ギター バックナンバー

DISK RECOMMEND ('10年03月号)

LOFT PROJECTのスタッフがイチオシのCD・DVDを紹介!!
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★以下のジャケットをクリックすると、各レビューが読めます。

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bloodthirsty butchers / NO ALBUM 無題

KICS-1518 2,940yen (tax in) / 3.10 IN STORES

bloodthirsty butchers / kocorono 完全盤

KICS-90587 2,800yen (tax in) / 3.10 IN STORES

 快挙だ。あっぱれだ。万歳三唱だ。前作『ギタリストを殺さないで』から約2年振りのオリジナル・アルバムが聴けるだけでも充分嬉しいというのに、何とあの不朽の名作『kocorono』が“完全盤”と銘打って同時発表されるのだ。この一大事に小躍りせずにいられるものか。日本の至宝、ブラッドサースティ・ブッチャーズなのである。大人になんか解ってたまるものか。
 『NO ALBUM 無題』という如何にもブッチャーズらしい挑発的なタイトルの作品は、途方に暮れるほどの長い熟成期間を経て生まれた作品である。途中、吉村秀樹が正式加入したディスチャーミング・マンの制作が入り滞った時期もあったが、待たされただけの甲斐は十二分にある作品だ。冒頭を飾る『フランジングサン』のジリジリと身を焦がすような音圧。行き場のない悲哀と虚無がない交ぜになった『散文とブルース』のアンサンブルの妙味。しんしんと降り積もる札幌の雪景色が脳裏に浮かぶ『僕達の疾走』の息を呑む美しさ。呻吟の如きギターの音色が全編を覆う『1.2.3.4』の重厚さ。苦渋に充ち満ちた感情を主題とした『black out』の得も言われぬ疾走感。少年時代の記憶を綴った『幼少』の透き通った瑞々しさ。ポップでサイケで煌びやかな音像ながら、通底するトーンは内省的で陰影に富んだ風合いの本作、その方向性を集約しているのは『ocean』という大作だ。苦渋を舐め尽くし、ジタバタと七転八倒した末に辿り着いた蒼く澄んだ海。避け方を知らない無頼漢が叫ぶ“生きている、生きて行こう”という言葉はあまりに重い。まさにブッチャーズにしか表現し得ない、砂を掴んで立ち上がる夜明けのブルースだ。
 一方、『kocorono 完全盤』は『Cinderella V.A』にのみ収録されていた『1月』を追加収録してリマスターを施した紙ジャケ仕様・完全生産限定の逸品。裏ジャケットはスヌーピーの人形だけを取り除いて再現していたり、『1月』の歌詞をジャケットの内側に白インクでプリントしていたり、パッケージのこだわりにも注目したい。内容はもちろん折り紙付き。リマスターに際してはコーパス・グラインダーズ時代からの盟友である名越由貴夫を再びプロデューサーとして迎え、当時のマスタリング・エンジニアを起用しているのだから悪くなろうはずがない。音のゆらぎや細部の音の輪郭までが生々しく真に迫るものになったことが本作の大きな特徴のひとつで、悪戦苦闘しながら納得の行くリマスターになるまで実に3日(このご時世では破格の時間)を費やしたという作り手の惜しみない愛情が注がれた作品である。『2月』に始まり『12月』で終わる未完成の魅力がオリジナルの『kocorono』にはあるが、12ヶ月の物語が完結した本作にもここにあるだけの魅力が存分にある。それは現物を聴いた人だけのお楽しみだ。天性の天の邪鬼である我がココロのボスが一筋縄で行くはずもないのココロ。これでいいのだ。


(Rooftop編集長:椎名宗之)


