メンバー(L→R):上月大介(ベース)/ ジャスティン・ベイコン(メカ(プログラミング))/ 太田ヒロシ(ギター&ボーカル)
シュールでいてキャッチーでカラフルでノスタルジック!?
絶妙なバランスを保つ『ワインとチョコレート』リリース!!
メガネ、ノッポ、アメリカンからなる3人組“ヒダリ”の2nd.アルバム『ワインとチョコレート』がリリースされる。ファミコン的ローファイかつノスタルジックな電子音とギターサウンドが緻密に絡み合い、創造をかきたてられる独特な歌詞を透き通る声で切なくもキャッチーなメロディーに乗せて歌う楽曲に、青春時代の甘酸っぱくも苦い記憶が呼び起こされる。彼らの持ち味が遺憾なく発揮されたポップミュージックの名盤が完成した。 “ワイン”と“チョコレート”と、 相性の良いものとして知られる両者を掛け合わせることによって、今までに出会ったことのない味を体験できるのだが、彼らのこの作品も三者の絶妙なコラボレーションにより、きっと未知なる世界へ誘なってくれる。一度聞いたら忘れられないバンド名を持つヒダリは今後、音楽業界において、もっと大きな役割を担っていく存在になっていくだろう。(interview:やまだともこ)
またやっていけるという感触
──『ワインとチョコレート』は1st.アルバム『ヒダリのしっぽ』から約2年振りの単独音源だそうですが、この期間はどんな活動をされていたんですか?
太田:初めて僕らのころを知る人からしたらあまりわからへんかもしれないんですけど、メカ(プログラミング)を担当していた青木ヨーマくんからメンバーチェンジがあって、ジャスティンが新しく入ったことが一番大きいですね。あとは、次の音源がいつ出せるやろうかっていうのを考えつつ、新曲を作りつつ、自主でイベントをやりつつ、なんやかんやと過ぎていった感じです。
上月:曲作りはあんまりやってなかったですけど…。
太田:(笑)実は、『ヒダリのしっぽ』が出た時にテンションが上がってしまって、その余韻だけで半年ぐらい楽しんでしまい、曲作りをサボっていたんです。それで、次を出すためには曲をちゃんと作らなきゃいけないなって曲作りを始めたんです。
──ジャスティンが加入してから、バンドとしてはさらに良い方向に向かっているんですね。
上月:最高ですよ。
ジャスティン:マジで!? アリガトウ(笑)。
太田:プログラミングのサウンドがあることがヒダリのイメージになって来ていた時に、サウンドの中心を担っていたメンバーが脱退してしまってどうしようかってなっていたんです。そこにジャスティンが入り、『ワインとチョコレート』の1曲目に入っている『チョコレイトミー』が3人で作った初めての曲になるんですが、これができた時にまたやっていけるなっていう感触がありました。
──ジャスティンとの出会いは神戸の駅だったそうですが。
ジャスティン:友だちと待ち合わせをしていたんです。
太田:僕らはストリートライブをやっていたんですが、そこで仲が良くなって、前のメンバーが辞めた時に「入ってくれへん?」って話をしたんです。
──もともと楽器はやられていたんですか?
太田:アメリカにいる時に、自分で曲を作ったりはしてたみたいです。
──プログラミングが変わるとなると、バンドの土台が変わるから大きいですよね。
太田:そうなんですよ。ジャスティンは、曲を作る時に「プログラミングをやって」と言われてプレッシャーとか感じた?
ジャスティン:僕はヒダリのファンだったから、今でもプレッシャーに負けそうになることがあります。最初は青木ヨーマくんと同じ機材を使って、データが入っていたのでそれを元にたくさん勉強しました。
──同じ機材? 前の方が置いていったんですか?
太田:青木くんが辞めた時に、使っていたものと同じ機材を僕らが買ったんですよ。そこにデータを入れていったんです。
上月:すがる一心でした。僕らは機械に詳しくないから、同じものを買ったら同じ音が出ると思って(笑)。『チョコレイトミー』を作る時は、ジャスティンがヒダリを学習した形跡が出ていて、今までやってきたことの集大成になった感があります。悪く言ったら新しくないんですけど、良い意味で言えば変わらなかったんです。それ以降はオリジナリティーが出て、新しいスタイルを見つけつつあります。
──今回のアルバムで『チョコレイトミー』が一番最初にできた曲になるんですか?
上月:はい。このアルバムの中では一番長くライブで演奏している曲なので、録音が一番安定して完成度が高い曲になりました。
──ヒダリの曲作りはどういう流れなんですか?
上月:基本的に僕が歌詞を書いて、太田さんがメロディーを付けて、あとは3人で作っていくというやり方ですね。
歌いたくないって思った曲とは?
