) / door-3,000yen (+1DRINK)
GUEST:麻美ゆま/穂花/日高ゆりあ&結城リナ/鼠先輩 DJ:森下くるみ
最後まで観て頂いた方全員に、古松映像関連のアダルトDVDをプレゼント!
【info.】イヴェント情報:古松レコード 03-5340-6691/チケット情報:ディスクガレージ 03-5436-9600
CAMPAKEX OFFICIAL WEB SITE
http://www.campakex.com/