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桃色のジャンヌ・ダルク 公開記念 増山麗奈 インタビュー('10年3月号)

桃色のジャンヌ・ダルク 公開記念 増山麗奈 インタビュー

 アメリカがイラクを攻撃した2003年。その開戦直前の時期にあたる3月8日に東京の日比谷野外音楽堂で、イラク攻撃に反対する大規模な集会が開かれた。4万人の市民が集まったと言われるその集会には、こうした抗議デモは初めてという若者を中心に多種多様な人達が集まったが、その中でもひときわ目立ったのが「桃色ゲリラ」という若い女性グループだった。ミニスカートにピンクの大胆な衣装をまとい、アイドルのような笑顔で「反戦」を訴える彼女たちのアピールは、新しい時代の平和運動の形を提示し、これ以降のこうした運動において一つのシンボル的な存在となっていった。この「桃色ゲリラ」を主宰したのが、画家でもありパフォーマーでもある増山麗奈だ。十代の頃に美術に目覚め、9.11以降の戦争に向かう世界情勢に危機感を覚えて反戦パフォーマンスを始めた彼女は、「女」と「アート」を武器に、新宿の路上から国会前、さらには戦地イラクにまで乗り込んで自由でラジカルなパフォーマンスを行ってきた。その表現活動に衝撃を受けた映画編集者の鵜飼邦彦が今回初めてメガホンを取り、増山の活動と素顔に迫ったドキュメンタリー映画を完成させた。それが間もなく公開される『桃色のジャンヌ・ダルク』だ。公開前から既に各所で話題になっているこの映画について、増山麗奈本人から話を伺った。 (Interview:加藤梅造/Text:小柳 元)


暴力って負の連鎖しか生まないなって痛感した

──まずはこのドキュメンタリー映画を作ったきっかけについてお聞きかせ下さい。

増山麗奈(以下、増山):鵜飼邦彦監督が、私がアングラ系のクラブイベントで母乳ペインティングをした時にお客さんでいらしていて、その姿に衝撃を受けたそうなんです。それで次の日にメールをもらって、あなたをテーマにした映画を撮りたいと依頼を受けました(笑) 最初は冗談だと思っていたんですけど、その後他のイベントにも来て撮影していただいて、3年たったらできていたという感じです。

──映画に対しては最初から乗り気だったんですか?

増山:私はいつも来るものは拒まず、でも100%は信用せずという感じなんです。ただ監督が映画に対してとても情熱を持っていたので、私も楽しく作る事ができました。

──自分が客観的に撮られる立場になることに対してはどうでした?

増山:これまでに何度かテレビに出た事もあるんですけど、その時はただのイタい女として撮られたり、バカにされて終わるということもあったんです。でも鵜飼監督はとても丁寧に撮ってくださって、美化されてもいないし、面白おかしく撮られてもいない。映画を 観た友達から普段のままの私が映っていると言われて、それがとてもよかったです。けど、改めて画面を通して観ると、私ってうるさいし元気な女だなぁと思いましたね(笑)

──素の自分が映っていたという事ですね。

増山:ええ。私は普段あまり過去を振り返ったりしないのですけれども、この映画では回想シーンがドラマになっていて、役者の方達が、私が生まれてから20代位までの頃の事を演じてくれているのですが、私の男性遍歴とか、そこでのDV体験だとか、平和に目覚めて桃色ゲリラになったり、子育てしながらアートをやってたり、イラクに行ったり、色々な自分が出てきて、あぁ自分はやりたい事がやれてるなと思ったりもしました。

──観ているだけで痛快ですよ。

増山:安倍総理が辞任した次の日、国会の前に行ってビキニ姿で「ドタキャンするな!」って抗議をしたことがあったのですが、それを改めて映像で見ると、警官がビキニ姿の私を前にして戸惑っているという、かなり人間臭い姿が映っていて、まるでコントみたいで面白かったですね。国家権力って怖いものではあるけど、制服というコスプレを着てるのは人間なんですよね。

──でも、あのシーンはよく撮影できましたね。普通だったら止めらますよ。

増山:その時は、TBSのカメラマンも撮っていたので何もされなかったみたいです(笑) それで、カメラは武器になるんだって事を学びました。

──この映画によって桃色ゲリラ以前の増山さんを初めて知る人も多いと思うのですが、増山さんは中学生の時にチベットに行った経験が大きいんですね。

増山:はい。グローバリゼーションが加速していく中で、そうなる前の生活をしている少数民族との出会いは、私の中で非常に大きな経験でした。本能的に、武力に統制される前の宗教とそこで暮らす少数民族の生活が人間の本来あるべき姿だと感じたんだと思います。子供は陽気にその辺でウンコしてるし、お坊さんは凛とした顔をしていて男として格好よかったし(笑) そういう環境は素敵だなと思った事が今に繋がっている気がします。

──まさに活動の原点ですね

増山:そうですね。あとミニスカートと明るい笑顔が好きなのは、高校時代、チアリーディング部だったからですね。

──当時つきあっていた男から受けたDVの事なども映画では描かれてますが、やはりそれも増山さんの体験として重要なものだったということなんでしょうか。

増山:やはり、DVを経験して血だらけになって、暴力って負の連鎖しか生まないなって痛感したんです。あと、暴力を振るうことによってしか自分を表現できない弱い男もどうにかしなくてはいけないなって思いがあって、その時から初めて、他人のために祈るという行為をはじめたんです。それが今の平和運動に繋がっている。だから、それらの体験は私にとってとても重要です。あと、殴られて黙っているというのも癪なんで、映画にでもしないと割に合わないという気持ちもありましたね(笑)




身体を張ったパフォーマンスを是非観て下さい!

