ギター バックナンバー

THE ROOSTERS→Z DO the VINYL!!!('07年1月号)

ザ・ルースターズ

21世紀にヴィニール盤で聴くルースターズ!
究極のアナログ・アイテム『ULTIMATE LP BOX』

ブルースやR&Bのクラシックスを荒々しくパンキッシュな解釈とスピード感で鳴らし、やがて同時代のニュー・ウェイヴやポジティヴ・パンクに呼応した独自の音楽を奏でるに至ったザ・ルースターズ。幾多のメンバー・チェンジと音楽的変遷を重ねながらも、彼らの音楽には大江慎也が言うところの“最新型のロックンロール”が一貫して根底にはあった。そこに無軌道だが奔放な表現形態と底知れぬパワーが内在していたからこそ、実質的な解散から19年を経た2007年の現在でもルースターズの音楽は我々の心を大きく揺さぶってやまないのだろう。
 そんなルースターズの全アルバムをオリジナル・ジャケットで完全復刻した究極のアナログ・ボックス『THE ROOSTERS→Z ULTIMATE LP BOX』が今春発売となる(完全予約限定生産)。デビュー・アルバムからラスト・アルバムまでの10枚のオリジナル・アルバム、当時CDでしか発売されなかったラスト・ライヴ音源を2枚組で初レコード化した計12枚が収録されたこのスペシャル・アイテムの発売を記念して、数奇な軌跡を辿った彼らの豊饒なる音楽を今一度検証してみたい。




1st ALBUM THE ROOSTERS
オリジナル品番:COLUMBIA AF-7017-AX/1980年11月25日発売
SIDE-A:テキーラ/恋をしようよ/カモン・エヴリバディー/モナ(アイ・ニード・ユー・ベイビー)/フール・フォー・ユー/ハリー・アップ/イン・アンド・アウト
SIDE-B:ドゥー・ザ・ブギ/新型セドリック/どうしようもない恋の唄/気をつけろ/ロージー
腑抜け野郎の脳天をたたき割れ!!

 前身バンドである人間クラブ、スニーカーズを経て、大江慎也(vo, g, hca)、花田裕之(g, cho)、井上富雄(b, cho)、池畑潤二(ds)の4人で'79年10月に結成されたザ・ルースターズの記念すべきデビュー・アルバム。日本のロック史における最重要作品のひとつでもある。ローリング・ストーンズやサンハウスの影響が色濃かった人間クラブ、ラモーンズなどのNYパンクを意識したというスニーカーズの音楽的要素をミックスさせたかの如く、ブルースやブリティッシュ・ビートをパンキッシュなスピードで一気に聴かせるのが初期バンド・サウンドの大きな特徴である。エディ・コクランの「カモン・エヴリバディー」やボ・ディドリーの「モナ」といったカヴァーも、求道的にブルースやR&Bのフォーマットに寄り掛かることなくオリジナリティに溢れた仕上がりとなっている。ちなみに、LPの帯コピーは「腑抜け野郎の脳天をたたき割れ!!」だった。



2nd ALBUM THE ROOSTERS a-GOGO
オリジナル品番:COLUMBIA AF-7053-AX/1981年6月25日発売
SIDE-A:Radio Shanghai〜Wipe Out(ラジオ上海〜ワイプ・アウト)/Lipstic On Your Collar(カラーに口紅)/One More Kiss(ワン・モア・キッス)/Sitting On The Fence(オン・ザ・フェンス)
SIDE-B:Dissatisfaction(ディスサティスファクション)/Fade Away(フェイド・アウェイ)/Bacillus Capsule(ビールス・カプセル)/Fly(はえ)/I'm A Man(アイム・ア・マン)/Telstar(テルスター)
ポップでカラフルな面を強調した傑作セカンド

 ファーストで聴かせた倍速ブルース/R&B路線の発展形でありながらも、バンドが本来持っていたポップでカラフルな面(人気曲「ワン・モア・キッス」が収められたA面に顕著)を強調させたセカンド。ライナーノーツでは「これが最新型のR&R」と大江自身が語っている。アルバムの冒頭と最後を飾るエレキインスト・バンドの有名曲(サーファリズの「ワイプ・アウト」とトルネイドーズの「テルスター」)、コニー・フランシスの「カラーに口紅」といったオールディーズのカヴァーは、メンバー自身の判断は当然あったにせよ、プロデューサーだった柏木省三による意向も大きかったのではないか(発表された当時はオールディーズのリバイバル・ブームでもあった)。帯コピーは「明るい青少年(FANTASTIC KIDS)のためのロックン・ロール! はやくも飛びだした青春のロックン・ローラー“ルースターズ”第2弾!!」。



