ギター バックナンバー

CLOVERS('06年12月号)

CLOVERS

アイルランドとニッポン、島国文化の融合を果たした『朽チ果テナイ唄』

バグパイプ、マンドリン、アコーディオン、ギター、ドラム、ウッド・ベースというアイリッシュ・サウンドを基軸とした編成が紡ぎ出すトラディショナルな音色を奏で、ストリート・ライフに根差した現実と哀愁が交錯するストーリー性の高い物語を独特なしゃがれ声で唄うCLOVERS。メジャー移籍後初となるフル・アルバム『朽チ果テナイ唄』では、リーダーSHIGEの故郷でもある奄美大島の島唄、ジャズ、ロカビリー、ミュゼットなど幅広い音楽性を深い畏敬の念と共に採り入れ、CLOVERにしか表現できない彩り豊かなサウンドに消化/昇華している。新章突入を鮮やかに印象付ける会心作について、ヴォーカル/バグパイプ/ティンホイッスルのTSUYOSHIに話を訊いた。(interview:椎名宗之)


SHIGEの故郷・奄美大島の島唄へのアプローチ

──今回のアルバムは、タワーレコード限定で先行発売されたシングル「朽チ果テナイ唄」がやはり肝と言うか、全体の根幹を成していますね。

TSUYOSHI:そうですね。アルバムのタイトルにもなってますし。

──三線を大胆に採り入れて、リーダーであるSHIGEさんの故郷・奄美大島の島唄を彷彿とさせる曲ですが、ここまでルーツに根差した楽曲は過去にもありませんでしたよね?

TSUYOSHI:「朽チ果テナイ唄」はSHIGEさんが三線で作った曲だし、今まで発表してきた曲の中では一番そういう色が強く出てますけど、曲によっては歌メロとかの要所要所にルーツ的な部分が垣間見られることはあったと思いますよ。

──SHIGEさんの中で己の出自を見つめ直したいという思いがあったんでしょうか?

TSUYOSHI:それはあったと思います。SHIGEさんの書く曲は基本的に自分を煽ると言うか、「もっと行け!」と急き立てるような勢いのあるものが多いんですけど、「朽チ果テナイ唄」はそれとはちょっと毛並みが違って、自分のルーツに改めて立ち返りたいと色々考えて作った曲だと僕は思いますね。

──CLOVERSと言えばバグパイプやアコーディオン等を採り入れたアイリッシュ・サウンドが大きな特徴のひとつなので、ここまで大胆に三線をフィーチュアした曲が似合うとは正直なところ思いませんでしたよ。

TSUYOSHI:極々ナチュラルな感じですよ。三線を主軸に置いてみんなが合わせていった曲だし、元からあった曲に無理矢理三線を入れたわけでもないですからね。

──ここ数年、J-POPの世界でも三線を使ったヒット曲が幾つかありますけど、同じ三線を使うことでCLOVERSらしさを出そうとした時に気を留めたのはどんなところですか?

TSUYOSHI:僕達の場合、アルバムを作る時に特にコンセプトがあるわけではないんですよ。今回のアルバムにしても、出来上がった曲を1枚のアルバムとしてまとめた感じなんです。だからいわゆるJ-POP的なものとの違いを出すとか狙いみたいなものはないんですけど、僕個人で言えばやっぱり自分の声がCLOVERSらしさだと思いますね。雄々しく唄い上げると言うか。

──でも、このアルバムの中でもポップ・チューン的な役割を果たしている曲でもありますよね。

TSUYOSHI:そうですね。実は、最初にこのアルバムを作ることになった時は9曲しかなかったんですよ。それで曲をあと4曲作ることになって、「朽チ果テナイ唄」はタイトル曲にも関わらず後から作ったものなんです。最初の9曲が、狙ったわけではないんですけどほとんどマイナー調の曲ばかりだったんで、もっとメジャー・キーで明るい曲を作ろうということで。

──同じく三線が用いられた「島 -故郷-」も後から加えられた曲なんですか?

