
無機質な響きと人力の温もりが交錯した至高のファンタスティック・サウンド
LOTUSやTELEPATH、FUTURE ROCKといったアメリカのライヴトロニカ・バンドから影響を受けた扇情的かつ精緻を極めたサウンドでジャム・フィールドのオーディエンスから高い評価を得ているCOMA*が、バンドの新機軸を提示するミックスCDを完成させた。DachamboのDJ HATAをプロデュースに迎え、昨年iTunes限定で配信リリースされたライヴにおけるキラー・チューン『Fjord Jam』は、ヴォーカルが加えられた上に新たなリミックスが施され、あらゆる音楽ファンにも受け入れられやすいポップ・チューンとして生まれ変わった。狭義なカテゴライズを押し退けるように、より唄って踊れる音楽性を志向することでネクスト・レヴェルに達した彼らは、新たなトライアルとしてカナダのトロントからライヴトロニカの先駆的存在であるthe NEWDEALを招聘。彼らをサポートしながら巡るツアーでの経験を糧に、今後更なる音楽的な深化を遂げるに違いない。『Fjord Jam』を聴くと、そんな嵐の前の静けさの如き胸騒ぎを覚えるのだ。(interview:椎名宗之)
野外でもフロアでも対応できる音楽性
──iTunes限定で配信リリースされていた『Fjord Jam』を改めてシングルとしてリリースするのはどんな意図があったんですか。
上田亘作(g, per, sampler, vo):夏フェスに向けて、何かしらのアイテムが欲しいと思って(笑)。前のオリジナル音源から2年空いていたので、そろそろ出すかと。とは言え、アルバムを出すのは時期的にまだ早いと思ったので、シングルという僕らにとっては初めてのフォーマットでリリースすることにしたんですよ。表題曲の『Fjord Jam』は新たに歌を入れたりリミックスを施したり、去年の8月に配信でリリースしたものとはヴァージョンを変えたものなんですけどね。
──正直、『Fjord Jam』にここまで歌声が溶け合うとは思いませんでしたね。
上田:作った自分たちもそう思いました。もともとは歌なしのインストだったんですけど、「歌を入れてみてもいいんじゃない?」とHATAさんにアドバイスをもらって、実際に歌を入れてみたら思いのほか新鮮だったんですよね。
──ファンの方からパッケージ・リリースの要望も高かったそうですね。
上田:そうなんですよ。あと、結成当初は歌モノをやってたんで、最初から付いてくれてるお客さんが最近のライヴにちょっと物足りなさを感じるところもあるみたいで。やっぱりお客さんありきですから、その気持ちには応えたいなと思ったんですよ。『Apres a Danse』ももとはインストだったんですけど、新たにヴォーカルを入れて工夫をしてみました。
──プロデュースとリミックスを務めたHATAさんとは以前から面識があったんですか。
上田:僕が京都からこっちへ出てきて、初めてバイトしたレンタル・ビデオ屋でHATAさんと知り合ったんですよ。当時のHATAさんはまだDachamboをやってない頃で、違うジャンルのバンドをやってたんですよね。それから何年も経ってHATAさんと再会したのが一昨年の11月くらいで、それ以降、いろいろと手伝ってもらうようになったんです。今までプロデュースは全部自分たちで手掛けてきたので、COMA*の音源に誰かの手を加えてもらうのは今回が初めてのことなんです。
──第三者の視点でCOMA*の新たな一面を引き出してもらおうと?
