ギター バックナンバー

MARS EURYTHMICS('07年5月号)

MARS EURYTHMICS

磯部正文、本格始動!!
“価値ある形”を追い続ける珠玉の作品『Range over hill and dale』

HUSKING BEE解散から2年、磯部正文がまた爆音を鳴らし始めた。2006年に結成されたMARS EURYTHMICS(マーズ リトミック)は磯部(ヴォーカル、ギター)、元smorgasでCORNERでも磯部と共に活動する河辺真(ベース)、同じくCORNERにも参加している伊藤悦士(ギター)、そして土佐優貴(ドラム)というメンバー。この1年ライブ活動を続けてきたが、ようやく満を持しての1stアルバム『Range over hill and dale』が発売される。心地よいほどに体を突き抜ける音は、ハスキンのファンだった人たちはもちろん、それ以外の新たなファンも虜にするだろう。
ハスキンで間違いなく日本のロックシーンに大きな功績を残した磯部が、MARS EURYTHMICSで目指す形、そしてメンバーとともに山を越えて、谷を越えて、辿り着こうとする場所はどこなのか。早くその全貌を知りたいと、期待を高める人たちに少しでも彼の言葉が届けばと思う。(interview:古川はる香)


バンドはお客さんと共にやっていくというのが、僕の信念

──河辺さん、伊藤さんとはCORNERでも一緒にやってらっしゃいますが、この4人でバンドをやることになったのは?

磯部:宿命ですね(笑)。まぁバンドをやろうとは思っていたので、ゆっくり進めてはいましたけど、僕から「やりますかー」ちゅうのがありましたね。

──それに対して3人は「よし!」と。

磯部:かなり嫌がってました(笑)。なんで、手紙を出したり、ストーカーみたいになったりして。……嘘ですけど(笑)。ドラムの土佐は人の紹介で。いろんな人に「誰かいないかなー」って話はしてたんです。若い子がいいんじゃないかって。僕がいた音楽シーンにどっぷり浸かっているわけでもなく、ある意味概念もない。そういう子がいたほうがいいじゃないかと思って。巧いは巧いからって話を聞いて、土佐に会って、即効一緒にやるようになりましたけど。

──土佐さんに決まる前に、何人か候補が?

磯部:なにげに何人かには。

──その中では、土佐さんが一番しっくりきた?

磯部:しっくりきてなかったです(笑)。

──えっ? そうなんですか!?

磯部:正直、最初は(笑)。自分がやりたい音楽とか、リズムをあまり知らなかったんで。まぁ知らないだけで、知ってもらうまでに何ヶ月かかかるだろうなというのを感じて、いろいろCD渡して聴いてもらって。あと、家に呼んでiTunesでオススメを聴かせたり。土佐専用のオススメを。

──土佐さん専用のプレイリストが?

磯部:“ゴキゲン”っていうプレイリストを(笑)。まぁ河辺くんも同い年とは言え、やる以上は僕が触れてきた音楽を聴いてもらったほうがいいかなと。その点ギターの(伊藤)悦士は(聴いてきた音楽が)近いですから。問題なく。

──聴いてきた音楽が近いことより、重要なポイントがあったんですか?

磯部:別にないです(笑)。メンバーにも結構言ってますけど。

──運命的なものがあったわけでなく?

磯部:ないですね(笑)。メンバーに言うとびっくりされますけど、ある意味誰でもいいと。土佐にも「なんで僕だったんですか?」って聴かれて「別に誰でもいい」って答えましたし(笑)。僕とやる以上は、誰とでもうまくいくって自信があります。でも10年くらいやらないと、うまくいったかもわからないでしょうし、1日で見せられるものでもない。その難しさがある。青春ドラマみたいな感じでもないし、内面では結構毒々しくやっていきます。罵ったりとか、持ち上げたりとか!(笑)アメとムチが激しいので。HUSKING BEEも、バンドの周期的には長くできたと思うので。そういう経験上、僕が知る限りの、向こうが知らないことをまず教えないとバンドが機能しないというか。

──4人で知恵を絞り合うというよりは、磯部さんが提案していく?

磯部:そういう感じになってますね。

──磯部さんの提案に、他のメンバーから意見が出たりは?

