ギター 今月のRooftop

SION('10年10月号)

SION

四半世紀にわたり石塊のプライドを胸に培った歌心


 プライヴェート・アルバム『Naked Tracks 3〜今日が昨日の繰り返しでも〜』、ファン投票で選ばれた上位10曲を盟友・松田 文と新たなに録り直した『I GET REQUESTS〜SION with Bun Matsuda〜』、打ち込みを大胆に採り入れた異色ながら出色のシングル『からっぽのZEROから/そして あ・り・が・と・う』と怒濤のリリース・ラッシュに沸くSIONだが、デビュー25周年の大団円を迎えるに相応しいオリジナル・アルバム『燦燦と』の出来映えがまたすこぶる素晴らしい。THE MOGAMIとThe Cat Scratch Comboによる鉄壁のアンサンブルに支えられた滋味豊かな歌の完成度の高さは言うまでもないが、注目すべきは“お祝い盤”と題されたボーナス・ディスク。BRAHMAN、藤井一彦、Ken Yokoyama、花田裕之、SAICOというSIONと親交のある5組がSIONのクラシック・ナンバーに新たな彩りを添えた見事なカヴァーを披露している。また、本編の冒頭を飾る『石塊のプライド』ではSIONを兄貴と慕う福山雅治が作曲として参加、打ちひしがれてもなお歩を進める武骨な男の心情と信条を描いた一曲、いや、逸曲となった。
 今日が昨日の繰り返しでも、明日が今日の繰り返しでも、蹴躓いて叩きつけられても石塊のプライドを胸に秘めてその嗄れた歌声を武器に道なき道を往くSION。50歳を迎え、益々円熟味を増したその歌はまるで傷だらけのダイヤモンドのように燦燦と輝きを放っている。(interview:椎名宗之)


打ち込みを基調とした『からっぽのZEROから』

──デビュー25周年である今年は矢継ぎ早にリリースが続いて、いちファンとしては嬉しい限りです。

S:アルバムだけで3枚も出るなんてね。追い立てられるように先を急いでいるのかな(笑)。

──新曲の着想も沸々とわき上がってくる状態なんでしょうか。

S:新しい曲自体は『Naked Tracks 3』で一度出してるからね。今まではオリジナル・アルバムが出た後に『Naked Tracks』を作っていたけど、今度はそれが逆になったから、それほど新しい曲がいっぱいってわけでもないんだよ。『Naked Tracks 3』をまだ聴いていない人には今度のアルバムはすべて新曲として聴いてもらえるだろうけど。

──でも、我々ファンは宅録とバンドの違いの妙味を楽しめるし、同じ曲でもどれも新曲であることに変わりはないですよ。

S:そう言ってもらえると、この異常な残暑も忘れられるね(笑)。

──『Naked Tracks』があれば、MOGAMIやCat Scratch Combo(以下、CSC)のメンバーに「こんな感じ」と曲の提示がしやすいですよね。

S:雰囲気は伝わりやすいだろうね。

──それにしても、先行シングルの『からっぽのZEROから/そして あ・り・が・と・う』は打ち込みを基調としたデジタル・サウンドという異色の仕上がりで、とても面白い試みでしたね。

S:「面白いね」って言ってくれる人もいれば、「どうしたの!?」って言う人もいるかもしれないね(笑)。

──プロデュースは、SIONさんたっての希望でグーフィ森さんにお願いしたそうですね。

S:うん。5年前、俺がちょっと休んでる時に福山(雅治)が「兄さん、仕事しましょうよ」って力を貸してくれたのが『たまには自分を褒めてやろう』(“SIONと福山雅治”名義のシングル)だったんだけど、その時のプロデュースがグーフィさんだったんだよ。昔、“イカ天”でグーフィさんが審査員をやってるのを見て、「人の歌にガタガタ文句を言いやがって」なんて思ってイヤだったんだけどね(笑)。でも、一緒に仕事をさせてもらったら音楽に向かう姿勢がとても真摯で、その仕事ぶりが凄く良かった。今は病気を患って思うように動けないって聞いていたんだけど、プロデュースを頼むだけ頼んでみたら引き受けてくれることになってね。ただ、実際のレコーディング現場に立ち会うことはできなくて、音を聴いていろいろと判断してもらう感じだったんだけど、グーフィさんが引き受けてくれるなら俺は唄うだけで久々に丸投げしようと思った。煮るなり焼くなり、どうなってもいいですよと。グーフィさんの中ではいろんなアイディアがあったみたいなんだけど、最終的にはロスで活動している富田(素弘)さんにアレンジをお願いすることになってね。富田さんがあのトラックを作ってくれたんだよ。

