ギター バックナンバー

MAD3('06年12月号)

MAD3

前人未到の魔境に鳴り響く、声なきロックンロール・オペラ!!

去る10月10日、自身のレーベル“Rock'n'Roll Kingdom”よりリリースされた実に3年3ヶ月振りのフル・アルバム『Lost Tokyo』を耳にして驚いた人も少なくないだろう。ファースト以来のフル・インストとなった今作は、これまでの破壊的なパワーが前面に出たガレージ・サウンドとは一線を画していた。「ロックンロール・オペラ」と銘打たれたそのサウンドは、高尚で厳かな雰囲気すら携え、一枚でひとつの壮大な物語を辿っているようである。クライマックスに向かってメタモルフォーゼした更にその先にあるものとは? 誰もが予想だにしなかった方向へと進化を遂げたMADな御三方に話を聞いた。(interview:稲垣ユカ)


楽器を手に取って演奏したら全てロックンロール

──今回のアルバムはレコーディング方法をいつもと変えたそうですが。

HARUTO:今までは東京のいわゆるレコーディング・スタジオでプロの人とやってたんだけど、若干行き詰まりを感じてたってのもあって、ちょっと気分を変えてみようと。ガソリンのドラムのシュウヘイが機材を持っててレコーディングできるって聞いて、じゃあ1回やってみようかって。

EDDIE:三重県の四日市で。

HARUTO:片道5時間かけて10何回か通いました。

──えっ! それは大変でしたね。

HARUTO:ツラいかなと思ったけど、始めてみたら出来上がっていくのが楽しくて、大して苦にはならなかったですね。

──普段とは機材面で違ったんですか。

HARUTO:機材がどうとか言うよりも、やり方ですね。やりたいことがちゃんと伝わるっていう。場所もビルのワンフロアが自由に使えて、何10畳もある広い部屋があったりとか、カラオケボックスみたいな個室が何個かあって。エアーが凄く良かったですね。ドラムなんか10メートルぐらいマイクを離して録ってみたりとか。ギターはこの部屋で録ってみようとか、アンプを寝かしたり、マイクと楽器との位置関係を変えてみたり、普段のスタジオではできないようなことを片っ端からやったって感じですね。

──なるほど。チェロだったりテルミンだったり、あまりロックと馴染みのない楽器も使われてますが。

EDDIE:て言うか、ロックンロールとかどうでも良くなったんだよね。世の中で言われてるロックンロールの定義とか、そんなの俺にとっては全部一緒で。楽器を手に取って演奏したら全てロックンロールなんだよね。定義を壊したかったの。何でも良かった。

──MAD3がやれば全てロックンロールだと。

EDDIE:“俺の考えてるロックンロールはコレだ!”って感じ。

──ちなみにチェロはかなり練習しましたか。

EDDIE:でも1ヶ月ぐらい。チェロって演奏するのが凄く疲れるんだよね。一時期病気をしてて、その間の体調がいい時に1時間とか2時間とか練習した。だから病気の情念みたいなのが込められてるかもしれない(笑)。

KYO:でも、あのチェロはハッキリ言って俺達も感動しましたね。

HARUTO:うん。見てるだけだったんですけど。初めEDDIEがヘッドホンをしてチェロだけ録って、それだけでも凄かったんだけど、全部が合わさった時にこんなにカッコ良くなるんだ! って、自分のバンドながら感動した。

──先に出たウルトラマン・トリビュート『ROCK THE ULTRAMAN』でもチェロは弾いてましたよね。

HARUTO:『ウルトラマン〜』はアルバム制作の途中にレコーディングしたんですよ。そこで実験的なことができたから、アルバムにいい具合にフィードバックできた。

──ライヴでチェロを演奏する予定なんかはありますか?

EDDIE:それも考えてる。今までの他の曲もチェロでやってみようかなとか。でも…疲れるから(笑)。

──(笑)練習大変ですしね。でもそれは是非観たいです。

EDDIE:でももうチェロは飽きちゃって。次は雅楽に興味があって、篠笛とか琵琶とか。こないだHARUTOと歌舞伎を観に行ってきたんだけど、三味線の人ばっかり見てた。

HARUTO:歌舞伎は結構面白かったですよ、音と動きの合わさり方とか。あれも要はライヴじゃないですか。動きが凄く洗練されてて、音楽と共通するところがありましたね。


MAD3の地獄へようこそ

──今回はファースト以来の全曲インストになってますけど、原点回帰みたいな意識はあったんですか?

