規格外のスケール感と得体の知れぬ無軌道なエナジー!
剥き出しの衝動全開に疾走する若き異能の才が放つ型破りのポップ・ミュージック!
一昨年から下北沢シェルターで敢行している『Waiting For My Men』や昨年の夏に新宿ロフトで開催した『大運動会 2008』といった自主企画で実力と知名度を着実に伸ばしているFAR FRANCEが、初のスタジオ・レコーディング作品『AHYARANKE』を満を持して発表する。彼らが本懐を遂げる場であるライヴでの無軌道な衝動や闇雲な熱量はそのままに、全編アナログ・レコーディングで成し得た図太い音圧と荒くれた爆音に充ち満ちた右往左往の変幻自在サウンドは本作でも健在なれど、特筆すべきは歌に重点を置いた楽曲が増したことである。本人たちにもまるで予測不能、決して一筋縄では行かぬ複雑な展開の楽曲が彼らの身上ゆえに見過ごされがちだが、本作に収録されている珠玉の8曲を聴けば彼らが類い希なるポップ・センスを持ち合わせていることがよく判るはずだ。もちろん口当たりの良いポップ・ソングなど皆無ではあるけれど、何かが異常なまでに過剰で何かが異常なまでに欠落している異形のポップ・ミュージックを存分に堪能できることを約束する。大衆性と対極にある前衛性、前衛的大衆性とでも言うべき絶妙なブレンド感覚を、まだ弱冠20歳前後の彼らは野生動物の如き嗅覚で本能的に理解しているのだ。全く末恐ろしい若鷲が現れたものである。(interview:椎名宗之)
クリックに頼らないアナログ・レコーディング
──去年の2月にデビュー・アルバム『LOVE』を発表して以降、周囲の反応や自身のモチベーションに変化が生まれましたか。
英 真也(vo, g):個人的には余り大きな変化はないですね。今まで通り曲を作って、ライヴをやって…というスタンスは何も変わってないです。ただ、周りの人たちからCDの評判を聞く機会も増えたので、そういう声が気にはなってきましたね。
畠山健嗣(g):初の公式音源を出したことで、よりストイックに音楽と向き合わなくちゃいけないという意識は生まれましたね。その意識が1本1本のライヴに反映してきてると思うし。以前はただエネルギーを伝えたいと衝動だけで突っ走っていたのが、今はもっと演奏の細かい部分まで聴かせたいという欲が出てきましたね。そういう気持ちの変化が『LOVE』というライヴ盤から今回の『AHYARANKE』というスタジオ盤に繋がってるんじゃないかなと。
松嶋 昴(b):日々のライヴの向き合い方が変わっていきましたね。音源が出たことで自分の中で何かが大きく変化したわけじゃないですけど、タワレコで自分たちのCDが並んでいるのを見た時は素直に感動しました(笑)。
高橋豚汁(ds):『LOVE』はライヴ音源だったし、レコーディングしたっていう感じではなかったですからね。自分たちとしてはいつも通りしっかりと演奏しようっていう心懸けくらいしかしてなくて、CDを作り上げたという意識がちょっと薄いんですよ。何だかいつの間にか世に出ていた感じって言うか。
──『LOVE』は音質も良い意味でガサツだったし、ちょっとブートレッグみたいな感じでしたよね。
英:そうですね。そこは結構狙ったところなんですよ。
畠山:録って出し感も強かったですからね。ちょっと不躾な感じもあって良かったと思います。
英:FAR FRANCEの名前を知ってくれた人に最初に聴いて欲しい名刺代わりの1枚だったんですよ。ライヴの勢いをそのまま詰め込んだものとして最善の策だった気がしますね。まぁ、弱冠20歳で愛(LOVE)を語る資格があんのか!? っていう話ですけど(笑)。