3rd ALBUM INSANE
オリジナル品番:COLUMBIA AZ-7129-AX/1981年11月25日発売
SIDE-A:LET'S ROCK (Dan Dan)(レッツ・ロック)/WE WANNA GET EVERYTHING(ゲット・エヴリシング)/BABY SITTER(ベビー・シッター)/ALL NIGHT LONG(オールナイト・ロング)/FLASH BACK(フラッシュ・バック)
SIDE-B:CASE OF INSANITY(ケース・オブ・インサニティ)/IN DEEP GRIEF(イン・ディープ・グリーフ)
内省的な作風へと変化した転換期

 前作から僅か5ヶ月後に発表されたサード・アルバムは、大江と池畑が出演した石井聰亙監督の映画『爆裂都市/バースト・シティ』の撮影と並行してレコーディングされた。その『爆裂都市』の挿入歌にもなった「レッツ・ロック」、「ゲット・エヴリシング」といった初期のサウンドの流れを汲んだ性急なナンバーもA面には並ぶが、バンドの代表曲のひとつに挙げられる「ケース・オブ・インサニティ」、大江が父親の死に関する思いを元に書き上げたという9分を超える大作「イン・ディープ・グリーフ」という同時代のニューウェイヴ・バンドからの影響が色濃いB面の2曲が白眉。大江の自作曲に英語詞が増え、内省的な作風へと変化し出したのもこの作品からである。LPの帯には「とどまることを知らない黒い弾丸ビート! ポップな爆弾! 狂気の最終兵器ロックン・ロール!!」という石井聰亙によるコメントが寄せられていた。



4th ALBUM DIS.
オリジナル品番:COLUMBIA AF-7228/1983年10月21日発売
SIDE-A:She Broke My Heart's Edge/I'm Swayin' In The Air/She Made Me Cry/Desire
SIDE-B:Sad Song/風の中に消えた/夜に濡れたい/Je Suis Le Vent
陰影に富んだフォーキー・サイケデリック・ロック

 4曲入り12インチ盤『ニュールンベルグでささやいて』('82年11月)、『C.M.C』('83年7月)のリリースを挟み、池畑潤二脱退後初のアルバム。本作から灘友正幸がドラムを担当、当時「1984」(大江を除いたルースターズの別プロジェクト)に参加していた下山淳も数曲ギターとベースで参加している。また、『ニュールンベルグ〜』から加入していたキーボードの安藤広一はメンバー間における良き潤滑剤の役割も果たしていた。本作は、体調不振からようやく復帰した大江がギターを全く弾いていない異例のアルバムながら、陰影に富んだ独自のエキセントリックなフォーキー・サイケデリック・ロックを志向した、凛として張り詰めた佇まいの傑作として名高い。なお、当時シングル・カットされた「Sad Song」は“Winter Version”と題され、本作収録ヴァージョンとはヴォーカルと編集が異なる。



5th ALBUM GOOD DREAMS
オリジナル品番:COLUMBIA AX-7394/1984年4月21日発売
SIDE-A:ゴミ/Good Dreams/C.M.C.(Health-Mix)/Hard Rain
SIDE-B:Drive All Night(Club-Mix)/ニュールンベルグでささやいて(Health-Mix)/カレドニア(Re-Mix)/All Alone
ROOSTERSからROOSTERZへ

 バンド表記を“THE ROOSTERS”から“THE ROOSTERZ”へと改めた初のアルバム。井上富雄が求心力を欠いたバンドの在り方に危惧を覚え脱退、当時19歳だった柞山一彦がオーディションによりベーシストとして加入した初の作品でもある(ただし、柞山はテクニックが未熟だったために、彼の名前がアルバムにクレジットされるのは『NEON BOY』以降となる)。ベーシック・トラックが'82年9月に録られた「ゴミ」(ドラムは池畑潤二)など、『ニュールンベルグでささやいて』制作時の未発表曲やリミックスを中心に構成した作品のため純然たるオリジナル・フル・アルバムとは言えないものの、ファンの間では人気の高い一作である。花田初のヴォーカル曲「Drive All Night」(エリオット・マーフィーのカヴァー)やサンハウスの「ふっと一息」をカヴァー・改題した「All Alone」など聴き所も多い。



