ギター バックナンバー

THE COLLECTORS('10年4月号)

THE COLLECTORS

鏡に反射した青春の光が導く明るい未来


 スタイリッシュでクールでファニーでポップでアダルトでカラフルでロックでモッドな魅力が充ち満ちて溢れ出し滴る最強で最高のロック・バンド、ザ・コレクターズ! 前作の大名盤『東京虫BUGS』から2年振り、通算17枚目となるオリジナル・アルバム『青春ミラー(キミを想う長い午後)』が遂に完成! 待ってました!
 リーダーでヴォーカリストでソングライターの加藤ひさしさんと、ギタリストの古市コータローさんに、またも大名盤となった今作にまつわる秘密、そして、いつになってもドクドクと溢れ出し続ける格好良さの秘密を語ってもらいます! 加藤さんは今年50歳になるんですって! 信じられない! 本当ですか!?(interview:宮城マリオ/エアギタリスト)


アナログ・ディレイはミラーに反射した残像

──今作でまず目を引いたのが、加藤さんがゆがんだフェンダーを抱えたジャケットなんですけど…。

加藤:いきなりマニアックなところから突くね(笑)。コータロー&ザ・ビザールメンの取材を『ギター・マガジン』で受けた時に阿修羅さんっていうイラストレーターの家に行ったら、床の間に飾ってあったギターなんだよ。俺たちを驚かせるために。それが忘れられなくてね。最初はアコースティック・ギターか何かを持って鏡でゆがませて撮ろうとしたんだけど、今はマックで簡単に画像処理ができちゃうじゃない? だったら超レアな曲がってるギターを持って、それをさらに曲げたほうが面白いんじゃないかと思ってね。

──パッと見、ゆがんだ鏡に映っているように見えますよね。

加藤:うん。判る人にはかなりツボな“BENDER Distortorcaster”というギターだよ。

──このジャケットの出来映えを見て、作品を聴く前から“これは間違いないな”と思ったんですよ。聴いてみたら、まさにその通りで。

加藤:ああ、そう言ってくれると嬉しいね。

──1曲目のタイトル・チューン『青春ミラー(キミを想う長い午後)』にはギターのディレイが掛かっていて、そのちょっとくすんだ音色が印象的なんですよね。

加藤:ミラーに反射した残像のイメージがあの音なんだよね。そのミラーも上手いこと映っていない感じが出ていていいんだよ。

──途中のソロで、高音が時折キラキラするのもいいんですよね。

加藤:そうそう。俺はあそこにフランジャーを掛けて、もっとグニャグニャにしようと思っていたんだけど、あれはやらなくて良かったね。ナチュラルなまま進んでいって、たまに倍音が出てキラッとするのがいいんだよ。

古市:あれは、80年代の初頭か70年代の終わり頃のマクソンのアナログ・ディレイなんだよね。

加藤:そのディレイでリハをやっていて、レコーディングの時はデジタル・ディレイを使ってキラッとした音にして、尚かつ音の分離もいい感じにしようと思っていたんだよ。でも、コータロー君がリハでそのアナログ・ディレイを使っているのを聴いていたら、そのディレイが好きになっちゃってね。ちょっとモヤッとした感じがあってさ。

古市:あのディレイを差し替えて録ると、昔で言うデモ・マジックになっちゃうんだよね。

加藤:そうそう。デモ・テープは凄い格好良かったのに、本番で録ったらしょぼくなったってよくある話だよね。コータロー君がレコーディングした時も同じマクソンのディレイを使ってアンプで鳴らしたんだけど、プロデューサーの吉田 仁さんはそれとは別にラインでギターの音を拾って、それを後からデジタルで加工して音を作ろうと最初は思っていたみたい。でも、運がいいのか悪いのか、エンジニアがラインで録るのを忘れてたんだよね。それでもディレイが掛かったままのラインの音っていうのが残っていて、それをいろんな音質で試してみたんだけど、やっぱりあのアナログ・ディレイの音には敵わなかったんだよ。

──あのディレイがほろ苦い青春を追憶する楽曲の世界観とよく合っていますね。

加藤:そうなんだよね。まさに瓢箪から駒って言うか、面白いなと思ってさ。

古市:名盤にはそういう逸話が付きものだからね。

加藤:こっちは差し替えする覚悟だったんだけど、今思えば、コータロー君のプレイにライヴ感があって良かったのかなと思ってね。今回は特に、小手先の技術に頼らずにその時のパッションや偶発性を出そうとしたんだよ。そのほうが誰にも真似できないものになるし、新鮮なサウンドになると思ったから、エフェクティヴなことは敢えてしなかったんだよね。

