ギター バックナンバー

怒髪天('09年4月号)

怒髪天

100年に一度の経済危機にフィニッシュ・ホールド!
濁りきった時代に怒れる労働哀歌の一撃を喰らわせろ!


 『プロレタリアン・ラリアット』──ジョン・スタインベック風に言えば、『怒りの葡萄』ならぬ『怒りの武闘』といったところだろうか。未曾有の不景気の出口は未だ見えず、目を覆いたくなるばかりの暗澹たる事件や事故は絶えず、気がつけばうっかり溜息を漏らしてしまうことばかりの昨今である。そんな重苦しくのし掛かる時代の閉塞感を、怒髪天は至って平易な言葉とシンプルなメロディでこう明るく言い放つ。“生きてるだけでOK!”と。“今日も生きてる、コレでひとつ勝ちだぜ!”と。これぞまさに、安っぽいヒューマニズムとは対極に位置する等身大の人生讃歌である。前作『LIFE BOWL』から1年半振りに届けられた彼らのオリジナル・アルバム『プロレタリアン・ラリアット』には、大衆の大衆による大衆のための土着的なワーク・ソングがギッチリと詰め込まれている。言うまでもなくそのどれもが掛け値なしに素晴らしい。今年で結成25周年、活動再開10周年を迎える一角のキャリアを積んだ彼らがより精度の高い濃厚で濃密な“R&E”を具象化しているのがさらに素晴らしい。ちゃんと生きてさえいれば、アラフォーになろうが新たな可能性の扉を開き続けられることを彼らは身をもって体現している。ちゃんと生きてさえいれば、いつの日か大輪の花を咲かせることもできる。世の労働戦士達よ、俺達界隈の同志達よ、たった一度の人生を貪欲に楽しもう。不況なんざクソ喰らえだ。傍らに怒髪天の歌さえあれば、今日を凌ぎ明日へ繋ぐことができる。彼らの歌を心の糧として生きることのほうが、定額給付金のような生温い緊急経済対策よりも余程価値があると僕は本気で思っている。(interview:椎名宗之)


“R&E”が何たるかを改めて提示したかった

──ある一定の期間に集中してレコーディングするのではなく、長期間にわたってライヴの合間にレコーディングに臨んだのは前作『LIFE BOWL』に次いで今回が2度目ですね。

上原子友康(g):そうだね。ただ、ここまで時間を掛けたのは今回が初めてだった。もう半年以上も前からずっと録ってたから、過去最長のレコーディング期間だよね。

増子直純(vo):去年の11月に出した『全人類肯定曲』と『NO MUSIC, NO LIFE.』っていう2枚のシングルと同時進行だったしね。ライヴの流れを止めたくなかったから、ライヴをやりつつレコーディングをするスタイルを今回も取ってみた。まァ、長い期間になると曲をまとめるのが大変なんだけどね。特に友康は大変だったと思うよ。曲の完成図は友康の頭の中にあって、半年以上も高いモチベーションを持ち続けながら試行錯誤を繰り返すわけだからね。逆に、俺としては歌詞を考える時間がたくさんあったから助かったけど。

上原子:確かに、慣れない録り方だったからモチベーションをずっと持ち続けるのは大変だったけど、時間を置くことによって曲を熟成できたのは良かったと思う。基本的には出来た曲を新鮮なうちに一気に録る流れが好きだったから、戸惑った部分は正直あったけどね。

──緻密に構築していく面白さみたいなものもあったのでは?

上原子:あったね。時間があったお陰で今までにないくらいアレンジを際限まで煮詰めることができたから、後になって“もっとこうすれば良かった”みたいに思うことは全然なかった。

清水泰而(b):まァ、坂さんと俺は最初に曲の土台を録るから、時間はあるようでなかったけどね。俺達がリズムを録った何ヶ月も後に友康さんがギターを被せるような感じだったから。

坂詰克彦(ds):僕も時間的な余裕は全然なかったですね。人生、常にギリギリですから!

──通風の治療でも常にギリギリですしね(笑)。リズム隊としては当然のことなんでしょうけど、曲の完成図が見えない状態で録る難しさもありますよね。

増子:友康が打ち込みでベースとドラムをある程度作った状態で曲を持ってきたことも前はあったんだけど、結局はそのデモに囚われちゃうんだよ。どうしても友康が作ってきたリズムに忠実になってしまうし、それじゃ面白くない。友康が考えつかないベースなりドラムなりのフレーズを各々が考えることによって、そこに化学変化が生まれるって言うかさ。そのほうが友康の思い描く青写真を超える新しいものが生まれるからね。ただ、ベースはメロディのある楽器だからまだイイけど、ドラムはなかなか難しいよね。曲の雛型がある程度出来た段階ならフレーズも考えやすいだろうけどさ。

