ギター バックナンバー

bloodthirsty butchers('07年5月号)

bloodthirsty butchers

不撓不屈のクソッタレ精神ここに在り!
成年に達したブッチャーズが踏み出した大いなる“イッポ”

bloodthirsty butchersという不世出のバンドの音楽を同時代で享受できる我々は「こんなに素晴らしい世界に生きている」(「Yeah #1」)と胸を張って言えるのではないだろうか。
彼らの通算11作目となるオリジナル・アルバム『ギタリストを殺さないで』を繰り返し聴くにつけ、つくづく僕はそう感じる。
今年、バンド結成から晴れて成年に達した彼らが提示した新たなる“イッポ”=『ギタリストを殺さないで』には、彼らがこれまで発表してきたアルバムのエッセンスがすべて詰まっている。
今も昔も変わらないのは、“bloodthirsty butchersの最高傑作は常に最新作にある”ということだ。
ブッチャーズ若葉マークの人に「何から聴けばいいですか?」と訊かれれば、僕はいつも迷うことなく最新作を挙げる。今なら『ギタリストを殺さないで』を挙げる。最新作こそが常に先鋭的でスリリングで、文句なしに恰好いい……そんなバンド、国内外を見渡してもそうそういるもんじゃない。
それはひとえに、彼らが今ある評価や名声、現状に甘んじることなく、常に変化を恐れず音楽と向き合いながら前進し続けてきたことに起因する。
だからこそ、成人したにも関わらずブッチャーズの音楽はいつまでも赤子のように瑞々しく、純真であり続けることができる。
この『ギタリストを殺さないで』に収録された楽曲の鮮度の高さは、ブッチャーズが2度目の成人を迎えた頃にもきっと失われることはないだろう。
bloodthirsty butchersというバンドが存在する限り、僕は音楽の魔法を信じることができるのだ。(interview:椎名宗之)


バンドとしての音楽的な姿勢は変わらない

──20周年を迎えての率直な感想からお伺いしたいのですが。

吉村:早かったなぁ…。とにかくあっという間だったね。

──小松さんが加入してから数えても18年、吉村さんと射守矢さんに至っては小学校からの付き合いになるわけで。

吉村:そうなんだよねぇ。

射守矢:ヘタしたら家族よりも一緒に長くいるもんね。

──でも、バンドにとってはあくまで通過点にすぎない感じですか。

吉村:そうだね。20周年ってこと自体にも疑惑が出てきたんだよ。「ホントは21周年なんじゃない?」ってメールがとあるところから来て(笑)。どう考えてもおかしいよね、俺が20歳になる前からバンドを始めてて、今40歳だから…21周年? でもまぁ、そんなのほっとけよって感じだけど。

──その辺は無頓着であると(笑)。ひさ子さんが『荒野ニオケルbloodthirsty butchers』発表後のツアー中に正式加入されてからも早4年が経つんですね。

田渕:5年目に入りましたけど、まだまだですねぇ…(笑)。でも改めて4年と言われると、もっと前からいたような気もします。

──確かに。20年の重みを感じさせないところが如何にもブッチャーズらしいと思うんですが。

吉村:なんせまだまだヒヨッ子ですから(笑)。

──そんな祝いめでたな20周年の節目として、通算11作目となるオリジナル・アルバム『ギタリストを殺さないで』が遂に発表となるわけですが。何度かレコーディング現場にお邪魔させて頂きましたけど、すこぶる快調に作業が進んでいるように見えましたね。

吉村:曲をちゃんと作ってからレコーディングに入ったからね。練習してから入らないと、現場でモタモタできないから。だから順調には見えたんじゃない? そのためにちゃんと曲を作ったからね。今までの経験上ちゃんと考えて、できるところはちゃんと予定通りというかね。音の狙いとかも自分達で判ってたからね。問題はその後の歌だったんだけど、それもSTUDIO VANQUISHが協力してくれてうまいこと行ったからね。そこで時間的にもっと詰まってたりしたら、もっとギスギスしたアルバムになってたかもしれないけど。