6th ALBUM φ(PHY)
オリジナル品番:COLUMBIA AF-7334/1984年12月21日発売
SIDE-A:VENUS/COME ON/DOWN DOWN/HEAVY WAVY/BROKEN HEART(破れたハート)
SIDE-B:FEMME FATALE/STREET IN THE DARKNESS/MESSAGE FROM.....COME ON, LOVE MY GIRL/LAST SOUL/MUSIC FROM ORIGINAL MOTION PICTURE "PUNISHMENT"
大江慎也在籍時最後のアルバム

 大江慎也在籍時最後の作品。病状が悪化し迷走する大江の穴を埋めるべく、楽曲制作は基本的に花田+下山コンビの作曲に柴山俊之が詞を提供する態勢となり、プロデューサーの柏木省三と安藤広一がアルバムのコンセプトやイメージを作り上げるようになった。大江が作詞曲に携わったのは全10曲中僅か3曲(「COME ON」「HEAVY WAVY」「LAST SOUL」、単独作は「COME ON」のみ)だけだが、大江慎也という存在をこれほどまでに強く感じるアルバムもそうはない。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「FEMME FATALE」のカヴァー(ヴォーカルは花田)も秀逸だ。「全体をフラワー・パワーの頃のようなムードで統一すること」をコンセプトに、全曲にメロトロンやストリングス風のシンセをダビングした安藤の貢献は非常に大きく、冒頭を飾る「VENUS」はその理想的完成型と言える。



7th ALBUM NEON BOY
オリジナル品番:COLUMBIA AF-7379/1985年9月21日発売
SIDE-A:ネオン・ボーイ/ストレンジャー・イン・タウン/UNE PETITE HISTOIRE/ハーレム・ノクターン/OUT LAND
SIDE-B:あの娘はミステリー/DON'T YOU CRY/Lブ・Sイート・Dリーム/マイ・ファニー・フェイス/白日夢(スリープウォーカー)
新境地を切り開いた新生ルースターズ・サウンド

 大江慎也と安藤広一が脱退し、唯一のオリジナル・メンバーとなった花田裕之がヴォーカルを兼任、下山淳、灘友正幸、柞山一彦という4人編成となった新生ルースターズ。3曲入りの12インチ・シングル『SOS』('85年7月)を経て発表された初のアルバムは、『DIS.』以降のネオ・サイケデリック路線をよりポップに発展させた透明感溢れる作品である。タイトル曲である「ネオン・ボーイ」に顕著だが、ゴージャスなストリングスや女性コーラスを大胆に加えるなど、新境地を切り開こうとする意欲が随所に垣間見られる。全10曲中3曲を作曲した下山は「マイ・ファニー・フェイス」(作詞は柴山俊之)でヴォーカルにも挑戦し、大江在籍時の花田のポジションを担うかのようだ。LPの帯コピーは「花田裕之をメイン・ボーカルに新たに始動したルースターズ。ポップで力強いルースターズ・サウンドが炸裂」。



8th ALBUM KAMINARI
オリジナル品番:COLUMBIA・BODY AF-7430/1986年11月1日発売
SIDE-A:OH! MY GOD/CRIMINAL ROCK/CRAZY ROMANCE/PRECIOUS/WARM JETTY
SIDE-B:BLUE NIGHT/GIRL/NO NO NO/SEARCHIN'
ハードでアグレッシヴな初セルフ・プロデュース作品

 メンバーと関わりのない形でリリースされた編集盤『SUPER MIX & MEGA MIX』('86年4月)をめぐり、デビュー以来のプロデューサー&マネージャーだった柏木省三と決別した後に発表された新生ルースターズのオリジナル・アルバム第2弾。後期ルースターズの代表作として名高い。前作で聴かれた軽快なポップ・ナンバー、ストリングスや大所帯のコーラスなど派手なアレンジは影を潜め、ハードでアグレッシヴなサウンドを全面に押し出している。花田と下山のギター・アンサンブルの妙も素晴らしく、新編成での活動が軌道に乗っていることがよく窺える。また、ホッピー神山(key)が全編にわたり、アクシデンツの宮本秀二(ds, per)が「PRECIOUS」でそれぞれゲスト参加し、アルバムに良いアクセントと彩りを与えている。なお、当時の初回盤には「Transmission」を収録したソノシートが付いていた。