EDDIE:…ちょっと引用したいんだけど。三島由紀夫の文章で『度々作家は処女作に向って成熟するということが言われるのは、作家にとって、まだ人生の経験が十分でない、最も鋭敏な感受性から組み立てられた、不安定な作品であるところの処女作こそが、彼の人生経験の、何度でもそこへ帰って行くべき、大事な故郷になるからにほかならない』っていうのがあって。ホントは元々インスト以外やりたくなかったんだけど、今まで実験的に歌モノもやってきたりして。色々やってみて結果的に戻ってきたって感じだね。

──でも、ファーストとは全然印象が違いますよね。

HARUTO:それはやっぱり色々やった結果なんですよ。インストだけやってたら今回みたいなものはできなかったと思うし。熟成されたと言うか、行間が出てると言うか。フル・インストっていうカタチは一緒でも、ひと味もふた味も違うっていう。前作ぐらいからインストを見つめ直そうっていうのがあったんですけど、今回は基本に立ち帰ろうっていうのがより明確になった感じですね。

──内容としては、全体を通して自分の内なるものを表現してるんでしょうか。

EDDIE:そうですね。内側のものを引きずり出す感じ。また引用になるんだけど、『一歩外国へ出てみなくてはつかめないものなのだろうか? あるいは日本人は、そんなにも贅沢になってしまって、自分の持っているものの値打ちを、遠くからでなくては気づかなくなってしまったのであろうか?』。初めはやっぱりアメリカとかイギリスに憧れて行くんだけど、いざ現地へ行くと自分の存在価値と言うか、内面を見つめ直すんだよね。ジャポニズムというものを強く意識する。それをロックンロールで表現したらこうなったっていう。

──全体的にどことなく仏教的な匂いも感じたんですが。

EDDIE:仏教っていうより、縄文時代ぐらいからの日本古来のもの……八百万〈やおよろず〉の神的な考えとか。そういうのが根底にある。

──そういう原点に帰るっていうのと、もう一度フルインスト・アルバムを作るっていう部分でリンクしてるところもありますよね。

EDDIE:だから最後は基本に戻って来るんです。

──『Lost Tokyo』っていうのは何を意味しているんですか?

EDDIE:これから東京が何処へ向かうのかって考えると、破滅だと思うんですよ。でもそれを引き起こしたのも自分達だし。因果応報って言うか。それはもう全世界に向けて言いたいことだけど。

──「京都」っていうキーワードも出てきますけど、失われゆく東京と、京都との共通のイメージっていうのもありますか。

EDDIE:京都っていうのは東京の前に栄えた都なんだけど、いいものがちゃんと残ってる。京都は手本にするべきだよね。東京にも古い、いい風景は残ってるんだけどね。

HARUTO:東京は全てが上書きなんですよね。元々あったものに上書きしてしまう。古い街並みだったり、職人の技術だったりとか。今の日本は商業主義って言うか、売れさえすれば正義っていうのがまかり通ってて、いいものを作ろうという意識さえも消されちゃってる。そういう意味も『Lost Tokyo』に込められてますね。我々はいいものを作りたいっていうだけですから。

──今は音楽も消耗品のように扱われてますからね。

HARUTO:ホントにそうですね。今なんか半年前に流行った音楽とか覚えてないでしょ。

EDDIE:でも、いいものっていうのは絶対残るから。

HARUTO:そう。何十年でも輝きを失ってない音楽もあるじゃないですか。手前味噌になっちゃうけど、俺達のファーストなんか未だにカッコいいと思うし。忘れられていかないものっていうのを作りたいですよね。