──今回発表される『AHYARANKE』は初のスタジオ・レコーディング作ということで、気負いみたいなものはありませんでしたか。
畠山:意外とそういうのはなかったですね。曲を揃えるまでは時間が掛かったけど、割と淡々と録っていった感じなんです。思っていた以上に作業はスムーズだったし。
英:ライヴでやってた曲が多かったですからね。1曲ごとの世界観もこの4人で共有してたし、スタジオで煮詰まることもそんなになかったんですよ。
──『LOVE』がライヴ・アルバムだったことも関係しているのかもしれないけど、全体的に楽曲の輪郭が意外とくっきりしてるなと思ったんですよね。右往左往の不規則な展開は主軸としてありつつも、引き締まったタイトさと芯の太さがどの曲にもあると言うか。
畠山:曲のフレーズが出来た時点で、そのフレーズが持つ空気感みたいなものをなるべく持続させたかったんです。ただ、持続させつつも1曲の中で思わぬ方向に飛んでいったりするんですけど。
──確かに、1曲の中の情報量が異常に多い気はしますね(笑)。
英:そこは若さゆえの過剰さと言うか(笑)。
畠山:「フレーズが多すぎる」とか「2曲に分けろ」とかよく言われますからね(笑)。
──全テイクをアナログ機材でレコーディングしたのはバンドの強い意向からですか。
英:『LOVE』の時は、一度デジタルで録ったものをアナログに落とし込んで音を潰したんですよ。その前のデモもアナログで録ってたし、今度のアルバムも同じように録れたらいいなと思ってたんですけど、いっそのこと最初からアナログで録っちゃおうということになって。吉祥寺のGOKサウンドならアナログで全部録れるという話を聞いて、そのスタジオのエンジニアである近藤(祥昭)さんのお世話になったんです。
──音質的な狙いも当然あるんでしょうけど、クリックに頼らない緊張感をレコーディングに活かしたかったこともあったのでは?
英:そうですね。ライヴ盤の一発録りの感覚とはまたちょっと違って、お客さんに頼らない緊張感を自分たちで生み出す必要があったんですよね。
畠山:その前に、クリックを使うという発想がこのバンドには最初からなかったんですよ。アナログな音が好きだし、ドラムの音の太さが全然違いますから。
──松島さんのベース・ソロが際立つ『しがちな』みたいな曲を聴くと、アナログの持つ温かみや太さがよく判りますよね。
畠山:太くて温かいのにバキッとした側面もちゃんと出てると言うか。それが僕らの音楽性に合ってるし、理想のサウンドなんです。マスタリングを終えたCDのラベルに“S/Nノイズ、全曲大アリ”って書いてあったんですけど、そりゃそうですよね(笑)。
『穴から逆さま』から今のモードが始まっている
──アナログだと録り損じができないから、自ずと集中力も高まりますよね。
英:それほどテイクを重ねずにOKが出ましたね。なるべく最初のテイクを使うことを意識して、余程の間違いがない限りはそのまま活かす方向で進めたんです。
畠山:だから、多少自分の意図せぬフレーズになったりしても、それはそれで面白いから活かすことにしたんですよ。個々のプレイよりもバンド全体のノリを重視したかったので。
英:全曲、この4人でクリックを使わずに通しで演奏しているから、スタジオの張り詰めた空気感は全部詰まってるんじゃないかなと。
──それだけ合理的に演奏ができたというのは、ライヴでスキルを積んだ成果でもありますよね。
畠山:そうですね。『LOVE』を出した後に月に4本くらいのペースでずっとライヴをやってましたからね。ちょいちょい地方にも行かせてもらえたし。
