ギター バックナンバー

ASPARAGUS×BEAT CRUSADERS('07年1月号)

ASPARAGUS×BEAT CRUSADERS

BEAT CRUSADERS、“スプリット・アルバム・サーガ(3部作)”最終章!
類は友を呼び、美メロは美メロを呼び、満を持してASPARAGUSが登場!!

YOUR SONG IS GOODとの『BOOOOTSY』、TROPICAL GORILLAとの『CELL No.9』に続くBEAT CRUSADERSの“スプリット・アルバム・サーガ(3部作)”最終章を飾るのは満を持してのASPARAGUS、その名も『NIGHT ON THE PLANET』! 激しく心を揺さぶる良質のメロディ、そのメロディを活かす卓越したアレンジ・センス、決して甘さだけに流されない艶やかな歌声、そしてライヴでその本領を発揮する確かな演奏力……本誌の読者ならばそうした両バンドの共通点は今更説明するまでもないだろう。古くからお互いのライヴをサポートし合うなど盟友関係を保ち続けてきた両者だからこそ生み出せたメランコリックでロマンティックなこの不世出のスプリットについて、ASPARAGUSの渡邊忍(vo, g)とBEAT CRUSADERSのヒダカトオル(vo, g)にじっくりと話を訊いた。(interview:椎名宗之)


3部作最終章はASPARAGUSに決めていた

──まずヒダカさんにお訊きしたいんですけど、今回の“スプリット・アルバム・サーガ(3部作)”は当初からこの3組で行こうと考えていたんですか?

ヒダカ:ええ、最初から決めてました。計画通りですね。

──去年はシングル『DAY AFTER DAY/SOLITAIRE』のリリースがあった上にこの怒濤の3部作が続いたわけで、次々と新曲を生み出すのは至難の業だったと思うんですけれども。

ヒダカ:そうですね。でも、日々音楽漬けなのでそこは全然辛くないですよ。常に音楽がないと不安なんですよね。今は有り難いことに音楽を生業にもできているし、それを辛いと言ってしまうとプロになりたい人に対して失礼だし。それに、一生にそうそうできることじゃないとも思ってるので、楽しんでやってますよ。

──3部作の大トリはやはりASPARAGUSで行きたい、と?

ヒダカ:はい。最後は絶対にアスパラだな、と最初から思ってましたよ。かれこれCAPTAIN HEDGE HOG時代にシノッピーと知り合って、もう7、8年になるのかな? 当時は単純に、自分がイヴェントをやるからライヴに出てくれないかな? っていう話だったんですけど、その話をシノッピーにした瞬間に、「じゃあ、スプリットを作りましょうよ」と逆に言ってくれて。だから最初は、CAPTAIN HEDGE HOGから持ち掛けてくれた話なんです。そこでいたく感動しまして、その感動の続きが今回こうしてスプリットの結論として実を結んだわけです。CAPTAIN HEDGE HOGは当時からREACHやSHORT CIRCUITとスプリットを出してたよね。

渡邊:うん。昔から“スプリット癖”みたいなものがずっとあったんですよね(笑)。面白そうなバンドがいたら、すぐ何か一緒に作りたくなっちゃうんですよ。

ヒダカ:俺は当時、シノッピーからそう言われた時に凄く嬉しくて。それまでずっと根無し草的だったBEAT CRUSADERSにやっと居場所を与えてくれたと言うか。まぁ、シノッピー本人にそんな意識は全然なかっただろうけど(笑)。

渡邊:そうですねぇ…結構軽いスタンスでした(笑)。

ヒダカ:その頃、社会人としてバンドをやってた俺は何事も理詰めで考えてたんですけど、理屈じゃなくていいんだということをシノッピーが教えてくれたんですよ。もっとノリで決めちゃってもいいんだ、っていう。それは有り難かったですよね。メジャーに移ってからもこうしたスプリットをずっとやりたいと考えていて、虎視眈々と機会を窺っていたんですが、やっとこうして実現できることになって、どうせやるならド派手に3連発で行きたい、と。それでシェルター15周年ツアーに負けず劣らずのこんなムチャな企画をやってみたわけですよ(笑)。

