ギター バックナンバー

小谷美紗子('10年5月号)

小谷美紗子

愛する者にありったけの思いを込めて捧げた“言葉のない手紙”


 オリジナル作品としては約3年振り、玉田豊夢(ds)、山口寛雄(b)とのトリオ編成による作品としては4作目となる小谷美紗子の『ことの は』は、滋味豊かな日本語の響きの美しさに徹頭徹尾こだわり抜いた逸品である。これまで部分的に使われていた英詞を廃して紡ぎ出された“言の葉”は至って簡潔だが、その記名性の高い歌声と有機的なアンサンブルが相俟って、聴き手の感受性を触媒にした喚起映像はまるで万華鏡のように煌びやかに輝く。収録された楽曲にはどれも、満身創痍になりながらも愛する者を庇うべく全力でエールを贈らんとする“思い”が充満している。それはまさに『手紙』という楽曲で言うところの“言葉のない手紙”であり、届けたい思いの丈はとどのつまり、すべては届かない。思いが過剰に溢れる時ほど、愛が深ければ深いほど、相手には伝わりづらいこともある。それでも小谷は、どれだけなしのつぶてだろうがありったけの力を込めて思いを届けようとする。自身と相手を信じる無償の愛を心の支えとして発せられる言葉とメロディ、つまり“言の葉”にこそ真実が宿ることを彼女はよく理解しているのだ。真実は人の心を射抜く。小谷美紗子の歌が常に凛然としているのは、極寒の冬の如き真実の厳しさや重みと対峙し続けているからであり、大事なことはいつだってヒリヒリした痛みの中にあることを『ことの は』は教えてくれるのである。(interview:椎名宗之)


日本語を大事にして歌詞を書いた

──『Out』から約3年のインターバルが置かれたのは、必要に駆られてのことだったんですか。

小谷:ザ50回転ズとかいろんなバンドと一緒にイヴェントもやったし、アルバムはリリースしていないけどツアーもあって、何やかんやとやっているうちに時間が経ってしまったんですよね。

──9mm Parabellum Bulletや凛として時雨といった毛並みの異なるバンドとの一騎打ちもありましたけど、受ける刺激も強かったですか。

小谷:刺激と言うよりも、お客さんの反応が純粋に楽しかったですね。イヴェントの主催者側とお客さんは意思の疎通が自然とできていると言うか、“毛皮のマリーズ/小谷美紗子”と並べても別に不思議じゃないと思ってくれているんです。それが不思議じゃないということは、私たちトリオの核の部分をちゃんと感じ取ってくれていると思うんですよ。だからイヴェントに呼んでくれるんだろうし、同じようにお客さんも“なんでシンガー・ソングライターが対バンなんだ!?”という反応が全然なく受け入れてくれて、大事なことはちゃんと伝わっているんだなぁ…と実感できましたね。

──1月には我が新宿ロフトでoutside yoshino、向井秀徳アコースティック&エレクトリックと共演するプレミアムなライヴを披露して下さいましたね。

小谷:送られてきたタイムテーブルを見たら、持ち時間が60分ずつだったんですよ。お客さんはずっと立ちっぱなしだし、これはいくらなんでもしんどいだろうと思ったので、私だけでも短くしたいとロフトに伝えたんです。そしたら50分ずつになったんですよ。それでも長いくらいでしたけど、最後までお客さんが残ってくれて良かったです。

──ちなみに、あのライヴで初めてロフトにグランド・ピアノが導入されたんですよ。

小谷:いつもお願いしている調律師さんがいて、その方に来て頂いたので音は問題なかったんです。実はその1日前までがレコーディングの歌入れで、1日3曲を朝の5時まで唄う生活をしていた後のライヴだったんです。さすがにもう声がかすれるかなと思ったんですけど、そのライヴの日がピークで、声が凄く出たんですよ。声が大きすぎて“ピアノがちっちゃい! 鳴らない!”と思ったんですが、声を下げようとすると力が抜けちゃうんですよね。言葉は気合いだし、力を抜くと生温いものになるので。だから、ほとんど声しか聴こえていないと思いつつも、そのまま唄い上げるしかないと腹を決めたんですよ。

