ギター バックナンバー

塚本晋也('10年5月号)

塚本晋也

全世界に衝撃を与えたあの『鉄男』から20年──
『鉄男 THE BULLET MAN』が満を持して日本公開!
男の身体は“鋼鉄の銃器”へと変貌する!


 『鉄男』と言えば映画や映画制作に興味のある者は必ず通るほどのまさしく“カルト・クラシック”な作品である。その『鉄男』サーガの最新作『鉄男 THE BULLET MAN』が完成した。前作までと異なり、外国人キャスト、英語音声の新たな“21世紀の『鉄男』”を完成させた塚本監督にお話を伺った。(interview:多田遠志)


都市を破壊する欲求と葛藤

──基本的なことなんですが、何で『鉄男』なのでしょうか。以前の『鉄男』を観てない世代も多いと思いますが。

塚本:何でですかね。都市とか現代とか、そこで生きている者達の不安のようなものをシンボリックかつ映像で端的に描くと、鉄と融合するというイメージになったということかな。

──カフカで虫になってしまうようなことの現代版でいくと鉄と融合するんだ、ということですかね。

塚本:そうかもしれないですね。

──『鉄男』をモチーフとして繰り返しやってらっしゃるわけですが、かなりお好きな題材なんですよね。

塚本:まぁ、自分としては一個明快で明瞭でいいモチーフを手に入れたな、と。いつまでもこねくり回していても飽きない、面白い遊び道具。いくらでもこねくり回していると面白いことができそうな。

──都市と破壊というモチーフを今回も扱われているわけですが、『鉄男2』までは911の前の作品ですよね。本作は911後の作品ですから、観てて“こりゃ大丈夫なのか、英語で海外でも配給するんだろ”と思ったんですよね。特に作品内に出てくる“都市破壊のビジョン”とか。そういう制作時のご苦労とかはあったんですか。

塚本:もともと「『鉄男』のアメリカ版を作らないか?」と言われて僕は乗り気で進めていたんです。最初はアメリカ人の主人公が鉄男になって大暴れしてNYを吹っ飛ばす、ってのを考えたんだけど、ちょっとダイレクトすぎてシャレにならないということになって。ただ、自分が本来考える“都市を壊す”というテーマは911という事件とはちょっと違って、ビンラディンがNYを破壊するとかいう宗教的なものとは別なんですけどね。じゃあNYがまずいなら自分の都市だったらいいか、と。今、この東京って都市はちょっとこうハッと目を覚まさせなきゃいけない場所だと思うんで、映画の中では破壊する。

──3作同じテーマでお撮りになっても、やはりその時代性というものは浮き彫りにされると思うんですけど、撮ってて“あ、これは今の時代だから変わって来てるな”って作っていてありましたか?

塚本:『鉄男』の頃はやんちゃだったので、“東京なんて壊してナンボ、パンクだ!”って思ってました。『鉄男2』の頃は、都市に対する愛憎がからみ合って壊しちゃいました。初めて『鉄男』を撮った頃でさえ夢か現実か判らない仮想現実に対して「肉体性を取り戻せ」と言っていたのに、今は更にその状態が進んでしまっていて、生きたり死んだりすることの荘厳さ、戦争の現実を知り暴力のリアリティを伝えられる語り部達がどんどんいなくなってしまっている。戦後60年以上が経ち、語り部がいなくなって、戦争を始めてもいいと思っている人が手ぐすね引いてるような気がしてそれが恐い、というのがあって。そしてリアリティを喪失した子供達はその大人達に乗せられてあまり抵抗なく戦争とかしかねない。その子供達の暴力性というのは、免疫がないがゆえにより過剰な方向に向かうんじゃないか。それが恐いなぁ、と。

──なるほど。

塚本:だから今回の『鉄男』は“壊してなんぼ”じゃなくて“壊したいんだけど自分の能力を使うとどうなっちゃうか恐い、酷いことになっちゃうんじゃないか!?”と葛藤する感じです。暴力を使えれば楽だけど、使ったら大変、みたいなね。

──今回の鉄男は副題が“バレットマン”ですよね。“銃男”。前作まではドリルとかだったのが飛び道具になったのは?

塚本:鉄のガラクタになるんじゃなくて、何か鉄の兵器、銃器になる感じです。だから今回の鉄男のデザインもリボルバー、回転弾倉式の拳銃の形や質感になる感じにしました。

──ほとんどCGを使用されてないですよね。きょうび珍しい。画面や技術は変わっていても、こちらが受ける“肌触り”的にはまったく前の『鉄男』と同じものを感じました。コマ録りっぽいって言うか。

塚本:CGは細かい修正には使用してますが、基本的には使ってないですね。手作業っぽさは大事です。制作費の問題というのもありますが、たとえ予算が潤沢にあったとしてもやっぱりこういう感じの作品になると思う。今は何もない空間に向かって演技させてあとからCGを足して…という作品も多いけど、それでは役者が本当に心を入れて演技できないと思う。いくら俳優がイマジネーションを働かせる職業だとしても、虚空に向かっての演技じゃホントはその気になってないんじゃないか、実際にあるものの前で演技したほうが本当だと思うんです。

痛みを通じて生きる実感を得る

──舞台は東京ですが、役者も外国人、本編英語ですよね。ご苦労はありましたか?

