すべてを出し切り、乗り越えるべき壁を乗り越え到達した至高の作品『HEAVY GLITTER』
Radio Carolineの3枚目のフル・アルバム『HEAVY GLITTER』は、PATCH(vo, g)、ウエノコウジ(b)、楠部真也(ds)という個性的なミュージシャン達のエゴと音楽的な欲望が有機的に結びついた作品となった。 前作『ALL-OUT』における生みの苦しみが糧となり、より自由度を増したことによって、楽曲の幅は一気に拡大。 ロックンロールという音楽の多面性をカラフルに表現することに成功しているのも、このアルバムの特徴だろう。 衝突とトライ&エラーを繰り返しながら辿り着いた(現時点での)最高傑作『HEAVY GLITTAER』について、3人のメンバーそれぞれに話を聞いた。(interview:森 朋之)
PATCH
vocal, guitar
35歳にして、ようやくシンプルなロックンロールができるようになった
1曲1曲、適した音でやろうとした
──ニュー・アルバム『HEAVY GLITTER』完成、おめでとうございます。
PATCH:いやいや、ありがとうございます(笑)。
──収録されてる曲は、すべて新曲ですか?
PATCH:うん、そうだよ。マキシ(『TWISTIN' HEAD』)はもう出ちゃってるから、新曲とは言えないかもしれないけど…。なんで?
──いや、一気に楽曲の幅が広がったなと思いまして。
PATCH:あ、なるほど。今回はいろいろ考えながらやったような気がしてて、それも関係してるのかも。でも、ホントに新しい曲ばっかりなんだよね。今まではツアーやってる時に新しいのが2〜3曲出来てたんだけど、今回はまるっきりなかったし。
──『ALL-OUT』のツアー自体は、どんな感じだったんですか?
PATCH:アルバムを作り終えてから、すぐにツアーだったんですよ。だから、ライヴをやりながら練っていった感じだったんだよね。こんなこと言うと申し訳ないけど、最後のリキッドでようやく、“あ、こんな感じか”っていうのが掴めた(笑)。ツアーが終わったのが11月くらいで、そのあとはもう、何もやってなかったんじゃないかな? 曲も全然出来なかったし。
──そういう時期って、音楽も聴かないんですか?
PATCH:や、そんなことないよ。えーと、何を聴いてたかなぁ…。あ、そう、ルースターズのボックスとか聴いてました。あれ、ボツテイクとかも入ってるんですよ。それを聴きながら“なるほど、これじゃあボツになるかもな”とか思いながら。まぁ、友達と呑む時のネタみたいなもんですけど。
──今の話を聞いたから言うわけじゃないんだけど、今回のアルバムにはルースターズを思い出すような曲もありますね。
PATCH:ありました? どれ?
──「LAZY」とか。
PATCH:あ〜。こういう感じの曲は今までにもやろうと思ってたんだけど、なかなか出来なかったんだよね。今回はうまくいきました。
──シンプルなロックンロールだし、歌もしっかり前に出てて。
PATCH:ここまでやるのはちょっと恥ずかしかったんですけどね、実は。もっと適当にというか、ラフにガーッとやろうと思ってたんだけど、2人(ウエノ、楠部)が「いい曲だから、もっとしっかりやろうよ」ってことになって。35歳にして、ようやくシンプルなロックンロールができるようになりました。
──ははははは。シンプルなものほど難しいのかもしれないですね。
PATCH:うん。頭でっかちっていうか、単純なことをやるのは恥ずかしい、っていう……なんかね、余計なことをやりたがるんですよ。余計なことっていうと違うかもしれないけど、みんなで曲を作ってる時に「ここでサビが来るのは普通だから、ちょっと違う構成にしよう」とか、単純に“A(メロ)、B(メロ)、サビ”っていうんじゃなくて、途中に他のことを入れてみたり。まぁ、「LAZY」に関して言えば、やるんなら思い切って振り切る、ってことかな。全体的に今回は“1曲1曲、適した音でやろう”っていうのがあって。
──1曲目の「PUMPKIN JOE」なんて、めちゃくちゃヘヴィだし。
PATCH:そうね。ビックリするよね、普通の人が聴いたら。“なんだろう、これ?!”って。
──(笑)。あと、ヴォーカルのメロディ・ラインもしっかり際立ってますよね。
PATCH:もともとポップなものは好きなんですよ。ちゃんとメロディがあるもの、というか。ただ、今まではそういうものが作れなかっただけで(笑)。今回もウエノさんにいろいろと教えてもらいました。
──ん? 何を教えてもらうんですか?
