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The Stranglers『Suite XVI』日本盤発売記念特別座談会 吉村秀樹(bloodthirsty butchers)×谷口健(BEYONDS)×吉田肇(PANICSMILE)×中尾憲太郎(SLOTH LOVE CHUNKS / SPIRAL CHORD)('07年3月号)

The Stranglers『Suite XVI』日本盤発売記念特別座談会 吉村秀樹(bloodthirsty butchers)×谷口健(BEYONDS)×吉田肇(PANICSMILE)×中尾憲太郎(SLOTH LOVE CHUNKS / SPIRAL CHORD)

The Stranglers is back......

セックス・ピストルズ、ザ・クラッシュ、ダムドと並ぶパンクロック・レジェンド、ザ・ストラングラーズ。パンク/ニュー・ウェイヴの黎明期に結成して以来今年で33年、常に最前線で活動してきた彼らの通算16枚目となるオリジナル・アルバム『Suite XVI』の日本盤が、貴重なライヴ音源2曲を追加収録して遂にリリースとなる。これを記念して、ストラングラーズを敬愛してやまない本誌でもお馴染みの面々にお集まり頂き、未だに衰えぬパンク・スピリッツを身に宿したストラングラーズの魅力を存分に語ってもらった。(interview:椎名宗之)


ARBを糸口に開かれた“夢現”の世界

──最初に、みなさんがストラングラーズの音楽と出会った頃の話を聞かせて下さい。まず、吉田さんからお願いします。

吉田:僕がストラングラーズを知ったのは、高校の時にARBの『Yellow Blood』('84年発表)というアルバムを聴いてからですね。ベース・ラインがボコボコ動き回る「闘い抜くんだ!(Fight It Out!)」を聴いて、“凄いな、このベースの演奏は!”と思ったんですよ。それがジャン・ジャック・バーネルだったんですね。それをきっかけにこの人のバンドを聴いてみようと思って、レンタル・レコード屋で同じ時期に出ていた『Dreamtime』('86年発表/9th)が面出しになってて、“これだ!”と思って借りたんです。

──初めて『Dreamtime』を聴いた時の印象は覚えていますか?

吉田:全く予想しなかった音でしたね。森脇美貴夫さんの『パンクライナーノート 〜ピストルズからディスチャージまで〜』という本を読むと、ストラングラーズでは『No More Heroes』('77年発表/2nd)をお勧めしていたんですけど、そんなレコードがレンタル・レコード屋にあるわけがないじゃないですか?(笑) 輸入盤屋に行って『No More Heroes』の薔薇のジャケットを見て、“ああ、これかぁ…”と思ったんですけど、高校生だったので小遣いが足りない。それでとりあえずレンタル屋で借りられるものを、ってことで『Dreamtime』を最初に聴いたんです。初期のパンク・サウンドを聴かずに、いきなりシンセ・サウンド全開だったので驚きましたけど(笑)。

──『Dreamtime』は未だにライヴで演奏される名曲「Always The Sun」が収録されていますが、一般的にはどんな評価を与えられているのでしょう?

中尾:日本だとやっぱり初期のイメージが強いから、パンク・キッズ達は付いていけなかったんじゃないですかね。

吉村:でも、その手前のアルバムでリスナーを一度突き放してるから、聴く側も免疫はあったんじゃないかな。“俺達はこれでいいんだ”みたいな感じで、新しいアプローチをしてると思うよ。スチール・ギターを使ってみたり、明るい感じになってる。

吉田:僕は'80年代のシンセ・ポップみたいな音楽が凄く好きだったので、『Dreamtime』も意外ではあったけれどちゃんと聴けたんですよ。パンクだと思い込んでいたから“あれ!?”と思っただけで、作品自体は凄く好きだったんです。ただ、ベースのプレイがどうのこうの評価される作品ではないし、全体的にポップなアルバムだったので意外でしたよね。後でお金を貯めて『No More Heroes』を買って聴いて、“やっぱりこういうバンドだったんだ!”と思いましたけど。なんせベースがゴキゴキ鳴ってましたからね(笑)。夜に家でゆっくりしたい時は『Dreamtime』を今でもよく聴きますよ。中期のシンセ・サウンドを拠り所とするストラングラーズを聴くと、凄く落ち着くんですよね。唄い方もジェントルで優しいから、よく眠れるんです。逆に、気合いを入れたい時は初期のアルバムを聴きますね。

──憲太郎さんはどんなきっかけでストラングラーズを知りましたか?

