THIS IS JAPANESE POWER POP!!
歌とメロディを軸に表現力と人力に磨きを掛けた『POWER POP MANIA』
前作『オレマニア』からキーボードをふんだんに取り入れたパワーポップ・サウンドを展開しているURCHIN FARM。実験的サウンドのhttps://blog.seesaa.jp/pages/my/blog/article/edit/input?id=34927621経過報告文(『オレマニア』)と全国発表会(『オレマニアツアー』etc...)を経て、生み落とした会心の3rdミニ・アルバム『POWER POP MANIA』が遂に到着。今までになかった突然変異的なサウンドを聴かせた『オレマニア』から人力により拘りシンプルに絞り込んだアーチン・サウンド、歌と表現力をキーワードにバンドの一体感が更に増したこの『POWER POP MANIA』。どれだけマニアなんだよ!? っていう突っ込みはさておき、“This is JAPANESE POWER POP!!”という触れ込みに偽りのない、より進化した“URCHIN POWER POP”が確立されるまでにもう大した時間は要さないだろう。(interview:椎名宗之+植村孝幸)
『オレマニア』があっての『POWER POP MANIA』
──ひとまず、前作『オレマニア』を振り返るところから話を始めようと思います。今までのアーチンのイメージを覆すようないろんな意味で問題作だったと思うんですが、リリースから8ヶ月が経って、冷静にどう捉えていますか?
MORO(g, cho):リリース前と直後は、ライヴで『オレマニア』の収録曲をやるとちょっと客席との距離感があるというか、それまでのアーチンに求められてきたものと違ってビックリされることが多かったですね。それでも初めはコンセプト的にはやりたい放題っていうのがあったからそれでもいいのかなって思ってたんですけど、ツアーを回るとそれじゃいけないなと思い始めて。どうやったら『オレマニア』の収録曲をみんなで楽しめるようにできるかという課題が生まれたんです。それは今作の『POWER POP MANIA』にも関わってくるんですけど、「近未来少年」って曲があって、これを僕らは“デジタル・パワーポップ”って呼んでいるんですけど、前作『オレマニア』の「On SHOWTIME」を経たからこそ出来た曲なんですよ。「On SHOWTIME」はアーチンの中でホントに振り切った作品だったんです。それを如何にアーチンっぽくするかと考えていく過程の中で「近未来少年」という曲が出来てきたというか…。「On SHOWTIME」をもっとポップで判りやすく恰好良くやるにはどうすればいいかとライヴで試行錯誤を繰り返す中で、“あ、こういうふうにすれば判りやすいんだ!”って出来たのが「近未来少年」で、今回出す『POWER POP MANIA』のために一貫性だったり自分達に足りなかったものが判り始めたので、『オレマニア』はある意味凄い問題作だったのかもしれないけど、自分達にとってはきっかけになったところがありましたね。
──『オレマニア』は音源だけ聴くと意表を突かれる感がありますが、収録曲をライヴで聴くと如何にもアーチンらしいポップ・センスが窺えて、そこにライヴ特有の激しさも加味されて絶妙なバランスになると思うのですが。
MORO:リリースした直後と今とでは、同じ「On SHOWTIME」をライヴで演奏しても表現方法がかなり変わってきたと自分達でも思うんですよね。どう突っぱねるかっていうことにも色々と種類があることがよく判ってきたというか…。
──どう突っぱねる?
MORO:やりたい放題やるっていうことは言葉で言うと凄く簡単で、誰がどう思おうとやりたいことをただ投げるだけなんですよね。そういうつもりでそれまで曲を作ってきたけど、自分達にとって投げっ放すってどういうことなんだろう? と思って。そういうことを余り考えずに作ってきたというか、ツアーとかライヴでやってきて、どうやったら自分達にとって突っぱねた感が出るのかを考え直してみたんですよ。ただやりたい放題やるだけでは自分達でも納得のいかない部分があって、どうやったら自分達として振り切った感じが出せるのかな? と思ったんです。そこはやっぱりまずメロディや歌、ポップという要素や表情、サウンドなり魅せ方…そういうことを絶えず考えていく行為こそが僕達にとってある程度突っぱねてることなんだな、と思って。
──SOTAさんは前作を振り返ってみてどうですか?
