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谷口 順(Less Than TV)('07年3月号)

谷口 順(Less Than TV)

あの名盤オムニバス『TVVA』から気がつけば(うっかり)15年!
天衣無縫の国宝級レーベルが放つ“ストレンジ”極まりない至高のコンピレーション・アルバム!!

“自分自身のことのみに異常にこだわるバンドをリリースするレーベル”として1992年末にここ日本で産声を上げ、GUITAR WOLF、DMBQ、fOUL、bloodthirsty butchers、プンクボイ、とん平&ビショップ、DEW UNDER、ロマンポルシェ。といった強烈な個性を放つバンドを数多く輩出する一方で、『TVVA(less than tv sampler)』や『SANTA V.A.』といった先鋭的なコンピレーション・アルバムの数々を世に送り出してきたLess Than TVが今年目出度く15周年を迎える。2007年度一発目のリリースとなる『Less Than TV Basic Concepts「STRANGE」』の話を軸に、今後のレーベルの展望について伺うべく、レーベルの主宰者である谷口 順を直撃した。(interview:椎名宗之)


まるでデスノートのように不吉なアルバム!?

──まず最初に、谷口さんの近況をお伺いしたいんですが。現在、お住まいは東京ではないんですよね?

谷口:ええ、今は大阪に。

──以前は静岡にいらっしゃいましたよね。

谷口:結婚するので大阪に引越しまして。私生活にもクーデターを! ってことで(笑)、2月26日に入籍をする予定なんです。

──それはおめでとうございます(笑)。大阪に住んでいるのはバンド活動のためというわけでもないんですね。

谷口:でも、大阪でミヤタケボーンズっていうバンドに入ったんですよ。宮武外骨っていうジャーナリストの名前をもじってるんですけど。

──ということは、谷口さんは現在幾つのバンドに在籍していることになるんですか?

谷口:GOD'S GUTS、U.G MAN、idea of a joke改めヤングサウンズと、4つですね。

──え? idea of a jokeはヤングサウンズに改名するんですか?

谷口:多分そうなると思います。名前はまだ判らないですけど、新しいメンバーで再始動します。

──じゃあ、idea of a joke名義の曲は今回のオムニバスが最後になるんですか?

谷口:そうですね、最後の音源です。あと、他のオムニバスにも2つ参加するんですけど。

──その今回のオムニバスですが、『Less Than TV Basic Concepts「STRANGE」』が正式名称でよろしいでしょうか。

谷口:そうです。

──「STRANGE」という言葉は、レスザンを語る上で極めて重要なキーワードのひとつですよね。

谷口:そうですね。一応、これをシリーズ化しようと思ってて。「STRANGE」の他はまだ考えてないんですけど、キーワード4つくらいで、例えば…「MELANCHOLY」だとか。

──今回のオムニバスもまたどこを切ってもレスザンらしいバンドが揃いましたね。残念ながらJOYとLimited Express (has gone?) は既に解散していますが。

谷口:そうなんですよ。Limited Express (has gone?) は活動を再開するみたいですけど、idea of a jokeもメンバーが変わっちゃったし。

──リリース前から縁起でもないことだらけですね(笑)。今回収録されたidea of a jokeの「MEJCJB」は、昨年12月に亡くなったジェームス・ブラウン(JB)への鎮魂歌なんですか?

谷口:いや、そういうわけじゃなくて元々あった曲なんです。“私とジョン・コルトレーンとジェームス・ブラウン”っていうタイトルなんですけど、録音した後にJBが死んでしまって。更に言えば、シングルに入ってる「AUSTIN」っていう曲はヴォーカルのモリカワさんがBIG BOYSのランディ“ビスケット”ターナーに捧げた歌詞を乗せたんですけど、これもまた録音してリリースする前に“ビスケット”ターナーが死んでしまったんです。まるでデスノートのように(笑)。

──不吉すぎますね(笑)。今回の参加バンドで個人的に気になったのは、COWPERSやTHUGS、MOONWALK、BONESCRATCH、BLACK FILM DANCEといった泣く子も黙る札幌シーン最狂バンドの元メンバーから成るdiscotortionなんですよ。混沌とした強烈な轟音インスト曲が文句ナシに恰好良くて。

谷口:これも実は、ヴォーカルのロブさんが腰を痛めて声が出なくなってしまって、急遽取り直してインストに切り替わったんですよ。

──やはりこのオムニバス、何かに呪われているとしか思えませんね(笑)。

谷口:まさにアクシデント・アルバムですよ! 1曲目はaccidents in too large fieldから始まりますからね!(笑)

──はははは。話が出来すぎですよ! Dancebeach、デラシネ、NERVSはそれぞれ複数曲収録されていますが、これには何か理由が?