℃-ute / ショッキング5

EPCE-5696 3,150 yen (tax in) / IN STORES NOW

 今やハロプロでBerryz工房と人気を二分する女性グループ℃-ute(キュート)の5thアルバムがリリースされた。既発曲4、新曲6、リミックス1というバランスのいい構成でアルバムとしての存在感は充分だ。オープニングは自身としてオリコン最高位(2位)となった軽快なポップチューン『EVERYDAY 絶好調!!』で幕を開ける。他のシングル曲として、℃-uteらしいダンスナンバー『Bye Bye Bye!』、愛理を大フューチャーした最新曲『SHOCK!』など、シングルとして評判のよかった曲が並ぶ。昨年夏に発売され、キャンディーズの名曲をカバーして話題になった『暑中お見舞い申し上げます』は、リミックスバージョンとして収録されているのだが、ファミコン風のチップチューンになっていて、原曲の持つワクワク感がさらに強調されたアレンジになっている。これは楽しい! メンバーのソロ曲としては3曲収録されているが、個人的に中島+岡井+萩原の『君の戦法』がツボ。いわゆるツンデレな女の子の歌なのだが、曲中で「いいから付いてきて!」なんて言われたら、断る男子はいませんよ、ホント。新曲で白眉なのは『四月宣言』。つんくが得意とするミディアムテンポの青春賛歌で、歌詞も含め胸がキュンとなる。  昨年はメンバーが2人抜け大きな変化を経験した℃-uteだが、今年結成5年目を迎えるグループとして、新たなスタートをきったと言える好アルバムだ。


(加藤梅造)


COBRA vs THE RYDERS / PUNK 2 STUPID!

CAAC-1001 1,680yen (tax in) / IN STORES NOW

 近年「PUNK」の大安売りである。猫も杓子も「パンクっぽい」「パンク的」「パンクみたいな…」何じゃそりゃ? である。本物も偽物も境目が無いかもしれないが節操が無さすぎる。そんな中でも本物中のホンモノ、COBRAとTHE RYDERSのスプリットの登場だ。その名も『PUNK 2 STUPID!』。新レーベル「CHAOS&ANARCHY」の第2弾、平成22年、2月2日発売と、縁起の良さそうなゾロ目となっている。『PUNK 2 STUPID!』と『CHAOS&ANARCHY』というタイトルの曲を自分達のカラーで勝負する、要はこのタイトルの曲がCOBRAバージョンとRYDERSバージョンであるワケだ。そしてナントお互いのカバーを1曲ずつといった面白い内容。まずはTHE RYDERSの『PUNK 2 STUPID!』。直球勝負というか、これぞ! といった曲。聴いた瞬間ライブでやっている光景が浮かんでくる。
『CHAOS&ANARCHY』も変化球無し。改めてRYDERS節というか詩の使いかたや歌い回しなどは、この人にしかできないなぁと思う。RYDERSは『オレたち』をカバー。後半はCOBRA。こちらも直球勝負の『PUNK 2 STUPID!』。思いっきりシンガロングタイプで、こちらもライブで客にマイクを向けている姿が浮かぶ。
『CHAOS&ANARCHY』は、Oiらしく社会風刺満載のナンバー。こちらは『BRING OUT MYSELF』をカバー。お互い意識したのだろうか? 両者とも1番得意な事しかやってない気がした。これが紙面に乗る頃にはツアーも最終日しか残っていない。本物を感じたければ、3/5のシェルターに行くべし!


(新宿LOFT:水野 慎也)


怒髪天 / オトナマイト・ダンディー

TECI-1277 2,800yen (tax in) / 3.03 IN STORES

 前作『プロレタリアン・ラリアット』から僅か1年弱で世に放たれる怒髪天のオリジナル・フル・アルバム。先行シングル『オトナノススメ/武蔵野流星号』と『ド真ん中節』を基軸に、いつものようにヴァラエティに富むにも程がある多彩な楽曲が厳選されている。ただし、今回は従来のバンドのイメージや持ち味を一度蚊帳の外に置き、上原子友康が潤沢に用意した楽曲の中からトライアルに値すべきものを抽出するというこれまでとは一風変わった選曲方法がなされている。その結果、三連ノリとハード・ロックが融合した『ヤケっぱち数え歌』、憂いの響きに満ちたネオアコ風ナンバー『俺ときどき…』、人力テクノのニュアンスもある『ふわふわ』、ボ・ディドリーを彷彿とさせるジャングル・ビートを根幹とした『アフター5ジャングル』、軽快なカントリー・テイストの『我が逃走』といった意欲作がいつになく多く収録されている。中でも、80年代のポップ・フレイヴァーが充満した軽妙なアレンジに旧友との固い友情の絆という怒髪天の十八番的歌詞が乗った『オレとオマエ』は、バンド本来の持ち味を保ちながらも新たな一面を提示している好例と言えるだろう。この在り方なら古参のファンはもとより、近年増殖する一方の新規ファンに対しても幅広くアピールできる。無論バンドはそこまで戦略的に考えているはずもなく、ただ純粋にいい歌を届けたい一心で日々切磋琢磨しているに違いないが。押しつけがましさがまるでない、しなやかで野太い大傑作。