──前作『banging the drum』は、タイトルに反して実は射守矢さんのベースに焦点を当てた名作でしたけど、次作の構想を吉村さんに尋ねた時に「次はギターを殺さないアルバムにしようと思ってる」と仰っていましたよね。

吉村:うん。その通りにしましたよ(笑)。

──でも、そこまでギターの音が際立って前面に出ているわけでもないですよね? 各パートのバランスは整合性が取れていると思うし。

吉村:そこは色々ね。清志(エンジニア)も良い意味でまだ若いから、邪心というものがないだろうし(笑)。勢いを大事にしただろうし、そこで俺達との折り合いがついたんだろうね。追求すればもっと違ったこともできたんだろうけど、そこで訳の判らない「これやったらどうなるんだろう?」みたいな変な追求はしてないんだよね。前作とかと比べると、表現としたら判りやすいかもしれない。前作みたいなことをずっとやろうとしたら頭が破裂しちゃうからね(笑)。そういった経験も経てレーベルを新しく作って、なるべくストレートで行きたかったというか。まぁ、そうは言ってもストレートではないんだけど(笑)。

──直球で行こうとしたら、結果的にはブッチャーズらしく変化球になったと(笑)。じゃあ、その若手のエンジニアの方とは相性が良かったわけですね。

吉村:そうだね。俺がやりたいことを踏まえつつ、彼が「ああしたい、こうしたい」っていうのもあったから、そういう引き出し方を俺とできたのは良かったなって。

──今回の自主レーベル“391tone”の立ち上げにはどんな意図があったんでしょうか。

吉村:結局、自分達でやらなくちゃいけなかったんだよね。自主でやるっていうのはメンバーの中でもう決めていたことではあったんだけど、体勢とか資金繰りとか判らない部分もあったから。色々どうしたらいいんだろうっていうのがあって、でもやっぱりやらなくちゃってところで何とか折り合いをつけて。まぁ、進めていくとそれなりにできるんだよね。ただ、アルバムのクオリティを落としたくないっていうのが絶対にあったから、最後の最後で勉強するところっていうのは多々あるんだけど。ジャケットひとつにしても、全部自分達の手でやったからね。

──色々と煩わしいことはあるでしょうけど、でも凄く前向きなことですよね。

吉村:まぁ、前向きではあるけどね。もうちょっと色々判ってなきゃいけないんだけど、それはまだこれからだよね。とりあえず第1弾のアルバムを出すにあたっては、クオリティを落としたくないっていうのがあったよね。でも、みんなも実際にどうしたらいいのか判んないっていうのもあったし…。

──最初は手探りでやって行くしかない部分も多々ありますよね。

射守矢:まぁ、今回は自主レーベルでやるっていうのが前提だったから、そこでじゃあどうしましょうかっていうのがあって。さっき前向きだと言って頂きましたけど、前向きにならざるを得ないって言うか(笑)。後ろを見られない状況ではあった。そんなヒマねぇよ、みたいなね。

小松:自分達でやったら良いも悪いも全部自分達に跳ね返ってくるし、いろんなことが見えてくるから、僕らに合ってる感じはしたよね。いろんな人と絡んでやるのはこれまでも散々やってきたから、そういう部分も残しつつではあるけど、とにかく自分達でやってみようっていう。あと、この歳になってまだそんなことをやるっていうのが普通と違うのかもしれないけど(笑)、この歳だからこそできるっていうのもあるし、まぁいいんじゃない? って感じ。

吉村:それを普通、この歳になってなかなか嬉しいこととして受け止められないじゃない?(笑) 迷いもなく言えるのは時間が経ってからで、徐々に「これでいいのかな? いいんだ!」ってなっていくものだよね。最初から成功するならとっくの昔にやってるわけで。まぁ、この先どうなるか判らないけど、バンドとしての音楽的な姿勢っていうのは変わらないからね。だから、自主レーベルを立ち上げてもやることは同じって言えば同じだよね。

