ギター バックナンバー

SION('10年6月号)

SION

デビュー25周年を迎えて去来する歌への思い


 1985年9月1日、『新宿の片隅で』を自主制作盤として発表してから四半世紀。今年、デビュー25周年を迎えるSIONの動きが活発になってきた。ファンのリクエスト投票で収録曲が決まる『I GET REQUESTS〜SION with Bun Matsuda〜』の発表に続き、プライヴェート・アルバム『Naked Tracks 3〜今日が昨日の繰り返しでも〜』の制作もいよいよ大詰め。年内にはシングルとアルバムのリリースも控え、秋には毎年恒例の日比谷野外大音楽堂でのライヴも決定した。ライヴもリリースも目白押しなこのアニヴァーサリー・イヤーの節目にSIONは何を思うのか。『Naked Tracks 3』の作業の合間の貴重な時間を頂戴して、じっくりと話を訊いてみた。(interview:大塚智昭/新宿LOFT店長)


『Naked Tracks』の制作意図

──目下、『Naked Tracks 3』を絶賛録音中ということで。

S:もう2ヶ月くらい録ってるんだけど、ギタリストやエンジニアってホントに凄いなと思うね。俺は全然上手く弾けないし、自分の部屋で一人で録ってると何やかんやと雑音が入るんだよ。これが自分のバンドのレコーディングなら4日くらい唄って終了なんだけど、スタジオで上手いミュージシャンとやって、上手いエンジニアと録ればいいのが出来るのは当たり前だしね。

──何でそれだけ時間が掛かるんでしょうね?

S:「いいね」って褒めてくれる人がいないからかな? レコーディングだったら同録をみんなで聴いて、「いいね、これっすよ!」って言ってくれる人がいるから手応えを感じるんだけど、自分だけでやるとその日いいなと思っても次の日には“何じゃこりゃ!?”と思うことがよくある。自分一人でやってると終わりがないから、どんどんおかしなことになっていったり。静かな曲が次の日には気が狂ったような曲になったりもするしさ。でもまぁ、何とか踏みとどまって。

──『Naked Tracks』を作り始めたきっかけは?

S:俺の親父さんがもうもたないって言われた時にね。たまたまウチの両親が仲睦まじくしてる昔の写真が1枚あって、それをジャケットにして親父さんにアルバムを届けたいと思ったのが最初のきっかけだった。内容が内容だから、これは全部一人でやろうと思ってね。いろいろ試行錯誤してるけど、どんなに音が悪かろうが何だろうが、今は通常のアルバムよりも愛着が湧いてるね。

──時間や労力も相当なものなんでしょうね。

S:今は個人でも防音がしっかりしたスタジオを持っていたりするけど、ウチは木造だからね。一番の敵は、隣の部屋の爺ちゃんの咳払い。次が表を通る車と電車の音。最近は選挙カーも大敵だね。一番静かな時間は夜中の3時から4時くらいで、“よし、今だ!”と思って録音しようとすると、今度は俺の腹が鳴って止まらなくなってしまう(笑)。一人コントみたいだよ(笑)。

──楽器もすべてご自身で?

S:うん。ホントは(藤井)一彦に弾いて欲しいくらいなんだけどね。たまに思うことはあるよ。もう50歳にもなるっていうのに、深夜に一人でタンバリンをシャカシャカ鳴らして俺は何をやってるんだろう!? って(笑)。でも、何日も掛けて一人でああでもないこうでもないと悪戦苦闘するのは確かにしんどいけど、結局は楽しい。外には一歩も出ずにこんな毎日を続けてみるのもいいかなと思ったりして、『Naked Tracks』の2枚目を作ってる時に「もうライヴはやりたくない」って冗談半分で一彦に言ったことがあるんだけど、「でも、お客さんのいるあの感覚はやっぱり嬉しいものじゃないですか」と諭されて、確かにそうだなと。だから「ハイ、やりますよ、後輩!」って答えたよ(笑)。

──実際、去年はかなりの本数のライヴをやりましたね。

S:お陰で車移動に慣れたね。この間、“ARABAKI ROCK FES”に行った時は新幹線の乗り方が判らなかったくらい。「まずは東京駅に行って下さい」ってマネージャーに言われたけど(笑)。



50歳になる実感がまるでない

──『Naked Tracks』が面白いのは既発曲のアコースティック・ヴァージョンが聴けるだけではなく、『Naked Tracks』の収録曲が次のオリジナル・アルバムでバンド・ヴァージョンになったり、相互作用があるところなんですよね。