SOTA(vo, g):『オレマニア』で基軸になったのは、バンドとして振り切るところまで振り切った「On SHOWTIME」で、ホントにやりたい放題に作ったし、それをどう表現していくのかっていうところでライヴを大事にしながら凄く模索したんですよ。従来のいわゆるアーチン節…メロディを大事にする部分は良かったんですけど、逆に最大限まで振り切ったことによって、改めて表現するっていうことはどういうことなのか? というのを考え直すいい機会になったというか。「On SHOWTIME」みたいな突き抜けた曲が出来て表題曲にしたのはいいけど、『オレマニア』の曲をどう違和感なくライヴで伝えていけるんだろうって考え抜いて取り込めた時に、それまで発表してきた曲にも広がりが生まれたし、バンドを改めて見つめ直す良い機会になった気がしますね。そんな過程の中で生まれたのが「近未来少年」で、アーチンってこういうバンドなんだっていうのをよりフォーカスが絞り込めたと思っているんですが、一度外してから絞り込むっていうのが自然に出来たなぁって思いますね。
──『オレマニア』はいろんな意味でバンドに起爆剤を与えた作品になったということですね。
MORO:元々そういう感じで何かのきっかけになる作品というか、色々実験的なことをやってみたいと思って作ったアルバムだったんです。でもその後にライヴで表現していく時に、“俺達って何?”ってことを深く考えるようになって。振り切った曲はどんどん振り切りたいと思っていたんですけど、やってみてやっぱりそれだけじゃイヤだなと単純??に思って。じゃあどうやったら自分達として納得した表現が出来るのかって考えた時に、「On SHOWTIME」だけじゃなくてアーチンにしかできないストライク・ボール、ストレート・ボールを表現していくには今のままじゃダメだなって考える機会が多くなって。「On SHOWTIME」をどうやってライヴでやるかというところから派生して、“これぞアーチンだ!”と思える曲すらもどうやってボールを投げようかって本気で考えるようになったんですよ。
──SHITTYもTETSUYAさんも、ツアーまで含めた『オレマニア』には手応えがありました?
SHITTY(b, cho):「On SHOWTIME」はライヴではほとんどやってなくて、曲を作った時は他の曲…例えば「One minute SNOW」とかとは交わらないだろうなと思っていたんですけど、前回のツアーを回って表現することについて、どうポップにしていくかというのを改めて凄く考えて、その結果前回のツアーで「One minute SNOW」もやりつつ「On SHOWTIME」もやるっていう上手いバランスで出来たし、そういう意味でバンドの表現性っていうのを一度練り直して上手い具合にまとまっていったなという感覚はありますね。
TETSUYA(ds, cho):自分達のレンジが確実に広がったし、ライヴという場面でいろんなことが達成できたと思っています。ちょっと浮きそうな曲も同じ空気で聴かせられたというか、表現方法、表現力も着実に上がって、ライヴのレヴェルも間違いなく上がったと素直に思えますね。
より人力に拘ったデジタル・パワーポップ
──七転八倒した末に生まれた「近未来少年」という曲は、今回の『POWER POP MANIA』でも重要な鍵となる曲ですよね。
MORO:「On SHOWTIME」みたいなサウンド・メイキングは基本的に大好きで、自分達でもそんなサウンドを作ってみたんですけど、ツアーを回っていくうちに今ひとつ消化不良なところが出てきて、“やっぱり歌なんだ”と改めて痛感したんです。表現することが出来ていなかったり、オーディエンスとキャッチボール出来ていないと気持ち良くないと感じるバンドなんだということが改めて判って、キャッチボールをするにはやっぱり歌やメロディをもっと突き詰めていくしかないと感じたんです。じゃあ、その部分を大事にした「On SHOWTIME」の発展形みたいな曲を作っていこうと思って。こういうサウンドのせいで伝わらなかったからそれでダメだって思うのはイヤだったし、歌やメッセージに重きを置いた中で「On SHOWTIME」のサウンドをそのまま受け継ごうっていうコンセプトを立てて作ったのが「近未来少年」だったんです。