塚本:まぁ、やっぱり英語の問題ですよね。何度か修正作業してるんですけど、英語音声を取り直す比重が多く、思ったより難しい。アメリカ映画とか結構観てたから大丈夫かなと思ったんですが、全然ニュアンスを判ってなかったですね。

──でも、スタッフさんも外国人のファンの方が多いと伺いました。

塚本:ボランティアでドイツからやって来てるスタッフもいますよ。

──本作は音のレベル、大きさがデカいですよね。観て驚きました。やはり音にはこだわってらっしゃるんですか?

塚本:『鉄男』は何と言っても音と映像の映画ですからね。でも、今までの『鉄男』は実はモノラル録音だったんですよ。それから17年経った今ではモノラルではキツい。前と同じような映像体験をしてもらうためにはやっぱり最高の音を付けないと。映像はかなりアナログですけど、音は完全にデジタル録音です。

──監督は本作を「是非映画館で観て欲しい」とおっしゃっていますよね。

塚本:それは絶対にそうですね。

──今の時代、映画はDVDで観ればいいや、というようにどんどん手軽なものになっているところもありますが。

塚本:僕もDVDで観たりしますから、それは全然否定しないです。でも、やっぱりあの映画館で見る暗闇のドキドキ感と言うか、お化け屋敷や遊園地のような高揚感は何物にも代え難いですよね。僕が昔“映画監督になりたい”って強く思ったのは、『七人の侍』を大劇場で観て、館内のお客さん全体が連帯感でどよめいたのを共に体感して、あまりに素晴らしくて“俺もこういうのを作ってみたい”って思ったのがきっかけなんです。映画館の暗闇、デカいスクリーンはやっぱりいい。巨大な暗闇の中、巨大なスクリーンに蠢く物を観る、それがやはり素晴らしいですね。

──塚本さんと言えば役者としても印象深い役が多いですよね。『殺し屋1』で演じられていた役は観たら忘れられないものがありました。個人的な感想としては『鉄男』よりも「やつ」を演じておいでのお姿のほうが印象に残っていたりもします。斎藤久志監督で主演された『サンディドライブ』の演技とかも好きでした。監督作業しながらの演技は大変じゃないですか?

塚本:でも、自分の映画で演じる分には別に。人の映画に呼ばれたら別ですけど。緊張もしますし。その映画のいい部品、パーツになりたいと心がけてます。よく「“自分だったらこうするのにな”と思わないか?」とか訊かれますけど、そういうふうには絶対思わないです。

──リメイクされてダメダメになる映画とか多いじゃないですか。キャストも変わって鉄男が田口トモロヲさんじゃないし、大丈夫かなーと思ったんですが、全く『鉄男』のままで安心しました。「やつ」は変わらず塚本さんでしたし。

塚本:僕は24年間この「やつ」を演じ続けてきましたが、もう本作でおしまいにします、演じるのは。身体がもちません(笑)。

──『東京フィスト』と『バレット・バレエ』に顕著ですが、ボクシングやボディピアスなんかの“痛い”行動を通して、生きている肉体を感じて生きる実感を得るという話が多いですよね。

塚本:夢かどうか確かめるために、自分の身体をつねったりするじゃないですか。あんな感じで痛みを感じたり、ぶん殴られたりして現実の自分、生身の肉体を自分は持っているんだと確認するという乱暴な話が好きなんですね(笑)。

──他の映画に影響を与えてますもんね。『ファイト・クラブ』とかまんまですし。

塚本:ああ。

──次回作の構想は。

塚本:いっぱいあるんですけど、この5年、僕にしてはかなり早いペースで撮ってきたのですが、やっぱり本作みたいにじっくり撮るほうが向いている感じがするので、これからはじっくり撮っていきたいですね。

──『鉄男』の発展性について。『鉄男』サーガに続きはあるのでしょうか。『鉄男4』は?

塚本:『鉄男2』の時に次回作はこうだ! とかいろいろ言っちゃったんで、もうあまり言わないようにしようかなとは思ってますが、それこそアメリカ映画みたいに大規模に鉄男がびゅんびゅん空飛ぶのとか、あるいはアニメのような、でもやっぱり手作りでやれるものをやりたいですね。

──塚本さんがアニメ、想像つきませんね。…でも、コマ録りなんだからすでにアニメはやられていると言えば言えますね。

塚本:そうですね。でも、昔からアニメはやってみたいんですよね。ただ線が動く喜びから味わいたくて、そのあとだんだん凝ったものにしていって…と。ああ、興味は尽きない(笑)。




『鉄男 THE BULLET MAN』
 東京に住むアンソニーは妻ゆり子、息子トムと幸せな生活を過ごしていた。しかしそれはある日突然、破壊される。最愛の息子が謎の男に殺された。怒りに我を失ったことによってアンソニーの身体が鋼鉄の銃器へと変貌しだす。
 監督:塚本晋也
 出演:エリック・ボシック、桃生亜希子、中村優子 他
 配給:アスミック・エース
 上映時間:71分
 5月22日(土)シネマライズ他全国ロードショー

(C)TETSUO THE BULLET MAN GROUP 2009

posted by Rooftop at 12:00 | バックナンバー