磯部:それもあります。そういう話も聞きつつ、しかしそれじゃあバンドが動いていかないぞって予感もしますし。結構お客さんのことを考えてくれてない意見だったりするんで。お客さんともどもやっていくんだっていうのが僕の信念ですから。バンドがどーのこーのよりも、お客さんにどう聴こえる? どういう風に見えるの? っちゅうのが大事ですから。そういう意味ではもっと幅広い言葉と幅広い心が必要じゃないですか?

──4人の仲がすごくうまくいってても、それが外に向かってないと、バンドとしては意味がない?

磯部:ある程度個人個人の考えの相違っていうのがありつつも、「ここまでも考えんのか?」っていうのは絶対必要だと思いますし。まぁ(結成から)1年経ちましたが、この1年は結構とっちらかった感じを見せたというか。こういう人だぞと。

──メンバーのキャラを?

磯部:そう。キャラを。バンドって、技術も大事ですが、キャラも必要じゃないですか? そういうの人前に出すのは違うなーと思って、留めていたら、内にしか向かってないわけで。まぁその辺は葛藤しますけど。内に向かってる強さっちゅうか、ひたむきさが人を惹きつけるのかもしれないなーと。でも、お客さんあってなんぼの世界ですからね。それは頭の片隅に常にあってほしいなーと。意外と少ないですよ。そういうこと考えながら音楽やってる人って。缶コーヒー飲みながらとか、本当にフランクに話をしてるときに、「この曲やってるときは、俺には何人のお客さんが見えてる!」って言っても「俺も!」って言う人がいない。でも言って当たり前だと思う。バンドのみんながそういう緊張感持たないとダメだったりするんじゃないのーって思ったり。それをいろいろ伝える作業をね(笑)。

──そのために1年が必要だった?

磯部:はい。これからもその作業は続きますけど。ハスキンのときは自分も若かったし、あのときみたいにいっぱいバンドがいて、みんなで上がっていくんだみたいな。みんなのリリースが決まっていって「負けちゃいられねー」って、ああいう切羽つまった感じは今あんまりないですね。なんかぽかーんとした空間があるっちゅうか。

──自分たちのペースで進んでる感じ?

磯部:というよりも、「やっちゃいるけど、どうしていいかわかんねー」みたいな感じがあると思うんで、「やりゃあいいんだよ」っちゅうのを教える作業。そういうときに、「僕は今までこういう風にやってきたから、向いてない」って言うから、じゃあ向けばいいじゃないかっちゅう作業。今まで向いてなかったなら、今から向けばいいじゃないかと。そういう延々とした作業を、あーでもない、こーでもないと言いながらやってます(笑)。


音楽以外でも、同じことを知っていることが、バンドには必要

──ファンは、新しいバンドが立ち上がって、音源を待ち望んでたと思うんですけど、やっぱり音源を出すまでに1年必要だった?

磯部:そうですね。やっぱり難しいなと思いましたね。ハスキンのときは、好きな音楽が似てて、どこのライブハウス行ってもいるなーって人が集まったんで。やることというか、感覚も似てましたし。

──言わなくても伝わることが多かった?

磯部:好きなバンドが似てるだけで、ああいう風にいくんだなと。楽器類は「この人しか出せないな、この音!」っていうのが、つまりはあると思いますけど、だいたいは一緒じゃないですか? メロディとか声っていうのは、独特のものが出せるという面で、同じようにやっても他のバンドと違うようになりますし。そこは僕が歌うとこんなリズムが鳴るとか、なんとなく頭でわかってたんで、やりやすかったんですけど。マーズの場合も、ハスキンの初期に似てる感じはなんとなくしつつ、自分と同じ考えにするっていうような、押し付けではないですが……押し付けではないけど、押し付けたい(笑)。押し付けっていうか、浸透してもらいたい。それには1日やそこらじゃなく、自分がその姿勢を見せなきゃいけない。結果を見せなきゃいけないので、大変!!! って感じ(笑)。

──それには、音源を作るよりも、ライブでお客さんの前に立つほうが伝わりやすい?

磯部:そうですね。お客さんのことを考える姿勢とか。しょっちゅう言ってました。人前でやれば変わるんだって。

──条件さえ整えばもっと早く音源出したかったというより、今が順当な時期?

