自然とのセッションが実現した『蘇りの血』について語りつくす!!
今月のゲストは『アンチェイン』、『青い春』、『ナイン・ソウルズ』、『空中庭園』などの数々のヒット作を生み出し続けている映画監督の豊田利晃さん。今回、豊田監督が『空中庭園』から4年ぶりにメガホンをとった最新作、『蘇りの血』が12月19日から全国順次公開される。主演には元BLANKEY JET CITYのドラマーである中村達也、ヒロインには草刈麻有が。音楽は、主演の中村達也とエレキ・ヴァイオリニストとして活躍する勝井祐二、元BLANKEY JET CITYのベーシストであった照井利幸、そして豊田利晃自身が映像で演出するバンドTWIN TAILが担当する。
ダイナミックかつ繊細に描かれた、人間の再生と愛の始まりの物語。豊田監督が、この映画で伝えたかったものとは? スマイリー原島が核心に迫る!(構成:やまだともこ)
最初は長編のミュージックビデオの予定だった
原島:先月のあがた森魚さんに続き、今月は豊田利晃さんの登場となります。
豊田:あがたさんで思い出しましたが、昔“みちのく国際ミステリー映画祭”で賞をもらったんですけど、表彰式で審査員が全員帰っちゃって、誰もいなかったんですよ。それで僕が舞台でキレて、「責任者出て来い!」って。その後、あがたさんが舞台に上がって、すかさず僕のフォローをしてくれたんです。彼が言うことはすごくよくわかる、正しいって。それで、僕はあがたさんはすごく良い人だというイメージがあって(笑)。忘れられない思い出ですね。
原島:みちのく映画祭のみなさん、その時のことを豊田くんは忘れていませんよ(笑)。しかし、今回の『蘇りの血』もすごいものを作り上げましたね。
豊田:ありがとうございます。
原島:音楽を全てTWIN TAILが手がけているので、僕の中では「TWIN TAIL THE MOVIE」と呼んでますが、この映画は、音楽と脚本のどちらが先に出来上がっていたの?
豊田:同時なんですよ。最初はTWIN TAILの長編のミュージックビデオを作ろうと思ったんですが、バンドがあってミュージックビデオがあるという形はありきたりじゃないですか。せっかく僕が映画監督をやっているんだったら、PVとかDVDじゃなくて映画で見せようって。そんなこと誰もやってないし。おもしろいんじゃないかって。
原島:それがすごいよね。映画と音楽が見事にシンクロしたものが出来上がったから。これは日本の映画史に波紋を投げかけたんじゃないかなと思いますよ。
豊田:うんともすんとも言ってこないのが日本の映画界なんじゃないですかね(苦笑)。
原島:辛いこと言うね〜(笑)。あと、これを見ていて思ったのは、CDのアルバムの収録時間は最大77分なんだけど、この映画は83分。アルバム1枚分ぐらいの長さなんですよね。だからあっという間に見終わってしまったという感覚で…。
豊田:人間の体感時間を考えると、80分がベストだと思っているんです。『青い春』も80分ですし、90分以内の映画をずっと撮りたいと思っていて、今回バジェットもなかったんですが、長すぎない映画ということを考えて作ればバジェットがない部分も補えるんじゃないかと思ったんです。
原島:今の音楽もインディーズはローバジェットで作るけど、ローバジェットだから悪いというものではなくて、ローバジェットだからこそある集中力というのもあるからね。
豊田:映画界で言うとローバジェットというのは新人監督や売れてない人、スタッフも素人みたいな印象を受けますが、今回は一流のスタッフのみんながローバジェットをおもしろがって、自分たちの力を試すつもりでやっていたんです。美術のスタッフも20人ぐらいいて、下北半島にも行ってるからこれをやると本当なら億は超えると思うんです。でも、スタッフの間でこれは豊田祭りだって盛り上がってくれて、ほぼノーギャラでしたからね。最初に岩壁のシーンから撮ったんですが、仏が浦という場所へ近くの港からキャストやスタッフが20隻のぐらい漁船に乗って行くという光景は面白かったです(笑)。
原島:あの岩壁は、あんなに素晴らしいところが日本にもあるんだね。
豊田:プライベートで2回行っていて、素晴らしい場所だと思っていたんです。でもここにオープンセットを作るなんてことは、普通の人では考えないと思いますね(笑)。
原島:このポスターに写っている木も素晴らしいですが、撮影した場所はどこになるの?
豊田:下北半島の薬研(やげん)というところで、そこに“小栗の木”という栗の木があるんですが、それを見た時に呼ばれていると思ったんです。それで山道を30分ぐらい歩いて、クレーンをみんなで運んで凄まじい作業でした。
原島:この写真1枚撮るだけでも、どれだけ大変だったかが想像できますよ。どこかすごく怖いという感じもするし。
豊田:よく言うエコロジーとか癒しとか自然というのは植林の気がするんですが、原生林というのはエコロジーとかを許さないんですよね。
原島:拒絶するということ?