田渕:私は、自主レーベルっていうのはブッチャーズには合ってると思う。でも、大変なのはナベちゃん(マネージャー)かなって(笑)。

小松:今のこの4人とナベちゃんがいるからこそできるんだよね。ちゃこちゃんが入る前の3人でもっと若い頃だったら絶対に無理。全部どんぶり勘定で大変なことになってたと思う(笑)。


前作よりも自分の中の何かのハードルは超えた気がする

──それにしてもこの最新作、次のツアーはアルバムの収録曲を全部そのまま演奏するだけでいいんじゃないかと思うくらい聴きどころが多いですよね。

吉村:ライヴがそれでいいならそんなにラクなことはないよ(笑)。

──まず特筆すべきは、小松さんが「ムシズと退屈」で晴れて作詞デビューを果たしたことですね。

吉村:うん、20年かけてようやく。目出度いですね。

──小松さん、これまで作詞経験はありませんよね。

小松:中学生くらいの頃に、前のバンドで書いたことはありましたけどね(笑)。

──これはつまり、吉村さんが作詞に煮詰まって「ちょっとおまえ書けよ」みたいなことですか。

吉村:まぁ、そういうことだね(笑)。

小松:でも、割と早い段階で「これはおまえね」みたいな感じで言われましたけど。

──かなり試行錯誤したんですか。

小松:まぁしましたけど、そうは言っても1曲なんでね。

吉村:詰めの部分でいっぱいダメ出しをしたんだけど、あんまり伸びねぇなって(笑)。まぁ、それはそれでいっか、と。

──「ムシズと退屈」なんて特異な言葉は、まさに小松さんならではと思いましたけど。

吉村:おまえ、どっからパクった?

一同:(笑)

小松:好きな言葉とか、そういうところから入っていったんですよね。自分が聴いてて好きな歌詞とかでも、全部が好きっていうよりは「この一行が好き」とか、そういう感じなんで。

──あと、個人的にもの凄く好きな「story」という曲なんですけど、一聴してすぐに射守矢さんのメロディだと判りますよね。これまでに射守矢さんが主たるメロディの断片を担った「happy end」、「地獄のロッカー」、「アカシア」、「rat music for rat people」などに通ずる憂いを帯びた感じがなんとも言えない曲で、やはり射守矢節は独特だなと。

吉村:一言で言うと、暗い!(笑)

射守矢:(笑)まぁ、曲として渡すっていうことはないんだけどね。フレーズを渡して、それにメロディがついて…っていう感じで。どうしても暗いフレーズを渡すから暗い曲にはなるよね(笑)。でも、アルバムのバランス的にはそういう曲があってもいいんじゃないかと。

吉村:そういう射守矢っぽさはあったほうがいいよね。

──その、射守矢さんが持ってきたフレーズを吉村さんがまとめる共同作業というのは謎が多いんですよね。

吉村:結構ガッチリ決めてくるんだよ。でも色々と謎が出てくるから、そこから謎解きというか、出口を探すんだよね。で、完成したらそこで「もうちょっと何か考えてよ」とかさ(笑)。そこでいつもグルグルグルグルしちゃうんだけど、それが良くも悪くもメロディとかに表れてくるよね。今回唄い切れたのはラッキーだったけどね。歌として成立するのかっていうのが最後まで判らなかったから。

──歌といえば、今回はタイトル曲や「アハハン」、「ムシズと退屈」で聴かれるひさ子さんとのツイン・ヴォーカルも聴きどころのひとつですね。

田渕:段々増えてきてますね。

吉村:結局、俺が全部そうやって人に振って、いろんな作業から逃げてるっていう(笑)。

──レコーディングの最中は「チャゲアスだから」と仰ってましたけど、どちらがチャゲなんでしょうね(笑)。

吉村:今のところ俺がチャゲなんだよね。「ギタリストを殺さないで」では、俺はチャゲの気持ちで唄ってたけどね。

一同:(笑)

