Our beautiful revolution 曽我部恵一×平野悠 対談
「俺は今曽我部恵一に興味があるんだ」ここ最近ロフト席亭平野悠は繰り返し言い続けていた。下北沢問題を通じて知り合った関係が7月2日新宿ロフトでのライブを観て、平野の想いが加速し、今回の対談が実現。現在ニューアルバムのレコーディング中の多忙な中、対談に臨んだ曽我部からはサニーデイ・サービス時代の話から、下北沢問題、日本のロック、政治や文化にまで多岐に渡り話が広がってゆく。ほぼ、接点は無かったはずの二人なのに、不思議と両者の間には人間が好きというイデアが築かれていたのも面白い。曽我部・平野の二人の「革命家」の歴史的なファーストコンタクトに注目!(プロデュース&構成:吉留大貴)
下北沢問題は身の回りの事だからやってるだけですよ。
平野:この間の7月2日に行われた新宿ロフトの曽我部ライブがすごく良かったんですよね。今まで何度かライブは観ていたんですが、この時改めて曽我部さんにとても興味を持ったんです。まず、僕なりの素直な言い方なんですけど、曽我部さんや銀杏BOYZ、サンボマスター・怒髪天、フラカンを観る内に、私には日本のロックに新しいシーンが動き出したと感じたんです。2001.9.11同時多発テロ以降日本のロックは明らかにこの事態や社会や世界の変化に背を向けてきた歴史がありますよね。そこに対してダイレクトに熱く語ったり、歌ったりする事で、大変なエネルギーを作り上げたりしている一つのシーンだと僕は見たんです。多分僕が勝手に一人言い出したのだけどね。そして僕はこのエネルギーは何処にいくのかをずっと注目しているんです。そこで僕はつい先日から最年長な新人ロック評論家を名乗り多くのライブを見始めたんです。で、この前のエンケン(遠藤賢司)との対バンの時は凄かった。あの時は曽我部さんは僕が言うシーンの一部は超えたと思ったの。もっと問題なのは僕は何であのライブの時そう思ったか考えてもわからない。だからもう一回観たいと。曽我部のライブをもう一回観ないとその結論が出ないと思っていた。あれから曽我部さんの東京でのコンサートがないじゃないですか。あったらどこでも行こうと思ったの。もう一回ライブを見てあの気持ちに自分自身決着付けたかったの。しかし残念ながら未だに結論が出ていなくってこの対談に至ったわけです。
曽我部:あの日のライブはエンケンさんと一緒にやるので負けられねえなっていうのは、まずバンドメンバーもあって、エンケンさんとツアー回ると僕がやればやるほどエンケンさんも負けずにやり返してくるわけですよ。基本的に最初に出るのが負けっていう恐ろしい世界なので(笑)。後から出るエンケンさんが想像できないぐらいにやりたいなっていうのは、対決だと思ってるからいい機会だなと思ってましたから。
平野:だからやる前からエンケンさんが燃えちゃって、「エンケンさん、どうしてこんなに盛り上がってるの?」って聞いたら「曽我部に負けられるか」と(笑)。50過ぎのジジイが曽我部に負けられるかはないだろうと思ったけどね(笑)。
曽我部:負けず嫌いの2人なんで(笑)。
平野:あとギター狂いの2人だよな。エンケンさんは寝床に入ってもギター離さないっていうのが昔からの評判な人だから。
曽我部:最近特に思っている事があってライブの前に言うんですけど、メンバーの年齢もバラバラだけど、青春の全てを出しきっていこうぜって。結局やってるのってそれだけなんです。何でもいいんです。メッセージじゃないかもしれないし、叫んだりとか歌ったりとか自分の中から出るものを、全て出してそれで終わりなのか、そこから何かがあるのかそれは解らない。青春や情熱というものがあるなら、それを全部出そうぜって。笑ったりとか感動したりしながらメンバーとやってるし、それが楽しいし、それをやらないと何にも伝わっていかないんじゃないかなっていうのがあるんです。
平野:ただ、そこで曽我部さんの最近のCDを聴くと、ほとんどラブソングじゃないですか。ラブソングで身のまわりのことしか歌ってないじゃん。そこで僕が観たライブとの断絶感というか距離感を感じてしまった。この人何がしたいんだろうって。自分の子供がかわいいのは解るけど、小さな幸せがあればいいだけなのか。ライブのもの凄い熱いエネルギーと、あのCDのラブソングのしっとりとした感じの差異は何なのだろうってね。決して僕はラブソングは嫌いじゃないんですが。
曽我部:ライブのままを作品に出したいんですけどね。毎回ああいったライブなんですよ。それを作品にするのはすごく難しくて。それでもアコギ1本持ってスタジオに入ってっていうのは、ライブと違う事だからそれはそれかなって思っちゃうんです。必ずしもCDとライブが同じ効能はなくてもいいと思うし。
平野:サニーデイ・サービスの頃はどう考えていたの?
