胸を締め付ける美旋律が繋ぐ音楽を介したコミュニケーション
独特の流麗なコード進行とどこか切なく儚いメロディを核とする楽曲を数多く収録した前作『GREEDY』で美メロ至上主義バンドの新星として他の追随を許さぬ地位を築き上げたcreamstockが、約1年振りとなるセカンド・ミニ・アルバム『And me』を完成させた。前作で彼らの美旋律の虜になった人ならば、その期待は決して裏切られることのない高いスタンダード性を誇る作品である。一心不乱に極上のメロディを探求する彼らの音楽と対峙する真摯な姿勢こそ、あの胸を締め付ける珠玉の楽曲を生み出す原動力になっていることがこのインタビューを読めばよく判ると思う。(interview:椎名宗之)
初めて最後まで投げ出さずに曲作りを完遂した
──昨年11月に発表したファースト・アルバム『GREEDY』は各方面から高い評価を受けて、今年4月に新宿ロフトで行なわれたツアー・ファイナルも大盛況でしたね。
shinji(vo, b):ありがとうございます。最初のミニ・アルバム(『creamstock』、'04年7月発表)を出した時のレコ発ツアーが43本で、『GREEDY』の時は49本廻ったんですけど、明らかに違う手応えがありましたね。どういうわけかカップルのお客さんが増えた気がします(笑)。
──本作『And me』の曲作りはツアーを終えてから始めたんですか?
shinji:そうですね。本当はもっと早く…夏頃には出したかったんですけど、なかなか曲が書けませんで(苦笑)。
──クリームのストックはあっても曲はノー・ストックだった、と?(笑)
shinji:ははは。ストックはないんですよねぇ。作業の進行はすべて曲を作る僕次第で、他のメンバーは僕待ちなんですよ。
──曲作りの際は、メロディやアイディアが降りて来るのを待つタイプですか?
shinji:待ちますね。ホントに降り待ちなんですよ。いざ作ろうと思っても無理なんですよね。でも今回は初めて投げ出さなかったと言うか、途中でボツにしなかったんですよ。今までは“これはちょっと出来そうにないな…”と思ったら、作りかけの曲でも捨ててしまってたんですけど。一曲の部分的なメロディであったり、ネタ的なものに自信があったと言うか、この程度ならまだ出てくるだろうと思えたんですよね。
──ミュージシャンの方々に訊くと、電車に揺られている時や散歩をしているふとした時にメロディが降りてくるそうですけど。
shinji:ええ、やっぱりそういうふとした瞬間ですよね。突然メロディが頭に浮かんで、その場で携帯に入れたりもしますし。3曲目の「treasure」のド頭のサビはかなり昔から自分の中にあったものなんですけど、使う方法が今までなかったんですよ。そういうケースが多々ありますね。
──まるでジグソーパズルのように、パーツとパーツを組み合わせていくような感じですね。
shinji:もうまさにそんな感じですよ。“前にボツにしたあの曲の間奏をこの曲に持ってこようかな?”とか。
──本作も特にコンセプトみたいなものはなく、バンドとして納得の行く楽曲を収めた感じですか?
shinji:そうですね。純粋に出来上がった曲を並べてみた感じです。
──本編全5曲でトータル約15分。前作のインタビュー時に「曲をより短くするのが今の課題」と仰っていましたが、それは本作でも変わらず?
shinji:曲を長くすることのほうが簡単ですからね。イントロがあって、Aメロ、Bメロの次にサビが来て…という曲だとすると、3分半以上、4分ちょっとぐらいだと凄くまとめやすいんです。
──曲を短くすると、色々と詰め込みたいアイディアをどんどん削ぎ落とさなければならないのが悩みのタネですよね。アイディアをより純化させていくという言い方もできますけれど。
shinji:ええ。そこはようやくコツを掴んできましたね。“この曲でそういうアレンジをしなくてもいいだろう”とか、割り切るしかない。欲ばかりはどんどん出てきてしまうので。その引き算の妙は凄く大変ですよ。
──creamstockと言えば美旋律、決して甘さに流されない極上のメロディを至上とするバンドですが、shinjiさんが考えるいわゆる“美メロ”の定義みたいなものはありますか?