谷口:元々これだけのヴォリュームになる予定じゃなかったんですよ。でもバランスを考えているうちにどんどん増えていってしまって。

──ああ、如何にもレスザンらしい、いつも通りのなし崩し的な展開なわけですね。

谷口:そういうことです。

──激昂テンションで押しまくる「恋ヲシヨウヨ dan dan dan」を聴くと、改めてJOYの解散が惜しまれますね。

谷口:そうですね。でも、きっとまた何かやってくれるでしょう。

──このオムニバスの中で、谷口さんのイチ押しバンドを敢えて挙げるならば?

谷口:全部がイチ押しですからね。どれもローカル・シーンではみ出していて、なかなか一筋縄では行かないバンドと言うか。クセ者揃いですね。

──中でもNERVSは群を抜いてクセ者だと思いましたが。

谷口:クセ者中のクセ者ですよね(笑)。

──耳をつんざくノイズまみれの中に妖艶な女性ヴォーカルが際立っていて。

谷口:そうですね。ライヴも凄く恰好イイですよ。

──4月に単独作のリリースが控えているヨルズインザスカイは、とりわけ期待の有望株ですね。

谷口:ヨルズ〜もライヴがメチャメチャ恰好イイですよ。ライヴを凄い数やってて。僕は、去年までですけど“ライヴは絶対に断らない”っていうスタンスでやってたんですよ。そしたらヨルズも同じように絶対断らない、誘われたら全部受けるっていうスタンスで。

──去年までの谷口さんのそのスタンスはどんな理由で?

谷口:やっぱり誘ってもらったら嬉しいし、断る理由がないじゃないですか? 今は交通費の都合とかがあるので断ることもありますけどね(笑)。

──全部の誘いを受けるっていうのは、どんなバンドとやっても負けやしねぇぞっていう意識の表れでもありますよね。

谷口:そう。それに、企画に参加してライヴをやる以上、そこには必ず何かしらの刺激を受けるし、こっちも自分達のバンドがそこでどんなライヴを見せられるかとか、ちょっと恰好つけて言えば精進する意義もありますからね。

──ヨルズ〜も谷口さんと同じ理由なんですかね。

谷口:じゃないですかねぇ。しかも、誘われたら断りづらいじゃないですか(笑)。でもこの間、知人から聞いたんですけど、イイ断り方を教えてもらったんですよ。元SOBUTのモトアキさんって、いきなり一言、「ソーリー」って言うらしいんです(笑)。「ソーリー、それには出られないんだよねぇ」って。それを聞いて“イイ断り方だなぁ”と思って。


ライヴハウスがいつでも刺激的な場所であるように

──このオムニバスは、谷口さんのコメントによると「初心に帰って言わせてもらえば、“流行もんはいやーっ!”」ということですが、今更初心に帰らなくてもレスザンはいつでも“流行りもんはいや”なアイテムばかりリリースしてきたと思うんですけど(笑)。

谷口:まぁ、確かにそうですね(笑)。

──でも、あの『TVVA』からもう15年も経つんですねぇ…。

谷口:そうなんですよねぇ。H.G. FACTの佐藤さんが「長くレーベルを続けても、誰が出しても同じっていうんじゃ意味ないんじゃない?」って言ってたんですけど、ホントにその通りだなと思って。とにかくとんがり続けて、誰にもできないことと言うよりは誰もやらないことっていうのをやり続けてきたつもりではあるんですよ。よく冗談で「10年後に評価されるでしょ?」って言うんですけど、それくらい先を行っていたいという意識はあるんです。だけど別に、10年後に評価なんて来るわけないと思ってるんですよ(笑)。最初なんかずっとボロクソに言われてましたからね(笑)。反感を買い続けて、誰からも注目されるわけでもなく。

──いや、そんなことはないでしょう。“鹿コア”なる謎のムーヴメント(海外で隆盛を誇っていたローファイ/スカムへの日本からの回答としてプンクボイ、DMBQらが関与)もレスザンにしか興せなかったわけですから(笑)。

谷口:いや、あれだってもの凄い反感を買って色々言われましたし。それはそれで爽快ではあったんですけど。

──リリースやイヴェントの最終的なジャッジは、一貫して谷口さんによるものなんですか?

谷口:いや、そんなこともないです。みんなで「こんなものを出したい」「じゃあやろう」って感じでやってます。昔からそうですけど、僕の一存で決めたことはひとつもないですよ。レーベルの名前にしても、マークにしても全部。

──去年、RISE FROM THE DEADのリリースがありましたけど、レスザンが既に一定の評価を得ているバンドのアイテムをリリースするのは珍しいなと思ったんですが。

谷口:そう…ですかね? RFDのほうからレスザン盤で出したいっていう話がたまたまあって、面白そうだと思ったんですよ。知名度があるとかは考えたことなかったですね。一緒に面白いものが作れるんであれば、有名無名は関係ないですから。

──昨今の日本のパンク/ハードコア・シーンは、谷口さんから見るとどのように映っているんですか?

谷口:凄く面白いと思いますよ。だけどやっぱり、もっともっと面白くしたいんですよね。これだけ恰好イイバンドがガンガンやってる中で、レーベルもちゃんと役割を果たさないといけないですよね。シーンをまとめる…とは思ってないですけど、まとめつつ掻き回す、みたいな(笑)。

──今年は15年という節目の年ですけど、レーベルとして何か大きな動きは予定していますか?