EDDIE:今なんて特に何でもダウンロードだから、形として手元に残らないんだよね。パッケージの魅力とかも、そんなのどうでもいいっていう。

HARUTO:今の若者はそんなの要らないって言うんですよね。哀れだなぁと思いますけど。

──そういった現状を嘆きつつ、最後には一筋の希望が見える曲が入っていますが。

EDDIE:だってやっぱりそれがないと……

KYO:地獄で終わっちゃう(笑)。

HARUTO:みんな忘れてるだけで潜在的な意識はあるだろうから、「判ってくれるよね?」っていうところでの希望。

──気付かせることによって希望を見いだす。

EDDIE:もし俺達の音楽を聴いて何かを感じてくれるなら…って言うか、俺達にできることって音楽しかないから、それで最大限にできるだけのことをやって、カタルシスに向かってメタモルフォーゼしていくっていう。

──ところで、今回これだけ1枚で完結された世界だと、ライヴでの他アルバムの曲との兼ね合いが気になりますが。

EDDIE:それは全く違和感ない。

HARUTO:全然大丈夫だよね。

KYO:「メタモル〜」は最近のライヴでは必ずやってるんですけど、どの会場でもお客さんが「感動した」とか「涙が出た」とか言ってくれるんですよ。

HARUTO:あと、今までの曲はライヴで常にやってるし、急にセットリストが大きく変わるっていうわけでもないので、その辺は違和感はないですね。そこは自信を持って。

KYO:でもね、今回のアルバムは今までより聴きやすいと思うんですよ。

EDDIE:えー、そんなことないよ。そうかなぁ。

KYO:情念がちょっとだけオブラートに包まれてるって言うか。

EDDIE:いや、もう情念だけでいいよ。怨念が世の中を動かしてるんだよ。

KYO:俺にとっては聴きやすいよ。

EDDIE:俺は、聴いたら事故に遭ったぐらいの衝撃とか疲労感とかを与えたい。あとはまぁ、癒しも。

──私は魔界からの音楽って印象を受けたんですが。

一同:(笑)

HARUTO:KYOちゃんは自分が一番狂ってることに気付いてないっていう。聴きやすいってのは多分アウトプットする側として。レコーディングもスムーズに行ったから、聴いてもスッと入って来るのかなって。こっち側から見てってことじゃないですかね。

KYO:じゃあ、俺は魔界の住人ってことなんだ。ショック!(笑)

──(笑)12月23日のシェルター・ワンマンはどんなライヴになりそうですか。

HARUTO:新旧取り混ぜて。新曲も、バンドでできる曲は全部やろうと思ってる。ワンマンじゃないと伝えきれない部分を出して行きたいですね。まぁ…MAD3の地獄へようこそ、みたいな(笑)。

──次の作品の構想なんかもできてますか。

EDDIE:もう次の作品のことしか頭にない。次の次のことまで考えてる。俺は一度に3つのことを考えつくんですよ。ひとつのことを喋ってる間に、もう次のことを考えてる。だからメンバーとか周りの人はついて来れないんだよね。アイディアはまだまだあって、ホントはもっと色々やりたいんだけど、体がひとつしかないから追いつかない。

HARUTO:EDDIEは常にそうなんですよ。アルバム作り終わったらもう次のこと考えちゃってるから。ついてくのが大変。

KYO:何とか食らいついて行きたいですけど。全力疾走で。

EDDIE:遅い遅い(笑)。

──じゃあもう目標に向かってやるだけっていう。

EDDIE:もう作りたいものが見えてるから、そこにいかに近づけるかっていう感じ。答えは判ってるから。


Lost Tokyo

Lost Tokyo

Rock'n'Roll Kingdom RnR002
2,730yen (tax in)
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Live info.

MAD3 NEW ALBUM『Lost Tokyo』発売の祝典 幻想の魔境ツアー
12月2日(土)熊本 Django
12月3日(土)大村 BeCK『長崎仏恥義理殴威飛』
12月9日(土)長野 LIVE HOUSE J
12月10日(日)松本 ALECX『DIRTY HONEY'S ROCK'N ROLL SHOW』
12月17日(日)浜松 G-SIDE
12月23日(土)下北沢 SHELTER『MAD3 ONE MAN SHOW!!!』
1月14日(日)足利SOUTH CLUB BBC


MAD3 OFFICIAL WEB SITE

http://mad3.jp/

posted by Rooftop at 19:00 | TrackBack(0) | バックナンバー

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