豊田:拒絶というわけではなく、癒される部分もあるんですが、ナイフの上を歩かされている感じ。ずっと誰かに見られている感じもするし。それはみんな感じてましたよ。囲まれてるって。
中村達也からは人間が本来持っている生命力を感じる
原島:主人公のオグリを演じる中村達也君は豊田君と同じTWIN TAILのバンド仲間でもありますが、その達也君を主役に抜擢したとなると一緒に活動をしている間、彼のことをどう見ていたのか気になります。
豊田:ずっと撮りたいと思っていたのが自然や原生林の力と、人間が本来持っている生命力。人間が本来持っている生命力がこんなにあるのかというのは、中村達也がドラムを叩いている姿を見てすごく感じたんです。他のドラマーとは違うし、人を感動させるし。だからこの映画にも達也さんしかいないなって。
原島:達也君は今までいろんな映画に出ているけど、これほどまでに本能的な部分を収めたものはなかったと思うんだよね。だから、今回の映画ではものすごく自然に言葉が出てきて、彼が叩くドラムのような良いバイブレーションを感じましたよ。
豊田:みんなが達也さんを、パンクロッカーで怖いというイメージで起用しますが、内面から滲み出るものが顔とか姿から出ているので、動かさない、喋れない、半身不随の男という方が何か訴えられるものがあるんじゃないかと思って。
原島:原生林の中というのも、彼を動かす何かがあったのかな。
豊田:けっこう役に入り込んでいたみたいですよ。自然の中で着流しみたいな着物を着て佇んでいるといろいろ感じるものがあるんじゃないかと…。
原島:乗り移っているものがあるんだろうね。
豊田:本人も言ってましたけど、映画を撮り終わって1ヶ月ぐらいオグリが抜けなかったみたいです。家に帰っても「テルテー!!」って言ってたらしいですから(笑)。
原島:もともと憑依しやすいキャラクターだから(笑)。でも確かに彼の持っている本能的というか、原始的な部分は、都会にいるから知らないうちに抑圧されているんでしょうけど、自然に囲まれて解き放たれた雰囲気はあったよね。
豊田:本人も気持ち良かったみたいです。本来、自分はこういうところの人だって。富山県の田舎で育ったって言ってました(笑)。
原島:ところで豊田君は、旅の途中で“蘇生の湯”に浸かって、この映画のインスピレーションを受けたそうですが。
豊田:紀州・熊野に世界遺産になっている世界最古の温泉・壺湯があって、そこに浸かりました。その壁に、この脚本を書く元となった“小栗判官”の物語が描かれていて、湯も良いし、物語もいいし、“蘇る”というフレーズも良いし、いろいろなものがすごく肌に染みたんですよ。映画って呼ばれるというのがあるんです。自分が思ってもみないことで、でも常に探していることで、これだって思う時があるんです。それがその時だったんですよ。
原島:僕は、この映画を見て風呂の入り方が変わりましたよ。これは最後のシーンを見て頂ければわかると思いますが。日本の文化の中で、風呂に入るということは肉体だったり精神だったりが癒されたり治癒したりという意味もあるんだよね。それを考えた時に風呂ってすごいなって。
豊田:有名な温泉地って近くに火山があって、火山はマグマの力じゃないですか。言うなれば、温泉というのは地球とセックスするみたいなものだと思うんですよね。
原島:母体の中にいるとか、浸かっている感じを受けるんだろうね。それで僕はこの映画を見て、海外の人にも受け入れられる作品なんじゃないかと思ったんですよ。
豊田:それが、海外でウケると思っていたのですが逆みたいで…。外国の方にも見せたんですが、日本人の死生観というか、蘇るとか死の旅とかは理解できないみたいなんです。
原島:自分たちが持っている死生観と全く違うから、逆に神秘的であると感じるんじゃないかと思ったんですが。
豊田:でも、これからもう少し多くの方に見て頂く機会があるので、そしたらまた変わるかも知れないですよね。
映像と音楽のコラボレーション
原島:そして、この映画は全編TWIN TAILが音楽を手がけていますが、これがまた素晴らしい。
豊田:照井節が効いてますよね。
原島:勝井君が奏でる旋律も、映像と絶妙に合ってますからね。これは映画を見ながらやったのかな。
豊田:全部即興演奏なんです。今までやってきたライブの音源とかスタジオの音源は僕がストックしているので、それを集めていって、映画の編集が終わった時に曲の良い部分を切り貼りしたものを聴かせたんです。それで、イメージ的に欲しいもの…このメロディーは絶対に欲しいとか、あのベースラインが欲しいとかを伝えて、映像を見ながら「せーの」で録っていくという作業。でも3人とも野獣みたいなものですから、言うことを全然聞いてくれないんですよ(苦笑)。
原島:達也君に至っては叩き出したら忘れるし、きっと照井君と勝井君もどうやって弾いていたか覚えてないですからね。
豊田:しまいには「映画なんて関係ない!」とか言い始めますから(苦笑)。「いやいや、映画音楽やってるんだけど」って説明するところから始めて…。
原島:でも、映像とタイム感が見事に合ってるよね。こういう映画は今後も出て来ないだろうなと思いましたよ。
豊田:日本の映画監督って、音楽をわかってる人なんて1人もいないって思ったりしないですか?
