ギター バックナンバー

keme('10年4月号)

keme

はすっぱな歌声と剥き出しのフォーク・ロック・サウンドが織り成す心の旅路


 下北沢を中心に、ライヴハウスや路上で活動してきたフォーク・ロック・シンガー、keme〈ケメ〉が、アルバム『永遠の旅』をリリース。キノコホテルの電気ギター“イザベル=ケメ鴨川”として、Rooftopでもたびたび誌面を飾ってきた彼女。バンドでご存知の方も多いかもしれないが、もしソロが初めてだとしたら、ぜひこの機会に知ってほしい。
 ギターをかき鳴らしながら、味のあるハスキー・ヴォイスで吐き出されるフォーク・ロックの楽曲群。モノクロの写真に写る静かな佇まいとは裏腹に、そのサウンドも、メロディも、詞も、声も、確かな熱を帯びて、聴く者の心を動かしていく。
 今回はkeme、そして本作のディレクターでもあるサミー前田氏に話を聞いた。今作の中で最新曲が一番好きだと語ったkeme。ソロとして、バンドとして(大変ながらも)精一杯やりきっている彼女の“素”がここにある。(interview:齊藤 恵)


フォークしかできなかった

──キノコホテルの活動と並行して、ようやくご自身のアルバム『永遠の旅』が完成しましたね。kemeさん自身の音楽性がまず気になったのですが、ベースとなっている70年代フォークやエレキ、GSなどの音楽にどのように興味を持たれたんですか?

keme:わりと、小さい頃から(フォークやGSは)聴いていたんです。親が団塊の世代なので、家にいろいろ資料があったんですよ、レコードとか、CDとか。自然とそういう環境で。それを自分なりにチョイスして聴きつつ、その時代に流行っていた音楽も聴いていました。幼少の頃は小室ファミリーとか、PUFFYとかも好きで聴きながら、70年代のフォークも聴いたりしていたんですよ。T.K.も買いながら、吉田拓郎も買っていたという。

──(笑)幼少期から早熟な気がしますね。ご両親が持っていたCDなり、LPで、一番最初にグッと来たその当時の音源は何ですか?

keme:カセット・テープなんですけど、拓郎の。内容はめちゃくちゃなんですよ、ライヴの音源とかも入っていたりして、今思えば不思議なカセットでしたね。多分売っていないものですね。

──吉田拓郎以外にはどんなものを聴いていらしたんですか?

keme:B.B.クイーンズとか(笑)。でも、どっちかって言うと曲単位で好きなものが多いですね。エレキ・ギターをやる上ではヴェンチャーズとかのインストものとか、寺内タケシさんには凄く影響を受けましたけど。

──同時代の音楽とは別の、何かグッと来るポイントがあったんでしょうね。

keme:拓郎とかの、フォーク世代の昔の音には子供ながらに“ソウル”を感じていて。現代の音楽については“ついていかなくちゃ”という感じで、無理やり聴いていた部分もあるんですよ。学校で友達と話せないから(笑)。

──なるほど、kemeさんの音楽性のベースになっている“フォーク”は、何かのきっかけで好きになったわけではなくて、もう“染み付いている”ものだったんですね。

keme:もう、当たり前で。いろんなものを聴きますけど、現代のものは積極的には聴かないです。

──そうしたベースがあった上で、ご自身が音楽をやろうと思ったのはいつ頃からですか?

keme:自分が今やっていることは、何となく10代の頃からやってみたいなと思っていたんです。だけど、なかなかうまくいかなかったんです。これまでバンドもいろいろやっていたんですけど、リーダーをやっていた時期に、結局、自分は誰かと一緒に何かをやることが不可能なのかも…と思ってしまって(笑)。“とりあえず、何もかも辞めてしまえ!”と思って、何もせずに生きていたんです、ちょっとの時期。でも、急に、長い人生、このままじゃもったいないなと。“じゃあ、結婚か? 音楽か?”なんて考えたりして(笑)。その時に、もうちょっと音楽で遊んでもいいかなと思ったんです。でも、またバンドを作ると言っても大変だし、ストレスも溜まるんで、“じゃあ、ひとりでやろう”と思って、唄い出したのがきっかけですね。

──ひとりでやるにあたって、よりフォーキーなところに絞られましたよね。

keme:アコギでやろうとすると、どうしてもフォークが染み付いていたから、それしかできなかったんですよ。“アコギでロック”できる自信もない、みたいな。エンケンみたいにできる自信はない! と思って(笑)。フォークの、昔のメロディとかも単純に好きだったし。それでこうなったんだと思います、きっと。

──ちなみに、サミー前田さんとkemeさんの出会いはいつ頃なんですか?