──1曲目からいきなり7分ちょっとの大作じゃないですか。でも、アンサンブルと構成が巧みなせいか意外とサラッと聴けるし、アルバムの導入部としても申し分ないんですよね。

古市:長く感じないでしょ? 『Hey Jude』が短く感じるのと同じだよ。

加藤:やっぱり、いい曲ってどれだけ長くても短く感じるものなんだよね。年末に藤井フミヤ君の企画で武道館でライヴをやらせてもらったんだけど、ああいう所で『青春ミラー』みたいな曲をやったら相当格好いいだろうなっていうのをイメージしながら作った曲でもあるんだよ。武道館に似合うスケールの大きな曲を作れば、いつか自分たちも武道館で単独ライヴができるんじゃないかなって言うかさ。

──まさに“イメージ・トレーニング”ですね。

加藤:ホントにね。コータロー君のギター・ソロのところでレーザー光線が飛び交うわけだよ、武道館の中を(笑)。そういうのをイメージして作ってみた。

大人なのに枯れないのがコレクターズの魅力

──アルバムの制作はいつ頃から取り掛かったんですか。

加藤:去年の12月から始まって、録り終わったのは3月の頭。

──つい最近じゃないですか(笑)。

加藤:今はライヴをよくやっているからね。以前はレコーディングするために2ヶ月時間を取ることもできたんだけど、今はそういう状況じゃないから、レコーディングとライヴを交互にやっていくしかないんだよ。そうなると、どうしてもこれくらいの時間が掛かっちゃうんだよね。

──サリンジャーが亡くなったのは1月27日だったし、『ライ麦畑の迷路の中で』みたいな曲をよく差し込めたなと思って。

加藤:そう、あの曲は歌詞を書き換えたんだよ。最初は違う歌詞で唄おうと思って、頭の3、4行くらいを書いていたんだけど、サリンジャーが亡くなったのを知って急遽書き換えることにした。ロックンロールだからタイムリーなことを唄いたいからね。ツイッターが流行ればツイッターのことを唄ってみたりさ。

──『twitter』ですね。これ、ツイッターをテーマにした最初の曲なんじゃないですかね。

古市:多分そうなんじゃないかな。ただ、この曲はメロディも難しくて速いから、唄うのに苦労したよ。詰まったら一巻の終わりだし、ライヴで初披露するのが怖いよ。カンペを見れるスピードじゃないしさ(笑)。

──ツイッターって年内にブームが終わると言われているし、抜群のタイミングですよね。

加藤:抜群だね。しかも、この小馬鹿にした感じがいいよね(笑)。でも、そういう旬なものを唄えるのがロックンロールじゃない? 来年唄ったら古くても全然いいわけでさ。

古市:どうせまた違ったコミュニケーション・サービスが流行るんだろうから、“twitter”のところを変えて唄えばいいんだよ。数年前は“mixi”だったわけじゃない?

──『エコロジー』も時事性を唄った歌ですけど、『Nick! Nick! Nick!』みたいな説教臭くないメッセージ・ソングと相通ずるものがありますよね。

加藤:今回のアルバムは初期っぽいって凄いよく言われるんだけど、そういうところなのかな?

──コレクターズは枯れた境地に行かないって言うか、今作も全体的に瑞々しい楽曲が多いじゃないですか。

加藤:確かにね。意識してそうしているわけじゃないし、俺やコータロー君はクラプトンとかシブいのも好きだし、ミュージシャンってああやって枯れていくのも格好いいじゃない? でも、そういうのは自分には合ってないんだろうな。コータロー君、ストーンズってどうなの?

古市:ストーンズは枯れてないけど、新譜を出しても自分たちをコピーしてる感じがあるよね。

加藤:じゃあ、U2とかは?