──なるほど。ロフト出演直前まで唄い込んでいた今回の『ことの は』ですが、このアルバム・タイトル、よく見ると“ことの”と“は”の間に空きがありますね。

小谷:意外と“ことのは”(言の葉)という言葉を知らない人が周りに多くて、“コトノワ”って読み間違えられるんですよ。その後に文章が続くような感じで。だからちょっと空きを入れたんです。

──“ことのは”は“言葉”以外に“和歌”という意味もありますね。

小谷:そうなんですよ。言葉と歌という意味だし、自分がやっていることを判りやすく言い表した言葉だなと思ったんです。今回は日本語を大事にして歌詞を書いたし、その意味も込めてアルバム全体が出来てから付けたんですよ。

──言われてみれば、本作には部分的に英詞が入る楽曲はひとつもありませんね。

小谷:英詞は今回、まるでないですね。ギャル語に立ち向かうために(笑)。若い人が使う変わった言葉は自分も冗談交じりで使うこともあるけど、たとえば小学生の女の子が“わたしわ”みたいな言葉を使っているのをよく目にするし、それが日本語として間違っていることを判った上で使っているのかな? と思うことが多いんです。だからこの辺で、まず私が自分から日本語を大事にしようと思って。

──ここ数年の作品では『Rum & Ginger』や『消えろ』などがいい例ですが、英詞はメロディに乗りやすいだろうし、全編日本語詞で挑むのはなかなか難しかったのでは?

小谷:それが意外とすんなり行ったんですよ。『日めくり』は後から歌詞を付けたんですけど、自分が自然と出しているメロディに“これしかないな”と思える言葉がどんどん付いていったんです。

相手に思いを伝えることが重要

──『日めくり』の歌詞の一言目は“引裂羽織”という古式ゆかしい言葉で、武士が馬に乗って駆け抜けていく疾走感も性急なサウンドから感じましたが。

小谷:ああ、武士っぽいイメージがありますか? “引裂羽織”は馬に乗る時に着る、背中の下半分を縫い合わせていない羽織ですからね。

──トリオ編成以降の作品ではいつも鉄壁のリズム隊の演奏に舌を巻きますが、この『日めくり』でのドラムとベースも尋常ならざるテンションと緻密さが共存していますね。

小谷:『日めくり』は特に、曲の書き方として新しい試みをしているんです。いつもは私が頭の中でメロディを思い描いて曲を作るんですよ。だいたいはピアノと一緒に作るんですけどね。それがこの曲は、ドラムのフレーズを先に決めてから作ったんです。トム君(玉田豊夢)に何パターンか録ってもらって、その中から良さげなものを選んだんですよ。ドンダンドンダンドンドダン…っていうリズムは4分の4拍子で叩くのがオーソドックスだと思いますけど、それを敢えて8分の12で叩いているんです。

──『日めくり』は、小谷さんがファルセット・ヴォイスで唄い通しているのも新機軸ですね。

小谷:全編ファルセットで唄うのは今までやっていなかったんですよね。ファルセットは地声よりも弱くなるけど、尖った雰囲気もちゃんと出せるだろうと思ってやってみたんです。

──この『日めくり』のように、辛酸を舐めても砂を掴んで立ち上がる姿勢が本作に通底していますが、明日へ希望を託す前向きさを全体的に感じますね。

小谷:友達が災難に遭って、何とか励ましたかったんです。その気持ちを歌にしたまでなんですよね。ここ数年は、自分にとって大事な人を自分なりの言葉や歌で何とか元気づけられたらいいなと思っているんですよ。そういう歌は、私の友達じゃない人が聴いても勇気づけられたり、気合いが入ったりするんじゃないかと思うし。