──9.11事件に衝撃を受けて「桃色ゲリラ」をはじめられたとのことですが、その時に突然思いついたんですか?

増山:いえ、潜在的にはずっとやりたいなと思っていました。中国に黄鋭というアーティストがいるんですけど、彼と天安門事件の10周年にパフォーマンスを一緒にやったことがあって、自分の闘いを必然的に表現としてやっているのがカッコいいなと思っていたんです。だけど、天安門の問題は自分に関係ないとは言わないまでも遠すぎると思っていて、もっと自分の問題で闘いたいなと考えていました。だからイラク戦争の開戦前夜に自分の周りの女の子達がデモをやろうと自然発生的に集まってきた時は、待ってました!!という感じがありました。黄鋭の活動は全共闘みたいにガチな政治運動だったんですけど、桃色ゲリラは、ウサギの耳をつけたりコスプレしたりして、女の子的でアニメ的なイメージで政治運動することが現代的なんだという感覚がありましたね。

──それが2003年3月8日の「WORLD PEACE NOW」の時ですね。

増山:その時の活動がいまだに続いているというのは自分でもビックリしています。

──あの時、桃色ゲリラは時代を先駆けていましたね。

増山:ただ、私がそこでした事はほとんどないんですよね。皆が自由に行動できるための場所を用意しただけといった感じでしょうか。桃色ゲリラという名前も、一緒にいた女の子がオカダヤでブラブラしている時になんとなく思いついたものなんです。会議とかもしっかりとしたものじゃなくて、お茶しながらなんとなくアイデアを出しあって進めていくみたいな感じで。「素人の乱」もそうだと思うんですけど、オルタナティブな運動ってそういう所から生まれていくものだと思うんです。

──ところで増山さんは、そんな活動もしている事もあってか日本政府に諜報されていた事があるんですよね?

増山:それは自衛隊から。「反自衛隊的な活動をしている」ということで監視リストに載せられていたんです。特にイラクでの行動が詳しく記録されていました。その時はゾッとしましたね。

──権力というのは、普通の運動家よりも増山さんみたいなアーティストが政治運動することを一番怖れるんでしょうね。かつてジョン・レノンもCIAに監視されてましたし。

増山:え〜怖い! 私も暗殺されちゃったりするのかな? そうしたらまた一本映画ができますね(笑) けど、あの時は川田龍平(の母の悦子)さんとか福島瑞穂さんも一緒にマークされていたらしんですよ。今、二人とも大活躍されていますよね。だからある意味、自衛隊って見る目あるなって感心しました(笑) ただ、監視をしたり盗聴したり、それが行き過ぎて昔の治安維持法みたいな状況になるのは怖いですよね。

──その体験を逆手にとって、増山さんが憲法九条を読んだパフォーマンスは最高でした。

増山:あれは私の最高傑作だと思っています。ストーカー的な行為をしてくる自衛隊に対してオナニーをしながら憲法九条を読み上げるパフォーマンスを録音したんです。その時は銀座芸術研究所というギャラリーでの個展中だったのですが、不可抗力的に濡れてしまって、オーナーが帰ってきた時には床がビッショリになって、彼は目を丸くしていました。なんか私、よく日常的にオナニーとかするんですけど、夫が戦場に取材に行ってる時に限って濡れてしまったりして、戦争反対とか言ってるわりには、軍部とか大きな力にとても興奮してしまうらしいんです。そういう矛盾を抱えながらも、私は戦争反対と言っているのです(笑)

──戦争というのは人間の本能でもありますからね。キレイごとでは済まないというのは真実だと思います。

増山:上映期間中、映画館にはあの時のパンツを飾ってみてもいいかもしれませんね。盗まれたら嫌ですけど。ああいう馬鹿なことをやりきると、なんか自分を好きになっちゃうんですよ。何と闘っているんだかもはやわからないんですが(笑) あと、六ヶ所村の核燃料再処理工場前のシーンも身体を張ったという意味ではぜひ観てもらいたいですね。あとで調べてみたら、六ヶ所はその時氷点下だったんですよ。そこで吹雪の中、ビキニのコスチュームで核再処理工場に反対するパフォーマンスをやりました。その極限状況の私を是非観て下さい!


INFORMATION


「桃色のジャンヌ・ダルク」
監督/撮影/編集: 鵜飼邦彦
キャスト:増山麗奈、白井愛子、志葉玲、神楽坂恵、他
3月27日(土)より、渋谷ユーロスペース にてレイトショー(連日夜9時より)

※3月6日にNaked Loftで公開記念イベント開催決定!! 詳細はP42参照。
※3月20日に芝公園4号地15:00〜 WPN(反戦パレード)で桃色ゲリラ再結成!参加者来たれ!(雨天決行)

posted by Rooftop at 12:00 | バックナンバー