英:ライヴでの経験値を高めたことで、以前に比べて丁寧な演奏を心懸けるようになったんですよ。『LOVE』の頃はこっちのテンションがお客さんに伝わることが最優先で、ちょっと手元がおざなりになってたんです。でも最近はちゃんと曲を聴かせたいという意識が強くて、1個1個のフレーズを丁寧に弾くようになったし、それは今回のアルバムにも活きてると思いますね。
畠山:そういう意識が各自に芽生えたからこそ、スタジオ・ライヴをやるように録れたのかもしれませんね。全体としては走ってる部分もあるんですけど、ちゃんと4人全員で走ってるんですよ。それはライヴ1本1本を丁寧にやってきたからこそだと思います。
──英さんの歌も、聴き手に向けてしっかり届けようという意志に基づいた発声になっていますよね。
英:唄ってることをちゃんと伝えないと、その曲の持つ良さが全部伝えきれないと思うようになったんですよ。そんな意識は各自にあって、歌を立てる演奏がこのアルバムの1曲1曲に詰まってるんです。だから最近はライヴでも格段に唄いやすくなったんですよね。
──まぁ、歌詞をちゃんと伝えるとは言え、『穴から逆さま』なんて唄われても何のことだか訳が判りませんけどね(笑)。
英:確かに(笑)。『穴から逆さま』の歌詞は僕が書いたんですけど、途中にコーラスで入る“穴から逆さま”というフレーズは豚汁君が考えたんですよ。何じゃそりゃ!? って感じでしたけど、面白いのでそれをそのままタイトルにしようと思って。
畠山:ただ不思議なことに、歌詞を読むと何となく“穴から逆さま”な感じがするなぁと僕は思うんですけどね(笑)。こんがらがって落ちていく感じが出てると言うか。
高橋:完全に視覚的なイメージなんですけど、最初はドロロドロロしていて、そこからいきなりパッと明るくなる展開がトンネルっぽいなと思ったんですよ。まぁ、言葉遊びみたいなものですよね。自分がドラムを叩きながら叫ばなくちゃいけないので、“あ”から始まる言葉じゃないと言いづらいと思って(笑)。
畠山:そういう突拍子もない思いつきを発端に広げていくことが僕らは多いんですよね。
──もっとグイグイ引っ張るような性急な曲から行くのかと思いきや、こうした緩急の付いた楽曲からアルバムが始まるのがちょっと意外だったんですよね。
英:『穴から逆さま』はライヴでもずっとやってきた曲で、アルバムの1曲目に置くのは最初から決めてたんですよ。この曲をやるとテンションがグッと上がるし、足を前に踏み出せる感じがあるんです。
畠山:一昨年の10月、11月、12月と3ヶ月連続でやったシェルターのライヴで、11月か12月の時のアンコールで『穴から逆さま』を初めてやったんです。この曲から今の自分たちのモードが始まっているという意味合いもあるんですよね。だからやっぱり、『穴から逆さま』が1曲目に相応しいのかなと。
──一般的なFAR FRANCEのイメージは『過ち』みたいな楽曲に集約されるんじゃないですか。変態的なギター・リフとリズムで押しまくると言うか。
英:そうかもしれません。“だいたいみんな同じように意味をこしらえる”という言葉を3回も繰り返して、何かあったのかよ!? って感じですけど(笑)。
──余り意味を突き詰めすぎると過ちが起こるよ、みたいなテーマなんでしょうか。
英:自分の中では一応意図があるんですけど、意味の捉え方は聴く人に委ねてます。いろんな解釈があっていいと思うし、そこはお任せで。
どの曲もアレンジを弛ませないように努めた
──本作のリード・チューンである『真昼にて』のヴォーカルは畠山さんですか?
