ギター バックナンバー

ART-SCHOOL('07年3月号)

ART-SCHOOL

「僕はここにいるんだよ」。詞で語られる木下理樹のリアル

ART-SCHOOL4枚目のオリジナルフルアルバム『Flora』がリリースされた。今作はROVOの益子樹氏をプロデューサーに加え、キラキラとしたさらに進化したサウンドに仕上がっている。こんなに素晴らしいアルバムが完成し、こちらの興奮度は最高潮だというのに、今回もインタビューを受けていただいたボーカル木下理樹氏は、いつもと何も変わらない様子で謎めいた笑いを浮かべながら話す。しかし、その笑顔の後ろに隠されている、ゾッとするほどのリアルがこのバンドにはある。詞にすることによって自分を出せているのかもしれないと言った詞世界を十分に味わっていただきたいと強く思う。(interview:やまだともこ)


美術学校生からのジャケット募集、プロモーションビデオの監督

──Rooftopには2年ぶりの登場となりますので、ここ最近の活動をお聞かせいただきたいです。『Flora』をリリースされる前の先行シングル『テュペロ・ハニー』では、ジャケットを美術学校生(アートスクール生)から募集するという企画をやられていて新しいなと思ったんですが…。

木下:これはレコード会社のディレクターさんから提案があって、やってみましょう! と。応募は1000点ぐらい来ましたよ。全部目を通して5個ぐらいに絞って、最終的にカエルで行こうって。グロくてちょっとかわいい。グロカワ(笑)。

──グロカワ(笑)。

木下:あのイラストは俺等っぽいなって思ったんです。

──『Missing』ではプロモーションビデオを撮られてますが、自分が書いた曲をそのままイメージしてPVにできるっていいですよね。

木下:そうですねー。現実的には無理だということで、妥協案もありましたけど。

──普段はどういう映画を見てます?

木下:映画は死ぬほど観てるから。最近で言えば『リトル・ミス・サンシャイン』、昨年は『フラガール』が良かったです。

──PVの監督をやるにあたって、お手本にした作品はありますか?

木下:映画も音楽と同じように、今までに接してきた中から蓄積されたもので撮れるんですよ。細かく言えばこの映画のワンシーンに似てるとかあるかもわからないけど、自分のものとして消化してないと説得力ないですもん。マネしても自分が自分で嫌になっちゃうから。


死ねないよな 何か今 そんな気がするんだ

──それで、今回リリースされる『Flora』ですが、以前の作品に比べて、よりロックっぽくなったというのが印象的だったんです。これはプロデュースにROVOの益子樹さんが加わったというのも関係があったりしますか?

木下:バンドアンサンブルのしっかりしたものを録りたいって益子さんも言ってたし、僕らもいいなと思っていたので、アンサンブルの強さっていうのはあると思います。わりと時間をかけてレコーディング前に準備ができたので、益子さんと一緒に曲を詰める作業ができたんです。出来上がりは満足してますし、音的にもいい音で録れたと思ってますよ。それにつきますね。

──戸高さん(G)が作詞作曲されている曲も入ったり、バンド的に意識変化があったのですか。

木下:今まで彼の曲はカップリングに入れたりはしてましたけど、アルバムに入れるのは初めてですねー。でも、意識変化という程変化はしてないんですよ。もともと今回のアルバムは、僕が中学生の頃に聴いてたキランとした感じのUKロックとかアメリカの感じにしたいというのは伝えていていたんです。もともと曲を作れる人だから、たまたま持って来た曲が(ART-SCHOOLのイメージに)合ったんですよ。明確な意図があったわけではない。アルバムにおけるフックになればいいなと思ってますよ。

──では、先ほどおっしゃったキランとしたものっていうのは具体的にどういうイメージで?

木下:ブリットポップや、スーパーグラスとかアッシュとか。アメリカのあのときのキラキラしたソングライティングの曲がいっぱい詰まってるような感じ。あの感じを自分の中の蓄積されてきたもので出せるんじゃないかなっていうのはありました。

──これまではキラキラというより、楽曲も詞も重たい感じでしたよね。

木下:今回の歌詞も決して軽くはないですよ。重たいけど、録り音の力強さとか生命力とか音が変わったんだと思うんです。

──キーボードを入れたのは?