磯部:だと思います。簡単に言うと、僕が歌ったり弾いたりするのに、土佐のリズムがそれてましたから。「どうもしっくりこないなー。何がどうやら?」っちゅうのが。向こうも必死でしょうから、そこ持ち上げたり、ものごっつ貶したりして。

──アメとムチが(笑)。

磯部:それに結構時間かかりましたねー。でも本人たちが気持ちよくないのに、お客さんに「なんだこのぎくしゃくバンド?」って見えるのもなんなので、そこを包み隠す作業を(笑)。

──包み隠しちゃうんですか?(笑)

磯部:ここをうまく包み隠せないかなーって(笑)。本当は土佐本人からにじみ出たほうがいいんですけどね。でも本人からにじみ出るまで、あと3年くらいかかると思いますけど。

──それは本人の経験値ですか? それとも一緒にやる年数?

磯部:いや、土佐という人間の人生でしょうね(笑)。22歳でそんなん出せたらすごいですけど、それを求めてもしょうがないですから。じゃあオブラートで包んで隠しちゃいましょう!って(笑)。

──そういう点でも、聴いてる音楽が近いと「あの曲のアレみたいにやって」とか共通言語がありますよね。

磯部:今はそういう風に、人生と照らし合わせて聴けますけど、若い頃は「この曲好きだ!!」だけで、その人の人生まで探れないわけじゃないですか? でも「なんか好きだ!」って。で、やってると、なんかそのバンドの人生もわかるわけじゃないですか? あの頃「こんなに変わっちまったよ」と思ってたけど「それは変わるわ!」ってわかったり。自分も「変わった」って言われるときに、よかれと思ってやってても、それが「変わった」って言われるだけの悲しい作業だったのかとか、後悔はないまでも、いつまでも疑問はつきないわけです。でも、とにかく最初だと、そういう作業がないわけじゃないですか? だからそれにつきあってみたいと思いましたし。

──徐々に出来上がっていくところを見ていこうと。

磯部:土佐がソファなら「座っちゃおうっかな?」って(笑)。新品のに座ってみようと!

──そこからだんだん革がなじんできたりして?

磯部:いつも同じ位置に座っとるわなー。ここだけへこんでるなーってなってみたり(笑)。それを「使いこんだいい感じですねー」って言われるのか、買い換えられるのかわかりませんけど。自分が買い換えられたらびっくりですね(笑)。まぁそうなったらそうなったでね。今はその経過を見るのが楽しみだと。

──それくらい余裕があるんですね。

磯部:うん(笑)。まぁ僕はありますね。今となっちゃ。土佐は結構うわーってなってますね(笑)。土佐が今22歳なんですけど、そのくらいの年齢ってものすごく考えてませんでした?

──そうですね。世の中に出なきゃいけない年齢ですからね。

磯部:そう。独り立ちしなきゃいけない年齢だし。

──でも世の中も先のことも全然見えないし。

磯部:で、「明日やろう」って決めてたことがまた「明日やろう」になっちゃって、「何をやってんだ?自分は?」ってなったり、ものすごくアホな子じゃないですか? 大人から見たら「バカやなー」って。そういう子と一緒にやってるわけですから。

──磯部さんとはいくつ違うんですか?

磯部:12歳。干支ひとまわり違います。

──それはもう兄弟というのは年の離れた……。

磯部:本当に年離れた兄弟みたいな感じですよ。単純な話、昔のCMの話してて「どんと、ぽっちぃ」(83年にブームになった使い捨てカイロ『どんと』のCM)とか言っても全然知らないんですよ! 「何言ってんすか?」って。「西川のりおだよ!」って言っても、西川のりお自体わからないんですよ!

──ジェネレーションギャップが!

磯部:それも音楽やる上で大切っちゅーか。「これを僕らは知ってるんだ」って感じも大事なのかもって考えたりしてますけどね。

──“実験”じゃないですけど、これからわかっていくことがありそうですね。バンドをやる上でバックグランドがかぶってることは必要なのかって。

磯部:必要だと思いますね。「気持ちええなー」みたいな音出してるときに、「いや、僕はこういう音あんまり好きじゃない」って思ってる人がひとりでもいたら、お客さんなり、スタッフなりにばれるじゃないですか。なのでもうちょっと近づけたいですけどね。


解散から2年経って、自分にとっての“価値ある形”がわかった

──今回のアルバム、特に思い入れのある曲は?

