ギター バックナンバー

HIGH VOLTAGE×吉村秀樹(bloodthirsty butchers)('07年5月号)

HIGH VOLTAGE×吉村秀樹(bloodthirsty butchers)

left to right:佐藤弘坪(g)、吉村秀樹(btb)、高橋大望(vo, g)、吉岡貴裕(b)、菱谷昌弘(ds)

HIGH VOLTAGE初のフル・アルバム『1 (one)』をブッチャーズ吉村が一刀両断!
同郷の大先輩による御神託は、吉と出るのか邪と出るのか

──!?

メジャー進出後初のフル・アルバムとなる『1 (one)』を完成させたばかりのHIGH VOLTAGE。結成から5年、今持ち得る最大限の熱量を注ぎ込んだこの絶対の自信作をリスナーは果たしてどう受け止めるのか? 彼らがその判断を真っ先に仰いだのは、同じ北海道出身の大先輩であり、常に憧れの存在として在り続けるbloodthirsty butchersの吉村秀樹! まずはそんなリクエストを編集部に打診したメンバーの大胆極まりなさ、肝の据わり方たるや天晴れである(笑)。本文にある吉村のアドバイスは一見手厳しく聞こえるかもしれないが、それはあくまで吉村個人の意見であること、また吉村がHIGH VOLTAGEに対して現状に甘んじることなく更なる前進を遂げて欲しいと望むことの表れであることをご理解頂きたい。対談後に佐藤弘坪(g)がブログで「音源を聴いただけで自分のことを理解してくれて、神様かと思った」と書き記しているように、HIGH VOLTAGEにとっては非常に有益な対談だったのではないかと僕は自負している。(interview:椎名宗之)


俺の趣味で言えば、もうちょっとギターを拾いたい(吉村)

──インタビュアー

名前:アーティスト

吉村:俺がHIGH VOLTAGEで一番印象にあるのは、ヴォーカルの彼が江別酪農学園大学だっていう…。

高橋:「北海道の何処だ?」って吉村さんに訊かれて「江別市です」って答えたら、「酪農学園大学だろ?」って言い当てられて(笑)。

──ライヴでも何度か共演はされているんですよね。

吉村:そうだね。去年はベッシーホールの20周年イヴェントでも一緒だった。

──HIGH VOLTAGEの皆さんはブッチャーズの大ファンなんですよね。

高橋:もう大好きで。共演した時は挨拶するのも緊張して…。

──初めて共演したのは?

高橋:京都ですね。吉村さんがソロの弾き語りで参加された時で。

吉村:ああ、あの時の打ち上げはカラオケに行ったんだよね(笑)。終いには円卓に乗ってクルクル回ってたからね。

──HIGH VOLTAGEのメンバーはその時に初めて吉村さんの人となりを垣間見たと(笑)。

吉村:なんか俺、その時機嫌が悪くて、自分をダメにしていく自分っていうのを楽しんでたんだよね。それで最終的に自滅するっていう(笑)。

──今回は、そんな吉村さんにHIGH VOLTAGEのメジャー初のアルバム『1 (one)』を聴いてダメ出しをしてもらうという、この会議室が説教部屋に変わる大胆な企画なんですが(笑)。

吉村:でも俺、メンバーに対しては説教っていうより、「ホントはああしたいんだろ? もっとこうしたいんだろ?」っていうことしか言えないんだけどね。…どこから話そうかなぁ。前作も聴いたんだけど、あれはあれで生々しくて、「エッ?」とは思ったけど引っかかってはいたんだよね。なんか普通に練習してるみたいなヴォーカルの録りとか「何これ?」とは思った。でもね…ベードラとベースの鳴りはちょっとなぁ…っていうのはあったね。なんでもうちょっとスッキリしないんだろう? って思った。

──それは前作2枚のミニ・アルバム(『CORE』『SPIRAL』)のことですか。

吉村:うん。所詮カッコいいとは思うんだけど。で、今回はまぁ、せっかくメジャーになったんだからさぁ…もうちょっといいスタジオを使わせてあげて下さいよってスタッフには言いたいかな…。

一同:(笑)

吉村:お前(佐藤)、不満だろ? 自分のギターの音に対して。不満っちゅうか、自分のプレイがこの中にあるかって言ったら…。

佐藤:確かに、ライヴほどのプレイは出し切れてないのかもしれないですね。僕らはまず大望君が曲を作ってきて、そこにドラムとベースを合わせて、それからギターを合わせて作るんです。で、いざレコーディングになった時に「ああしてくれ、こうしてくれ」ってコロコロ変わっていくとギターも新しく作り直さなくちゃいけなくなって、自分でも訳が判らなくなってボカーンってなることが結構あるんですよ。そこを大望君に助けてもらったりしたのは結構あったんですけど。

吉村:誰がどういう役割でっていうのは判んないけどさ、俺はお前が一番不満なんじゃねぇかなって思ったけどな。俺がHIGH VOLTAGEのメンバーだったらね。

高橋:元々スリー・ピースでやってたんですけど、3人の時と4人になってからと曲作りの仕方が変わってないんですよ。だからちょっと(佐藤を)困らせちゃってるのかな? っていうのはありますけど。

──曲の出来に関してはどうですか?