清水:今回で言えば、『セバ・ナ・セバーナ』はあのリズムに落ち着くまで二転三転したんだよ。そこは最後まで坂さんと一緒に試行錯誤したね。

──坂さんのご苦労を増子さんとシミさんが代弁して下さいましたけど(笑)。

坂詰:いやァ…有り難い限りです(笑)。

増子:俺の発言を“坂詰”にしといてイイから(笑)。

坂詰:では、それでお願いします(笑)。

──お願いしないで下さいよ(笑)。本作もとにかく掛け値なしの傑作だと思いますが、何が凄いかってまず1曲目の『GREAT NUMBER』。80'sパンクの8ビートと日本古来の民謡が融合したコクと深みのある楽曲で、これぞ怒髪天にしか唄えない“R&E”の真骨頂ですよね。

増子:まさにね。“R&E”とは何なのか? というのをもう一度ちゃんとした形で提示したい気持ちが根底にあったんだよ。日本人が体現するロックを、わかりやすい歌詞とメロディで普遍的かつ力強く表現したかった。人間が生きる上で抱く壮大なテーマを描いた曲で、これが出来た時に友康が「『酒燃料爆進曲』を超えた」って言ってたくらいの自信作なんだよ。“エイヤーエイヤッサー!”っていうコーラスを入れたことでちょっとコミカルになったのも気に入ってるし。

この濁りきった時代に一体何をすべきか

──そのバランスがイイですよね。“エイヤーエイヤッサー!”という土着的な掛け声に脈々と受け継がれてきた日本人としてのDNAを呼び起こされる感覚もあるし、生きとし生ける者の営みを余すところなく唄い上げた怒髪天史上最も雄大な楽曲と言えると思います。

増子:夢や希望、悲哀や感傷、愛情や友情をすべて詰め込みたかったんだよ。漁師が荒れ狂った大海に出るように、農民が渇ききった大地を耕すように、俺達はこの濁りきった時代に一体何をすべきなのか。それがこの歌のテーマだね。最近の俺達は面白おかしいイメージで受け止められがちだし、それも凄く大事なことなんだけど、こういう気骨のある部分が芯にあるのを改めて見せたかった。それと、今回のアルバムには『全人類肯定曲』と『労働CALLING』という強力なシングル曲が7曲中2曲も入ってるから、それに打ち勝つだけの曲を作らなきゃいけないと思ってたし。

──エンヤトットのリズムを奏でながらこれだけサマになるロックを表現できるのは、怒髪天以外には岡林信康さんか遠藤賢司さんくらいなものですね(笑)。

増子:そのおふたりとは随分と世代が懸け離れてるけどね(笑)。まァ、俺達はブランク・ジェネレーションだから(笑)。でも、そういう土着的な感じは凄く大事だったんだよ。和太鼓とか日本古来の楽器を使ってお祭り感を出すのではなく、もっと日本人としての血の濃さを出したかったと言うかさ。祭りの日ばかりが祭りじゃない、日々の収穫を祝してささやかな宴を催すのも祭りなんだというのを歌に出来たと思う。

上原子:サビで合唱する曲が俺達には多いけど、この曲のサビは合唱するよりも独唱して欲しかったんだよね。でも、歌に相槌を打つような掛け声が欲しいねっていう話をシミとしてて、みんなで考えて“エイヤーエイヤッサー!”という掛け声を入れてみることにしたんだよ。

増子:“ヨイヨイヨイヤッサー!”は坂さんが『俺様バカ一代』でやったことがあるからね(笑)。

──三味線っぽいギター・リフも強烈なインパクトが残りますね。

上原子:最初はもっとニュー・ウェイヴっぽく弾いてたんだけど、自分の中でちょっとつまらなくてね。で、これは高橋竹山先生(津軽三味線奏者)かなと。竹山先生がエレキを持って弾いたらこんな感じかな? ってイメージしながら弾いてみた(笑)。サウンドのイメージはストラングラーズみたいな80'sパンクの8ビートで、ベースはダウン・ピッキングでダーン!と弾いてる感じ。そこにメタルをかじった竹山先生がギターを弾いて、サブちゃん(北島三郎)が朗々と唄い上げるっていう(笑)。歌詞が乗る前の俺のイメージはそんな感じだったね。

増子:歌詞が乗ってもまさにそうなってるけどね(笑)。あと、海外の人の取り間違えた日本観みたいなものもちょっと入っていて、それが今の時代っぽいかなと思ったんだよ。

清水:外国人が日本語のロックと聞いて想像するのは、きっとこんな感じの曲だと思うんだよね。一番気をつけたのは和のテイストに寄りすぎないようにしたことで、そこはみんなでよく話し合ったよね。