曽我部:その頃思ってたのは当時は熱いロックが多かったんです。拳を振り上げるって事に違和感があって、連帯もできないし、友達も多いわけではないし、引っ込み思案だし、自分達が思うロックっていうのは別の所にあるし、だからこそシャウトしたりとかせずに表現していきたいなと思ってたんですよ。あえて淡々とやってたんですけど、今やっぱりそれに飽きちゃったというか、そういうのも世の中的に多いなぁ。つまりメガネかけてるバンドとかが多いなと思って。自分が思ってた様なことが主流になったけど、それで変わったのかなっていうのもあるし。どういうことやったらいいのかって模索しだしたら、異様にライブのテンションが上がり始めたよね。何だったんだろ。僕も解らないですよ、今のライブになったのも。
平野:そうなると次はCDで自分の立ち位置をどう伝えていくかというところで難しくなる。曽我部さんは子供が産まれたから、まず自分の身の回りを守ってゆく気の優しいおじさんの歌に見られるとこが出てくると思うんだ。僕も子供がいるから言えるんだけど、子供がいるってことは守るべき存在があるということになって歌い手は表現がどうしても変わらざるを得ない。
曽我部:基本的には平野さんが言われた、そこを歌わないと駄目だなって思うんです。一言で言えば自分が好きな人に好きだよって。それをやってるからこそ、本気でライブで叫ぶことができる。「愛と平和」って歌うつもりもないし、「戦争反対」って歌うつもりも全くない。君が好きだよしか歌いたくないし、自分が大事に思ってることとか、心の中に思ってる夢とか希望とか絶望とか孤独とかを歌う。それは半径数メートルっていうよりも数10センチかもしれないけど、僕はそれを歌いたいですね。それしか僕は歌うことないですよ。社会の状況のことを歌うつもりはないですね。それよりも、君が好きだよとか俺はこういうふうに孤独を感じてるんだって本気で言うことによってポジティブなパワーが生まれると思っているんです。
平野:そこで更に突っ込むとね、あなたが一番愛する子供、あるいは家族が住むこの日本は今840兆の借金、年金も含めると1800兆近いという。これって絶望的な数字でしょ。そう考えると「生活は破綻して行く」わけだからそこで社会との接点が生まれてくよね。そうなると、親としてもあなたの子供の10年〜20年後にも責任はあるじゃないですか。
曽我部:僕はあんまりそういう風に思わないんで。不謹慎な話ですけど、今が楽しかったらいいかなと思ってる方だし、子供の未来を考えるより今遊んだりとかいろんな事を共有したりとか、子供といると知らなかった物を教えてくれるし、そういうところを一緒に共有したいと思うんです。未来に対しての不安とかは特に感じて無くて、あくまでも十年後二十年後は想像に過ぎないからどうなるか解らないんですよね。僕にとってはリアリティがないですね。
平野:だったら世界で今何が起ころうと問題はない?