TSUYOSHI:いや、「島 -故郷-」はCLOVERSでも以前からライヴでよくやってる曲なんです。

──純粋に出来上がった曲をそのまま収めたにしては、曲順の流れもいいし、アルバム全体に何処となく統一感が感じられますけどね。

TSUYOSHI:レコーディングが終わって曲を適当に並べたのを聴いた時に「曲順が難しいね」っていう話になって。でも、色々と試行錯誤の結果この曲順で聴いてみると、何となくの流れが出来ている印象はありますよね。

──メジャー移籍後初のフル・アルバムということで、相当な気合いを入れてレコーディングに臨まれたのではないかと思うのですが。

TSUYOSHI:ええ。個人レヴェルではかなり気合いが入りましたよね。緊張感も絶えずありましたし。

──1曲1曲の完成度の高さは言うに及ばず、「落ちていく羽根」に顕著ですがアンサンブルの妙がグッと増したのを強く感じたんです。個々のメンバーの力量がまた更に向上して、それぞれのパートと有機的に結び付いているように思えて。

TSUYOSHI:それは確かにありますね。バンドとして楽器を手にする以前に、みんなやっぱりその楽器が好きだから家でも弾くじゃないですか。そうやって各自コツコツやってきたことが徐々に花開いてきたんじゃないかと思いますね。レコーディング前にリハも入念にやりましたから。

──SHIGEさんがメインのソングライターでありつつ、他のメンバーも積極的に作曲に取り組んでいるのもバンドとしては大きな強みですよね。

TSUYOSHI:そうですね。今回はそれを改めて強く感じましたね。ロック・バンドの多くは音楽の方向性が似た人達が集まっていると思うんですけど、僕達の場合は音楽の趣味嗜好もバラバラなんです。性格もみんなクセがありますしね(笑)。よくこれだけうまいことまとまってるなぁと自分達でも思いますけど、そこはやっぱりリーダーの力量が成せる技なんでしょうね(笑)。

──趣味嗜好がバラバラな上に、レコーディングの経験値が上がると各々がバ っンドとして色々試してみたいことも増えたりして、余計バラバラになりそうですけどね(笑)。

TSUYOSHI:向上心が増していく一方ですよね、バンドの活動を続けていけばいくほど。聴いたことのない音楽をもっと聴いてみよう、とか。前のアルバムを出した時点から今作に至るまでにもそういう意識の変化があったし、それはまた次のアルバムを出すまでにもあるだろうし。

──その、前作から本作に至るまでの意識の変化というのは具体的に言うとどんなことですか?

TSUYOSHI:単純にいろんな雰囲気の曲をやりたいというのもあったし、いっそのこと自分達の好きな音楽の要素を全部入れてまえ! みたいな気持ちもありましたね。スマートに整えるのではなく、チャンポンみたいな感じで。

──そういういい意味でのごった煮感覚は、凄く日本人の感性に合っている気がしますね。

TSUYOSHI:そうですね。それが自然にできてる強みはあります。ツアー中の移動車で僕らが聴いてるBGMなんてムチャクチャですからね。沖縄民謡の後に突然SYSTEM OF A DOWNのようなハードコアが流れたりして(笑)。


先人の姿勢を受け継ぎながら自分達にしかできない音楽をやる

──考えてみると、日本もアイルランドも同じ小さな島国で、ユーラシア大陸の両端に位置することなど共通点もあるし、あらゆる自然に精霊が宿っているというアイルランドの宗教観は八百万〈やおよろず〉の神を信じる日本と似ていたりもしますね。

TSUYOSHI:そうなんですよね。SHIGEさんいわく、奄美大島や沖縄の人達はよくアイルランドに行ったりするそうなんです。音楽的なことばかりじゃなく、歴史的な背景も似ている部分があって、余計に親近感が湧くんじゃないですかね。SHIGEさん以外のメンバーはみんな大阪で、僕だけ兵庫県っていう根っからの関西人ではあるんですけど。

──怪談『耳なし芳一』で知られる小泉八雲ことラフカディオ・ハーンもアイルランド出身で、彼が明治時代に英語教師として赴任した時に文部省が音楽教育で教える唱歌として採用されたのが「庭の千草」といったアイルランド民謡やスコットランド民謡だったそうですね。だから少なくとも明治時代以降の日本人のDNAにはアイルランド的なるものが記憶の刷り込みとしてあるんじゃないでしょうか。

TSUYOSHI:なるほどね。僕らの世代は物心ついた頃から日常生活の中に欧米文化が自然と溶け込んでいたので、日本に生まれ育ったことや日本人であることを改めて認識する機会はなかなかないと思うんですけど、奄美大島や沖縄といった島国に生まれ育った人は親御さん達から過去の歴史を先祖代々繰り返し聞かされてきたから、日本人としてのアイデンティティを幼い頃から強く意識していたんじゃないですかね。

──米ボストン出身のDROPKICK MURPHYSやノルウェー出身のGREENLAND WHALEFISHERSといった海外のトラッド系ロック・バンドの来日公演で共演を果たした経験は、自らの日本人としての血を改めて認識する機会だったんじゃないですか?