英:いや、これも僕ですね。
──あ、そうなんですか。この曲だけ声の感じが違うなと思って。
畠山:声を重ねてあるんですよ。サビではみんなで唄ってるんですけど。
──それにしても、真昼の穏やかさのカケラもない混沌としたナンバーですよね(笑)。
畠山:今にも雨が降ってきそうなドンヨリ感と言うか、絶望的な昼間のイメージですね(笑)。
英:この曲のイントロで、GOKサウンドにあった年代モノのオルガンを僕が弾いてるんですよ。デモの段階ではギターのフィードバックが轟音になってドラムが入る感じだったんですけど、ちょっと弾いてみたいなと思って。
畠山:そのオルガンの音をミキサーで思いきり歪ませたんですけどね。
英:ドンヨリはしてるんだけど、ちゃんとキャッチーな部分はあると思うんですよ。歌詞はメチャメチャ短いんですけどね(笑)。『LOVE』で言えば『addict』みたいな感じの曲ですね。前半に歌があって、後半は演奏で押していくという。
──『真昼にて』も『雨』もアウトロが異常に長いですもんね(笑)。ああいう構成は事前にキッチリと決めているんですか。
畠山:『真昼にて』は最初にリフが出来た時点から何度もアレンジを変えてるんです。こねくり回して遊んでたら今の形になっていたと言うか。思いの丈を3分ちょっとの曲に全部ブチ込んだらこうなった感じです。頭で考えていったらああはなりませんよ。
──『しがちな』のように重度の倦怠感が渦巻くスロー・ナンバーは、こんな一面もあるんだなと意外でしたが。
畠山:でも、『しがちな』は今ライヴでやってる曲の中で一番古いんです。
英:原型が出来たのは今から4年前、高校3年の時なんですよ。当時出したデモとは全然違う感じで、この曲もこねてこねまくった結果、今のFAR FRANCEを象徴する曲になったと思いますね。
畠山:重たい部分は昔から変わってないんですけどね。
──間奏のアンサンブルは凄まじくヘヴィですよね。
英:しつこいくらいに弾きまくって、リヴァーブを重ねまくってますからね(笑)。
──全体の曲調がちょっとレッド・ツェッペリンっぽくないですか。
松島:ああ、ハード・ロック的なところはあるかもしれないですね。フレーズもそうだし。
畠山:みんなハード・ロックはそれほど聴かないのに、不思議だね(笑)。
──まぁ、最後に激しい展開へ持っていくのが如何にもFAR FRANCEっぽいですけどね。
英:ガラッと変わりますからね。この曲も後半は演奏で押していく感じで、バンドのアンサンブルでテンションを持ち上げていく曲ですね。
畠山:なぜあんな展開になったのかは、例によってよく覚えてないんですけど(笑)。
──5分半に及ぶスロー・ナンバーなのに長さを感じさせないのは、アレンジと構成の力量ゆえなのでは?
英:5、6分あって中弛みする曲は、自分で聴いていても疲れますからね。飛ばされちゃうような曲は作りたくないし、どの曲もアレンジを弛ませないように努めたつもりなんですよ。
──『呼び声』は『しがちな』から一転、軽快なテンポの曲調ですね。
英:メロディアスな曲ですね。これはそうだ、“アキナ”だ。
──ああ、やっぱり。出だしのフレーズが中森明菜の『飾りじゃないのよ涙は』に似てるなと思ったんですよ。
英:あ、判りましたか?(笑)
畠山:『飾りじゃないのよ涙は』のメロディを使ってスタジオで遊んでたんですよ。それを家に持ち帰ってデモを作り直したら面白いんじゃないかと思って。
英:なんせ、仮タイトルが『アキナ』でしたからね(笑)。
──皆さんの世代で“アキナ”と言えば、中森明菜よりも南明奈のほうが身近でしょうに(笑)。でも、こういう歌モノ然とした曲もFAR FRANCEはイケるんだなと思って。
畠山:まぁ、『飾りじゃないのよ涙は』っぽい感じで始まるのに、サビになると全然違う感じになるのが僕ららしいですけどね(笑)。
アルバム自体が意味や理由をブチ壊しにしている
──しかも、曲の中盤にはテルミンの音まで入ってるし(笑)。
英:テルミンは僕がどうしても入れたくて。『addict』のデモにもテルミンを入れたことがあるんですけどね。
畠山:そういう遊びの部分は凄く楽しんでやってましたね。
英:畠山もソロを弾く時にフィードバック用の凄く小さなアンプを使ったりとかして、それを使うと凄まじく歪んだ音が出るんですよ。
畠山:それプラス、ファズを使って凶暴な音を出してみたりね。
