結成から20周年を迎えたブッチャーズが踏み出した新たなる“イッポ”
2007年、晴れて成人となったbloodthirsty butchersが成し遂げたことは、プライヴェート・レーベル“391tone”を立ち上げ、通算11作目となるオリジナル・アルバム『ギタリストを殺さないで』を完成させたことだった。これは、20年掛けてようやく一人前になった彼らが新たに踏み出した大きな“イッポ”である。どれだけ控えめに言っても最高傑作としか言い様のないこの『ギタリストを殺さないで』について語る吉村秀樹の肉声を本誌ではどこよりも早く奪取。ブッチャーズの豊饒なる音楽をこよなく愛し、吉村が体現するところの“クソッタレ!”の精神を身に宿したすべての人達に謹んでお届けしたいと思う。(interview:椎名宗之)
“391tone”の由来は“さっくい”から
──まずは結成20周年、おめでとうございます。
吉村:はい。ありがとうございます。
──ブッチャーズの結成は厳密に言うと1987年の何月なんですか?
吉村:初めてライヴをやったのは11月。なんかクラブみたいなのがあって、そこで。飲み放題みたいなシステムになってるところで。
──それは吉村さんが勝手に飲み放題にしたわけではなく?(笑)
吉村:違う違う。そういう、必ず暴動が起きるようなシステムのクラブがあったの(笑)。クラブっちゅうか半分ライヴハウスのような、まぁバブルの名残みたいな。
──当時は日本経済が右肩上がりの時代でしたからね。
吉村:俺達は靴も靴下もなかったけどね(笑)。家もなかったし。まぁ、そのライヴは怒髪天とかスキャナーズ(イースタンユースの前身バンド)とかと一緒にやったね。
──この20周年を機に“391tone”という自主レーベルを立ち上げたわけですけど、読み方は“サン・キュー・イチ・トーン”でいいんでしょうか?
吉村:そう。“サン・キュー・イチ”。
──このレーベル、ベルウッド在籍の頃からありましたよね。
吉村:あった。名前が気に入ってるから使ってもいいんじゃねぇかと思って。
──“391”の由来というのは?
吉村:“サン・キュー・イチ”っていうのは、日本語にすると“さっくい”っていうことだね。道内用語かと思ったら、エスカルゴ(MOGA THE \5)みたいに関西在住でも判る奴がいたんだけど。まぁ、“さっくい”っていう状態というか匂いなんだけど。
──どんな状態ですかそれ?(笑)
吉村:“臭い”とかではないんだけど…匂い立つ感じとも言える。さっくい状態っていうのは、非常に切ない、情けない状態でもあるね。ヤバい状態でもあり。しょうもない感じ。
──怒髪天の増子さんとシミさんに訊いたら、“良くない”とか“少しコミカルなヤバイ感じ”と仰ってましたけど。
吉村:うん。とにかく“391tone”っていうのは俺の中の歴史としては凄く古くからあって、とても自然なものなんだよね。みんなからしたら「それはどんな意味なんだ!?」ってことになるけど、俺の中では特に意味はない。意味はあるんだけど問わないでくれっていう感じ(笑)。
──了解しました(笑)。そして遂に、レーベル第1弾となるアルバム『ギタリストを殺さないで』が完成したわけですが。制作には丸1年掛かっていますよね?
吉村:構想から含めたらもうちょっと掛かってるけどね。録り出してから自分達のペースで進めていったから。
──タイトルですが、前作が『banging the drum』だったからドラムの次はギターで…という感じですか?
