ギター バックナンバー

中島卓偉('10年7月号)

中島卓偉

それでも“明日への階段”を登り続ける頑強な意志、
破壊と創造を繰り返すイノヴェーターの強靱な覚悟


 昨年、『ULTRA SLACKER』と題された2枚のフル・アルバムとベスト・アルバムを発表することでデビュー10周年を華々しく総括した中島卓偉。3年半振りとなるシングル『明日への階段』は彼の音楽人生がこの先の10年もまた実り多きものになることを予感させる作品であり、今がまさにセカンド・ステージへの過渡期であることを雄弁に物語っている。辛酸を舐めつつも歩を緩めず今日を明日へと繋ぐタイトル・トラックは、逞しいバンド・アンサンブルと荘厳なストリングス・カルテットが有機的に絡み合ったスタンダード性の高いナンバー。この妙味に富んだ楽曲を筆頭に、カップリング曲はいずれも決して一筋縄では行かない創意工夫を凝らしたものばかりだ。ありとあらゆる音楽的素養を貪欲に呑み込み、咀嚼し、血肉化させる破壊的創造者、中島卓偉にしか成し得ないハイブリッドな音楽性がいよいよ円熟期に突入したと言っていいだろう。文化の十字路をたった一人で体現する彼の思考体系に迫った1万字インタビューをここに謹んでお届けする。(interview:椎名宗之)


人生を身近にある“階段”に喩えた

──デビュー11年目の始まりを飾るに相応しいシングルが完成しましたね。

T:そうですね。シングルで行きたい気持ちがまずあったので、表題曲の歌詞が凄く重要だと思ったんですよ。自分なりの人生論と言うか、31年間生きてきた中で自分が蓄積してきたものを歌詞として表現したかったんです。

──ポップ・ミュージックの中に自身の哲学を噛み砕いて表現するのは至難の業だったんじゃないですか?

T:歌詞はとにかく時間が掛かりましたね。4ヶ月くらい答えが出なくて。歌詞に答えも正解もないんですけど、自分が納得できるラインにどうしても辿り着けなかった。今後の活動を見据えた時にターニング・ポイントとなる曲にしたかったし、それを考えると余計に深みにハマってしまって。でも、結果的には仕上がりに凄く満足していますね。今までは聴く人に共感してもらいたい気持ちが大きかったんですけど、今回は自分自身の気持ちや伝えたいことを優先させて歌詞を書き上げたんです。

──沸々と湧き起こる思いや人生のメタファーとして“階段”が象徴的に描かれていますね。

T:“道”と喩える人もいるでしょう。ビートルズなら『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』ですよね。船乗りなら“航海”かもしれない。僕の場合は、地に足を着けて踏み締めながら登っていく“階段”が一番しっくり来たんですよ。階段は降りることもできるし、途中で休むこともできる。身近なものでありながら深いなと思って。

──「誰にも本当のことを言えないまま/何でごまかしてんだろう 笑いながら」という冒頭のフレーズは普段の卓偉さんと重なる部分がありますよね。九州男児らしい武骨な男らしさがある一方で他者への気遣いが半端じゃないし、本当のことをなかなか言えない性格なんじゃないかなと。

T:よくご存知で(笑)。本当のことを言えない自分自身の真実なんですね。たとえば、採血をする時に注射針が血管まで届かないもどかしさみたいなものが僕には常にあるんです。人間、生きていればそんな場面に遭遇することが多々あると思うんですよ。サッカーで言えば、相手チームの選手が審判の見えないところでフェアじゃないプレイをするとか。でも、こっちは「相手に爪先でスネを蹴られて走れなかった」とは言えない。男らしくないですからね。全部を説明すれば理解されることであっても、「そこまで説明するなよ、男らしくねぇな」と言われるような世の中だし、そういうもどかしさは歌詞にできるなと思ったんですよね。僕にもステージ上で言えないこと、歌詞にも書けないことはありますよ。それを全部吐き出してしまえばリアリティはあるのかもしれないけど、そこまで行かないギリギリの線で人の心に届く普遍的な歌にしたいんです。