サミー前田:6、7年前だったと思います。僕が面倒見ていたガレージ系の女の子バンドがあって、そのライヴを観に来ていたのかな。「ケメ」って名前だし、極端に年齢が若いのに「エレキ・インストをやっている」って言っていたし、その粗っぽい性格が印象に残っていました(笑)。

keme:そう、私はフィフティーズ・ハイティーンズっていう福岡のバンドが好きだったんですよ。めったに東京に来ないから、来るとリハーサル・スタジオまで勝手に行ったりとかして(笑)、ひとりで見学したりしていました。そこにサミーさんがいて、知り合いになりました。

サミー前田:当時、彼女は60年代のカヴァーばかりやるガールズ・バンドにいたんです。それを「かったりィな」って辞めて、トーキョー・キラーというエレキ・インストのリーダー・バンドを始めたんですよ。僕がちょうどロフトプラスワンで夜中のイヴェントをやっていたので、そこに出てもらったこともありました。でも、今思えば、あれも相当ひどかったな、と(笑)。そのあとkemeが「アコギで、ひとりでやる」っていう話を聞いて、そのうち下北沢の駅前で路上ライヴをやっている姿も見かけました。元々「エレックレコードが好き」とか言っていたから、“本当にフォーク・シンガーになったんだ”と思った。でも、ティーンエイジャーなのに、GSとかヴェンチャーズみたいなエレキ・サウンドと、70年代フォークを同時に好んで聴ける。それだけでも充分面白いなとずっと思っていましたね。

ソロとバンドは別物

──“keme”としての活動は2007年の10月からなんですね。キノコホテルの活動よりも先に。

keme:そうですね。でも、最近はキノコ(ホテル)のほうも忙しくなってきて。とは言え、両方やりたい、みたいな感じですね。ひとりでやろうかなと思った時からは、多分1年くらい時間を経てライヴをやりました。知り合いがライヴをやるのに誘われたのがきっかけで、そこからですね。そこまでに曲は書いたりしていたんですが、そんな頑張ってなかったんです。マイペースで。そこからキノコホテルに参加する直前までは、路上ライヴもよくやっていました。

──そうしたライヴ活動を始めてから、わりと早いタイミングで1stミニ・アルバム『声にならない』(2008年2月)を自主制作でリリースされていますが。

keme:まず“音源がないと始まらないな”と思ったんですけど、ひとりじゃ何にもできなくて。たまたま知り合った人が音源を作ってくれるって言ってくれたので、昔のミュージシャンの知り合いにお願いして、自主制作で作りました。

──『声にならない』をリリースしてから、ご自身の企画でイヴェント(『Oh!ジャンボリー II』)も行ない、そしてキノコホテルにも参加して……と、どんどん活動が活発化していきましたよね。

サミー前田:キノコホテルへの参加は、前任のギターが辞めると決まった時に、僕がお願いしました。

keme:自分の活動もあるし、当時はサポート的な感じで頼まれたんだと思っていましたけど。

──先ほど「バンドが嫌だ」ともおっしゃっていましたが。

keme:でも、キノコホテルはリーダーじゃないってことで、救われています。リーダーが一番大変だから。今は、好きなようにギターを弾いているし、余計な心配がないので。

──ソロとキノコホテルの各々の活動から、相互にフィードバックされることってあるんですか?

keme:ソロとバンドは別物だと思っているので、フィードバックは全くない(苦笑)。キノコホテルは、あの衣装とか、準備をした時に“鴨川”になる。自分自身でも“この人は誰?”みたいな感じになりますね(笑)。




人のためではない、自分にとっての成長の証

──キノコホテルで別物になりつつも、ソロとしてペースを保って活動されていた中、ようやく今回の『永遠の旅』を制作するに至ったわけですが、当初、方向性は見えていたんですか?

keme:前作のミニ・アルバムが結構前、2年前のものなので、同じではいけないと言うか。それから比べたら成長しているという証を残したかったんです。自分が聴き比べた時に“あぁ、成長したな”みたいな。あくまで自分にとってで、人に対してとかじゃなくて。

──『永遠の旅』が完成して、その手応えは如何ですか?

keme:これが今の自分ができる精一杯のことなんだなと思いました、いろんな意味で。今回のアルバムは、結構、シングル向きの曲が多いなとも思っています。

──レコーディングで何か収穫はありましたか?

keme:自分のアルバムでエレキを弾けたことは、ちょっと幸せでした。前のアルバムは“アコギ”オンリーだったんですけど。今回はエレキ・ギターも自分で弾いた部分もあるんです。みんな、気づかないところだと思うけど。

──『永遠の旅』の楽曲は、前作以降のものですか?