──藤井フミヤさんの『Another Orion』や福山さんの『桜坂』のアレンジャーとしても有名な方ですね。

S:その富田さんがまた面白い人でね。日本でも充分音楽の仕事がやれていたのに、40代の後半になっていきなりロスに活動の場を移したらしいんだよ。その富田さんが作ったトラックに俺が唄うだけっていうスタイルだったね、今回のシングルは。

──確か、静岡まで足を運んで歌録りをしていましたよね。

S:浜松に富田さんが所有するスタジオがあってね。小鳥がチュンチュン鳴くようなのどかな場所でさ(笑)。ミックスから何から全部お任せだったんだけど、不思議としっくり来るもんだね。グーフィさんとは「これまでSIONのことを知らなかった人にも聴いてもらえたらいいね」「そうですね」って話をしていて、「じゃあ、まずジャケットから顔を消そうか」なんて言われたんだけど(笑)。



『そして あ・り・が・と・う』はグーフィ森に捧げた

──従来にない音作りはやはり新鮮でしたか。

S:うん。“この人はこうやって音を作るのか”とか“こういう機材を使うんだ”っていう発見もあって面白かった。『Naked Tracks』を作るようになって、自分でもそういうエンジニア的な事柄がちょっとだけ判るようになったからね。あと、富田さんの頑固な音作りにも感心した。レーベルのスタッフが会議の時に「テンポを2つくらい落としますか?」って話したら、「僕はそういう仕事のやり方をしていないし、自分がいいと思ったことをやるだけです」って毅然と言い放ったのを聞いて、“いいぞ! いいぞ!”って思ってさ(笑)。

──25年間の感謝の気持ちと26年目以降の新たな決意みたいなものがシングルの2曲には凝縮されていますね。

S:ドーム・ツアーやらアリーナ・ツアーやらをやってるわけでもないのに、年末の最後のライヴが終わるとゼロになるわけだよ(笑)。“この先、俺はどうなるんだろう?”ってからっぽになる。でも、やがて“また始めなくちゃな”って思い直す。『からっぽのZEROから』はそういう気持ちを歌にした。『そして あ・り・が・と・う』のほうは「“ありがとう”っていう感謝の気持ちを込めた歌を書いて欲しい」というグーフィさんのリクエストでグーフィさんのために書いた歌なんだよ。俺としては、2曲で1曲になるように繋がりを持たせたつもりなんだ。

──どちらもSIONさんからリスナーに向けた温かい“けっぱれソング”のようにも思えますね。

S:男の子女の子から応援されてもしょうがないけど、50のお兄さんが言うぶんにはいいじゃない?(笑)

──“おじさん”ではなく“お兄さん”が(笑)。松田 文さんとこしらえたリクエスト・アルバムの後に意欲的なシングルを発表するという攻めの姿勢が凄くいいなと思って。

S:あの松田さんとのレコーディングも面白かったね。あれだけ一緒にツアーを回ってるのに打ち上げとかでほとんど話をしていなかったし、いろいろ話せて楽しかった。昔、22〜23の頃にデモ・テープを渡して松田さんがあれやこれややるのを思い出したね。ブースのヘッドフォンがズレそうになってるのを見て“歳取ったなぁ…”って思ったりしながら(笑)。でもやっぱり、松田さんは素晴らしいギタリストだよ。特に『通報されるくらいに』は凄く格好良かった。あの人はMOGAMIの時も同録をした後にソロを録ったらハイ終わりみたいな感じなんだけど、今回2人で録った時は時間を一切気にしないで重ねてもらうことにした。人それぞれにレコーディングの音作りがあって、それを見れて面白かったね。(藤井)一彦は一彦のダビングのやり方があるし、最近はそういうのを見るのが好きなんだよ。

──文さんと一彦さんの違いというのは?