中尾:スタークラブのカヴァー・アルバム『God Save The Punk Rock』('87年発表)に「Something Better Change」の日本語のカヴァーが入ってて、それを聴いたのが最初ですかね。それと、昔深夜にやってた『モグラネグラ』っていう音楽バラエティ番組があって、高嶋政宏がパンクが好きってことでゲストで出てたんですよ。そこでストラングラーズの「Hanging Around」のPVが流れてるのを見て、恰好いいな、と。で、ベスト盤を買って聴いて、「Golden Brown」とか「Strange Little Girl」を聴いて戸惑ったと言うか。まぁでも、普通のロックっぽい曲もたくさん入ってたので、そっちばかり聴いてたんですけど。

──じゃあ、やはりサウンドは初期のほうが好みですか?

中尾:でも、思春期の何でも吸収できる時期に聴いてたので、今でもパーッと頭の中で流れてる感じはありますね。


衝撃的だったNHKで放映されたビデオ・クリップ

──健さんは如何ですか。

谷口:よく思い出せないんですよね、なんで聴くようになったのか。まだ学生で最初のバンドをやっていた頃に、異常にマニアックなストラングラーズのファンが友達にいて

──全身が黒尽くめで、身長が190cmくらいある人なんですけど

──その人に教えてもらったんですよね。お金を出し合って、エアーズでストラングラーズのビデオを全部買ったりして。デビュー・アルバムから3枚目くらいまでは普通に好きで、東京でもテレビ埼玉で『ミュージックトマト』みたいな番組をやっていて、そこでミュージック・ビデオが流れてるのをよく見ましたね。レコードも中野のレアで全部買いました。一番よく聴いたのは『The Raven』('79年発表/4th)から『La Folie』('81年発表/6th)、『Feline』('82年発表/7th)、『Aural Sculpture』('84年発表/8th)、『Dreamtime』までですかね。スミスとかも同じ'80年代半ばの時代だったと思うんですけど、12インチを意識したダンスチックな曲作り然り、ヨーロピアン・デカダンスと言うか退廃的な雰囲気然り、もうとにかく凄い好きでした。音楽的に自分達で変化しようとしていた姿勢が特に好きでしたね。

──吉村さんはどんな出会い方を?

吉村:初来日('79年)のレポートやリザードのアルバムをジャン・ジャックがプロデュースしてる記事を『ロッキンf』で読んで、“この人達、黒いなぁ…”と(笑)。でも、もの凄く恰好いいなぁと思いましたよ。音を聴いてみると、子供にはなかなか馴染めない音って言うか、いわゆるパンク・ロックみたいにトーン!とは入っていけなかったですよね。キーボードも入ってるし、最初は誰しも“ん!?”って感じると思うんですよ(笑)。“え? パンク!?”っていう戸惑いみたいなものが。テレヴィジョンも最初はそうでしたね、今は全然聴けるんだけど。ストラングラーズは音が濃厚な感じがして、ピストルズやクラッシュみたいにストレートに入ってこなかったと言うか、何とも言えない不思議なサウンドだなと思いましたね。

──今日は吉村さんにストラングラーズのCDやビデオを資料として数多く持参して頂きましたので、何か見ながら話を進めましょうか。

吉村:じゃあ…これを(と、プロモ・クリップ集『The Old Testament』を差し出す)。あとね、札幌時代、お金のない時に僕達が集う“中華”という友達の家がありまして、週に一回中華料理を食べられたんですよ。そこで見てるビデオはストラングラーズが多かったんですよ。その録画ビデオっていうのが、確かNHKの『ヤング・ミュージック・ショー』っていうプロモ・ビデオがひたすら流れる番組だったんです。それでストラングラーズが特集されたことがあって、そのビデオの恰好良さって言ったらありゃしないっていう。「Five Minutes」も「(Get A) Grip (On Yourself)」も凄すぎて、僕の中では“プロモが抜群に恰好いいバンド”の筆頭なんですよ、ストラングラーズは。硬質な感じがしてね。またそのNHKのビデオが良くて、歌詞の和訳がテロップで映るんです。日本語がベロベロベロって出てくるのが恰好良くてね。“金はゴメンだ、地に足を着けるんだ、自分の足で行くんだ”って「Grip」の歌詞が画面の下にバーッと出てきて、それが僕にはグッと来る体験なんですよ。うまく言えてないかもしれないけど、同じような経験をした人はたくさんいると思いますよ。

──吉村さんが惹かれたのは、サウンド的にはやはり初期ですか?