──「近未来少年」は『オレマニア』の路線を踏襲しながらも『I.D.』の頃のテイストもあって、個人的には一番バランスの良い理想的な曲だと思ったんですよ。アルバムでも一番映える曲だし、この曲でバンドがまた一皮剥けた印象を受けたんです。
MORO:「On SHOWTIME」の時は徹底して機械的に作ろうと思って、生っぽい音をなるべく排除しようとして、マスタリングの時もあり得ないくらいレンジの幅を広くしたりしたんですよ。でも、この「近未来少年」はサウンド的には凄く機械的でデジタルっぽいけど、それをどこまで人間がやっているか、ちゃんと温度がある感じを出そうと凄く考えて作ったんです。歌も単なる機械のエフェクトだけじゃなく、自分達の出来る範囲のコーラスで表現してみようとして。そういう温度とかがないと自分達が納得出来ないのが前回のツアーでよく判ったし、自分達が出来る範囲でのデジタルというところを意識しましたね。
──ようやくデジタルを上手く使いこなせたという言い方も出来ますよね。
MORO:機械を通したデジタルっていうのが余り好きじゃないっていうのがよく判ってきて、ジャケットを作ってもらう時もデザイナーの方に「どんなイメージですか?」と訊かれて、機械的な感じというか温度がないっていうのがイヤで、でもどこかデジタルっぽいテイストもある感じにして欲しいとリクエストしたんです。デジタルと人工っていうのは一般的に相反するものだと思うんですが、僕の中では反さないものなんですよ。自分が出してるデジタルっていうのは人工でもあるし、デジタルでもあるし…それが融合された形が一番恰好いいと思う。そこを狙っていけるようになればいいなと思いますね。
──『POWER POP MANIA』に収められた曲は、どこまで人力デジタルでサウンドを構築していけるかがテーマだったと言えそうですね。収録曲はツアー中の忙しない時期に作ったんですか?
MORO:今回の作品は、ぶっちゃけて言うと急にレコーディングする空気になったんです(苦笑)。実はもっとやりたいことがあったんですよ。それを熟成させている期間にミニ・アルバムを作ることになって。でも、それまでずっと模索していたことがちゃんと形にできた感があるんですよ。僕らって音楽性もグルグル変わってきているし、いろんなサウンド・アプローチを試みるバンドだし、ずっと模索し続けてきた一番の自分達らしさを固めていこうと曲を作っている時にミニ・アルバムを作る話が舞い込んで。そこで“パワーポップ”っていうメンバー4人とも好きなサウンドにポイントを絞って、「On SHOWTIME」の流れもある、判りやすく統一感のある作品を作ってみようと思ったんです。アルバムを出してツアーを回る行為が前作『オレマニア』のツアーから自分達にとって大きなプラスになることがよく判ったし、これから出すべき結論っていうのをここで出したいとも思って。実は僕達、バンド名を冠した『URCHIN FARM』というアルバムをまだ出してなくて、それはまだどれがアーチンの本質なのか、自分達の出したい音なのかが判っていないからなんですよ。何が一番自分達らしい音なのかをずっと考えながら活動してきて、結論として“これがURCHIN FARMだ!”って初めて思えた時に同じタイトルのアルバムを出したいと思っているんです。いろんなことがやれる環境に居させてもらえていることに感謝しつつ、この『POWER POP MANIA』で統一感っていうところを目指して、狙って自分達らしいサウンドを作っていくというのがコンセプトにあって、今度のツアーでその答えを出したいっていう覚悟なんです。
──いよいよ崖っぷちまで来た勝負作なんですね。
MORO:そうですね、次に必ず『URCHIN FARM』というアルバムを出したいので。ツアーを回って、熟れた表現っていうところに命を懸けてライヴをやっていきたいと考えているんです。
