ギター バックナンバー

藤崎賢一 ('06年11月号)

藤崎賢一

ソロ・アーティストとして紡いだ“人生の落書き12編”

JUSTY-NASTY、CRAZEを経て、6〈six〉結成。しかし、ドラマーの不在のまま顎の不調も重なり、バンド存続不可能に。そして6解散──。そんな困難を乗り越えソロ活動を再開したヴォーカリスト、藤崎賢一が現在思うこととは一体何なのか? 10月に2枚同時にリリースされたコンプリート・ベスト・アルバムに加え、心の思い描くままその衝動のままに完成した3年振りのソロ・アルバム『流星グラフティ』について、そしてまた現在の心境を語っていただいた。(interview:道京みゆき)


俺の歌があればそれだけでいい

──まず、6解散から今回のソロ・アルバム発表までの経緯をお伺いします。充実した作品を発表し続けていただけに解散は非常に残念だったのですが、差し支えなければ解散に至った理由を教えて下さい。

藤崎:今回のリリースには、まず10月に出したソロ・ベストの流れが関係してて。6はドラマーの都合、俺の顎の持病の悪化も重なって春のツアーが中止になって活動停止になったんです。その期間に俺の過去のソロ活動期のベスト音源を自分達のレーベルから出そうってことになって。メンバーもOKで。ベストを出すならソロとしての新曲を入れたいな思って、顎の治療をしながら少しずつ曲を書き始めて。勿論、それと並行して6の今後のスケジュールも早く立てたかったから、良いドラマーを早々に探して決めて正式メンバーとして迎え入れて、夏頃には活動を再開させようって思ってたのに、徐々にメンバー間に変な隙間が広がってしっくり来なくなって足並みが揃わなくなった。音的なことじゃなくヴィジョンが違ってる、違って来たっていうか。解散は俺自身も凄く残念だったけど、バンドは生き物だから仕方ないよね。6がなくなり、ベストを発売するっていう状況のスケジュールの中、結果今回のアルバム制作に流れが広がっていったんです。よりたくさんの曲が必要になって大変ではあったけど、心情的に当初は久々のソロとしての曲作りで新鮮だったのが、思わぬ6解散ってことで違う感情が一気に湧き溢れてきて、その意識が曲を幾つか書かせたっていうのもあるし。とにかく曲作りそのもの、曲の方向性が6が解散したことによって多少なりとも変わったのと、最近の俺の思考がメロウな意識になってたのも関係して、今回の『流星グラフティ』の音が出来上がったと思います。

──バンドとしてやり残したことはどんな部分だと考えていらっしゃいますか? ライヴ盤『Live Thursday!!』発表時のインタビューでは「THE CLASHの『LONDON CALLING』のような2枚組を発表したい」と仰っていましたが…。

藤崎:やり残したことはたくさんあります。何よりツアーを再開させたかった。行けなかった場所、楽しみにして下さってた皆にはホント申し訳なかったです。それにとにかく正式ドラマーがいて4人で音を鳴らしたかった。あと、俺個人的には6で2枚組のアルバムとか挑戦したかった。バンド・サウンドでね。『LONDON CALLING』のような、時代が変わっても色褪せないバンド・サウンドのアルバムをね。

──10月10日にコンプリート・ソロ・ベスト『赤盤』『黒盤』を2枚同時に発表しましたが、リリースに至った経緯というのは?

藤崎:俺の過去のソロ活動期の音源が、さっきも言ったように自分達のレーベル“Beretta Records”の所有になったんです。で、気持ち新たにリリースしたい! って思って。レーベル・スタッフからも同じアイディアが出てたし。で、曲を選んでいったら、あれもこれもって30曲くらいになって。この曲数は譲れない、みたいな(笑)。どう考えても2枚分になるんだけど、2枚組ってよりかは2枚同時に出したいって思って。で、単に集めただけじゃなくリミックス、リマスターをして新曲も追加したいなって思って。

──タイトルの『赤』と『黒』、色の意味はあるのですか?

藤崎:「赤」「黒」って言葉が浮かんだもんで(笑)。1と2って数字は普通すぎるし、白黒は縁起悪いし、赤白じゃ逆にめでたすぎるわで(笑)。赤と黒って良いなーって。すべて思い付きっていうか、感覚。イマジネーションです。話は逸れますが、イメージが出来ないようになったら終わりですから。俺達みたいな職業の人にとって、それって特に大事ですから。音って形がないですからね。ここ何ヶ月間、顎の持病で唄うことが苦痛だったり困難だと思うことがずっとあったんですけど、物理的なそういう支障ってことよりも、支障を乗り越えることを頭でイメージ出来るかどうかだと思ったんですね。唄う自分がイメージ出来るかどうか。出来てる、出来るようなら、きっと唄えるって思ったんですよね。

──こうしてご自身の軌跡、ヴォーカリストとしての変遷を振り返ってみて、改めて思うところは?