吉村:単純にそれでいいでしょ。いいよそれで。前のアルバムはドラムとか言いつつテーマはベースだったんだけどね。でも、今回はダビングとかギターでしかやってないし、凄くシンプルだよ。
──前作のインタビューの時に「次はギターを殺さないものを作ろうって思ってる」と仰ってましたよね。
吉村:うん。まぁ、普通っていうかあるがままっていうか、余計なことをあんまりしないっていう。
──今回はヴォーカルに細工を一切していないと聞きましたけど。
吉村:まぁ、ちょっとはしたけどね(笑)。でも、いわゆる当たり前のヴォーカルの姿っていうか。
──レコーディング中のスタジオに何回かお邪魔させて頂きましたけど、楽器の録り自体はかなり早かったですよね。
吉村:うん、楽器は新大久保のFREEDOM STUDIOで録って、ヴォーカルはK-PLANのSTUDIO VANQUISHで録った。
──その流れで、the band apartの原さんが「ホネオリゾーン」でコーラスとして参加されていて。
吉村:そう。録音でも参加してもらってるし、随分協力してもらって。歌詞講座じゃないけど、“歌詞を考えよう”みたいなことをやったりもして。「ちょっと俺の話を聞いてくれ!」って話してるだけなんだけど(笑)。「この表現どう思う?」「それいいですねぇ!」みたいな。
──ははは。本作では収録曲の至るところで「yeah」という言葉が連呼されていますよね。1曲目の「yeah#1」というタイトルを見ると、「#2」も「#3」もあったのかと思ってしまうんですけど。
吉村:あったよ、仮唄タイトルで。あれも「yeah」、これも「yeah」だよ。“こういう気分の時に「yeah」って言ってもいいんじゃねぇか?”とかさ。一人でもいいし、みんな一緒にでもいいし。
──それと、今回は「ムシズと退屈」という曲で小松さんが遂に作詞デビューを果たしていますが。
吉村:そうだね、遂に。「お前作れよ! 作って下さいよ!」って言って。まぁ、そこで出来ても俺にいじめられるわけだけど(笑)。その成果もあって、小松デビューは凄く良かったかなっていう。「ムシズと退屈」なんてさすがに俺も思いつかないし。
──タイトルも小松さんの発案なんですか?
吉村:いや、タイトルは歌詞の中から抜いたんだよ。まぁ、断片的にはみんなが絡んでるんだけど、小松主体で動いた曲っていうことで。
──あと、タイトル曲や「アハハン」など、ひさ子さんとのツイン・ヴォーカルの曲も新機軸ですね。
吉村:それも今回はやろうって初めから言ってて。
──未だに3ピース時代のブッチャーズが良かったと言う意地の悪いファンもいますけど…。
吉村:3ピースの良さっていうのもまぁ判るんだけど、別にいいと思う。聴いてみてくれればいい。
──吉村さんの地声に近い形で唄われている「story」は、近年稀に観る涙腺直撃の大名曲ですよね。
吉村:昨日おとついくらいまで、この曲がどういう作りになってるのか理解できてなかったんだけどね。ギター弾いてる本人がどうなってるのか判んなかったんだよ(笑)。この曲は射守矢主体で作った曲なんだけど。
──やっぱり。この憂いのある感じと言うか湿度の高い感じは射守矢さんのものだとすぐに判りますね。
吉村:そう、すぐにね。それが彼の魅力的なところだけど。俺としてはもっとやってくれよって思うんだけどさ(笑)。
人の作品をミキシングしてる時が人生で一番真剣な瞬間かもしれない
──最後の「イッポ」は既にライヴでも何度か披露されていますけど、非常に重いテーマの曲ですよね。
吉村:そうだね。それが一番最後に出来て、歌詞が一番最初に出来たんだけど、作るのに結構苦労して。初めに「イッポ」っていう曲を作りたいってことになったんだけど、だんだん歌詞を作って音を完成させていくうちにイライラしてきてね。どうしよう、どうしようって混乱が生まれて。で、「この曲が出来なかったら、その瞬間にやる気が出なかったら俺もう(バンドを)やめるから」ってみんなに宣言した。そうやって自分に勢いをつけた。
──確かに、この気迫のこもり方は尋常じゃないですよ。
吉村:まぁ、この曲が出来てアルバム作りに勢いがついたよね。自分にもバンドにもハッパかけないと、みたいなね。
──それにしても、自主レーベル第1弾に相応しいこれだけの充実作が完成して、ファンとして喜びもひとしおです。
吉村:それはみんなの協力があっての上だけどね。一人だったら絶対にできないことだよ。
──最後の最後にマスタリングをし直したと聞きましたけど、それは何が問題だったんですか?