(Rooftop編集長:椎名宗之)


dry as dust / Good Morning

XQEH-1009 1,800yen (tax in) / 3.10 IN STORES

 まず着目すべきはその透明感、そして小さな自分自身と空との距離感である。dry as dustを聴くと、つやつやした絹糸が紡がれる様をじーっと眺めているような気持ちになってくる。撚られていく糸が一人一人の日常だと思ったら、薄ら恐ろしささえ感じはじめた。聴きやすく、心地よいメロディーの中に、オブラートに包まれた小さい不安の塊をみつけて、でも不思議と美しいその魅力に取り憑かれてしまった。自分がdry as dustに夢中になりはじめていることに気がついた時、私は2曲目『グッドモーニング』のサビを延々と歌っていた。
 今回プロデューサーにkono氏(te’ /残響レコード)を迎え、コアの部分から輪郭にいたるまで、まっさらの新しいものをつくりだした彼ら。7曲目の『始まりの朝に』ついては、メンバー一同「konoさんのアドバイスがあったからこの曲がこの雰囲気を持ってできあがった」と口を揃えた。その点もふまえ、是非聴いてみて欲しい。名古屋CLUB ROCK’N’ROLLでのライブを皮切りに全国ツアーも決定、ファイナルは5月14日に下北沢SHELTERで行われる。松永氏(vo/g)曰く、「せっかくライブに来てくれたなら、戸惑わず、自由に楽しんで欲しい」とのこと。あなたが今手にとられているRooftopに、dry as dustのインタビューも掲載されています。そちらもお見逃し無く。


(下北沢SHELTER:石川 愛)


NUBO / HANDMADE PLAYGROUND

BDSS-0007 2,100yen (tax in) / 3.10 IN STORES

 2002年結成のツイン・ヴォーカル5人組ミクスチャー・ロック・バンド。2007年2月にミニ・アルバムでデビューしてから、ミニ・アルバム2枚、シングル2枚を発売。デビューから2年6ヶ月、CDをリリースする度に大型ツアーを行いライヴ・バンドとしての地位を確立したNUBOが今回遂にフル・アルバム『HANDMADE PLAYGROUND』を発売。D.I.Y精神丸出しのタイトル。地道にライヴ活動を重ねた彼らが出した結果だろう。ヴォーカルのtommyがいつも言っている言葉がある。「ツアーに回りたいからCDを作る」。そんな思いが今作には込められているからこそタイトルが『HANDMADE PLAYGROUND』なんだろう。
 tommyと一成の絡みは、お互いの良さが出るポイントを確実に押さえていて、洗練された演奏隊はツイン・ヴォーカルをしっかりと支えている。そんな彼らが人間と正面から向き合っている音楽、そしてNUBOというバンドの人柄が全面に押し出されているのが今作と言える。辛い時や悲しい時、支えになってくれる音楽であることは間違いない。NUBOの歌詞には…音楽には一字一句嘘がない。そう信じたい…。いや、そうだろう。でなければ、こんなに純粋な作品は作れない。こんな素晴らしい作品は作れない。聴いたことがなければ今作からNUBOと出会って、ライヴに遊びに行けば良い。そこに全てがあると思う。『HANDMADE PLAYGROUND』を作ったNUBOに感謝。ありがとう。


(MOTHER BICYCLE Inc.:椎橋健一)


Multiplication Rock / Original Soundtrack Recording From The ABC-Television Series