──じゃあ、ひさ子さんが飛鳥 涼ということで(笑)。

吉村:実は俺が裏方っていう。でも、Aメロは俺がメインなのに、サビになると俺がチャゲになるっていうのがいいでしょ?(笑) そういうのを考えるのも楽しいんだよ。

──これだけひさ子さんのヴォーカルが増えたら、次のアルバムでメインで唄う曲があってもおかしくないですよね。

吉村:だからヴォーカルできるじゃんっていうところでtoddleも進んでるし、次はどうしようかっていうのはあるけど。ただ、一筋縄では行かないぞっていう。ツイン・ヴォーカルっていうのは表現としても面白いよね。

──20周年を迎えて、自由度がさらに増している感がありますね。

吉村:やっぱり4人になったんだし、4人の音っていうのがあるし、それは当たり前に反映されてくるよね。これで誰かピアノでも弾けたら最高なんだけどね! そこまではなかなかね…。

──でも、鍵盤は普段吉村さんが弾いているんですよね?

吉村:あんなの適当だよ! あとはひさ子が弾いてくれたりもするけど。

──あと、「ホネオリゾーン」での原さん(原 昌和/the band apart)のコーラスもアクセントが効いていいですよね。

吉村:でもあれはねぇ、せっかく最後の部分をハモってくれてたのに原のヴォリュームが小さかったみたいで、唯一そこだけはちょっと後悔してるんだよね(笑)。

──『ギタリストを殺さないで』と言うからには、ギターの鳴りの部分で特に気を留めた点があったんですか。

田渕:いや…いつも通りですね(笑)。

──吉村さんとひさ子さんのパートの振り分けは、やっぱり吉村さんが最初に決めるんですか。

吉村:まずサラっとやってみて、必要なところは「あれやってみて」とか言うんだけど、自分の中で確実に良いフレーズっていうのをまず押さえてみる。あと、足りないところはダビングしたりとか。

──ダビングといえば、今回ヴォーカルはほとんど手を加えていないそうですね。特に「story」は吉村さんの地声に近い、凄く素直な感じが出ていて非常に効果的だったと思いますが。

吉村:それはエンジニアとのやり取りでそうなったんだよね。そうなると自分の納得が行くまで何回も唄わなきゃならないんだけど、「そこはそのほうがいいですよ」って言われたら「じゃあそこはそれで」っていう感じで進めていった。

──じゃあ、歌はこれまでになく何度も録り直したわけですね。

吉村:そうだね、結構唄い込んだよ。3日続けて歌入れしたら、3日目に声が出なくなったもんね。だからかなり唄ったんだろうね。

──吉村さん、音域が広がっていませんか? 今回は特に無理なく凄く伸び伸びした感じで唄えている印象を受けましたけど。

吉村:自分じゃそれは判らないけど…。でも、前作よりも自分の中の何かのハードルは超えた気はするかな。それはやっぱり、エンジニアとのやり取りでそうなったんだろうね。




この曲が出来なかったらもうバンドをやめる!

──先月号のインタビューで、「『story』がどういう作りになってるのか、まだ自分でも理解できていない」と仰っていましたけど…。

吉村:そうだね。でも、その後ネイキッドロフトでソロの弾き語りをやって、だいぶ掴めた感はあったけどね。「ああ、こうじゃないのね」みたいな。そっから先を分析できればいいんだけど、あまりコードを知らないから判んない(笑)。

──20年選手が何を今さら(笑)。僕が新大久保のFREEDOM STUDIOにお邪魔した時には、「イッポ」が最初に出来ていましたよね。ブッチャーズが21年目の一歩を踏み出すという意味も含めて、非常に重いテーマの曲ですよね。

