ギター バックナンバー

遠藤賢司 インタビュー('09年9月号)

遠藤賢司 インタビュー

「人類が初めて“君が好きだよ”って言った瞬間を歌いたい」


 1969年にレコードデビューして以来、ずっと自分自身の中から湧き出る表現を純粋に創造し続けてきた遠藤賢司が、デビュー40周年を記念してニューアルバムを完成させた。ラブソングを中心に据えたというアルバムのタイトルは『君にふにゃふにゃ』。タイトル通りのやわらかい、純朴なラブソングから、孤独の淵でギリギリに絞り出したようなラブソング、そして人間個人の魂の叫びともいえるようなラブソングまで、愛というものが内包する様々な感情を表現したエンケンならでは世界観を提示してくれる。デビュー以来の朋友、細野晴臣、鈴木茂、林立夫、そしてエンケン・バンドのトシ&トーベン他、多彩なゲストも参加し、まさにエンケン40周年を祝うにふさわしいアルバムだ。 (Interview:サミー前田+加藤梅造)


音楽はすべてラブソング

──『君にふにゃふにゃ』はエンケンさんの20枚目、そしてデビュー40周年記念でもあるアルバムですが、 40周年は最初から意識していましたか?

エンケン 少しはあったね。40周年にアルバムを出したら楽しいだろうなと。はっきりとは決めてなかったけど。

──40周年だから特別なものにしようとか、集大成的なものにしようとかいう気持ちはありました?

エンケン それはない。1969年に1枚目のシングル盤を出した時の気持ちと一緒だね。今のやりたいことをちゃんとやるのが一番だと思っているから。CDの帯に書いたのは「デビュー40周年。それがどうした。君にふにゃふにゃ」。40周年といってもやることは同じだから。

──同じことと言えば確かにそうですが、今作は今まで以上にラブソングが特徴のアルバムになっていますね。

エンケン 作り終わってから思ったのは、アルバム全体の印象として『満足できるかな』に似てるなと。「君にふにゃふにゃ」自身が「満足できるかな」と「踊ろよベイビー」を足したような感じだし、ラブソングって創造性の根本だと思っているから。そういう意味では40周年にこういう内容のアルバムになったのはよかった。再出発というと気障な言い方だけど、節目としてはそこを再確認できたことがすごくいいなと。今まで「ビートルズをぶっとばせ!」とか「黄色い猿」とかでもいろいろ言ってきたけど、それも全部ラブソングなんだよ。音楽はすべてラブソングであるべきで、根底に“やさしさ”がなければいけない。たとえ人を非難したとしても、“でも俺もそういうところがある奴なんだよ”って気持ちがあれば、それはラブソングなんだと思う。“お前ら、いつまでもモノマネしてるんじゃないよ!”って言うのは、“俺もそういうところあるけど、もっとちゃんとやろうよ”っていう気持ちだから。でも今回は、わかりやすい形のラブソングが多いっていうのはあるだろうね。本当はもう1曲「恋の歌」っていうラブソングがあったんだけど、それは難しくて、結局次のアルバムに回すことにしたんだ。

──難しかったというのはどんな所がですか?

エンケン スケールが壮大になりすぎた。俺はいつも歌う時に思ってるんだけど、人類が初めて“君が好きだよ”って言った瞬間を歌いたいなと。“好きだよ” “君が欲しい”って初めて言葉にした瞬間、精神的な部分も含めてそれを歌にしたい。だからその「恋の歌」もなるべくシンプルにしたいんだけど、なかなか難しくて。

──人間の原初的な衝動としてのラブソングってことですね。

エンケン 宇宙でビッグバンが起こった時にやっぱりプラスとマイナスがくっつくわけじゃない。それはオスとメスでもあるし、歌を歌っている人と聴いている人でもあるし、そこには男と女の引きあう力というものが根源的にある。そういう広い意味でのラブソングを歌いたい。


みんな“俺には価値があるのかな…”って思いながら生きている

──ラブソングと言ってもエンケンさんの場合たしかに幅が広くて、2曲目「口笛吹いて」のような素朴な恋心を歌ったものから、5曲目「僕の音楽は本当に良いの」や6曲目「おぉい!みんな!」のように極限的な孤独の中で生まれたラブソングまで、すごい振り幅だと思います。「僕の音楽は本当に良いの」で歌われているような、“自分は誰にも理解されてないんじゃないか?”って気持ちは誰にでもあると思いますが。

エンケン あるよね。あえてそれを出したかったんだ。「僕の音楽は本当に良いの」は、「満足できるかな」のようなポツーンとした言い方に似ている。シド・バレットの曲で「僕がいなくてさみしくないの」というのがあるんだけど、その言葉がすごく好きで、それにも似た響きがあるよね。この曲は伊豆スタジオで録音当日の朝に作ったんだ。明け方にすごく弾きたくなってガーっと作って、その日の夜に録音した。

──エンケンさんの曲で、一日で作って録音したものって今までないんじゃないですか?