9th ALBUM PASSENGER
オリジナル品番:COLUMBIA・BODY AF-7463/1987年9月1日発売
SIDE-A:PASSENGER/HURT BY LOVE/BURNING BLUE/GOOD NIGHT, GOOD MORNING/WATCH YOUR STEP
SIDE-B:THE WING/A-RE/SEIREN/STRANGE LIFE/WRECK MY CAR
リズムを強化したパリ・レコーディング作品

 花田の独断でパリでのレコーディングを敢行、プロデューサーにキング・サニー・アデなどを手掛けたワールド・ミュージック・ブームの仕掛人、マルタン・メソニエを起用した作品。後期ルースターズ・サウンドを確立した前作から一転、リズムを強化したプリミティヴな仕上がりとなっているのが大きな特徴で、花田が当初志向したエスニック・サウンドとは裏腹にネオサイケ風の作品が増えている。灘友と柞山のプレイに疑問を抱いたマルタンの意向により、現地のスタジオ・ミュージシャンを使ったテイクも多々あるという。これが原因で、灘友と柞山は本作のツアーを最後に脱退してしまう(花田も本作発表後しばらくして下山に辞意を漏らした)。'85年7月に来日したジュリアン・コープのツアー・サポートをきっかけに、ジュリアンから書き下ろし曲「WRECK MY CAR」を提供されたことも話題になった。



10th ALBUM FOUR PIECES
オリジナル品番:COLUMBIA・BODY AF-7484/1988年5月1日発売
SIDE-A:GUN CONTROL/再現できないジグゾウ・パズル/鉄橋の下で/LAND OF FEAR/(Standing at) THE CROSS ROAD
SIDE-B:EVERYBODY'S SIN/NAKED HEAVY MOON/曼陀羅/LADY COOL/予言者
鉄壁のリズム隊を迎えた最後のスタジオ・アルバム

 花田の辞意を受けた下山の意向により、当初からラスト・アルバムであることを念頭に置いて制作された作品。脱退した灘友と柞山の代わりに加入したのは、元ローザ・ルクセンブルグの三原重夫(ds)と元ロッカーズの穴井仁吉(b)という鉄壁のリズム隊だった(三原と穴井には解散することは伏せられていたという)。SIONがハーモニカで参加したPANTA作詞の「鉄橋の下で」、前作に続くジュリアン・コープによるナンバー「LAND OF FEAR」、ホッピー神山のアレンジが光る下山のヴォーカル曲「予言者」など、聴き所は実に多い。とりわけ、デビュー以来一貫してルースターズを温かく見守ってきた柴山俊之が作詞した「再現できないジグゾウ・パズル」は、苦難の道程を歩んできたバンドに対する柴山の深い愛情が滲み出た感動的なフェアウェル・ソングである。凄まじくクオリティの高いこの会心作を最後に、THE ROOSTERZ(THE ROOSTERSに非ず)は3年間にわたる活動に終止符を打つ。



11th ALBUM FOUR PIECES LIVE
オリジナル品番(CDのみ):COLUMBIA・BODY 32CA-2716/1988年10月10日発売
GUN CONTROL/再現できないジグゾウ・パズル/NAKED HEAVY MOON/OH! MY GOD/EVERYBODY'S SIN/鉄橋の下で/HURT BY LOVE〜LAND OF FEAR/CRAZY ROMANCE/曼陀羅/NEON BOY/NO NO NO/(Standing at) THE CROSS ROAD/C.M.C./PASSENGER
ラスト・ライヴの模様を収めた歴史的音源

 '88年7月22日、渋谷公会堂(当時)で行なわれたラスト・ライヴの模様を収めた作品。当時はCDのみの発売で、今回の『THE ROOSTERS→Z ULTIMATE LP BOX』で初のアナログ化(2枚組)となる。下山の慧眼を証明するかのように、三原と穴井というリズム・セクションの躍動感に溢れたプレイが非常に素晴らしく、そこに有機的に絡み合うツイン・ギターのアンサンブルも妙味に富んでいる。三原と穴井を加えたこの布陣こそ後期ルースターズのベスト・ラインナップだったことを如実に物語る歴史的音源だ。アンコールの「C.M.C.」では、当時既にソロ活動を始めていた大江慎也、池畑潤二、井上富雄の3人もゲスト参加し、THE ROOSTERZのラスト・ライヴに花を添えた。なお、THE ROOSTERSとしてのラスト・ライヴはこの16年後、'04年7月30日にフジロック・フェスティヴァルのグリーン・ステージで果たされることになる。




