ギター バックナンバー

PANICSMILE('09年12月号)

PANICSMILE

現メンバーによるラスト・アルバム『A GIRL SUPERNOVA』についての極私的覚え書き


文:椎名宗之
写真:イワサワタカシ

 Asagaya / Loft Aのバー・ホールで吉田さんが録り終えたばかりのPANICSMILEの音源をやや興奮気味に語りながら聴かせてくれたのは2008年の10月だったと記憶する。
 まだCD-Rで渡せないんですが、と前置きした上で、自分のヘッドフォンで聴かせてくれた。
 ヨレて、ねじれて、ズレて、ズッコケて、それでいてキラキラと輝いていて、とてもらしい音で嬉しくなった。
 録りたてということもあってか、まるで音から湯気が立っているかのような息吹が感じられた。
 ギラギラと照り返すアスファルトの歩道がゴムのサンダルを吸い付くようなジリジリとした夏の熱さを想起させる音だが、その隙間を縫うように聴こえてくるのは随分とまた体熱の低い吉田さんの呟くような歌声だった。
 本人の地声に近いボソボソとした唄い方で、従来の歌唱法とは趣きが大きく異なるものだった。
 僕が連想したのは寺尾 聰の歌声だった。細野晴臣っぽくもある。
 「この唄い方、メンバーから“気持ち悪い”って言われるんですよ」と、吉田さんはいたずら好きな子供のような顔をして笑った。
 と同時に、我が意を得たりといった体もあり、完全犯罪を目論む冷酷な知能犯の顔のように僕には見えた。
 「新曲は“女子”がテーマなんですよ」という吉田さんの言葉に思わず椅子からずり落ちそうになったのはそれから更に遡ること数ヶ月前のことで、PANICSMILEの世界観とは余りに懸け離れたテーマをどう具象化するのか心待ちにしていたので、この日のささやかな試聴会(贅沢にも本人の解説付き)は酒が進んだ。
 照準をジッと歌に据えた『BEST EDUCATION』という彼らの前作を僕はこよなく愛聴していて、それを超えた作品になるのだろうかとちょっぴり不安もあった。
 言うまでもなく杞憂だった。おもちゃ箱を引っ繰り返したかのような旺盛な音の実験精神と誠実な歌心が絶妙なブレンドで融合したバランスの良いアルバムだった。
 誤解を恐れずに言えば、本来持ち得た前衛性と『BEST EDUCATION』で勝ち得た大衆性が実に理想的な配合で混じり合った作品、であった。

 メンバー自身も確かな手応えを感じたのだろう、これまで支えてくれたコア層を基軸としながらもマスな方向に打ち出すべく、従来以上のプロモーションを期待できるレーベルとのコンタクトを取り始めた。
 数社が名乗りを上げて交渉が進んだが、昨日までの順調が突如暗転したり、長い時間態度を保留にされたまま飼い殺しにされたり、満身創痍で地団駄を踏む日々が続いた。
 だが、彼らは決して挫けることなく、盟友関係にあるNATSUMENのAxSxE氏にミックスを依頼しつつ、ほぼ完成していた作品をビルド・アップしようと今年の6月に再びレコーディングに入った。
 7月、例によってAsagaya / Loft Aのバー・ホールで吉田さんと呑み語らいながら、一枚のCD-Rを受け取った。未だにリリースするあてはないが、ほぼ完成した状態のPANICSMILEのニュー・アルバムだった。
 後日、吉田さんに極々私的な感想をメールで伝えた。

 新作、やはりとても良いです。
 何と言うか、吉田さんの歌がとりわけ心地好く、サウンド的にはどことなく夏っぽいイメージあり。
 誰に頼まれたわけでもないのですがメモ書きをしたので、送ります。

 GIRLS ON FLOOR 1(註:当初、これが1曲目だった)
 床の味は甘いのかい?
 安室ちゃん、ミリア、羞恥心…歌詞をちゃんと読みたくなる。物議を醸すこと必至。
 サウンドはPANICSMILE meets はっぴぃえんど、が基調。歌モノとして充分機能。

 A GIRL SUPERNOVA
 スーパーノーヴァ(超新星)。ライヴで好きな曲。
 途中のフュージョンみたいな展開が心地好い。

 NORTH OF BORDER
 これもライヴで好きな曲。展開忙しなくて格好いい。
 中盤の吉田さんの低音独白パートが特に良し。
 異常な生活…これも歌詞をちゃんと読みたし。
 we don't care…最後のテンション高いアンサンブルが凄く好き。

 THE ELECTRIC SEA
 どことなくマーチ風と言うか行進曲風。
 これも吉田さんの歌声がいい。
 とてもよく構成が練られたポップ・ソング。

 SIREN
 何となく初夏のある日の午後を想起させるイントロ。
 澄み切って晴れ渡る空、そこに垂れ込める暗雲。
 シャツにこびりつく汗。苛立ち。
 雲の間から一縷の光が差し込んで、またギラギラした太陽が顔を覗かせる。
 過ぎゆく夏への焦燥感ばかりが心を射抜く。
 …そんなイメージ。
 センチメンタルでメランコリーな音色。

