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足立正生('07年1月号)

足立正生

幽閉者 -テロリスト-

60年代には『女学生ゲリラ』『略称・連続射殺魔』などの実験的作品、若松孝二監督作品の脚本を手がけ、70年代初頭にパレスチナへ渡り、パレスチナ解放人民戦線(PFLP)と共闘しつつ作品を制作。常に映画と革命とを同一線上において活動し続けた足立正生。1974年、一旦映画活動を捨て、中東でゲリラと行動をともにし、世界革命に身を投じていった。映画界では伝説となりつつあった革命家・足立正生が35年ぶりに手がける新作映画『幽閉者 -テロリスト-』が、満を持して公開される。はたして足立監督は今の世界に何を投げかけているのか?(interview:佐々木理恵)


日本赤軍の時代を経て

──この映画、『幽閉者』の主人公「M」には実際に存在する人物がモデルということですが。

足立:主人公Mは「岡本公三」(註1)をモデルに、それをベースにものすごく中性的な人間にしています。彼はイスラエルの刑務所に13年間入れられていたんですが、映画ではどこの国かわからないようにしてあります。最初に法廷がでてくるけど、それはイスラエルの国旗でもなんでもなく、無国籍な状態です。リアリティを捉えるのがテーマではなかった。

──幽閉された状態で人間が追い込まれるというのは、今の世の中ではあまり身近ではないシチュエーションのように思うのですが。

足立:今でもたくさんありますよ。私の仲間はまだまだ何人も刑務所に入ってるし、終身刑も決まっていて一生そこに入れられているやつもいるんです。これは普通の軽犯罪とはちがうから、だいたい20年以上、要は生きている間とじこめられることになります。なおかつ独房なんです。だからこの映画の主人公と同じ。今の世の中ではないことと言われたけど、実は今の世の中はそういうことばっかりなんです。今、左翼、新左翼の人が合計40人くらいこういう状態で、死期を待っている人も大勢います。

──普通の犯罪よりも重い罪になってしまうんですね。

足立:確信犯だからでしょ。100%正しいとは思っていないけど、革命のための必要な行動だと思ってやるわけですが、それが裁かれる。普通に強盗に入って金だせって言うのと比べて、十何倍も重いんですね。

──足立さんは97年レバノンで逮捕されて2000年に強制送還されましたが。

足立:私の逮捕理由は「私文書偽造」。入国ビザに偽名を使用したわけですが、だいたいこれは一番重い刑で3ヶ月。ところが私の場合は裁判で1年半かかり、2年半の刑、4年の執行猶予だったんです。最大3ヶ月の罪のはずが私の場合はそうなるわけです。なぜならば私が日本赤軍という武装ゲリラだったからという理由。そういう風に恣意的になってますね、世の中全部。


管理・コントロール化された社会で生かされるということ

──今、若い人たちが国家を相手取って運動することに踏み出せないのは、昔の日本赤軍のような過激派への厳しい処罰を見せしめにしていることも一理あるのでしょうか。

足立:そうですね。そういう狙いがあったのは70年始めからです。ずっと15年くらいかけてそれを徹底していって、新左翼を追い詰め潰し始めます。そして国家権力による管理社会がスタートするわけです。コントロールがうまくいきはじめて、どんどん強くしていったのが90年代。バブルがはじけた後です。特に95年のオウムのサリン事件や、神戸大震災が起こって、「大震災ではああいうゴミゴミした街にしておくから、震災が拡大した。だから、全部きれいに整理して、明るい健康な街にしましょう」という管理を徹底していくわけです。だから、サリン事件後も、「怪しいと思ったらすぐ密告せよ」というのが徹底しているでしょう。監視しやすい状態にしていったんですね。そして、この社会に受け入れられないであがいている人たちは、思想的におかしいとか、病的におかしいとか、宗教でもおかしい宗教と決め付ける。コントロールするのにやりにくいものは全部排除するわけです。2001年には、9.11という同時多発テロ事件が起こりました。今度は権力にはむかうもの、つまり大きく言えば独立して国を作りたいとか、民族を解放したいというのも含めて、全部テロリズムと決めつけたんです。

──そのころからテロという言葉がよく出てくるようになりましたよね。

足立:反テロ戦争の時代にはいるわけです。国家にはむかうもの、自分の権力になびかないものをテロリストと呼ぶんだけど、実際は管理コントロールを駆使して、人々全体にテロを起こしているのは国家なんです。そういうことを無理矢理やっているのは中東で言えばイスラエルだし、アメリカとイギリスがイラクやアフガンを攻撃したのも全部テロリズムなんです。国家テロリズムだけが存在して、それをやっている側が、はむかうものに対してテロリストと呼んでいるんですね。日本の場合、70年代半ばから徐々にやっていって、反テロ戦争をブッシュが宣言したころにはもう管理コントロールが行き届いていました。今、そういうコントロール下で若い人たちは孤立させられ、締め付けられて生かされる。ただ、その締め付けというものがナイロンやオブラートのような、誰がどう締め付けているのかわからないシステムだから、実感できないでいる。私の若いころと比べてみると、今の若者たちは本当に辛い、生きにくい世の中にいるなと思っているんです。それは同情しているレベルではなく、そういう社会を作ってしまった自分にも責任を感じているし、あなたがた若者たちと一緒にどうやって解きほぐすのか、どうぶちやぶるのかを考えないといけない。それが映画『幽閉者』のテーマでもあるんです。


足立正生の描く『幽閉者』の正体とは?