PATCH:だから、メロディ。ウエノさんは唄わないけど、メロディに対して「こうやればいいんじゃない?」っていうアイデアがある人なんですよ。俺があやふやに唄ってたりすると、「この音まで上がったほうがいいんじゃん?」とかって。
──割とノリで唄っちゃうタイプだったりします?
PATCH:そうそう。まぁ、適当だからさぁ(笑)。でも、凄く参考になりますよ。そうか、こういうことを考えなくちゃいけないのかっていう……やっぱりさぁ、ミッシェル・ガン・エレファントとギョガン・レンズって、桁が違うじゃん? 考えてることが違うんだなってことが判りました。さすがです…って、こんなこと言わないほうがいいか(笑)。
──でも、曲を作る時はPATCHさんもいろんなことを考えるわけですよね?
PATCH:うーん…。俺は結構、“〜っぽい”だったりしたんだよね、今まで。それっぽい感じになればOKっていう。最近ようやく、それ以外のことも考え始めました。
──ギターに関してはどうですか? 「BORING ROXY TIME」とか「MUSIC IS OVER」とか、ギター・ソロが印象的な曲も多いですが。
PATCH:ね! ギターはホント、結構考えてますよ。『ALL-OUT』まではノリ重視だっ??たから。スタジオに行ってから、その場の思いつきで弾いたりしてたし。メロディを追うのって楽しいんだな、ってことも初めて気づきました。いや、いろいろと変わりましたよ。バンド人生10何年を過ぎて。
3人のエゴが出てくることで、どんどんバンドになってきてる
──PATCHさんにとっては、いろいろと発見があったアルバムなんですね。
PATCH:うん。まぁ、相変わらずノリでいっちゃうこともあるんだけど(笑)。歌も調子良かったんだよ、今回。全体的にもスムーズだったし、そういう雰囲気はアルバムにも出てるんじゃないかな。前回はかなり作り込んでて、かなり大変だったから…。結構煮詰まったしね。それに比べると今回は気持ち良くバーンとやってる感じ。バーンとやりつつ、考えるところはしっかり考えて。
──フル・アルバムも3枚目ですからね。バンドのバランスも良くなってくる頃だし。
PATCH:1年に1枚のペースですね、今のところ。これはアルバムの話とは関係ないんだけど、契約する時「1年に1枚は無理だよ。1年半か2年に1枚がいい」とか言ってたら、「そういうことは売れてから言ってね」って返されました(笑)。ま、今年もいいのが出来て、良かったです。
──歌詞についても今まで以上に考えたりしました?
PATCH:あ、そこは微妙だな(笑)。歌詞についてはねぇ……はっきり言って、そんなに言いたいこともないし。
──そこはビシッと筋を通して(笑)。
PATCH:そうね。世界平和も願ってないし、エコロジーも考えてないし。まぁ、思いつきみたいなもんですよ。ひとつ気になる言葉があったら、そこから広げていって。だってさぁ、“ヤツの名前はパンプキンジョー”(「PUMPKIN JOE」)だよ? 意味なんかないって。歌詞のことで言うと、ロッカーズみたいなのが好きなんですよ。陣内(孝則)さんの歌詞はいいよ〜。「涙のモーターウェイ」も結局、よく意味が判んないんだよね。ルースターズの歌詞は意味ありげなんだけど、ロッカーズにはそれが全然ない。そこが好きなんだよね…って言うと、失礼かもしれないけど。
──ははははは。意味がないほうがカッコイイ、と。
PATCH:うん。俺、ノンポリだから。
──でも、「STRAWBERRY TOWN」は少し違いますよね。ちょっと物語性があって…。
PATCH:あ、残念。それは真也が書いたやつ。
──う、失礼しました! ヴォーカルだけじゃなくて、歌詞も真也さんなんですか?