TSUYOSHI:ああ、確かに。僕らは英詞の歌もあるので洋楽的な要素も多々ありますけど、確固たる和の部分もよく出てると思うし、それは海外のトラッド系バンドと比較するとより明確になるでしょうね。同じバグパイプを吹くにしても、日本人のフィルターを通しての良さが自ずと出ているはずだし。

──そんな日本人としての立脚点に立ち返った本作は、バンド自身にとっても確かな手応えがあるんじゃないかと思いますが。

TSUYOSHI:そうですね。レコーディングの日程も限られていたので多少しんどかった部分もありましたけど、全体的に見ると割とスムーズに作業を進行することができたと思いますね。前作のミニ・アルバム(『Smiling at the Broken Bottles』)の作業が早過ぎたんですよ。丸2日かけてほぼ一発録りで全部仕上げましたからね。僕らみたいな音の多いバンドは単純に音数を増やせばいいってものじゃなくて、時には引くことも大事なんです。この歌ではマンドリンを、あの歌ではアコーディオンを使おうというある程度の概要を決めておかないと、後でメチャクチャなことになりますからね。音が多いぶんだけ音のない部分を作っておかないと、決していいものにはならないんですよ。

──サウンドは極めてシンプルかつストレート、整合感があってブレがないのはそうした意図があったからなんですね。

TSUYOSHI:そういうことですね。それと最近は一旦音を出し始めるとその曲が大体どんなふうになるかみんな何となく判るようになったと思うし、各々の得意なプレイも熟知しているから、以前に比べて格段にやりやすくなりましたよね。

──先述した「朽チ果テナイ唄」や「島 -故郷-」のように三線を採り入れた意欲作を始め、ジャジーな「Boy's Dow っntown Blues」、西部劇のBGMに似合いそうなフラメンコ・タッチの「落ちていく羽根」、文字通りメロウなミュゼット(アコーディオンを押し出したフランスのポピュラー音楽のひとつ)を聴かせる「監獄のミュゼット」等、アイリッシュ・サウンドを基軸としながらもそのフォーマットに寄り掛かることのないヴァラエティに富んだ楽曲が数多く収録されていて、バンドのポテンシャルが高まったことを痛感しますね。

TSUYOSHI:SHIGEさんがバンドを始めた当初は“アイリッシュ”が大きなキーワードとしてありましたけど、このメンバーが集まった時点でミュゼット、ジプシー音楽、スウィング、ロカビリー、サイコビリー、ロックンロール、ガレージ…と、アイリッシュの範疇ではとても収まりきらない多種多様な音楽性を孕むようになったんです。いい意味で頑なになり過ぎるのも良くないと思うし、常にいろんな音楽に挑戦したいというのはごく自然な志向としてあって。僕らの中でとてつもなく大きな存在であるPOGUESは、どんな音楽をやっても必ずPOGUESの音になるんですよ。あらゆるジャンルの音楽を貪欲に呑み込みながらも、POGUESというひとつのラインでちゃんと結ばれている。やっぱりそういう方向性のバンドには憧れるし、自分達もそうなりたいと思いますよね。

──シングル『朽チ果テナイ唄』のカップリング曲である「THE IRISH ROVER」(POGUESのカヴァーで知られるトラディショナル・ソング)のカヴァーもしっかりとCLOVERSらしさが全面に出ていますしね。

TSUYOSHI:影響を受けた音楽を自分達でそのままやっても面白くないし、やっぱり抵抗がありますよね。ジョー・ストラマーやシェイン・マガウアンのような先駆者達は、決して人の真似をせずに自分が生み出した音楽を貫いたわけじゃないですか。彼らの音楽を聴いた僕らがそれをそのままやってしまえば、彼らから何を感じ取ったんや!? っていう話ですよ。偉大な先人の姿勢を受け継ぎつつ、自分達にしかできない音楽をやるのがCLOVERSの流儀だと思ってますから。


朽チ果テナイ唄

朽チ果テナイ唄

Columbia Music Entertainment,Inc./TRIAD COCP-50957
2,625yen (tax in)
12.06 IN STORES
★amazonで購入する

Live info.

DRUNKEN GOAT TOUR 〜酔いどれヤギの旅〜
1月27日(土)仙台DROOM
2月3日(土)下北沢CLUB QUE:ワンマン
2月24日(土)名古屋CLUB UP SET
3月3日(土)福岡DRUM SON
3月17日(土)十三FANDANGO:ワンマン

OTHER SHOWS
12月8日(金)心斎橋KING COBRA
12月16日(土)下北沢CLUB 251
12月17日(日)心斎橋CLUB QUATTRO
1月14日(日)下北沢440


CLOVERS OFFICIAL WEB SITE

http://galactic-label.jp/

posted by Rooftop at 14:00 | TrackBack(0) | バックナンバー

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