エンケン いや今までのアルバムの中に1曲は必ずあるよ。40周年という意味はここにもあるんだけど、俺が長い間やってるからみんなお世辞で誉めてるだけなんじゃないかと思う時がある。もちろんそこに甘える時があってもいいと思うけど。ただ、今までやりたいことだけやってきたというのは、常に自分一人との対決で、自分自身が後ろ盾であり、対決相手でもあって、時々これでいいのかな?と不安になってくる。だから心が落ち込むとまったく自信がなくなるんだよね。線路でもあったら飛び込みたくなるぐらいに。まあ、みんなと一緒だよ。みんな、“あぁ、俺には価値があるのかな…”って思いながら生きている。“でも自分でいいと思ったことをやるしかないよな”って、物を作ってる人間は誰でもそう思っている。その孤独感、孤独感っていうか、みんなそうだよっていう所をギリギリの言葉と音楽で作りたかった。
 「おぉい!みんな!」は1番だけできてたんだけど、これはコンサートが終わった時に書いたんだ。ステージが終わった時ってすごい孤独で、やってる時はギター弾いてドラム叩いて精一杯全力で好きにやっているから、終わった時には心はからっぽになってる。だから誰かに走ってきて、よかったよって自分を抱きしめて欲しいって思うんだよ。そんな時に「おぉい!みんな!」の1番ができた。続きの歌詞は昔から考えていたことを書いたんだけど、以前に作った「俺は寂しくなんかない」がちょっと影響しているね。あえて言えば教訓なんだけど、“子供ばかりがSOSを発してるんじゃなくて、還暦を過ぎた男だってSOSを発しながら生きているんだ”ってことを言いたかった。秋葉原通り魔事件の犯人に同情するつもりはないけど、みんな心の中にそういう気持ちがあるんだよって。子供も大人も利口ぶらずに、そういった心情を吐露しながら生きた方がそういう事件も減ると思うし。子供が“なんで気付いててくれないんだ”って思うのは甘えでしかなくて、人の心の中なんてわかるわけないんだ。どんな奴だって必死に命がけで生きてる、次の瞬間どうなるかなんて誰にも分からない、だからみんな誰かに抱きしめて欲しいんだよ。“よくがんばったね”って言われたい、そのために生きている。そういう歌だね。

──これは広い意味で、壮絶なラブソングだなって思います。

エンケン うん、そのとおり。ラブソングっていうのは、つまり人間が好きかどうかってことだよ。まず俺が好きで、人が好きかってこと。そうでなければ人の前で歌う必要なんかないよ。何故人間が好きかというと……俺も皆んなドジでマヌケで可愛いから。

俺たちの血まみれの音楽を大事にしろ

──10曲目の「フォロパジャクエンNO.1」は、副題に「音楽版水平社宣言」とあるように、まさにエンケンさんが音楽をやる上での力強い宣言で、40周年にふさわしい曲だなって思いました。

エンケン 「ビートルズをぶっとばせ!」で言っていることでもあるんだけど、翻訳されたマルクス・レーニンじゃない、水平社宣言(註1)が日本で一番大事なんだと。水平社宣言は本当に血まみれで書かれた文章で、なんでこういう文章をこの国はもっと大事にしないのかって。それは自分たちの音楽を大事にすることでもある。翻訳された音楽じゃなくて、俺たちの血まみれの音楽を大事にしろと。政治的にも日本は自由民主主義のもっと前の状態で、今こそ板垣退助の“自由民権”が必要だと思う。国民一人一人の主張、つまり歌は自由民権の礎なんだよね。そして音楽は全芸術の基本。リズムが創造魂を突き動かすんだ。それに俺達一人一人は60兆の銀河とも言える細胞を抱えた裸の大宇宙なんだよ。八百万の神々を内包するね。だからもう、ものまね翻訳文化なんかほっといて、自分の歌を創って歌って堂々と自分を主張しようよっていうのが「フォロパジャクエンNO.1」で言いたかったことなんだけどね。

──今回のアルバムは全体的に『niyago』や『満足できるかな』の質感と似てるなって思いました。

エンケン 俺もそう思った。特に40周年を意識してはなかったけど、曲を作っている最中、これは俺がこの先もやっていけるかどうかの節目だなと思った。それは人に言うことじゃないのかもしれないけど、正直に言えばそうだね。で、まだまだやってける自信になったよ。

(註1)部落解放同盟の前身である全国水平社が大正11年に発した宣言文。日本で最初の人権宣言といわれる。



NEW ALBUM
遠藤賢司
「君にふにゃふにゃ」

MDCL1498 / 3,150 yen(tax in) / 9.9 IN STORES

★amazonで購入する

Live info.

9.19(sat) 9.20(sun)
「祝デビュー四拾周年 第二回 エンケン純音楽祭り」

【出演】
19日…遠藤賢司、泉谷しげる、曽我部恵一、他
20日…遠藤賢司バンド(遠藤賢司、湯川トーベン、石塚俊明)、頭脳警察、ZAZEN BOYS、他
会場:渋谷クラブクアトロ

10.22(thu)
「DRIVE TO 2010」

【出演】遠藤賢司、大槻ケンヂ、Fantasys Core
会場:新宿ロフト

posted by Rooftop at 12:00 | バックナンバー