PATCH:うん。唄う人が書いてるから。でも、あの曲の歌詞はいいと思うよ。絶対、俺からは出てこないし。天才だね。何やってもカッコいいね、あいつは。唄ってても、ドラムやってても。
──(笑)。Radio Carolineとして活動をスタートさせたのが2003年。3年以上が経ったわけですが、今のバンドの状態をどんなふうに捉えてますか?
PATCH:良くなってきたんじゃないの? よりバンドっぽくなってきたというか…。矛盾してるように聞こえるかもしれないけど、3人のエゴが出てくることで、どんどんバンドになってきてると思いますね。最初の頃はさぁ、何をやっていくのか判ってないわけじゃない? 遠慮してたってことじゃないんだけど、お互いに合わせようとしてた部分はあったと思うし。最近はそれぞれがやりたいことを出してくるようになってるし…。根っこの部分は同じだけど、表現の仕方は3人とも違うから。
──ミュージシャンとしての個性をガッチリぶつけ合うことで、バンドの存在感が強まった。
PATCH:うん。ようやく自我が目覚めたのかも(笑)。でも、わがままは言うようになりましたね。丸め込まれたり、丸め込んだり、そのへんの駆け引きもありますが。自分がいいと思ってても、2人が「こっちのほうがいいよ」って言えば、“そうなのかな?”って考えますからね。実際、2人の意見に沿ってみたら“ホントだ。こっちのほうがカッコいいわ”ってことも多いし。時々スネたりもしてるけど(笑)。
──その効果がしっかりと表れたアルバムでもありますよね、『HEAVY GLITTER』は。
PATCH:久しぶりにスカッとしたアルバムになりました。売れそうじゃない?
──聴きやすいかもしれないっすね。
PATCH:「LAZY」がラジオから流れてたら、“あら、いい曲ね”って勘違いする人もいるかも(笑)。特に狙ってたわけじゃないんだけど、メリハリって言うんですか? いろんな曲が入ってるから、間口が広がったんじゃないかなって。
──そう思います。秋からはツアーも始まりますね。
PATCH:楽しみですね、俺も。今年の課題はちゃんとギターを弾くってことなので、そのへんも頑張りますよ。練習しないとな…。
──もう一本ギターがあったらいいな、っていう曲も多いですよね。
PATCH:まぁね。でも、ほら、そこはライヴ・バンドですから。ライヴで他の音を入れるバンドって多いよね??、最近。コレクターズもストリングスの音を使ったりしてたし。
──レディキャロもやってみたらどうですか? 「BIG TEARS」にホーンの音を加えるとか、どうですか?
PATCH:いいかもね。でもさぁ、ドラムがクリックを聴かないとダメなんでしょ? できないよ、真也は。できるかもしれないけど、俺達がやっても面白くないだろうね。やっぱり3人でやりますよ、ライヴは。
楠部真也
drums
人の気持ちを汲み取らないと、何事も良い方向には転がらない
Radio Carolineというバンドを知るには一番いい作品になったと思う
――さっきPATCHさんが「真也は何をやってもカッコいい」って言ってましたよ。
楠部:そんなことないよ、ずっこけることもあるし。
――「『STRAWBERRY TOWN』の歌詞が素晴らしい、俺には書けない」って。
楠部:ウソ、絶対ヨイショですよ。でも、褒められたから言うわけじゃないですけど、俺も(PATCHに対して)同じことを思いますよ。今回は2曲(「STRAWBERRY TOWN」「JUDGEMENT」)しか書いてないんですけど、なかなか出てこないんですよ、これが。歌詞を書く、曲に詞をつけるっていう作業はまだまだ未熟やから、これからも書いていこうかなって思ってますけどね。
――作詞自体、初めてですか?