S:昔は“これ、どうしようかな?”って困った曲は松田さんに頼んでた。ザクザク刻んだり、カーン!と行くような曲は一彦。そういう曲が出来た時は“これは一彦だな”って思うんだけど、最近はそれをわざと松田さんに頼んでみたりすることもある。魚に関しては最初から“これは魚しかない”って感じだね。あれはもう、もの凄い世界だから(笑)。

──『燦燦と』に収録された『自分の胸は自分ではうまく温められない』は魚さんがあらゆる鍵盤楽器とギター、ベースまでをこなす一人八役状態で、荘厳なムードすら漂っていますよね。「魚のアコーディオンで飯3合は食える」というSIONさんの気持ちもよく理解できます(笑)。

S:違う世界に吸い取られていくようだね(笑)。あの曲はエンディングだけで3分近くあるけど、魚が弾くなら俺は40分あってもいいと思うくらい(笑)。魚とは生き方がまるで違うはずなのに、俺の歌に対する魚の解釈の仕方が凄く嬉しくてね。言葉では上手く伝えられない部分を言い当ててくれて、思わずブルッと震えてしまう。いつか魚と2人でアルバムを作るのも面白いだろうね。ヨーロッパ辺りで大変な評価を貰えそうな気がする(笑)。

──前作の『お前がいなけりゃ』もそうでしたが、魚さんはSIONさんの歌の世界を色鮮やかに染め上げてくれますね。それを言ったら他のMOGAMIのメンバーもCSCのメンバーも皆そうですが。

S:うん。特に魚はある一ヶ所を深く掘り下げてくれるからね。あいつはやっぱり凄いよ。




5年振りの福山雅治とのコラボレーション

──『からっぽのZEROから』と『燦燦と』が古巣のBAIDISからリリースされるのも25周年のお祝い感がある気がしますね。

S:久々に顔を出したら、昔いた人がいたねぇ。みんな50を過ぎて、あの頃よりも偉くなってるわけじゃない? 俺だけがヒラのままか…って思ったけど(笑)。昔、BAIDISでお世話になった人がテイチクに戻って、「今は自分たちで出したほうが条件的にはいいかもしれないけど、それでも良かったら1枚出さないか?」って声を掛けてくれて、また一緒にやることにしたんだよ。

──『燦燦と』に関しては伺いたいことが多すぎて困るんですが、まずSIONさんが一度着てみたかったという衣装をあしらったジャケットが目を引きますよね。

S:ジャケットはシングルと同時に進行していて、ほぼ完成していたんだけど、25周年記念アルバムにしてはちょっと暗いイメージだったんだよね。それでもう一回撮り直そうかなと。「どういう感じがいい?」って訊かれたから、「燕尾服ば着る」って言ってさ(笑)。それなら25周年って書かなくてもおめでたい感じが出ると思ったのと、単純に面白いだろうと(笑)。俺が着ると、トップハットの中からハトかヒヨコが出てきそうだけど(笑)。

──そのゴージャスな出で立ちに負けず劣らずの豪華ゲスト陣が『燦燦と』には参加されていますが、冒頭の『石塊(いしくれ)のプライド』は福山雅治さんが作曲を手掛けた共作曲ということで。

S:今回は親交のあるミュージシャンに俺の歌をカヴァーしてもらう“お祝い盤”っていうボーナス・ディスクとの2枚組のアルバムなんだけど、その時「俺が作曲した曲に詞を付けてもらうのはどうですか?」って福山のアイデアで、NHKまで打ち合わせに行ったんだよ。撮影の空き時間だったから、龍馬のまんまの格好でさ(笑)。「街も電車も、ビールやら液晶テレビやら福山の広告ばかりで不愉快だ(笑)」なんて話をして、仕事の話はほとんどしなかったけどね(笑)。その時に出来てる音を渡されたんだけど、おたまじゃくしに歌詞を一個一個乗せていく作業はやったことがなかったから、「ピッタシはできんと思うけど、それでも良かかね?」みたいな話をして、何回かやり取りをして仕上げた。

──歌のテーマは福山さんからリクエストがあったんですか。

S:打ち合わせの時に福山に訊いてみたんだけど、『たまには自分を褒めてやろう』の時の復讐なのか、「お任せします」って言いやがってさ(笑)。5年前は俺が福山に丸投げだったからね。お互いに唄うことになってたから、最初はちょっと気を遣ってもっと柔らかい歌詞だったんだよ。でも、福山から「そんなに気を遣わないでいいんですけど…」って言われて書き直したのを送ったら、「これは今まで唄ったことのない歌詞だし、俺は大好きです」って言ってくれてね。