──はははは。過去にはCAPTAIN HEDGE HOGとBEAT CRUSADERSのスプリット(『WXY』/2001年3月発表)もあったし、CAPTAIN HEDGE HOGが解散して忍さんがASPARAGUSを始めてからも幾度となく互いのツアーをサポートしているし、いつこんなスプリット・アルバムが生まれてもおかしくない状況にはありましたよね。

ヒダカ:そうですね。お互いのツアーを一緒に回るのは、もう10回以上はやってるかもしれませんね。

──ファンの層も被っているような気がしますが。

ヒダカ:まぁ、ロフト・グループにおいてはそうでしょうね(笑)。

渡邊:今はまたちょっと違う部分があるかもしれないですね。最近は一緒にライヴをやる機会も減ってきたし、BEAT CRUSADERSはメジャーで、活動のフィールドも僕達と違ってきてますから。でもそれはそれでいい刺激を受けてるし、春先にかけてツアーを一緒に回るので、また新しく観てもらえたらいいなと思ってますけど。


高田延彦とザ・エスペランサーのような関係!?

──YOUR SONG IS GOOD、TROPICAL GORILLAとの音楽的異種格闘っぷりも十二分に楽しめましたけど、ASPARAGUSの場合は美メロ至上主義的な出自が近いこともあって、それほど“異種”な印象は受けませんよね。これまでが剣道 VS 柔道だとしたら、今回は真正面から柔道 VS 柔道の一騎打ちと言うか。

ヒダカ:ええ。自分の中でも、ASPARAGUSが一番異種格闘技な感じはなかったんですよね…全然異種ではないと思います。平たく言うと、基本的にギター・バンドで歌モノ的な共通点があるので。まぁ、高田延彦とザ・エスペランサーみたいなものかな?(笑) 一応、お面らしきモノを付けてたから俺達がエスペランサーですかね(笑)。面白かったのは、TROPICAL GORILLAのCimに「トロゴリは歌モノじゃないよね」みたいな話をしたら、「エッ!? 俺はメロディックなパンクのつもりでやってますよ」って(笑)。あんな??に叫んでる印象が強いのに、自分達ではメロディアスなつもりでいるらしいんですけどね(笑)。

──今回の『NIGHT ON THE PLANET』が3部作の中で最も整合性が高いと言うか、純粋に1枚の作品として統一感があってスムーズに聴けますよね。

ヒダカ:そうそう。やっぱり歌モノ的な部分が凄く大きな共通点なんだと思いますね。キュンキュン来る感じとかね。

──キュンキュン胸に来ますよねぇ。1曲目の「FAIRY TALE」から両者のメランコリック・ワールドに一気に引き込まれますから。両者の共演曲でもあるこの「FAIRY TALE」は、忍さんとヒダカさんによる男の子と女の子の掛け合いヴォーカル的なニュアンスの曲なのかなと思いましたが。「FAIRY TALE」=“おとぎ話”ということで。

ヒダカ:ああ、それは面白い指摘だなぁ…。

渡邊:それはつまり…ヒロシ&キーボー的な?(笑)

──はははは。もっとロック寄りに言うなら、バービー・ボーイズ的…あるいはBOφWYとスージー・クアトロ的な(笑)。

渡邊:「勇み足サミー」もしくは「THE WILD ONE」的な(笑)。まぁ、そういう発想は全くなかったですけど(笑)。でも、そんな考え方も面白いですよね。

ヒダカ:どっちが杏子さんになるんだろうね?(笑) ハスキーさで行くと俺かな?(笑)

渡邊:それよりも、どちらのバンドのベースがエンリケなのかが気になるところですけどね(笑)。

ヒダカ:まぁ、2人ともBOφWYを起点としたビート・パンクを通ってるじゃないですか? それこそバービー・ボーイズも含めて。あの感じは自ずと「FAIRY TALE」にもじんわり出てる気がしますね。その意味ではロフト世代…俺が通ってた時期よりも前のもっと殺伐とした時代のロフトと言うか、その当時のビート・パンク感はあるのかもしれませんね。

──「FAIRY TALE」の曲自体のモチーフは忍さんが?