原島:激辛だね(笑)。まぁ、音楽が好きな人はたくさんいるんでしょうけど、音楽も一緒に作り上げるという人はなかなかいないからね。豊田君は、TWIN TAILのライブでは毎回音楽に合わせて映像も即興で出していってるんだよね?
豊田:ええ。面白いんですけど、毎回が修行の場ですよ(苦笑)。でも最近は映画と観客の直接性がなくなっている気がして、無声映画みたいに見る人に最大限の想像をしてもらいたくて、映像と音楽のコラボレーションをTWIN TAILでやるようになったんです。最初はボロボロでしたけど、3回目ぐらいから徐々に歯車が合ってきて、全国何カ所かでライブツアーなり何なりをやって、ライブハウスの人とも仲良くなりましたし、良い経験でしたよ。
原島:音楽を聴きながら体感したものを映像として出していくっていうのは、これはすごいよね。
豊田:始まるまではめちゃめちゃ緊張しますよ。彼らと打ち合わせはするんですけど全部裏切ってくるし、1時間で終わるって言ったのに2時間やるときもありますし(笑)。
原島:でも、修行と言えば修行だけどその時のセッション感は映画の現場とはまったく違うものがあるからね。
豊田:映画では絶対にできないっていう、ミラクルの瞬間が生まれるんですよ。すごく気持ち良く偶然が偶然を呼んでシンクロする瞬間が。そういうのをこの3年ぐらい記憶しているので、この映画に生かされていると思います。
原島:映画の中にある、原生林とか野生とか自然は決して作り出されたものじゃない感じはしますよね。それはライブにある唯一無二な感じと近くて、演技している感じがあんまりない。
豊田:自然も動いていますからね。言うこと聞かないし(笑)。
原島:実際、何日間で撮ったの?
豊田:全部で12日間。撮影日数は10日で、そのうち4回は徹夜してます。
原島:それはある種覚醒してくるね(笑)。
豊田:みんなおかしくなっていきますよね。いろんな事件もありました。ロケハンで下北半島に行った時に二度救急病院に駆け込んでますから(苦笑)。僕ははっきり体に来たけど、そんな体験をスタッフもキャストも全員しているんです。何か感じるって。
原島:この映画を見ていて、尺を全く感じさせないのもそういうパワーを受けて、タイム感がおかしくなっているのかな。時間軸が交錯してるからなのかなと。
豊田:自然がたくさん映っているから、そっちをずっと見ちゃうんですよね。だから情報量が多いという気もします。
原島:それぞれの見方があると思いますけど、主役の達也君はこの映画を見てどう思っているんでしょうね。
豊田:達也さんは出演者なので冷静には見れないですけど、この映画は自分に合っているっていってました。自分の中に流れいるものと同じだって。
原島:血の流れと?