keme:そうですね。でも、『声にならない』に入っていた曲をアレンジして、また今回入れたりもしています。

──5曲目の『Y』は、前作からリアレンジして再録された楽曲ですね。

keme:前作は若すぎたと言うか。今、思うと、嘘くさい(笑)。“今、唄ったら全然違うのに”と思って。ライヴでも、この曲が一番人気があるし。アレンジも前に変えたことがあったので、変えたアレンジでもう一回やってみようかなと思って入れました。

──『永遠の旅』の中でご自身がお気に入りの楽曲は?

keme:1曲目の『7分間のキス』は、シングルにしたいくらいの曲でした。この曲が一番好きなんです。素直なんですよ、その曲だけは。

──(笑)その曲だけは?

keme:(笑)恋愛に対しての素直な気持ちが出ていると言うか。曲って一度作ってしまうと、どういう気持ちで作ったか全然思い出せないんですけど、『7分間のキス』だけは鮮明に覚えていて。でも、この曲に限らず、ほとんど全部“素”の自分ですね。嘘はついていません。

──その一番好きな曲をアルバムの1曲目に持ってきたわけですね。

keme:そう、“シングルにしたかったんだ”っていう気持ちを込めて(笑)。

──最後の『永遠の旅』というタイトル曲が、このアルバムのキーだと思っていたんですが。

keme:この曲もずっとシングルにしたかったんですよ。『7分間のキス』よりもかなり前に出来た曲で、ずっとそう思っていたけどできなかったっていう。

──シングルにしたかった大事な曲に挟まれて、『ひぐらし鳴いてる』やボーナス・トラックの『真夜中の恋人』といった、早川瑞穂さんに詞を提供してもらった曲も入っていますね。

keme:私は、詞がないと曲が作れないんですよ。だから、詞が書けない時期は彼女にお願いして。その詞に対して、たまに直したりもして、曲をつけています。なので、共作と言っても別に話し合って作ったりするわけではなく、詞と曲は別々なんです。

──なるほど、詞が先だから、ちょっと“字余り”っぽくなるんですかね。拓郎が好きだっていうところもあるんでしょうけど。『ひぐらし鳴いてる』は一番拓郎っぽいですもんね。

keme:あ、そうかも。私もそう思ったんですよ(笑)。

──“拓郎っぽさ”も意識したんですか?

keme:いや、もうこれは染み付いているから、どうしようもないって言うか(苦笑)。

──『真夜中の恋人』は、あえてアルバムの曲目が書かれていませんが。

keme:この曲は、本当はもっと隠したかったんですよ。9曲目って微妙じゃないですか? でも『真夜中の恋人』は一番新しく出来た曲だったので、入れたいなって思っていました。今まで作ってきた楽曲とは、またちょっと違う感じの曲だったから。この曲がある意味、今の自分に一番近いものなんです。結局、隠しきれてないけど(苦笑)。『真夜中の恋人』も一番好きな曲のひとつです。

──ご自身で書いた詞には、男目線の詞も多いですよね。

keme:そうなんですよ。それが昔の私なんですよね、活動を始めたばっかりの時の。最近、自分が作る曲って、男目線の曲がないんです。

──最初の頃、男目線の曲が多かったのはどうして?

keme:最初はモノマネみたいな感じでやっていたから。泉谷しげるとか、わりと男の人のフォーク的なものを聴いていたから、自然と詞も“僕”とか“俺”になったんじゃないですか? それを“私”にすると唄いづらいなと思っていたので、“僕”が多かったんです。でも、“私”でも唄えるようになったから、“私”、いいなぁ、みたいな。

味だよ、これは。いいんだよ、これで

──kemeさんの声って一番の魅力だと思うんですが、ご自身のハスキーな声質って、どう思いますか?

keme:大嫌いなんです。何でこんななのか、わからない。

──そこが一番グッと来るところじゃないですか。

keme:何かスナックのママみたいじゃないですか。50になったら、もっとおっかないんだけど(苦笑)。

サミー前田:彼女の声は、しゃがれていても、ハスキーでも、水っぽくないんですよ。ブルース系よりも、ロックって言うか……。kemeの音楽には“フォーク・ロック”っていう言葉を使っているんですけど。

keme:私もフォークだけでは嫌ですね。そんなにフォークだと思っていない。思っているのも一応あるんですけど。最近作った曲とかは、別にフォークとか思わないんだけどな。

サミー前田:それと、彼女の世界観って“ブログっぽくない”と思うんですよね。最近の音楽聴くとブログっぽい人が多い気がして……。kemeはささやかなことを唄っているんだけど、ちゃんと“宇宙”になっていると言うか、そこが今の人たちと違うから古臭く感じる人もいるのかもしれないですけどね。