TOCP50760 / IN STORES NOW

 ハクション大魔王並に数字に弱い私でも、このCDのおかげでとにかく「かけ算」だけは楽しく覚えられた。しかも「これが格好いいということである」と断定しても過言ではない、とてもわかりやすい名盤を僭越ながら紹介したい。『Multiplication Rock』という、70年代はじめにABC-TVで放映されていた子供向け番組のサントラ。Bob Doroughが主に歌う、この1枚がとにかく好きで好きで仕方がない。0と2〜12までのかけ算がそれぞれいろんな曲調で収録されており、各々の曲名も秀逸。6の段『I GOT SIX』あたりなど、映画「BLUES BROTHERS」サントラを持っている方には是非聴いてもらいたい。私がこのアルバムを入手したのは今から10年ほど前。『Multiplication Rock』もその1つである「スクールハウス・ロック」マニアの友人から「テレビ放送版ビデオもLPも手に入ったから、CDあげる」と譲り受けた。私は何も知らずに聴きまくっていたが、実はDE LA SOULが3の段の『THREE IS A MASIC NUMBER』をサンプリングして話題になり、リイシューの時期だったらしい。当時でも既に「過去のもの」として扱われていたが「とにかく良い」ので今も生き残っているのだと思う。新しい音楽も勿論いいが、たまにはこの手の音楽に全身浸るのも、悪くないと思う。


(下北沢SHELTER:石川 愛)


Galileo Galilei / ハマナスの花

SECL-848 1,500yen (tax in) / IN STORES NOW

 音楽の甲子園“閃光ライオット”初代グランプリのGalileo Galilei。現在放送中のauのCMで馴染みの方も多いだろう。ティーンエイジャーからは既に沢山の支持を得ている。これから何が起こるかわからないけど、音楽で何かを変えてやる! 自分達の思いを音楽で伝える! という決意と覚悟が10代で固まるなんて凄いとしか言いようがない。また10代の若者が抱く苛立ちや希望、その時感じた思いを表現する“リアル”が、多くの10代の心掴み、大人達の興味を惹くのだろう。
 もう10代を随分と前に卒業してしまった自分が聴いてもあの頃の事をふと彷彿させたり、今の10代を感じる事が出来る。彼らの可能性と未来にとても大きな期待を寄せてしまう。
 またライブで放つバンドの輝きとボーカル&ギター尾崎君が、力強い眼差しで真っすぐ前を向いて歌う姿に胸をうたれた。私は自分には絶対に持てないものを持っている人に惹かれてしまうようです。Galileo Galileiは私にとってそんなバンドなのです。


(ロフトプロジェクト:樋口寛子)


Quick / have a nice day!

3P3B-61 1,680yen (tax in) / 3.17 IN STORES

 3P3Bの10th ANNIVERSARY ALBUM『CARRY THAT WEIGHTU』の参加で記憶にも新しいQuickが、1st mini albumをリリースする。北海道・函館を中心に活動しているQuick。何度かのメンバーチェンジを経て、2008年、現在の編成となる。オムニバスアルバムの中でも先輩に引けを取らないとメロディーセンスに、まだ音源からしか感じられない彼等の存在に心が躍った。思いがけない3P3Bとの出逢いから、ますます興味が湧いた(さすがOZK)。ただのメロディックという枠では収まらない楽曲の展開が随所に繰り広げられており、タイトルの『Have a nice day』や1曲目『Sacrificed things』のように勢いできたかと思えば、『never come true』や『Day dream』や『truth』のような泣きの曲もある。歌詞は楽曲の明るさとは反対のような感情が感じられ、等身大の彼等が表現されている。リリース後には立て続けに都内や関東近県のLIVEが控えており、是非ともLIVE HOUSEに足を運んで欲しい。Quickが存分にその存在をアピールしにきてくれるハズと期待して。


(下北沢SHELTER:平子真由美)