曽我部:そんな事は無いです。子供たちが死ぬ事程悲しい事はない。その悲しみが自分に蓄積されてライブで爆発するかもしれないし。ただ空爆を今すぐ止めるんだって歌う事が何かを変えていくことにはならないと思うんです。
平野:そうするとあなたが下北沢道路拡張問題に関わっているのが不思議になってくる。これは行政側の無理と戦う事だから明らかに政治的な要素を持つ運動になるわけ。
曽我部:僕は下北沢問題に関しては、自分が暮らしてるところだからやってるんです。散歩したりとか好きな街だから変えないで欲しいなと思ったところから始まってるだけなんです。
平野:なるほどね。身の回りを大事にしているから、下北の街を変えられるのはって嫌だって体を動かすわけだ。
曽我部:ちょっと待てよって話ですよね。そこで僕がやれるのは、デモとかは出来ますけど、具体的には歌になる。そこでどういう歌を歌うんだって時に、ダイレクトに歌っても届かないと思うんです。僕は今の下北はこんなにすごい素敵な街なんだよってことを、キッチリ押しつけがましくなく伝えたいなって思ったんです。それで『sketch of shimokitazawa』ってアルバムを作ったんですよ。道路反対とちょっと言ってるぐらいで、やっぱり下北でこんないい曲出来たよ、東京来たら下北遊びに来てよというのが。
デモとか行動を起こすリアリティーが持てていない
平野:そこで曽我部さん達に聞きたいのは、下北沢運動に参加する若い子達以外の意識ってどこにあるんだろうかまだ僕は解らないでいる。僕らが大学時代にまず大学理事達の金儲けの為にマスプロ事業があって大学の授業料値上げっていうのがあった。僕らは金持ちしか行けなくなる様な大学になるのは反対だった。そして値上げ反対闘争も頑張り続ければ最終的には「政治に問題ある」って言うことで国家権力が全面に出てきて戦うことになっちゃうわけだよな。
曽我部:そういう人情的なところは今も変わってないんだけど、違うのは平野さんの世代の学生運動が失敗したのを知ってるじゃないですか。それだけですよ。ホントに60年代の安保なりが成功して世界が変わってたら僕たちも同じ様なことをしますよね。こういう風に訴えれば変わるんだっていうことは引き継がれてることはあるけど、対権力としての学生運動は失敗してるし、資本主義がこれだけ強固な塊になってる結果であるから、それはやらないと思いますよ。
平野:僕はそのシラケは、今の日本だけの特質のような気がしてならないの。今世界は揺れている。ニューヨークやパリや、ロンドンでは20万から200万人の反戦デモが出てる。フランスは高校生が政府に反対運動やってついには抗議デモで法案を撤回させた。韓国やタイでもそう。何故か日本だけが「やっても無駄だ」ってしらけちゃってるんだと。
下北沢問題を語る内に今後の対策を練る二人。何か曽我部氏に「革命の作法」を語るモードに席亭が…。 |
曽我部:心情的にはシラケてないんですよ。若者が熱いのはフランスでもアメリカでも日本でも変わらないと思うけど、デモとか行動を起こすリアリティーが持てていないし、学生運動にしてもほとんどの人が興味本位じゃないですか。言ってしまえばフェスみたいなもんですよ。でもフランスのデモとかは地元ですよ。この場を守りたい、この人を守りたい。ニューヨークも自分のアパートを守りたいとか、ものすごい身近なテーマだと思うんです。日本の問題は反体制の運動をするためのリアリティーを持たないようにさせられてるというか、ぼんやりと解らなくされてるところにあるんじゃないかな。下北のデモは僕は自分の街だから来てるだけで、それは本当に一番正しい在り方だと思うんです。反戦とか靖国のこととかいろいろあるけど、みんなそれに対して大きいデモやらないのは、リアリティーが得られないからですよね。例えば中国がこういう事言った、でもそれも報道って解らないから、ダイレクトに伝わってきてないと思うんです。フランスもニューヨークも、自分の街を愛してるっていうけど、「日本愛してるの?」って言うとそんなことないと思わされてるのか、リアリティーが持てないのか、そこが一番のポイントだと思う。地元の子って下北好きならデモ行こうよって。それだけの話。だけど「下北は週2回ぐらい来てるけど住んでないからまあいいか。」って、それでどんどん権力にうまくあしらわれてると思うんですよ、日本人は。