上田:そうですね。ジャンルの部分でも変えたい気持ちがあったし、いいタイミングだったんですよね。誰かの手を加えてもらうことでもっといい形に変化していけるとも思ったし。
──HATAさんにリミックスをお願いするにあたって、どんな注文をしたんですか。
上田:HATAさんはテクノも好きだし、機材面を熟知しているんですよ。僕らはその方面に疎いので、機材を使ってちょっと無機質な感じにして下さいとお願いしました。人力の部分は黙っていても出てきますからね。
──『Fjord Jam』は歌モノに寄りすぎず、サウンドに寄りすぎず、その真ん中を行く非常に良いバランスの仕上がりですよね。
上田:どっちの層からも受け入れてもらえると思いますね。歌モノが好きな人にも聴きやすいように意識したつもりですし。
──COMA*の音楽をカテゴライズするとDachamboのようなジャム系ではあると思うんですが、Dachamboほど土着的ではなく、もっとフロア仕様の趣きがありますよね。
上田:僕らはジャム・フィールドにどっぷり浸かっているわけじゃなくて、ライヴで言えば野外とフロアのどちらにも対応できるようなバンドでありたいんです。
──オフィシャル・サイトに“fantastic sound service”という言葉がありましたけど、COMA*の音楽性を言い表すのにぴったりの言葉なんじゃないかと思ったんですよ。
上田:音自体はポップですからね。そこは昔から変わってないんですよ。『Fjord Jam』にもカオティックな感じはないと思うし、むしろ凄くポップでキラキラしてるんじゃないかなと。
──うん、してますよね。『Apres a Danse』もセンチメンタルな風情はあるものの、表層的なサウンドはとても煌びやかだと思うし。
上田:お客さんが楽しんでくれるのを第一に考える曲作りになったことも大きいと思うんです。それまでは自分たちが楽しければ何でもやるというスタンスだったんですけど、今はお客さんが盛り上がれば僕らも凄く楽しいですから。
言葉に意味を持たせず、響きを大切に
──志向する音楽性は“ライヴトロニカ”なんですよね。
上田:そうですね。もともとはUKロックを通って歌モノをやっていたので、PHISHやGRATEFUL DEADといったジャムのルーツ的なバンドはほとんど通ってこなかったんですよ。ジャム・フィールドを通ることなく、ポスト・ロックやエレクトロニカの方面に行ってましたから。ジャム系を聴くようになったのはLOTUSとかライヴトロニカ系のバンドが入口で、ここ数年のアメリカのジャム・シーンの流れに感化されたんですね。打ち込みを敢えて人力でやる洗練された音楽に徐々に惹かれるようになって。そんな僕の受けた影響がメンバーにも浸透していったんですよ。
──以前、COALTAR OF THE DEEPERSも参加していた『シューゲイザー至上主義!!』というオムニバスに『incle tax』という曲を提供していましたよね。
上田:僕自身、シューゲイザーは全く通ってこなかったんですけどね(笑)。何だろう、フワフワした音像ってことで呼ばれたんですかね。以前の僕らはカテゴライズしづらい音楽だったみたいで、“ポスト・ロック meets フュージョン”なんて言われたこともあるんです(笑)。当たってると言えば当たってるし、違うと言えば全然違う。でも、ライヴトロニカというジャンルの音楽と出会って、まさにこれだと。それから自分たちがCOMA*としてやりたい音楽の焦点が定まっていったんですよ。
──『Fjord Jam』で聴かれるギターはエモーショナルなものだし、『Quantic LAVA』の有機的なアンサンブルからも確かな熱量を感じるし、洗練されながらも肉体性を帯びた質感がありますよね。
上田:ライヴと音源は全くの別物として考えているんですよ。『Fjord Jam』も『Apres a Danse』もライヴでは歌を入れてないですし、ライヴとは全くの別物として作品作りにトライしたいと言うか。海外のライヴトロニカのバンドも、ライヴになると音源とは違った構成で演奏していますからね。
──一粒で二度美味しい、みたいな感じですね(笑)。
上田:うん、そうですね(笑)。
──上田さんはギターにパーカッションにサンプラーと、八面六臂の活躍ですけど。
上田:もともと歌をメインにやっていたんですけど、徐々に歌がなくなっていくと自分のパートもなくなっていくわけですよ(笑)。ギターもそこまで巧くないし、他の面白い楽器をやろうと。それで最初に始めたのが鉄琴だったんです。『Apres a Danse』のオリジナル・ヴァージョンで初めて鉄琴を叩いたんですけど、それが自分の中で凄くハマって、それ以降はいろんな音を入れてみたくなったんですよね。電子パーカッションを採り入れて、サンプラーを採り入れて…今は音が多すぎて手一杯なんですよ(笑)。ライヴではギター、パーカッション、サンプラー2つに取り囲まれて大変ですね(笑)。
──歌離れが起こったのはどんなことがきっかけだったんですか。
上田:メンバー・チェンジしたことが大きいんじゃないですかね。ファースト(『syn-』)の頃は全曲歌が入ってたんですけど、セカンド(『crema』)の頃には歌モノとインストが半々になったんです。セカンド以降に今のメンバーが固まって、その辺りから音楽性に変化が出てきたんですね。具体的に歌を楽器っぽく入れたいと思うようになったんです。