渡邊:「FAIRY TALE」のほうはそうですね。

ヒダカ:で、ケツの「MONOLOGUE IN MY HEART」のほうが俺ですね、ベーシックな部分は。シノッピーとの対比がよく出てると思うし、いいところに落とし込めた気はしてます。そこはやはり長年の信頼関係があればこそですよね。

──こうしてお2人が一緒に唄うのを聴くと、CAPTAIN HEDGE HOGの頃から追い掛けてきたファンまで含めて間違いなくグッと来るでしょうね。

ヒダカ:そう思って頂ければ有り難いですね。やっぱり、2人とも全然違う声だからいいんだろうと思いますね。トロゴリみたいに割と俺に近い声質が混ざって勢いを出すのも面白いんですけど、アスパラとそれをやっても余り意味がないので。アスパラと共作するからには、真逆の良さを出したかったですからね…それこそWATER CLOSETかバービー・ボーイズか、っていうところで勝負しようと思ったし。


渡邊忍の最後の5分のベタ踏み

──スプリットの共作曲は、「これはユアソン用、あれはトロゴリ用…」という書き分けをされたんですか?

ヒダカ:いやいや、それはもうやりながらですね。言うほど緻密に計算もしてないので。今回、こうしていろんな取材を受けているうちに判ったのは、シノッピーよりも俺のほうがせっかちで、実は何も考えてないっていうことなんです(笑)。それが徐々に露呈し始めてきたのでマズイな、と(笑)。

──忍さんの作曲方法はせっかちと真逆ですよね。締め切りの直前の直前まで周囲のメンバーやスタッフをやきもきさせるほど待たせ続けて、最後にはとんでもない名曲をドーンと持って来るという…。

渡邊:よくご存知で(笑)。

ヒダカ:シノッピーの場合、遅刻しそうな最後の5分のベタ踏みが半端じゃないんですよ(笑)。その時のアクセルの全開具合が(笑)。

──夏休みの宿題は8月30日から片付けるタイプですね(笑)。

渡邊:そうですね。まぁ、子供の頃は両親に宿題をやってもらってましたけどね(笑)。ベタ踏みどころじゃないんですよ。自分の手すら汚さないという。僕じゃなくて両親がベタ踏みしてましたからね(笑)。だから今回のスプリットに入れた曲も、もしかしたらゴーストライターが書いたのもあるかもしれないですね(笑)。

──忍さんのご両親が書かれていたらおかしいですけど(笑)。

ヒダカ:実はオジキ(曽根功/3P3B代表)が書いてたりして(笑)。

──ASPARAGUSの「DEAD SONG」、BEAT CRUSADERSの「OVERKILL」と両バンドの書き下ろし曲も期待を裏切らないクオリティの高さを誇っていますね。

渡邊:それは嬉しいですね。

ヒダカ:ありがとうございます。最初、共作曲が出来るまではお互いに明るめの曲を持って来るつもりだったんですよ。

──タイトルからして、“DEAD”に“KILL”と物騒ですからね(笑)。

ヒダカ:そうなんです。ちょっとネガティヴな感??じなんですよね。特に申し合わせたわけではないんですけど。オリジナル曲とカヴァー曲に関しては、お互いギリギリまで内緒にしておいたんですよ。

渡邊:「FAIRY TALE」と「MONOLOGUE IN MY HEART」という共作曲を最初にレコーディングして、後は互いに録って発売を待つだけ、という。共作曲は色々と話し合ってやりましたけど、アルバム全体のテーマとかは特に話すこともなく。いい曲を入れたいというのはもちろんありましたけど。

ヒダカ:それまでのユアソンとトロゴリのは音像が全然違うのでお互い時間を掛けながら作りましたけど、ASPARAGUSとBEAT CRUSADERSの場合は付き合いも長いし、作業は割とスムーズだったんですよね。ベーシックをお互いに持ち寄って、後はディテールをスタジオで一緒に詰めていくやり方で、3部作の中でも作業が一番早かったんですよ。トロゴリの時にあれだけ苦労したのは何だったんだ!? っていうくらい(笑)。

──ユアソンの場合は?