磯部:『価値ある形』ですかね。

──どういった形の思い入れが?

磯部:ハスキンのトリビュートのお話をいただいて、参加してもらうバンドとかに電話かけたりする作業が僕の役割になってたんです。恐る恐るみんなにかけてたんですけど、かけるたびに話が決まっていく中で、自分がやってきたこととか、今からやろうとしてることっていうのが、ほんとにバトンリレーをしてるような。自分が未来の自分に渡してる感じがあって。「もっとがんばれよ。あれだけがんばってこういう結果が出るんだから、もっとがんばれるでしょ」って。『価値ある形』って曲は、ハスキン解散くらいから、次のバンドでやりたいなーと思ってて。メロディも何もないんですけど、「“価値ある形”って自分にとってなんだ?」って2年くらい考えてて。その矢先に、そういうことなんだなって思って。その時期に、たまたまCORNERでメンバーの今ちゃん(今谷忠弘)と練習入ってて、僕ニール・ヤング聴いたことなかったんですけど、なんかこう……アメリカですごく支持されてる人だし、思想やら姿勢やら歌やら、全部ひっくるめてすごく影響を与えてる人だし。ある意味ニール・ヤングのようになりたいなと思って。聴いたことないけど(笑)。

──今も聴かないままですか?

磯部:あ、今は聴きました(笑)。で、ニール・ヤングっていいんじゃねーかって話をしてたら、今ちゃんもジム・ジャームッシュが撮ったニール・ヤングのドキュメントを見てたんですよ。10何年追っかけてて、最初の頃はニール・ヤングのところに行っても「お前なんかに俺の何がわかる」って言われてて、「何撮ってんだよ」って言われながらずっと撮り続けたんですって。それ聞いて「おおー」と思って。そんな話をして、スタジオ入ったときに、じゃニール・ヤングみたいな感じでやってみましょうって。で、歌ったらこうなったんです。

──これが磯部さんの中でのニール・ヤングのイメージ?

磯部:聴いたことないのに(笑)歌詞は全然ないけど、なんか英語っぽくぐわーって歌って。今ちゃんがぐわ〜ってスライドギターやってて、「おおーいいですねー」って。

──で、音が完成したんですね。

磯部:今ちゃん曰く、その曲を聴いた瞬間に「なんか、聴いた瞬間に、手をつないだ裸の男女が、草原を走っていく映像が見えました……」って。家帰って、何回もそのMD聴いてて、何回も聴いてたら泣けてくるから、「どういうことなんだろう? これは」って。自分の心境とメロが重なる瞬間って、いちばんいい感じですから。「わかった!! これが“価値ある形”なんだ!」って。

──ある意味2年以上温めていた題材というか。

磯部:そういう感じですね。

──でも、これはCORNERじゃなくて、マーズで出したかったんですか?

磯部:ま、いい曲なんで、どっちでもよかったんですけど(笑)、バンドでやりましょうかって。

──磯部さんの中で、CORNERとマーズの曲は作るときから棲み分けがあるんですか?

磯部:ありますよ。すでに。最初はアコースティックギター弾いたときに、いい感じに乗っかるメロディと声、歌い方、思想みたいなのがどうもよくわからなくて、やってわかっていくしかないってスタイルの中でやってましたけど。最近はエレキでやってても「あ、これアコギが合うんだな」とかさらさらわかっていくんで。でも、とりあえずセッションしてみて、録っておいて、「これはCORNERだな」とか決めてます。

──とりあえずは録音?

磯部:どっかーん! ってやる曲はやっぱりマーズですし。マーズはどっかんどっかんやってたほうがいいかなって。そう思ってた翌週はふんわりしたものを作ったりしてるんですけど(笑)。天邪鬼かなあ。いつ、どストレートな愛の歌を唄うかわかりませんけど(笑)。


地元の友達への手紙のつもりで書いた『ヒロイシマ』

──ふんわりした曲と言えば、アルバムの最後に収録されてる『ヒロイシマ』はアコースティックですよね。

磯部:これ、完全にCORNERの曲ですよね(笑)。

──これをマーズの1stアルバムの最後に持ってきた意味は?