木下:僕はキーボードを全曲入れると思ってなかったんですが、益子さん的にはほぼ全曲入れるつもりだったらしいですね。でも、合ってるんですよ。厳密に言えば年齢もルーツも違うから、不思議な感じなんですけど、キーボードを入れて音が豊かになりました。益子さんは最初から生き物っぽい感じ…生命力のある音にしたいってずっと言ってましたから…。相当時間をかけて細かく一音一音透明さとか深さをすごく丁寧に作っていましたね。

──ところで、『LOST IN THE AIR』のリリースでインタビューをさせていただいた時に、木下さんは「人間いつ死ぬかわからない」って発言されていたんです。でも、今回は『Beautiful Monster』(M-1)で「まだ死ねないよな」っていうフレーズが出てきますよね。こういう面でも、考え方がこの数年で変わったのかという印象を受けました。

木下:『LOST IN THE AIR』に限って言うと、バンドの中もいろんなことがぐちゃぐちゃだったんです。自主で続けていくのは、この4人だと無理だろうなっていうのを感じていたので、ギリギリの状態だったんですよね。

──そういう意味では今は落ち着いていると…。

木下:今回の制作で限って言えばすごく純粋に音楽だけ考えてやれましたね。

──AH?RT-SCHOOLの詞は、実生活と願望と妄想が混じってるのかなって気がするんです。

木下:恋愛にしても、昔を思い出して書くと妄想が混じって来るんですよね(笑)。自分は思い出してるつもりでも、妄想に変わってきてるなっていう切なさってありますよ。

──私も過去を美化したりします(笑)。ということは、詞を書く時は現在進行形ではなくということが多いですか?

木下:何も考えずに書いているんですけどね。自然とそういうのが増えてるんですよ。


自分のために詞を書いて、自分のための曲を作る

──全体的に人間の心情、内面を表してる詞が多いと思うんです。木下さんってたくさん話すタイプじゃないと思うので、自分を一番表現できる場所が詞の中でだったりするのかなと思ったんです。

木下:そうなんですよねー。今ってブログでも自分をさらけ出せるじゃないですか。でも、ブログっぽい歌詞にはしたくない。確かにそこでバランスを取っているような気がしなくもないですねー。そんなに喋る方ではないですから…。

──ここでバランスをとって自分を保つ…。あと、ステージにしてもすごくクールなんですが、こうやって喋るとどこか優しい人なんだなっていう感じを受けるんです。『アダージョ』(M-5)で、子供の声が入っていて、とてもホッとした気持ちになったんです。

木下:音楽に関してもそうですけど、ピュアな人が好きなんです。でも、俺が思うピュアって一般で言うピュアとはかけ離れていると思うんです。中島らもさんがピュアで好きだけど、世間的にはピュアではないじゃないですか。だからわかんないんですけどねー、それに関して言えば。でも、ピュアなものって見てると切なくなりますよねー。胸がいっぱいになりません?

──胸がいっぱいになる感覚はわかりますけど、切なくなるというのは…はい。ところで、『テュペロ・ハニー』と『LUNA』の2曲に「男らしく生きろ」というフレーズが出てきて、この言葉に妙な執着心を感じました。

木下:これは何なんでしょうかね(笑)。僕が育った大阪シティーは、「男子たるものいつでも強くなきゃいけない」「女の子を守らなきゃいけない」「明るくなければいけない」とか、そういうのが強かったんです。これは前から思ってたんですけど、「そもそも自分も守れないのに、女の子を守れるわけねえだろ!!」って(笑)。だからずっとコンプレックスがあったんです。スポーツもできないし…。でも、これは過去のこととして面白いかなと思って書いたんです。

──『テュペロ・ハニー』には「Falling down」というフレーズが入っているんですが、こういう詞を使うところが、木下さんだなと。

木下:いやいや(笑)。「落ちていくことを大切にするんですね」ってよく言われてるんですけど、ちょっと待てと。それを大切にしてたらそもそも音楽なんてやってないから(笑)。そうじゃないんですよ。…どんな捉え方をしてもらっても良いんですけどね。「僕はここにいるんだよ」っていう詞なんですよ。

──木下さんの存在の主張?

木下:“ここにいるんだよ”というか、“ここにいてもいいんだよ”っていうことです。包まれる感じの歌詞って最近少しずつ書けるようになってきたんです。家で一人で音楽を聴くことが多くて、ある曲を聴いた時に、包まれるような感じがしたんですよ。でも思えば俺がそう思えた音楽って、全部自分のために作られた曲ばかりなんですよ。だから、共感できたというか。

──誰かのための曲ではなく自分のための曲。

木下:そうじゃないといやらしくなっちゃうから。癒し系の曲ってあるじゃないですか。でも、そういうのって俺は癒されない。むしろやさぐれていく(笑)。そういうのはやりたくないんです。

──では、木下さんにとっての音楽って何ですか?