S:今までは半分くらいが既発曲だったけど、今回は15曲全部新しい歌なんだよ。ってことは、今度のオリジナル・アルバムはほとんどが『Naked Tracks 3』からの曲になる。そうそう、『Naked Tracks』の“Naked”はNaked Loftから頂戴したんだよ。

──そうなんですか。Naked Loftの店長が喜びますよ。

S:じゃあ、ちゃんとお礼をしなきゃね。豚コマ200gくらい持って(笑)。

──Naked LoftでSIONさんのソロ・ライヴを見れたら贅沢ですね。

S:ギターを長い時間もう弾けないから、天才イングヴェイ・マルムスシオンでもそれは無理だな(笑)。

──『Naked Tracks 3』から3曲…『自分の胸は自分ではうまく温められない』、『燦燦と』、『カラスとビール』を聴かせて頂きましたが、個人的には『燦燦と』がグッと来ましたね。

S:大丈夫? 美空ひばりみたいじゃなかった?(笑)

──愛の代わりに陽は燦燦と差していましたね(笑)。新曲の15曲はすぐに出来たんですか。

S:去年、ツアーを数多くやって、曲を全然書いてなくてね。それを一彦に話したら、「それはライヴをいっぱいやってエネルギーを放出しているからですよ」と言われて、そんなもんかなぁと。実際、年が明けて次のアルバム用の曲を書こうと思って書き始めたら、割とすんなり書けたけどね。

──50歳を目前にして、歌にしたいテーマが変わってきたりしましたか。

S:まず、自分が50歳になることに驚いてる。この間、同じく50になる花田(裕之)とも話してたんだけど、俺たちが子供の頃の50歳と言えばとてつもなく大人なイメージがあったのに、俺なんて夜中にタンバリンをバカみたいに叩いてるんだよ?(笑) だから50歳になる実感も湧かないし、歌のテーマも関係ないね。何事にもあまりガツガツしなくはなったけど、基本的には今まで通りだよ。

──今年はデビュー25周年ということで、ファンが楽曲を選ぶアコースティック・アルバムの企画も進んでいますね。

S:よく地方のラジオとかでコメントを求められた時に、「歌を書いて唄っている脊椎動物のSIONです」て言うんだけど(笑)、こんな男が25年も唄い続けていられるのがまず有り難いね。ツアーを回っているとそれを痛感する。何十年振りに行く街でもお客さんがちゃんと来てくれるからね。ホントに有り難いことだよ。

──この四半世紀、音楽の記録メディアの変化は凄まじいものがありましたよね。今はiPodとかで手軽に曲をダウンロードできる時代ですし。

S:今はジャケットも要らないらしいね。俺はアナログからCDになった時に随分と寂しかったんだけど、今はCDよりもちっちゃな写真でいいんだから。とは言いつつ、俺もちょっと聴くぶんにはダウンロードするからね。でも、昔から好きなボブおじちゃん(ボブ・ディラン)やトム兄ちゃん(トム・ウェイツ)とかはちゃんと盤を買ってるよ、税金を払うみたいに(笑)。豚コマも付かないのに(笑)。

──オリジナル・アルバムは年内に発表する予定ですか。

S:10月くらいに予定してる。『Naked Tracks 3』が終わったらすぐにシングルを録るんだよ。5年前に福山(雅治)と一緒に『たまには自分を褒めてやろう』を出した時にグーフィー森さんがプロデューサーだったんだけど、凄い好きになってね。音楽の聴き方然り、接し方然り。今度のシングルではそのグーフィーさんとタッグを組んで、また面白いことをやろうと思ってる。この間ちょっと聴いたんだけど、面白い音の感じで興奮した。



今もカオリに力をもらっている

──25周年を記念したライヴもいろいろと思案中なんですか。

S:最初はいろいろ考えたんだよ、池畑(潤二)祭とか今度の花田祭みたいなものを。でも、池畑祭に参加して思ったのは、あれだけ人を呼んだら大変そうだなと。だから今のところ、野音を今まで通りちゃんとやること以外は考えてないね。俺の場合、お祝いムードになると背中を向けて違う方向に走りたくなるんだよ。呑気にお祝いしてる場合じゃないと言うか、周りを見てても歳を重ねる重みを感じるね。「40になったら楽しいぜ」とか言ってたけど、ホントはみんないろいろキツいんだよ。でも、そこを如何に平然と歩いていられるかっていうのを最近は考えている。皇潤の力を借りずにね(笑)。

──25年前にデビューした時は、まさか四半世紀も唄っているとは思っていなかったのでは?