平野:今、僕が注目しているミュージシャンのライブの話になるけど「イラク戦争の問題」や「戦争反対」というミュージシャンが放つメッセージも、一方では結局は聞いてる連中にとっては単なるその場のフェスの場だけの、エンターテイメントの括りの中でのメッセージを聞いて喜んで乗っているだけで、フェスが終わった後とかに、今の戦争をどうやって止めるとか若者同士が論議なんてほとんどない。そうすると幾らそんなことを言っても効果はないから、方法論を変えるのも必要なのかもね。本当のメッセージが届くには。
曽我部:ホントに影響力がある人が本気で言えば影響力あるかもしれないけど、エンターテイメントの枠で言ってるから、その場では盛り上がるんですけど…。僕が言ってもそうなるんですよ。結局はライブの中ではエンターテイメントの盛り上げにしかならないから。だったら言わないほうがいいんじゃないかなって。
平野:それは大貫妙子さんも「クイックジャパン」で言ってたよな。私は政治的な発言はするけど、歌で反戦を訴える事はしない。ライブとして六ヶ所村核燃料再処理施設の前で歌う時でも、「明日も頑張ろう、嫌なこともいっぱいあるけどさ」って思える言葉を提供したいと彼女は主張している。
曽我部:その発言には僕も全く同感ですね。
「戦争にちょっと反対さ」と歌うのは僕の強い意志です
平野:基本的には身の回りの事しか歌いたくない曽我部さんなんだけど、興味深いのは2001.9.11同時多発テロの後に『ギター』というシングルを出されたじゃないですか。かなり異例な曲ですけど、そもそもそのいきさつは何だったの?
曽我部:テロっていうのが自分にとって凄く衝撃的で、僕が何かこの事実をアウトプットしないといけないなと思ったから歌にしたんですけど、その時の気分をね。その時の気分って悲しいとか辛いとか戦争反対とかでは全然なくて、何かとらえどころのない言葉では言えないような気分だったんです。それを何とか曲にしたのが『ギター』っていう曲で、戦争反対とも言ってないし、悲しいとも言ってないし、ニューヨークの風景を歌ってるわけでもないっていう曲ですね。その時の自分が何処でどういう風景の中で何を感じたかっていうのをちょっとでも曲の中に入れれたらって思いましたね。そうじゃないとその時の気分がうまく形にならないと思ったから。ただ歌詞に「戦争にはちょっと反対さ」と入ってるんですね。何でちょっとなんだって。ちょっとじゃねえだろって結構言われたんですよ。でも、あえて「ちょっと反対さ」っていう事が大事かなって思ったんです。ニューヨークで身内も死んでないしさ。テレビで見ただけ。犯人が誰かもよく解ってない。でも戦争にはちょっと反対さって言えるかどうか。そこで戦争反対って言っちゃったら軽薄な気がしたんですよ。言っちゃうと凄く違うんだろうな。でも絶対嫌なことだからあの歌詞にしたんです。あれから時間は過ぎたけれど、気持ち的にはあんまり変わってないですよ。戦争にはもちろん反対なんだけど。これは自分にとっては凄く強い意志なんです。確かに当時結構言われたなっていう印象はありましたけどね。その時の事っていうのは自分が思うように出せたから、それが何のメッセージになるかは置いといて、僕はそれでいいと今でも思っています。
平野:それでいいんだよ。それだけの覚悟があればみんなは馬鹿じゃないから伝わっていくよ。その上で僕はこれからどんな新しいサウンドを持ち込むかどうかのか曽我部さんの岐路に来てるような気がするんですよ。失礼ですけど、僕はサンボにも曽我部さんにも銀杏にも新しい革命的な、これは凄いっていうサウンドを日本のロックに持ち込んだとは思ってないですよ。若い客を巻き込んで一つにする凄いシーンだと認めるけど。それには理由があって、僕はいつも必然的にあなた達ボーカルの立ち位置を元ARBの石橋凌さんや氷室京介さんと比べてしまうんですよ。この前フラワーカンパニーズも見たけどヴォーカルの鈴木くんも歌はいいけど凌と比べると誰もが隣のニイチャンなんだよ。問題はあなた方と言うかロックに一番必要な不良性がないんだよ。石橋凌は俺がロフトを35年続けた中でも、不良性を持った圧倒的な不良スターだった。だからあいつはいろんなヤツらの人生を変えさせるパワーがあったんだけど、あなた達は隣の八百屋でみかん売ってるニイチャンがマイク向けてるとしか思えないという。