ヒダカ:JxJxはJxJxで作業が早いんだけど、テレビを見ながら2人でずっと話し込んで時間が掛かっちゃうんですよ。『ビューティー・コロシアム』を見ながら2人で感動したりしてて(笑)。だって切なすぎるじゃないですか、あの番組(笑)。

──恒例となったお互いのカヴァー曲は、BEAT CRUSADERSが「MEMORIES」(『KAPPA II』収録)、ASPARAGUSが「SECOND THAT EMOTION」(『FORESIGHTS』収録)と、図らずも共にサード・アルバムからの選曲になりましたね。

渡邊:ああ、ホントだ。全然気が付かなかったな。

ヒダカ:まぁ、共にバンドが熟し始めた頃って言うんですかね。女優で言えば、初期・川島なお美みたいな(笑)。

渡邊:はははは。『お笑いマンガ道場』で“だん吉・なお美のおまけコーナー”やってる頃の(笑)。

ヒダカ:シェルターに喩えるなら、ニッシー(西村仁志)が店長になる前、平野(実生)さんが店長を務めている時代(笑)。




カヴァー曲はお互いに対するリクエスト

──他にカヴァーの候補曲は幾つかあったんですか?

ヒダカ:俺達は何曲か試し試しやりつつ決めました。アコギでモッシュさせるのがASPARAGUSの凄いところだと思うので、アコギの曲をエレクトリックにするか、その逆でエレクトリックの曲をアコギにするかどっちかにしようと思ったんですよ。で、共作曲で割といい感じにアコギ感が出せたので、カヴァーのほうはエレクトリカル・パレードで行こう、と(笑)。青春胸キュン・ソングと言うと軽い感じになってしまうけど、そんなテイストの「MEMORIES」を俺達は選んだんですよね。

渡邊:僕は単純に「SECOND THAT EMOTION」が凄く好きな曲なので。『FORESIGHTS』のレコ発の時にやってた印象が強いんですよね。

ヒダカ:一番対バンしてた時だよね。

渡邊:うん。あと、最近ライヴでも聴かないなぁと思ったしね。どのバンドもそうですけど、ライヴでやらなくなる曲っていうのはどうしても出てきてしまうし。

ヒダカ:だからこのカヴァーはお互いに対するリクエストなんだろうね、ある意味。ユアソンの時もトロゴリの時もそんなニュアンスはあったしね。で、アスパラの「SECOND THAT EMOTION」のカヴァーにはインディーズ時代の曲のコーラスが5曲分くらい入っていて、アイディアが斬新だったし嬉しかったですよね。あれは自分じゃ絶対思い付かないですよね、自分で作った曲なのに(笑)。ニルソンがカヴァーしたビートルズの「YOU CAN'T DO THAT」みたいで凄くいいなと思って。あのカヴァーはビートルズのいろんな曲のイントロが出てきたり、コーラスが「SHE LOVES YOU」だったりするんですよ。

──それはバンドに対する最大級のオマージュですね。

渡邊:そこはやっぱり、好きだからこそ成せる技ですよね。いろんな曲を試しているうちに、“あ、このリフ入るじゃん!”って思い付いたりしたので。

ヒダカ:俺が如何にワン・パターンだったかよく判りますよね(笑)。むしろ俺達のほうがパロディとかをやりそうなのに。俺はあの発想を利用して、カラオケ・メドレーでも作ろうかなと思いましたけど(笑)。

