ギター バックナンバー

ハイスイノナサ('09年10月号)

ハイスイノナサ

照井順政(Gt)、中村圭佑(Dr)、田村知之(Key)、鎌野愛(Vo)、照井淳政(Ba)

ざわめきの多い街の雑踏の中で一人、『街について』に耳を傾ける


 歌モノ・ピアノブレイクビーツバンド、ハイスイノナサが、遂に1st.ミニアルバム『街について』を残響レコードよりリリースする。  触ったら壊れてしまうのではないかと思うほどに繊細で儚さを持ったサウンド。透明感のあるボーカル。それでいて、一本芯が通った力感に溢れた楽曲。静と動を巧みに操り、美しく優しい光を放つかのようなサウンドに身を預けると、心地良い境地へと誘なってくれるようでもある。今回は、全曲の作詞作曲を手がける照井順政(Gt)にお話を伺うことができた。彼らの楽曲を聴くと、こんな素晴らしいバンドがいたんだと、感じずにはいられないだろう。(text:やまだともこ)


期待と不安

──1st.ミニアルバムの『街について』が遂に全国で発売になりますが、ようやく全国に音源を届けられるというこの時期の素直な感想をお願いします。

「まずはやはり、発売後にどんなリアクションがあるのかという期待と不安があります。それと、レコーディングから発売まですごく長かったなぁと感じます。実際に録音していたのが、もうずっと前のことのようですから」

──これまで自主制作でデモCDを3枚リリースされていますが、その頃と今回のレコーディングでの決定的な違いはどんなところでしたか?

「時間の制約があるということが一番大きかったですね。締め切りのある中で出来うる限りの最高のものを作っていくというのがプロなんだ、と実感しました」

──ハイスイノナサと言えば、バンドアンサンブルの素晴らしさもひとつの特徴だと思いますが、『街について』を制作する上で、一番気を遣ったところはどんなところですか?

「作曲の段階で気を遣ったことは、イメージを大切にするということです。良いイメージが頭にあって、それをうまく音楽で表現出来ればおのずと聴覚上にも良いものになると思っています。ですので、作っている段階では“かっこいい音楽を作ろう!”という意識ではなく、“このイメージを音楽にしよう!”という意識で作るようにしていました。レコーディングで気を遣ったのは、より楽曲がイメージに近づく演奏を、ということですね」

──となると、今回は楽曲がイメージに近づく演奏をすることに時間をかけたという感じになるんですか?

「そうですね。楽曲を作ることや、レコーディングではMIXにとても時間がかかりました」

──今回、この6曲で作品にしようと決めたポイントはどんなところでしたか?

「単純にその時点で質が高いと思う楽曲を選びました。楽曲を作っている時のモードに統一感があったので、“雰囲気が違うからこれははずそう”というような曲はありませんでした。曲数に関しては、現時点では6曲くらいが1曲1曲に対して集中力を保って聴くには丁度いい曲数かなと思ったんです」

──1曲目の『平熱の街』は、ネジ巻き人形のような…儚さを感じるピアノの音が印象的でしたが、どの楽曲もアレンジは細部に渡ってこだわっていると感じたんです。アレンジは、それぞれのパートの方がそれぞれ考えているんですか?

「楽曲の大枠は僕が1人で作っていくのですが、細かいアレンジ等は各メンバーにおまかせする部分が多いです」

──思ってもないこだわりを発揮したメンバーがいたりとかは?

「思ってもないこだわりを発揮したメンバーは…いなかったですね。いつも見ているメンバーのままでした(笑)。ただ、エンジニアの方にみんなの眠り方が個性的で見ていると面白いと言われましたが、僕は確認できませんでした(笑)」

──4曲目の『通り雨』は、“原型を作ったときはイマイチに感じていた”そうなんですが、もともとはどんな曲だったんですか?

「この曲はオケから作ったのですが、単純に面白みがないというか…引っ掛かりがない曲でしたし、頭にあったイメージと実際に演奏した時のギャップが大きくて“こうじゃないんだよなぁ”と思っていたんです。その後に歌が乗って、アレンジや音色などを変えていったりするうちに徐々に良くなってきたという感じです」

──イマイチだったと感じるのは、“ハイスイノナサの楽曲とはちょっと違う”という意味合いもあると思うんですが、“ハイスイノナサらしさ”とはどんなものだと感じていますか?

「難しい質問ですね(苦笑)。でも、言葉で説明できないような音楽をやりたいと思っています」

──全曲を通して、現実と物語の狭間にあるような歌詞は、どうやって生み出されているのでしょうか?

「すごく主観的で感覚的な世界をイメージして作っています。現時点では現実を模倣することには興味がなく、自分の感覚で観ている世界を頭で再構築し、それに対して曲を作ってるので、歌詞もそういった感じになるんだと思います。そういった想像力は現実世界をより鮮明に見せてくれるような気がしますし、現実を変えていく力になると思っています」

──6曲目の『少年の掌』では、“当時の自分の感情がよく表せている”そうですが、感情がそのまま楽曲になることが多いんですか?