 SURFER GIRL
 ハモベさんvo。気色悪い。でも、いい曲。吉田さんが唄うのも聴いてみたい。
 サーファー・ガール、と聞けば、あの美しい旋律のBB5『SURFER GIRL』なのに…。
 でも、サウンド…ギターの音色は叙情的で美しい。

 KISS AND TELL
 イントロからまさかのコーラス(フワフワ)。
 脳内ゲームで人殺し、インドに行ったとウソをつく、という実に物騒で退廃的な歌詞、気怠く吐き捨てるように唄われる歌と演奏だが、最後まで一気に聴かせる。
 PANICSMILE一流の泥臭いブルーズ。文句なく格好いい。

 GIRLS ON FLOOR 2
 また“床の女が手招きする”。
 ジェイソン、一部vo。
 ループ。リプライズ的チューン。コンセプチュアルな構成にニヤリ。
 これでまた最初の曲に戻って延々ループ。

 これだけでももう充分な傑作に思えますが…これ以上良くなるのなら大歓迎ですね。
 前作以上に聴き込める作品になりそうです、個人的に。
 また近いうちに阿佐ヶ谷でゆっくりと。
 外気と内気の落差で体調を崩しそうですが、ご自愛下さいませ──。

 そんな文面のメールを送ってから半年弱、バンドが制作を始めてから1年以上。
 『A GIRL SUPERNOVA』と題されたPANICSMILE通算7作目となるアルバムがようやく陽の目を見る。遂に、ようやく、やっと、とうとう、終ぞ、出るのだ。
 長かった。とにかくその一言に尽きる。僕がそう感じるくらいだから、バンドはそれ以上に溜飲が下がる思いだろう。
 紛うことなきPANICSMILEの最高傑作は、過去最高な紆余曲折を経て世に出るとも言える。
 細部にわたり丁寧なコラージュが散りばめられたアートワークも素晴らしい。デザイナーのバンドに対する深い愛情を感じる。
 だが、すでに公式発表があったように、現メンバーでのPANICSMILEの活動は来年3月の自主企画『WE SAY FOGGY!』で終了する。
 “現メンバーでの”という言葉があるかないかでは意味が大きく変わるが、この先のことは現時点でも一体どうなるか判らないと吉田さんは言う。
 『A GIRL SUPERNOVA』という至高の作品を発表したばかりだというのに、実に惜しい。
 現メンバーが揃ってちょうど10年、それだけの歳月を掛けて達することのできた高みなのだ。返す返す、惜しい。
 とは言え、そうしたバンドの実情と作品は関係がない。作品は作品として評価されて然るべきだ。
 この『A GIRL SUPERNOVA』の発表にあたり、バンドは媒体各誌のインタビューを基本的に受けないという。
 金を積んでページを買い、薄っぺらい言葉ばかりを並べた短い提灯記事を載せても誰も読まない。
 そんな音楽メディアの悪しき構造を知り尽くした吉田さんなりの私案なのだろうが、それ以上に、何の先入観もなく自分たちの自信作に耳を傾けて欲しいという純真な気持ちの表れなんだと僕は思う。
 音楽は自由なものだ。フリーダム・イズ・ディスなのである。
 だとすれば、メンバーの肉声や評論家やライターの私見(ただし、紙資料の書き写しではないもの)に左右されることなく、あなた自身が感じたことをすべての基準にすればいい。
 僕はこの『A GIRL SUPERNOVA』を掛け値なしに素晴らしい作品だと信じて疑わないが、あなたは『10songs, 10cities』こそが最高だと思うのかもしれない。それでいい。多様な価値観がふくよかな文化を生むのだから。
 ここに書き連ねた僕の拙文も、あくまで個人的なメモみたいなものである。
 ただ、こんな雑文を書くことで、ポップになろうとしてもどうにもオルタナティヴな裏街道をひた走ってしまうPANICSMILEの音楽に興味を持ってくれる人が少しでも増えたら嬉しいと思うだけだ。
 何物にも囚われることなく、こんなにも無垢で無邪気なアンサンブルを轟かせるバンドが同時代に存在することを知らないなんてもったいない。
 現メンバーが散開するまであと4ヶ月。カウントダウンはすぐそこだ。



PANICSMILE
A GIRL SUPERNOVA

01. INTRODUCTION
02. NORTH OF BORDER
03. GIRLS ON FLOOR 1
04. INTERLUDE 1
05. A GIRL SUPERNOVA
06. THE ELECTRIC SEA
07. INTERLUDE 2
08. SIREN
09. INTERLUDE 3
10. SURFER GIRL
11. INTERLUDE 4
12. KISS AND TELL
13. INTERLUDE 5
14. GIRLS ON FLOOR 2
P-VINE RECORDS
PCD-18579
2,500yen (tax in)
2009.12.02 IN STORES

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Live info.

2009年12月17日(木)渋谷o-nest/CINRA presents『exPoP!!!!!』
2010年1月13日(水)渋谷o-nest/PANICSMILE presents『WE SAY FOGGY! volume 5』

posted by Rooftop at 12:00 | バックナンバー
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