増子:そうそう。この曲はポーグスばりに世界的に評価されてもイイはずだと俺は大真面目に思うよ。ポーグスが自分たちの民族音楽をパンクに持ち込んだことと同じように、俺達も自分たちの民族音楽をロックに昇華させたわけだからさ。

──確かに。高名な音楽評論家にも是非正当な評価をして頂きたい“GREAT”な“NUMBER”ですからね。

増子:『GREAT NUMBER』は文字通り“偉大な曲”ってことだけど、“大衆”って意味も込めたんだよ。“GREAT”=“大”、“NUMBER”=“衆”で、つまりは“人民”ってことなわけ。

──ああ、なるほど! 歌の世界観を的確に言い表した名タイトルですね。

増子:マネージャーのノリにネットで調べさせたら、凄くイイのを見つけてきたんだよ(笑)。

清水:ノリ、でかした! と思ったよね。曲は凄くイイのに、タイトルがなかなか決まらなかったからさ。


“生きること”と“働くこと”が二本柱のテーマ

──アルバムのコンセプトは、やはり『労働CALLING』が完成して以降に焦点がグッと絞れた感じですか。

増子:そうだね。あと、その前に“生きてるだけでOK!”という『全人類肯定曲』が出来たことも大きい。その後に『労働CALLING』が出来て、“生きること”と“働くこと”の二本柱をテーマにしようと思ったんだよ。今回はコンセプト・アルバムにしようと友康やシミに言われたんだけど、今までで一番メンバーの意見を聞いて歌詞を書いたし、何度も書き直したんだよ。まるっきり違う歌詞に書き直したこともあったし、とにかくメンバー全員の意向を汲んだ歌詞にすることに努めた。自分の言いたいことよりもアルバム全体のまとまりを優先させて、あくまでもこの4人で作り上げることに主眼を置いたんだよね。

──坂さんからは増子さんの書く歌詞に対して何か意見があったとはとても思えませんけど…(笑)。

増子:坂さんは「全部英訳してくれ」ってうるさかったよ。もちろんウソだけど(笑)。

清水:歌詞を渡されて「字が見えづらい」とは言ってたけどね(笑)。

──それ、老眼じゃないですか(笑)。

増子:坂さんからの唯一のリクエストは「もう少し大きな文字でプリント・アウトして欲しい」だから(笑)。

坂詰:いやァ、もう奮い立たされるような詞の内容で、こっちもつい演奏が熱くなってきましたね。

増子:また適当なこと言って。だって、坂さんの演奏は歌詞を渡す前にとっくに終わってるじゃん(笑)。

坂詰:あら、手厳しい! まァ、僕は直接ハッキリしたことは物申さなかったですね。最初にもらった歌詞がすでに素晴らしいので、これがどのように発展していくのかが楽しみで、期待してましたね。

──期待してたって、自分のバンドじゃないですか(笑)。

増子:坂さんに最初の歌詞を渡すと、必ず「はい、もうこれでOKです!」って言うからね(笑)。まァ、そうやって肯定してくれる人も大事だから。坂さんこそ“全人類肯定男”だからね(笑)。

──友康さんとシミさんからは増子さんにどんなリクエストをしたんですか。

上原子:歌詞に関しては、俺よりもシミのほうが多かったかな。

清水:楽曲のイメージと歌詞のイメージを100%合致させるのが一番大事だと思ったし、そこにちょっとでもズレがあるようなら増子さんには伝えてたね。だから時間を掛けて何度も録り直してるんだよ。凄く大変な作業だったけどね。

増子:でもさ、言ってしまえば今の俺達ならどんな曲でもどんな歌詞でもイケるわけ。

清水:そこにルールは何もないからね。

増子:うん。どんな歌でも自信を持って唄える段階に来てるからさ。ただ、俺以外の3人が方向修正をしてくれることで、青写真の精度がより増すわけだよ。

上原子:楽器を演奏する俺達3人は歌詞が書けないけど、アレンジしてる時にそれぞれイメージしてるものはあるんだよね。

清水:そうそう。自分たちなりに見える景色があるよね。

上原子:うん。その見えてる景色を増子ちゃんに伝えて歌詞を書いてもらうなんてことは今までなかったんだけど、今回はそれをやってみて凄く新鮮だったね。

増子:それはやっぱり、時間があったからこそだよね。

上原子:そうだね。だから今まで以上に歌詞とメロディが密になってると思うし、今までとは違った響き方をしてる感じがする。たとえば『GREAT NUMBER』なら、漁船の先頭に立って目を細めながら昇る朝陽を浴びているイメージが俺にはあって。