表現することの重要さを経て増したバンドの一体感
──でも、急遽決まったレコーディングにしては曲の粒も揃っているし、サウンドも引き締まって見事な統一感が計れていると思えますね。
MORO:結構ギュッと作った感じだし、『オレマニア』のツアーで表現するってことがどれだけ気持ち良いことかが判ったことが大きいですね。今回のツアーは『POWER POP MANIA』の収録曲だけでガツンとやるライヴにしたかったから、それを意識して作ったというか。この6曲を如何にライヴっぽく作るかってところで、サウンド・メイキングもホントに自分達が出来る範囲の音しか入れなかったつもりだし、そういった意味では凄くシンプルな作品ですね。
──迷いがないですよね。急いで制作に取り掛かったのなら尚更。
MORO:決めごとも少なかったですからね。
SOTA:逆にこれくらい一気に作ったほうが頭が散らからないし、気持ちもブレないで済むし、集中力も今までと全然違いましたね。曲が出来てすぐに録ったから、短期間ゆえの密度の濃さがよく出てると思います。『I.D.』の頃は、曲が出来てゆっくりと寝かせておいたんですけど、今回はホントに早く煮ろ! って感じだったので(笑)。
MORO:制作期間中、4人で一緒にいる時間が一番長かったですね。僕の家に集まって4人でゆでたまご先生ばりに分業して歌詞を書いたりして(笑)、切羽詰まってテンションも高いから、エモい言葉の応酬で(笑)。
SOTA:徹夜した明け方に、伝説の言葉がかなり生まれましたね。
──公表できる範囲で聞かせて下さいよ(笑)。
SOTA:「Good Girl」のサビのところで「演じてる バレてるんだよ さあ踊ろう!」っていう歌詞があるんですけど、そこをSHITTYさんが最初「気まぐれ ネコみたいな YOU」って書いてきて(笑)。
一同:(大爆笑)
SHITTY:最高にテンパってて、夜明けの5時くらいに自信満々に言っちゃいました(苦笑)。
SOTA:「出来たよ!」って言った時の顔がホントにおかしくて。マジ顔ですから。意識としては、“早くここから逃げたいんだな”って感じでしたね(笑)。
SOTA:あと、TETSUYAさんもこの“ゆでたまご期間”に歌詞を書いたんです。残念ながらこの『POWER POP MANIA』にその曲はノミネートされなかったんですけど、その書いた歌詞が「足下にかかった異物」っていう(笑)。
一同:(大爆笑)
MORO:それには逸話があって、この前のツアー中にパーキングエリアでみんなでソフトクリームを食べてたんですよ。そこでSHITTYがソフトクリームをこぼしちゃって、それがTETSUYAの黒い靴の上に落ちたんですよ。その流れがあっての「足下にかかった異物」だったんで、“あ、ソフトクリームのことか”って(笑)。
SOTA:しかも更に面白かったのが、僕的にその歌詞はないなと思っていたのに、TETSUYAさんはその歌詞の場所だけ2重丸してたんですよ(笑)。
MORO:このフレーズは採用決定だろ! って(笑)。
──TETSUYAさんの中では相当な自信フレーズだったんですね(笑)。
SOTA:コレコレ! って感じで。それでブログにアップしようと写真を撮ろうと思ったら、クシャクシャに丸めちゃって。完全な証拠隠滅ですよ(笑)。でも、「足下にかかった異物」で一体何を表現したかったんだろう? って(笑)。
TETSUYA:そのまま直接的に表現せずに比喩的なことを考えた時に、「足下にかかった異物」というフレーズが頭に浮かんで…。
MORO:もう“異物”の時点でどうかしてますけどね(笑)。
SOTA:多分、「夢を阻害するものを蹴散らしていこうぜ」みたいな感じだったんだろうけど、逆にかかっちゃったみたいな(笑)。
──TETSUYAさんのフレーズこそが“異物”だったという…。
MORO:ニュアンスは判るんですけどね。でも、そんなアウトな精神状態でしたよ。ホントに凄く追い込まれていて。
──歌詞は今回あえて分業にしたんですか?