磯部:いろいろ考えたんですけど。マーズも目標はまずはアルバム3枚。ハスキンと同様、それでいいバンドになるでしょうから。なのでその作業をしていく上で、ハスキンのときも、アコースティックがいつも入ってたというのを考えると、そういう曲が最後に入っててもいいのかなって。で、まぁなんとなく、この2年友達とも連絡とりにくくて。「なんで解散したの?」とか聞かれるのもイヤだし、疎遠だったんですけど。最近元気になってきて「今アルバム作っとるでー!!」って電話してると、もろに広島弁が聞けるわけじゃないですか?「何しよん?」とか。いろんなこと話してたら、「なんか手紙でも書こうかなー」って気持ちが少し。それと、あまりにも手紙みたいなのだと、さだまさしさんみたいになっちまいますから(笑)。

──やさしいフォークみたいなちょっと違う感じに……。

磯部:それもやろうと思えばできますけど。今、微妙なご時勢ですから……(笑)。ま、手紙というか、なんとなく広島のこと考えとんだでーみたいなのを言いたくて。メンバーには何回も聞きましたけど。「これ入っていいのかね?」って。かなりパーソナルな歌になっちゃって。

──全員広島出身のバンドでもないですしね(笑)。

磯部:夢は、広島のライブハウスでこれを歌ったときに、なんかいい雰囲気になること。それが目に見えてる。絶対おもしろいはずなんですよ。

──広島弁って、音楽にのりやすいんですかね。大阪弁だと、またちょっと違う感じになりますよね。憂歌団のような......。

磯部:そうですね。ブルースの匂いがしますね。

──広島弁だとそんなブルースぽくもないし、さらっとしてるし、カッコいいし。

磯部:もともと男らしい言葉でしょうから。そう言われたらそうですね。『ヒロイシマ』ってつけた後に、各県の曲を歌おうと思ったんですけど、『○○イ△△』になるのって、あと『ナガイサキ』と『アオイモリ』くらいで、他は全部『ヒガシノミヤコ』とか『○○ノ△△』になっちゃうんですよ。これは大変な作業になるな〜って。

──そんな野望が!?

磯部:「遠足だったらどこ行く?」とか聞いて、全部調べて。まぁちょいちょいとできるんですけど。とりあえず『アオイモリ』と『ナガイサキ』は作ろうかなーと思ったり、思わなかったり(笑)。

──『勝手に観光協会』みたいですね(笑)。

磯部:そうそう。あれおもしろいですよね! でも、確かに広島弁はメロディに乗せやすいですね。「やれんの」とか。これ、後半はヤンキー語なんですけどね。それをふんわり歌ってると、一緒に歌ってくれるかなーと思って。


万人共通の“いい感じ”が、MARSの中にあれば

──磯部さんが詞を書く場合、メロディに歌詞を乗せてるんですか? 歌詞が先に出来てるときも?

磯部:歌詞がまるまる先にあることはないですね。たまたま歌ったらそうなったっていう部分は、響きがいいのでそのまま使ったりはしてますけど。結構後乗せサクサク(笑)。サクサクは後乗せで、苦労しないって意味ですよ!(笑)

──デモ録ったり、セッションしてるときに歌うデタラメな歌詞に似た言葉を探してくるんですか? それとも意味づけが先?

磯部:曲によって違いますね。『価値ある形』なんかは言葉を大事にというか、意味をわかりすぎず、浅すぎず、深すぎず、とかいろんなこと考えながら作りましたけど。逆にノリのいい曲は難しいので、そのまま歌ったやつを聴いて、「ここは声のハリがいいなー」ってときは、「やっぱ母音は“い”だなー」とか。なので最近は、意味求めないなら求めない。どうせ言葉を繋げると絶対おもしろいはずですから。だから楽チンになってきましたね。僕は意味なくていいやと思ってたのに、意味あるように見えるなーとか。