吉村:うん。音的には初期とか最近のが好きですね。'80年代のアルバムよりは、ファーストの『Rattus Norvegicus』('77年発表)から『The Raven』までとかのほうが。もちろんほとんどのアルバムを持ってるし、今でもよく聴きますけどね。今度出た『Suite XVI』もいいなと思いましたよ。音的には不服なところもあるけど、プレイ的には勢いがあって凄くいいと思いますね。




儚く散りゆく日本人の死生観への憧憬

──未だに本国イギリスでは衰えぬ人気を誇っているストラングラーズですが、日本では'80年代の半ば頃から話題に上ることが少なくなりましたよね。それはやはり新しいテクノロジーやサウンド・アプローチを貪欲に採り入れて音楽性が変化していったからなんでしょうか。

吉田:僕の場合、“パンクはこうじゃなきゃいけない”みたいな概念がなかったので、'80年代の作品も初期と同じく聴けたんですけど、パンクというよりはブリティッシュ・ロックとして捉えていたのがラッキーだったのかもしれないですね。初期のゴキゴキで硬質な感じにもやられましたけど、デイヴ・グリーンフィールドがオルガンだけじゃなくシンセサイザーを導入した頃から聴き始めましたから。そこから遡って聴くと、昔はドアーズみたいな感じだったんだなと思ったりして。逆に、初期のジャン・ジャック・バーネルの凄いダミ声な唄い方には後から聴いてびっくりしましたけど。

──ジャン・ジャック・バーネルが三島由紀夫の熱心な読者だったことはよく知られていますよね。『Black And White』('78年発表/3rd)にも三島に捧げた「Death & Night & Blood」という曲が収録されていたり。

吉田:三島のヨーロピアンでダンディな佇まいと言うか、退廃的な匂いにジャン・ジャックは惹かれたんじゃないですかね。自分と同じ共通項を持つ東洋の作家に対してシンパシーを抱いたと言うか。

谷口:潔く散りゆく儚さを美徳とするサムライ道と言うか、古来の日本人の死生観が彼にとって神聖なんだろうなと思いますね。それはやっぱり、彼が日本と同じ島国であるイギリスで生まれ育ったことが大きいんだと思いますよ。ハーレーに憧れるのも、イージーライダー的なアメリカの文化に対する羨望の表れじゃないですかね。あと、彼が発表したファースト・ソロ・アルバム『Euroman Cometh』('79年発表)は当時まだ果たされていなかったヨーロッパの統合がテーマで、そういったことを強く意識していたのが個人的に興味深いですね。彼はヨーロッパの文化圏からは出られないんじゃないですかね。とにかく、ジャン・ジャックのデカダンな美意識が『Feline』以降のエピック時代に突入させた気がしますね。

吉田:僕は元々矢追純一のUFOモノが好きだったので、UFO目撃の隠蔽工作をするという黒服を着た2人組を指す“Meninblack”(『The Gospel According to The Meninblack』、'81年発表/5th)なんて言葉を聞くと異常に興味が湧きますね。ひょっとしたらかなりのオタクじゃないですか(笑)。ジャン・ジャックがこよなく愛した三島にしろ、バイクにしろ、空手にしろ、何かを極めることが好きな体質の人なのかなと思ったりもしましたね。ヴォーカルのヒュー・コーンウェルは、確か医師の免許を持っていましたよね?

谷口:でも、大ロリなんですよ(笑)。来日した時に少女を連れて帰っちゃったんですから。未だに消息不明なので、これはもう大拉致ですよ(笑)。


最新作から窺える“やってやろう!”という姿勢

──同じミュージシャンとして、ストラングラーズのテクニックはどう見ますか?

吉田:バランスは凄く良かったんじゃないかと思いますよ。ヒュー・コーンウェルのギターも、聴こえない曲もあるけど聴こえる曲は凄くいいギターを弾いてるんですよね。フレージングも凄く洒落てますし、コードワークも恰好いい。

吉村:そうだね。ホントに彼のテレキャスターを持つ佇まいは文句なく恰好いいですよ。当時のパンク・バンドの中ではダントツですね。よく考えて作られてるし。やっぱりジャン・ジャックのベースが凄い。

──憲太郎さんはジャン・ジャックのベースに影響を受けたりしましたか?