渡邊:僕がBEAT CRUSADERSの「MEMORIES」を聴いて思ったのは、凄くキラキラしてるなぁ…と。

ヒダカ:アコギでキラキラするよりも、俺達は鍵盤でギラギラにしてみました(笑)。

渡邊:眩しすぎるくらいに(笑)。

ヒダカ:あと、カヴァーに関してはお互いに王道じゃないところを持って来てる感じはあるよね。

渡邊:そうだね。ライヴの定番曲じゃないところと言うか。

ヒダカ:それは多分、相手がアスパラだからこそやれた気はするな。お互いにいい意味でチャレンジする甲斐がありましたよ。

──発想のド??真ん中を目掛けていくよりも、ちょっと外したところを狙うセンスみたいなものは、両バンドの大きな共通点のひとつと言えますよね。

渡邊:そうですね。ちょっと天の邪鬼っぽいところはありますね。

ヒダカ:そう。ちょっと外すと言うよりは、シノッピーが言うように両バンドとも天の邪鬼なんですよね。特にこのヴォーカリスト2人が。裏切ってナンボっていう頭が常にどこかであるんですよ。

渡邊:かと言って、奇をてらうのは余り好きじゃないんですよね。

ヒダカ:そうそう。誤解を恐れずに言うと、お客さんとか、ヘタするとメンバーすらも無視してこの2人がまず何よりも面白いと思えるかどうかが凄く大事だったりしますからね。

──両者ともこれだけ良質のメロディを紡いで巧みなアレンジを施した、ある意味歌モノの王道を行くポップ・センスを兼ね備えていると思うんですけど、バンドの佇まいとしてはどういうわけか“王道感”は希薄ですよね(笑)。

ヒダカ:そうですね。王道なロックにはなり得ないと思いますね、どうあがいても。英語で唄っているからとか、そういう意味じゃなく。


ブルペンに立たずにいきなりマウンドに上がる感覚

──そんな王道になり得ないバンドが、DefSTAR RECORDSという天下の大メジャー・レーベルに所属している痛快さがありますからね(笑)。

ヒダカ:そうなんですよね(笑)。とは言え、メロディアスっていう本来の意味で行くと、パッと聴きの印象としてはメジャーから出ていても遜色ない歌モノを作ろうとは思ってるんですよね。もの凄くミクロな話をすると、俺達が『WXY』をCAPTAIN HEDGE HOGと作った頃はシェルターでもクアトロでも客層が同じだったと思うんですけど、今はシェルターとクアトロだと客層がガラッと変わっちゃうと思うんですよ。ハコやシチュエーションでその温度差は絶対にあるな、っていう。だからお互いが置かれた環境は理解しつつも、今回のスプリットではお互いに向けてしか唄ってないんですよね、実は。リスナーのことは余り考えてないんです。

──その部分は、メジャーに移籍しても一貫しているわけですね。

ヒダカ:そうです。俺も理論的にはリスナー目線でマーケティングしていこうとは思いますけど、実際のところはフィーリングで判断してるところが大きいんです。フィーリングとしてバッチリであればそれでいいと言うか…今は余り言わないか、“バッチリ”って(笑)。

──じゃあ、“バッチグー”で(笑)。

ヒダカ:フィーリングとして“バッチグー”が出ればそれでヨシ、と(笑)。

──では逆に、このスプリット・アルバムの制作を通じて見えてきた両バンドの違いみたいなものはどんな部分ですか?

ヒダカ:俺達のサウンドはリズムを跳ねてさせてから疾走感を出すタイプだと思うんですけど、アスパラは逆に上モノで疾走感を出すんですよね…アコギのストロークだったり、ギターのリフだったり。もちろんドラムやベースに疾走感がないという意味ではなくて、ドラムやベースはアスパラのほうが俺達よりももっとボトムとして機能しているんです。俺達は上も下も飛び道具みたいな方法論ですからね。そこは今回改めて感じたし、凄く勉強になりましたね。だから結局…自信がないんでしょうね、俺の場合は。

──またそんな殊勝な発言を(笑)。

ヒダカ:いやいや、自信はホントにないですよ。一定のことをやり続けてると自分でも飽きるし、お客さんも飽きちゃうんじゃないかっていう恐怖があるから、いろんなアレンジを試してみたくなるんです。アスパラはその逆で、1曲の中にアイディアを盛り込む潔さがあるんですよね。その分、実はボトムがもの凄くしっかりしてるんですよ。だからその結果、渡邊さんの仕事量がハンパないことになるわけですけど(笑)。