宇野勝昭(レコーディング・エンジニア)に訊くレコード盤の魅力

『永遠の名盤 LPレコード復活。』と題して、昨年10月25日に時代に刻み込まれた名盤たち一挙9作品がコロムビアミュージックエンタテインメントから発売された。好評を受け、既に完売してしまった作品も現れる中、1月24日に新たに6作品(新作3タイトルを含む)が発売されることが決定した。アナログならではの暖かい音色で、CD全盛の今なお多くのファンを魅了してやまないレコード。往年のジャズ〜クラシック〜歌謡曲から、近年ではTHE YELLOW MONKEYやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTなど、30年に渡りレコードのカッティングを手掛け、もちろん今回のプロジェクトでも活躍されている宇野勝昭さんにお話を伺うことができた。(インタビュー・文:タナカヒロシ)


音は6割、溝をレコードに入れる技術が4割

 宇野さんが入社されたのは昭和44年(1969年)。はじめの半年は録音部で技術面のサポートを行ない、その後カッティングやマスタリングの仕事に従事。途中、PCM録音の仕事に携わりつつも、約30年、カッティングの道を歩み、現在はフリーのエンジニアとして活躍されています。

「昔はスタジオで録ったものが、そのまま工場で製品になるとみんな思ってたと思うんですよ。マスタリングなんかもそうですけど、レコードを切る作業が間にあること自体、知られてなかった時代が長かったですから。基本的にはこういう窓のない部屋で一日中一人で(笑)。孤独な作業という感じですね」

 10月25日のLPレコード復刻を機に、現在、数々の取材を受けている宇野さん。まずはレコード制作の手順を伺った。

「レコードの場合、1曲1曲全部完璧に決めるとか、極端なことはできないんですよね。1曲1曲で止められませんので、全体の繋がりで音を決めて。最初にレベル調整をして、その後ポイントの出力を上げたり、LOWを上げたり、個々の音を全部チェックして。それから盤にテストで切って、納得いくようなものであれば、次に本番と」

 レコードの発売が主流だった当時で、1日にアルバム1.5枚ほど制作されていたそうで、その中でも印象に残ったお仕事を伺うと。

「久保田麻琴さんのレコードをやらせていただいた時に、本人がいらっしゃって。テストカットを繰り返して、切った盤を自宅へ持って帰られて、『もうちょっとこうして』とかやりとりをしながら、3日ぐらいかけて作ったんですよ。それは自分の中でも勉強になりました。そういう納得したものというか、基本的に苦労したものは印象に残りますよね」

 そんな宇野さんの頭を悩ませるのが収録時間。最適なのはLPで片面17分だそうです。

「レコードは時間で制圧されますので、長いとレベルを下げなければいけないんですよ。でもやっぱり『(これだけの時間を)入れてくださいよ』というような要望があるわけで、そうすると溝と溝が接近したりっていうことが起きますから。短ければ音のほうに力を注ぎ込むことができるんですけど、長いものだと盤に収めるほうにも頭を働かせなければならなくなって。低音とレベルで溝の振れ幅がだいたい決まりますので、振れが大きくなるとレコード盤の規格に入っていかない。だから、よく言うんですけど、音は6割で、溝をレコードに入れる技術が4割と」

 また、意外と知られていないのが、内周よりも外周のほうが音に優れているということ。内周は面積自体が小さいため、特性的にも外周に比べて高音が伸びないそうです。そのため、技術者的な観点では、最後はバラードで締め括ったほうが、レコードとしては完成度が高いとのこと。今回のプロジェクトでも、そういった点を考慮して、時間を考えたセレクトをされているそうです。  最後に、「この機会に聴いてみようか」という方に対して、宇野さんなりの楽しみ方を教えていただきました。