楠部:いや、『ALL-OUT』でも「TIME」っていう曲でちょこっと書かせてもらったんですけど。だから、レディキャロでは3曲ですね。
――「STRAWBERRY TOWN」って、凄くストーリー性を感じさせる曲ですよね。恋人か友達かは判らないけど、“あいつ”が先にどこかへ旅立ってしまうっていう…。
楠部:浮かんできたんですよね、そういうのが。でもね、俺はこういう歌詞しか書かれへんかもしれないです。ニートビーツの時に1曲だけ書いたのも、散歩する歌なんですよ。おまえと一緒に歩いていきたいっていう(笑)。「STRAWBERRY〜」に関しては、イチゴ畑がバーッと広がっていて、丘の上からそれを見てるっていう情景が浮かんで、そこからスタートした感じです。
――「JUDGEMENT」は軽やかなロックンロール・ナンバー。こういう曲も今までのレディキャロには…。
楠部:なかったですね、意外と。でも、個人的にはこういうものが大好きなんですよ、もともと。ノリが良くて、聴いてて楽しいでしょ。
――こういうノリって、今までは封印してたんでしょうか?
楠部:いや、そんなことは全然考えてないですよ。別に遠慮してやらなかった、ってこともないし。曲はいつも3人で作ってるから、自然と3人の要素が入ってくるんですけど、やっぱりね、気分っていうのもあるじゃないですか? いろいろと作っていくなかで、「JUDGEMENT」みたいな曲も出てきたってことだと思いますけどね。
――なるほど。でも、どっちもいい曲ですよね。
楠部:そうですよね。今回はね、アルバム全体を通して、これまで以上の手応えがあって。今までレディキャロの音を聴いたことがない人、全然知らなかったって人にも“取っ掛かり”になるんじゃないかなっていう。もちろん、前作でも前々作でも、どこから聴いてもらっても、どの扉から入ってもらっても、結局は同じところに辿り着くんだけど。
――うん。
楠部:でも、何て言うのかな…。まず『DEAD GROOVY ACTION』は1作目っていうこともあって、初期衝動的なところが強いというか、パッと曲を作ってパッと録ったっていう感じのアルバムなんですよ。ノリ重視で、とにかくバーッとやったという。『ALL-OUT』はじっくりと時間を掛けて――悩みすぎて、“おまえら、どこに行ってしまうねん!?”っていう雰囲気もありつつ――深く掘り下げたイメージがあって。
――そうですよね、確かに。
楠部:で、今回っていうのは、両方の要素が入ってると思うんですよ。初期衝動だけでもない、悩みすぎてもいない。練れてるところはちゃんと練れていて、しかも聴きやすいっていう。そういうアルバムを目指して作ったわけではないんですけど、今年の年明けから曲を作ってきた過程のなかで、少しずつ手応えを感じてきて。そういう意味でも、Radio Carolineっていうバンドを知ってもらうには、一番いい作品になったなって思います。レコーディングも結構順調だったんですよ。曲を作りながらアレンジも固めていったから、あとは録るだけっていう状態だったので。リズム録りもスポポポポンと進みました。
――スポポポポン(笑)。リズムもいつになくカラフルですよね。かなり技を使ってるな、っていう印象だったのですが。
楠部:そうですか? まだまだ僕のなかでは、一辺倒に近いですけど。もちろん、一辺倒な自分っていうのは、本意ではないんですけどね。
――もっとリズムの引き出しを増やしたい、と。
楠部:うん。それは今回だけの話ではないですけどね。Radio Carolineをやり始めた時点で、自分の引き出しを増やしたい、増やさなくちゃいけないっていう衝動に駆られていたし。それまでは俺、他のバンドのライヴとか、ほとんど観てなかったんですよ。
――興味なかったんですか?