英:コーラス・ワークも、“ここで一言入れたいな”と思ったら「豚汁、ちょっと言ってこい」と完全に丸投げしてみたり(笑)。この『呼び声』に入ってる“ジャンパー”という一言がまさにそれなんですけど、よりによって“ジャンパー”って(笑)。あれを聴いた時は大爆笑でしたね。
──なんで“ジャンパー”なのか訊くのも野暮ですね(笑)。
英:そう、理由を求めるほうがおかしいんです(笑)。
畠山:このアルバム自体が意味や理由をブチ壊すような作品だし、そういうナンセンスなひらめきから遊んでいくのがFAR FRANCEというバンドなんですよ。単純に音や言葉を楽しむのが基本的な発想だし。
高橋:そんなやりたい放題の『呼び声』から『雨』への流れもちょっとあり得ないですよね(笑)。
──いや、『雨』は本作の中でも傑出したメロディアスな楽曲だと思います。これは掛け値の名曲ですよ。
畠山:ありがとうございます。最初に僕がアコギ1本でダラーンと湿った曲調のデモを作っていて、それをバンドに投げてみたら意外と面白くまとまったんですよ。
──出だしはそれほどバラードっぽくもないのに、途中から急に泣きのギアが入りますよね(笑)。
畠山:たとえば悪ふざけ感のある曲でも、最初はふざけてやってたはずなのにいつの間にか本気になっちゃってることがあるんですよ。『雨』もそれに似た感じの曲で、割とそういうことがこのバンドでやりたいことのひとつなのかもしれないです。いつの間にか泣けちゃう感じの曲になるとか。
──これ、歌唱力の問われる難易度の高い曲だと思うんですけど。
英:大変でしたね。感情の起伏を要所要所で入れていかなくちゃいけなかったので。そういうタイプの曲は他になかったし、一番テイクを録り直したのもこの『雨』だったんですよ。
──アウトロのギターもむせび泣く感じで、名演ですよね。
畠山:一度盛り下がってまた盛り上げていくフレーズを僕が弾いて、同じフレーズを今度は英が弾く念の入れようですからね(笑)。僕自身、リード・ギターって感じでもないんですよ。ヴォーカルの英のほうがソロを弾いてる曲も多いし。そういう意味では、『雨』は珍しく対等なツイン・ギターになった曲だと思いますね。
──曲作りにおける司令塔的な役割は畠山さんが担っていることが多いんですよね?
英:デモを作ってくるのは畠山が一番多いですね。そのデモを聴いてセッションを重ねて、その音を畠山が持ち帰って曲を固めることが多いです。
畠山:僕が「こういうのはどう?」と提示するプレゼン係で、英はそれを受けてさばいていく感じなんです。
高橋:ご意見番みたいな感じだよね(笑)。
──松島さんは?
畠山:「いいんじゃないですか?」と言う係ですね(笑)。彼は常にフラットな立場なんですよ。
──豚汁さんは社長のハンコみたいな感じですか?(笑)
高橋:いや、割と意見を言うほうなんですよ。
畠山:豚汁もご意見番的な感じですけど、彼は彼なりにフレーズを考えてきてくれます。
──“ジャンパー”だけじゃないぞ、と(笑)。
畠山:単なる思いつきだけの男じゃないぞ、と(笑)。だから何となく各自の役割分担が出来てるんですよね。
──『雨』も6分を超える長尺の曲には思えないのがいいですよね。
英:ああ、それは凄く嬉しいですね。長いと思われるのが一番イヤですから。
──『雨』のように二の線の曲の後に『クレイジィリズム』という文字通り“クレイジィ”な楽曲を置くのが照れ隠しみたいで好感が持てますね(笑)。
英:『雨』と『クレイジィリズム』の切り替わりはこのアルバムを象徴しているんじゃないですかね。
畠山:そこはどうしても悪ふざけをやりたくなっちゃうんですよね。
英:湿っぽいままじゃ終わらせねぇよ、って言うかね。
ダメな自分を肯定して解放していこう
──『クレイジィリズム』の最後に“からっぽの脳みそを叩き鳴らす気色悪い音! それがメロディ”という一節がありますけど、これはまさにFAR FRANCEの音楽性そのものだと思ったんですよね。気色悪いのに凄まじく格好いいっていう。
畠山:そのフレーズは僕が考えたんですけど、気色悪い音を肯定すると言うか、ダメな自分を肯定して解放していこうっていうのが普段からのテーマなんですよ。気色悪くても意外と爽やかだったりするんじゃないかっていう(笑)。ロックってネガティヴな発想から生まれる曲が多いけど、最終的には聴いていて楽しくなるし、それは演奏する側も同じだと思うんです。ダメな人間でも音楽で表現することでポジティヴになれるし、そういう一面をFAR FRANCEは持ってるんですよね。
──最後の『ブレブラ』ですが、これは何かの略語なんですか?