──躍動的なバンド・サウンドと雄大なストリングス・アレンジが楽曲を盛り上げる良い相乗効果を生み出しているのが見事ですね。

T:今回は生の弦で録ったんですけど、弦のアレンジをするならドラムもベースもシンプルなほうがいいと思ったんですよね。ホントは全部歌詞を書き終えてから弦のアレンジをしたかったんですけど、歌詞に煮詰まって弦が僕の歌詞を追い越してしまったんです。でも、歌詞のイメージはすでにあったので、それに従って弦をアレンジしたのが逆に良かったのかなと思って。出来たオケを聴きながら作詞に入れたので。あの何とも言えないもの悲しさのある弦から引き出された言葉だと思います。

──本作の収録曲はどれも完膚無きまでのバンド・サウンドで、セルフ・プロデュースということもあるのか、卓偉さん本来の持ち味が潔くストレートに出ていますよね。

T:今までいろんな方々とタッグを組んできて、いろんな手法を学んできたんですよね。誰かの畑にお邪魔して、アドバイスを受けながらいろんな作物を耕しつつ、どんなふうに実るのかを勉強できました。肥料や水の分量も学べましたし。その手法をそろそろ自分に置き換えてみる時かなと思ったんですよ。自分ならこんな育て方にしたいという、自分ありきのレコーディングにしたんです。



あらゆるものをブチ壊したクラッシュ

──『風穴メモリー』はハードコアの性急なリズムと広がりのあるポップなメロディが無理なく共存したナンバーで、パンクだけに留まらず、ポップだけでは解釈し得ないこの種の楽曲に卓偉さんの資質がよく出ているように感じますね。

T:僕はもともとパンクから入っているのでハードコアも大好きだったし、10代の頃に組んでいたバンドではそういう音楽もやっていたんですけど、それを捨てたわけじゃないんですよ。ハードコアは自分がこれまでに蓄積したもののひとつであって、今もちゃんと引き出しになっているんです。ただ、ハードコア一辺倒の人にはこういう試みが理解されづらいんですよね。僕は高円寺や下北沢に住んでいるパンクスに負けないくらいハードコアの論議ができるんですけど(笑)。

──ハードコア一辺倒は狭義な世界だし、閉塞感があるじゃないですか。ポップなフィールドという大海の中でハードコアのスタンスで斬り込んでいく卓偉さんみたいな人が僕は格好いいと思います。

T:やっぱり、ザ・クラッシュの在り方が僕のお手本なんですよね。子供の頃に聴き始めた時はとっくに解散していましたけど、そのぶんバンドの歩みを俯瞰できたんです。結局、クラッシュは一貫してクラッシュだったんですよ、ミック・ジョーンズが抜けても。自分たちに必要なアティテュードはバンド名だけで、あらゆるものをブチ壊すからこそクラッシュなんです。だからいろんな音楽的要素を採り入れて変化し続けていった。でも、ライヴではオーディエンスが好きな曲をちゃんとやる。僕はその姿勢に大いに賛同しますね。音楽的なジャンルなんてどうでもいいんです。ジャンル分けにこだわっていること自体がナンセンスだし、ルールのないレコーディングを今回は試みたんですよ。何かを壊さないと新しいものは生まれないし、人のやっていないことにトライしなくちゃいけないし、“これでいいかな”と満足した時点で歯車が回らなくなるんです。そういうトライアルを含め、自分の殻を壊すレコーディングにしたかったんですよね。

──『風穴メモリー』でのミクスチャー感覚は、個人的にレピッシュに通じるものを感じたんですよね。

T:『風穴メモリー』にホーン・セクションを入れたらレピッシュっぽくなるだろうし、フィドルとかを入れたらアイリッシュ・パンクみたいになるでしょうね。楽器を2つ、3つ入れ替えるだけでそういう匂いになるんですよ。それは言い換えれば、パンクもスカもアイリッシュも同じサッカー・チームのメンバーみたいなものだということです。どれも11人の中の1人のはずなのに、ひとつのジャンルしか愛せない、心を開けないのはもったいないなと思うんですよね。

──凄くよく判ります。掛け合わせの妙を楽しめたほうが視野は確実に広がりますしね。

T:それを体現していたのがクラッシュなんですよ。古い発想だとその掛け合わせが素直に楽しめないし、現状で満足してしまう。僕の場合、作品を完成させるたびに達成感はあるんですけど、“ホントにこれでいいのか? まだやり残したことがあるんじゃないか?”と語り掛けてくるもう1人の自分がいるんですよ。