曽我部:それはわざとだと思いますよ。峯田くんにしろ、山口くんにしろ。不良だと思いますよ。僕は真面目なんですけど(笑)。石橋凌さんみたいな感じとは違うけど、ある程度の不良性はあるんじゃないかな。
平野:僕の意識はそこにあなた方への違和感があって、僕にとっては今一つ今のシーンを分析しきれてないんだよな。
曽我部:でも言っていただくのはすごい嬉しいですよ。自分の歌とかを聴いた上で、ちゃんと意見を言ってるんだなって思います。それ以上の接点は解らないですけど。
平野:僕と曽我部さんの接点は下北運動を続けることによって深まるんじゃないかな。都が土地買収の強制執行やったらSave the 下北沢代表の金子謙三さんとか曽我部さんとかたぶん体張っちゃうと思うよ。俺は曽我部さんにもその要素を見るわけ。曽我部さんが怒ったらコワイよ。「僕は身の回りのことに精一杯ですよ」なんて言ってるけど、身の回りに下北沢も入ってるでしょ。身の回りを壊された時の曽我部さんの怒りが見たい(笑)。そこで今回俺がsave the 下北沢に提案してるのは都にデモをかけるとか昔ながらのやり方はもういい。出来れば曽我部さんにも賛成してほしいんだけど、300人〜500人集めて、下北中の道路に10メートルおきにキャンドルを持って無言の抵抗を夜にやりたい。クビから看板かけて2時間だけ立ってもらう。何にもしない。私たちの街を壊さないでっていうプラカードをかけて。
曽我部:それは美しいですね! 美しい方が僕は好きですから、何らかの協力はしたいです。この運動は若者に支持されてますから可能だろうし。ただ、どれだけ支持されても結果が大事だと思いますよ。
平野:真面目に運動している若い子達が切れると何するかわからない(笑)。
曽我部:認可が通って道が出来たとしても先の結果があると思うし、それも含めてだと思うんです。自分達がいろんな思いがあって、反対すべきことだと思ってやった事が成就できなかったとしても、その結果から何か生み出されればいいと思うし。もっと大きな視点で見ると10年後20年後より100年後とか、今地球規模でやばいじゃないですか。それに悪い結果が出たとして、人類がそれに対して反省して何か変えていく力があることを信じたいですけどね。
平野:今話していてあなたが面白いのは、CDの中ではメッセージは特に言わない。でもどんなミュージシャンよりやることやるじゃない。これから更に何に向かって突破しようとするのかが知りたいよね。ところで、ニール・ヤングの新作 『LIVING WITH WAR』は聞きました?
曽我部:聞いてないです。
平野:何故この徹底した反ブッシュ、反アメリカのアルバムをニール・ヤングが発表したかと言うと、誰か若いアーティストが作ってくれるのをずっと待っていたけれど、誰もやらない。だから60年代を知っている僕がやるしかないと思って作ったアルバムなんですよね。
曽我部:でも、それはニール・ヤングがカナダ人というのもあるし、何よりアメリカ人は自分達が国を動かしているという気持ちが強いですからね。日本は自分達が政治を動かしているという自覚は持たされない。それは政治家がずる賢い。政治家が真摯な態度ではない。
平野:その若者が動かない原因をあなた方は僕ら全共闘世代の責任にするけど(笑)。
曽我部:責任にしてない(苦笑)。
平野:でもさ〜、日本程若者が絶望的な国って先進国にあまりないと思うよ。俺達の時代は将来頑張れば家が持てたりする時代だったから、ユーミンやかぐや姫のような歌が流行ったわけですよ。でも曽我部さんたちの時代は夢が持てない。俺は経営者やってるから言えるんだけど、今程、資本家が労働者の首切るのが簡単な時代ないもん。働く人間がこれほど軽視される国はないと思う。例えば今の若い子がこれから20年して8千万のマンション持てると思う?