木下:音楽は好きです。音楽を愛してる。それが全てです。あとはメッセージ。メッセージを歌うようなアーティストっていっぱいいると思うんですけど、僕はそういう人間にはなれない。僕は自分のために詞を書いて、あとは聴く人がそれぞれ感じてくれればいいかな。

──自分のために書いた音楽で多くの人が共感してるじゃないですか。それに対してどう感じます?

木下:例えばレディオヘッドとか、シガー・ロスとか熱狂的なファンに支えられてますよね。もちろん音楽が素晴らしいというのがあるんですけど、一人になれる音楽なんです。僕らもそうなりたいと思います。

── 一人になれる音楽とは?

木下:シガー・ロスをホールに見に行ったことがあるんですけど、ホールでロックバンドって退屈なんじゃないかとか壁があるんじゃないかとか思っていたんです。でもそのライブは5本の指に入るぐらい感動したんです。壁があるから逆に良かったというか。そもそもアーティストの気持ちなんて、一緒に育った兄弟でもない限りわからないじゃん。でも、一人のままでいいんだよっていう音楽に聞こえたんでH?す。そこにすごく感動した記憶がある。

──無理矢理輪に入らなくてもということですか?

木下:そうそう。輪の中にはいると思うけど、自由でいけるというのが良かったんです。

──それはART-SCHOOLのライブにも影響を受けてますか?

木下:そういう要素はいっぱいあると思いますよ。僕自身、ファンのためにやろうとか思わないですからね。いやらしいのがいやなんです。うさんくささとかいやらしさとか自分の気持ちが詰まっているものって、音楽の中にはあっていいと思うんだけど…。その辺は今でも揺れる場面がたくさんあるので、なんとも言えないですけどね。

──大きなフェスに出られていて、周りのバンドは一緒になって盛り上がろうっていう中で、バンドとの温度差を感じることってありますか?

木下:僕らが変わってるんですよねー(苦笑)。あんまり居場所がないというか、逆に居場所があってもしょうがないなって思う。そういう意味ではいいんですけどね。

──居場所がない分を曲の中で「僕はここにいる」っていうところなんですかね。

木下:あるかもわからないですね。

──今回ツアーもファイナルがC.C.レモンホールでワンマンですね。

木下:鑑賞するというか、僕はシガー・ロスを椅子席で見たときにスタンディングより感動したから、そんなに不安感とかないですよ。音楽に集中できるのかなって思います。

──会場もいつもより大きいし、不安はないですか?

木下:不安はないですねー。フェスとかでデカイとか出てますからねー。いいライブをしたいと思うだけで、そういう面でも自分達の不安はあるけど、ここでやることに対してのプレッシャーとかはないですねー。あとCD買ってもらえたらいいです。


Flora

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初回限定盤 CD+DVD PCCA-2398 ¥3,500(tax out)
通常盤 CD PCCA-2399 ¥2,900(tax out)
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Live info.

3/03(土)STAGE ONE(タワーレコード渋谷店B1F)“アコースティック ミニライブ(木下&戸高) & MORE”
3/14(水)FANJ TWICE
3/18(日)SHIBUYA-AX
3/30(金)Zepp Tokyo

TOUR'07 “Flora”
4/20(金)下北沢SHELTER
5/12(土)千葉LOOK
5/13(日)HEAVEN’S ROCK宇都宮
5/18(金)横浜CLUB24
5/20(日)水戸LIGHT HOUSE
5/26(土)広島NAMIKI JUNCTION
5/27(日)高松DIME
5/29(火)岡山PEPPER LAND
5/31(木)鹿児島SR HALL
6/01(金)大分T.O.P.S
6/08(金)新潟CLUB JUNKBOX mini
6/09(土)高崎club FLEEZ
6/14(木)名古屋Electric Lady Land
6/15(金)心斎橋CLUB QUATTRO
6/17(日)福岡DRUM Be-1
6/22(金)仙台MACANA
6/24(日)札幌BESSIE HALL
7/15(日)渋谷C.C.Lemonホール(ex:渋谷公会堂)

ART-SCHOOL OFFICIAL WEB SITE
http://www.art-school.net/

posted by Rooftop at 19:00 | TrackBack(0) | バックナンバー

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