藤崎:改めて過去の曲達を聴いて、「あ、この曲良いなー」とか「久々にこれ唄いたいなー」とか思いましたね。「懐かしいー」とか「この頃あーだったよなー」とか。逆に「若いなー」とかね(笑)。「テンポ早ぇーな」とかね(笑)。まぁ、いろんなもんが詰まってますよ、ホント。一瞬にしてその頃の匂いを感じることが出来る音楽ってもんはやっぱ良いなって思いましたね。で、過去は過去で素晴らしいけど、いつだって今が一番いいなって心情的に思いますね。

──あまたいるロック・ヴォーカリストの中で、ご自身ではどんなヴォーカリストだと思われますか?

藤崎:そんなこと考えたこともないです。んー、よくわからん(笑)。俺が決めることでもないし、どこかの位置を目指して唄ってきた訳でもないし。好きだからやってきた、やってるだけです。

──バンド形態ではなく、今回敢えてソロとして作品を発表しようと思ったのは?

藤崎:だって一人ですから。6がなくなって一人になって、一人で「さぁ、何が出来るんだろう?」ってすげー考えたし。もちろん以前のソロ活動期のようにサポート・ミュージシャンにお願いしてっていうのも選択肢にはあったけど、でも一人でやりたかった。極論だけど、俺の歌があったら、それだけでいいやんって。一人になったんだから、とことん一人で音を作ろうって。ロックだ何だっていう、今までの流れにもちょっと疲れて飽き飽きしてたし。純粋に心に鳴った音を残したいなって。それにはきっと一人が一番いいだろうなって思って。


一人じゃないと鳴らせない音

──3年振りのソロ・アルバムとなる『流星グラフティ』は藤崎さんのパーソナリティが滲み出た非常に聴き応えのある作品ですね。制作に取り掛かる前はどんな作品にしたいと考えていましたか?

藤崎:『流星グラフティ』って言葉がいつだったか、まず浮かんだんですね。6が解散してからかな。それがすげーずっと心に引っ掛かってて。この言葉に添った形で曲だったり言葉だったりを散りばめて1枚のアルバムにしようって思って。曲有りきじゃなくイメージが先。この言葉をヒントに頭ん中にいろんな絵が浮かんで。それを掴まえて音で鳴らすみたいな。そんな感じ。あとはもう心境的に色々思ったり感じたりしたから、それが歌に反映されるのって自然なことだし。もう一つ拘ったのは、日本語。より気持ちを描こうと思ったら、やっぱ日本語が凄く大事だなって。

──今年の3月に話を伺った時は「今は曲作りに関しては空っぽの時期」と仰っていましたが、今回のソロ・アルバム収録曲の制作はいつ頃行なったのですか?

藤崎:曲作りやプリプロは夏でしたね。8月ですね。曲そのものや素材となるアイディアは、6の為に書いた曲だったり、JUSTYの頃に書いた曲の中からだったり、6解散後に書いた曲だったりと色々。「太陽が眩しかったから」って曲の歌詞は、6でライヴだけでやってた同名の曲の詞をほぼ全部移植したんです。とても気に入ってた言葉達だったんで。6が終わったからって言葉も消えてしまうのは悲しかったから、傍に置いておこうと思って。

──ヴォーカル、ギター、キーボードとすべてご自身で手掛けたということですが、すべての楽器をご自身で演奏しようとしたのは何故ですか?

藤崎:今までとは全く違うモノを作りたいって思ったのが一番ですね。出来上がって思ったんですけど、やっぱこのアルバムは一人じゃないと鳴らせない音だったと思うんです。他のプレイヤーの血っていうかニュアンスは全く必要なかったっていうか。それは曲を作ってる時、ベーシックを録ってる時にも思ってたけど、出来上がってより確信しました。他の人の感覚と自分の感覚とが混じり合うのも刺激的で楽しいけど、全く必要ない時もあるし。今回が正にそうでしたね。

──マルチ・プレイを敢行することによって苦労した点、その逆にやりやすかった点は?

藤崎:苦労っていうのではないけど、単純にやることが多くて大変って感じ(笑)。今回初めて歌以外の録りも自分でやったんで。それと、今回のアルバムは俺にとって今までにないくらいに異質なアルバムだから「ここはこの方向性でいいのかな?」って、ジャッジに不安になることも正直ありました。でも何か凄く新しいことに取り組んでる時や新しい扉を開く時ってそういうもんだと思うし、心に思い描いたことを信じてやろうって進めていきました。やりやすかったのは自由でしたね。うん。凄く自由でした。

──歌詞には「星」「空」といった言葉が多く登場し、音は素材そのものを大事にしているという印象を受けたのですが、今回のアルバム作りにおいてとりわけこだわった点というのは?