楠部:いや、そういうわけでもないんですけど…。たとえば友達のバンドと対バンとかするじゃないですか。凄く仲はいいんですけど、なぜかライヴは観なかったり。なんでやろ? 当時の自分が何を考えていたのかが判らない。
――ははははは。
楠部:でも、最近は割と観るようになりましたね。“凄いって話は聞いてるけど、ライヴを観たことがない”っていうバンドを観ると、めちゃめちゃ驚かされたりしますから。自分ではよう叩かんようなリズムだったり、そういうところから吸収することもたくさんあって。最近ビックリしたのは、ROVOの芳垣さん(芳垣安洋/ROVO、渋さ知らズ、大友良英ニュー・ジャズ・アンサンブルなどで活動中のドラマー)。めちゃくちゃ上手で、気持ち悪くなりました(笑)。めっちゃタイコが好きなんやな、って思いますわ。和楽器とか、いろんな民族楽器も巧いし。
唄うのはドラムを叩くこと以上に好きかもしれない(笑)
――そうやって新しく吸収したものをバンドに還元するって、大事ですよね。
楠部:そうですね。出してみて、アカンかったらアカンでええし。自分のなかに閉じ込めておいても、意味ないですからね。遊べる時に遊ぶっていうか、やりたいと思うことはどんどんやっておかないと、あとで後悔することになると思うので。歌詞も書いていきたいですね。俺が歌詞を書いて、PATCHに唄ってもらうってことも、ひょっとしたらあるかもしれないっすよ。あと、歌とかね。
――唄うのは好きなんですよね?
楠部:好きですね。ドラムも好きですけど、それ以上に好きかもしれないです(笑)。違う気持ち良さがあるんですよね。といってもピンで唄ったことはなくて、いつもドラムを叩きながら唄ってるんですけど。
――ヴォーカルのレコーディングも好きですか?
楠部:いやぁ、それはね、よくPATCHとかにも言うんですけど、恥ずかしいんですよ。ほら、自分の声をテープに録って聞いて、“うわ、変!”っていうことってあるでしょ? それがまだ抜けてないんです。おまえ、何年アーティストやってんねん! って話なんですけど。
――ははははは! ちょっと素人っぽいですよねぇ、それ。
楠部:レコーディングやってても、だんだん腹が立ってくるんですよ。なんでこんな声なんやろう、もっとカッコ良くならへんかなって。ジョン・レノンが大好きなんですけど、あんな声にならへんかな。
――いや、それは無理では…。
楠部:もちろん無理なんですけど(笑)。でもね、ジョンも自分の声が嫌いだったらしいですよ。ジョージ・マーティンにもそう言ってたみたいだし。でも、あれほどのシンガーになったわけじゃないですか。だから俺も、このまま唄ってれば慣れてくると思うんですけど。もっともっと第三者に褒められないと、自信はつかないですね。
――(笑)。これはさっきPATCHさんにも訊いたんですけど、3年目を迎えて、バンドのなかに変化を感じてますか?
楠部:うん、変化してると思いますよ。しないといけない、とも思ってるし。もちろん、いい方向に変わってるってことですけどね。もし仮に悪いほうに変化していれば、バンドがなくなってるか、もしくはこのアルバムが良くないかのどっちかですから。どちらでもないってことは、いいふうに変わってるんじゃないですか?
――では、バンドをいい方向に転がしていくためには、何が必要だと思います?
楠部:人の気持ちを汲み取ること、じゃないですか? それができなかったら、何事も良い方向には転がらない。それは常に思ってますね。
――メンバーと一緒にいる時も?
楠部:そうですね。あのー、気が短いんですよ、俺。それがイヤで変えようと思ってて、今はまだ途中段階なんですけど。腹立つことって、たくさんあるじゃないですか? 朝起きてから夜寝るまでに起こるムカツクことっていうのは、楽しいことと同様、もしくはそれ以上に起こるわけですよ。でね、短気な人間っていうのは嫌なことが起きるたんびにいちいちイライラする。気が長い人は沸点が高いから、そんなにイライラしない。俺はもともと前者なんですよね。だから何か嫌なことがあった時は、“あん?”とかって思う前に、“どうしてこいつは、こんなことをするんやろう?”って考えるようにしてるんです。
――バンドでも同じ?
