
ファンタスティックな哲学。ロックはこんなに美しい。
人のベーシックな状態が孤独
今年1月からNAKED LOFTで森若香織のマンスリー・アコースティックライブ『Kaolyrics '07』がスタートした。2000年、新宿ロフトで深夜に行われたKaolyrics2000の続編とも言えるこのライブは、期間中、平行してアルバムを制作したり、毎回ミニ詩集を配布したりと、森若香織の有機的な試みの場となりそうだ。まずは、今回Kaolyricsを再開した動機から聞いてみた。
「2000年のKaolyricsは、初めてのアコースティックライブで、しかも毎月やるっていいう初めてのことばかりで、すごく大きな出来事だった。しかも夜中の歌舞伎町!! ギターケースを持ってライブに行く途中、ホストに挨拶されたりとか(笑)。でも1年間やるつもりだったのがスケジュールの都合で途中で終わったことがずっと気になってたんです。結局、再会するまでに7年かかったんですが、前回、精神的に鍛えられたこともあって、今回はドーンと構えて、楽しくやりたいと思います」
この間にもたくさんの曲ができたという森若は、ライブKaolyrics'07と何枚かのアルバムでそれらを発表していく予定だ。「心に一番近い文章を作るために好きな言葉を選んで繋げてシャッフルして組み合わせて、それでもまだ心から少しだけ遠いから私はその言葉達に、メロディを乗せる。それで、心と体がやっと一致するんです。」と自身の創作について語る彼女は、歌を作ることが何より楽しいと言う。
「私は楳図かずおさんの作品が大好きでほとんど読んでいるんですけど、以前、楳図さんに“なんで(マンガの)ネタがなくならないんですか?”って聞いたことがあるんです。そしたら楳図さんは“ネタは絶対になくならない。怖いものを描こうとするのではなくて、例えば、このお茶がどうなったら怖くなるか?、灰皿がどうなったら怖いのか?を考える。そうしたら永遠にネタは生まれる。”って言ったんです。その時に、ああなるほどと思った。私も歌を作る時、一つの言葉や感情からたくさんの意味を連想しながら広げていくことが多くて、曲ができないってことはないんですね。もちろん全部を発表しているわけではなくて、作ったら終わりみたいなものもたくさんあるんですけど、今年はたくさん発表できると思います」
2月に発売されたニューアルバムの『ファンタスティック・フィロソフィー』というタイトルも、“ファンタスティック”と“フィロソフィー”のそれぞれの意味の組み合わせで“空想的な哲学”“気まぐれな達観”“お見事なあきらめ”等々、様々なバリエーションを連想させる。
「言葉を組み合わせたり、作ったり、言葉遊びがすごい好き。辞書を読むのが好きなんですね。寝る前に読んだりするんですけど、絶対に読み切れないじゃないですか(笑)。国語辞典、英和辞典、類語辞典、あと電子辞書とかも、すごいいっぱい持ってます」
ずっと言葉を極めてきた森若だが、かといって、彼女の書く詞には難しい言葉はほとんど出てこない。むしろ一つのシンプルな言葉をいろいろな角度から捉えているものが多い。
「ボキャブラリーがないのかもしれないけど、同じ言葉を何度も使ってますね。夢とか、自由とか。あとチェリーって言葉もなぜかよく出てきます」
例えば“孤独”という言葉も森若の曲でよく使われる単語だ。不思議なことに、孤独という言葉が持つネガティブな印象はあまり感じられない。
「うん。なんかね、孤独というのが好きなんです。人のベーシックな状態が孤独なんだと思う。だから、孤独イコール寂しいという気持ちより、孤独イコール自由という感覚が出てくるんだと思います。」
こうした感覚を曲にしたのがアルバム『HEAVEN』に収録された『FREEDOM』で、“孤独って何のことだ? 自由の事だ”というフレーズが印象的だ。
「ずっとそういう感覚はあって、それをきちんと言葉にしたのがこの曲だと思います。子供の時から一人で遊ぶのが一番好きで、それは今でも変わらない。数年前から、女性誌とかで“おひとりさま”っていうのが流行っていて、それは、女性も一人で食事に行ったり遊びにいったりしようっていうものなんですけど、それを見たとき、ああ、私これ全部やってる!!ってびっくりした(笑)」
しかし、森若香織には、いつも大勢の人と楽しくやっているイメージもあるが。
「そうですね。人見知りしないし、人と一緒にいるのも好きだし、親友も沢山いるんだけど……。なんて言うか、言葉は悪いけど、人と深く関わろうと思ってないのかも(笑) というか、この人のことを全部わかってあげようとか、逆に自分をわかって欲しいという気持ちがあんまりないから、かえって楽に人と一緒にいられるんだと思う」
そんな彼女も、かつてはもっと人に執着した時期がなかったのだろうか? 『楽しい大人』という曲には“19の春には殺したい彼がいた”という歌詞もあるが。
「その曲はYOUとの共作なんですけど、その部分はYOUが書いたの(笑) 彼女がすごく大人だなあと思うのは、その後に“会いたくはないけど元気でいて”って続くじゃないですか。そこがすごく好きですね」