渡邊:両者の違いっていうのは…まぁ単純に楽器の量からして違うし。共作できることに関しても、BEAT CRUSADERSには鍵盤があるから曲作りの段階でいつもと違う感覚でやれるんですよね。いつもは3人だけで、ギターは1本しかないんだっていう感覚ですから。人数がいつもより多いことで曲の幅も広がるし、逆にやりすぎると詰まっちゃうから、普段では味わえない面白さが今回はありましたよね。

ヒダカ:ウチの上モノであるリード・ギターの(カトウ)タロウとキーボードのケイタイモが実は意外と一定のことをやってるんですよね、よく聴くと。そこはアスパラと真逆なところで、ウチはベーシックな3人のほうが割とムチャやってたりするんですよ。そこの対比はありますね。俺は今回、シノッピーが一定のリフを弾いてるのを久しぶりに見たような気がする。「MONOLOGUE IN MY HEART」は、シノッピーとタロウがずっと一定のことをやってシーケンス感を出してますからね。そこは俺としては新しかったな。

──「MONOLOGUE IN MY HEART」みたいな曲は、双方にとって今??までありそうでなかったタイプの曲ですよね。

ヒダカ:まぁ、俺達なりのサザンオールスターズって言うか(笑)。

──「Oh! クラウディア」みたいな?(笑)

渡邊:喩えがイチイチ古いんだよなぁ(笑)。

──今日は80年代バンド・ブーム世代限定インタビューですから(笑)。

ヒダカ:桑田佳祐さんがソロで出した…「白いクリスマス」みたいな。あ、それはジュンスカだ(笑)。「白い恋人達」ですね。「恋人たちのクリスマス」じゃありません。…って、やっぱりイチイチ喩えが古いですね(笑)。

──「FAIRY TALE」と「MONOLOGUE IN MY HEART」以外にも共作曲はあったんですか?

渡邊:何曲かは試してみましたけど、やっぱりこの2曲が一番しっくりくるな、と。

ヒダカ:うん。長年連れ添った古女房的な安心感がアスパラにはあるから、ブルペンに立たずにいきなりマウンドに上がってお互いがピッチャーとキャッチャーをやる、っていう感覚はありましたね。

──なるほど。じゃあ、忍さんの曲待ち以外は順調に事が進んだ、と(笑)。

渡邊:いやいやいや、そんなことないですよ(笑)。

ヒダカ:実際、意外と待たなかったしね。むしろJxJxと曲作りをしたユアソンの時のほうが、お互いに待たされた感はありましたから。あと、ユアソンはブルペンに出る前のベンチでの話が長かった(笑)。なかなかマウンドで球が投げられなかったという(笑)。




誰の上にも等しく夜は訪れる

──通り一遍のことを伺いますが、『NIGHT ON THE PLANET』というタイトルにはどんな意味が込められているんですか? 「FAIRY TALE」の歌詞にもこの言葉が登場してきますけれど。

ヒダカ:ご想像の通り、ジム・ジャームッシュが監督した映画のタイトルから取ったんです(原題は『NIGHT ON EARTH』)けど、「FAIRY TALE」の歌詞を書いている時にイメージしたのは、シノッピーが考えるメランコリックをヒダカトオルのフィルターを通すとロマンティックになるんじゃないか? ということなんです。シノッピーの持つメランコリックさを、もっとロマンティックにしたかったんですよね。いつもはバルパンサー(太陽戦隊サンバルカン)的な狂暴さを発揮するシノッピーを、バルシャークである俺がシュガー・コーティングしてみたと言うか(笑)。あのジム・ジャームッシュの映画も、ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキという5つの都市でタクシー・ドライバーが同じ夜に経験するそれぞれの物語が進行するじゃないですか? ああいう多面的な感じを出したかったんですよね。ちょっとクサいことを言うと、誰の上にも等しく夜は訪れるという…。