楠部:バンドも結局、人間同士が集まってやってることですから。人付き合いが上手く出来ない人は、抜けるしかないですからね。俺はA、相手がB、って言ってる時に、「おまえがBって言うなら、それでええわ」って引き下がるのも大事だし、「ここはAでやらしてくれへん?」って説得することも必要。だって、バンドですからね。ソロでやってるわけではないから。かといって、何も遠慮はしてないですよ? 言いたいことは言ってるし。
――そうかー。大人じゃないと出来ないですね、バンドって。
楠部:出来ないですねぇ。というか、もう若くはないですからねぇ、みんな(笑)。でも、今のバランスは凄くいいと思いますよ。小さいモメごとは当然ありますけど、充実してるし、楽しいから。その答えが今回のアルバムだったりすると思うので。
――そうですね。でも、真也さんが短気っていうのは意外でした。いつも穏??やかなので。
楠部:短気なのは家系なんですよ。おやじもおじいちゃんもそうやから。それを小さい時から見てるから、“俺はそうならんとこう”って思うのかもしれないですね、余計に。ただねぇ、やっぱり血を引いてますから…。なかなか難しいですわ(笑)。
ウエノコウジ
bass
この3人でまだまだ行ける気がしてる
『ALL-OUT』は乗り越えるべき壁だった
(ウエノ、文庫本を片手に登場)
――ウエノさん、いつも本を持ってますよね。
ウエノ:うん。本、大好きだからね。ルーフトップも好きだよ。
――ありがとうございます。
ウエノ:『ISHIKAWAの気になる日記』、今月も面白かったねぇ。あと、増子(直純)さんのコーナーに出させてよ、って言っといて。
――いつでもOKっす。で、『HEAVY GLITTER』なんですが…。
ウエノ:うん。
――素晴らしいですね、これは。3枚目のアルバムにして完全にRadio Carolineの音が確立された、という手応えがありました。
ウエノ:ありがとうございます。俺もいいと思うよ。…うん、いいと思うけどね。
――まず、楽曲に幅が出てきましたよね。
ウエノ:ああ、そう? みんなそういうふうに言ってくれるんだけど、でも、アレなんじゃない? 速いのばっかり作ってたら遅いのもやりたくなるし、エイトビートばっかりやってたら他のものも作りたくなるし。それが自然に出てるんだと思うんだけど。
――特に強く意識はしてない、と。
ウエノ:全部無意識だからね。結果的にこういうものになった、っていうことだよね。無理して、無いものを搾り出してもしょうがないんで。もちろん、凄く考えてはいるんだけど。特に俺は考える性質〈たち〉なんで。
――制作中はずっとアルバムのことを考えてますよね、いつも。
ウエノ:そうだね。レコーディングとか入ると、他のことはなーんにも出来なくなっちゃうから。曲を作ってる時もそうだけどね。今年の初めからスタジオに入ったんだけど、完成するまでは他のことをやってても…。
――上の空?
ウエノ:もちろんレコードを聴いたり本を読んだり、呑みに行ったりもするんだけど。だけど何をやってても、どこかに引っ掛かってるわけよ、アルバムのことが。それが8ヶ月ズーッとだから。やっとそこから解放されて、今は何にも考えてないけどね。毎日呑みっぱなしです。昨日もひどかった…。自分の酒臭さで気持ち悪いもん。昨日はマックショウ、ザ・コルツの神田(朝行)と呑んでたんだけど。面白かったよ。広島の同級生なんだよ。
――あ、そうなんですか。
ウエノ:学校は違うんだけど。あと、岩川(浩二/ザ・コルツ、マックショウ)君、グルーヴァーズの(藤井)一彦も広島県出身の同い年。まあいいか、そんな話は。
――(笑)。普段ウエノさんは、「今年は今年、来年は来年の気分があるからさぁ」って言うじゃないですか。
ウエノ:うん。
――2006年の気分は、どんな感じだったんですか?