豊田:はい。でも、スプラッタの血じゃなくて、本当の血という意味で。
原島:達也君以外この役ができる人はないなって思いましたよ。達也君で作ってるからこういう映画にもなったんじゃないかなと。
原生林での映像に味をしめてしまった
原島:ところで、この映画は時代背景が全くわからないんですけど、一体いつなんですか? 板尾(創路)君に至っては普通に大阪弁だったし。
豊田:入れ墨率も高いですよね。
原島:タトゥーも時代感がわからないけれど、昔はこんな感じだったのかなって。でも、“小栗判官”みたいなものがベーシックにあったとしても、時代性が近未来に見えることもあるし。
豊田:草刈麻有さんが演じるテルテのいる湖の下に、東京が沈んでいても良いぐらいのイメージですよね。そうすれば良かったかなって完成してから思ったんですけど、そういう時代を通り越えた神話ですよね。人の再生とか、愛の始まりとか、生と死について撮りたかったんです。
原島:死生観でいうと、魚をさばくシーンを残酷だと言う人もいたけど、得てして寓話というのは残酷ですからね。残酷に見えるけど、娑婆世界を生きていると残酷な場面ってたくさんあって目をそむけているのが見えてくるんですよ。
豊田:そうなんですよね。魚をさばいたり、動物を殺して肉を食べたりしているわけですからね。でも、思うんですけど、原生林と東京って裏表で繋がっている気がするんです。だから、東京の閉塞感を突破するエネルギーのヒントはそういうところにあるんじゃないかと思うんですよ。
原島:東京にはなんでもあって自給自足をする必要もないんだけど、手に入らないものもあるからね。でも映画で表現されている時代では、何かをしなければ手に入らない。簡単には手に入らないものとか、近くにあるけど手に入らないものの、両面のものが見せられたなというのがありますね。だから、この映画で表現されている、娑婆の生き方というか現世に戻る感じとかは考えましたよ。
豊田:映画を見てるといろいろ考えちゃいますよね。
原島:特に僕達みたいな40代を越えた人間にとって、自分がここにいたらどう生きるんだろう。生きられるのかなって。
豊田:スマイリーさんは大丈夫ですよ。俺は無理ですけど(苦笑)。
原島:そう(笑)? イザリ車を誰がこんなに一生懸命引いてくれるのかなって(笑)。あと、先ほど話にあがりましたが、テルテ姫を演じた草刈麻有ちゃんのクリスタル感は素晴らしかったですね。
豊田:この映像を撮っていた時は、まだ中学生だったんですよ。草刈正雄さんの娘さんなんですけど、すごく度胸があって、良い女優さんになるなと思いましたよ。
原島:佇まいというか、凛としている感じ。ああゆう人って最近生まれてないなって。よくぞオーディションを受けに来たなと。
豊田:あのとき出会えたのはラッキーでした。そのラッキーは映画のラッキーにもなるので。
原島:呼ばれてるというのはそういうことなんだろうね。
豊田:達也さんの相手役の女は成人じゃない方が良いなと思っていたんです。それで、達也さんの娘たちを間近で見ていたときに、娘さんに年齢が近い方が良いんじゃないかなって閃いて…。本人もそれを感じたみたいで、抱きしめた感覚が娘と一緒だって。それで入り込んだみたいです。
原島:ところで、この映画を撮りながら、また何か次のイメージが豊田君の中に生まれてきたんじゃないの?っていう気がしたんだけど。
豊田:これだけ強烈な自然の中で映画を撮って、味をしめちゃったというのもあるんですよ。でも、真逆のものもやりたい。プラスティックなものも。それもやるけど、自然とのセッションは癖になりますね。だから、今後はさらなる秘境に入っていきたいです。もっとすごいところ。昨年は五島列島にも行ったんですが、海の綺麗さは日本一でしたよ。
原島:五島列島は、隠れキリシタンだったり、文化的なものもあるけれど、実はものすごいおおらかな人たちなんだよね。
豊田:今いるのは漁師さんばかりですよね。映画とはあまり関係ないですけど、下北半島は仏教色が強いので、真逆のキリスト教色でもやってみたいなって思いますね。
原島:それはそれで期待したいですね(笑)。もう締めの時間となってしまいましたが…、この映画は、まず音と共に体感してもらいたい映画だなと思いますよ。サウンドトラックって普通は映像をバックアップするという感じですが、これはちょっと違いますからね。TWIN TAILのライブも、12月28日で予定していますし。
豊田:ぜひ見に来てください。
原島:ライブの当日、映画の上映会もやったらいいのに。
豊田:それがダメみたいで…(苦笑)。僕のパソコンに入っているので流せちゃうんですけど。
原島:また関係者全員苦笑いですね(笑)。流しちゃえって言ってますってことで…。
豊田:NGシーンとかもあるんですけどね(笑)。でも、まずは映画館で見て頂きたいと思っています。
after talk jam...
message to Mr.TOYODA
また音と映像でキツい奴を感じさせて下さいな。呑みましょう、近々。(スマイリー原島)
蘇りの血
企画・脚本・監督:豊田利晃
音楽:TWIN TAIL
キャスト:中村達也 草刈麻有 渋川清彦 新井浩文 他
12月19日より、ユーロスペースほか全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム
(C)「蘇りの血」製作委員会
●ストーリー
人間が全世界を支配する以前の時代。闇の世界を司る大王が患う業病を癒すために招かれた天才按摩オグリ。しかし、誰もが嫉妬するほどの健康な身体を持ち、忠誠を誓わないオグリは腹を立てた大王に、殺されてしまう。
そして、そんな大王の元から逃げ出した姫・テルテは身心の自由を奪われたオグリと再会を果たし、「蘇生の湯」へと導いていく。テルテが捧げた無償の「愛」は、再びオグリに生きる「命」を与られるのだろうか。一度世界から追放された人間は、いかにしてその地の底から這い上がり、「蘇る」のだろうか。
(『青い春』、『空中庭園』の豊田利晃4年ぶりの最新作は、現世と冥界をさ迷う男を通して人間の再生と気高い愛を描いた生命力溢れる物語。)
http://yomigaeri-movie.com/