──友達を励ますことが創作のヒントになり得たと。

小谷:そうですね。“あ、私、今いいこと言った!”みたいなことを友達に言いながら(笑)。

──「君は真冬のひまわりだよ!」みたいに?(笑)

小谷:“私はなんていいことを言うんだろう?”なんて思いつつ、説教をしてみたり(笑)。

──『日めくり』の“ハ、ハ…”や『手紙』の“ラ、ラララ…”といったフェイクの部分がありますけど、ああいう言葉にならないところにこそ歌の大切なエッセンスが凝縮しているように思えるんですよね。

小谷:凄く極端なことを言えば、全部“ラララ…”で唄いたいくらいなんですよ。言葉が要らないくらいに魂を込めて、自分が今何を感じているのかを曲で表現することが好きなんです。だから、“ラララ…”とかの余白の部分や唄っていない部分はいつも大事にしていますね。

──ちゃんと気持ちを込めれば、“ラララ…”だけでも充分に思いは届くでしょうし。

小谷:そこは自分に凄く自信があって、同じ「ありがとう」でも「さようなら」でも唄い手として深い意味を込めて届けられると自分を信じているんです。だからこそ、プロの作詞家っぽく難しい言葉を使うことなく今まで歌詞を書けてきたんじゃないかなと思いますね。

──そうした作風が本作でいよいよ極まった感はありますよね。どの楽曲も平易な言葉が使われているし、聴く側ののりしろが増えたと言うか。

小谷:歌詞を書く時は、全体を上手く整えることよりも自分が向けて唄っている相手に思いを届けることが重要なんです。そういう時は無心で書いているし、ありのままの言葉しか出てきませんね。

──トリオの演奏がとても雄弁だから、殊更に小難しい言葉を並べなくてもいいように思えますね。

小谷:演奏がしっかりしているのは大前提ですけど、だからって言葉は何でもいいというわけじゃないんです。“私なら同じ「愛してる」でもこういうふうに唄うよ”っていう色付けができる自信もあるし、必要以上に説明は要らないとは思っていますね。

信頼関係があるから任せられる

──小谷さんの声は記名性が高いし、それも歌の説得力が強い大きな要因のひとつなんでしょうね。変幻自在、七色のその歌声が。

小谷:『空の待ち人』はオクターブ下で声を重ねているんですけど、“どれだけ低いんだ!?”っていうくらい低い声なんですよ(笑)。

──ああ、僕はてっきりリズム隊のどちらかがコーラスを入れているのかと思っていました(笑)。『空の待ち人』はいにしえのハード・ロック的ニュアンス…個人的にはレッド・ツェッペリンの『カシミール』を連想しましたけど、荘厳な雰囲気のある楽曲ですね。

小谷:『日めくり』と『空の待ち人』はドラムから作った曲なんですよ。

──やっぱり。前作で言えば『fangs』みたいに、ユニークなリズム・パターンの楽曲が必ず1曲はアルバムに入りますよね。

小谷:『空の待ち人』では敢えてピアノを弾いていないんですけど、それでどこまで唄えるのかという試みもあったんですよ。“こういうメロディを付けよう”というよりも、“こういう歌詞を付けよう”という意識のほうが先にありました。昔からずっと一緒に過ごしていた犬が死んでしまって、その犬に向けて曲を書きたかったんです。いろんな人が60年代、70年代のバンドみたいだって言うんですけど、私はそういうのを全く知らないからイメージが湧かないんですよ。あのドラム・パターンを最初に聴いて、私は大地とか地響きを感じたんですよね。大地から空に向けて一生懸命祈りを込めるイメージなんです。