shinji:必ず一ヵ所だけ半音下がったり、逆にガツンと上がってたりするのが一番のポイントですかね。そこには凄くこだわってるし、自分の中から出てきたメロディにその部分がないとすぐには採用しないと言うか。そこを探すのはかなり難しいところですけどね。生み出そうと思って生み出せる時もありますけど、極々稀ですよね。それができれば、曲のストックも相当溜まってると思いますよ(笑)。
──収録された5曲は改めて言うまでもなくグッド・メロディを重視した高水準な曲ばかりですが、タイトル曲の「And me」はとりわけスタンダード性の高い紛うことなき名曲ですね。
shinji:ありがとうございます。普段は余り意識したことないですけど、振り返ってみるとミラクルが所々で起こったりはしますね。メロディに英詞を埋めていく時に自分が考えていたメロの長さに埋まらなかったりすると、そのメロを思い切って曲の頭に持ってきたりして功を奏したりとか。それは歌詞を書いてる時の自分でも思いのよらなかった判断で、曲作りの段階では絶対に起こり得ないことですからね。理詰めじゃなくて、完全に感覚なんですよ。だからレコーディングでもやらかしてしまうことが多いんですよ(苦笑)。
──やらかしてしまうというのは?
shinji:例えば、このコードだとそのキーはぶつかる、みたいなことですね。ホントにド素人なもので(苦笑)。今回収録したカヴァー曲にしても、お尻のコード進行をマイナー調に変えたほうが恰好いいと思ってやってみたら、原曲と同じコーラスを唄ってしまってたりとか(笑)。
──曲作りをshinjiさんが一手に引き受けているからレコーディングで独壇場というわけではなく、nabeさん(g, cho)やsugiさん(ds, cho)からも「こうしたほうがいいんじゃないか?」という意見は盛んに出てくるんですよね?
shinji:そうですね。今回はその比率が今まで一番多かったです。今までは僕が「これで行こう!」と言えば他の2人も同調するような感じだったんですけど、今回は意見の食い違いとまでは行かないまでも曲に対するイメージの違いがメンバー間であって、そこから投げ出さずに何度も話し合って納得した上で形にできましたね。
──一曲の完成形と言うか、3人が目指す音作りの最終的なヴィジョンはブレていないんでしょうね。そこに至るアプローチの方法が違うだけで。
shinji:そう思います。選択肢が2つあったとして、「それじゃ恰好悪いよ」っていうのではなく、「どっちとも正解なんだけど…」っていう前提があっての話し合いなんですよ。だから何回も何回も繰り返し演奏して、全員が納得するまでやりました。どんなバンドでもそれが普通だと思うんですけどね。僕らは今までがすんなり行き過ぎてたんだと思いますよ。
感謝の気持ちや歌を唄えている幸せを込めて唄う
──『GREEDY』のクオリティを超えなければ、というプレッシャーは相当なものだったんじゃないですか?
shinji:他のメンバーはあったみたいなんですけど、僕の中ではまるっきりなかったんですよね。プレッシャーはなかったと言っておきながらリリースが遅れて、レーベルの方には申し訳ない気持ちで一杯ですけど(笑)。
──でも、これだけの作品が完成すれば遅らせた甲斐もあったんじゃないですかね。
shinji:そうですねぇ…。寸前にならないと自分の中でOKを出せないんですよね。時間的に余裕があると、もっといいものを作ろうとして狙っちゃうんですよ。締め切りが押し迫って寸前になると、自分の中で判断力がかなり高まるんですよね。
──今回、コーラスでゲスト参加されているASPARAGUSの渡邊忍さんも似たようなタイプだと思いますけど(笑)。
shinji:ははは。「see the music」も「And me」も、最後に踏ん張ってnabeと10日間くらいずっと一緒に居て…それだけ長い時間居ると、曲作りをしようっていうテンションが同じ時間に来ないんですよね。僕は「大丈夫、大丈夫。出来るよ」なんて言ってると、向こうはひたすら焦ってるんですよ。全部僕次第なんだから焦っても仕方ないのに(笑)。
──だけど結局、そんなペースでも納得の行くアルバムを完成することができたわけで…。
shinji:メンバー全員メチャメチャ反省したんですけど、結局みんな納得の行く作品が出来ちゃったので、次もまた同じことを繰り返すんじゃないかと…(笑)。
──僕も毎月締め切りを抱える身なのでよく判りますが、まぁ結果オーライでしょう(笑)。初回盤にはボーナス・ディスクとしてTHE CARDIGANSの「CARNIVAL」、THE PROFESSIONALSの「are you?」、PETER FRAMPTONの「BABY I LOVE YOUR WAY」のカヴァーが3曲収録されていますが、この選曲の意図は?