──『すてちまえよ』もラウド・ロック系の重厚なギター・リフとOiパンクの疾走感が融合したユニークな楽曲ですね。

T:あの曲のリフはヘヴィに聴こえるかもしれませんけど、小難しいことは何もやってないんですよ。オープンで全部弾けるチューニングで、シンプルであることが僕にとっては常に大前提なんです。自分なりにパンク寄りのアレンジにしましたけど、「この曲はパンクだから」と限定するのではなく、聴いた人の中でパンクのエッセンスが響けばそれで充分なんですよね。またクラッシュの話になりますけど、パンクが出発点だった彼らもスカやレゲエの発症の地であるジャマイカまでレコーディングをしに行きましたよね。それはつまり、パンクのルーツを辿ればブラック・ミュージックに行き着くことを体現しているわけです。そのクラッシュのアティテュードをパンクスが受け継いでいないのはおかしいと僕は思う。

──要するに、パンクの表層的な部分しかなぞっていないんでしょうね。

T:そうなんですよ。音楽を楽しむ上で、それが残念でならないんです。僕は新しい音楽的要素を採り入れつつ、自分のルーツにあるものを活かした曲を作りたいだけなんですよ。毎回思っているのはそれだけです。



卓偉流“二八そばの論理”について

──ひとつのジャンルに固執する人はしたり顔でうんちくを語りたがりますけど、卓偉さんはあらゆるジャンルに精通しているのに声高に語ることがないし、楽曲の中に様々な音楽的要素をさり気なく盛り込むのがいつも粋だなと思うんですよ。

T:人類皆兄弟という言葉があるように、どの音楽も皆どこかで繋がっているし、僕には今のスタイルがごく自然なんです。この間、東京タワーでラジオの公開生放送をやったんですけど、その時にファッションのテーマを訊かれたんです。全身黒ずくめだったので「ジョニー・キャッシュです」と答えたんですけど、「何ですか、それ?」って怪訝な顔をする人もいて。判らないのは全然構わないんですけど、理解不能なことに対してすぐに壁を作ってしまうのは残念だなと。アコースティック・ライヴで必ず3コードのロックンロールをカヴァーするのも、「こういう音楽もあるんだよ」と聴く人の間口を広げたいからなんですよ。でも、そこで「ジョニー・キャッシュっていうのはさぁ…」と語り始めたら説教っぽくなってしまう。音楽の知識をあまりにひけらかすとトゥー・マッチになるし、そういう野暮なことは言いません。自分の曲を必要以上に説明しすぎるのも良くないと思っているんです。「どういうふうに作ったんですか?」と訊かれたら、「鼻歌まじりにササッと作りました」くらいに答えたいんですよね。

──ポール・マッカートニーもそんな感じですよね。「夢の中で浮かんだメロディを書いただけ」とか。

T:苦労は表に出さないけど、相当な努力をしているはずですよね。でも、表向きは平然としているのが格好いい。

──今回のシングルはどの曲もギターの鳴りがすこぶるいいなと思いきや、トライセラトップスの和田唱さんから借りたレスポールを使ったそうですね。

T:そうなんですよ。和田さんとは3年くらい前にラジオにゲストで出てもらってから交流がありまして。『すてちまえよ』のイメージが最初からレスポールだったんですけど、僕が持っているのはレスポール・スペシャルっていうジュニアとカスタムの間のもので、和田さんが持っているレスポール・スタンダードの太い音が欲しかったんですよね。それでダメ元で貸してくれませんかとお願いしたら、わざわざ倉庫まで取りに行ってくれたんです。しかも、何本か弾き比べて「これが合ってると思うよ」と選んでくれたんですよ。おまけに、レスポールを返しに行った時に「次のレコーディングでも使っていいから、持ってなよ」とまで言ってくれて、ホントに有り難かったですね。和田さんも物事の本質にこだわっている人で、判っている人にしか説明しないタイプなんですよ。レスポールの良さを知り抜いているから、選んでもらったスタンダードで弾いてみたら曲にピッタリだったんです。