吉村:そうだね。曲は一番最初に出来て、歌詞は一番最後だったんだけど、完成させるのに結構苦労したんだよ。

──「この曲が出来なかったらもうバンドをやめるぞ!」とメンバーに宣言したと聞きましたが。

吉村:「この曲を仕上げるぞ!」っていう勢いを出そうとしてたんだよ。そういうふうにしていかないと、自分の勢いもついていかないからね。

──その場の空気が凄まじく張り詰めそうですけど…。射守矢さんは付き合いも長いから「ああ、怒ってるな…」とか感じたりしたんですか。

射守矢:いや、そこまでナメてないよ(笑)。真剣なんだなっていうのがちゃんと伝わるからね。「イッポ」に関しては、小松には「もう何もするな」って言ってたんだよね。

小松:そう、でもそのくらいのほうが判りやすかったし、そのほうが俺もいいなって思って。

吉村:小松のプレイ・スタイルからすると、「何もするな」って言われるのが一番難しいんじゃないかと俺は思うんだけど(笑)。

小松:確かに他の曲だったら難しいけど、この曲だったら逆に何もしなくても全然行けるって思ったんですよね。

──凄くシンプルな曲だからこそ難しさがあったと思うんですが。

射守矢:聴いてもらったら判るんだけど、「ジャジャーンってやってくれ」って言われて、「俺、ベースなんだけど!?」みたいなね(笑)。

吉村:ベースは音が詰まっちゃうし、どうしようかなぁって思ったんだけど…。

田渕:私も、「ガシャーン、ガシャーンってやって」って言われて、“ガシャーン”ってなんだ!? って思って(笑)。「こういう感じ」っていうのが吉村さんの頭の中にはあるんだろうけど、そこに辿り着くのに時間が掛かったような気がします。

小松:コード感っぽいのは吉村さんがやっちゃってるから、じゃあ他の2人はどうするんだ! みたいなのはありましたね(笑)。何を入れればいいんだ、みたいな。

──リーダーからの擬音での注文というのは日常茶飯事なんですか?(笑)

田渕:多いよね(笑)。

小松:凄く多いと思う。でも地域性なのかどうか判んないけど、俺もアイゴン(會田茂一)とかと話してる時に擬音を使うと、「それ、どういう感じ?」って訊かれることが多くて。多分、この3人(吉村、射守矢、小松)の間だったら通じるんだけど、他の人は判らない擬音っていうのがあるんだと思う。九州は九州の擬音があるのかもしれないし(笑)。

射守矢:吉村がイメージを言葉にする時は、具体的には言わないんだよね。言えないわけじゃないんだろうけど。

小松:俺のイメージはそんな言葉ひとつじゃ言わない、みたいなのもあるんだろうし(笑)。

田渕:あと、受け取る側のイメージっていうのも入れて欲しいっていうのもあると思うし。

──のりしろを残しておいて、その人の良さを引き出すみたいなところが吉村さんにはありますよね。

田渕:それは絶対あると思う。

小松:「そういう考え方もあるんだ」っていう部分を受け入れられるところはありますよね。だから言われたほうも怒られてるわけじゃないっていうのは当たり前に感じるし。そんなんだったら、もっと全然違うバンドになってると思うし。

──何も知らない人は、ブッチャーズを吉村さんのワンマン・バンドのように思いがちですよね。

小松:全然そんなことないですよ。そういうバンドは他にいますから、もしそうならそんなバンドになってると思うし。

射守矢:誤解しちゃってる人はいっぱいいるけどね。

──そうやってハッパをかけて「イッポ」を完成させたというエピソードはとてもブッチャーズらしいですよね。ピンチを如何に切り抜けるかを命題に掲げたバンドというイメージがブッチャーズにはあると思うんですよ。

射守矢:それはまぁ、吉村の言葉を借りるならば“クソッタレ精神”ってことだよね(笑)。

──「イッポ」の他に手こずった曲というのは?

田渕:射守矢さんのベースのフレーズが最初にある曲っていうのは難しいんですよね。逆から作ってるような感覚なんですよ。ギターが最初にあって、みんなでなんとなく作っていくのと違って、なんかでっかいものが最初にあって、そこから逆に作ってるみたいな。

射守矢:ブッチャーズの曲の中にはそういう作り方をするものもあるんだけど、きっとやりづらいんだろうなぁとは思うね。普通、ベーシストでも曲を作る時はギターで作ったりするのかもしれないけど。俺は逆にギターが最初にあるとやりづらい(笑)。