中尾:影響を受けたかどうかは判らないですけど、僕は今でもサウンド・チェックでよく「Peaches」を弾きますよ。ジャン・ジャックのベースは、音がバッキンバッキンしてるのがやっぱり特徴なのかな。

吉村:あれは俺もずっと謎なんだよね。ピッキングなのかと言えば確かにピッキングなんだと思うけど、常に一貫して音がバッキンバッキンしてるんですよ。ジャン・ジャック特有のセッティングなのかどうか判らないけど、とにかく凄く魅力的な音ですよ。それに、ジャン・ジャックはもの凄くリズムが正確なんですよね。あれには感心しますね。リズム隊の2人が30年以上ずっと同じっていうのも凄い。デイヴ・グリーンフィールドのキーボードも素晴らしいですよ。彼らはアナログもデジタルも制覇してますからね。新しいアルバムにもなると、もうちょっと作り物っぽくなるかと思えばそうでもないんですよね。リズムの正確さはやっぱりちゃんと出てるし。

──今月、待望の日本盤が発売される最新作『Suite XVI』は聴いてみて如何でしたか?

吉田:僕は凄く好きですね。4曲目の「Summat Outanowt」は明らかにジャン・ジャックが唄っていて、かなり熱くなりました。

中尾:往年のストラングラーズっぽいサウンドとかそういうのは関係なく、まさに今の彼らのやりたい音になってると思いますね。誤解を恐れずに言うと、ベスト盤を聴いてるような感覚もありますね。今までの流れがありつつ、初期のバンドっぽい音もありつつ…っていう印象ですね。

吉田:これまで彼らが発表してきた作品の流れの中で納得できましたからね。昔を懐かしんで昔っぽい音をやってるわけじゃないし、30年以上にわたる長い歴史の中で今あるべき位置はここだという感じが凄くしましたね。

谷口:僕も嫌いじゃないですね。デイヴ・グリーンフィールドのキーボードが大フィーチュアされていて、サウンドも生々しくて好きですね。

吉村:良かったですよ。言葉で言うなら“やってやろうか! やるぜ!”みたいな感じがちゃんと出てる。音に関しては、ドラムがちょっと不自然すぎて現代っぽいところが今ひとつでしたけど。

谷口:それは現代っぽさを意識してるのかしら?

吉村:関係ないんじゃないかな。音云々じゃなくて、“やってやろう!”っていう姿勢が見えるところが僕は凄く好きですね。これが今のストラングラーズなんだ、っていう。



ファウル結成時のヒュー・コーンウェルを意識したコンセプト

──ストラングラーズのフォロワーと言えば、どんなバンドを思い浮かべますか? 僕はこれだと言い切れるバンドが思い浮かばなくて、明確なフォロワーがいないところがストラングラーズの特異性を逆説的に証明していると思ったんですが。

中尾:ジャン・ジャックに影響を受けてる人は一杯いるんじゃないですか?

吉田:そう言われてみるといないかもしれないですけど…エラスティカはサウンド的に模倣していた部分もあったんじゃないですかね?

吉村:日本のバンドで言うと、ニューエスト・モデルの初期はストラングラーズからの影響を感じますね。際立ったプレイとかはないけど、怒鳴り方や佇まいに影響の跡が窺えますよ。最初にニューエストを聴いた時に、“こういう出し方もあるのか”と思いましたからね。

吉田:ニューエストはそうですね。中川(敬)さんもテレキャスターだったし。あと、これは僕の勝手な推測ですけど、初期のノーミーンズノーも影響を受けていたんじゃないかと思うんですよ。

一同:ああ……(納得)。

吉田:変速じゃなくなる頃の初期…ベースとドラムとヴォーカルしか聴こえないような感じのアルバムで、録り音もニュー・ウェイヴっぽいって言うか、ローファイな感じだったので、聴いた時にストラングラーズの雰囲気に似てると思ったんですよね。ベースの音の感じとかが。