The Cold Tommy / 新世界

500yen (tax in) / ライブ会場、またはindiesmusic.comにて購入可

 こんちは! 少しずつ暖かくなってきましたね。皆さん風邪ひいてませんか? 急に冷え込む日もあるのでまだまだ油断できませんね! そんな事はいいとして。
 一心不乱に爆音を掻き鳴らす。純粋ゆえに凶暴な音楽を…。今回はThe Cold Tommyの2nd.音源『新世界』の紹介をさせていただきます。音源化のリクエストが多かったとされる『Break'She's Coat』が1曲目に収録されています。この曲をライブで観て僕はThe Cold Tommyのファンになったわけですが、とにかくサビのメロディがシブイ。巷に溢れかえっているオルタナ系とは明らかに一線を画す、本当の意味でのオルタナティブ、唯一無二であると断言できる曲です。散文的な詩、卓越したメロディセンス、スリリングな展開、それを支える技術力、どれをとっても申し分が無い。現代の草食ロック時代を変える、全方向型ロックバンドの登場です。これを聴かずして何を聴く。
 3rd.音源製作難航中だそうです。発売が待ち遠しい!!  


(下北沢SHELTER:可愛いイカ野郎)


寿[kotobuki] / kotobuki2010

K-NN0004 2,500yen (tax in) / IN STORES NOW

 寿[kotobuki]、結成25周年記念盤がリリースされました。何を隠そう沖縄出身の父を持つ僕は、幼少時代にお2人と知り合っていました。そうですか。僕が生まれる前に結成されていたんですね。そして20周年に発売された書籍『寿[kotobuki]魂』から5年も経つのかなんて呑気に考えてましたが、気付けば僕とお2人のお付き合いも20年近く経つんですね。
 時の流れの早さにまた驚かされますが、その間で寿[kotobuki]の印象はちっともブレません。それもそのはず。収録されている『金網の向こう側』は結成前の曲なんです。30年前の曲を歌えるミュージシャンって、(環境の変化を踏まえても)なかなかいないと思うんです。
 ナビィさんのソウルフルな歌声にヨシミツさんのギターが轟く! 寿はこれからも歌い続けるのでしょう。言葉が魂を持ち、文脈に血が通う躍動感は大気を震わせ僕らの全身を循ってゆく寿の音楽。年に一度、横浜・寿町フリーコンサートで観ることができるバンド編成の寿はホントカッコいいんですよねー。早くも夏が待ち遠しくなります。と、書きながら手に汗が滲んで参りましたぞ!


(Naked Loft:上里環)


猿ダコンクリート / 空の下、足の先

DDCL-6004 1,680yen (tax in) / IN STORES NOW

 変なバンド名である。それだけ聞くと、どこのハードコア・ノイズ・アバンギャルド・バンドなのかと思う。わくわくしながら再生ボタンを押してみると、そこに現れる音風景もまた、変である。1曲の中で、これでもかというぐらいにめまぐるしくリズムが変化していく。変拍子ドラムや変態ベースが、無秩序なまでにあっちこっちで拍を起伏させ、その突端からは2本のギターが縦横無尽に鳴り響いている。その間隙を縫うように、ボーカルは起伏を手なずけながら乗りこなしており、エモーショナルでありながらどこか浮遊感を漂わせている。しかし、そんな変なグルーヴに乗って放たれる、身体の中心から搾り出されるようなメッセージには、視点を社会問題・環境問題に向け、そこにある現実に対しての無力感と焦燥感に溢れている。この社会の構造、それが生み出す弊害に目を向け、地球規模で本当に大切なものがなんなのか「探し 観て 考え 選び 捨て 拾う」。30分強のコンパクトディスクがわれわれに提示するものは、世界と人間との向き合い方だ。08年に発表された前作で、大阪ポストロック新時代の旗手として注目を浴びた彼らだが、今作において限りなく自由自在。概念としてのカテゴライズには収まらない独創的なアルバムとなった。


(Asagaya/Loft A:山崎研人)