──石塊のプライドを携えながら踏み締めてきたSIONさんの25年間の足取りを描いたような歌詞ですね。

S:これは俺のことでもあり、福山もこうだったと思うんだよね。福山は凄いことになってるから、売れない時期もほとんどなく頂点に登り詰めたと思われがちだけど、あいつにもいろいろあったわけで。それでも今は、自分のことを石塊だなんて書けないわけだよ。でも、あいつも思いは同じだと思うし、歌詞の内容は福山も俺も共通するところがあるはずなんだ。

──最初からおでこをひっつき合わせて共作したかのように詞とメロディの一体感がありますよね。

S:まぁ、あいつとは顔も足の長さもちょっとしか変わらないからね(笑)。いやいや、全然違うやないか! って話だけど(笑)。それはともかく、福山はやっぱり凄いと思うよ。ああいう厳しい世界にいる以上、常に一等を獲ってなきゃいけないわけだからね。俺は『勝たなくていいのさ』なんて唄ってるけど、あいつはそうもいかないし、背負ってるものも大きい。それを表には出さずにニッコリ笑ってドッシリ構えて、“格好いいな、お前”って思う。まぁ、俺よりもちょっとだけね(笑)。



『街は今日も雨さ』のフレーズを入れた『燦燦と』

──『Naked Tracks 3』のナンバーも5曲収録されていますが、バンド形態にするにあたって気を留めた点はどんなところですか。

S:一人でやるにはいろいろと限界があって、バッチリとリズムが入っていたらホントはこうしたかったっていう最初の理想に近付けるんだよ。『Naked Tracks』ではこういう表現しかできなかったけど、実はこう唄いたかったっていうのを一彦に伝えると、「合点だ!」って応えてくれる。だから何の心配もなかった。一彦が弾くギター・フレーズひとつを取っても、とにかくグッと来るんだよね。『カラスとビール』のダーンダダンダンダンっていうフレーズを聴いただけで万歳したくなったしさ(笑)。最初に『カラスとビール』のアレンジを始めた時は、トム・ウェイツの『レイン・ドッグ』で弾いてるマーク・リボーの音みたいになったらしくて、それはそれで聴いてみたかったけど、最終的には「やっぱ俺はこれ」とキメてくれた。素晴らしいよ。

──『Naked Tracks 3』ではボブ・ディランの『サブタレニアン・ホームシック・ブルース』的な趣きがあった『カラスとビール』は軽快なドライヴ感が出たし、『狂い花を胸に』はエモーショナルな度合いが格段に増したし、やはり一彦さんは只者じゃないですね。

S:うん、只者じゃない。今まで松田さんに潰されてきたギタリストが何人もいたけど、あいつだけは潰れなかったからね(笑)。

──CSC仕様の『からっぽのZEROから』はアイリッシュ・トラッド調に変化しましたが、これは魚さんのアコーディオンに負うところが大きいですね。

S:そうだね。『からっぽのZEROから』も『そして あ・り・が・と・う』も、バンド・アレンジが入ることでシングルの打ち込みヴァージョンが活きる補完作用があると思う。

──バンド仕様になって一番化けたのは、何と言ってもタイトル・トラックの『燦燦と』ですよね。『Naked Tracks 3』での繊細な感じも良かったんですが、MOGAMIの鉄壁のアンサンブルによって壮大さと奥深さが桁違いに増したのを痛感しました。

S:“今日が昨日の繰り返しでも/明日が今日の繰り返しでも”っていう『街は今日も雨さ』のフレーズを最後に入れてなかったら、また違ったのかもしれない。『Naked Tracks 3』を作っている時に一度マスタリングをしたんだけど、1曲を直すことになったんだ。その曲の直しの作業が全部終わったのに、『燦燦と』にそのフレーズをどうしても入れたくなってね。機材もほとんどしまったのに、最後の最後でその部分を足したんだよ。それをやったことで『燦燦と』という曲が俺の中で大きくなったんだよね。

──『Naked Tracks 3』のサブタイトルも“今日が昨日の繰り返しでも”だったし、『街は今日も雨さ』は25年前に発表されたデビュー・アルバム『新宿の片隅で』の1曲目だったし、不思議な巡り合わせみたいなものを感じますね。