曽我部:難しいですね。
平野:ガキの頃の俺達の夢は、アメリカのホームドラマのように冷蔵庫開ければ牛乳いっぱい入ってる、何てすごい! それが夢だったんですよ。
曽我部:夢の本質も変わってきたんじゃないですか? 家を持つ夢はないけど、それを夢とは思ってないかもしれない。僕は夢を持とうと歌うし、夢を見ていこうと歌うけど、家持とうよではないし。希望とかそういうことなのかな。
平野:だけどかわいい女房と子供を育てて行くというのは夢というか現実そのまんまじゃん。
曽我部:搾取されながらね(笑)。でもみんな知ってはいるから、なんで怒らないのっていう問題はありますよ、確かに。それでも怒ってもしょうがないと思ってる。
平野:それで君らはみんな僕らのせいにする。あんたら失敗したじゃないって。でも俺達は幾つかの重要な問題は止めたよ。若者の反抗で権力者はびびったし、今まで日本は自衛隊は海外に派兵しなかった。最低限数十年は大学の授業料は値上げしなかったよ。平和憲法を捨てようなんて言わなかったし街歩いていて突然警官に鞄の中見せろなんて言われなかった。そんなことしたら若者が反乱起こして怖いから。その時代が終わって君たちの時代になったら全てが権力者のやりたい放題。それを失敗しただけだと言われたらちょっと待てよって言いたいよ。僕らはただケバ棒振ってただけじゃないから。文化運動だってあれだけ盛り上がったし、あの時代こそ大学だけでなくまさに日本のヌーベルバーグですよ。演劇、映画、文学、コミック、ソビエトを先頭とする共産主義の否定。あらゆる文化が過去の抑圧から解放されて花開いていった。オレから言わせたら素晴らしい青春。一瞬だったけど素晴らしい時代だった。毎日俺は興奮していた。あれも読まなくては、これも見なくては、デモにも行かなければって。俺たちはそういう時代を作った。君たちにはまね出来ない。
曽我部:僕は平野さんの時代に比べて、今の時代が落ちているとは思わない。当時のアングラシーンは凄い人数の人が演劇観てるわけでもないけど、ちゃんと成り立った。今は大きな経済的なものしか前面に出てこないんですよ。アンダーグランドは全くお金が動かない。シーンとしてはあるわけです。でもそこは面白いですよ。昔はそこに若者が行ったわけですよ。今は若者はメジャーなものしか見れなくなってる。資本主義が進んで雑誌は表紙も内容も全部お金じゃないですか。それをみんなが読んで、ロックってこんな感じなんだって思うし、テレビもそう。そっちに目がいかないだけで文化はあると思うんですよ。
マイルス・デイビスだったらお互い何が好きかと話題が尽きない二人。近い内に会うことも話し合いつつ………。 |
平野:今不毛なのは本当の意味で若いヤツらが文化に興味がないんだよ。今の若い連中って自分の興味のある事だけは深いわけ。だからオタクなの。でも横の幅がない。生きてるって事は政治があり経済がある事から逃げられない。それを全部外して特撮が好きなやつ、コミックが好きなやつはそれだけはよく知っているけど、後のことはまるで知らない。それだけしか掘り下げないから。例えば今回の芥川賞すごく面白い。でも若いヤツは読まないの?