──アルバムタイトルの話に戻ってしまいますけど、ワインにはチョコレートが合うと言われていますが、ということは今回のアルバムは“相性が良いもの”を考えながら作っていったんですか?
上月:そういうことではないんですよ。曲の中に“ワイン”とか“チョコレート”を題材にした曲があったのでそこからですね。ワインとチョコレートが合うというのは聞いたことはあったけれど、試したことはないですし。
──では、アルバムを作るに当たりコンセプトとかあったんですか?
太田:特にないんです。
──1枚を通して、言いたいことが近いんじゃないかという印象は受けましたが…。
上月:だいたい同じ時期に作っていたからだと思います。ここ2年以内が全部に収まる感じで。
──上月さんが書く曲は、空想の世界が多いんですか? それとも生活に密着した形が多いんですか? 『さんぱつ』や『メイビーベイビー』のような日常の中で起こる幸せを感じさせる詞はリアリティーがあるので後者なのかなと感じました。
上月:歌詞は空想と生活の両方ありますけど、日々のことが多いですね。といっても、最近のことではなくて過去に起こったことを詞にしてたりします。『ちょうどいい二人』『さんぱつ』『メイビーベイビー』『葡萄酒讃歌』は恋愛の曲ではありますけど、恋愛が終わっていく予感がするので底抜けにハッピーな曲は1曲もないんですよね。『鞄に線香花火』はどっちかと言ったら、恋をしているだけの話だから明るい曲だと思いますが。詞のことは受け取り方がいろいろとあると思うので、あんまり言わんほうがいいですよね。
──でも、温かい恋愛の曲が多い中で、『うれぱーる☆』が来た時は何事かと思いましたが…(笑)。
太田:僕もそう思います。
上月:これって、塗り薬か何かの名前で商標登録されていると思うので一応最後に“☆”を付けているんです。詞は、僕の知り合いの女の子が喋ってた事をそのままメモに書き留めたもの。この曲にすごく愛着があるんですよ。こういう女の子かわいくないですか?
──ここまで「自分! 自分!」を主張する人は、あんまり好きじゃないです(苦笑)。
上月:(笑)女性には好かれないかもしれないですね。男から見るとそれがかわいらしいなと思うんですよ。
太田:俺は正直歌いたくないって思ってました(笑)。『うれぱーる☆』は、曲が先にできたんです。その後に上月くんが詞を付けたんですけど、「俺これ歌うんか!」って。
上月:そうなんや…(笑)。
──これは歌いたくないなっていう曲は、今まであったんですか?
太田:いや、初めてです。
──太田さん自身は詞は書かないんですか?
太田:ほとんど上月君ですね。今までに1曲か2曲ぐらいですよ。
上月:正直なところ、僕自身も自分では絶対に歌えないです。太田さんが歌う前提で書いてるから、「これがいいんちゃうか?」って書いてますけど。でも、歌詞の内容はあまり気にしてないんですよ。実際に歌った時も声のインパクトが言葉の意味を打ち消しているので、内容はあればあるほどいいと思いますけど、それは聴いてる人にとってのサービスみたいなもの。一番大事なものは五感と声だけだと思っています。
──ということは、曲を作る上で、サウンドの響き重視みたいなところってあるんですか?
上月:僕が歌詞を書いた後、誰も歌詞について触れてこないのでそういうことなのかもしれないですし、それでいいと思っています。
──その重要な部分であるサウンドの元を作るのは、太田さんの役目になるんですね。テンポの良い曲が多いですが、こういう曲が作りたいみたいなものってありました?
太田:あまり考えてないんですけど、アルバムになるって決まった時点で、曲のバランスを考えながら、早い曲があったり、ゆっくりな曲があったりとか。初めにできた順番は覚えてないですけど、5〜6曲ぐらいまでは何も考えずに作って、それ以降の曲はアルバム全体のバランスを考えて、バリエーションがあるように作りました。そういうことは、頭の片隅に入れて作曲をしてます。上月くんが書いた詞をメールでもらってメロディーを付けるんですけど、メロディーを付ける時に少し歌詞を削ってしまったりとか、もうワンフレーズ欲しい時はラララで歌ったりして、メロディーを上月くんに戻して、上月くんはまた歌詞を書いてっていうやりとりを何回かして、サウンド的なことは3人で作っていくという感じです。
──サウンド的なところで言うと、どなたが一番アイディアに溢れているんですか?