──今作では心強いスタッフに囲まれていると思いますが、今回はUMEZYさんがギターやアレンジャーとして参加されていて。UMEZYさんは今、一番、kemeさんが信頼できる相棒みたいな感じですか?

keme:そうですね。何でも言えるし。私がやりたいこと、好きなことを向こうはそんなに知らなくても、言えば理解してくれるので。無理難題を押し付けてやってもらいましたね(苦笑)。

サミー前田:器用だからね、彼は。

──原曲からUMEZYさんのアレンジでガラッと変わった曲はあるんですか?

keme:ないです。全体的に私が「こういうふうに」という指示を出しました。サンプルを聴かせて「このギターの音で、こう引いてくれ」っていう細かいこととか、「ここはサイケな感じでうるさく」とか言って。

──じゃあ、設計図はkemeさんの中にちゃんとあったんですね。

keme:そうです。構成とかは、私が全部やりました。

サミー前田:今作のプロデュースはすべてkemeなんですよ。エンジニアのブッキングだけは僕がしました。エンジニアは石崎信朗さんという大御所の方で、中森明菜から古井戸まで、70年代、80年代のワーナーの名盤をたくさんレコーディングした方なんです。

──こういう音楽だったらばっちりですね。

サミー前田:最近は若い人とのレコーディングの機会は少ないと思うけど、レコーディングを始めたら凄くノリノリになられて。そんな石崎さんがkemeに「若いのに今時珍しい、こんな音楽やるんだね」って、言ってましたね。

keme:レコーディング中、声が出ていない部分があって、それを「凄く嫌だなぁ」って言っていたら、石崎さんが「味だよ、これは。いいんだよ、これで」と言ってくれて。“そうなんだ”と思いました。

──『永遠の旅』を携えてのライヴの設計図はありますか?

keme:最近はUMEZYさんと2人でよくやっているんですけど。ぶっつけ本番でリハーサルがない時も多いですね。それはそれで面白いです、アットホームな感じでできて。UMEZYさんに“悪いなぁ”と思いながら、挑戦みたいな感じです(苦笑)。



どんどん変わっていくのかもしれない

──さて、アルバムも完成しましたが、これからもkemeさんが表現者として大切にしていきたいことはありますか?

keme:その時にしかできないことをするだけ。今の自分ができることを精一杯やるだけ。だから、どんどん変わっていくのかもしれない。

──時代も、変化の一因になっていますか?

keme:聴く音楽も変わってきたし、作る曲も変わってくるのかなぁ。それは自分でもよくわからないです、どうなるのか。

──ちなみに今、好んで聴いている音楽は何ですか?

keme:ザ・コレクターズは聴いています。コータロー&ザ・ビザールメンがきっかけで聴くようになったんで、普通反対ですけど。泉谷しげるも、よく聴くなぁ。あと、はっぴいえんどとか。フツーだな(苦笑)。

──kemeさんの今後の変化も楽しみにしています。今はソロもありつつ、キノコホテルもあって、バランス的にはちょうどいいくらいですか?

keme:ん〜、忙しい。1ヶ月くらい休みたいんですけど(苦笑)。

──当面の野望は何かありませんか?

keme:ソロでは、もう少しいい環境でしたいというのはありますね。ライヴに向けてバンド形態で、とか。でも余裕がないまま、中途半端にやるのは嫌だなって思いますね。

──kemeさんはやっぱり自由にやりたいと言うか、自主性を重んじて好きなことをやりたい、と。

keme:そうですね。やりたくない時は、やりたくないんですよ。別にどうなりたいとか、そういうヴィジョンはなくて。やりたいから、やっているだけで。急に辞めるかもしれないし、続けるかもしれないし、多分、誰かに「やれ!」って言われても、やりたくなかったら絶対にやらないと思う。

──最後に言い足りなかったことは。

keme:あ、これ(ライヴ情報のフライヤーを指差して)。4月のインストア・ライヴ、来て下さい。



永遠の旅

01. 7分間のキス
02. 雨
03. なんのために
04. ひぐらし鳴いている
05. Y
06. 唯子
07. 餌付け
08. 永遠の旅
09. 真夜中の恋人(ボーナストラック)
VOLTAGE records BQGS-21
2,300yen (tax in)
IN STORES NOW

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Live info.

インストア・ミニ・ライヴ
4月4日(日)タワーレコード新宿店7F イヴェント・スペース

START 17:00/入場無料
イヴェント参加方法
*タワーレコード新宿店で『永遠の旅』をお買い上げの方に“特典引換券”を先着で差し上げます。
*イヴェント当日、“特典引換券”をご持参頂いたお客様はライヴ終了後、“激レア映像特典DVD-R”をプレゼント致します。

keme official website
http://kemechan.syncl.jp/

posted by Rooftop at 12:00 | バックナンバー