谷口:その前に、ホントは15周年よりも先に10周年が来てるはずなんですけど、気がついたら過ぎてたんです(笑)。だからそうやってケツを叩かれないと動かないんで。15周年だからって勝手に盛り上がってるだけですから(笑)。

──まぁ、何周年とか大っぴらにやるのはレスザンらしくない気もしますけど。

谷口:そうですね。みんなでワイワイやりたいと思ってますんで、みんなの中で“おお、15周年だよ!”って盛り上が??ればイイですね。

──気がつけば、この15年のうちに100アイテム近くリリースしているんですよね。

谷口:100まではまだ行ってないですね。ヨルズ〜で97番なんですよ。

──欠番もかなりありますよね。しかも、作品が完成して番号まで当てられているのに世に出ていないものもあると聞いたんですが。

谷口:ああ、ありますね。

──100枚近くあるアイテムの中で、谷口さんにとって特に思い出深い作品は?

谷口:難しいなぁ…。だって僕、1枚も持ってませんから(笑)。今手元にあるのが、こないだ何かで貰ったbloodthirsty butchersとfOULのスプリットくらいで…他は1枚もないなぁ。全部家に来る人にあげちゃったりして。個人的に持ってないっていうだけで、あるところにはあると思うんですけど。

──イイ加減ですねぇ(笑)。

谷口:まぁでも、僕はいつでも最新作が一番好きですね。『TVVA』は今度パート2を出そうと思ってるんですけど、振り返るのって余り好きじゃないんですよ。振り返ったところで何ひとつ覚えてないですしね(笑)。覚えてないから振り返ることもないし、そんなヒマもないと言うか。

──すべて成り行き任せで。

谷口:そう、成り行きって言うか、常に先へ先へと気持ちが行っちゃうんで。

──これからインディペンデントでレーベルを始めたいという若い人達も多いと思うんですけど、そういう人達に向けて何かアドバイスはありますか。

谷口:アドバイスをするっていうよりは、何でも質問して欲しいって感じですね。プレスのことやら印刷のことやらライヴのことやら、長くやってるぶん少しは知識があるんで、何でも聞いて欲しいですね。紹介もできるし。

──まぁ、レーベルは名乗ってしまえばそこでもう始まっているようなものですからね。

谷口:そうですね。だから自分達が色々やってきて判ってきたこともあるので、「何でも協力しますんでよろしくお願いします」って言うか。…協力させて下さいって感じですね(笑)。

──では最後に、来たるべき16年目に向けて抱負なんぞをひとつ。

谷口:ガシガシ行きますよ! ネタは尽きないですからね。って言うか、ネタが尽きてたらヤバいですよね。こんなにバンドをたくさんやらせてもらってて、レーベルもやってて、これでネタが尽きてるなんて言ったら怒られますよ。こんなに恰好イイバンドに囲まれてるから、“何かやらなきゃ!”っていう衝動が常にあるって言うか、なきゃヤバいですよ。リリースもどんどんしたくなるし。

──それと、レスザンにはもっともっとライヴハウス・シーンを掻き回して頂きたいですね。

谷口:そうですね。ライヴハウスがいつでも刺激的な場所であるようにしていきたいですね。


Less Than TV Basic Concepts『STRANGE』

VARIOUS ARTISTS
Less Than TV Basic Concepts『STRANGE』

Less Than TV FICL-1014 (ch-60)
2,100yen (tax in)
3.07 IN STORES
★amazonで購入する
01. DIAGONAL[accidents in too large field]
02. イイワケ[Dancebeach]
03. ループ[Dancebeach]
04. Brother, Are you hungry?[デラシネ]
05. Left or Right[デラシネ]
06. S.a.c.r.i.f.i.c.e.[discotortion]
07. MEJCJB[idea of a joke]
08. 恋ヲシヨウヨ dan dan dan[JOY]
09. ハレーション (LIVE)[Limited Express (has gone?)]
10. Punish you[NERVS]
11. Could you be quiet for a while?[NERVS]
12. You don't need to know it[SHIFT]
13. 地下室のピエロ[ヨルズインザスカイ]

Live info.

Less Than TV presents another channel #8
V.A/LessThanTV Basic Concepts『STRANGE』Release Party

ヨルズインザスカイ (大阪) / Dancebeach (名古屋) / idea of a joke (静岡) / NERVS / SHIFT (山形) / デラシネ
OPEN 18:30 / START 19:00
TICKETS: advance-1,800yen (+1DRINK) / door-2,300yen (+1DRINK)
【info.】Less Than TV:info@lessthan.tv / shibuya O-nest:03-3462-4420

Less Than TV OFFICIAL WEB SITE
http://lessthan.tv/

posted by Rooftop at 16:00 | TrackBack(0) | バックナンバー

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