S:繋がりを感じるね。今回は『燦燦と』が一番の核となる曲だったし、『Naked Tracks 3』を完成させた時点で次のアルバムでも大事な曲になるだろうと思った。やっぱり、50になった今は気持ちだけでも“燦燦と”していたいんだよ。「もうアカン」だなんて言っていられない。ホントにそっちのほうへ気持ちが傾いちゃうからさ。今こそ「何てことないね!」っていう非常用の空元気が必要なんだ(笑)。

──愛くるしい小品『ちいさな君の手は』の歌詞にあるように、“やりたいことができなくなっても/やれることはまだあるさ”という。

S:あるよ。絶対にある。それまでのからっぽの時間は短いほうがいいんだけど、やれることがまだまだあると信じて、お天道様に向かって「おはよう!」って言うわけだ(笑)。



“お祝い盤”に参加してくれた5組にはただただ感謝

──ボーナス・ディスクの“お祝い盤”ではSIONさんと親交のあるBRAHMAN、一彦さん、Ken Yokoyamaさん、花田裕之さん、SAICOさんがそれぞれ個性の立ったカヴァーを披露していますね。

S:それほど濃密な付き合いがあるわけじゃないんだけど、その距離感で俺が好きなミュージシャンに何人か声を掛けてみた。みんな快く引き受けてくれて、凄く嬉しかったよ。

──SIONさんもできる限りレコーディングに立ち会ったんですか。

S:いや、立ち会ったのは花田とSAICOだけだった。でも、どれもとにかく素晴らしい出来だよね。Kenの『がんばれがんばれ』は最後に「ボク大丈夫だよ」っていう子供の声が入っていて、とても可愛らしい。BRAHMANの『俺の声』は「アレンジ、ちょっとやりすぎましたかね?」って訊かれたんだけど、「いやいや、こうでなくちゃイカンよ」って答えた。TOSHI-LOWは面白いヤツで、「東京には行けないから見に来た!」って突然名古屋のライヴハウスまで来てくれたりするんだよ。一彦は自慢の自宅のスタジオで『調子はどうだい』を録ってくれた。花田の『SORRY BABY』はやっぱり格好いいんだね。シャキッとしたジョニー・サンダースみたいで(笑)、歌の所々に狂気が出てくる。SAICOはしばらく音楽から離れていたみたいなんだけど、『早く帰ろう』には心が洗われたね。掛け値無しに素晴らしい。

──『早く帰ろう』はアレンジも秀逸だし、女性の声で聴くSIONさんの歌というのがとても新鮮でしたね。

S:SAICOと花田は現場に立ち会ったからアドバイスを求められることもあったんだけど、この“お祝い盤”はみんなが思うようにやってもらう企画だから、俺があれこれ口出すことはしたくなかったんだよね。SAICOもいろいろとアイディアを考えてきてくれて、唄い終わった後に「実はコーラスをちょっと考えてみたんですけど…」って言うから、「是非やりましょう」って思うようにやってもらった。とにかくこの5組には大感謝だよ。自分の曲云々じゃなく、その人の曲として聴いて純粋に楽しめた。BRAHMANの『俺の声』はちゃんとTOSHI-LOWの歌になってるし、それは5組とも同じだね。ただ単純に嬉しいっていう気持ちと感謝の心だけだよ。

──SIONさんの歌声はワン&オンリーだし、他の人が唄っても成立しないと僕は考えていたんですけど、この5曲を聴いて実は凄く普遍性の高い歌なんだなと考えを改めたんですよね。

S:カラオケをいっぱい作るから唄ってよ(笑)。

──物真似になっちゃいますよ(笑)。でも、この5組はオリジナルを咀嚼して完全に自分の歌として昇華させているし、その歌を聴くとSIONさんの紡ぎ出すメロディが如何にポピュラリティが高いかを思い知ったんですよ。

S:そんなに複雑なコード進行ができないからね(笑)。だから判りやすいメロディになるんじゃないかな。基本的にポップなメロディは好きだし、そういう曲作りは25年間一貫したことかもしれない。

──『Naked Tracks』を自ら作り始めたことでレコーディングの手法に開眼したり、四半世紀のキャリアを積んでもまだ新たな発見があることは素敵なことですよね。またひとつ成長できて、それが糧となるわけですから。

S:『Naked Tracks』を作るようになったことは大きいね。ホントにやって良かったと思う。レコーディングの最中でもミックスの時でも、エンジニアが座ってる体で音を聴いてもよく判らないことが実はあったんだけど、自分で録ってみるとそれがだんだん判ってくるんだよね。それが判っただけでも『Naked Tracks』をやって良かった。



勝たなくていいけど、降参したらそこでオシマイ

──50代のスタートをいい塩梅で迎えられた手応えもあるのでは?