──山口さんのベースから始まる楽曲はなかったんですか。

小谷:今回はなかったですね。『Out』の収録曲や『Who -08-』もそうなんですけど、ギターが入っているように聴こえるという声が多くて、そこは本人も苦労した甲斐があったんじゃないかと思うんです。ベースでは考えられないようなことをヒロ君にはいつもやってもらっていて、本来ならベーシストにお願いしないようなことを私は平気でお願いするんですよ(笑)。ギターみたいな音を出してもらったり、ベースと歌だけで1曲やってみたり、無理なことをお願いしてもできてしまうから、前作で達成感みたいなものがあったんじゃないですかね。

──期待以上の成果が出るから、ボールの投げ甲斐がありますよね。

小谷:そうなんですよ。最初はいつも「無理、無理」の一点張りなんですけど(笑)。

──トリオ編成初の作品『adore』がリリースされたのがもう5年前のことですから、阿吽の呼吸なんでしょうね。

小谷:5年? そんなに経ったなんて、全然そんな感じがしませんね。

──今もずっとフレッシュな気持ちで臨めている証拠じゃないですか。

小谷:そうですね。もっともっとライヴをやりたい気持ちがあるし、いつも新鮮です。

──勝手知ったる仲だし、プリプロもレコーディングも手際良く進む感じですか。

小谷:早く済ませざるを得ない面もあるんですけど、仮に時間があっても早いのかもしれませんね。プリプロで一番時間が掛かるのはドラムなんです。いつもヒロ君の自宅でプリプロをやるんですけど、そこはドラムがないので、鍵盤でドラムを作っていくんですよ。それがとにかくややこしいんです。“ここは本来キックなのに、なんで手でやらなくちゃいけないんだ!?”みたいな(笑)。馴れている人ならたやすいことなんでしょうけど、トム君は小谷美紗子のプリプロの時しかそんなこともやらないし。

──曲作りは、小谷さんが用意した設計図を具現化していくケースが多いんですか。

小谷:私は曖昧なことをけっこう言うんですよ。ベースは「こういうフレーズにして欲しい」とか「さっきチラッと弾いていたのが良かったから、それにして」とか具体的に言えるんですけど、ドラムはプリプロで出来たものに対して「ここはこういうフィルがいいんじゃないの?」とか言うくらいで、まず任せるんです。絶対の信頼関係がありますから。

──トリオ編成以外の形態を試みたい欲求はありませんか。たとえば、オーケストラと組んでみたりとか。

小谷:やりたいですね。オケともやりたいし、ピアノ・デュオもやってみたいです。連弾ではなく、ちゃんと2台で。ギターと歌だけでもやりたいし、やりたいことはいっぱいありますよ。

“悪い人”と“ずるい人”の違い

──その中で、トリオ編成はホームグラウンドであると。

小谷:そうですね。トリオが軸としてあった上で弦カルが入るとか、トリオにオルガンが入るとか、そういうのを曲によってやってみたいですよね。ただやっぱり、曲を作ってみるとベースとドラムがちゃんと聴こえたほうがいいなと思うことが多いんですよ。だから、自然と「今回もギターはなしで」みたいなことになるんです。

──小谷さんの歌声が引き立つアンサンブルは本作が過去随一だと思うし、それはこのトリオ編成ならではの妙味なんでしょうね。

小谷:それは良かったです。全体のバランスで、けっこう歌を下げているんですよ。「ちょっと下げすぎじゃないか?」と言われることもあるんですけど、自分の声は絶対に埋もれない自信があるんです。他の楽器も全部聴こえている中で歌もしっかりと聴こえるのがいいんですよね。

──『青さ』や『手紙』はすでにライヴで披露されていることもあるのか、小谷さんの堂に入った歌声が堪能できますね。

小谷:『日めくり』や『空の待ち人』には頭から最後までストーリー性がありますけど、『青さ』はどこかの言葉が響くように、パズルっぽく言葉を散らしてあるんですよね。それ以外の部分では曖昧にしながら、聴く人の想像力を掻き立てると言うか。“これは何のことを唄っているんだろう?”と関心を持たせつつ、サビで“こういうことなのか”と思わせるような作風に敢えてしているんですよ。それと、この『青さ』は、曲をプレゼントした本人が一番伝わるように作ったんですよね。