谷口:僕はヒュー・コーンウェルの唄い方、声の発し方には凄く影響を受けてますね。何と言うか、外面的な暴力性がないんですよ。内から出てくる言葉を発することで暴力性を感じるところ…それは『Dreamtime』の頃になってからですけど、そういうところが好きだったんでしょうね。妖艶な感じを出しているのに、どこか攻撃的な印象を受けるんですよ。

中尾:確かに、その頃のヒュー・コーンウェルには色気がありますよね。

谷口:ありますね。(ビデオを見ながら)あとはこの、キーボードの大フィーチュア。大弾きまくりなところ。

吉村:健ちゃんがファウルを結成した時に、ヒュー・コーンウェルを意識するっていうコンセプトはかなりあったよね。

谷口:しょうがないんです、出ちゃうんですから(笑)。そうだ、最初は僕もテレキャスターを使ってたんですよ。

吉村:その佇まいも含めてね。この人(谷口)はジャン・ジャックじゃない、ヒュー・コーンウェルなんですよ。ファウルをやる時にそんなコンセプトを話したような記憶があるんですよね。

谷口:話しましたねぇ…(笑)。「キーボードとドラムの名前、何だっけ?」とヨウちゃんに訊かれて、「デイヴ・グリーンフィールドとジェット・ブラック」と答えたら大爆笑したのを覚えてます。ジェット・ブラックって、確か料理の本を出してるんですよね。

中尾:エッ、そうなんですか!?

吉田:ジェット・ブラックは酒屋とアイスクリーム屋を経営していたんですよね。デビュー前はアイスクリーム販売用のバンでツアーを回っていたそうですからね。で、店の一店舗を練習場にしていたという。

中尾:そう言えば、ストラングラーズがギネスブックに載ってるって本当ですか?

吉田:確か、「Something Better Change」を1回のライヴで3回連続演奏したことで載ったんじゃないかな。

吉村:初来日のライヴだよね。何をやっても喜ぶ観客にヒュー・コーンウェルがキレて怒鳴ったっていう有名な話。(「Five Minutes」のビデオを見ながら)僕はねぇ、これなんですよ! このビデオは世にあるビデオ・クリップの中でも5本の指に入りますね。これを見るとジャン・ジャックって恰好いいなぁと思いますよね。やっぱりマーシャルの三段積みかなぁ…(笑)。


ストラングラーズが内包する上品な変態性

──こうしてビデオを見ていると、楽器を携えた時の姿が本当に絵になるバンドですよね。

吉村:でも、確かに恰好いいけど、どこか恰好悪いとも思うんだよなぁ…(笑)。

谷口:だから黒尽くめで行くしかなかったのかもしれないですね。

吉田:そうですね。黒尽くめになる前のファッションは結構メチャクチャですからね(笑)。ヒュー・コーンウェルが首に巻いてるあのヒモは何なんですかね? 前からずっと気になっていたんですけど(笑)。

──おまじないではなさそうですね(笑)。

谷口:いや、あのヒモを首に巻くことで彼なりのマゾヒズムを表現したかったんじゃないですかね。あれが鋲じゃないところがいいんですよ。ヒモっていうところが(笑)。

吉田:僕は高校生の時にベースを弾いていたんですけど、ジャン・ジャックのコスプレをしてましたよ。黒のライダーズ・ジャケットを着て、黒のTシャツを着て、黒のロンドン・スリムを穿いて、髪型もおかっぱにして(笑)。

吉村:前髪は?

吉田:もちろんオンザ眉毛で(笑)。ちょっとディー・ディー・ラモーンに近いと言われましたけど。どこで買ったか忘れましたけど、黒地にネズミの絵とストラングラーズのロゴが入ったTシャツを着たりして。残念だったのは、ロゴの色が赤じゃなくて青だったんですよね。“青しかないのかぁ…”と思いながら買った記憶がありますよ(笑)。

谷口:僕はヨウちゃんからストラングラーズのTシャツを貰ったことがありますよ。ライヴで早速着ましたよ、ワイシャツの上から。

吉村:ファウルの時だよね。僕はそれ、京都のブラックで買いましたよ。

──先ほど吉村さんが仰った“恰好いいんだけどどこか不恰好ないびつさ”というのは、彼らの音楽性にも通じる気がしますね。多彩な音楽的要素を臆することなく採り入れる実験精神はもっと認められるべきだと思いますが、それが却ってUKパンクのオリジネイターという評価をどこか歯切れの悪いものにしているし、どの場所にいても座り心地の悪さがつきまとうと言うか…。