MORO:そうですね。SOTAが単独で書いたのもあるし、僕が書いたのもあるし、SOTAとSHITTYの分業もあるし。
SOTA:今回は共作シリーズが多いですね。今までは一人一人で書いてきて、前作くらいから共作したりとか。
SHITTY:でも、本当の意味でのメンバー共作は今回が初めてでしたね。
SOTA:僕としては、ゴール地点があってアプローチを掛けていく通り道がみんな違うんだなって思いましたね。言葉を捉えてる感覚も違って、面白いなと。それを今回は前面に出してみたいというか、単純に追い込まれていたというか…(苦笑)。
MORO:基本的に、『オレマニア』くらいからバンド全体で言いたいことにフォーカスを当てて活動し始めているんです。ヴォーカルだけが歌詞を書いていて、メンバーに唄ってみろって言ったら唄えないみたいな、そういう感じがよくあるじゃないですか? そういうのがイヤだなと思って、全部細かく判る必要はないにせよ、この曲は何が言いたくてどんな世界観なのかがメンバーの中で浸透していないと良い演奏は出来ない、良い音が録れないんじゃないかと思うんですよね。それがライヴなら尚更、その瞬間瞬間で切り取っていくと絶対嘘だってバレるだろうし。だから、4人で一緒に缶詰になって共作をすれば、一度も歌詞に目を通さなかったり、何を伝えたいのかが判らないままレコーディングに入ることはないと思ったんです。単純に共作は面白かったし、バンドで歌詞を作り上げてる感ってことで、かなり意識が高まったと思いますね。
──確かに「希跡」みたいにスケールの大きい曲は、歌詞の一語一句を理解していないと演奏にもダイレクトに影響してくるでしょうからね。
MORO:そうですね。鳴りだけで判断するようなのもイヤになってきたし、何となく…っていうのもイヤだし、特にライヴを大切にしたいから、その1個1個の音を奏でる前の気持ちは曲の世界に入り込まないとオーディエンスにも伝わらないと思うんです。その上でバンドとしてはガチッと固めて演奏したいと思うし。
独り立ちしてやりたい放題やった中で生まれた新しい産物
──前作までプロデュースを務めていた佐久間正英さんが本作ではスーパーヴァイザーという立場で作品に携わっていますが、これは半ば独り立ちしたと見ていいんですか?
MORO:いや、まだまだですよ。ただ、基本的に楽曲の良し悪しや構成は、もうほとんど手を加えてもらわなくても良くなったんですよ。今はメンバー全員が表現することに対して強く意識しているから、人の力を借りるというよりも、まずバンドがどうかっていうところに主軸を置いているんです。良い意味でゴタゴタしてる感じが恰好いい音楽ってあるじゃないですか? 僕達の場合で言うと、『RainbowL+1』の時はゴタゴタ感があって、その部分があえてマイナスに言えば薄まってしまったのが『I.D.』なんです。もちろん作品としてのクオリティは高いんですけど、長い間掛けてそのゴタゴタ感がやっぱり恰好いいというのが最近判ってきたんですよ。この4人が考えたことだけをやっていれば、例えそれがどれだけ無駄だと他の人に言われても、自分達が必要だと思えばそれでいいのかなって最近気づいて、そんな思いを『POWER POP MANIA』で全部やり尽くした感はあるんです。
SOTA:今回はそういう面も含めて、やりたい放題やりましたね。
MORO:サウンドに関しても、ここまで歪ませたら佐久間サウンドからかけ離れちゃうぞっていうドライヴ感があるんですけど、そういうことも余り気にしない感じで。ライヴで表現出来る範囲の機材と今ある自分達の技術だけでやりましたね。
──『オレマニア』という作品があったからこそ到達し得た、歌とメロディに拘ったアーチン本来の持ち味と新しいサウンドへのアプローチが絶妙なバランスで融合した聴き応えのある作品ですよ、『POWER POP MANIA』は。そこは充分胸を張っていいんじゃないですかね。
MORO:ライヴでも「近未来少年」や「ヒロイン」とかをやっていてお陰様で評判も良くて、「今度のアルバムも楽しみにしてます」って言ってもらえているので、有り難いと思ってます。
──『オレマニア』という実験的な作品をリリースして、その後のツアーの過程で改めて自分達の立ち位置を見つめ直した末に短期間でこれだけの作品が生まれたというのは、バンドがまだまだ発展途上にある何よりの証ですよね。ボーナストラックとして収められた「Replay」のように、真正面から初めてアコースティック・サウンドに取り組んだことができたのも、『オレマニア』という作品があったからこその揺り戻しじゃないですか?