shinji:単純に好きな曲っていうのもありますけど、誰もが一度は耳にしたことのある曲じゃないと面白味にも欠けるかな、と。余りマニアックな曲をやってみても、聴いた人が原曲を買ってみようとは思わないだろう、と。“あの曲をcreamstockがこんなふうにやってるんだ?”っていう、そういうところを狙っていきたいんですよね。
──CM等で馴染みのある有名曲をcreamstockがどう調理しているのか、確かに凄く興味の湧くところですね。
shinji:だからこそ余計にコケられないと思って、カヴァーは3ヶ月くらい延々とやってましたからね。まとめるんじゃなくて、色々と方法を試してたんですよ。候補曲もなかなか決められなくて、「are you?」はディレクターの郡司(裕也/LASTRUM)さんに薦められて決めたんです。
──いずれも原曲のメロディの良さを最大限引き出したcreamstockらしい秀逸なカヴァーに仕上がっていますが、こうしたカヴァー曲は今でもライヴでは解禁されていませんよね。
shinji:そうなんですよね。今はやってみようかなぁという気にもちょっとなってるんですけど。
──カヴァー曲をライヴで披露しないのは何か理由があるんですか?
shinji:鍵盤やいろんな打楽器を入れたりして、結構アレンジを難しくしちゃってるんですよね。それがホントの理由なんですけど、今までは「ラヴ・ソングなんで……」とお茶を濁してました(笑)。
──ああ、ラヴ・ソングを唄わないからカヴァーをやっていると公言されていましたよね。でも、本作の「And me」はラヴ・ソングじゃないんですか?
shinji:いや、そこに限定はしてないです。9割8分は僕らの音楽を聴いてくれるリスナーに向けて唄ってるつもりなんです。それもいろんなことに例えられるようにして。最初は、歌詞の最後にもある「You and me」というタイトルだったんですけど、それはさすがにちょっと気持ち悪いと(笑)。それで“You”を抜かしたんですよ。
──そこまでラヴ・ソングを唄わないことに固執するのは何か理由でもあるんですか? 単純に照れくさいから?
shinji:照れくさい……ですねぇ。凄くルックスも良くて甘い声で囁くように唄えるならやってますけど(笑)、僕がそれをやったら気持ち悪いだけじゃないかな、と。多分、不器用なんでしょうね。お客さんの前で想いを込めてラヴ・ソングを唄うことに対しては感情移入ができないと言うか。僕が歌を発したいのはお客さんであったり、仲間のバンドであったりで、そこには感謝の気持ちや歌を唄えている幸せを込めているんです。そんな感情をダイレクトに表に出したいんですよね。伝えたいテーマとしてあるのは、平たく言えば音楽を通じてのコミュニケーションなんですよ。
──そうした音楽に対する真摯な姿勢の反動として、ライヴでのあの砕けたMCがあったりするんでしょうか?(笑)
shinji:ははは。そこまで考えてないですけど、「ワン、ツー、スリー、フォー!」から曲が終わるまでは至って本気なんですよ。MCは単なる次のライヴ告知じゃ面白くないし、お客さんを和ませるような笑いのあるMCは会場の雰囲気を間違いなく良くしますから。まぁ要するに、恰好付けきれないんでしょうね。ホントは恰好付けたいんですけどね(笑)。
And me
LASTRUM Music Entertainment Inc. LASCD-0093G【初回盤】
1,890yen (tax in)
IN STORES NOW
*初回盤は2枚組:本編5曲+カヴァー3曲+CD EXTRA 1曲(未公開LIVE映像)+デジパック仕様
★amazonで購入する
★iTunes Storeで購入する(PC ONLY)
Live info.
creamstock stock discharge tour 2007
1月20日(土)水戸LIGHT HOUSE
2月10日(土)札幌KLUB COUNTER ACTION
2月15日(木)十三FANDANGO
2月16日(金)名古屋HUCK FINN
2月21日(水)渋谷club QUATTRO
other live schedule
12月4日(月)仙台MACANA
12月8日(金)名古屋HUCK FINN
12月9日(土)滋賀B-frat
12月15日(金)下北沢SHELTER
12月16日(土)渋谷GAME
【total info.】Lastrum music entertainment:03-5367-6907
creamstock OFFICIAL WEB SITE
http://www.lastrum.co.jp/creamstock/