──聴くほうが「隠された意味が!?」って勘ぐりますよね。

磯部:その作戦が見事に当たったんですね(笑)。全然意味がないのに! まぁハスキンのときからその作業は、ある意味始めてましたけど。こうやって言葉を駆使してというか、丹念にやっておけば、ちょっと年取ったときに楽になるかなーって。なんか意味ないようなこと歌ってても、お客さん側が意味をはめてくれるというか。どうせわからないじゃないですか。人の人生というか、悩みって。それについて、ひとまとめするような、「僕がいるから君は大丈夫だよ」みたいな歌詞は作れないんで。なんじゃそれー! みたいな(笑)。

──最近多い系統ですね。

磯部:その主流から完全にはずれてしまっているので。ま、どーせひねくれるんだったら、変な言葉使って、いろいろやったほうがよろしいかなーと思ったりしてる延長ですね。でも歌ってみたい! ああいうこともね。「君が流してくれた涙が」……「涙を飲んだよ」とか。

── 飲んじゃうんだ!(笑)

磯部:ははは(笑)。もっと素直なことを歌いたいです。「風呂に入って、溺れかけた」とか「冬に風呂入るの寒い」とか(笑)。それをすごく歌い上げたいです!! 別にそういうのを批判してるわけじゃないですよ。ただ、あまりにも多いので(笑)。まぁ自分は自分のできることをやろうって。

──マーズとして、音楽シーンでこういう役割を果たしたいって野望はあるんですか?

磯部:うーん……。まぁ“いい感じ”っていうのが、万人に共通してるものかっていうと、そうでもなくて。かといって、万人共通の何か“いい感じ”っていうのはなんぞやと思うときに、少なからずそういうものもトータルしたものが、MARS EURYTHMICSの中にあれば、ちょっとすごいかなーって。

──誰が聴いても“いい感じ”というか?

磯部:「なんかいいですね〜」って。すごく好きになってくれる方もいれば、飽きる方もいる。でも、作品作って何かそういう現象が起きているのであれば、作って何が起きるかを見たい。できるならお客さんがいてくれたほうがいいですけど(笑)。それによって曲も変化しますし。来てくれるお客さんが持ってるものがなんぞや、みたいなものをステージでじっくり見てますから。僕は。そういうときに、ライブハウスでたまたま目と目が合うのってすごいことじゃないですか? 僕はそこまで知らないですけど、知ってるもん同士というか。僕らの音をたまたま聴いて好きになってきてくれた人っていうのは、僕らが知ってることと、ある意味何か同じことを知ってると思うんです。そこに共感してくれてるはずだし。そういうのが多くなったらいいなって。だからマーズは、自分たちが何かを知る、調べてみる作業。そういうのが大事なのかなーと思ったりしますけどね。でもまぁ、最近所ジョージさんにハマってて。

──いきなりですね(笑)。

磯部:仙台かどこかにライブに行ったとき、ホテルでBSフジの『所さんの世田谷ベース』って番組をたまたま見たんです。普通に家の中にある小物をあーでもない、こーでもないって言ってて。所さんおもしろいなーって。結構えらそうなこと言ってるのにキザに見えない。でも頑固で、実はいろんなことと戦ってる人。この人すごいなーと思って。

──偉大さを再確認したと。

磯部:言ってたのが、「何作るにしても、遊び心がないとダメ」って。何か物買ったら、そこに手を加える。高いもの持ってて、そのままを見せて、「高いねー」って言われるのはつまらないし、男のロマンがないと。カッチョええーこの人と思って。自分も同じような感じになるには、どうしたらいいのかなって悩んで、一週間くらい経ってるんですけど(笑)。

──何か見出せましたか?

磯部:まだ答えはわからないです。あんな風になれるのかなって。それがバンドにどう影響するのか?(笑)でも“いい感じ”に人を惹きつけるじゃないですか? そういうのって、自分も表舞台に上がる以上はどこか必要でしょうし。ああいう雰囲気というかオーラを身につけられたら最高なんじゃないかなーって。

── ぱっと見好きなことだけやってそうだけど、ちゃんと見る人のこと考えてますよね。

磯部:そうですそうです。見る人がおもしろいと思わないと。自分も同じようなことやってると考えますね。歌詞書くにも。おもしろいことやってるぞって思っていただけたらなーって苦心してます。


作詞では、最初の言葉を紡ぎ出すまでいつも悶絶!!