英:『ブレブラ』は歌詞も曲の原型も松島が作ったんですよ。
──“ブレッカー・ブラザーズ”じゃないですよね?(笑)
松島:ああ、そうしようかな(笑)。ホントは“ブレイン・ブランク”の略で、“頭からっぽ”っていう意味なんです。
畠山:でも、普通なら“ブランク・ブレイン”になると思うんですよ。
松島:“ブラブレ”だとピンと来なくて、逆にしてみたらしっくり来たんです。“あ、これだ!”って(笑)。
──松島さんの楽曲が採用されたのは今回が初めてですか。
英:初めてですね。
松島:僕自身、こういうちゃんとした曲を作ったのも今回が初めてなんですよ。
畠山:ギターのフレーズも、彼が考えてきたものを元にしているんです。なんであの拍数なんだろう? っていうのはありますけど(笑)。
──ギター・リフは気色悪いのに、全体的に妙に明るい曲調ですよね。
松島:ポップなものにしようっていう意識が途中から芽生えたんです。
英:最初に松島がギター1本で弾き語ってるデモを聴かせてくれたんですけど、何を唄ってるのかさっぱり聴き取れなかったんですよ(笑)。
松島:ちょっと照れくさくなっちゃったもので…(笑)。
英:歌詞もいい意味で掴み所がなくてね(笑)。僕が高校生の頃に書いてた歌詞にそっくりだなと思って。
──松島さんの歌詞は英さんや畠山さんの作風に相通ずる部分があると思うし、FAR FRANCEの世界観がちゃんと貫かれていますね。
畠山:英はキッチリ順序立てて歌詞の中で説明するタイプなんですけど、自分や松島の書く歌詞は感情のひとつの側面を思いきりぶつけるだけなんですよね。その違いはあると思います。
松島:これでも一応、ストーリー仕立てにしようと思ったんですけど、全然作れなくて(笑)。
──英さんの歌詞は、起、承、転まで提示して結を聴き手に委ねる感じですけど、畠山さんと松島さんの歌詞はいきなり結を押し通す強引さがある気はしますね。
畠山:そうですね。投げっぱなし感みたいなものは残しておきたいんですよ。そういうぶっきらぼうな部分が結構大事だと思うので。
──『ブレブラ』に限らず、どの曲にもポップな要素が必ずあるのがいいですよね。
英:僕らの感覚ではポップですけど、一般的に見てこれが果たしてポップなのかは疑問が残りますね(笑)。『ブレブラ』もポップな曲だねと言われることが多いんですけど、明らかにおかしなところがあると思うし(笑)。だって、この曲が車のCMに使われるようなことはまずないじゃないですか?(笑)
松島:僕としては、平日の午後6時か7時くらいにやってるアニメのエンディングに使われたら凄く嬉しいんですけど(笑)。
──でも、たとえば山下達郎さんみたいな純然たるポップ・ミュージックじゃなくて、異物感のあるねじれたポップ・ミュージックをFAR FRANCEは志向しているわけでしょう?