S:そうだね。当時は何とかアルバムを1枚出せたらそれでいいっていう時代だったから。実際にデビューしたら夢のようで、こうして取材されることも夢のようだった。でも、たとえばキャンペーンをやってもそれがだんだん面倒になる。せっかくデビューできたのに、自分で夢を壊してしまうんだ。それと、当時は世の中で起こっていることに石を投げていたんだよ。それを歌にしていた。でも、お客さんを前にすると“あんたらに恨みはないんだよ”ってことになるんだね。それで自分が盛り上がれればいいんだけど、俺はそこで醒めてしまう。そういう葛藤はあったかな。25年前も今も歌は自分にとって必要なものだから書いて唄っているけど、10年後のことまでは判らない。明日のことは判らないよ。『今日の全部を』でけっぱるぜと思っちゃいるが、そうも行かない日もあるし、ダメな時はダメなんだ。でも、それが人間なんだと思うんだよね。俺の歌はお日様を見て喜んだかと思えば神様に「そりゃねぇだろ」言うたり、泣いたかと思えばすぐに笑ったり、いろいろと忙しいよね。同じ感情はキープできない。だから「みんなもそうだろ?」って歌を通して問い掛けてるのかもしれない。

──SIONさんは歌というフィクションの形式を借りながらも、そのスタンスは限りなくノンフィクションに近いですよね。

S:どんな歌を書いても、誰かに頼まれて書いた歌でも、そこには必ず俺がいるからね。仮に車に乗っている時の歌を書くとして、プロの人は自分が乗っている車を上から見て書くんだよ。そういうふうに書ければ万人に聴いてもらえる歌になるんだろうけど、それはどこかで拒んじゃうんだよね。俺はハンドルを握っている自分の視点でしか書けないから。

──でも、だからこそ愛される人にはもの凄く深く愛されるんでしょうね。

S:ホントはキレイなお姉さんからキャーキャー言われたいよ(笑)。でも、歌があって良かったよ。歌がなかったらどうしていたんだろうと思う。…やっぱり、今は(川村)カオリの存在が大きくてね。ライヴ中もそうだし、自分の曲から逃げそうな時とか、ギターを弾いて腕が痛くなって“もう無理だ”と思った時とかにカオリの写真を見るんだよね。身近な仲間もあっちの世界に行ってるんだけど、どういう訳か今はカオリに力をもらってるんだよ。『Naked Tracks 3』には『金色のライオン』を入れるんだけど、あの曲だけは去年の野音の直前に録ったままで録り直さなかったし、録り直すつもりもなかった。カオリが逝ってしまったと聞いて、「コメントを頂きたい」とかいろいろ言われた時に一人で無我夢中になって録音した曲だからね。何なんだろうな、あの子は。ここ最近、俺をずっと支えてくれている。昔、尾崎(豊)が逝った時に俺は骨折をしていて、まだ唄いたいと思っていたかもしれない奴のことを考えたら骨の1本や2本折れていても唄えている自分は幸せだと思ったことがある。だから“やらねば!”って思うんだよ。そういう赤裸々な歌を入れられるのが『Naked Tracks』のいいところだね。


Live info.

Naked Tracks 3 〜今日が昨日の繰り返しでも〜

01. カラスとビール
02. あの子の部屋の窓は叩くな
03. どんなに離れてたって傍にいるから
04. ひとり遊び
05. 水
06. 18000回以上も
07. 狂い花を胸に
08. 自分の胸は自分ではうまく温められない
09. お前のちょっと前を
10. キャラバン
11. 観覧車
12. 痛いくらいに強く想っていても
13. 二人は
14. 金色のライオン
15. 燦燦と
SION-0003 / 3,500yen (tax in)
2010年6月21日(月)発売


*『Naked Tracks』シリーズは、インターネット通信販売とライヴ会場での販売のみの限定販売アルバムです。インターネット通信販売は、オフィシャルサイトをご覧頂くか、下記のQRコードを携帯電話で読み取って頂きお買い求め下さい。

Live info.

SION アコースティックLive 2010 〜SION with Bun Matsuda〜
7月20日(火)新宿LOFT
7月22日(木)名古屋クラブクアトロ
7月24日(土)梅田Shangri-La

SION-YAON 2010
10月23日(土)日比谷野外大音楽堂

SION official website
http://www.bug-corp.com/bug/sion/top.html

posted by Rooftop at 12:00 | バックナンバー
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。