清水:完全にそういう夜明けのイメージだよね。漁船が荒れ狂う日本海を彷徨いながら時代の夜明けを待つって言うか。

上原子:だからギターもああいう三味線風になってるし、大海原を行くような力強さがあるんだよね。

“詞先”という曲作りの新たなアプローチ

──『よりみち』と『うたのうた』では初めて“詞先”で曲作りをするという新しい試みも見受けられますね。

増子:友康が「“詞先”でもイイよ」って言うから、やってみようと思ってね。ある程度書き溜めていた歌詞があったから、こんなのどうかな? って文字数を揃えて渡してみたのが『よりみち』なんだよ。『うたのうた』なんて最早『みんなのうた』の域に達してると思うし、“詞先”で曲作りをするとメロディが凄く歌詞に寄り添ってくれる感じになる。要するに歌モノになるんだよね。

清水:もともとその言葉が持ってるメロディや語呂っていうのもあるからね。

増子:あるね。まァ、“詞先”になるといわゆるロック的なものとはちょっと離れるよね。楽曲の完成度は上がるけどさ。

──アコギが絶妙な隠し味になっている『よりみち』はこの4人が揃った頃の怒髪天を彷彿とさせる曲だし、ノスタルジックなメロディとファンキーなビートが絡む『うたのうた』はリズム隊のおふたりの演奏が特に素晴らしいし、“詞先”の2曲の完成度も凄まじく高いですよね。

増子:まァ、『うたのうた』のドラムは坂さんじゃないんだけどね(笑)。

坂詰:お上手です!

増子:その切り返し方は全然お上手じゃないけどね(笑)。

上原子:歌詞が先にあると、最初から最後までパーッとメロディが浮かんでくるんだよ。サビだけがどうしても出来ないとかがなくて、詞のストーリーに沿うようなメロディがすぐに出来る。だから、アレンジの方向性も凄く見えやすかった。ただ、『うたのうた』のメロディは若干ノスタルジックになりすぎた感があったから、リズムは踊れるようなファンキーな感じにしたくてね。そしたらこのふたりがホントにイイ仕事をしてくれたんだよ。

増子:そう、このふたりのお陰で『うたのうた』はバランスが凄く良くなったと思う。ちょっと歌謡ロック的なニュアンスがあるのもイイし。

清水:いろいろ音を重ねることを敢えてしないで、シンプルで物悲しい演奏をすることで歌をより引き立ててるんだよね。『うたのうた』にはそういう良さがある。

──あと、『うたのうた』に関しては増子さんの歌声に何とも言えぬ男の色気を感じますね。

増子:何度も唄ったもん、この曲は。どうしても感情を込めて唄いたくなる部分があるんだけど、そこをグッと抑えて演奏に寄り添う唄い方をしなくちゃいけなかったからね。ライヴはまた別だけどさ。やっぱり自分の書いた歌詞に合った唄い方をしたかったし、こういう歌詞の内容を考えてる時の俺は決してアッパーじゃないから、敢えてボソボソ呟くような感じで唄ってみたかったんだよ。

──結成から四半世紀が経っても“詞先”という新たなアプローチができるのは特筆すべき点ですよね。まだこんな引き出しがあったんだなっていう。

増子:そうだね。まァ、“詞先”になると俺の作業量が少ないっていうのがわかって良かったよ(笑)。ある程度書き上げるまでには時間が掛かるけどさ。

上原子:ただ闇雲に詞を羅列したものにはメロディを付けられないけど、言葉の数を揃えてきてくれたからやりやすかったよ。

増子:ちゃんと歌詞として友康に渡してたからね。俺は字数がキッチリしてるのが好きなんだよ。友康は字余りも許容範囲なんだけど。普通、歌詞を書く人は「この部分、字余りなんだけどメロディで何とかしてくれ」って言うと思うんだけど、俺の場合は「ハマりすぎてるからもっと言葉を増やしてもイイよ」って友康に言われるんだよね(笑)。

清水:1文字ずつカチカチにメロディに乗ってくることが多いもんね(笑)。増子さんの性格上、凄くよくわかるけど。

上原子:そうそう。五七五だったら絶対に五七五から外れないからね。

増子:絶対に五七五だよ。俺はそういうのが好きなんだよね。

“詩”ではなく“歌詞”を書くということ

──全体的に平易な言葉を使いつつ、強調したいところは同じ言葉を繰り返すという歌詞の作風が本作でさらに強まった印象を受けますね。

増子:“詩”ではなく“歌詞”を書くことにより主眼を置くようになってきたからね。仮に俺が何かしらで評価されるのであれば、詩人としてではなくバンドの中で歌詞を書いてそれを唄う人間として評価されるほうが嬉しいし、詩人として評価を受けたいとは思わない。極論を言えば、一番伝えたいサビのワン・フレーズだけが聴き取れればイイし、そこに全力を懸けて神経を集中させたいと思ってる。なるべく聴き漏らして欲しくないから簡単な言葉を選ぶようにもなってるしね。まァ、凄く難しいことだけどさ。