古市:U2は俺、嫌いだから聴かない(笑)。

──ポール・ウェラーみたいな枯れ方もシビれますよね。

加藤:ああいう枯れ方も格好いいし、ああなっていけるならなりたいものだけど、コレクターズと自分には合ってないんだろうね。

古市:むしろ枯れたいと思ってるくらいなんだけどね。

──『青春ミラー』も『明るい未来を』も大人の歌で説得力がちゃんとあるのに、歌も演奏も凄く瑞々しいんですよね。若々しいっていうのとはちょっと違くて、大人なのに枯れていないっていうのがコレクターズならではだと思うんですよ。

加藤:そこがコレクターズの最大の魅力なんじゃないかな。いい歳した大人なのに、今流行っている音楽をやっているわけでもないのに、決してシブくはならないって言うか。

──最近のインタビューでも、プロデューサーの吉田さんがコレクターズを今っぽい音にしようとしたけどそうはならなかったと話していましたよね。

加藤:最近のアメリカのバンド、たとえばフォール・アウト・ボーイやオール・アメリカン・リジェクツみたいなパワー・ポップ系のバンドって、初期のコレクターズっぽいイメージがあるじゃない? でも、俺たちはどういう訳かああはならない。それは何故なんだろう? って仁さんと話したことがあるんだけど、要するにリズムの録り方が若い連中と違うんじゃないかと。ブルース・フィーリングみたいなものが今の子はないわけよ。コータロー君はブルースを散々コピーしてきたし、間の取り方が裏で入ってくるって言うかさ。

古市:ああ、なるほどね。

加藤:今の連中は頭からガン! って入るから、リズムがビッチリ合うんだって。でも、コレクターズみたいに古いロックが好きな連中は心なしか少し後ろにいるみたいな感じなんだよね。黒人音楽もそういうところがあるよね、いわゆるグルーヴって言われるものがさ。何かちょっと後ろにあるんだけど格好いいっていう、そういうのが身に付いちゃってるみたいだね。だから新しくは聴こえないし、今のティーンネイジャーがやってるアメリカのバンドみたいにはならないって仁さんが言ってたよ。興味深かったね。俺も自分なりに分析はしているつもりなんだけど、出てきた結果がこうなっている感じなんだよ。




成功のレシピが判らないから続けていられる

──とは言え、若い連中には高く飛んで深く沈む“トランポリン”を人生の暗喩として描くことはできませんよね。

加藤:若いうちから『トランポリン』みたいな歌を唄っていたら気持ち悪いよ。若いバンドは青臭いほうが最高に格好いいと俺は思うけどね。

古市:若い連中は“俺はただお前とヤりたいだけ”って唄ってたほうが格好いいよね。

加藤:そう、“G・I・R・L、ガールフレンド”って唄ってたほうがね(笑)。当然、経験なんて積んでないわけだから、あとは借り物の哲学をひけらかすくらいしかないよ。あまりに達観した歌を若いのが唄っていたら、余生はどうするつもりなんだよ!? って思うよね。

──閉塞感の拭えないこのご時世だけに、『明るい未来を』や『今が最高!』といったポジティヴなナンバーは尚のこと胸に響きますね。

加藤:打ち上げでバンドの連中と呑んでいて、愚痴を言ってるとホントに暗くなっちゃうからね。こんなに景気の悪い世の中でさ、いい話なんてそうそうないじゃない? それなのに、歌まで湿っぽくなったら唄っていて悲しくなっちゃうよね。ただ、『ラブ・アタック』みたいに敢えて明るく唄わない歌もあるよ。“ド・レ・ミ・ファ・ソラマデ飛びそうだ”なんて無責任な歌だと思うけど、こんな時代だからこそ無責任な歌が聴きたいと思ったんだよね。そういう部分でも、アルバムって時代に凄く反映されるよね。やっぱりロックンロールってそういうものなんだよ。その時代を映す鏡みたいなものなんだから。

──まさに“ミラー”ですね。ちなみに、曲のタイトルや順番はいつ頃に決まるものなんですか。

加藤:今回はかなり手こずったね。特に歌詞が。その時々でタイムリーなことを唄いたいから、毎回歌詞は手こずるんだけどさ。急にイメージが変わってツイッターのことやサリンジャーのことを唄いたくなると、それまで頭の中に浮かんでいたイメージを全部変えることになるんだよ。その作業が凄い大変なんだよね。ホントに締切ギリギリまで決まらないことが多くて、いつも大変。歌詞を書いたり、タイトルを考えたりするのが。でも、こればかりはもうしょうがないね。それが自分の作曲法だと思って諦めてるよ。メンバーもちゃんと歌詞を判っていたほうが感情移入できるとは思うんだけど、迷惑を掛けちゃってるところはあるね。歌詞が全く付かないまま“ラララ…”で演奏しなくちゃいけない曲もあるから。