「今はiPodとかメディアが変わってきて、ヘッドホンで聴かれてる方も多いと思うんですけど、レコードをヘッドホンで聴くかっていったらないわけですよ。スピーカーから流れてくる音で楽しむのは、基本的にレコードだと思うんですよね。CDもレコードも同じスピーカーで聴かれていると思うんですけど、また違う音で出てくると思うので、その辺は楽しんでもらいたいですね」


レコード盤に命を吹き込むカッティング・マシーン

 写真がカッティング・マシーン。ドイツ・ノイマン社製で、70年代の機械。盤は下から空気を吸引して圧着させ、カッティングの際に動かないよう固定する仕組みとなっている。カッティング針はルビー製で、切りやすくするため、電流を流して約80℃に暖めている。溝は1mmにだいたい12本。収録時間の長いのもになると16本入れる時もあるそう。筆者も実際に顕微鏡で覗かせていただきましたが、ここから音が出るのかと思うと感慨深いものがありました。

「部品とかはある程度ストックしてますけど、いずれは必然的に発売できなくなりますし、やる人も年齢的に(笑)。カッティングをしてる人は、もうみんな50代とかですからね。僕自体もそうですけど、機械自体も使ってないとダメになっちゃうっていうのもありますから、より多くのレコードを出せればと思います」とは宇野さんの切実な想い。レコード盤には、アーティストが込めた想いの上に、カッティングをしたエンジニアの想いが詰まっているのです。


『永遠の名盤 LPレコード復活。』第2弾! 新作3タイトルを含む全6作品!
弘田三枝子
ニューヨークのミコ ニュー・ジャズを唄う

COJA-9218 / 3,990yen (tax in)
1965年、日本人歌手として初めてニューポート・ジャズ・ フェスティバルに出演、そしてニューヨークに残りレコーディングされたマニア垂涎の激レアLP復刻。


矢野沙織
Groovin' High

COJY-9221 / 3,990yen (tax in)
ジャズ・ジャイアンツと世界に翔く新鋭の共演。6本のホーンとリズムセクションがリアルな音場を繰り広げる。96khz 24bit録音からのアナログ・カッティング。


チャーリー・パーカー
MEMORIAL

COJY-9219 / 3,990yen (tax in)
チャーリー・パーカーのサヴォイでの記念すべき第1作。マイルス・デイヴィスの初々しいプレイも聴きもの。オリジナル10インチのジャケットからアートワークを復刻。


田部京子
ホルベアの時代から グリーグ・リサイタル

COJY-9219 / 3,990yen (tax in)
磨き上げられた美しいメロディと圧倒的なクライマックス。田部の新境地を明らかにする、深い感動を呼ぶアルバム。最新技術DSD方式による録音からアナログ・カッティング。


リー・モーガン
INTRODUCING

COJY-9220 / 3,990yen (tax in)
ポスト・クリフォード・ブラウンの一番手と言われた天才リー・モーガンが18才で残した初リーダー作。アナログLPはオークションで数万円の高値の付く貴重盤。


有田正広
モーツァルト:フルートと管弦楽のための作品全集

COJO-9214〜5 / 5,880yen (tax in)
フラウトトラベルソの世界的名手・有田正広が、自身のライフワークとして満を持して完成させたモーツァルトの協奏作品全集。最新技術DSD方式による録音からアナログ・カッティング。


『永遠の名盤 LPレコード復活。』第1弾ラインナップ
美空ひばり『美空ひばり魅力のすべて』/舟木一夫『舟木一夫魅力のすべて』/都はるみ『都はるみ魅力のすべて』/美空ひばり『ナット・キング・コールをしのんで ひばりジャズを歌う』/カーティス・フラー『ブルースエット』/アート・ペッパー『サーフ・ライド』/ノイマン指揮・チェコフィルハーモニー管弦楽団『新世界』/パイヤール室内管弦楽団『四季』/ルツェルン弦楽合奏団『ブランデンブルク協奏曲』
◇詳しくはコロムビアミュージックエンタテインメントHPまで→http://columbia.jp/LP/

posted by Rooftop at 13:00 | TrackBack(1) | バックナンバー

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紙ジャケの次はアナログ・レコード復活!
Excerpt: ■エルダー層をターゲットにアナログ・レコード復刻へ 「アナログレコードを買う層...
Weblog: 専門家や海外ジャーナリストのブログネットワーク【MediaSabor メディアサボール 】
Tracked: 2007-09-15 07:46