足立:この『幽閉者』の場合は、独房という小さな牢獄の部屋の中の、なおかつ1.2Mの立方体の鉄格子に鉄のテーブルがあってその4本足に鎖で縛り付けられているところからスタートしています。これは実際に岡本公三がそうされていたんですが、目に見えて幽閉され拷問されている主人公と、見た目には自由で痛みはないけれど、息をするのが難しいくらい社会の中で孤立させられ、生かされている人々と実は変わらない、そういうことがこの映画から感じ取ってもらえればと思います。

──新左翼運動の時代を生きていた人たちが共感して観るというよりは、若者たちに気づいて欲しいという意味合いのほうが強いということでしょうか。

足立:今頃の若者はダメだとか、バーチャルな世界に逃げ込んでいると言う人が多いんですが、僕はそうは思ってなくて、そこに囲い込まれていると見ています。今のままでいいと思っている人はほとんどいないのではないでしょうか。そういう人たちは、昔みたいにスクラム組んでワッショイやる仕方ではなくて、泥水がガスで沸騰するみたいに、あちこちで、それぞれに特徴のあるやり方でスタートするだろうなと。それぐらい若者たちが苦しんでいるのであって、決して適当にやりすごしたりしているのではないと思います。僕は若者に同情するのではなく、この苦しい中で迷っている、悩んでいる若者を支持したいんです。


今こういう時代だから、若者と対話したい。

──私はまさにそういう若者の立場なんですが……正しいのはこれだ、ということを教育され、秩序を乱すことや、警察の厄介になることは悪いことだと教え込まれて育ってきました。

足立:教育で正しいとか、間違いだと言っていることは私は絶対に信じません。はずれていい、ずれていい、と。でもあなたにはそれが常識だったわけです。今まで常識を受け入れて生きてきたわけだから、それを全部いきなりひっくり返すのは無理でしょう。順番にやりなおす。それしかないですね。いい解決策とかはないですよ。

──なんでだろう? と思う世の中の事象にあっても、スルーしていたように思います。

足立:それを一つ一つスーと後ろにしちゃわないで、全部ポケットかノートにいれておいて、ちゃんと考えるんです。それがテーブルいっぱいに溜まったら何か見えてきますよ。

──不満はたくさんあっても、それが何か認識していないとも言えないでしょうか。

足立:認識しづらくされていると思ったほうがいいですね。それでいいと思っているわけじゃなくて、すごく追い詰められているようにみえるんです。それが、私が若者と対話したい理由です。そこからどうするの? と。どうしたらいいのと聞かれたら、解決策は私は出せない、あなたが見つけなきゃいけない、と言うでしょう。

──今回の『幽閉者』は、今の管理コントロールされた日本を作り上げた国への反発的な映画というよりは、すでにそうなってしまっている社会の中で生きる若者たちに、そのことに気づいて欲しいという意味合いがあるのでしょうか。

足立:そうですね、まずそれが一点。それで、じゃあ映画だからメッセージがあるでしょと言われても、僕はありません、と答えます。この映画も、ある種のシチュエーションや実態的なものは見せられるけど、解決するのは結局見た人が自分でやってくれるしかないと思っています。だから昔みたいに、みんなで『幽閉者』の主人公みたいに鉄砲持って何かやっていけるかというと、それは何の意味もないと思っています。彼のケースを見ながら自分と照らし合わせられるようなリアリズムがこの映画で出せればいいなと思っています。


註1 岡本 公三:日本赤軍のメンバー。1972年のテルアビブ空港乱射事件の犯人の一人で、唯一逮捕された。イスラエルで終身刑を言い渡されて服役していたが、1985年にイスラエルとPFLP-GCとの捕虜交換により釈放。日本赤軍が本拠地としていたレバノンに戻り、日本赤軍と合流した。現在もレバノンに在住していると見られる。日本では犯罪者として指名手配中だが、アラブの民衆からは今でも英雄視されている。


◇映画公開情報

足立正生監督作品 『幽閉者 -テロリスト-』
CAST:田口トモロヲ、PANTA、大久保鷹、梶原譲二、仲野茂、荻野目慶子、他
MUSIC:大友良英、ジム・オルーク、他
2007年お正月第二弾ユーロスペースにてロードショー!


◇イベント情報

2007年1月11日(木)@ロフトプラスワン
『幽閉者 -テロリスト-』公開直前イベント

*メイキング『幽閉者たち』(監督:土屋豊)特別上映あり (19:30〜)
出演:足立正生、四方田犬彦、宮台真司、土屋豊、田口トモロヲ、他
OPEN 18:30 / START 19:30
前売¥1,800 / 当日¥2,000(飲食代別)

posted by Rooftop at 12:00 | TrackBack(0) | バックナンバー

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