古市:俺は正直、あまり気にしてないけどね。ライヴでやっていくと詞が化けることもあるだろうけど、最初に録る段階ではこっちもそこまで曲を知り尽くしているわけじゃないからさ。

加藤:『明るい未来を』はかなり早い時期に出来ていて、ライヴでも散々やってきたからレコーディングするのも早かったんだよ。その他にも『青春ミラー』、『エコロジー』、『Cold Sleeper』は2回ライヴでやってから録りに入ったわけ。ライヴでやると演奏は巧くなるからレコーディングも早いんだけど、何と言うか“サムシング”が出てこないんだよね。演奏も間違えないし、身体に染みついてるんだけど、何かが足りない。いい頃合いで録るのが凄く難しいんだよ。たとえば『青春ミラー』みたいな曲をライヴでやりすぎると、真ん中のコータロー君のプレイもスリルがなくなるんじゃないかと思う。本人は一生懸命ギリギリのところで弾いているから飛び越えるものがあるんだけど、馴れてくると小さくまとまってしまう。その見極めが凄く難しい。逆に、その場で初めて弾くと『青春ミラー』みたいにでっかい曲はまとまってこないし、誰かがどこかで間違えるものなんだよね。ただ、『青春ミラー』と『エコロジー』に関しては2回ライヴでやってから録るっていうのが功を奏したと思う。

──コレクターズほどのキャリアのあるバンドでもそういうものなんですね。

加藤:料理だってそうだと思うけど、毎日同じメニューを作っていても、その日の焼き加減とかで味が微妙に変わるでしょう? ライヴとレコーディングもそれと一緒で、成功のレシピが判らない。どれくらいの頻度でライヴをやってからレコーディングに入れば一番いいのか、とかさ。まぁ、判らないからこそ今もこうして続けていられているんだとは思うけど。

固有名詞を挙げることで歌詞がより伝わる

──歌詞が変わる前の『ライ麦畑の迷路の中で』はどんな歌だったんですか。

加藤:挫折していく感じと言うか、大人になりきれない感じを描こうと思ってた。だから世界観は似ていたんだけど、もっと具体的にしたかったんだよ。『ライ麦畑でつかまえて』を読んだ男が50歳を目前にしてサリンジャーの訃報を聞いて、自分の少年時代を思い返して、“あの頃と何が変わったのかな?”ってふと思うことを唄いたくなったわけ。サリンジャーを題材にしなくても伝えたいことは変わらなかったんだけど、固有名詞を使うことでより伝わるじゃない? 『ライ麦畑でつかまえて』を十代の頃に読んだ連中が感じた怒りみたいなものが。

──それは『イメージ・トレーニング』でジョニー・デップやタイガー・ウッズが出てくるのと同じような感じですね。

加藤:同じだね。時事ネタに近いと言うか、そのほうがフレッシュに唄えるんだよね。

──ジョン・レノンが『インスタント・カーマ』を1日で録音して、10日後に発売に漕ぎ着けたような鮮度の高さと言うか。

加藤:そうそう、ああいうスピード感が俺は欲しいわけ。俺は普遍的なテーマを唄うのが案外苦手で、その時々のニュースが日々生きていて一番面白いことだからさ。

──前作『東京虫BUGS』に収録されていた『たよれる男』でも、ジェームス・ボンドや甲本ヒロトを称えていましたよね。

加藤:あの時の作り方と似ちゃったんだけど、敢えてまたそういうのをやってみてもいいかなと思ってね。

──そういう部分でも若いバンドには出せない、ヴェテラン・バンドならではの遊び心を感じるんですよね。

加藤:まぁ、後進のバンドには今まで随分と貢献したと思うよ。コレクターズは『CANDYMAN』の頃から歌詞カードの上にコード譜を振っていたんだけど、いろんなバンドから「パクらせてもらいました」って散々言われたからね(笑)。ただ、歌詞カードの上にコード譜があると、歌詞が頭の中に入ってこないんだよ。コードがあることによって余計な情報が入ってきちゃって、歌詞の字面の持つ本当の意味が全然吸い込まれてこない。まだ耳で聴いているほうがいい。だからコード譜を振るのをやめにしたんだよね。