ウエノ:うーん…。やっぱり何か、俺にとって『ALL-OUT』は凄い大きなもので。時間も掛けたし、苦しかったし。で、『ALL-OUT』っていうくらいだから、そこで全部出し切ったんだよね。あのアルバムを作って、ツアーをやって。で、次は何をやってもいいなって思ってたから。
――『ALL-OUT』における苦しさって、何が理由だったんでしょうか?
ウエノ:俺も含めて、長いことバンドをやってきて。それぞれの色っていうか芸風っていうか、そういうのがあると思うんだけど、なんかいまいち溶け合ってないな、もっと溶けないといけないなって思ってて。だから、まぁ、(『ALL-OUT』では)溶けるまでやった、っていう感じなんだけどね。
――なるほど。
ウエノ:たぶん、テイク自体は悪くないんだよ。「どこが悪いんですか?」って言われても、「いや、別に悪くないんだけど、なんか違うんだよね」って……あの2人はもしかしたら、“何を言ってるんだろう?”って思ってたかもしれないけど。難しいんだけどね、その感覚を説明するのは。
――それはもしかしたら、すべてのバンドが乗り越えなくちゃいけない壁なのかもしれないですね。
ウエノ:という気はするけどね。また、あると思うよ。それが何年後に来るのかは判んないけど。でも、今回のレコーディングは楽しみだったんだよ、逆に。このあと、どんなことがやれるのかな? って。
“これは最高だ”って思うものを作って、あとは出すだけ
――実際、ウエノさんから見て、レコーディングの空気はどうだったんですか?
ウエノ:うん、順調だったよ。時間も早かったしね。(『ALL-OUT』で)1回、真っ白になったわけだから、あとは色が付くしかないから。だから今回のレコーディングは――これ、言葉にするとちょっと語弊があるかもしれないけど、“何も考えなくても…”ってところはあったよね。じっくり考えなくても、今までの経験のなかで得たものがあるから、いろんなことが自然に出来ていくっていう。といっても、考えてるんだけどね。さっきも言ったように。
――“こんなアルバムになるはず”っていう予感もまったくなかったんですか?
ウエノ:ないね、真っ白だったから。ただ、最初のほうに出来た曲っていうのが、『ALL-OUT』を引きずってたというか、凄いドロドロだったことを覚えてて。曲も長かったし、重くて。で、たまたま2月にイヴェントに呼ばれて――確か、(代官山)UNITだったと思うけど――、そこで出来てた曲をやってみたんだよ。そしたら、やっぱり重くて、長くて。そこから何か変わってきたんだよね。あのイヴェントがタイミング的には良かったのかもしれないね、今考えてみると。
――その時にやった曲はアルバムにも収録されてるんですか?
ウエノ:入ってるよ。「TOMATO」とか「MY SWEET LITTLE」とか。収録されてるやつよりも長かったんだよ、ループ感っていうかさ。本人達は楽しいんだけどね、演奏してて。
――そのイヴェント以降、実際に曲の方向性は変わったんですか?
ウエノ:変わったね。曲が鋭角になってきたというか。
――なるほど。今回はメロディについてもかなり具体的な指示があったとか。
ウエノ:うん、俺は細かいからさ(笑)。自分のことは棚に上げて、ドラムとかギターとか、人の楽器のことが気になってるから。メロディに関しては、まぁ、とりあえず言ってみるって感じなんだよね。実際に唄うのはPATCHであり真也だから、譲れない部分もあると思うんだよ。だから、「こっちのほうがグッとくるんじゃない?」ってことをとりあえず伝えて、それが良ければそうするっていう。
――サウンドについてはどうですか? 『ALL-OUT』の時には“アンプから出てる音をそのまま伝える”という明確なヴィジョンがあったわけですが。
ウエノ:今回は“曲によって”って感じかな。まずはそれぞれに出したい音があって、それを混ぜた時にどうなるかってことがあって。それこそ、しっかり溶け合わないとダメだから。音決めには結構時間が掛かってるかもしれないね、ウチは。それさえ決まれば、あとは全身全霊で演奏するだけだから。あ、あと、今回は結構サオ(ベース)を使ったような気がするな。いつもは1本で通すことが多いんだけど。
――それはやっぱり、楽曲がヴァラエティに富んでるからでは?