──『労働CALLING』の“ウンガラガッタ”というフレーズは、仮歌で適当に唄ったものだと伺いましたが。

上原子:そう、あれは完全に仮歌。

増子:俺が適当に唄ったのが凄くメロディと合ったんだよ。ちょっとクレージー・キャッツっぽいところもあるし、これでイイんじゃないの? ってことになってさ。“ドンガラガッタ”にするか“フンガラガッタ”にするかいろいろ考えて、結局“ウンガラガッタ”になったんだけどね。

清水:曲作りの段階でもう“ウンガラガッタ”になってたよ。

上原子:俺は仮タイトルで『ウンガラの歌謡曲』って勝手に呼んでたからね(笑)。ちゃんとした言葉よりもリズミカルな言葉が乗ったほうが合うのかなと漠然と思ってて、適当に唄ってたんだよね。

増子:でも、あのサビの部分にはああいう擬音以外に入る言葉がないよ。“ウンガラガッタ”以外に考えられない。

清水:“ウンガラガッタ”は他にないしね。“ドンガラガッタ”はクレージー・キャッツの『ドント節』の中にあるからさ。

──ああいう意味を成さないフレーズって、クリスタルズの『ダ・ドゥ・ロン・ロン』やマンフレッド・マンの『ドゥ・ワ・ディディ・ディディ』なんかを彷彿とさせますよね。僕らの世代だとやはりポリスの『ドゥ・ドゥ・ドゥ・デ・ダ・ダ・ダ』ですけど。

増子:そういうこと。ラモーンズの『ピンヘッド』の中で唄われる“ガバガバヘイ!”みたいなさ。

清水:要するに理屈じゃないんだよね。意味はないけど、それ以外の言葉は考えられない。

増子:たとえば物悲しい気分でいる時に、A7のマイナー・コードでチャラーンと鳴らしたほうがその物悲しさが伝わることってあるじゃない? そういうのに近いと思う。

清水:だから“ウンガラガッタ”にしても、一見意味のない言葉を敢えて使うことで伝わるものもあるんじゃないかっていう意図があるんだよ。

──バンド自体が理屈じゃない域に達してきていると思うし、シンプルの極みを行く作風は『トーキョー・ロンリー・サムライマン』辺りから顕著になってきたように感じますね。

増子:そうだね。音楽を音楽として純粋に楽しむことに開眼したって言うかさ。怒髪天がまだ純粋なパンク・バンドだった頃から、歌を通じてメッセージを投げ掛けられるところに俺は音楽っていうものの価値を見いだしていたんだよ。でも、音を音として楽しむことで伝わることもあるんだなと気づいたし、俺達自身もそうやって楽しんでイイんだってことを理解できたんだよね。

──その境地に行き着いたからこそ、『全人類肯定曲』のような過去最高にシンプルかつベタでありながらも過去最高に重いテーマを扱った楽曲を生み出し得たんでしょうね。

増子:『全人類肯定曲』は何しろ言い訳のない曲だからね。どんなに誤解されようが言いたいことは言っておこうという信念のもとに作った。まァ、誤解は全然受けなかったけどさ。

──“生きてるだけでOK!”という言葉には踏み絵のようなニュアンスもありますからね。

増子:この根源的なテーマを分かち合うことができるのか? という意味で踏み絵ではあるね。今回、この曲はお客さんがコーラスで参加してくれたヴァージョンとホーンが入ったヴァージョンとがあるんだけど、ホーンが入ると余計バカみたいでイイんだよね(笑)。やっぱりこういうバカっぽいのが好きなんだね。バカっぽいことに真剣に向き合うって言うかさ。

二転三転した『セバ・ナ・セバーナ』のリズム

──本作においてとりわけ出色の出来映えなのは、アルバムの最後を飾る『セバ・ナ・セバーナ』ですよね。“R&E”meets サンバというあり得ない組み合わせなんですが(笑)、これが不思議なことに凄くよくハマっているという。

増子:友康が「サンバのリズムの曲をやりたい」って曲を持ってきて、俺はシミに「どう思う?」って話してたんだよね。友康の描く青写真が俺達には窺い知れなくて、“サンバはどうなんだろう?”って正直思ってたんだけど(笑)、結局は全部が全部面白い方向へ進んでいった。この曲が出来上がった時、俺達は何でもできるんだなと思って、ちょっと感動したもんね。

清水:さっきも言ったようにこの曲はリズムが二転三転して、結局は最初のほうに考えたリズムに戻してあるんだけど、そこへ辿り着くまでホントに時間が掛かったんだよ。

増子:歌詞も何回か丸々書き直したしね。ライヴの最後のMCで俺が話してるようなことを歌詞にして欲しいと友康に言われたんだけど。

──『ありがとな』も同じようなテーマの曲でしたよね。

増子:そうなんだけど、『ありがとな』は俺が照れくさくてお客さんに直接向けた歌にはしなかったんだよ。あと、あんな曲調だからライヴの最後にやるとちょっとしんみりしちゃうしね。それよりも最後は明るくバイバイできる曲がイイと思ったわけ。宝塚で言う“♪それでは〜お別れします〜”みたいなさ(笑)。