──僕も家でよくそのコード譜を見ながら唄っているんですけど、コレクターズが使っているコードって割とシンプルで、実際に弾くと凄く気持ちいいんですよね。

加藤:ギター・バンドはやっぱりそうじゃないとね。シンプルなコードなのに凄く格好いいっていうのが理想だしさ。

──さっき加藤さんが「普遍的なテーマを唄うのが案外苦手」と仰いましたけど、コレクターズには『世界を止めて』を筆頭に普遍的なラヴ・ソングも多いですよね。

加藤:それはやっぱり、『世界を止めて』が売れてそういうタイプの曲を求められていた部分もあるよね。世の中で売れるものはある程度の普遍性がないとダメだっていうシステムみたいなものがあったじゃない? 俺たちだって売れたいし、イヤな言い方だけど、ヒットは狙いたいからさ。オーディエンスも普遍的な曲を求めてくるし、それは凄く自然なことだと思った。俺は昔からビートルズが好きだったわけだし、普遍的なものを極端に排除するつもりもなかったしね。ビートルズなんて世界中でヒットしたバンドで、全然カルトじゃないわけでさ。彼らみたいになりたくてバンドをやっているわけだから、やっぱりみんなに受けたいんだよ。それがいつからかビートルズのある側面がとてもマニアックなものとして捉えられるようになって、ロックが高尚なものになってきたわけだけどね。この間、NHKの『ロックの学園』という番組でフミヤ君と一緒にRCサクセションの『トランジスタラジオ』を演奏したの。凄いシンプルな歌でさ、昔だったら「そんなシンプルな歌は恥ずかしくて書けねぇよ」なんて大人ぶったことを言っていただろうけど、ポップスってこういうものだよなと思って、ちょっと反省したんだよね。

──コレクターズのレパートリーも、充分シンプルでポップだと思いますけど…。

加藤:それでもまだ『トランジスタラジオ』ほどシンプルじゃないし、もうちょっと判りやすく作るのも手だよなと思ったね。別に判りにくいものを作ってるわけじゃないけど、もう少し間口の広がる作り方をすれば良かったのかなって思った瞬間もあった。そうやって日々いろんなことを感じているわけだよ、何年経ってもね。だから、いつまでも青臭いところや瑞々しい部分が残っているのかもしれない。

──“青春”って言葉は若い頃は抵抗感のあるものですけど、コレクターズが使うと凄くしっくり来るんですよね。

加藤:昔は凄く恥ずかしい言葉だったけど、今は青春に憧れちゃうからね。自分が歳を取っていくことを痛感するしさ。これも自然なことだから、別に隠す必要はないと思うけど。コータロー君だって酔う時間が早くなったからね(笑)。

古市:強肝剤を打って酒を呑んでるからね(笑)。



最終的には本人の根っこにある才能がすべて

──そういうやり取り、おふたりがやっているポッドキャスト『池袋交差点24時』みたいですね。

古市:お陰様で、誰に会っても「いつも聴いてます」って言われるんだよ。

加藤:みんな面白いと言ってくれて、あれでライヴの動員が増えたりもしたんだよね。自分で聴いていても笑っちゃうんだよ。年寄りだから何を喋ったか忘れちゃうからさ(笑)。

古市:うん、忘れる(笑)。でも、シビアだよね。音楽を掛けられないし、喋りの内容と間合いだけが勝負だからさ。

加藤:確かにね。ポッドキャストもいつ衰退するか判らないけど、俺はポッドキャストが21世紀を一番感じたかもしれない。YouTubeとかMySpaceとかいろいろあるけど、どれも決定打にはならないんだよね。20世紀はテレビに大量の情報が投下されて、そこでどれだけ多くの人たちに見せたかが売上と比例していたけど、今やそれが崩壊して、一個人のブログからじわじわ情報が伝播していく超個人主義の時代じゃない? ポッドキャストを始めて、そういう時代が変わる息吹をリアルに感じた。昔、NACK5で生の2時間番組をやっていたけど、その時だってポッドキャストみたいな反響はなかったよ。如何にみんなが自由な時間に聴いて、勝手に反応したいかを感じて驚いたね。投稿メールは世界中から来るしさ。しかもそこには声のいいアナウンサーも必要ないし、台本も要らないし、才能さえあれば面白いネタを書くシナリオライターも要らないわけで。

──今やUSTREAMで生の動画配信ができて、ツイッターでその反応がオンタイムで寄せられる時代ですしね。

加藤:それも度を超せば飽きられるだろうけどね。何でも早いだけがいいわけじゃないから。

──どれだけソフトウェアが進化しようと、肝心のハードウェア…つまり、おふたりの巧みな話術さえしっかりとしていれば、新たな時代の波にも対応できるんじゃないでしょうか。