──磯部さんは楽しんで歌詞書いてます? それとも「うわぁー」ってなります?

磯部:「うわぁー」ですよ(笑)。最近は悩んでも忘れるって感じですけど、何年か前までは吐きそうでした。

──書くたびに!?

磯部:メロディはバンバン出てくるから書かなきゃいけないなーって。歌詞って、曲ができる最初のお化粧みたいなものじゃないですか。「あー、書かなきゃいけない! 言葉を! でも、またこんな風に思ってると思われるわー。でも、それを出したいんだよなー」って思ったり、常にやじろべえですよ。でも、最近は別に。

──悟りが開けた?

磯部:もう。ほわーっと。「今日もやっちゃおっかな〜?」って。「どうせ吐きそうになるに違いない!」って(笑)。

──そこは変わらないんですね(笑)

磯部:最近はwordで、カタカタやってるんで。メモ帳にはちょろちょろっと書いてるんですけど。思いついた言葉とか。そういうのを見ながら「これどこにはまるかなー。物語でいったらどこだ?」って、やりながら、ずっとパソコンの前でにらめっこしてますけど。吐きそうになるのは、最初だけですからね。

──そこさえ乗り越えれば?

磯部:いっぺん書き始めたら早いですから。最初の「何を書きたいんだ? 何を歌うんだ?」みたいのが決まってるのに、最初の言葉、手紙の書き始めみたいのが出てこない。言葉がぶわーって出始めると、ものごっつ早いんですけど。でも、例えば、『閃きのbrandy』の「軽やかな〜」からの3行とか。ほかはすっと出てきたのに、ここだけ全然出てこないってことはありますね。まぁ自分の中で、曲の肝なんですけど。できあがってみたら簡単な言葉なのに、そこで5日間くらいかかったりしますね。決めるのいやだなと思ってみたり。ここは肝だからもうちょっとじっくりいかないととか。そうすると練習のときもそこだけ歌わなかったりする。なんかぐっとこないかなーと思ったり。

──音づくりとか曲づくりは4人で一緒に?

磯部:基本的には、最初ギターを僕が弾いて、リズム隊録って、ってバラバラですね。一発でもいいんですけど、デジタルだと、一発でやった感があまり出ないので。昔ながらのアナログテープで録るとるときは、一発録りもやってみたいですけどね。若い土佐は、結構一発録りやりたかがってましたけどね。まわりの人に、「ライブ感のあるCDを聴きたい」って言われてて、土佐がやたらBPMを上げるんですよ。「この曲はこのぐらいにしましょう」って、やるとめっちゃめちゃ速い!「これ、ライブだから! ライブ感じゃなくて、ライブになっちゃうから!」って(笑)。


今回のアルバムは“新品の鉛筆”。どうにでも使ってくれていい。

── 今回のレコーディングで初挑戦した方法ってあります?

磯部:それはないですね。まぁ、1stアルバムは、インタビューでは言えないような秘め事があって……。

──秘め事!

磯部:ははは(笑)。あんまり載せると意味ないかなと思うんで。1stアルバムはこういう感じっていうのが前から見えていたので。

── それはマーズを結成したときに?

磯部:はい。結成して、一緒に作りはじめてから、アルバム3枚後のビジョンっていうのが見えましたから。で、その内容をどういう風にしたいっていうのは、僕の中ではあるんですけど、あんまりまだ言いたくない。

── それはこれからわかってくるもの?

磯部:はい。あんまり言って「軽く作ったのかい?」みたいに思われるのもあれなんで。

── 音源がリスナーに届く緊張感はありますか? それとも自信が?

磯部:いや、自信はないですよ。実はハスキンのときも不安だらけだったんです。作った瞬間は「これ誰が聴くんだろ?」って。

── それは最初のアルバムに限らず?