──仮タイトルが『サンバのジョー』っていうのには笑いましたけど(笑)。

上原子:メタルを弾くギタリストのいるサンバ・バンドを従えてジョー・ストラマーが唄ってる絵が浮かんでね(笑)。最初は確かにみんなに伝わりにくいかな? とは思ったけど、アレンジを詰めていくうちに見えてくるものがあったね。自分としてはなんちゃってサンバと言うかロックン・サンバみたいに捉えてて、気持ちとしてはロックンロールなんだよ。

──まァ、“エイヤーエイヤッサー!”まで行けば、サンバでも何でもドンと来い! って感じでしょうけどね(笑)。

増子:言ってみれば、このアルバムは北国の荒れ狂う海から始まって、最後は南国のトロピカルな海で終わるっていう(笑)。

──はははは。“キノムクママニ ノース・トゥ・サウス”、まさに『マン・イズ・ヘヴィ』の“フーテン・ザ・タイガー”じゃないですか(笑)。

増子:『マン・イズ・ヘヴィ』はもちろんフーテンの寅さんに対する憧れが一番の核としてあるけど、日本語と英語をゴチャ混ぜにしたJ-ROCKに対する当てこすりが裏テーマとしてあるんだよ。

──サウンドはバッキバキのハードコアで、G.B.H.みたいで格好イイですよね。

上原子:そうだね。最終的にはちょっとモーターヘッドっぽくもなってるけど(笑)。“フーテン・ザ・タイガー”っていうサビの歌詞は俺も凄く好きで、ギターを入れてる時に本気で格好イイと思ったね。

──去年の12月にリキッドルームで初めて聴いた時は歌詞がよくわからなかったんですけど、増子さんにしか書けない秀逸な歌詞だと思いますよ。

増子:リキッドで唄った時から歌詞は変わってるんだよ。あの時に唄った内容を精選して書き直したから。8年前に同じタイトルのミニ・アルバムを出した頃から歌詞だけはあって、ずっと取っておいたんだよね。前のアルバムに入ってる歌の一節が次のアルバムに入ってる歌のタイトルになっていたりとか、俺はそういうのが好きなんだよ。RCサクセションにもそういうのがあるじゃない?

辛い時に思い出してニヤニヤして欲しい

──『マン・イズ・ヘヴィ』はライヴをやるごとにきっとBPMも上がっていくんでしょうし、アラフォー世代のみなさんには尚のこと身体を酷使するような曲になりそうですけど(笑)。

増子:その辺は、身体のツボを押しながらみんなの話を聞いてた人に訊いて欲しいね(笑)。

坂詰:ワタクシですか? まァ、曲の速さに関しては意識を覚醒させれば何とか対応できますよ!

──つまらない話を振った僕がバカでした(笑)。でも、『セバ・ナ・セバーナ』は“余市のジョー・ストラマー”がコンガ、ジャンベ、ティンパレス、ホイッスル…と、ありとあらゆるパーカッションで大活躍してるじゃないですか。

増子:何せ、タイトルからして“せばな”(“またね”の意)っていう坂さんの地元の方言を使ってるからね。

清水:坂さん自身は“へばな”だけどね。へばってばかりだからさ(笑)。

増子:“ヘバ・ナ・ヘバーナ”だからね(笑)。でも、この曲は坂さんが「こんなパーカッションを入れたい」と自主的なアイディアを初めて持ってきた記念すべき曲なんだよ。俺はそんなにたくさんパーカッションは要らないんじゃないかと思ったけど、「坂さんが珍しくやる気になってるし、最後までやらせてみよう」って友康が言うからやらせてみた(笑)。

清水:最後までやらせた後に、それをどうやって崩すのが面白いかなって俺は考えてたんだけどね(笑)。散々やって疲れさせておけ! って思ってたよ(笑)。

坂詰:いやいや、全然疲れませんでしたよ!