太田:今回はジャスティン色が強いと思いますよ。
ジャスティン:楽しいところと難しいところがありましたが、僕はすごくこだわる人で、考えすぎてしまうところがあります。1時間に何回も20秒の同じフレーズを聴きながら、そこにいろんなメロディーを足してみたりという作業を繰り返しています。『線香花火』のサビや、『メイビーベイビー』のメロディーは気に入ってます。でも、大好きなところは、ほとんど誰も聴こえないんです。小さい音でもすごくこだわってやりたくなるんです。
太田:ジャスティンのパートの音数が一番多いので、そのバランスとか、こだわりがすごくあったのでミックスが大変でした。ミックスはエンジニアさんにお願いして、僕らは立ち会ってやらせてもらったんですけど。
ジャスティン:誰にも聴こえない音だとしても問題ないんですけど…。
上月:問題あるよ(笑)。
ジャスティン:(笑)そういうところにこだわりました。
3人の結果がこの音に
──『メイビーベイビー』のファミコンのようなピコピコした音は、ジャスティンの案ですか?
ジャスティン:そうです。
上月:僕らはファミコン世代ですけど、ジャスティンはちょっと年齢が下なのでもうちょっと新しいものをやっていたと思いますが。
──その時の記憶から、ヒダリではこういうサウンドでやっていきたいと思ったんですか?
上月:そういう思いは0%です。
──自然に?
上月:そうです。僕、ジミヘンが好きですからね。
──何故ジミヘンがこういう形に?
太田:前にプログラミングをやっていた人が、こういう音を使い出して、ヒダリはこういうものっていう感じになってジャスティンはそれを受け継いでいったんです。バンドの初期はドラマーがいたんですけど辞めてしまって、ドラムの打ち込みだけを流して2人でやっていた時期もあったんです。
上月:純粋に音楽を始めたというよりは、売れようという目標を決めてやりだしたバンドなので、自分がもともと好きだった音楽を誰一人やっていないバンドなんですよ。でも、3人の結果がこの音になったわけでそれは嫌いじゃないし、今も続けているのは楽しいからなんですけどね。
──売れようと思ったときにイメージしたのが、こういう楽曲だったということですか?
上月:いかに俺らが売れる才能がないということだと思います(笑)。
──今8bit系のサウンドを出すバンドって多いと思いますけど、ヒダリはそういった多くのバンドと違って聴こえますよね。自分たち的にはヒダリの音楽をどう捉えているのでしょうか?
太田:僕らは普通にロックバンドだと思っているんです。8bit系のサウンドとかその辺は狙っているわけではなく、結果そういう側面も感じるかもしれませんが、ロックアルバムだと思って作りました。
ジャスティン:シンセ入りロックです。こういう音にしたいとか、他のバンドのことはあまり気にしてない。
──自分達がやりたいからこれでやるという感じ?
太田:ドラマーが抜けたところから、全てが始まっているだけです。3ピースバンドのドラマーがいなくなった瞬間に、僕らは機械を使うしかないんだという思いでここに来てます。たまたま曲作り用に簡単なドラムパターンを打ち込める機械は持っていたので、とりあえずはドラムの音だけ打ち込んでいたんです。そこに前のプログラミングの人が入って、色を付けた結果こういうふうになったんです。打ち込みバンドやろうって始まったバンドではないんですよ。
──偶然が重なって、今に至るという。
太田:打ち込みになって、個性も出てきたし、逆に目立ってきましたよ。
──ところで、5曲目の『続きはもういい』の最後と、6曲目の『あぶないテイスティング』の最初の音は、意図的につなげているんですか?
太田:『あぶないテイスティング』のいいイントロが思いつかなくて、あんまりパッとしなかったので最終的に繋げようかって。
ジャスティン:マスタリングする時に繋げた。ミックスまではバラバラだったのに。
太田:ジャスティンは嫌がってましたね。
ジャスティン:まだ嫌だ(笑)。
太田:ジャスティンに無理を言って繋げてもらいました(笑)。
──『続きはもういい』は、間奏のやたらと鳴っているシンセの音も気になるところでした。
ジャスティン:そういう音が好き。BECKの曲を聴いた時にいいなと思った部分があって、それを思いながら弾いてます。パソコンで一音ずつ入れて微妙に変えていく作業でした。
──曲を作るのはパソコンの作業が多いんですか?
ジャスティン:今回はパソコン。前はMTRでダンスの音楽が作れるものを使ってました。音は機材とパソコンのソフトでデモを録りました。
太田:打ち込みまで入れてるバンドだったのに、ジャスティンが入ってようやくヒダリにパソコンが導入されたんです(苦笑)。それまではハードのシーケンサーを使っていたんです。
──ようやく現代に近づいてきましたね(笑)。そうすると、スタジオより家での作業が多いんですか?