──純真な心を失いつつある身としては、“ずるいことを許さない青さ”というフレーズが身に染みて仕方なかったです(笑)。

小谷:私もずるい自分がイヤになる時はありますよ。ただ、ずるくないことが格好いいみたいな風潮がありますけど、ずるいことは汚いことだと自分でちゃんと認められればいいと思うんです。私の友人がよく言うのは、「悪い人は許せるけど、ずるい人は許せない」と。それは私の信条でもあって、凄く共感できるんですよ。そのまま歌詞にしたいくらいです(笑)。

──振り子の論理で、さんざん悪事を働いた人はそのぶんだけ善人になれるかもしれないけど、ずるい人は悪人にも善人にもなれない中途半端な人間ですからね。

小谷:うん、そういうことですね。

──『手紙』の中に大統領選挙みたいな足の引っ張り合いをする世間に矛先を向けた歌詞がありますけど、そういう小ずるい大人ばかりだから若い世代が幻滅して文化が成熟しない側面はあるでしょうね。

小谷:インターネットという新たな世界が出来上がってから、自分の名前や顔を明かさずに非難や中傷をする人が増えたのもありますよね。名前を出さなくていいなら、ずるいこともしちゃおうみたいな。そういうのが広まっている気はしますね。

──そんな小谷さんがUSTREAMで本作の全曲試聴会をやるなんて思ってもみませんでしたが。

小谷:ツイッターと連動してやったんですけど、目に見える反応があって凄く面白かったですよ。ああいう試みは意外に思われるかもしれませんけど、ホームページがある時点でデジタルを否定するような前時代的な発想はないし、新しい試みは受け入れるようにしています。ブログとかツイッターも、歌は判るけど私の人となりが全く判らないという人にとっては意味があるんだろうなと思うし。

──小谷さんのパブリック・イメージはどんなものなんでしょうね。僕は“質実剛健”とか“真摯”という言葉が浮かびますけど。

小谷:どう思われているんでしょうね? 最近は言われなくなりましたけど、『night』とかトリオになる前の頃はとにかく怖い人間だと思われていたみたいですね。『オールナイトニッポン』のディレクターの方に「小谷美紗子と言えば“怖い”というイメージしかなかったです」と言われたこともあるし(笑)。

──『まだ赤い』や『Rum & Ginger』といった男子を震撼させる楽曲のインパクトが強いからでしょうか(笑)。

小谷:全然怖くなんかないですよ。まぁ、デビュー当時は相当イライラしていましたけどね(笑)。




時間を掛けて届けたい『手紙』

──昭和のスター幻想みたいなものはとっくに皆無ではありますけど、公人がツイッターをやることでこれまで以上にプライヴェートが明け透けなものになるじゃないですか。そういう側面についてはどう考えていますか。

小谷:私の場合、自分の好きなアーティストがどういうものを食べているかとか、そこまでは知りたくないんですよ。自分がイヤだなと思うことはしませんね。そういうシンプルな判断で動いています。

──小谷さんのパーソナリティは歌と直結しているわけだから、ブログやツイッターの更新を盛んにする必要はあまりないのかもしれませんね。

小谷:そうですね。あと、ブログは一度スタッフが確認してからアップしているからまだいいんですけど、ツイッターはうっかり失言したら話が瞬く間に広まって大変なことになるじゃないですか。だから余計なことは言わないでおこうと思うけど、当たり障りのないことばかりをつぶやいても面白くないし、ちょっとした毒みたいなものは盛り込みたいですよね。笑える程度の毒はたまに吐きたいです(笑)。