「感情が核心にあるのは間違いないですが、そのままということもないと思います。感情はあくまで根の部分で、そこから色々な要素が伴って楽曲になっているというような………難しいですね」

様々な音楽やアートの断片を集めたもの

──Rooftopには初登場ですので、バンドのこともお聞きしたいのですが、このバンド名はどうやって付いたのですか?

「どんな音楽をやっているのか連想できるような名前は避けたいと思っていたので、バンド名に意味はないんです。語感と文字にした時の雰囲気で決めました」

──最初から今のような楽曲を作ろうと思って、結成されたのでしょうか?

「バンドのコンセプトのようなものは最初からなかったので、好き勝手に色々な曲を作っていました。結成当初は僕がボーカルも兼任していたということもあって、今よりももう少し激しい、リズミックな音楽をやっていました。そこから現在のボーカルである鎌野愛が加入して、自然と今の音楽性に近づいてきた感じです」

──ということは、鎌野さん加入したということが、ハイスイノナサにとってターニングポイントになったということですか?

「そうですね。楽曲が彼女の声に合った形に変化していったので、そういった意味でターニングポイントと言えると思います」

──どんな音楽を聴いて今に至っているんですか?

「Voの鎌野は幼い頃から声楽をやっていたということもありクラシックやオペラをよく聴いていて、それと平行して椎名林檎さんやYUKIさん等の、いわゆるJ-POPを聴いていたようです。僕と兄はチャゲ&飛鳥あたりから音楽を聴き始め、そこからBON JOVI等の産業ロックやメタルなどを通過して、RadioheadやRed Hot Chili Peppers等のオルタナティブなものを好んで聴くようになり、その後はエレクトロニカや現代音楽など様々なものを聴いていました。Keyの田村も僕たちと似たような音楽を聴いてきたようですが、担当楽器がキーボードということもあり、筋肉少女帯(特撮)やBen Folds Fiveなど鍵盤の入ったアーティストを良く聴いていたようです。Drの中村はB'zやBON JOVIから入って、theatre brookなどのロックや、洋楽ではOasis、Bjork、Radioheadなどが好きだったようです。また、大学時代にフリージャズにハマり、その手のジャズクラブに通い詰めていました。今は全員ジャンルには無頓着で、とにかく良いものにアンテナを立てているつもりです」

──これまでに聴いてきた音楽は、ご自身の作る曲に反映されたり、少しでも影響を受けていますか?

「とても影響されています。むしろ自分の作品は、今まで出会ってきた音楽や様々なアートの、断片の集合体のようなものだとすら思います。その中で、自分という人間の核の部分というか、オリジナリティのようなものを少しでも込められればいいなと思っています」

──皆さんの音楽は、特にどういう方に向けてだったり、どういう方に聴いて欲しいというのはありますか?

「それは本当に全ての方ですね。常に積極的に良い音楽を探しているような音楽好きな方にもアピールしたいし、普段耳に入ってくる音楽しか聴かないような方にも引っかかって欲しいです。個人的には他分野のアートが好きな方にアピールできれば嬉しいです」

──『街について』を聴いた時に、ライブハウスのような薄暗くて明るい照明だけがあるような場所で聴くと、よりハイスイノナサの楽曲の良さが伝わるんじゃないかと私は感じたんですが、リスナーの方にどんな場面で聴いてもらえるともっと楽しめるんじゃないかという提案はあったりしますか?

「タイトル通り、街の雑踏の中でヘッドフォンで聴いてもらうのは良いかなと思いますね。電車の中なんかも良いかもしれませんし。もちろんどういったシチュエーションで聴いていただいても構わないのですが、友達とワイワイしながら聴くというよりは、1人で楽曲に向き合って聴いたほうが良いタイプの作品だとは思います」

──では最後に、リリースツアーもありますし、新しい一歩を進み始めた皆さまから、読者の方へ一言お願いします。

「これから更に面白いことをしていくつもりなので、気に掛けていただけたら嬉しいです。よろしくお願いします!」



街について

ZNR-074 / 1,890yen(tax in)
10.07 IN STORES
1. 平熱の街
2. ハッピーエンド
3. 都市の記憶
4. 通り雨
5. circle
6. 少年の掌

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Live info.

Release Tour 10/11(日)宇都宮HELLO DOLLY
10/17(土)高崎club FLEEZ
10/31(土)仙台PARK SQUARE
11/01(日)渋谷O-nest
11/07(土)大阪ファンダンゴ
11/08(日)名古屋club ROCK'N'ROLL

ハイスイノナサ official website
http://www.haisuinonasa.com/

posted by Rooftop at 12:00 | バックナンバー