加藤:最後はライヴという原点に帰るのと一緒で、どんなにいいアンプを使っていいセッティングをしたって、その人の持つ個性がなければダメなんだよ。どんな時代でもそういう人しか面白くない。

──『池袋交差点24時』はどんなペースで収録しているんですか。

加藤:一度に4話くらい録ってるよ。基本的には呑んでいる時と同じ感じで、コータロー君と延々喋っているのを編集してるだけ。放送できないことも散々言ってるけどね(笑)。まぁ、結局何が言いたいかって言うとさ、最終的には本人の根っこにある才能がすべてだってことなんだよ。それはポッドキャストをやってよく判った。才能は努力によって大きくなっていくものだけど、最初から面白い奴は何をやらせても面白い。コレクターズがこうして残っているのは、23年前から面白かったからなんだと思う。これがどこまで続くかは判らないけどさ。

──これだけCDパッケージが売れない状況になって、音楽家がリスナーに対して音源をMP3で直に販売することも増えた昨今ですが、リスナーもシビアだし、いよいよ本物しか残らない時代になったと言えますよね。

加藤:家で吹き込んだ粗悪品をそのまま売る商売ができるわけだからね。逆に、レコード会社が「保証を持って出しました」って断言するものしか買わない時代が来るかもしれないよ? 「インディーズは音も悪いし、ロクなものがないからもう当てにならない」なんてことになってさ。でも、形はどう変われど、面白いものやいいものっていうのは絶対に残っていくからね。

──コレクターズがデビューしてから今日に至るまでの23年間というのは、記録メディアが目まぐるしく変化していった時期でもありましたね。

加藤:ファースト・アルバムを作った時は、CDよりもアナログ盤のプレス枚数のほうが多かったからね。俺たちもCDなんて封も開けずに、アナログ盤をもらって喜んでいたしさ。ところが、セカンド・アルバムを出した時にそれが逆転して、CDの枚数がアナログ盤を超えたわけ。サード・アルバムになるとアナログ盤のプレスは中止になって、CDオンリー。それじゃ寂しいってことで、アナログ盤のジャケットだけをプレゼントすることにしたんだよ。'90年代に入ったら、アナログ盤のことなんて誰も考えないようになった。

古市:カセットは辛うじて残っていたけどね。

加藤:うん。そういう時代を過ごしてきたから、音楽をダウンロードするようになっても、それに対して何の抵抗もなかったよ。別に、アナログが凄くいい音だとも思っていなかったしね。むしろCDのほうが聴きやすくなって良かったと思ったくらいで。そういうフォーマットの転換期みたいなものは気にせずにやってきているけど、世の中のほうのシステムが整っていないから、気にせざるを得なくなっているよね。ダウンロードとCDの利益が同じくらいなら気にはしないけど、未だにダウンロードのほうが利益の少ないシステムだからさ。それなら昔ながらのパッケージで売らないことには…ってところで、死にもの狂いで今はやっているけどね。まぁ、それもまた過渡期なんだろうけど。



自分が今できる最大限のことをやればいい

──でも、たとえばコレクターズのライヴを初めて見た人が音源を欲しくなった時に、ちゃんとパッケージがあったほうが喜ばれるんじゃないですかね。

加藤:パッケージが欲しくなる世代っていうのはもう古いんじゃないかなとも思ったりするんだよ。今の若い連中は音が良かろうが悪かろうがそれほど気にしないだろうし、ある程度大まかなものさえ聴ければいいんじゃないかな。そういう連中には、アナログ盤なんて単なるプラスティックの円盤でしかないわけだからさ。それに対して俺たちはそういうのをモノとして持っていないと安心しない世代だし、お爺ちゃん、お婆ちゃんがいつまでもカセットで聴くのと同じで、それはそれでいいと思う。音楽を楽しむことはみんな一緒なんだから。

──ライヴの物販におけるCDパッケージって、今やTシャツやバッチと同じ存在になっていますよね。

加藤:誤解を恐れずに言えば、俺たちが今CDを作っているのはTシャツを作るフィーリングに似ているんだよ。全般的にライヴの動員はあるのにCDが売れないっていうのは、まさにそれを反映しているよね。