曽我部:芥川賞はだいぶ前から読まないですけどね。
平野:「あのな〜芥川賞ぐらい読めよ」ってそういった知的な抑圧が君たちには必要な気がする。この映画もこの演劇もこのマンガも読んでないの? それってやばくない? って僕は若い奴に平気で聞いて困らせるの。もっと幅広く色々な知識を吸収すればもっと素敵な充実した青春を送れるのにって思うの。でもそれに対して自分が無知だって思ってヤバイと思う若者はほとんどいない。焦る奴もいない。何言っているのこのおっさんだよね。
曽我部:僕はどっちかって言うと翌日本屋に行くタイプですよ。
平野:僕はね、ロックに絶望して、その横の繋がりがほとんどなくなって断絶した社会に楔を打ちたくってロフトプラスワンを作ったの。同じステージでマルクスを語り次の日AV女優がSMをやる(笑)。政治もエロもオタク何でもごった煮、それが文化だと思う。
曽我部:凄いなって思いますよ。平野さんが1個1個丁寧に場所を作っているのを、僕は傍目で見て、自分のエクスキューズとしては随分年が離れてるしなって思うこともあるけど、自分もそうやって成長していかなければいけないし、何か場を自分なりに作るのが信念ですから。まだその力はないけどそういう風にしていかないとって街を歩いていて思いますよ(笑)。
生きる中の疑問も込めた上でのラブソングを歌いたい
平野:今ソロのレコーディング中だと聞いたけど、どれぐらい進んでるの?
曽我部:早く聴いてもらいたいですね。お客さんを喜ばせるアルバムにしたいと思っているので。今の自分はとっちらかってるけどいろんな面を入れたつもりです。その上で何処をベーシックに置くか最終的な局面に向かってます。
平野:曽我部さんの今持っているテーマ性の問題も重くあるよな。
曽我部:でも基本的にはお客さんが喜んでくれたらいいというのが大きいテーマになってますね。
平野:曽我部さんにとって今の世代の中でオピニオンリーダーとして、次に何をやってどういうふうに取り込めば刺激になっていくかっていうのが今重要な気がするんです。それが楽曲に出ればいいよね。日本の文化は俺が作るっていうくらいのオピニオンリーダーとしての自覚を持つ。その上でラブソングをキチッと歌うのも重要。若い恋人達が一歩前に進むような、一歩前に新しい世界を作れるようなラブソングであって欲しい。
曽我部:生きる中の疑問も込めた上でのラブソングを歌いたいですね。
平野:今日話して楽しかったけれど、曽我部さんって僕のこと知ってたの?
曽我部:ある程度知ってますけど、次はもっとゆっくり飲みながら話したいなって思います。改めて素敵な人だなって。言ってる事が偏ってると思われるところもあるかもしれないけれど、僕は凄い好きなところあります。平野さんの世代って何派何派ってやるけど、でも僕は今はそういう事でもなくて、みんなが混ざり合う世界だしとは思いますね。でもそれは勿論解った上であえて言っていたのも勉強になります。
平野:じゃあ今度飲むときのテーマは下北沢と子供で(笑)。
LIVE
ROSE 27 /CD-ALBUM 2,100yen
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Live info.
9.02(sat) 東京 三宿 Web
<love music "ROSE PARTY" vol.7>
9.09(sat) 栃木 宇都宮HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
<ベリテンライブ2006>
9.10(sun) 東京 東京藝術大学
<藝祭>FREE LIVE!!
9.22(fri) 神奈川 川崎 CLUB CITTA
<ジャイアンナイトSP>
9.23(sat) 東京 渋谷CHELSEA HOTEL
<新井仁 "On the Street" acoustic live tour>
9.30(sat) 東京 下北沢CLUB Que
<1cycle-12spins!!>
ライブ情報等詳しくは→http://www.sokabekeiichi.com/
10月・12月とニューアルバムをリリースする予定。
今回インタビューを行った、下北沢にある曽我部さんのお店info.
CITY COUNTRY CITY
155-0031 世田谷区北沢2-12-13細沢ビル4F
TEL 03-3410-6080
http://ctycntry.exblog.jp/
Save the 下北沢
http://www.stsk.net/
曽我部恵一 OFFICIAL WEB SITE
http://www.sokabekeiichi.com/
ロフト席亭 平野悠から素敵なプレゼントがあります!