畠山:まぁ、単純にメロディは大切にしたいと思ってますけどね。
英:『ブレブラ』は特に歌に重点を置いて作ったし、歌モノは4人とも普通に好きですからね。
偶発性から生まれる音と言葉
──どのインタビューでも必ず訊かれていると思うんですが、アルバム・タイトルの『AHYARANKE』っていうのは何なんですか? 何かの呪文だったりとか?(笑)
松島:呪文と言うか、願掛けみたいなものですかね(笑)。
高橋:オマエ、嘘言うなよ!(笑)
松島:言葉に意味は全くなくて、語感で付けた感覚的な造語なんですよ。きっかけは1年以上前に書いたブログで、締めの言葉として何か適当な言葉を考えようと思ったんです。“あ”から始まる言葉で何かないかなと思って、キーボードで適当に打ってたらこの言葉が出てきて。
──“穴から逆さま”といい“AHYARANKE”といい、リズム隊はどうしてこうも“あ”から始まる言葉が好きなんでしょうね(笑)。
英:最初はひらがなで“あひゃらんけ”だったんですよ。その“あひゃらんけ”がごく一部の人たちにカルト的な人気を誇ったんです(笑)。で、アルバムのタイトルがなかなか決まらなかった時に「“あひゃらんけ”はどう?」って僕がふと言ってみたら、「ああ、そんな言葉あったね」みたいな話になって。それをローマ字表記にしてみたら鋭角的な印象になって、これは格好いいなと。“A”と“K”がカツンとしてますからね。
畠山:バキバキッとした部分もあるし、これで行こうと。
──結果オーライとはまさにこのことですね(笑)。
松島:結果オーライ、常に行き当たりばったりの人生ですから(笑)。
──でも、そうやって偶発性に委ねるのは曲作りと似通ったところがありますよね。
畠山:そうですね。楽曲とタイトルはそういう部分でリンクしてると思います。手探りで始めて出てきた言葉であり、期せずして生まれた音楽であるという。
──ジャケットのイラストは重厚な感じですけど。
英:あの絵も松島が描いたものなんですよ。グラフィックもメンバーで全部やってますし。
──“AHYARANKE”とは直接関係のない絵なんですよね?
松島:そうですね。絵のタイトルは「私は洋梨」ですから(笑)。
英:“AHYARANKE”じゃないじゃん! っていう(笑)。
畠山:ブックレットを開くと、女性の顔が洋梨になってるんですよ。洋梨=用なしだから、頭がないんだなと思って。“AHYARANKE”っていうタイトル自体にも意味はないし、顔が欠如しているという意図が組み込まれてるのかと思ったら、全然そんなことは関係がないらしくて(笑)。
──ガッカリですね(笑)。でも、ジャケットの表1に当たる部分は女体の腰回りだし、どことなく洋梨にも見えますよね。
高橋:ほら、解釈がどんどん広がってますよ、松島さん!(笑)
松島:これが狙いです(笑)。いろんな人の解釈で意味が広がっていく絵を描きたかったんですよ。
畠山:よく言うよ。単に女体を描きたかっただけでしょ?(笑)
──アルバムの収録曲を聴きながら描かれた絵ではないんですか。
松島:いや、DJ KRUSHを聴きながら水彩とパステルで描きました(笑)。
──ことごとくガッカリですね(笑)。
松島:自分のバンドの曲を聴きながら描くと、ヘンに意識しちゃうんですよ。その頃、ヒップホップ的なものにハマってたので、TSUTAYAに行ってDJ KRUSHのCDを借りてきたんです。
畠山:なんだ、買ったんじゃないのかよ(笑)。
英:でも、自分たちの作品を聴きながらじゃアートワークを作れないっていうのは判りますよ。そればかりに囚われると広い視野を保てなくなる気がするし。
漫画で言えば『こち亀』みたいなアルバム
──今回のアルバムも、ご自身では日常的に聴かないものなんですか。
英:いや、僕はメチャクチャよく聴いてますね(笑)。
畠山:『AHYARANKE』は僕も凄くよく聴いてます。飽きずに繰り返し聴ける長さだし。
──そうなんですよね。トータル・タイム31分で、淀みなく何度でも聴ける仕上がりだと思うし。
畠山:そう、2回連続でも聴けると思うんですよ。
英:手前味噌になりますけど、ちょっと飛ばしたくなるような捨て曲がないアルバムですからね。メリハリもちゃんと出せてるし、漫画に喩えるなら『こち亀』みたいなアルバムだと思うんですよね。1巻から順を追って読むのもいいし、いきなり56巻から手に取ってパラパラ読み進めてもいいっていう。それと同じように、1曲を単体で聴いてもいいし、トータルで聴いても構成にアクセントが付いてるから飽きずに聴ける。だから、この『AHYARANKE』は“『こち亀』アルバム”なんですよ(笑)。