──和田さんのさり気ない優しさ、粋ですね。

T:和田さんのお陰でいいアレンジになったし、いいレコーディングになりましたね。和田さんの魂でギターを弾けたところもあるし、凄く勉強になりました。

──疾走感のあるビートの効いた『再会』は、疎遠になった友達に会いに行けよと働き掛けるハート・ウォーミングな歌詞が秀逸ですね。

T:ずっと温めていたテーマで、やっと書き上げることができたんです。ビートルズで言えば『シー・ラヴズ・ユー』みたいな3人称の歌詞を書きたかったんですよ。今まで1対1のラヴ・ソングや友情の歌は書いてきたんですけど、1人はそこにいない設定で書いてみようと思って、自分が2人の間に入って励ます歌詞にしたんです。この手の歌詞はバラードになることが多いんですけど、敢えてパンキッシュなビートに乗せて唄おうと思って。

──それもまた卓偉さんなりのミクスチャー感覚ですね。

T:ここ数年、『ROOKIES』や『クローズZERO』といった不良映画がヒットしているじゃないですか。僕らが子供の頃は『ビー・バップ・ハイスクール』が流行っていましたけど。ああいう男同士の友情を描いた物語は普遍性があるんだろうし、いつの時代も心に響くんですよね。人間は決して独りじゃ生きていけないし、30を過ぎて他力の重要性を痛感しているんですよ。若いうちは120%自分でやり繰りしないと一人前じゃないんじゃないか? と自問自答していたし、全部を自分の手柄にしないと他人から評価されないと考えていたんです。でも、それは違うなと。そのいい例が二八そばなんですよ。

──そば粉8割、小麦粉2割で作るそばですね。

T:僕はそば粉10割の十割そばよりも二八そばのほうが美味しく感じるんです。十割そばは歯応えがキツイし、うどん粉を食べてる感じがする。そばの本を読むと、通は十割そばが一番らしいんですけど、一般大衆には二八そばが一番好まれているそうなんです。そば粉が8割で、あとの2割を小麦粉に頼るからこそ美味しいそばになるという論理は、どんなことにも当てはまると思うんですよね。




人間の不完全さはチャーミングに繋がる

──なるほど。その思考からもあくまで大衆性を追求する卓偉さんの姿勢が窺えますね。

T:20代の半ばくらいまでは、そば粉が10割じゃないとダメだったんですけどね。10割の表現で何が悪いんだ!? くらいに思っていましたし。でも、腹八分目という言葉もあるじゃないですか。全部を表現し切らずに、わざと歪なところで終わらせて人に投げ掛けることが大事なんですよ。10割出し切ると、それ以上入り込む余地もないし、料理のしようがない。それは取っ付きづらい表現になるんです。

──さっきの話で言えば、20代半ばまでの卓偉さんなら『風穴メモリー』にホーン・セクションを足したりもしていたかもしれませんね。

T:そうですね。昔は足し算の論理でしたから。でも、人間の不完全さはチャーミングに繋がると思うし、適当なところで筆を置くのが今はいいと思えるんですよ。完璧な小説や完璧な映画で好きなものもあるんですけど、ちょっとボロが出たくらいのほうが面白いんですよね。

──自分にも身に覚えがありますが、ズッコケた自分を許せるようになるのは30歳を超えてからですよね。

T:10代、20代の時はとにかく精一杯ですからね。余裕をかます暇は一切なかったですし。少なからず経験を積んでいって、物事の楽しみ方を理解するようになったということですかね。頼み事をしたほうがその人とより近い距離になれるし、みんなと一緒に曲を磨き上げていくほうが今は楽しいんですよ。昔は自分の仕事に反映できないものにはまるで無関心で、自分で勝手に物事をカテゴライズしていたんですよね。でも、二八そばの論理を身に付けてからは、目に映るあらゆる物事が音楽に反映するなと思って。

──聴き手が楽曲に思いを託す糊代を作れるようになったわけですね。

T:最近は曲作りの途中でわざと違うことをやって、気を紛らわすようになったんですよ。途中で本を読んだり、映画を見たり。気を紛らわすことがいいテンションで曲作りにフィードバックされるんです。あと、頭でっかちの人のことを放っておけなくなると言うか。スタッフにそういう人がいると、気を緩めさせて「一緒にやろうぜ!」と発破を掛ける。最終的にそれがいい気として自分に跳ね返ってくるんですよ。