増子:またそんなことを。あの日は散々「疲れた」って言ってたじゃん(笑)。

──さすが“坂さん、とにかく健康第一”と唄われるだけのことはありますね(笑)。

坂詰:ええ、優しい言葉を仰って頂いて…。

増子:もう20年以上も一緒にバンドをやってるっていうのに、未だに他人行儀だからね(笑)。

──“またな! その日までちゃんと生きてろ 約束だゼ”という歌詞は『全人類肯定曲』と相通ずる部分があるし、アルバムのコンセプトがちゃんと一貫していますよね。

増子:うん。あと、“明日から会社や学校でイヤなコトあっても そン時は/俺達の歌を思い出し ニヤニヤしながら待ってておくれよ”って歌詞があるんだけど、歌ってまさにそれで充分だと思うんだよ。失意の底から救い上げるとか、生きる指針になるとか、そんな大袈裟なものじゃない。辛い時にふと思い出してニヤニヤしてくれる程度のものでイイ。そういうことをさり気なく歌詞の一節に入れられて良かったなと思ってる。

──もうここまで来ると、ロックであることの必然性だとか意義みたいなものはちゃんちゃらおかしいって感じですね(笑)。

増子:ロックの範疇はとっくに超えたね。どの方向に超えてしまったのかはわからないけど(笑)。

上原子:確かに、純然たるロック・サウンドがどういうものなのかよくわからなくなってきてるのかもしれない(笑)。

増子:突き詰めるべきは“歌”なんだろうね。ロックもバンド・サウンドも飛び越えて、やっぱり“R&E”なんだと思うよ。

──怒髪天流のロック・サウンドは、『LIFE BOWL』で極めた感もありますしね。

増子:そうだね。『LIFE BOWL』を経てこそ『GREAT NUMBER』に辿り着けたわけだからさ。ロック的でもあり、民謡的でもあるっていう。音楽的にはそのどちらかに偏ることなく、余り専門的にもならずに自分たちなりの土着性を打ち出したいよね。日常生活の中で感じられる土着性って言うか。アルバムのモチーフとなっている労働者も、イデオロギー云々は関係なく、日常生活を生きる土着的な存在の象徴として描いてる。これだけ逼迫した世の中じゃ、誰しもが不満と不安を持たざるを得ない状況でしょ? その中でもちょっとした力になれるニヤニヤできるような歌を作りたい。それは誰かのためではなく、自分たちのためだけどね。

歳を重ねても可能性はどんどん広がる

──とにかく本作に収録されているのは、労働の後の一献の如き五臓六腑に深く染み渡る曲ばかりですよね。

清水:アルバム全体で日常生活のある1日を表現できてると思うね。『GREAT NUMBER』で朝を迎えて、『労働CALLING』で仕事に着手して、『うたのうた』辺りで晩酌を始めて、『セバ・ナ・セバーナ』で大騒ぎして寝るっていう。

増子:いつも言ってることだけど、ホントにイイ作品が作れたと思うよ。何と言うか、バンドと自分の未来にもっと期待してもイイんだなとここ何年かよく思う。“このアルバムで全部出しきるぞ!”ということではなく、今やれることを精一杯やる。今やれないこともあるけど、それはいつかやれることとして残しておいてもイイんだと思う。余力を残すという意味じゃなくて、“次はこういう歌が唄えるんじゃないか?”という期待を残していくやり方にだんだんなってきた気がするんだよ。

──この4人なら、年々上がる一方の高いハードルも乗り越えていけそうですしね。

増子:『セバ・ナ・セバーナ』みたいなサンバの曲までやれちゃったわけだからね。サンバを南国への憧れじゃない方向で昇華できるのか? ただ単に音楽的なリズムとして昇華できるのか? って言うさ。実は『情熱のストレート』もパーカッションの入った南国のリズムなんだけど、あの曲は歌詞の強さとアレンジの力でリズムを南国方面に行かせてないんだよね。

清水:『情熱のストレート』は早い段階で歌詞が付いた曲だから、ベース・ラインを南国方面にしないで敢えてシンプルにしたんだよ。ただ、今回の『セバ・ナ・セバーナ』のリズムは完全に南国寄りにすればイイのか、もっとロック寄りにすればイイのか凄く迷ったんだよね。

増子:仮にサンバをやるにしても、サンバをサンバっぽくしないのが今までの流儀としてあったけど、最早そこを避けなくてもイイんじゃないか? という実験でもあったんだよ。サンバならサンバっぽいベースでもイイんじゃないかと。そうしないとこの曲のノリが出てこないだろうし、後は上モノで何とかなるんじゃないかと思った。実はこれ、かなり恐ろしい実験なんだよ?