──肉声も楽器の一部であると。
上田:そういうことです。歌詞にも余り意味を持たせたくなくて、言葉の響きを大切にしたいんですよね。今ライヴでやってる曲にも具体的な歌詞はないし、今回のシングルに入れた『Fjord Jam』と『Apres a Danse』の歌詞もレコーディング当日に考えたくらいなんです(笑)。言葉に意味を持たせないことに心地良さを覚えるし、音を聴いていろんなことを想像して欲しいんですよ。イマジネーションを掻き立てる音楽をこれまでもずっと志向してきたし、歌詞を付けてない部分はあなたが勝手に歌詞を付けて下さいって言うか。
聴き手が携わることで初めて形を成す
──言葉よりも聴き手の脳内に映像を喚起させることを優先しているわけですね。
上田:そうですね。お客さんがどう聴くかを最優先に考えて個々のパートや構成を考えています。歌モノをやってた頃は比較的たやすく曲作りができていたんですけど、このスタイルになってからは1曲を作るのに凄く時間が掛かるようになりましたね。Aメロ、Bメロみたいなものがないし、ワン・コードで延々ループしていてもいいわけですから。だから最初は凄く苦労しました。今は曲のある程度の大元を作ってからスタジオで音合わせするので、歌モノの曲を作っていた頃のやり方と変わらずにやれてますけど。ただやっぱり、自然と曲が長くなっちゃうんですよね。
──それはライヴトロニカ・バンドやジャム・バンドの常ですよね。
上田:「長いから5分くらいにまとめてやらへん?」なんて言っても、結局10分くらいになっちゃうんですよね(笑)。
──でも、間延びした印象は受けませんね。今回のシングル収録曲も『Fjord Jam』が8分台、『Apres a Danse』と『Quantic LAVA』が6分台ですが、冗長さを感じさせないのは演奏の力量や構成の巧みさもあると思うんですよ。ただ、作品作りは抑制を利かせて引き算ができるでしょうけど、ライヴになると熱が籠もるからどうしても長くなってしまいますよね。
上田:うん、ライヴではなかなか引き算ができませんね。でも、長いインプロヴィゼーションは聴く側も飽きるだろうし、お客さんに楽しんで欲しいのでなるべく簡潔に見せたいとは思ってます。
──今月はCOMA*が自ら招聘したトロント出身のライヴトロニカ・バンド、the NEWDEALのジャパン・ツアーが行なわれますね。
上田:the NEWDEALは、今自分たちがやりたい音楽のお手本みたいなバンドなんです。一昨年にTHE PNUMA TRIOが来日した時に一緒にツアーを回らないかと誘って頂いて、その時に凄くいい経験をさせてもらったんですよね。FREAKY MACHINEがLOTUSを呼んだみたいに、同じことが自分たちにもできるんじゃないかと思って。それで見よう見まねでこちらからメールで連絡を取って、快諾してもらえたんですよ。日本盤も出てないし、日本ではまだ知名度も低いですけど、海外では1万人規模のフェスに出てるバンドなんです。テクノみたいなクラブ・ミュージックを聴き慣れた人に是非聴いて欲しいですね。クラブ・ミュージックを生で演奏する迫力を是非味わって頂きたいです。
──COMA*も今また脂の乗った時期だから必見ですね。
上田:ライヴをやるのが今は一番楽しいですからね。自分たちも楽しいし、お客さんも楽しんでくれてるし、今が一番いい時期かもしれないです。まさにナチュラル・ハイですよ。僕はお酒が一滴も呑めないんですけど、ライヴをやっていればハイになれる。合法なナチュラル・ハイですね(笑)。
──ちなみに、COMA*の表記の最後にある“*”(アスタリスク)にはどんな意味が込められているんですか。
上田:最初は付いてなくて、しかも結成当初は“コマ”ではなく“コーマ”だったんですよ。でも、“コーマ”だと“昏睡状態”という余りいい意味じゃなかったので、“コマ”にしたんです。ただ、その綴りだけだとネットで検索しても他にいっぱい出てくるということで、ウチのギターが勝手に“*”を付けたんですよ。後で調べたら、“coma”は科学的な専門用語で“名前の付いていない惑星”を意味するらしくて、これはいいなと。ジャンルに囚われることなく、僕らの音楽を好きな人に名前を付けてもらえればいいなと思ったし、ちょうど“*”が星にも見えますしね。意味を成さない歌詞もそうだし、バンド名もそうだし、聴いてくれる人が携わってくれることで初めて形を成すんです。僕らはそんなバンドなんですよ。

Fjord Jam
01. Fjord Jam (Single ver.)
02. Apres a Danse (DJ HATA remix)
03. Quantic LAVA (DJ HATA remix)
PLEASURE-CRUX RTPC-016
500yen (tax in)
2009.6.03 IN STORES
Live info.
COMA* presents the NEWDEAL JAPAN TOUR
6月5日(金)千葉:柏 DRUNKARD'S STADIUM
6月7日(日)大阪:北堀江 CLUB VIJON
6月8日(月)京都:三条 URBANGUILD
6月10日(水)東京:渋谷 O-NEST
[total info.]info@comasounds.com
COMA* official website
http://comasounds.com/