S:そうだね。ただ、今のところ“もう50だってよ”みたいな歌しか出来てないからさ(笑)。50になるまでは凄く早かったから、この調子で60代が走ってくるとかなわんよ。やっとバカボンのパパと同い年(41歳)になったと思ったらあっと言う間に50だし、ホントに早い。20代の頃は何をやっても若造扱いだから早く30代になりたいと思ったし、タモリさんが「40からは早い。向こうから走ってくるから」って話してるのを聞いて“そんなもんかね?”と思っていたけど、実際そんなもんだね(笑)。20代は、スマッシュの日高(正博)さんに会った時やデビューすることになって六本木のスタジオに呼ばれた時、野音の“アトミック・カフェ”に出た時とか象徴的なシーンがポンポン浮かぶんだけど、そういう記憶の残像が30代は少ないんだよ。

──SIONさんの歌はデビュー当初から大人びていたし、30代半ば以降になって歌の世界観がやっと身の丈に合ってきたんじゃないですか。

S:10代の頃にブルースが好きな人って、ガチガチにシブい歌を唄いたがるでしょう? 俺はそういうことから離れてたけど、あまりシブくなりすぎると行き場がなくなるんだよね。俺がポーッとしてたから良かったのか、どんどん幼児化が進んできたから良かったのかは判らないけど(笑)、俺は身の丈に合った歌しか唄ってこなかったのが良かったんだろうね。背伸びばかりしてたら保たんでしょ。

──理不尽な物事に対する怒りを発露とした『住人〜Jyunin〜』のような作品も近年はありましたが、ここ数年のSIONさんは川の流れに身を任せるようにしなやかで穏やかな姿勢で喜怒哀楽を大らかに唄うようになってきたのを感じますね。

S:若い頃は揉め事の多い場所へわざと出向いてドンパチしたことを探していたけど、そこでケンカして殴っても殴られても痛いだけなのが今は判るし、自分が正気を保てて楽しい場所以外にはできるだけ行かないようにしてる部分はあるね。殻に閉じ籠もってるわけじゃなくて、ムリして悲しみを拾い集めるつもりはもうとっくにないし、数少ない喜びを大切に抱きしめたいんだよ(笑)。自分がやりたいと思うことをやれて、好きなように唄える状態ではいたいよね。

──SIONさんにとっては歌だけが唯一飽きずにやってこれたことなんでしょうね。

S:音楽がなかったら面白味のない人生だっただろうね。言うほど艶っぽいこともないしさ(笑)。若い女の子と口をきくには道を訊くしかないのかな? とか思うし(笑)。

──若いミュージシャンとの共演も増えたし、そこからなにがしかをフィードバックすることもありますか。

S:俺がもともと幼稚なのかも判らんけど、KenやTOSHI-LOW、一彦なんかと接してても横にいるような感覚だけどね。昔から無闇に威張る先輩が好きじゃなかったから、自分が歳を取ったら下の子たちに威張り散らすようなことはしたくないと思ってた。だから、対バンで一緒になった若いバンドの子たちにも「よろすくね!」って愛想を振りまいてるよ、お兄さんとして(笑)。しかめっ面した態度で自分の存在を彼らに誇示するんじゃなく、唄って判らせたいよね。音を出して唄ってみたら“こういうことです”っていうふうにさ。

──25年前と打って変わって、諸先輩方の後ろ姿を追う側から後進に追われる立場になったんじゃないかと思いますが。

S:いや、誰からも追われてないよ。音楽は結局、たった一人の駆けっこだからね。『石塊のプライド』でも唄ってるけど、自分の影を抜いたり抜かれたりの繰り返しなんだよ。音楽は一人ぼっちの闘いだし、最大の敵はいつだって自分自身なんだね。勝たなくていいけど、降参したらそこでオシマイ。だから今もこうしてエッサホラサで走るしかない。その日一番の高いジャンプを目指して全力でけっぱるしかないんだよ。途中で放り出したり、“もっと高く跳べたのに”ってところで終わらないようにやることが今日のすべてなんだからさ。