──『再会』のサビはベーシストの牧田拓磨さんとのツイン・ヴォーカルになっていますが、これも二八そばの論理に基づく卓偉さんの采配なんでしょうね。

T:彼はソロで唄っているし、一緒にやるならそういうコラボレーション的なことをやったほうが面白いと思ったんですよ。『再会』は随分前からあった曲なんですけど、彼の歌のお陰で新たに曲が生まれ変わったんです。

──こうして収録曲を見ていくと、際限まで作り込むレコーディングと衝動で突っ走るライヴとの距離がだいぶ縮まったのを感じますね。

T:そうなんですよ。最終的にはオリジナル・アルバムがライヴ盤のようなところまで行きたいんですよね。

──ビートルズで言えば、『サージェント・ペパーズ〜』までのスタジオで緻密に音作りをしていた時期から“ホワイト・アルバム”のラフな作風に変化していったような感じですか。

T:“ホワイト・アルバム”を飛び越えて、今は“ゲット・バック・セッション”くらいまで行ってるかもしれないですね。

──それじゃ活動が停止しちゃいますよ(笑)。

T:確かに(笑)。この間、『レット・イット・ビー ネイキッド』を改めて聴き直したんですけど、凄くダイレクトな音で素晴らしかったですね。ポールがピアノを弾く時のジョンのベースがまたいいんですよ。歌心のある人が弾くとホントに格好いい。ダビングがされていないから、ジョージがバッキングからギター・ソロに移ると音が薄くなるんですけど、それすらも愛おしい。僕もあの水準に到達したいんですよ。



レコーディング技術の向上と弊害

──卓偉さんの志向も音楽性もどんどん“ネイキッド”になってきているんでしょうね。

T:まだこれでも飾ったところがあるんでしょうし、ヘンにこだわってしまう部分もあるんですよ。でも、今のパーマネント・バンドが今以上に上手く転がっていけば、ギター・ダビングは後回しにして最初から歌録りすることも可能なんだと思います。

──考えてみれば、『明日への階段』のストリングスはフィル・スペクター以上に真に迫る“ネイキッド”な質感ですね。

T:今の時代の弦はギラギラしすぎだし、60年代の泣きの弦が欲しかったんですよ。音もちょっとこもっている感じで。それで、狙ってがさついたミックスにしたんですよね。

──60年代のロックンロールは、チャンネルの数が少ないのに奥行きと広がりのある音なのが凄いですよね。

T:今は便利になりすぎて音の配置が綺麗にできるし、美しく整っているからこそ逆に気持ち良くないんだと思います。最近思うのは、「音がいい」って何だよ!? と。各パートの音が全部よく聴こえるのがいいミックスかと言えば全然違うし、便利すぎるのもどうかと思いますね。たとえば、唇の破裂音やブレス、ベースのピッキングが当たる音までを細かく録るレコーディングは、その狙い自体がおかしいんです。確かに50年代、60年代には息遣いが聴こえるレコーディングもありますけど、それは決して狙って録っていないからこそ凄いんであって、狙って録ったらそうはならないんですよ。それが僕の持論なんですよね。ありのままでいいんです。ありのままを録って、よく聴くと息遣いが聴こえる程度でちょうどいい。もちろんプロトゥールスも便利なんですけど、僕はMTRがあった時代と同じ録り方でやれますよ。多分、8チャンネルで行けると思います。ドラムのシンバルの数やアンプの数を入れたらチャンネルは増えていきますけど、ドラムは最悪4チャンネルで録れますから。

──マイキングはオーヴァーヘッド2本、キック、スネアで行けますよね。

T:最近はドラムにパンを振りたがるエンジニアが多いんですけど、僕が好きな60年代のレコードはパンなんて振られてないんですよ。ステレオはおろか、モノラルだったわけですから。