藤崎:「星」や「空」って言葉達は『流星グラフティ』って言葉に添う形で最初から最後まで存在してるし、俺の中では1曲1曲が独立してるって感じじゃなくて、全曲全部が繋がってるんですよね。言葉が変わったり言い回しのニュアンスが変わったりしてるだけで、唄ってること、唄いたいことはきっと一つなんです。音自体は音を録ってた時の「気持ち」を最優先ですね。器用じゃないし、例えば同じフレーズを何度も何度も頑張って録って最後に良いのが録れても、最初の新鮮さはなくなってる。衝動としての新鮮さは凄く大事でした。それに綺麗な洗練された音像ってよりも、時に強く時に弱く、脆くてもそこに確かに必要で鳴ってる音を残そうって。

──アルバム・タイトルに込められた意味合いは?

藤崎:「流星」ってなんか人の一生に似てんなーって。一瞬でしょ? パッと光って消えてっていう。「グラフティ」はいわゆる「落書き」ですよ。「人生の落書き12編」って感じです。まぁ、「流星グラフティ」って言葉が浮かんだ背景には、大好きなLED ZEPPELINの『PHYSICAL GRAFFITI』って言葉も無意識の中にあっただろうけど(笑)。

──初回盤特典の収録曲全12曲PVを網羅したDVDというのも画期的ですよね。

藤崎:ですね。手前味噌ですが画期的ですね(笑)。買ってくれる人達に喜んで貰えるかな? って思ったし、俺も前々からこういうのをやりたいって思ってたし。何せこれは今回レーベル・スタッフが乗り気だった(笑)。今のご時世にこれって普通、却下されるアイディアでしょ?(笑) それを「やりましょう!」って(笑)。

──それぞれのPVのアイディアはすべて藤崎さんによるものですか?

藤崎:PV自体のアイディアは漠然と簡単にこの曲はこんなイメージっていうのを監督に伝えて。あとはもう監督の新田憲太郎氏が黙々とこなしてくれて。撮影自体は曲数も曲数だったから、スケジュール的にも結構な強行軍だったけど、その後の編集のほうがもっと大変だったと思う(笑)。そこは俺、ノー・タッチだから(笑)。面白いエピソードは残念ながらなかったですね。忙しすぎて忘れてるのかもしれないけど(笑)。

──改めてソロの立場となって、バンド・サウンドの一体感が恋しくなりませんか?

藤崎:恋しくないです。今回のアルバム自体、自分の声と音が一つだし。もうバンドはやらないつもりです。うん。わからんけど。今はそう思う。ちょっともう疲れた(笑)。ロックと呼ばれる音楽の意味合いも、接し方、捉え方、感じ方、委ね方も変わったように感じるし。

──今後のプラン、ライヴの予定などは?

藤崎:年内に過去のソロ活動期に発売したDVD2枚を同時再リリースします。12月12日発売予定です。それにはそれぞれ新たに撮り下ろしのPVを入れる予定です。「この曲のV欲しいなー」って思ったりした曲がいくつかあったんで、この機会に入れておこうかと。過去の曲って何かのタイミング、機会がないと手を出せないし(笑)。ライヴは一切予定はないですね。やりたくなったらやります。

──この先やっていきたいことやヴィジョンを聞かせて下さい。

藤崎:この先やっていきたいことは、んー、頭ん中や心に湧いた音や言葉を素直に鳴らし続けたいってことですね。あとはレーベルの“Beretta Records”が、より多くのアーティスト達のリリースを今後サポートしていけたらな、と。で、“Beretta Records”としても大きく育っていけたらと思ってます。

──では最後に、Rooftopの読者に一言お願いします。

藤崎:このページに目を、手を止めて読んでくれてありがとね。


流星グラフティ

流星グラフティ

Beretta Records BRCDS-8009
3,000yen (tax in)
11.11 IN STORES
★amazonで購入する


赤盤

赤盤

Beretta Records BRCDS-8007
2,500yen (tax in)
IN STORES NOW
★amazonで購入する


黒盤

黒盤

Beretta Records BRCDS-8008
2,500yen (tax in)
IN STORES NOW
★amazonで購入する

KENICHI FUJISAKI OFFICIAL WEB SITE
http://www.kenichi-fujisaki.com

posted by Rooftop at 14:00 | TrackBack(0) | バックナンバー

この記事へのトラックバック