──よく指摘されることですけど、ブッチャーズはベースの特異性が際立っていますからね。

田渕:そう、ギターが3人みたいな感覚ですよね(笑)。

──「神経衰弱」が射守矢さん主体の曲だというのはちょっと驚きましたけど。陰か陽かで言えば陽の曲ですから。

射守矢:でも、フレーズは陰なんだよ。

田渕:ベースだけ聴くと、こんな明るいギターが付くとは思えないような…。ベースのフレーズを聴いて、なんとなく普通にギターを合わせただけじゃ恰好良くならなくて、ガラッと変えて合わせたら良くなったような気がします。

──つくづく面白いバランスで成り立っているバンドだと改めて思いますね。小松さんは、今回も吉村さんから細かくドラムの指示を出されたりしたんですか。

小松:いやいや、そんなこともないですけど(笑)。

吉村:でも、未だに8(エイト)感とかは言うけどね。唄いやすさっていう部分で。あと、音がでかくなくちゃダメだっていうのがあるから、普通のバンドだったら8ビートは軽やかでいいのかもしれないけど、俺達が8ビートをやるとドタバタになるのは判るし、そういうノリもありつつ唄いやすさもありつつ音もでかくするんだっていうのは今もよく言うね。普通だったら全然必要のない指示を出してるのかもしれないよね(笑)。

小松:ブッチャーズの中でいわゆる8感っていうのはあまりないとは思うんですよね。俺もそんなに得意ではないし、やったこともないし。でも8感って人それぞれであって、射守矢さんも当たり前の8感っていうのは絶対やらないし。

吉村:そうそう。だからどこにも折り合いがつかないっていう。

小松:そういう当たり前の8ビートをずっとやってこなかったから、他のバンドの人に「変わった8だね」と言われることはある(笑)。

吉村:まぁ、実際そうでなくちゃダメなんだろうけど。社会的な8ビートに対する歪んだ感じというか。

小松:「こだわりの8」っていうのは多分人それぞれあると思うから。でも、そういうところがブッチャーズではホントに難しい。あと、「アハハン」のタイム感とかは凄く難しかった。タイム感を変えるっていうのが俺はホントにできないから。

吉村:それはかなり言ったよね。「アハハン」に関しても「イッポ」に関しても、4つ打ちドラム感っていうのは。「アハハン」は俺達の中で流行りの音楽なの。ギタポ! 言うなれば“ドッチタッチ、ドッチタッチ”みたいな感じ(笑)。でも、俺達がやるとこうなるっていう。ちなみに、「イッポ」は俺達流の「サティスファクション」だからね(笑)。

一同:(笑)

吉村:発想と出してるものがまんまだったら面白くないでしょ? そこが深いところなんですよ。「○○っぽく行こう」って言っても、そうはならないのがいいんだよ。で、いざやってみたら「チャゲアスとかダ・カーポみたい」とかさ(笑)。


自分達を幸せにするよりもアウェイで闘っていきたい

──1曲目の「yeah#1」にある「こんなに素晴らしい世界に生きている」という歌詞は、さっき射守矢さんが言ったブッチャーズの“クソッタレ精神”ここに在りという感じですよね。

吉村:そうだね(笑)。でも、そのまんま取ってもらってもいいし、曲がって取ってもらってもいいし。「歓喜を上げて行こうか 叫ぼうじゃないか」ってあなたに言ってるわけじゃないからね、って。こっちは独り発狂だからね(笑)。「あなたと一緒に“yeah”って言おうぜ!」っていう気はさらさらなくて。

──来月から始まる全国ツアーはどんな感じになりそうですか。ライヴでやるとなるとプレイが難しい曲もあると思うんですけど。

小松:「story」とかは結構難しいですね。

射守矢:俺は全部難しいですよ。

一同:(笑)

射守矢:毎回言ってるけど、今回は特に難しい。

吉村:俺は意外とラクなの。歌のズレがあまりないから。大変かなと思ったけど、意外とそうでもなくて。

田渕:私は「アハハン」以外の曲は平均点が上がってきたんですけど、「アハハン」に関してはなかなか…。弾きながら唄うのも難しいし。ユニゾンだから自分の声を拾うのも難しいし。ハモってるほうがまだいいんですけど。