──そういう繋ぎの発想はDJ KRUSH的かもしれませんね(笑)。
英:まぁ、アルバムが先に出来てましたけどね(笑)。
──この調子でどんどん作品を発表していける手応えも今回のレコーディングで得たんじゃないですか。
英:そうですね。『AHYARANKE』は今バンドでやりたいことを全部詰め込めたので、次の作品でもその時にやりたいことを詰め込める気がしてます。僕らは同じ場所に留まって同じことを繰り返すバンドではないので、また違った感じのアルバムになるでしょうね。その時点でのバンドのモードが詰まった作品を随時作っていけたらと思います。
──今後どんな作品が生まれるかは自分たちでも予測不能だという。
畠山:全然判らないですね。1曲1曲、手探りしながら作ってますから。ちょうど今作ってる曲も今までにはなかったタイプの曲だし。
──どんな感じの曲なんですか。
畠山:最初は白人的なダンス・ミュージックだったのが、黒人的なダンス・ミュージックの要素も入ってきて、しまいにはいなたいアコースティックなムードも漂い始めるっていう(笑)。
英:最近、やたらと踊れる曲が多いんですよ。あれ、こんなバンドだったっけ? って思いますからね(笑)。
高橋:自分たちでもどこを目指しているのかよく判らないんです(笑)。
──そういう踊れる曲が増えたのは、オーディエンスを盛り立てたい欲求が強まってきたからですか。
英:それもありますけど、まずは自分たちを昂揚させたいんです。今はそういうモードなんだと思いますね。
畠山:聴き手を楽しませる音楽を作るためには、まず自分たちが“絶対にこれなんだ!”と思えるものじゃないと伝えられないと思うので。だからとにかく、今自分たちのやりたいことを最初に提示するのが大事なんじゃないかと。
英:もちろん、1本太い芯が通っているのは絶対条件だと思うんです。芯を通した上でやりたいことを上乗せしていけたらいいなと思いますね。
──FAR FRANCEの音楽に1本太い芯が通っているのはよく判るんですけど、それが何なのかを突き詰めるとよく判らなくなってくるんですよね(笑)。
高橋:根本がないのかもしれないですね。純粋に格好いい音楽をやりたい気持ちは常にありますけど。
英:格好いい音楽をやるという芯は通っているけど、曲がった骨みたいにちょっと形が歪んでるんですよね(笑)。
──随所にトラップが仕掛けてあると言うか、魚の小骨がノドに引っ掛かるような異物感が『AHYARANKE』の収録曲には溢れてますしね(笑)。
畠山:確かに、サラッとは終われない感じはありますよね。
高橋:残尿感のある感じはあるよね。
畠山:イヤな言い方だな、それ(笑)。
高橋:“残尿アルバム”だね。それでプロモーションしていこうか(笑)。
2nd album
AHYARANKE
01. 穴から逆さま
02. 過ち
03. 真昼にて
04. しがちな
05. 呼び声
06. 雨
07. クレイジィリズム
08. ブレブラ
colla disc / M.D.L! CLA-60031
2009.2.04 IN STORES
Live info.
AHYARANKE TOUR
2月2日(月)渋谷o-nest(FREE LIVE)
2月11日(水・祝)前橋DYVER
2月14日(土)下北沢SHELTER
2月15日(日)新宿red cloth
2月20日(金)八王子Matchbox
2月24日(火)横須賀かぼちゃ屋
2月26日(木)HEAVEN'S ROCK 宇都宮
3月2日(月)千葉LOOK
3月4日(水)名古屋CLUB ROCK'N ROLL
3月5日(木)十三ファンダンゴ
3月6日(金)京都NANO
3月8日(日)京都METRO
3月13日(金)下北沢CLUB QUE(ALL NIGHT)
3月22日(日)新潟RIVERST
3月23日(月)金沢vanvan V4
3月28日(日)仙台MACANA
3月30日(月)吉祥寺PLANET K
4月6日(月)京都MUSE
4月7日(火)大阪LIVE SQUARE 2nd LINE
4月9日(水)名古屋APOLLO THEATER
4月10日(金)新宿NINE SPICES
4月26日(日)東高円寺U.F.O CLUB
5月22日(金)下北沢SHELTER(TOUR FINAL ONE-MAN LIVE)
FAR FRANCE official website
http://www.farfrance.com/