「執着するってすごい愛情でもあると思うんです。もちろん私もすごい嫉妬とかする時もあるんですが、それは瞬間的なもので、どんどん流れていくという感覚がある。“こいつ許せねえ、殺してやる!”って、そこまで思う時もあるんですが、たぶん私の場合、包丁買ってきて研いでる間に“ま、いっか”で終わっちゃうようなタイプなんです(笑)」
自分なりの哲学をみんなが持てばいいな
GO-BANG'Sでデビューしてから20年もの間、ずっとミュージシャンとして活動してきた森若香織は、自分が作ってきた作品を振り返ってみた時、どの年代も基本的な考えがほとんど変わってないことに愕然としたそうだ。その変わらなさ、根底にある何か、つまり自分なりの哲学をアルバムタイトルにしたのが『ファンタスティック・フィロソフィー』だ。
「哲学ってそんなに難しいことじゃなくて、自分の方法──例えば処世術だったりとか、ライフスタイルだと思うんです。決して、哲学者が難しく言うことを勉強するのではない。例えば老人って、普通に言うことが哲学じゃないですか。何年か前に、私のおばあちゃんが96歳で大往生したんですが、死ぬ前、私に“明治時代の女は自分の夫が死んだら自分も死ぬって思わなければいけないものなのに、私はおじいちゃんが死んだ時、そう思わなかったの。だからね、人生、まじめになんかやることないのよ”って言ったの(笑) それって彼女の哲学じゃないですか。私はそれを聞いたとき、ああ、これでいいんだ!って思ったの。自分の経験と自分のスタイル、そして自分の器と処世術、それが大切なんだなあって。」
「やっぱり哲学って、みんなが持ってないとつぶれちゃう。自分の中に自分の教えみたいなものを持てば、人はすごく強いと思うんです。例えば、偉い人が“自分のことよりも相手に与えることが愛だ”っていう正論を言った時に、じゃあ、それができない自分ってなんだろうって悩むじゃないですか。そこで、“それ無理!”って認めて、でも、このケーキ、私が食べたいからあなたにはあげられないけど、ちょっとだけあげるねっていうことで、自分がよしと思えるんだったら、それでいいじゃない。そういう自分なりの哲学をみんなが持てばいいなって。」
森若香織の歌詞が優れているのは、物事の真理や人生の教訓みたいな事を、決して難しい言葉ではなく、等身大のわかりやすい言葉でさらりと(時にはコミカルに)表現してしまう所だ。特に『HEAVEN』という曲では、そうした森若の世界観が美しく結晶している。
「これは書いた時にすごくすっきりした。なんて言うか、ああ、私のアルマゲドン終わった、みたいな(笑)そういう感覚がすごくありました。世の中には哲学も宗教もいっぱいあるじゃないですか。いろんな考えや教えがあっていいし、その中から自分にはこれができるとか、むいているとか、そういう自分のものを見つける、それが私なりのHEAVENなんです。HEAVENにはいろんな意味があって、死んだら行く場所、葬る場所ってことや、いわゆる極楽、温泉気分みたいな(笑)、そういう意味もあるから。楽しいことはこの世のHEAVENへ、悲しいことはあの世のHEAVENへ送ればいい。正しいか間違っているかわからないけど、これで私はすっきりしたし、安心したんです」
素材は提供するからあとヨロシク!
今作は、もちろん森若香織のソロアルバムだが、バックトラックを担当した白根賢一(GREAT 3)と三浦俊一(ケラ&ザ・シンセサイザーズ、ex.P-MODEL)を含めた、3人によるプロジェクトが作った作品という側面もある。非常に個性的な3人による共同作業はどのように進められたのか。
「私はギターと歌だけの状態の曲を彼ら二人に渡して、後は自由に音を作ってもらう。まさにKaolyricsでやっているようなギターと歌だけの“ネイキッド”な私に、デザイナーである白根君と三浦君が、服を着せてアクセサリーを付けてお化粧して“いかが?”っていうのがこのアルバムですね」
ポストAORと銘打った今作の多彩なアレンジは、ハードロックからアシッド・フォーク、テクノからエレクトロニカまで、聴く者を、まさに電子の桃源郷ともいえる美しい世界に誘ってくれる。
「以前は、材料も料理も自分で作っておいしいと言ってもらわなきゃって思ってた所があったけど、今回は、素材は提供するからあとヨロシク! でも私が作ったこのトマトの味は絶対に自信があるからねって感じ(笑) こういう自信ができたのは、アコースティックライブをやった経験がすごく大きいです。だから、Kaolyricsは田舎道で売ってる野菜の自家販売みたいなもので、それを料理してこんなにおいしくなりましたっていうのがこのアルバムかな(笑)」

ファンタスティック・フィロソフィー
DDCH-2110 1,890yen(tax in)
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Live info.
monthly live at Naked LOFT
「KAOLYRICS '07」
3月31日(土)
4月27日(金)
5月26日(土)
6月30日(土)
7月27日(金)
8月25日(土)
9月28日(金)
10月27日(土)
11月30日(金)
12月22日(土)
森若香織 OFFICIAL WEB SITE
http://www.moriwaka-kaori.com/