上原子:ロックっぽいサンバを演奏するのは実は凄く簡単で、音圧でごまかせたりもできるんだよね。でも、サンバのドラムとベース・ラインにして歌詞が入ったら、音圧でごまかす必要のないロックの骨太な部分がちゃんと出てきた。だからやっぱり、このアレンジで正解だと思ったね。

清水:どんなタイプの曲をやっても、それが怒髪天らしくなれば何でもイイんだよ。何をやろうが結局は俺達じゃん、っていうところだよね。

増子:言ってみれば、サンバは禁じ手だったわけだよ。でもそこをクリアできたから、これからは何をやっても全然イケるよ。

清水:要は、この曲に合うリズムって結局これだったんだな、っていうことだよね。

上原子:そうだね。時間を掛けられたことで迷ったこともたくさんあったけど、逆に言えばだからこそ1曲1曲に対してエネルギーを濃厚に詰め込むことができたんだよね。

増子:曲のヴァリエーションもあるしね。“オムニバスかいッ!?”ってくらいの振り幅だし(笑)。

──でも、そこにちゃんと1本太い芯が通っているという。

増子:それは俺達が唄い、演奏しているっていうさ。それさえあれば、そこに1本筋が通るようにはなったね、長年やって来て。でも、開ける扉はまだまだあるよ。やりたいことがたくさんあるからね。坂さんはやりたいことある?

坂詰:そうですねェ…ファンク業界も真っ青なノリを出せるようなアルバムを作りたいですね。

増子:ファンク業界って何だよ(笑)。とにかく今の俺達にはポテンシャルもアイディアもスキルも充分あるから、音楽面では全然心配してない。唯一心配なのはメンバーの健康状態だね。まず坂さんにはメガネを買ってきて欲しいけど(笑)。

清水:歳を重ねるとどんどん希望や可能性みたいなものがなくなってくると思われがちだけど、全然そんなことないんだよ。むしろ可能性は凄く広がってる。実際俺達がそうなんだから、ムリに可能性を閉ざさないほうがイイと思う。

増子:ホントにそうだよ。でも、そのためにはやっぱり健康第一だね。健康の中でも今俺が一番注目してるのは目だけどね(笑)。

坂詰:やっぱり…サバ缶は1日1缶までですね。

増子:意味わかんないよ。それよりも頼むからメガネを掛けてよ(笑)。




プロレタリアン・ラリアット

01. GREAT NUMBER
02. 労働CALLING
03. マン・イズ・ヘヴィ
04. 全人類肯定曲
05. よりみち
06. うたのうた
07. セバ・ナ・セバーナ
テイチクエンタテインメント/インペリアルレコード
白盤[初回限定盤:CD+DVD]TECI-1250 / 2,600yen (tax in)
青盤[通常盤:CDのみ]TECI-1251 / 2,100yen (tax in)
*『全人類肯定曲』は白盤に“混声合唱隊参戦編”を、青盤に“豪華管楽器隊参戦編”をそれぞれ収録。
*白盤のDVDには、昨年10月16日に下北沢シェルターで行なわれたライヴの模様をノーカット収録。収録曲:好キ嫌イズム/N・C・T/雑草挽歌/全人類肯定曲/ドンマイ・ビート/NO MUSIC, NO LIFE./酒燃料爆進曲/美学
2009.4.22 IN STORES

★amazonで購入する

Live info.

4.12 春の陣“スプリング・ファイト 労働戦士決起集会”
4月12日(日)SHIBUYA-AX(ワンマン)

TOUR『プリレタリアン・ラリアット tour 09』
〜ダイナマイトフィーバー・スターティング・マッチ(開幕戦)〜

5月1日(金)新代田FEVER(ワンマン)
〜有志決戦デスマッチ〜
5月5日(火)神戸スタークラブ/5月7日(木)鹿児島SR HALL/5月8日(金)大分TOPS/5月12日(火)高知X-pt/5月13日(水)徳島JITTERBUG/5月15日(金)米子BELIER/5月16日(土)岡山CRAZY MAMA 2nd Room/5月27日(水)高岡 Clover Hall/5月28日(木)金沢 vanvan V4/5月30日(土)岐阜 CLUB ROOTS 〜チャンピオン・カーニバル〜
6月3日(水)札幌ペニーレーン24(ワンマン)/6月10日(水)福岡DRUM SON(ワンマン)/6月12日(金)広島ナミキジャンクション(ワンマン)/6月14日(日)高松DIME(ワンマン)/6月20日(土)名古屋CLUB QUATTRO(ワンマン)/6月21日(日)心斎橋CLUB QUATTRO(ワンマン)/6月25日(木)仙台MACANA(ワンマン)/6月28日(日)赤坂BLITZ(ワンマン)

EVENT

4月4日(土)・5日(日)名古屋CLUB QUATTRO(GASOLINE ROCK FESTIVAL 09)*怒髪天は5日(日)に出演。
4月17日(金)京都MUSE(KURIDAMA '09〜栗秋魂〜“CAPITAL RADIO '09 前夜祭”)
4月18日(土)大阪BIGCAT(CAPITAL RADIO '09 〜DAY1〜)
5月3日(日)恵比寿LIQUIDROOM(TOWER RECORDS presents“MAVERICK KITCHEN”)

怒髪天 official website
http://www.dohatsuten.jp/

posted by Rooftop at 12:09 | バックナンバー