吉村:まぁ、一言で言ったらマスタリングの相性が悪かった。人とか音とかじゃなくて、相性がちょっと悪かったっていう感じ。ミックスダウンくらいになると、自分のバンドって困るんだよ。toddleとかswarm's armとかは自分のやってるバンドじゃないから、ああしようこうしようって開き直って考えられる。今回は3つ同時進行でやってたんだけど。
──そうなんですよね。ブッチャーズのレコーディングと合わせて、吉村さんはtoddleとswarm's armのプロデュースも同時進行されていたという八面六臀の大活躍で。
吉村:で、最後に自分のバンドのことになったら、どこを活かすか、何を大事にするかっていうのが自分の中であるんだけど、訳が判んなくなっちゃって。まぁ、結果オーライになったけど、やっぱり100%客観的には見られないよね。判ってるはずなのに“どうしたらいいんだろう!?”っていう。
──ブッチャーズのレコーディングで使わなかったアイディアをtoddleで使ってみるというようなこともあったんですか?
吉村:それはもう全然あった。使ったのもあるし、使ってみたらダメだったとかもあるし。
──プロデューサーの立場から見て、toddleとswarm's armのアルバムはそれぞれどんな感じなんでしょうか。
吉村:あの……判んないね(笑)。判んないけど、ブッチャーズも含めて今回テーマに置いていたのは特に“斬新”っていう言葉。意味も響きも含めて。さっき国語辞書を引いたら、「ザン」のところに他にもリンクするような言葉があって。「残酷」でもいいし、「燦然」でもいいし、そうやって並んでる言葉を全部含めてなんだけど。
──toddleの新作はいち早く僕も聴かせて頂きましたけど、とにかく1曲目から泣けますね。
吉村:そこは気をつけてやってた。泣けるように作りたかったんだよね。実はtoddleのマスタリングもやり直してて。出来は全く悪くないんだけど、泣けたはずの曲が泣けねぇなってなっちゃって。それでやり直してもらった。大胆なことはやってないんだけどね。だからマスタリングって大事なんだなっていうのが今回はホントによく判った。
──swarm's armのほうはどんな感じですか。
吉村:ちゃんとしましたよ。うん。どちらかと言うとローファイな感じかな。
──プロデュースした2作品で吉村さんがギターを弾いたりとかは?
吉村:それも全然できるけど、今回はやってない。アイディアは出せるんだけどね。作ってる時はあまりにも時間がタイトで、途中何回か頭から煙が出たよ(笑)。でもまぁ、楽しくやってたんだけどね。いい音出してるし。元の曲がいいから、それを活かすっていう。ギタポですよギタポ! 僕の中ではギタポです!
──ギター・ポップですか(笑)。ちょっと胸がキュンとする感じの。
吉村:でもどっちにしても、1枚のCDに音として綺麗に収めても、絶対にトゲはあるよね。
──そういう尖った部分と親しみやすさが同居しているのはブッチャーズの常ですからね。
吉村:ということはまぁ、掴みにくいって言ったら掴みにくいとは思う。
──でも、聴いた人に「何だこれ!?」と思わせる強力なイビツさみたいなものがないと、作品を世に問う意味がないですもんね。
吉村:まぁ、お利口さんにはしないっていう感じ。あとは斬新であること。それは自分がプロデュースするものもそうだし。掴みにくいかもしれないよね、世の中的には。
──そういう意味では、親切ではないのかもしれないですね。
吉村:うん、親切ではないよね。でも彼女、彼らが俺をプロデュースに選んだっていうのは、そういうところが求められてたってことだよね。俺たぶん、人の作品をミキシングしてる時が人生で一番真剣な瞬間かもしれない。自分でやってて、何でこんなに真剣なんだろう? って思った。自分ってすっげぇ真面目なんじゃないかって(笑)。
──まぁ、ブッチャーズの新作については次号の本誌でまた詳しく話を訊かせて頂きますので。
吉村:そうだね。自分でもまだ客観的に聴けないんだよ。
──今の段階で読者に言っておきたいことはありますか。
吉村:まぁ、凄くいいアルバムなんで、どうぞ買って頂いて。君達が行動していかないと変わっていかないんで。
──ところで、吉村さんはレコーディング中に凄まじい数の写真をスタジオで撮っていましたけど、ギターを弾いているのと写真を撮るのと、今はどちらが楽しいですか?
吉村:(迷うことなく)写真!
──エエッ!?(笑)
pix by アカセユキ(LOFT PROJECT)
ギタリストを殺さないで
391tone enot-39101
2,940yen (tax in)
5.16 IN STORES
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01. yeah#1
02. 神経衰弱
03. ギタリストを殺さないで
04. アハハン
05. official bootleg/let's rock
06. ホネオリゾーン
07. ムシズと退屈
08. story
09. 理由
10. イッポ
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