悪夢的見世物空間の終わりとはじまり
月に一度、平日の夕方、ロフトプラスワンにて開幕する「毒蟲」。流血とエロスと笑いと幻想に彩られ、アングラ界に燦然とその名を輝かせてきたその悪夢的見世物空間が、6月に行われる第50回をもって終幕する。突如決まったようにも思えるその決断の裏側には、何があるのか。そして、気になる次の展開とは──。毒蟲の首謀者でありメインパフォーマー、月花に話を訊いた。(interview:前川誠)
──いきなりで恐縮ですが、なぜ毒蟲は終了してしまうんですか?
そもそも毒蟲は「わたしが見たいものを集める」というコンセプトでスタートしたし、今もそうなんです。だからルールも無いし、なんでもありの、アングラ幕の内弁当みたいな存在で良かった。でも今は、スタッフも出演者も含めて皆が「毒蟲」っていうものに対するイメージを持ち過ぎていて、自由じゃない気がしたんです。どうやったら皆に「毒蟲っぽいね」って思ってもらえるかって、誰かが考え始めた時点でダメなんです。だから、毒蟲っていう団体に関しては良いのだけれど、もう月に一回「毒蟲」として(イベントを)やることは無いんじゃないかなって。
わたしはタランチュラやサソリとかの肉食生物マニアなんですけど、彼らって絶対になつかないんですよ。ご飯をもらって一応飼われてはいるけど、本気を出したらわたしの片手とか片目を奪えるんだ、っていう可能性が好き。だから、餌をやるときも完全に気を抜けない。それと同じことを毒蟲のメンバーには求めているし、そうやって大きくなっていきたい。
──その限界を感じたのは、いつなんですか?
限界っていうより、毒があることを忘れちゃうんじゃないかって思った。確かにイベント内に「絶対に面白いコト」は絶対に必要なんですけど、それを踏み外さないために、保険がかかっている気がした。それって、結局どっち付かずになるんです。だって、変な話「完成度」とか「安心感」だったら、シルク・ドゥ・ソレイユには勝てないと思うんですよ。でもそこで「いやシルク・ドゥ・ソレイユには勝てないけどさ」って諦めるのがイヤなんです。かと言って泥臭い見世物小屋で蛇を食べてるお婆ちゃんほどファンキーなのかって言われたら、そんなこともない。それなら今の状態の「毒蟲」じゃなくて、両極端に振ったものを2つ作れば良いんじゃないかなって。
──それが次の構想に繋がっていく訳ですね。
そう。だから今回は終わりでも何でもなくて、ひとつ敷地を広げるとしか思ってない。
──今になって毒蟲のウェブサイトが出来つつあるというお話を伺ったのですが……。
はい(笑)。それはパフォーマー団体としての毒蟲の、インフォメーションセンターになります。
──そこからして、全然「終わり」では無いのだなと思わされます。ちなみに次はどんなことを……?
まだ詳しく言えないんだけど、週末の日没から夜明けまで、お祭というか百鬼夜行みたいなイベントをひとつ考えています。本当に何でもありで、何ならそこらへんで金魚掬いやってるオジサンがいたって良いし、昔TVでちょろっと観ただけの気になる人とか、とにかく色んな人を呼びたい。そしてもうひとつは定期的じゃないかもしれないけど、お祭とは全く対極的な、完全に作り込んだものを考えています。
──もう毒蟲のメンバーはそういった構想を知っているんですか?
そこまで話してはないですけど、何となく分かってると思いますよ。そもそも毒蟲の一回目がそうだったから。とりあえず知り合いに電話をして「この日のこの時間に、ここに来てくれ」って伝えただけ。仕事の割り振りもなく、わたしの中で組み上がったタイムテーブルだけがあるっていう状態でスタートした。そこに戻ったんじゃないかな。
田実(「毒蟲」担当プロデューサー) 僕も最初はお客さんでしたから。そういう風にして自然にメンバーが集まっていくのも毒蟲のすごいところで。
──新しい動きが始まることで、そういった広がりも更に増えそうですね。
そうですね。もう、終いにはメンバーの中に会ったことない人がいても良いんじゃないかなって思う(笑)。とりあえずこれから1年で1クラス分くらいは人数を集めたい。
──現在イベントとして目標にしていることってありますか?
わたし「イベントとして」って考え方ができないんですよ。多分、お金より夢が好きなんでしょうね。とにかくお客様にはその夢=非現実を体験して欲しいとは思ってます。あと、夢っていう意味では、月1回の「毒蟲」が終わることで、メンバーの夢を見る力が試されると思います。「あれがしたい」「これがしたい」っていうパワーを、どれだけぶつけて来るか。楽しみですね。
なかでもおじさんは強いですよ。なんで強いかって、それは私も含めてなんですけど、実はみんな1999年に世界が終わると思ってたんです。だから現実的なことなんて考えても無駄だと思ってたし、それまでの時間をどれだけ楽しく過ごせるかってことしか考えてなかった。でも、(世界は)終わらなかった。そうなったらもう、楽しくやるしかないんですよ(笑)。
──当時の「世紀末」感は、毒蟲の世界に通じるところがありますね。
なんでも許されていたし、狂っていたし。みんなあの頃は楽しかったはずですよ。これからやる「お祭」も、あの感じを味わえる夜にしたいですね。
──と、その前に「毒蟲」の最終回がある訳ですが、こちらはどうなりそうですか?
「毒蟲」を「毒蟲」として作り上げてきた人たちが、「毒蟲」としてやり残したことをやるんじゃないかと。自分たちが作ってきたっていうプライドって皆あると思うし、今の自分の精一杯が見れると思う。あと二回しかないのであれば、思いっきりやりたい。
田実 この二回で、毒蟲のほぼ全てが観られます。だから、今まで気になっていたけど来れなかった人っていると思うんですが、そういう人はなんとしてでも来るべきですね。
そして6月には、今年引退かと言われていたサスペンションのなみきが、復活します。……ということはつまり、序曲なんです。始まりのための終わり。これは、エピローグにしてプロローグです。
Live info.
5/10(月)
「毒蟲49」
6/10(木)
「毒蟲50」
@LOFT/PLUS ONE
OPEN & START 18:30
男性♂ 6,000yen/女性♀ 3,000yen
カップル♂+♀ 7,000yen(1drink)
ADD or WF / -500yen
<information>
オフィス☆毒蟲
090-6489-1343
office-dokumusi@t.vodafone.ne.jp
※このイベントは都条例により18歳未満の方の入場はできません。当日入場の際に身分証(免許証、学生証、社員証、パスポートなど公共機関が発行する証明書)の提示が必要となります。撮影は禁止とさせていただきます。ご了承下さい。
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