MORO:そうですね。やっぱり歌が大事というのがよく判ったし、より原点に立ち帰った感じですね。
SOTA:「Replay」は『オレマニア』を録っていた時期、僕がソロの弾き語りをライヴでやっていた時期で、バンド自体が模索していた頃に出来た曲なんですよ。
MORO:元々SOTAの弾き語り用の楽曲として作ったんですよ。『オレマニア』の時期にスタジオに曲を持っていって、SOTAも「良い曲だね」と言ってくれて。SOTAも良い歌詞を書いてきたのでライヴでやったら、凄く評判が良くて。
──「Replay」はライヴだとバンド形式になるんですか?
SOTA:いや、現時点ではリアル弾き語りとピアノですね。
──普段と勝手が違うから、レコーディングはかなり難航したんじゃないですか?
SOTA:難しかったですね。相当鍵盤に助けられた感があるんですけど、そういうふうに録ってみたのは初めてだったので、もの凄く勉強になりましたね。良くも悪くもロックの作品を録ってる時は微妙な息遣いとかがカットされたりするんですけど、アコースティック・スタイルだと全部入ってくるし、表現形態がシンプルでも充分伝わるものは伝わる。そんなことをどの作品にも根本として活かしていかないと紛れちゃうんだなと思いました。
MORO:「Replay」の時のSOTAの空気って、ホント逃げ道がない感じだったんですよ。基本的にバンドでガチンとやっているとお互い4人の押しどころがあるし、全部をガンガン行くところでもないっていう抜き押しの恰好良さがあったりするんですよ。でも、弾き語りのスタイルは完全に逃げ場がないから、SOTAが言うように息遣いとかがリアルに出るから、かなり張り詰めたイメージでしたね。でも僕はそんな切迫感が楽曲に上手く作用していると思いますけどね。
SOTA:この曲の出来は全部僕に掛かっているんだという拭いきれないプレッシャーがあって…。
──ごまかしが一切効きませんからね。
SOTA:そんなプレッシャーの中で、エンジニアの人に初めて「いいテイク録れたね」って言われたのは嬉しかったですよ。
──じゃあ、あのソロ弾き語りの武者修行も無駄じゃなかったですね。
SOTA:全く無駄じゃなかったですね。凄く意味のあることだったと思います。
──そう考えると、バンドを取り巻く様々な事柄が徐々に実を結びつつありますね。
SOTA:そうですね。種は蒔いてみるものですよね。
──『オレマニア』がツアーまで終わって初めて作品が完結したように、この『POWER POP MANIA』もツアーを終えるまでまたどんな化学変化が起こるか判らないですね。
MORO:そうですね。でも、このツアーでやることはすでに決めてあるし、これで出したい答えも決めてあるんですよね。だから、決着つけたいなと思っているんですよ。今もまた新曲を作っているんですけど、“これこそアーチンの真髄だ!”っていう感じの曲を作れているので、今までの模索に決着をつけたいし、ツアーの最後に“これでとにかくやり尽くした!”と満足して終えられたらいいなと思ってます。
This is JAPANESE URCHIN POWER POP!!!