ウエノ:そういうことも関係してるんだろうね。
――ヘヴィな曲もあり、軽快なロックンロールもあり。そういえばPATCHさんが「『LAZY』がラジオで流れたら、“あら、いい歌ね”って勘違いする人がいるかも」って言ってました。
ウエノ:(苦笑)。一般の人が何をいいと思うか判んないからね。どうやったらグッとくるのかも判んないし。とにかく自分達と自分達の周りにいる人が“これは最高だ”って思うものを作って、あとは出すだけだから。今回もいいレコードが出来たと思ってるから…。でも、売れたらいいなとは思ってるよ。
――そうっすよね。ウエノさんから見て、現在のレディキャロの手応えはどうですか?
ウエノ:そうだな、まだ行けるような気はしてるけどね。『DEAD GROOVY ACTION』があるから『GLOW』があって、『GLOW』があるから『ALL-OUT』があって、『ALL-OUT』があるから『HEAVY GLITTER』があるわけだけど……うん、まだ行けるような気がする。それがどんな音になるかっていうのは、判んないんだけどね。来年になってどういう音を出したくなってるのかも判んないし、それはこれからツアーをやってみないと見えてこないから。
――メンバー一人ひとり、プレイヤーとしての変化もあるだろうし。
ウエノ:うん、そこは結構変わってきてると思うよ。そのほうがいいしね。もちろん根本にあるものは変わらないよ、この年までやってきてるわけだから。でも、そこを踏まえた上で、変わってく部分はあるんじゃないかなぁ。より頑なになるのもひとつの変化だし、掘り下げるのもいいと思うし、巧くなるのもいいしね。だって、ずっと同じ人間なんていないじゃん? 誰でも変わるんだから、それが全部出たほうがいい。そういうミュージシャンのほうがいいよね。
――ウエノさんも変わってますよね、この3年の間に。
ウエノ:変わるねぇ。どんどん年を喰ってくるしね。学術的に言うと、40からは初老だからね。だから俺は今、中年真っ只中。もう、いいオッサンだよ(笑)。
HEAVY GLITTER
Columbia Music Entertainment, Inc./TRIAD COCP-50948
2,940yen (tax in)
9.20 IN STORES
★amazonで購入する
★iTunes Storeで購入する(PC ONLY)
Live info.
HEAVY GLITTER TOUR
10月15日(日)千葉LOOK
10月20日(金)京都磔磔
10月22日(日)福岡DRUM Be-1
10月24日(火)高松DIME
10月27日(金)仙台CLUB JUNK BOX
10月29日(日)札幌ベッシーホール
11月2日(木)新潟CLUB JUNK BOX mini
11月3日(金)長野CLUB JUNK BOX(イベント)
11月10日(金)広島ナミキジャンクション
11月11日(土)大阪十三FANDANGO
11月12日(日)大阪十三FANDANGO
11月17日(金)名古屋E.L.L.
11月19日(日)LIQUIDROOM ebisu
9月13日(水)越谷EASY GOINGS
w/ Guitar Wolf / THE TRAVELLERS / WAGA-MAMA CITY BOYZ / COLD WATER BOUND
シークレットスペシャルゲストバンド…more
OPEN 16:00 / START 16:30 TICKETS: advance-3,800yen (+1DRINK) / door-4,300yen (+1DRINK)
【info.】越谷EASY GOINGS:048-963-1221
CLUB MEN-SOUL OKINAWA
9月29日(金)沖縄CLUB mnD/9月30日(土)沖縄mix bar PEACE
OPEN 19:00 / START 19:30 TICKET: advance-2,500yen
w/ REVERSLOW / Shaolong To The Sky
DJ:DJ ISHIKAWA (TIGERHOLE) / RYOJI (ex.POTSHOT) / etc...
【info.】沖縄CLUB mnD:098-861-9907/沖縄mix bar PEACE:098-966-2727
Radio Caroline OFFICIAL WEB SITE
http://www.radiocaroline.jp/
http://columbia.jp/radio-c/