──ロマンチストですねぇ。ロフト的に言うと、吐き気がするほどに(笑)。

渡邊:はははは。スターリンですね(笑)。

ヒダカ:こう見えて意外とロマンチストなんですよ。スプリット3部作が進むにつれて段々と個に向かっていくと言うか、多くの人に訴えるつもりがなくなっていくという…悪い意味じゃなくてね。個に向けて発信してることに共感する部分って誰しもあるじゃないですか? パンク・ロックだってそうだと思うし。サウンドは全然パンクっぽいわけじゃないですけど、その個に向けた感じをこの2バンドでできればな、と。だからこのスプリットの共作曲に関しては、普段じゃ唄えないようなクサいことを唄ってもいいのかなと思ったんですよね。そこはお互いに信頼があるので。

──そういう芸当はやはり30代でも半ばを過ぎないとできないものですよね。

ヒダカ:俺は38ですけど、渡邊さんはまだ30代前半ですから。

渡邊:まだ31の若輩者ですしね(笑)。20代だと、例えば友達と『24時間テレビ』のマラソン中継を見ていても、本当は感動してるのに、表向きは一生懸命走ってる姿が恥ずかしいとかポーズを取ってしまうわけですよ。そこで感動してる自分が恥ずかしくなって。でも今は笑いながら涙を流せると言うか、バカにしながらもしっかり泣いちゃってるんですよ(笑)。そんな感覚ですね。

ヒダカ:このスプリットで共演できた3バンドの中で一番ロマンティックじゃないのはASPARAGUSですよ。JxJxとかCimのほうが普段からよっぽどロマンティックなことを言ってますからね(笑)。

──忍さんにその自覚はありますか?

渡邊:はい(笑)。僕は全然ロマンティックじゃないですねぇ。

ヒダカ:メランコリックとロマンティックは違いますからね。

渡邊:ちょっと違いますよね。僕は結構現実主義ですから。

ヒダカ:几帳面だしね。妄想は多いけど潔癖性だし(笑)。一番ビックリしたのは、ツアー中に「もの凄く真新しいシャツ着てるね?」ってシノッピーに言ったら、「これはちゃんとレノアで洗濯したから」って言われて(笑)。あれは俺、もの凄く衝撃的で(笑)。

渡邊:防臭もできる柔軟剤ですから(笑)。 ??

──来たるべき30代後半の加齢臭対策として(笑)。

渡邊:そうですね(笑)。色モノ用の漂白剤とかにも気を遣ってるし。

ヒダカ:俺なんて部屋干し臭とか半端ないですからね(笑)。仮にレノアを買って使っても、入れるタイミングを間違えたりとかね(笑)。そういうところも含めて勉強させてもらってると言うか。


両者間にあるホームのような温かさ

──そういう日常生活における嗜好の違いは、各々の音楽性にも如実に表れている気がしますが。

ヒダカ:そうなんですよ。シノッピーに比べると、俺はいろんな音楽を聴いてそこで論理を組み立てていくんですけど、対象との距離は一緒なんです。シノッピーはその対象となるものがCOBRAだったりするんで更に意外なんですけど(笑)。

渡邊:僕はもう、ナオキさんしか見てないですから(笑)。ナオキさんのギターってただのパンク・ギターじゃないですからね。

ヒダカ:パブ・ロック的な要素もあるからね。

渡邊:そうそう。僕の場合、そういった対象となるセレクトが狭いんですよ。今でもギタリストで好きなのはナオキさんと鮎川誠さんくらいで。

ヒダカ:そこがいい意味でバランス取れてるんですよね。俺はいろんなギタリストのいろんなエッセンスを採り入れてみたいと思うタイプなんですけど、結果的にやってる音楽が両者ともそれほど遠くないっていうのが面白いんですよね。

渡邊:僕が思うのは…とある一人のミュージシャンを好きになったとして、その人もそれまでにいろんな音楽を聴いて影響を受けてきたわけじゃないですか? 「あの音楽好きでしょ?」って人に言われても自分は全然聴いてなかったりするんですけど(笑)、考えてみれば自分が好きになったミュージシャンがその音楽を熱心に聴いていたりするんですよね。そういうふうにいろんなところでリンクしてくるから、やっぱり音楽って面白いですよ。