真空ホロウ / contradiction of the green forest

ROJR-0006 1,890yen (tax in) / 4.07 IN STORES

 RO69推薦枠にてROCK IN JAPAN FES.2009への出演と、JACKMAN RECORDSからの本作品リリースを見事に勝ち取った茨城県鹿嶋市出身のバンド・真空ホロウ。同じく茨城県出身ということもあり、ちょっとした親近感を持っていた私は昨年夏のその知らせに思わず胸が高鳴った。当日、ひたちなかに足は運べなかったものの、後日ネットで配信されたライブ映像はもちろんチェックした。ミーハーな自分に突っ込みを入れながらも、ひたちなかの壮大な緑に囲まれて演奏する彼らの姿に目が釘付けになったものだ。夏が過ぎ、秋が過ぎ、長い冬を越し、届けられた『contradiction of the green forest』。1曲目のタイトルが『終幕のパレード』というだけでも衝撃を受けたが、何より真空ホロウの持ち味は曲の世界観だと思う。人間が誰しも持っている孤独感、そこから自然と溢れてくる欲望や依存…なんて言葉は難しい揶揄の様に捉えられてしまうかもしれないが、きっとこの作品を耳にすれば理解できるはずだ。早朝の5時、ただひたすらに真空ホロウの奏でる音楽と向き合いながら、この原稿を執筆している。相変わらずに自己表現が苦手な自分に苛立ちや虚しさを覚える。気が付けばここ数日、そんな毎日が続いている。先が見えない、気の遠くなるような終わりのないフラストレーション。しかし、そんな感情ですら代弁するかのように、耳から心へと激情的に流れ込む。無性に誰かの声を聴きたくなって、携帯電話の通話ボタンを押す訳でもなく、CDプレーヤーのスイッチを押す。音楽って、ロックって、そういう存在であって欲しい。…ここまで長々と書き綴ってみて、ああでもないこうでもないと、自分の中に存在している言葉を一生懸命に引き出してみて、何度こうしてリピートして聴いているのだろう。きっと空はもう明るくなっているんだろうな。一日の終わりであり始まりである瞬間に、こんなにも素晴らしい作品に出会えたことに感謝したい。そして、こんな素晴らしいバンドを生んでくれた茨城県を誇りに思う。実家に住んでいるお父さん、お母さん! 今度じっくり聴かせるから待っててください。


(新宿LOFT:松浦由香理)


チーナ / Shupoon!!

CLA-600038 1,890yen (tax in) / IN STORES NOW

  大好きなお店VILLAGE VANGUAD店内をいつものように物色していたら、突然目に入ったチーナの『Shupoon!!』。思わず試聴をしてみたら、これがまたすこぶる反応してしまった。気付けばその場で聴き入ってしまうほど。もしあの日VILLAGE VANGUADに足を運ぶ事がなかったら、チーナを知るのがもっと後になっていたかと思うと、あの日突然目に入った出会いは私にとってはラッキーな出来事。
 ピアノボーカル、ヴァイオリン、コントラバス、ドラム、ギター、マイクロコルグが生み出す絶妙なコラボレーションがとても気持ち良く言葉もどんどん入ってくる。何度と聴きたくなる程の気持ち良さ。個人的にはM-5『blue』がお気に入り。またジャケットのアートワークはルーヴル美術館や世界が認めた村上周によるデザイン。耳だけではなく、視覚でも存分に楽しませる。よくあるオーガニックバンドの枠に収まらないように、彼らの未来は限りなく広がっているよう。いつか野外で聴いてみたいな。


(ロフトプロジェクト:樋口寛子)