──本作はライヴ映えする曲が特に多いので楽しみです。今年は20周年ということで、スペシャル・イヴェントも目下計画されているのでしょうか。

吉村:その辺はマネージャーとも話したりしてるんだけど、自分達を幸せにするより、やっぱりアウェイで闘っていきたいっていうのがあって。自分達の企画なのにアウェイとかね(笑)。それでこそ幸せ感みたいなのも出てくるんじゃないかと。まぁ、何かやることはやるんだけど、端から見たら「ええッ!?」って思うところから始めるかもしれないよね。それが終わった後で20周年っぽいことを何かちゃんとやるかもしれない(笑)。地方とかにも行けたらいいなと思うし。でもそんなに細かくも回れないから、来てくれ! っていうのも思うけどね。近くに行った時はお願いします(笑)。

──アウェイのライヴのほうがやはり燃えるものなんですか。

射守矢:俺は基本的に燃えるとかっていう感覚がないからね(笑)。

小松:むしろ避けたい、みたいな(笑)。でも、射守矢さんはたまに動きが激しい時があって、「酔っ払ってんのかな?」って思いますけど(笑)。

射守矢:(笑)まぁ、アウェイでもやり始めちゃったらあとは自分がどう楽しめるかで。何も知らないで出ていって「なんだこの雰囲気?」って思ったら冷めちゃうんだけど、基本的には自分が楽しければいいかな、っていう。

小松:僕は昔は雰囲気とかも気にしたんですけど、最近はそうでもないですね。客観的に「今の瞬間、恰好いい!」と思える時が多くあればそれでいいです(笑)。

──演奏中のひさ子さんは凄くクールなので、テンションが上がっているのかどうか判りづらいんですが(笑)。

田渕:端から見ると変わりがないように見えるんじゃないかとは思いますけど(笑)、アウェイでもホームでもどっちも好きです。「ワァ−!」って言われて楽しい時もあるし、なんにも言われなくても自分が「ワァ−!」っていう時もあるし(笑)。でも、お客さんを見るのは凄い好きなんです。イントロで「俺の曲が始まったァ−!」みたいな顔をする人を見つけたりするのが面白くて好きですね(笑)。

──ああ、オーディエンスの表情は意外とステージ上から見えるものなんですね。

田渕:私は見ますね。お客さんの様子を見るのが好きです。一番前にいる女の子の顔をじーっと見たりとか。

吉村:…まぁ、一番前にいるのにつまんなそうな顔してるヤツとかは後ろ行けよって思うけどね。あれは逆効果だよね。お客さんもそれなりに気を使ったほうがいいんじゃないかと思うけどなぁ…。ライヴは自分達だけじゃどうにもできないこともあるからね。

──ジャケットは今回も奈良美智さんのイラストですが、これは吉村さん自ら片道5時間かけて奈良さんが滞在していた金沢まで受け取りに行かれたんですよね。

吉村:家から換算したら6時間だよ、6時間。半日以上電車の中(笑)。

──しかも日帰りで(笑)。前作に続いて、奈良さんの絵で行こうと最初から考えていたんですか。

吉村:前に「次のもやってね」って言ったら「うん、いいよ」なんて言ってくれて(笑)。

──一度アルバムを聴いてもらってから描かれた絵なんでしょうか。

吉村:「描いたよ」ってメールが来たんだよね。眼帯してる女の子の絵は記憶にあるんだよ。それを見た瞬間に親近感が湧いてきたんだよね。カンバスに描かれた絵だから写真を撮らなきゃいけないんだけど、「撮れば?」って言われて、「じゃあ自分なりに撮ってみます」って言って。この作業がまた勉強になったというか…。なかなか思ったようにならないなぁと思ってね。人の意見とか色々取り入れたりしなきゃいけないし、でも自分でも妥協できない部分もあるし、色々あるんだなぁ…って。初心者で何も判らないなりにもガッツで!