──今、“毒”と仰いましたけど、本作には男子を震撼させるような毒の含まれた楽曲がありませんね(笑)。

小谷:誰かに裏切られるような事件がなかったからじゃないですかね。それよりも人を励ますことが多かったので。ただ、判りやすい毒ではなく、自分でも“こんなこと書いちゃってもいいのかな?”と思う言葉を敢えて書いた部分もあるんですよ。実はそっちのほうが猛毒だと私は思うんですけど。

──たとえばどの部分ですか。

小谷:『手紙』の“もう神様はいないんだろう”というところとか。それを唄う以上、自分にも責任が背中に重くのし掛かるだろうし、覚悟の要る言葉ですね。

──でも、その後に唄われる“大切な人の幸せ 願うこと そのものが神さ”という歌詞は真理だなと思いましたよ。

小谷:“神様はいない”だなんて、敬虔なクリスチャンにとってはとんでもない言葉でしょうけど、いろんな人がいろんな神様を信じていいと思うんですよ。でも、身近なところで神様というものを考えると、“もう、神様なんておらんのちゃう? なんで願いを聞いてくれんの!? なんでそんなに酷いことすんの!?”みたいに感じたりするわけです。そういう身近なものであってもいいんじゃないかと思って。

──『ことの は』と題されたアルバムの最後の曲で“言葉のない手紙”という文言が歌詞にあるパラドックスも面白いですね。形にはないけど心にちゃんと残るという意味で言えば、“言葉のない手紙”とは音楽そのものなのかもしれませんし。

小谷:それはさっきの“ラララ…”の話に繋がるんですけど、『手紙』の歌詞はホントはもっと長くて、言いたいことがいっぱいあったんです。でも、最後はサビの“ラ、ラララ…”に集約されるんですよね。面と向かって言いたいことはこれっぽっちも言えずに、結局は“言葉のない手紙”みたいだという。それが“思い”なんですよ。

──“思い”は溢れすぎて形にはできないけれど、心の拠り所は自分とあなたを信じていることにあると。これ、掛け値なしの名曲だと思いますよ。

小谷:ありがとうございます。自分でも何十年かに1曲書けるかどうかの曲だと思うので、ちょっとずついろんな場所で唄って思いを伝えていきたいですね。この曲の歌詞を書いている時に実際に列車から見た景色…人里離れた所にぽつんと家があって、そこに見知らぬお婆ちゃんがいたんですけど、そういう所にまで届くように時間を掛けて唄い続けたいです。それこそ、自分がお婆ちゃんになるまで。初めてそういうふうに思えた曲ですからね。今までなら「この曲のメッセージは世の中に届かないと意味がないから、タイアップを取ってきて!」みたいなことをスタッフに言っていたんですよ。「『プロジェクトX』がいいな」とか生意気なことを言って(笑)。でも、この『手紙』は何十年も掛けて、人づたいに「この曲、凄くいいよ」って浸透させていけたらいいなと思いますね。

1年に1曲が自分にとってスムーズ

──本作のリード・チューン的なニュアンスもある『線路』はタイトルからしてそのものですが、列車の道程を人生になぞらえているわけですね。

小谷:『手紙』は自分の家族に向けて書いた曲なんです。京都の田舎に家族を残して東京へ戻る時はやっぱり凄く感慨深いし、そういう時に曲を書きたくなることが多いんですよ。『手紙』も列車に揺られながらメロディと歌詞を同時に書いたんです。『線路』に関して言うと、私はバスや車の移動が多いんですよ。唯一、自分が電車に乗ってまで頑張って行こうと思えるのは、『青さ』を書いた友人の住む茨城の家なんです。その電車に乗って改めて感じるのは、みんなの生活と凄く密着している乗り物なんだなと。