──今回のジャケットに手の写真が配されているのは、音はデジタルだけど、あくまで人力で作った音楽なんだという意味が込められていますか?
MORO:そうですね。人の温かみっていうのが僕らのバンドは絶対大事だと思っているんですよ。だから、今回のジャケットも人間の体温が感じられるジャケットにしたかったんです。今までのアーチンのジャケットはメンバー全員が出るっていうのが決まりっぽくなっていたんですけど、それは特に拘っていたわけでもないんですよ。それよりも人間っていうか体温ってところに拘りがあって、この音楽は僕らという人間がやっているんだと視覚的に表さないと、ちゃんと伝わらないと僕は思うんですよ。この手のジャケットのデザインが出来上がった時に温度を凄く感じたし、個性的な感じもあるし、4本の手がメンバーの手にも見えてくるし、ライヴで手を挙げてる人のようにも見えてくるし、色々な見方ができて面白いと思ったんです。
──『One minute SNOW』のジャケットみたいに、女性の手??のひらに限定しているのと違っていろんな解釈ができますよね。
MORO:そのほうが面白いし、静止画なんだけどテンションが高い感じみたいな部分もこの作品には合っているし。手しか写ってないんですけど、イマジネーションが豊かで凄く良い作品だと自分達でも思っています。
──そんなアートワークも含めて、まさに“This is JAPANESE POWER POP!!”と言い切れる作品だと思いますよ。
MORO:“This is JAPANESE POWER POP!!”っていうのはアンチテーゼとかでも何でもなくて、僕達の本音なんです。今じゃパワーポップと呼ばれるバンドはそれなりにいるし、ちょっとスパイシーな言い方になりますけど、“それって日本人がやって恰好いいパワーポップなのかな?”って思う英語詞のバンドも多くて、それだったらWEEZERを聴いたほうがいいわなんて思ったりもするんです。やっぱり自分達にしか出来ない音楽をやってナンボだと思うんですよ。日本に生まれ育って童謡とかを唄ってきた人間が洋楽のパワーポップに出会って真似をしたところで何が出てくるのかと思うし、“これが日本人が作ったパワーポップだ!”っていう作品を作りたかったんですよね。洋楽のパワーポップが好きな人からは“これはパワーポップじゃない”って全否定されるかもしれないけど、“僕達の解釈としては、日本人が作ったらこういうふうになるんだけど、どう思う?”みたいな作品にしたいというのがありましたね。
──ちょっと抽象的な問いになるんですけど、そこで重要になってくる“日本人らしさ”ってどんなところにあると思いますか?
SOTA:やっぱり、言葉が前に来ることじゃないですか? 僕は英語のネイティヴじゃないのでよく判らないですけど、外国人の言語感覚でいくと言葉も音だという捉え方が強くて、言葉も気持ち良く聴かせるために跳ねさせる単語を挟んだりすることが出来ると思うんですけど、パワーポップでも一概に楽しいことばかり唄っているわけではないんですよね。言葉を前面に、言葉の中に意味を含ませることが出来る言語っていうのが日本人の強みなんじゃないかと思いますね。
MORO:洋楽って楽器っぽく使うように見えるんですよね。ギターとかと同じで、歌っていうパートがいるというか。日本人のバンドは歌っていうのが前面にあって、それをサポートする楽器がいるみたいな感じだと思うんですよ。そういった意味で『POWER POP MANIA』は歌が前面に出ていると思うし、言葉を伝えるというツールとして歌を使っているという感じですかね。
──『オレマニア』でアイデンティティの模索に奔走したURCHIN FARMが『POWER POP MANIA』で一縷の光を見出して、この先どこへ向かうのか。これからが益々楽しみになってきましたね。