──あの眼帯は、実際に絵に貼り付けてあるんですよね。

吉村:ホンモノの眼帯ではないと思うけどね。だから絵なんだけど写真でもあるし、せっかくだから写真っぽくしたいなっていうのもあったから、紙の選択とかも迷ったし…素人だから判んないし、難しかったよね。だから最初はホントに困って、ギターと奈良さんの絵を持って近所の公園に行って、とりあえず自分で撮ってみることにした。その時に撮った写真はブックレットに使ってるんだけど。ひさ子に手伝ってもらって、絵を傷つけないようにして絵を隠しながら公園に持って行ったんだけど、絵とカメラとギターを持って公園なんかに行ったら、まるで変なおじさんだよね(笑)。公園にいる人とかが「何それ?」とか声を掛けてきたりして。でも、それを一切無視して逃げながら撮った(笑)。

──吉村さんのカメラ好きが高じたこともあるとは思うんですけど(笑)、奈良さんの絵を吉村さんが撮影することに凄く意義がありますよね。お2人の共同作業とも言えるし。

吉村:でも、ホントに困ったよ。このちょっと青味がかったのとかはホントにいいんだけど、偶然なんだよ。これが普通に通用するかって言ったらそれは判らないよ。何しろ普通が判ってないんだから。

──でも、結果的には非常に魅力的なパッケージに仕上がりましたよね。

吉村:まぁ、そのために一生懸命作業したわけで。中身を聴いて欲しいからこそ、そういう部分にもこだわったし。でも、この写真を『アサヒカメラ』の投稿欄に出したら「もっとこうしましょう」のコーナーに入れられるのかもしれないけどね(笑)。

──月並みではありますけど、一人でも多くの人に聴いて欲しいアルバムですね。

吉村:そのためにはライヴをやらないとね。あとはこういった誌面にも載せてもらったりとか。でも余計なことは要らないから、そこからどうやって聴き手に辿り着くかってことだよね。

──最後にひとりずつメッセージを頂いて締めましょうか。

射守矢:まずはアルバムを聴いて下さいっていうのが一番ですね。まぁ、20周年とは言っても相も変わらずこれからもずっとやっていくんだろうなぁということもありつつ、今の時点で一番新しいこのアルバムを聴いて下さいということで。

小松:あまり20周年とかは関係ないのかもしれないけど…音楽性の幅を広げていくことを目標にはしているんだけれども、それとは反対に自分自身との闘いになってきている感じは年々凄くあるので、もっと自分も頑張っていかないといけないなっていう…(笑)。

田渕:えーと……アルバムを聴いて欲しいということと、ライヴを頑張ります。……すいません、手短で(笑)。

吉村:俺は……『ギタリストを殺さないで』っていうことですかね(笑)。

pix by アカセユキ(LOFT PROJECT)


ギタリストを殺さないで

ギタリストを殺さないで

391tone enot-39101
2,940yen (tax in)
5.16 IN STORES
★amazonで購入する
01. yeah#1
02. 神経衰弱
03. ギタリストを殺さないで
04. アハハン
05. official bootleg/let's rock
06. ホネオリゾーン
07. ムシズと退屈
08. story
09. 理由
10. イッポ

Live info.

391tone Presents tour 07 Don't shoot that guitarist!

*TICKET: advance-2,800yen (+1drink)

6月8日(金)福岡 DRUM SON
OPEN 19:00 / START 19:30【info.】BEA:092-712-4221

6月9日(土)鹿児島 SR HALL *地元バンドあり
OPEN 18:30 / START 19:00【info.】SR Factory:099-227-0337

6月15日(金)名古屋 アポロシアター
OPEN 19:00 / START 19:30【info.】JAIL HOUSE:052-936-6041

6月16日(土)大阪 十三ファンダンゴ
OPEN 18:30 / START 19:30【info.】SMASH WEST:06-6533-5569

6月29日(金)札幌 BESSIE HALL
OPEN 19:00 / START 19:30【info.】SMASH EAST:011-261-5569

7月12日(木)東京 Shibuya O-WEST 〜TOUR FINAL〜
OPEN 19:00 / START 20:00【info.】SMASH:03-3444-6751

bloodthirsty butchers OFFICIAL WEB SITE
http://www.riverrun.co.jp/
http://www.391tone.com
http://www.bloodthirsty-butchers.com

bloodthirsty butchersの皆さんから素敵なプレゼントがあります!

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