吉村:うん、いいと思うよ。ヴォーカルがヘタクソでいいと思う。

高橋:(笑)ありがとうございます。

吉村:でも、今回のこの音の感じだったら自主で出してた時のほうがいいんじゃねぇかと俺は思った。ただ、マスタリングには随分助けられてるよね。

高橋:そうですね、マスタリングでかなりクリアにしてもらったというか。

吉村:何かね、一緒に作る人をちゃんと選んだほうがいいような気がするんだよなぁ。もうちょっといい人がいるんじゃないかって気がした、これを聴くと。

──では逆に、いいところを挙げるとすると。

吉村:素直だってことだね。前向きだし。だからもうちょっといろんな人に意見を聞いたらもっと良くなると思うよ。俺だったらもうちょっとスッキリさせたいなぁって思うね。そうすればもうちょっと音に隙間ができるっていうか、まだまだ伸びると思うんだけどなぁ。だからホントにお前(佐藤)がかわいそう。普段のライヴを観てたらこんなんじゃないのにって思うしね。でも…最初は判んないよな、やっぱり。人に作ってもらうとさ。これから色々試していったほうがいいよ。もうちょっと声を大きくしてさ。

──じゃあ、ブッチャーズ風に言うなら、まさに「ギタリストを殺さないで」っていうところですかね(笑)。

吉村:そうだね。もうちょっとエンジニアの人と戦って欲しいというか。

──エンジニアはずっと同じ方なんですか?

高橋:そうですね。

──今回、エンジニアの方とはどんな音作りにしようと話をしたんですか?

高橋:とりあえず全体的なイメージとしてはラウドにしようかっていう話をして、ドラムの音を先に決めて。ベースはラインなんでミックス段階で考えるんですけど、あとギターを決めて…って感じで。

吉村:でも隠れちゃってるよ、詰まって聴こえる。勢いは感じるからあれはあれでいいのかもしれないけど、やっぱりもうちょっとギターを拾いたいなって思うよね。でもそれは、あくまで俺の趣味で言ってることだからね。もっと違う捉え方をする人はいるだろうし。


次作は是非、吉村さんのプロデュースで!(高橋)

──HIGH VOLTAGEのほうから吉村さんに対して反論はありませんか?(笑)

高橋:いや、指摘して頂けるだけで有難いですよ。逆にお訊きしたいんですけど、ブッチャーズのレコーディングはどんな感じでやっているんですか?

吉村:それはねぇ…気まぐれなんだよね(笑)。音決めに関しては、ある程度ちゃんと録ってくれればそれでいいかなっていう。あとはメンバーがちゃんと考えてくれるから。だからエンジニアに関しても、最初の頃は訳判んないから作ってくれて有難いと思ってたんだけど、途中からは「許せないものは絶対に許さない!」っていう感じになったよね(笑)。でも、誰か一人でも第三者的な立場の人がいてくれるといいと思うよ。

高橋:でも、自分達で録ったこともないんで…。

吉村:普通は録れないよ。巧いヤツは録れるけど、俺は無理だなぁ(笑)。ああだこうだ言ってるだけだから。

菱谷:バスドラとかベースも、もうちょっと迫力が欲しいなぁとは思ってるんですよ。

吉村:ちゃんと録ればいいと思うよ。ちゃんと録ってからその後に考えればいい。

菱谷:じゃあ、録り方をスッキリさせちゃえば、あとはどうにでもなるって感じなんですかね。

吉村:うん、音としてちゃんと録れてればそれでいいんじゃないかな。そのうち自分達で音も作れるようになるだろうし。俺個人としては、もうちょっと隙間が欲しい感じはするよね。

高橋:やっぱり、何が難しいってみんなの意見をまとめるのが一番難しいんですよね。

吉村:だから、そういう時に誰か一人いてくれると助かるんだよ。

高橋:そうですね、中立的な立場の人がいてくれると。レコーディングを毎日やっていると、やっぱり自分達でも判らなくなる時があるんですよ。判断基準がどこにあるのかっていうのが。そうなってくると、みんなの意見が出てきてまとまらなくなるんです。

吉村:俺は長いこと自分のバンドをやってきて自分の音は判断できるようになったけど、それでもやっぱり一人欲しいもん。確かに、自分でも判んなくなるよね。

高橋:ブッチャーズは、各パートはそれぞれが自分で音を決める感じなんですか。

吉村:うん。まぁ、どうしても「ダメだろうそこは!」っていうところは言うけど、個々で意図した考えがあれば説得力はあるよね。まぁとにかく、エンジニアやディレクターとかともっと戦うべきだよ。判んないことがあったら人に訊くべき。で、譲らないところは絶対に譲らないっていうのは持っておいたほうがいいよ。自分の落としどころっていうのを。「俺達はこんなんだぜ!」っていうのを叩きつけられれば、もっといいものが録れると俺は思うよ。

高橋:ブッチャーズは1枚録るのにどれくらいの期間を掛けるんですか?