──いろんな人が乗っていますからね。我先にと人を押し退けて席に座る大人もいれば、高齢者や妊婦に席を譲る若者もいるし。

小谷:感動と落胆の両方がありますよね。落胆させられる若い人の姿を見ることもありますけど、私たちの両親の世代が私たちに対して“もう世も末だな…”と感じたのと同じ程度ならまだいいと思うんです。でも、最近は感情を表に出さなかったり、物事を簡単にやめる若者が多いとよく聞くし、そういうのはゲームばかりやっている弊害なのかなと思ったりもしますね。電車の中でもゲームをやっている人が多いじゃないですか。

──ゲームをやる暇があったら、小谷さんのライヴに足を運んで欲しいですよね(笑)。今年はライヴも精力的にやっていく予定ですか。

小谷:そうですね。7月にはツアーもあるし、他にイヴェントもありますし。

──小谷さんが主催する定期イヴェントを今後是非やって欲しいですね。

小谷:せっかくいろんなバンドが応援してくれているのに、私自身が声を掛けるようなイヴェントはやっていないんですよね。何と言うか、自分が姐御的な立場になって仕切るのが想像できないんですよ(笑)。「この人とあの人を呼んでライヴをやってみたい」とスタッフに言うだけでもまた違うのかもしれませんけど。「あとはよろしく!」みたいな(笑)。

──以前、玉田さん、ブッチャーズの田渕ひさ子さん、イースタンユースの二宮友和さん、100sの池田貴史さんという布陣で“odani misako・ta-ta”を組んだように、人脈面でのプロデュース能力も小谷さんにはあるじゃないですか。そこから生まれる化学反応もあるだろうし、小谷さんがプロデュースするイヴェントはきっと面白いものになると思うんですよね。

小谷:そうですね。最高のプレーヤーが身近にいてくれているんだから、やらない手はないなと思いますね。やってみようかな、イヴェント。タイトルは“あとはよろしく!”にして(笑)。

──それと、ミニ・アルバムが続いたので、ぼちぼちフル・アルバムも聴きたいところですね。

小谷:来年の1月くらいまでに出すことを目標に、頑張ります。

──目下、曲作りはスムーズにできているんですか。

小谷:今回もパパッと作れたし、他にも曲はあったんですけど、どうなんですかね。自分にとってのスムーズというのは、デビュー・アルバムがそうだったんですけど、1年に1曲くらいのペースなんですよね。それが一番のスムーズなので、今は“こんなに出しちゃっていいのかな?”っていう感じなんですよ(笑)。

──じっくりと熟成期間を置いてから世に送り出したいと?

小谷:先にライヴで何度も唄ってからレコーディングするのがいいですね。唄う力や歌詞を読み込む力というのは、曲が出来てすぐにレコーディングするよりも、実際に何度か人に対して唄ってみた後のほうがより発揮できるんですよ。そういうスタイルが自分では気に入っていますね。

──リリースに際していろいろと制約はあるんでしょうけど、然るべき熟成期間を経て、小谷さんが納得の行く作品を是非期待したいですね。

小谷:はい。納得しないと出さないですから。その辺はお客さんも信用して頂いて大丈夫です。



『ことの は』

01. 日めくり
02. 青さ
03. 線路
04. 空の待ち人
05. 手紙
HIP LAND MUSIC RDCA-1014
1,600yen (tax in)
2010.5.12 IN STORES

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Live info.

ARABAKI ROCK FEST. 10
5月1日(土)みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく

祝春一番2010
5月3日(月)大阪 服部緑地野外音楽堂

“alternative soloist”vol.2
6月4日(金)代官山 晴れたら空に豆まいて
with:suzumoku/代々木原シゲル/高橋 優/ノグチサトシ

小谷美紗子 Trio Tour 2010 ことの は
7月20日(火)名古屋CLUB QUATTRO
7月21日(水)心斎橋CLUB QUATTRO
7月27日(火)渋谷duo MUSIC EXCHANGE

小谷美紗子 official website
http://www.odanimisako.com

小谷美紗子on Twitter
http://twitter.com/odanimisako

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