吉田:さっきから話に出ていますけど、ヒュー・コーンウェルはロリコンでフェティッシュな人じゃないですか? かなりアウトサイダー的な意識がバンド内には元からあったと思うんです。'80年代に入ってあの妖艶なシンセ・サウンドに変貌を遂げていくところにも、僕は彼らにマイノリティの志向を強く感じるんですよ。そうすると自ずとタブーな雰囲気を醸し出すし、そういうマイノリティ的なものが好きな人は彼らの音楽に飛び付くんじゃないかと思うんです。まさに僕がそうでしたから。

谷口:そういう上品な変態性みたいなものはストラングラーズの音楽に通底していると思うし、僕も凄く惹かれますね。

吉田:そう考えると、絶妙なバランスで凄く奇跡的な面子が集まったバンドだと思いますよ。

──それにしても、凄まじい本数のビデオ・クリップがありますよね。趣向を凝らした実験的なクリップも多いし。

吉田:彼らの場合、デビューがメジャー・レーベルのユナイテッド・アーティスツでしたからね。だからこそ時間と予算をある程度掛けることができた実験的なクリップが多いんだと思いますよ。いきなりメジャーと契約できたのがラッキーだったと言うか、それだけの説得力がバンドにあったんでしょうけど。

中尾:何と言うか、パンク・バンドでもないんじゃないですかね。

吉田:うん。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやドアーズといった背徳感のあるバンドの系譜に位置するバンドであって、厳密に言えば純然たるパンク・バンドじゃないと僕も思いますね。ブリティッシュ・ロックの正統派と言うか、本来はその文脈で語られるべきバンドなんじゃないですかね。ただ、メンバーがちょっと暴力的だったというだけで(笑)。来日した時、ジャン・ジャックはパンク・ファッションだと勘違いしてナチの制服を着てきた日本人のファンを、いきなり演奏を中断してステージから降りてボコボコにしたらしいですからね(笑)。あと、ジャン・ジャックは自分のソロ・アルバムを酷評したジャーナリストを拉致監禁した挙げ句、縛り上げた状態でライヴのステージに登場させたことがあるらしいですよ。対バンの通報で警察が来た時には、ジャン・ジャックはすでにどこかへ逃げていたらしいですけど(笑)。




いつかヨウちゃんとセーヌ川のほとりを…

──この座談会の記事を読んでストラングラーズに興味を持った人は、まずどのアルバムから聴いたらいいでしょうか?

吉村:やっぱり、ファーストから順を追って聴くのが一番いいんじゃないですかね。ファーストの後に『No More Heroes』を聴いて、トンカチで叩かれたような衝撃を味わうのがいいんじゃないかな。でも、せっかくこうして新しいアルバムが出たんだから、そこから聴いてみるのも手だと思いますね。

中尾:うん、この『Suite XVI』から聴いてみるのは悪くないと僕も思いますね。それか、今見てるこのクリップ集で視覚的なところも含めて入っていくとか。

谷口:僕は1枚目から3枚目までの間のどれかから聴いたほうがいいと思いますね。'80年代のエピック時代のアルバムから聴くのは、余りお勧めしませんね(笑)。

──ストラングラーズに限らず、キャリアのあるバンドはまず何から聴けばいいのか悩みますよね。

谷口:ファーストですよ、やっぱり。僕は大抵そうですね。

吉村:それか、最新作から聴いてみるかのどちらか。ベスト盤は車の運転には合うと思いますけど…。

中尾:ベスト盤から聴いちゃうと、それ以上そのバンドの音源を聴かないこともありますからね。誰がそのベスト盤を選曲したかにもよると思いますけど…。

吉田:“この曲の感じが好きだから、1曲欲しいだけだけどアルバムを聴いてみよう”っていうのが僕の場合よくありますけど。

吉村:ストラングラーズはライヴ盤を一杯出してるから、昔の曲に対して常に闘ってると思うんですよね。それまで築き上げたものを突き放す感覚が最新のライヴ盤から窺えるんですよ。昔の曲をただ漫然とやってるしょうもない感じは一切ないですね。