吉村:録るのは早いよ。もう何年もやってるからね。

高橋:僕達は結構長いんですよ。考えられないくらい長い。

吉岡:リズム隊だけでヘタしたら3日くらい掛かる時もありますから…。

吉村:…み、3日ッ!? それは掛けすぎだよ!(笑)

吉岡:自分自身でジャッジできなくて、自分で「こうだ」っていう明確な答えを出せなかったのは良くなかったかなと思うんですけど…。

吉村:だからそれをさ、ヴォーカルがもっとギター寄りになって、リズム隊はリズム隊でやって…みたいに分けてやったほうがいいかもよ。なかなかギターを出すのは大変だよね。聴かそうと思ってもヴォーカルもあるしさ。そういう意味で、今はギターが犠牲になってるのかもしれないよね。でもせっかく4人いるんだから、ちゃんと4人の音を出さなきゃ。

高橋:やっぱり、いろんな積み重ねだと思うんですよ。コンプで出せば素人には迫力あるように聴こえるんですけど、それをいざ「音として迫力あるようにして下さい」って言っても、エンジニアさんも困ったと思うんですよ。クリアに聴かせたいっていうのはあるんですけど。

吉村:リズム隊はもうちょっとスッキリさせて、瞬間を狙っていったほうがいいと思うよ。

高橋:ちなみに、吉村さんはどこまで曲を作り込んでからメンバーに渡すんですか?

吉村:もう…ないところからだよ(笑)。なんにも考えないでスタジオに行く時もあるし。それはでも、バンドによってやり方が違うからね。ちゃんと作る人は事前に作ってくるし。

高橋:僕達もそんなにちゃんとしてないですよ。コードとイメージとメロディくらいですから。それでスタジオに入って適当に弾く感じなんです。

吉村:それだけあれば大したもんだよ。俺なんかメロディすらない時あるもん(笑)。まぁ、最初は右も左も判んないんだよ。でも、せっかくいい環境にいるんだからさ、そこでもうちょっと戦って、自分のパーツを探し出したほうがいいと思うけどね。基本的に、音を作る上で理屈を言うエンジニアはあまり良くないと思う。「こうだからこうで…」とか理論的なことを言う人はあまり良くない。妥協しちゃダメだよ。

──HIGH VOLTAGEは今年で結成何年でしたっけ?

菱谷:5年ですね。

吉村:俺だったら5年でこんなの作れてなかったよ(笑)。全然無理。でもさぁ、ダメ出しって言ったって、俺もバンドマンだからHIGH VOLTAGEの気持ちも判るし、音作りのほうもやってるからエンジニアの気持ちも判るし…。バンドが「ああしたいんだろうな、こうしたいんだろうな」っていうのは判るけど。でも、5年でここまでできたら上等だよ。だからもっともっと追求したほうがいい。妥協するポイントっていうのが人とズレてるといつまでも時間が掛かるけどさ、「ここだけは譲れない!」っていうのがないと。他のどうでもいいところなんかどうでもいいんだよ。

──HIGH VOLTAGEにとって“絶対に譲れないポイント”っていうのはどんなところですか。

高橋:全部をちゃんと一枚に閉じ込めるっていうところですかね。今のバンドの状態をアルバムに閉じ込めるっていう。

吉村:だったらこれは中途半端かなぁっていう気がしたけどね、俺は。でもまだ5年だからなぁ…。3年も5年も20年も変わらないんだけどね、ホントは。ただ、一枚にパッケージするっていうのは大変な作業だからね。やっぱりもうちょっとヴォーカルとギターを聴きたいかなぁって俺は思った。とにかく「妥協するな!」ってことだね。あとは当たって砕けるしかないんじゃない? 大変だとは思うけど。まぁ、これからいろんな意味で汚れていくと思うんだよ。だから…「汚れていって下さい」って感じかな(笑)。汚れていくことで自分の大事なものが残るから、絶対に。…って俺、ちゃんとアドバイスできてるかな?

高橋:もう充分に(笑)。音作りの面とかは凄く勉強になりました。

吉村:まぁ、せっかくだからさ……元気出して行こうよ!(笑)

高橋:頑張ります(笑)。次のアルバムは是非、吉村さんにプロデュースをお願いしたいですね。


1 (one)

first full album
1 (one)

Sony Music Associated Records AICL-1827
3,059yen (tax in)
6.06 IN STORES
★amazonで購入する

Live info.

6月1日(金)大阪福島Live SQUARE 2nd LINE
6月2日(土)福岡Drum Be-1
6月5日(火)盛岡CLUB CHANGE WAVE
6月6日(水)仙台CLUB JUNK BOX
6月9日(土)CLUB CITTA'川崎
6月10日(日)渋谷屋根裏
6月17日(日)高円寺CLUB LINER
7月4日(水)渋谷O-Nest
7月6日(金)名古屋SONSET STRIP
7月7日(土)大阪十三ファンダンゴ
7月14日(土)神戸ART HOUSE
7月17日(火)下北沢SHELTER

HIGH VOLTAGE OFFICIAL WEB SITE
http://www.high-voltage.jp
http://www.sma-pioneers.com/highvoltage

posted by Rooftop at 13:00 | TrackBack(0) | バックナンバー

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