DEBUT 25th ANNIVERSARY ALBUM
燦燦と

[DISC-1:オリジナル盤]
01. 石塊のプライド[作詞:SION/作曲:福山雅治/編曲:松田 文]
02. 勝たなくていいのさ[作詞・作曲:SION/編曲:松田 文]
03. 自分の胸は自分ではうまく温められない[作詞・作曲:SION/編曲:細海 魚]
04. からっぽのZEROから(SION & The Cat Scratch Combo Ver.)[作詞・作曲:SION/編曲:藤井一彦]
05. 狂い花を胸に[作詞・作曲:SION/編曲:藤井一彦]
06. そして あ・り・が・と・う(SION with THE MOGAMI Ver.)[作詞・作曲:SION/編曲:松田 文]
07. カラスとビール[作詞・作曲:SION/編曲:藤井一彦]
08. どんなに離れてたって傍にいるから[作詞・作曲:SION/編曲:藤井一彦]
09. ちいさな君の手は[作詞・作曲:SION/編曲:松田 文]
10. 燦燦と[作詞・作曲:SION/編曲:松田 文]
[DISC-2:お祝い盤]
01. 俺の声/BRAHMAN
02. 調子はどうだい/藤井一彦
03. がんばれがんばれ/Ken Yokoyama
04. SORRY BABY/花田裕之
05. 早く帰ろう/SAICO
BAIDIS / TEICHIKU ENTERTAINMENT TECI-1289〜1290
3,500yen (tax in)
2010.10.20 IN STORES

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DEBUT 25th ANNIVERSARY SINGLE
からっぽのZEROから/そして あ・り・が・と・う

01. からっぽのZEROから[作詞・作曲:SION/編曲:富田素弘]
02. そしてあ・り・が・と・う[作詞・作曲:SION/編曲:富田素弘]
03. からっぽのZEROから(Instrumental)
04. そしてあ・り・が・と・う(Instrumental)
BAIDIS / TEICHIKU ENTERTAINMENT TECI-224
1,000yen (tax in)
IN STORES NOW

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ファン投票による新録アコースティック・アルバム
I GET REQUESTS 〜SION with Bun Matsuda〜

on and on / BUG Music Inc. UGCA-9001
3,150yen (tax in) *タワーレコード、及びタワーレコードオンライン特別先行販売中
UGCA-1031 / 3,150yen (tax in) *2010.10.20 一般発売

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宅録盤第3弾
Naked Tracks 3 〜今日が昨日の繰り返しでも〜

SION-0003 / 3,500yen (tax in)
*インターネット通信販売、及びライヴ会場のみの限定販売アルバム
*詳細は、SION オフィシャルホームページをご覧ください。


Live info.

DEBUT 25th ANNIVERSARY ALBUM『燦燦と』発売記念LIVE
SION-YAON 2010

出演:SION with THE MOGAMI(松田 文/池畑潤二/井上富雄/細海 魚/藤井一彦)
2010年10月23日(土)日比谷野外大音楽堂
OPEN 17:30/START 18:00 *雨天決行
料金:¥5,500(税込)
*学割:高校生まで当日学生証提示で¥1,500返金
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999

SION アコースティックLive 2010 〜SION with Bun Matsuda〜
11月23日(火・祝)札幌 BASSIE HALL
11月27日(土)福岡 DRUM Be-1
11月29日(月)山口 LIVE rise SHUNAN
12月2日(木)大阪 umeda AKASO
12月8日(水)京都 磔磔
12月9日(木)名古屋 アポロシアター
12月11日(土)長野 ライブハウスJ
12月13日(月)浜松 窓枠
12月15日(水)仙台 CLUB JUNK BOX
12月18日(土)東京 UNIT
料金:前売¥5,000/当日¥5,500(税込・共に別途ドリンク代有り)

SION OFFICAL HOMEPAGE
http://www.bug-corp.com/bug/SION/top.html

SION Blog
http://SION.livedoor.biz/

SION TEICHIKU HOMEPAGE
http://www.teichiku.co.jp/artist/SION/

SION MySpace
http://www.myspace.com/SIONofficial

タワーレコード SION 25th 特設ページ
http://tower.jp/sion25th

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