ヒダカ:シノッピーが20代の中盤から後半、俺が30代になったくらいの頃にお互い感じていたあの居場所のなさって言うのかな、未だにその居場所のなさが続いている感じなんですけど、だからこそこの両者間にはホームみたいなものがあるように思えるんですよ。ASPARAGUSと共演するたびに家に帰ってきた感覚が凄くあるんですよね。俺の中では辻褄がそこで合えばいいのかな、と。

──今回のスプリット・アルバムも、いい意味でメジャーの立場を利用して、ASPARAGUSを未だ知らないリスナーに知らしめる良い機会にもなりますしね。

ヒダカ:そうですね。逆に、ASPARAGUSのファンにも「BEAT CRUSADERS、意外とやるな!」って思ってほしいし。

渡邊:僕達よりも、最近はリスナーのほうがメジャーとインディーのヘンな区分け方をしたがるんじゃないのかなぁ。

──昨今は情報過多の時代だから、皆どこかで一度線引きをして判ったフリをしたいんじゃないですかね。

ヒダカ:そういう意味では、このスプリット3部作はどれも絶対にカテゴライズできないようなものになるだろうと思ったんですよ。パンクっていうほどドパンクなものでもないし、ユアソンとやるからカリプソっぽいものになるかと言えばそうはならないし。リスナーを翻弄させたいっていうのがあるのかな。

──まぁ、双方のファンはちょっとM気質な方が多いような気もするので(笑)、それもアリなんじゃないですかね?

ヒダカ:ああ、渡邊さんのSっ気に引っ張られてね(笑)。

渡邊:えーッ!? 何それ(笑)。そんなにMっ子達が多いかな?(笑)

──だって、通常のコード展開を裏切るようなメロディの気持ち良さは両バンドとも顕著じゃないですか。

ヒダカ:そうですね。ASPARAGUSみたいに2枚同時にアルバムを出すとか、俺達が突然メジャーに行くとか、みんなビックリするじゃないですか? だからまず最初に自分達がビックリしたいんです。そこで多少無理が生じても、最後の5分のベタ踏みで何とかするわけですよ(笑)。

──そう言えば、ASPARAGUSの『KAPPA I』『KAPPA II』って発表からもうかれこれ……。

渡邊:2年半は過ぎましたね(笑)。大丈夫ですよ! 今はちょうどその最後の5分…残り3分を切ったところかな? でもまだ3分“も”あるから大丈夫ですよ(笑)。


NIGHT ON THE PLANET

ASPARAGUS×BEAT CRUSADERS
NIGHT ON THE PLANET

DefSTAR RECORDS DFCL-1322
1,680yen (tax in)
2007.1.17 IN STORES
★amazonで購入する

Live info.

ASPARAGUS×BEAT CRUSADERS
split tour 2007 ''NIGHT ON THE PLANETARIUM''

1月27日(土)千葉県:千葉LOOK
1月28日(日)栃木県:HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
2月3日(土)北海道:PENNY LANE24
2月10日(土)宮城県:CLUB JUNK BOX
2月11日(日)岩手県:CLUB CHANGE WAVE
2月17日(土)長野県:CLUB JUNK BOX
2月18日(日)愛知県:NAGOYA CLUB QUATTRO
2月23日(金)広島県:CLUB JB's
2月25日(日)高知県:CARAVAN SARY
3月1日(木)愛媛県:SALONKITTY
3月2日(金)大阪府:BIG CAT
3月9日(金)東京都:O-EAST
3月18日(日)埼玉県:HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
3月23日(金)福岡県:BEAT STATION
3月24日(土)大分県:T.O.P.S
3月31日(土)神奈川県:F.A.D YOKOHAMA

ASPARAGUS
Home Sweet Home Tour【w/ KEN YOKOYAMA】
1月23日(火)東京都:渋谷CLUB ASIA
stock discharge tour 2007【w/ creamstock, etc...】
2月21日(水)東京都:渋谷CLUB QUATTRO

ASPARAGUS OFFICIAL WEB SITE
http://www.3p3b.co.jp/

BEAT CRUSADERS OFFICIAL WEB SITE
http://www.beatcrusaders.net/

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