古市:だって、音源は自由に手に入っちゃうんだもん。

加藤:友達から焼いてもらうので充分って人も多いんだろうしね。だから、こっちも考え方を柔軟に考えていかないと。これもポップ・ミュージックって呼ばれるコマーシャルなものの宿命だよ。もともとバブルガムなものだし、ハンバーガーみたいに身近なファーストフードっぽいところはあるよね。ただ、いくらファーストフードと言っても、作り手は美味しいものを食べて欲しいと思えばパテにも凝るし、野菜の鮮度にもこだわると思う。それはロックンロールも一緒なんだよ。

──ファーストフードでも美味しければ人に言いたくなるし、それが広まっていきますよね。

加藤:その店のものしか食べなくなることもあるだろうしね。

──“明るい未来”のために、音楽を通じて次世代へトスを上げたいという意識はありますか。

加藤:今の大人がやれるだけのことを一生懸命やればいいんだと思う。子供は宝だけど、あまり下の世代のことばかり考えなくたっていいんじゃないかな。自分が今できる最大限のことをまずやればいい。特に俺たちの世代が大人として楽しめることをやるのが一番だよ。だって、俺たちもそうやって楽しんでいる大人たちに憧れて育ってきたわけじゃない? 先輩のやっていることを背伸びして真似したりしてさ。先輩が後輩を優しくフォローしていたら、下が育たないよ。だから、自分たちが楽しむ環境を常に作っていかないと。まずはそこからだよ。

──そんな加藤さんも、11月には50歳を迎えることになりますね。

加藤:そうなんだよ。花田(裕之)君と違って誰にもお祝いされないけどね(笑)。でも、歳を取っていくのは未知なことだから、楽しみと言えば楽しみかな。自分が60歳になった時もまだ今と同じ髪型をしているんだろうか? とかさ(笑)。昨日そんなことを考えて、思わず鏡をまじまじと見ちゃったもん(笑)。

古市:俺は最近、鏡を見るのが何よりも嫌いだね。超えなきゃいけないハードルだと思う(笑)。でも、今は20代、30代よりも全然楽しいよ。面白いことに、人間って歳を重ねて少しずつ出来てくるものだからね。

加藤:それはある。自分たちのビデオを見ても、30代の半ば頃からだんだん太り始めるけど、今のほうが自分は好きかな。コレクターズは今が一番格好いいと思うしさ。

古市:デザイナーの信藤(三雄)さんもこの間、写真を撮りながら同じことを言ってたよね。ベーシックにあるハングリーな部分は変わらないのに、あれは何なんだろうね。まぁ、いろんなテクニックを覚えたこともあるのかな。諦めることでも何でもさ。

加藤:確かに、諦めを覚えることは重要だよね。そういうネガティヴなことを言うのはダメだっていう風潮があるけど、全然そんなことないんだよ。1日の半分は夜で、半分は昼なんだから。半分がダメで半分がOK、両方あって幸せなんだと俺は思う。それでちょっとでも幸せなほうが多ければ儲けもの。そんなふうに考えられるようになったのは、やっぱり大人になったからこそだよね。ホールデン・コールフィールドみたいに生きていたらいつかは自滅してしまうし、悪くないよ、大人になるってことは。



青春ミラー(キミを想う長い午後)

01. 青春ミラー(キミを想う長い午後)
02. 明るい未来を
03. エコロジー
04. トランポリン
05. Cold Sleeper
06. ラブ・アタック
07. ライ麦畑の迷路の中で
08. twitter
09. 孤独な素数たち
10. forever and ever
11. 今が最高!
12. イメージ・トレーニング
Columbia Music Entertainment COCP-36086
3,150yen (tax in)
2010.4.07 IN STORES

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Live info.

MONTHLY LIVE 2010“5 Story Rock Show”@渋谷クラブクアトロ
4月25日(日)、5月30日(日)、6月27日(日)、7月25日(日)、8月29日(日)
*OPEN 16:00 / START 17:00
*チケット料金
 大人(中学生以上)前売 3,900円/当日 4,500円(税込/整理番号付/ドリンク代別途500円必要)
 キッズ(小学生限定)前売 2,000円/当日 2,500円(税込/ドリンク代別途 500円必要)
*ご来場特典:5回のうち3回ご来場の方にはスペシャルDVDをプレゼント(6月より配布予定)

THE COLLECTORS official website
http://www.wondergirl.co.jp/thecollectors/

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