谷口:(吉村が持参したCDを選びながら)ライヴ盤なら…僕はこの『All Live And All Of The Night』('87年発表)をお勧めしたいですね。このアルバムも「No More Heroes」から始まってます。最初にベスト盤から聴くくらいなら、このライヴ盤から聴いたほうが僕はいいと思いますよ。

吉村:とにかくストラングラーズは今もなお突き放す姿勢を貫いているわけだから、このままずっとバンドを続けて欲しいですね。

中尾:いわゆるパンクの黎明期に出てきたバンドで、今もずっと現役でバンドを続けているのはストラングラーズだけですからね。来日したらライヴを是非観たいとも思うし。

谷口:(「La Folie」のビデオ・クリップを見ながら)ああ、これこれ! このビデオを見て、実際にパリの撮影場所まで行ったことがあるんです。ヒュー・コーンウェルとジャン・ジャックの2人が語り合いながら道を下りていって、セーヌ川のほとりに辿り着くんですよ。そこでも歩きながら延々話してるんです。僕、いつかこの道程をヨウちゃんと一緒に歩きたいと思ってるんですよ(笑)。お互い、全身黒尽くめでね(笑)。それが夢ですね。

吉村:健ちゃんと俺が語り合いながら歩き続けて(笑)。それを撮ってフランス語の字幕を付けて、ジャン・ジャックに送ろうよ。こんな恰好悪いストラングラーズ好きもいるんですよ、って(笑)。


Suite XVI

The Stranglers 16th original album
Suite XVI

SIDEOUT RECORDS VSO-0029
2,300yen (tax in)
日本盤オリジナル・パッケージ/ボーナストラック「Instead Of This」「Death And Night And Blood」(いずれもライヴ・ヴァージョン)収録
2007.3.07 IN STORES
★amazonで購入する
★iTunes Storeで購入する(PC ONLY) icon

1. Unbroken
2. Spectre Of Love
3. She's Slipping Away
4. Summat Outanowt
5. Anything Can Happen
6. See Me Coming
7. Bless You (Save You, Spare You, Damn You)
8. A Soldier's Diary
9. Barbara (Shangri-La)
10. I Hate You
11. Relentless
12. Instead Of This(Live Version)*
13. Death And Night And Blood(Live Version)*
*=bonus track for Japanese edition

パンク/ニュー・ウェーヴシーンの真っ只中に登場し、過激なパフォーマンス、他のバンドとは一線を画す知的で革新的なサウンドで多くの音楽ファンを虜にしてきたザ・ストラングラーズが完全復活。ヴォーカルの脱退を経て録音された本作は、初期の激しさと最新のUKロックの理想的な融合を聴かせる傑作である。
「ひとつ確かなのは、今の俺たちは過去20年間で最高のストラングラーズだってことさ!」(ジャン・ジャック・バーネル)
「ジャン・ジャックが戻って来た! ストラングラーズが甦った。そして、新作はこのテンションの高さだ。パンクの初期衝動は、30年もその衝動を保ち続けたのである」(渋谷陽一/ロッキング・オン)
「最近、イギリスの若いバンド、いや、イギリスに限らず、ヨーロッパ各地から威勢のいい楽しいロックをやる連中が増えているのには昔からのファンのひとりとして嬉しいかぎり。でも、ベテランも随所でシブい輝きを見せているのも見逃せない。そんなシーンにまた大きな驚きだ。あのストラングラーズが甦った。実際は地道な活動を継続していたが、今回はジャン・ジャックが再び唸り声を上げたのだ。まったく、ベテランなんて怒られそうなアブナイ衝動を感じる気合いの一撃。でもって曲もイイから、さすがなんだな」(大貫憲章/KENROCKS)

The Stranglers OFFICIAL WEB SITE:The Rat's Lair
http://www.stranglers.net/

The Stranglers OFFICIAL WEB SITE in JAPAN:狂人館
http://homepage1.nifty.com/earlinblack/

SIDEOUT RECORDS WEB SITE
http://www.v-again.co.jp/sideout/

posted by Rooftop at 12:00 | TrackBack(1) | バックナンバー

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Suite XVI(スウィート シックスティーン)レビュー
Excerpt:  ただいま発売中のストラングラーズのアルバム「Suite XVI」ですが、このブログでも販売促進に努めております。あまり必死になるのも却って引かれそうだけど、まあ、ファンのやることと思ってなまあたたか..
Weblog: Heaven or Hell?
Tracked: 2007-06-08 17:34