──フィル・スペクターの“BACK TO MONO”の精神は今こそ必要なのかもしれませんね。

T:音数が減れば、いずれモノラルで出すのもアリじゃないかと思うんです。モノラルの位相感も素晴らしいですから。幅ではなく、奥行きのある音作りを目指したいんですよ。

──やはりアナログ録音がベストなんでしょうか。

T:以前、リズムから何から全部をアナログで録ったことがあったんです。その時に思ったのは、プロトゥールスを使わなければなお良かったなと。せっかくアナログで録るなら潔くアレンジまで済ませて、歌詞も完璧に書き上げたところで録るのが一番合理的ですね。アナログはとにかく録り音がいいですよ、ドラムは特に。

──アナログ録音で、今回のシングルの延長線上にあるフル・アルバムを是非聴いてみたいですね。

T:今のところ、シングルをもう1枚作りたいと思っているんです。今回同様、勢いのある感じで。もっとシンプルにしていきたいし、ホントは一発録りをしたいくらいなんですよ。今回も一発録りにしたかったんですけど、初めて録る布陣だったから演奏が硬くなってしまうかなと思って。あと、細かいことを言えばマイクの本数が課題ですね。本数が多いからこそ配置が難しい。ミュージシャンは自分の音が聴こえないとストレスになるんです。僕はヴォーカリストだから、楽器は歌を支えているものであって欲しいんですよ。ドラムとベースは歌を立たせるようにリズムを刻んで欲しいし、ギターは歌に寄りそうように弾いて、歌のないところで食って掛かってきて欲しい。60年代のロックンロールはそういうパートの在り方だからこそ歌にパンチがあると思うんですよ。僕もそういうレコーディングが理想ですね。



“普通”を取っ払えば面白い発想ができる

──秋には『RENT』というブロードウェイ・ミュージカルの日本版に出演することが決定していますし、新たなトライアルが続きますね。

T:ミュージカルは急遽出演が決まったんですよ。『RENT』はニューヨークのイーストヴィレッジを舞台にした物語で、映像作家のマークと元ロック・バンドのヴォーカルのロジャーという2人の主人公を軸に展開していくんです。ニューヨークだからいろんな人間が入り組んでいて、HIV患者、ゲイ、レズ、SMクラブのダンサーといった世間からはじき出された人間が登場するんですよ。僕が演じるエンジェルはゲイなんですけど、クリスマス・パーティーを盛り上げるために女装をするんです。ドラァグクイーンの格好をしてみんなをハッピーにさせる愛すべきキャラクターで、台本を読むと、物語が進行する上で割と重要な役なんですよね。

──稽古はもう始まっているんですか。

T:厳密にはまだで、ダンス・レッスンを福士誠治君と一緒にやった程度です。8月のAXでのライヴ以降、本格的に始動する感じになりそうですね。

──お芝居は初めての経験ですよね?

T:そうですね。ただ、『明日への階段』の歌詞に煮詰まっていた時にミュージカルの出演が決まったことが象徴的だなと思ったんですよ。スタッフの方とお会いして、3日後に帝国劇場まで唄いに来てくれと言われたんです。それまでに3曲を覚えてきてくれと唐突に言われて(笑)。僕が唄っている姿を映像に収めて、ニューヨークに住む演出家のエリカ・シュミットさんに送るということで。その結果、「是非彼で行きたい」と返事が来たそうなんです。

──一応、ちゃんとしたオーディションがあったわけですね。

T:自分の歌を評価してもらえるのは幸せなことだし、これも何かの縁かなと思ったんですよね。あと、女装したりメイクしたりするのが単純に面白いなと。自分のライヴ・パフォーマンスには演出もないし、振り付け師もいないし、舞台監督はいるけど流れは僕自身が作るし、舞台とは真逆なんですよね。舞台には演出も振り付けもあるし、ステップも決まっている。70公演全部、全く同じ動きをしなければならない。誰かに指示を受けて動く自分が最終的にどういう結果をもたらすのかが面白いと思ったし、自分じゃない役を演じることによってその役がどう活きるかを学べるいい機会だと思ったんですよね。これがたとえば「普段の卓偉君のまま演じて下さい」って言われたら、本来の自分とのギャップに苦しんだかもしれないです。でも、エンジェルは自分と極端に離れたキャラクター設定だったのが良かったんですよ。あと、これは僕のロック美学ですけど、KISSのポール・スタンレーが『オペラ座の怪人』で主人公のファントムを演じたことがあったじゃないですか。当時は僕も違和感がありましたけど、やっぱり抜群に歌が上手いし、ポール・スタンレーじゃなければできない役所なんですよね。狭いジャンルに収まるようなロックンローラーじゃないんだなと思ったし、素直に格好いいなと思えたんですよ。ポール・スタンレーのことを知らない観客もいたでしょうし、余程の実力がないと成し得ないことですよね。