DOES / チョコレート

KSCL-1523 1,223yen (tax in) / IN STORES NOW

 バレンタインの三日後、2月17日に届けられたDOESの『夜明け前/チョコレート』。バレンタインデーと言えば、女子から男子に向けてチョコレートを贈るのが定番であるだけに、この作品はなんとも衝撃的であった。ましてや、あまりに甘く艶っぽく歌い、奏でられるものだから、女である私がドキッとしてしまう。1曲目の『夜明け前』では、雲が流れて薄明るい空に光が射し、悩み迷う感情を打ち破るような力強いナンバーを聴かせながら、2曲目の『チョコレート』ではタイトルそのままに、甘く溶けて匂いが立ちこめるようなアコースティックナンバーだ。Mary'sのショート・ムービー『トーキョーチョコレート』主題歌のために書き下ろされた曲ということで、曲の世界観はプロも認める本格派のスイーツさながらである。3曲目に収録されている『薄明』もこれまた秀逸で、1枚のシングルでこんなにも沢山の表情を見せられてしまって、聴き終える頃には恋に思い悩む乙女のような気持ちになった。こうして自分以外の誰かの声や言葉に心が揺らいで、ドキッと胸が高鳴った瞬間に全身に鳴り響くメロディ。…もしかしたら音楽に心を奪われるのって、恋愛と似ているのかもしれない。そう思ったら、目の前に存在している音楽すべてが、どうしようもなく狂おしくて愛おしくなった。ちなみに今年のバレンタインデーは、何事も無かったかの様に過ぎていったけど、こんなにも素晴らしい作品が世に放たれたというだけで言葉にし難い喜びを感じた。バレンタインデーだけでなく、これからやって来るホワイトデーにも聴いて欲しい作品。DOESの届ける音楽の魅力は、老若男女に関わらず胸を打つはずだから。DOESは今後、ツアーも予定されているとのことなので、気になる女の子からチョコレートを貰った男子は、お返しとしてライブに誘ってみてはいかがだろうか。


(新宿LOFT:松浦由香理)


plenty / 拝啓。皆さま

XQFQ-1201 1,700yen (tax in) / IN STORES NOW

 基本的に金がないのでipodなど買えず、もっぱら携帯電話からyoutubeで音楽を聴いている日々である。ひさしぶりに、くるりの『東京』でも聴こうと検索するとふと目にとまった下の段。plenty『東京』。東京というタイトルの歌は名曲が多いという勝手な私のデータから期待しつつ聴いてみた。そして予想をはるかに超えた。まるでひとつの物語のような楽曲構成に、氷のように澄んだ歌声がからみあう。歌詞に目を向ければ、おそらく若者であろう葛藤が浮かび上がる。この現代が生み出した心の産物を叫ぶのではなく、自己に訴えかけるように静かに力強く歌う。確かに響く。私は物事を考えさせられる。いいものだ。plentyとは茨城県出身、平均年齢20歳の3ピースバンド。昨年10月にこのアルバムでデビューを果たした。このアルバムは全曲においてニューカマーとは思えないほど完成されたplenty worldが繰り広げられる。弱冠20歳にしてこの世界観。末恐ろしい。来月には早くも2nd.アルバムがリリースされ全国を回りだす。春が楽しみだ。


(LOFT/PLUS ONE:向 祐輔)


Leyona×FUNKIST×Latyr Sy / MAMA AFRICA

PCCA-03113 1,575yen (tax in) / 3.10 IN STORES

 時として、音とは空気の振動を通して体に伝わるものだということを改めて感じさせてくれるアーティストがいる。大阪の高架下にある小さなライブハウスで初めて彼ら―FUNKISTに出会った。電車が通過する度に響く騒音をものともせず全身で奏でる音楽に、耳でも脳でもなく、全細胞が反応したことを、昨日のことのように覚えている。
 ボーカル、ギター×2、ベース、ドラム、パーカッション、フルートの7人から紡ぎ出される音楽は、シンプルに言うとボーダーレスだ。Vo.染谷の故郷でもある南アフリカのエッセンスを絶妙にブレンドさせながら、メンバーそれぞれが奏でたい音楽要素をためらうことなく取り込んで行くスタイル。確かな演奏力と共に届けられる染谷の唄声は、小ざかしいテクニックなど蹴散らしてしまう破壊力を持っている。全ての壁を音楽というチカラで突き抜けていく―そんな夢さえも、現実になるのではないかと信じたくなるのだ。
 そんな彼らが今回、PUMA(R)"AFRICA ELEBRATION"のテーマソング『MAMA AFRICA』を歌姫LeyonaとパーカッショニストLatyr Syとのコラボでリリース。染谷の故郷で行われるW杯にも負けない、彼らが送り出す音楽の熱量に身をゆだねて欲しい。


(Naked LOFT:しまだかずよ)


posted by Rooftop at 12:00 | バックナンバー