MORO:やっぱり歌であったり、メロディであったり、今までと変わらない部分を大事にしようと思ってますね。どんなにいろんなアプローチを試みてもそこだけの筋は絶対に通してきたし、断固としてここだけは変えないと貫き通してきたところを凝縮するとメロディが残るんですよ。最強の楽曲を作って、それを最強にライヴで表現するっていう、そんなホントに単純なことをこれからも極めていきたい。シンプルにまとめて勝負出来るバンドだと思うので、まだ誰も聴いたことのない歌をストレートに唄っていくところにアーチンの本質があると今は思っていますね。
POWER POP MANIA
BEATSORECORDS EFCN-91009
1,500yen (tax in)
2007.3.14 IN STORES
★amazonで購入する
★iTunes Storeで購入する(PC ONLY)
“アーチンのブレイン”MOROによる 『POWER POP MANIA』全曲解説
1.STAR MESSAGE |
最強に突き抜けたポップナンバー! これぞURCHIN FARMだって曲です。サウンド・メイキングからメッセージ全て、今のURCHIN FARMを表せたものになりました。アルバムのスピード感・ポップ感を頭から加速させる重要な位置にあって、ここから始まるアーチン・パワーポップに正しく導いてくれると思います! |
2.近未来少年 |
前作の『オレマニア』でのデジタル感・特異なコード感をさらに洗練させ、URCHIN FARMの根底にあるメロディとメッセージを大事に作り上げた曲です。この曲では、人間の作った、体温を感じるデシタルを大事にしました。“人工的なデジタル”という、相反とされているものの融合によって、これまでにないURCHIN FARMの新しいRockが見せられたと思います! |
3.SHINE |
URCHIN FARMの音の一角を担う、カラフルポップの、まさに殿堂のようなナンバー! 軽快な跳ねるリズムとノリのいいリリックが小気味よい!(たぶんレビュー書き慣れてる方ならこう書くだろうな、まぁまさにそんな感じ・笑) |
4.Good Girl |
個性的な変態パワーポップ! ウッフウフ〜♪というオールディーズ的なコーラスが特徴で、サウンドはガシャガシャにしています! ソロなんてぶち抜けたFUZZサウンド! 問答無用にテンションのあがるナンバーです! |
5.ヒロイン |
極上メロディとパワーポップ・サウンドが融合したナンバー! これはすごく素敵な曲になりました。というのも、個人的に非常に大好きな曲でありまして、音と言葉の交わりが本当に自然で気持ちがいい。自然に笑顔になってしまう、そんな曲です。 |
6.希跡 |
「希望の跡」と書いて、希跡(キセキ)と読む。今ここで出会えていることは、奇跡じゃなく、日々一生懸命生きている延長にある。 |
7.Replay (bonus track) |
唯一の弾き語り曲です。ただただいい歌が出来て、聴いてほしいから収録した。ほんとそんな感じにシンプルな理由でした。“歌う”ということに逃げも隠れもしないで、真っ向からぶつかっていけた曲です。僕らURCHIN FARMの歌に対する愛情や覚悟が伝わればいいなと思います。 |
Live info.
インストアライヴ
3月25日(日)Apple Store 渋谷
3月31日(土)下北沢ハイラインレコーズ
POWER POP MANIA TOUR
4月7日(土)高円寺CLUB LINER〜レコ発〜
4月9日(月)大阪SUN HALL
4月10日(火)京都MOJO
4月13日(金)横浜F.A.D
4月15日(日)宇都宮HELLO DOLLY
4月18日(水)下北沢MOSAiC
4月21日(土)滋賀U☆STONE
4月22日(日)大阪club massive
4月30日(月)高崎TRUST55
5月5日(土)新潟JUNKBOX mini
5月13日(日)沼津WAVE
5月20日(日)大阪福島LIVE SQUARE 2nd LINE
5月21日(月)名古屋アポロシアター
6月2日(土)渋谷CYCLONE〜POWER POP MANIA TOUR ファイナルワンマン〜
URCHIN FARM OFFICIAL WEB SITE
http://www.urchinfarm.com/