──ミュージカルへのトライアルは、表現活動の中でのミクスチャーとも言えますね。

T:ホントに大変なことだし、凄まじい努力をしないと補えないことですけど、自分に跳ね返ってくるものは絶対に大きいと信じているんです。あと、ファンに対して自分をこれだけブチ壊していくのは最高なんだぜと伝えたい気持ちもあるんですよ。

──昨日までの自分をブチ壊して新たな自分を表現するのは中島卓偉の一貫したモットーですからね。

T:音楽以外の表現に取り組んでも、確たるポリシーさえ失わなければ格好いいと思うんです。ジョー・ストラマーだって『ミステリー・トレイン』でいい演技をしていますしね。「パンクの人間が俳優をやるなんて」みたいな非難もあったと思うんですけど、そんなの関係ないですよ。与えられたチャンスがある以上は精一杯やるのが筋だと思いますし。音楽とは無縁のことでも、最終的には音楽へとフィードバックして点と点が結ばれるものなんですよね。僕は歴史が好きなので、歴史番組のレポーターをやってもいいと思うくらいで(笑)。

──すべては音符の肥やしというわけですね。

T:映画を見るのも本を読むのも大好きなんですけど、それも結局は歌詞を書くためなんですよ。20代の頃はミュージシャン畑で音楽さえやれればいいと思っていたんですけど、今はその合間に遊び心に溢れた活動を組み込んでいきたいんですよね。理解のあるスタッフの協力があればどんなことでもできると今は思っているんです。ヘンなこだわりは取っ払いたいし、“普通”とか“アヴェレージ”と言われる考え方をなるべく排除したい。人間っておかしなもので、「普通さぁ…」ってうっかり口にするんですよね。“普通”を取っ払えば面白い発想ができるし、もっと昂揚できる何かが生まれるんです。まだまだスウィングしたいし、そのためにもありふれた発想はブチ壊していきたいですね。



明日への階段

01. 明日への階段
02. 風穴メモリー
03. すてちまえよ
04. 再会
05. 明日への階段 〜vocal off version〜
zetima EPCE-5716
1,500yen (tax in)
IN STORES NOW

★amazonで購入する
★iTunes Storeで購入する icon

Live info.

中島卓偉 LIVE 2010
120% TAKUI NAKAJIMA〜3時間一緒に唄えますか!?〜

2010年8月1日(日)SHIBUYA-AX
OPEN 16:00/START 17:00
チケット料金:4,500円(税込・ドリンク代別途500円)/全自由(整理番号付)/スタンディング/未就学児入場不可
*チケットは、電子チケットぴあ(Pコード:103-876)、ローソンチケット(Lコード:78132)、e+にて7月3日(土)に一般発売。
musicians Guitar:生熊耕治/Bass:牧田拓磨/Drums:石井悠也
お問い合わせ:オデッセー 03-5444-6966

音霊 OTODAMA SEA STUDIO 2010
『波打ち際ROCK』

2010年7月20日(火)逗子海岸
OPEN 16:45/START 17:30
チケット料金:前売3,500円/当日4,000円(税込/ドリンク代別途500円/IDチェック有)
出演:Do As Infinity/中島卓偉/椎名慶治(ex.SURFACE)/Opening act:LOVE
お問い合わせ:OTODAMA 運営事務局 046-870-6040(11:00〜20:00)

ブロードウェイ・ミュージカル『RENT』
2010年10月7日(木)〜11月23日(火・祝)日比谷シアタークリエ
脚本・作詞・音楽:ジョナサン・ラーソン
訳詞:吉元由実/演出:エリカ・シュミット
*公演詳細は東宝のホームページをご参照下さい。
http://www.toho.co.jp/stage/

中島卓偉 official website
http://www.takui.com/

posted by Rooftop at 12:00 | バックナンバー
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。