磯部:作るたびに「最高だなー」っていう瞬間と「最悪だなー」って瞬間が同居するんです。だからなんのこっちゃよくわからんのです。「これ誰が聴いて、誰がいいって言うんだ?」って思ってる。売れてるって聞いても「誰が言ってるんだ。そんなこと」って。それでライブ行ったらお客さんがいっぱいいるから「わっ、こわ!」ってなる(笑)。そこでやっと「スゴイなー。よかったなー、やってきて」って上がるんですけど。今回もそういう風にはなってるんで、間違いないんだろうなと。でもあんまり自信がないというか。こんなこといったらアレですけど。

──どうなるんだろうって気持ちが?

磯部:いいのか悪いのかわからんなーって。でも、お客さんの前でやるといいんです。今もアルバムレコーディング後はかなりいい感じになった。音源自体がどうなのかわかりませんけど、いいバンドになるための核みたいなものが今回できたんだなと思って。そういう意味では、新品の鉛筆っちゅうか。いろんな風に捉えてくださいと。感想書くなり、絵描くなり。僕らが用意したものはこういう感じで、あとはどうにでも使ってくださいって。お客さんそれぞれ全然違いますからね。染み入る何かが。

──初ライブのときに、すごく緊張されてたって聞いたんですが。

磯部:初ライブは気合い入ってましたからねー。いつも気合い入ってますけど、ある種のなかなか味わえない緊張感がありましたね。

──磯部さんくらい場数踏んでても緊張します?

磯部:しますよ! いつ頃かあんまり覚えてないですけど、ハスキンでちょっとマンネリになってた時期に全然緊張しなくなってて。その後また緊張するようになって「緊張のないライブなんてありえない」と思いました。「今日も余裕でしょう」なんて向上心のかけらもないって証拠じゃないですか。だから緊張してなんぼです。マーズの最初のときは、久々に顔とかもこわばってましたからね。まだギターの伊藤くんが入ってなくて、3人だったし、CORNERしかやってなかったんで、リハビリだと思ってやってました。バンドでデカイ音鳴らすってやってなかったんで。ま、それ超えても毎回緊張しますよねー。緊張するからいいんです。「ああ、きたきたきた!」て感じ。ある意味ポジティブな緊張ですから。

──マーズの今後の展望として、見えてるものは?

磯部:言葉は簡単ですけど、いいバンドになっていく。他のバンドの人からも愛されるような。やってる側の人たちとも繋がって、お客さんともちゃんと繋がって、スタッフとも繋がって。いい感じの人たちが繋がっていく作業をしていきたいですね。それがいいバンドだと思いますし。


Range over hill and dale

Range over hill and dale

ASCM-6001 / 2,890yen(tax in)
5.23 IN STORES
★amazonで購入する

Live info.

4.21(Sat)水戸ライトハウス
FINE LINES substratosphere TOUR
W)FINE LINES / OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND

5.01(Tue)越谷EASY GOINGS
越谷祭第一夜
W)リトルキヨシトミニマム!gnk! / ジェントルズ / 100%FUNNY / STAiL

5.13(Sun)大阪・心斎橋CLUB QUATTRO
Ball of Haunting Notes
W)Good Dog Happy Men / ランクヘッド / aeronauts

5/19(Sat)札幌KRAPS HALL
夢チカLIVE vol.29
W)THE LOCAL ART / THE GOOD TERMS(札幌) / and more!

MARS EURYTHMICS presents“City Connection”
ゲスト:toe / LOW IQ & BEATBREAKER

6.26(Tue)名古屋クラブクアトロ
OPEN 18:00 / START 19:00
前売 3,300 / 当日 3,500(d別)
(問)ジェイルハウス 052-936-6041

6.27(Wed)心斎橋クラブクアトロ
OPEN 18:00 / START 19:00
前売 3,300/当日 3,500(d別)
(問)スマッシュウエスト 06-6535-5569

7.02(Mon)渋谷クラブクアトロ
OPEN 18:00 / START 19:00
前売 3,300 / 当日 3,500(d別)
(問)スマッシュ 03-3444-6751

8.05(Sun)ROCK IN JAPAN FES.2007出演決定!

アルバムより「価値ある形」期間限定先行無料配信開始。

MARS EURYTHMICS OFFICIAL WEB SITE
http://www.baby-blue-records.com

MARS EURYTHMICSの皆さんから素敵なプレゼントがあります!

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