太田:そうですね。スタジオでの練習もほとんどしないんです。
上月:2年間のうちにスタジオに入った回数は2〜3回ぐらい。集まることはよくありますけど、ドラムがいないので基本的なものは家でできますから。そのやり方でいいんです。
バンドの鍵を握っているのは…
──ところで、『葡萄酒讃歌』のイントロはヨーロッパの雰囲気がありましたが。
太田:そのアコギは上月くんが弾いたんです。
上月:これはビートルズの『ホワイト・アルバム』の『Continuing Story of Bungalow Bill』が、ガットギターを使ったフラメンコっぽいフレーズが入っているんですけど、それを聴きながら、ワインと言えばスペインだし、スペインをイメージさせるようなギターを入れたらどうだろうと思って弾きました。
──皆さんの中でワイン好きはどなたになるんですか?
上月:僕です。他にもビールの歌とか、焼酎の歌とか、日本酒の歌とか作っていたんですが、それらは全部ボツになって。今回のワインの曲だけは、太田さんが着手してくれたんです。
──太田さんはけっこう飲めるんですか?
太田:そんなに強くはないですね。普通には飲めますけど。
ジャスティン:僕は日本に来る前に3回ぐらい飲んだことがある。
上月:3回…?
ジャスティン:本当に酔っぱらった時は1回しかない。
──3人で飲みに行きます?
上月:お酒が好きなメンバーばかりではないので、飲みに行くとかはないですね。
ジャスティン:そんなに仲良くないんです(笑)。
太田:今、彼はアメリカンジョークを言ってます(笑)。
──このメンバーでは1年以上が経ちましたけど、ライブは固まってきてます?
太田:ライブは見に来てくれる人に判断してもらったほうが良いかと思いますけど、こうしたい!って強く思うものがあるわけではないんですよ。自然体です。
上月:僕らは前のバンドから数えると10年ぐらいライブ活動をしてきていますけど、ジャスティンはまだフレッシュなんですよね。だから、彼の成長でヒダリの良さが決まっていくと思っています。
──ライブ中のブンブンと体を揺らしながらベースを弾くという上月さんの動きは、目をひくものがありますよね。
上月:僕はバランスを取る役目だと思っています。こうしたほうが全体が良くなると思ったからそうしただけで、延長線上で続けてきたんですけど、たぶん全く一緒じゃダメなんやというのもあるし、知らないうちに変わってることもあるかもしれないですけど、ジャスティンが成長中なので僕はそれに合わせて変わっていくんです。今、彼は模索中だと思うので、これから彼が変わっていくと僕も変わる。
ジャスティン:誰か1人がメインというわけではなく、3人でヒダリ。太田くんのバッキングバンドというわけではないから。
──今回のツアーでも、バンドのスタイルは徐々に手に入れられそうですね。リリースツアーは初めてになるんですか?
太田:前回は東京と神戸しかやってなくて、今回は東京、神戸、大阪とか。
──対バンは皆さんで決めているんですか?
太田:神戸は地元なので僕らが声をかけて、東京はイベントを組んでもらいました。
──意気込みとかありますか?
上月:まだツアーというには本数が少ないので、普段通り頑張るだけという感じですね。
──地元の神戸は特に盛り上がりそうですね。そのほかにもおもしろい活動をされているんですよね? 海の家でイベントを開催したり、旅館でイベントをやったり。
上月:海の家のライブは神戸の須磨海岸でおととしと昨年開催したんですけど、今年もやりたいと思っています。
──海の似合わなそうな感じの方々が海でイベントやるっていうのがおもしろそうですね。
上月:見に来た人も出てる人も、その年にその1回しか海に行ってない感じがします(笑)。
太田:海と言えば、サーフミュージックとかそういう感じの曲が流れているイメージかもしれませんが、そこでアンダーグラウンドなバンドがライブを見せるっていうのがいいんです。
──なるほど。今年はリリースあり、ツアーあり、海の家のライブもあったら、収穫の多い1年になりそうですね。では、最後に言い残したことがあったらお願いします。
ジャスティン:お母さんによろしく。
──???
太田:このCDを朝顔に聴かせると成長が3倍早くなります。
──???
太田:…と聞いてます。ホントですよ(笑)。
ワインとチョコレート
BACA-22 / 1,800yen(tax in)
Bad News Records
3.04 IN STORES
Live info.
4.02(Thu)福島LIVE SQUARE 2nd LINE“ヒダリレコ発ライブ大阪編”
4.11(Sat)渋谷Lush“ヒダリレコ発ライブ東京編”
4.18(Sat)神戸Back Beat“ヒダリレコ発ライブ兵庫編”
3.07(Sat)神戸トップテンクラブ
3.21(Sat)渋谷HOME
3.21(Sat)タワーレコード新宿店(インストア)
3.28(Sat)タワーレコード神戸店(インストア)
4.25(Sat)福岡PUBLIC SPACE 四次元
4.26(Sun)小倉BIRDMANHOUSE
ヒダリ official website
http://hidaridesu.com/
photo by:エプソン